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【発明の名称】 貯血槽
【発明者】 【氏名】竹内 和彦

【要約】 【課題】貯留した血液に対する損傷を低減することができる貯血槽を提供すること。

【解決手段】本発明の貯血槽1は、箱形のハウジング2と、ハウジング2内にそれぞれ設置され、術野(心臓外)から吸引した吸引血に対する濾過消泡装置7aと、心臓内から吸引したベント血に対する濾過消泡装置7bと、大静脈から脱血した血液に対する濾過消泡装置7cとを有している。濾過消泡装置7aには、消泡剤を担持した消泡部材16が最大液面レベルLmaxより下方まで延長して設置されている。濾過消泡装置7bには、ベント血用フィルター部材21の上端部内側に、消泡剤を担持した消泡部材22が設置されている。貯血槽1内に流入したベント血は、吸引血から濾別された異物と、消泡剤とに接触することなく、ベント血用フィルター部材21を通過し、貯血空間25に入る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 心臓内からのベント血が流入するベント血流入口と、心臓外からの吸引血が流入する吸引血流入口と、血液流出口とを備えたハウジングと、前記ハウジング内に設置され、前記ベント血流入口から流入したベント血を濾過するベント血用フィルター部材を備えたベント血濾過部と、前記ハウジング内に設置され、前記吸引血流入口から流入した吸引血を濾過する吸引血用フィルター部材を備えた吸引血濾過部と、前記吸引血濾過部に設置され、前記吸引血流入口から流入した吸引血に接触し得る消泡剤とを有し、前記ベント血流入口から流入したベント血は、前記吸引血から濾別された異物と、前記消泡剤とに接触せずに前記ベント血用フィルター部材を通過するよう構成されていることを特徴とする貯血槽。
【請求項2】 前記ベント血用フィルター部材と、前記吸引血用フィルター部材とは、互いに条件が異なるものである請求項1に記載の貯血槽。
【請求項3】 前記ベント血用フィルター部材は、スクリーンフィルターである請求項1または2に記載の貯血槽。
【請求項4】 前記吸引血用フィルター部材は、デプスフィルターである請求項1ないし3のいずれかに記載の貯血槽。
【請求項5】 前記吸引血用フィルター部材は、不織布を有する請求項1ないし4のいずれかに記載の貯血槽。
【請求項6】 前記ベント血用フィルター部材の有効面積と、前記吸引血用フィルター部材の有効面積とが異なる請求項1ないし5のいずれかに記載の貯血槽。
【請求項7】 前記消泡剤は、前記吸引血濾過部に設置された担体および/または吸引血用フィルター部材に担持されている請求項1ないし6のいずれかに記載の貯血槽。
【請求項8】 前記消泡剤は、最大液面レベルより下方にも設置されている請求項1ないし7のいずれかに記載の貯血槽。
【請求項9】 前記ベント血濾過部は、最大液面レベルより上方であって通常は前記ベント血流入口から流入したベント血が接触しない位置に設置された消泡剤を有する請求項1ないし8のいずれかに記載の貯血槽。
【請求項10】 前記ハウジングは、さらに、大静脈からの血液が流入する静脈血流入口を有し、該ハウジング内には、該静脈血流入口から流入した血液を濾過する静脈血用フィルター部材を備えた静脈血濾過部が設置されている請求項1ないし9のいずれかに記載の貯血槽。
【請求項11】 前記ベント血用フィルター部材は、前記静脈血用フィルター部材と同種のものが用いられている請求項10に記載の貯血槽。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、貯血槽に関する。
【0002】
【従来の技術】例えば心臓外科手術においては、送血ポンプを作動して患者の静脈(大静脈)より脱血し、人工肺によりガス交換を行なった後、この血液を再び患者の動脈に戻すという人工肺体外血液循環が行なわれる。
【0003】人工肺体外血液循環においては、大静脈からの脱血ラインと動脈への送血ラインからなる主回路のほかに、術野に溜まった血液を吸引する吸引回路と心臓の内部に溜まった血液を吸引するベント回路が設けられる。
【0004】このような吸引回路およびベント回路において、術野(心臓外)から吸引した吸引血と、心臓の内部から吸引したベント血とは、これらの血液を一時的に貯留しておく貯血槽(カーディオトミーリザーバー)に導入される。この貯血槽内には、フィルター部材が設置されており、これらの血液から異物を瀘別除去するとともに、血液中の気泡をも除去する。そして、この貯血槽で濾過・除泡された血液は、患者の体内に返血される。このような貯血槽は、回路内の血液量を調整し、返血量を一定に保つための緩衝機能をも有している。
【0005】上述したような貯血槽に流入する血液のうち、心臓外からの吸引血には、血液以外の脂肪球、組織片、変性蛋白、凝集塊等の異物が比較的多く含まれている。一方、心臓内からのベント血は、通常はそれらの異物の含有量が少なく、大静脈から脱血した血液に近い、損傷の少ない血液である。
【0006】従来の貯血槽では、心臓外からの吸引血と、心臓内からのベント血は、貯血槽内で合流した後に同じフィルター部材で濾過される構造になっている。このため、せっかく損傷の少なかったベント血も、貯血槽内でフィルター部材を通過する際に、吸引血から濾別された異物に接触してしまい、これと反応することにより活性化してしまうという問題がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、貯留した血液に対する損傷を低減することができる貯血槽を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】このような目的は、下記(1)〜(13)の本発明により達成される。
【0009】(1) 心臓内からのベント血が流入するベント血流入口と、心臓外からの吸引血が流入する吸引血流入口と、血液流出口とを備えたハウジングと、前記ハウジング内に設置され、前記ベント血流入口から流入したベント血を濾過するベント血用フィルター部材を備えたベント血濾過部と、前記ハウジング内に設置され、前記吸引血流入口から流入した吸引血を濾過する吸引血用フィルター部材を備えた吸引血濾過部と、前記吸引血濾過部に設置され、前記吸引血流入口から流入した吸引血に接触し得る消泡剤とを有し、前記ベント血流入口から流入したベント血は、前記吸引血から濾別された異物と、前記消泡剤とに接触せずに前記ベント血用フィルター部材を通過するよう構成されていることを特徴とする貯血槽。
【0010】(2) 前記ベント血用フィルター部材と、前記吸引血用フィルター部材とは、互いに条件が異なるものである上記(1)に記載の貯血槽。
【0011】(3) 前記ベント血用フィルター部材は、スクリーンフィルターである上記(1)または(2)に記載の貯血槽。
【0012】(4) 前記吸引血用フィルター部材は、デプスフィルターである上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の貯血槽。
【0013】(5) 前記吸引血用フィルター部材は、不織布を有する上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の貯血槽。
【0014】(6) 前記ベント血用フィルター部材の有効面積と、前記吸引血用フィルター部材の有効面積とが異なる上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の貯血槽。
【0015】(7) 前記消泡剤は、前記吸引血濾過部に設置された担体および/または吸引血用フィルター部材に担持されている上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の貯血槽。
【0016】(8) 前記消泡剤は、最大液面レベルより下方にも設置されている上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の貯血槽。
【0017】(9) 前記ベント血濾過部は、最大液面レベルより上方であって通常は前記ベント血流入口から流入したベント血が接触しない位置に設置された消泡剤を有する上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の貯血槽。
【0018】(10) 前記ベント血流入口から流入するベント血を前記ベント血濾過部内に導入するベント血導入管と、前記吸引血流入口から流入する吸引血を前記吸引血濾過部に導入する吸引血導入管とを有する上記(1)ないし(9)のいずれかに記載の貯血槽。
【0019】(11) 前記ベント血導入管は、前記吸引血導入管より下方に延長して設けられている上記(10)に記載の貯血槽。
【0020】(12) 前記ハウジングは、さらに、大静脈からの血液が流入する静脈血流入口を有し、該ハウジング内には、該静脈血流入口から流入した血液を濾過する静脈血用フィルター部材を備えた静脈血濾過部が設置されている上記(1)ないし(11)のいずれかに記載の貯血槽。
【0021】(13) 前記ベント血用フィルター部材は、前記静脈血用フィルター部材と同種のものが用いられている上記(12)に記載の貯血槽。
【0022】
【発明の実施の形態】以下、本発明の貯血槽を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0023】図1は、本発明の貯血槽の実施形態を示す部分断面側面図、図2は、図1中のX−X線での断面図、図3は、図1中のY−Y線での断面図、図4は、人工肺体外血液循環における回路図である。
【0024】図1に示す貯血槽1は、大静脈から脱血した血液を一時的に貯留しておく貯血槽と、心臓外からの吸引血および心臓内からのベント血を一時的に貯留しておく貯血槽(カーディオトミーリザーバー)が一体になったものであり、ハウジング本体3と蓋体4とで構成されるハウジング2を有している。このハウジング2の内部には、血液を貯留する貯血空間25が形成されている。
【0025】ハウジング本体3は、図1中左側において下方に突出する突出部31を有する箱形をなしており、この突出部31の下部には、貯血空間25に連通する管状の血液流出口6が形成されている。
【0026】蓋体4は、ハウジング本体3の上部開口を覆うようにハウジング本体3の上端に嵌合されている。また、蓋体4の所定位置には、管状の吸引血流入口5a、ベント血流入口5bおよび静脈血流入口5cがそれぞれ形成されている。
【0027】吸引血流入口5a、ベント血流入口5b、静脈血流入口5cおよび血液流出口6は、人工肺体外血液循環回路において、それぞれ次のように接続される。
【0028】図4に示すように、吸引血流入口5aには、心腔(胸腔)内吸引ライン81のチューブが接続される。すなわち、吸引血流入口5aには、心腔(胸腔)内等の術野(心臓の外部)からポンプ83によって吸引された血液(以下、「吸引血」と言う)が流入する。この吸引血は、血液以外の脂肪球、組織片、変性蛋白、凝集塊等の異物の含有量が比較的多い。また、吸引血は、気泡の含まれる量も比較的多い。
【0029】ベント血流入口5bには、ベント吸引ライン80のチューブが接続される。すなわち、ベント血流入口5bには、心臓の内部(特に左心房、左心室)からポンプ82によって吸引された血液(以下、「ベント血」と言う)が流入する。このベント血は、前述したような異物の含有量が少なく、比較的損傷の少ない血液である。また、ベント血は、気泡の含まれる量も比較的少ない。
【0030】静脈血流入口5cには、脱血ライン84のチューブが接続される。すなわち、静脈血流入口5cには、大静脈から脱血した血液が流入する。
【0031】吸引血流入口5a、ベント血流入口5bおよび静脈血流入口5cから貯血槽1の内部に流入した血液は、それぞれ、後述する濾過消泡装置(吸引血濾過部)7a、濾過消泡装置(ベント血濾過部)7bおよび濾過消泡装置(静脈血濾過部)7cで異物や気泡が除去されたのち、血液流出口6から流出する。
【0032】血液流出口6には、人工肺86に接続されるラインのチューブが接続される。このラインの途中には、送血ポンプ85が設置される。
【0033】人工肺86で酸素付加された血液は、送血ライン88のチューブを通って、動脈内に送られる。送血ラインの途中には、動脈フィルター87が設置される。
【0034】図3に示すように、静脈血流入口5cの側部には、後述する濾過消泡装置7cにプライミング液を注入する際に使用されるプライミング液注入口5dが形成されている。
【0035】また、静脈血流入口5cのプライミング液注入口5dと逆側の側部には、脱気口5eが形成されている。後述する濾過消泡装置7a〜7cにより破泡された気泡は、その一部がこの脱気口5eから空気として外部へ排出される。なお、貯血槽1内での血液の増減に伴う空気の出入は、この脱気口5eを介して行われる。
【0036】このようなハウジング2において、貯血空間25の容積は特に限定されないが、例えば、成人用では3000〜5000ml程度、小児用では1000〜2500ml程度とするのが好ましい。
【0037】ハウジング本体3および蓋体4の構成材料としては、例えば、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、アクリル−スチレン共重合体、アクリル−ブタジエン−スチレン共重合体等を挙げることができ、このなかでも特に、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルが好ましい。
【0038】また、ハウジング本体3および蓋体4は、貯血量や内部の血液の状態を目視で確認することができるように、実質的に透明であるのが好ましい。
【0039】なお、ハウジング本体3の正面(図1中左側端面)や側面には、貯血量を示す目盛り(図示せず)が設けられているのが好ましい。
【0040】このような貯血槽1には、貯血空間25に流入した血液中に含まれる異物および気泡を除去する3つの濾過消泡装置7a、7bおよび7cが設置されている。以下、これらの濾過消泡装置の構成を順次説明する。
【0041】濾過消泡装置7aは、吸引血流入口5aから流入した吸引血を濾過・消泡するものであり、上端部が吸引血流入口5aに接続された血液導入管14と、吸引血用フィルター部材15と、この吸引血用フィルター部材15の内側に設置された消泡部材16と、血液分配部材17とを有している。
【0042】血液導入管14は、ほぼ鉛直方向に延在し、下方へ向かって内径が漸減する管状の部材であり、その上端部は、吸引血流入口5aに連通している。吸引血流入口5aからの吸引血は、この血液導入管14を通って、濾過消泡装置7aの内部71に流入する。
【0043】また、血液導入管14の下端は、比較的上方に位置している。これにより、フィルター部材15で濾別された異物により濾過消泡装置7a内の液面がある程度まで上昇した場合にも血液導入管14の下端が液中に没しないので、濾過消泡装置7a内での泡立ちが抑制される。
【0044】血液導入管14の構成材料としては、例えば、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、アクリル−スチレン共重合体、アクリル−ブタジエン−スチレン共重合体等の高分子材料、各種ガラス、アルミナ、シリカ等の各種セラミックス、ステンレス、アルミニウム、銅、チタン等の金属、各種炭素材料等、あるいはこれらのうちの2以上を組合せたものを挙げることができるが、このなかでも特に、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレン、PET、ステンレスが好ましい。
【0045】このような血液導入管14の周囲には、好ましくは円筒形状をなす吸引血用フィルター部材15が設置されている。この吸引血用フィルター部材15は、血液中の異物や気泡を除去する機能を有するものである。
【0046】吸引血用フィルター部材15の素材は、十分な血液の透過性を有する多孔質材料で構成される。
【0047】吸引血用フィルター部材15は、部材の内部で異物を捕捉するデプスフィルター(深層濾過型)であることが好ましく、デプスフィルターの中でも不織布を含むものであるのがより好ましい。デプスフィルターは、比較的多くの異物を捕集することができるため、異物の含有量の多い吸引血中の異物を有効に除去することができるからである。
【0048】吸引血用フィルター部材15の構成材料、特に不織布の構成材料としては、PET、PBTのようなポリエステル、ナイロン(ポリアミド)、テトロン、レーヨン、ポリプロピレン、ポリエチレンのようなポリオレフィン、ポリ塩化ビニル等の高分子材料、あるいはこれらのうちの2以上を組み合わせたものが挙げられるが、そのなかでも、特に、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンが好ましい。
【0049】なお、吸引血用フィルター部材15には、血液の透過性をさらに向上するために、必要に応じ、プラズマ処理や親水性高分子材料のコーティングのような親水化処理を施しておくことができる。この場合、プラズマ処理等の親水化処理は、常法に従って行なえばよい。
【0050】また、吸引血用フィルター部材15は、図2に示すように、前述したような素材をひだ(プリーツ)状に成形した内層155と、この内層155の外周に接着された外層156とで構成されている。
【0051】内層155は、ひだ状に成形されているので、吸引血用フィルター部材15の有効面積を十分に取ることができる。また、外層156は、消泡部材16との間で内層155の変形を規制し、吸引血用フィルター部材15を一定の形状に保持する機能を有するものであり、比較的硬質のメッシュ、ネットまたはフレーム部材が好適に用いられる。
【0052】吸引血用フィルター部材15の下端開口には、濾過消泡装置7aの内部に向かって突出する血液分配部材17が装着されている。この血液分配部材17は、血液導入管14の下端より落下してきた血液を吸引血用フィルター部材15の内面に向けて分配する機能を有するものである。
【0053】また、吸引血用フィルター部材15の下端部は、充填材18により血液分配部材17の外周部に固着されており、吸引血用フィルター部材15および消泡部材16の上端部は、充填材18により血液導入管14の基部に固着されている。
【0054】吸引血用フィルター部材15の内周には、消泡剤を担持した消泡部材(担体)16が設置されている。消泡部材16に担持された消泡剤は、気泡が接触すると破泡するような機能を有するものであり、その代表例としては、シリコーン(シリカを配合したコンパウンド型、オイル型等)等が挙げられる。
【0055】このような消泡部材16が設置されていることにより、吸引血流入口5aから流入した吸引血は、消泡部材16に担持された消泡剤に接触するため、吸引血中の気泡を確実に除去することができる。その結果、空気との接触による吸引血の活性化(損傷)を抑制することができ、貯血槽1に貯留した血液の全体としての損傷も低減することができる。
【0056】消泡剤の消泡部材16への担持方法は、例えば、消泡剤を含む液を素材に含浸、塗布またはスプレーし、その後、乾燥(例えば、30℃、180分)することにより行なう。
【0057】消泡部材16の素材としては、例えば、発泡ポリウレタン、発泡ポリエチレン、発泡ポリプロピレン、発泡ポリスチレン等の発泡体、メッシュ、織布、不織布または、多孔質セラミックスや樹脂等の焼結体のような各種多孔質材を挙げることができるが、そのなかでも、比較的血液の通過抵抗(圧力損失)が少ない材料を用いるのが好ましい。
【0058】血液の通過抵抗が少ない材料として、発泡ポリウレタンのような発泡体やその他の多孔質材を用いる場合には、その孔径は20μm〜5mm程度、特に30μm〜2mm程度とするのが好ましい。
【0059】本実施形態では、このような消泡部材16は、吸引血用フィルター部材15の内周面の大半を覆うように設けられており、貯血槽1の最大貯血量における液面レベル(最大液面レベルLmax)よりも下方まで延長して設けられている。すなわち、濾過消泡装置7aでは、最大液面レベルLmaxより下方にも消泡剤が設置されている。これにより、液面より上方の気泡だけでなく、液中の気泡も有効に除去することができる。
【0060】ここで、最大貯血量とは、これを超えると貯血槽1より血液が溢れ出るおそれが生じる限界の血液量のことを言い、貯血槽1の機能や構造によっても異なるが、通常は、貯血空間25の実質容積の70〜100%程度とされる。
【0061】なお、濾過消泡装置7aに消泡剤を設置する方法としては、濾過消泡装置7aに設置した消泡部材16に担持させる方法に限らず、いかなる方法であってもよい。例えば、吸引血用フィルター部材15に消泡剤が担持されていてもよく、消泡部材16と吸引血用フィルター部材15との両方に消泡剤が担持されていてもよい。
【0062】次に、濾過消泡装置7bについて説明するが、前述した濾過消泡装置7aとの相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。
【0063】濾過消泡装置7bは、ベント血流入口5bから流入したベント血を濾過・消泡するものであり、ベント血流入口5bに上端部が連通する血液導入管20と、血液導入管20の周囲に設置されたベント血用フィルター部材21と、ベント血用フィルター部材21の上端部内側に設置された消泡部材22と、ベント血用フィルター部材21の下端に設置された血液分配部材23とを有している。ベント血流入口5bからのベント血は、血液導入管20を通って、濾過消泡装置7bの内部72に流入する。
【0064】このように、本発明では、吸引血用フィルター部材15(濾過消泡装置7a)とベント血用フィルター部材21(濾過消泡装置7b)とが別個に設けられていることにより、ベント血は、吸引血から濾別された血液以外の脂肪球、組織片、変性蛋白、凝集塊等の異物に接触することなく、ベント血用フィルター部材21を通過する。このため、ベント血は、前記異物に反応して活性化することがなく、損傷(ダメージ)の少ない状態が維持される。その結果、貯血槽1に貯留した血液の全体としての損傷が軽減され、生体に対する悪影響を低減することができる。
【0065】吸引血用フィルター部材15とベント血用フィルター部材21とは、互いに条件の異なるものであるのが好ましい。ここで、フィルター部材の条件とは、その有効面積、材質、形状、構造、寸法、目開き(オープニング)等の各種の条件を言う。これにより、フィルター部材の条件を吸引血とベント血とのそれぞれに対して最適化することができ、その結果、貯血槽1に貯留した血液の状態をより良好なものにすることができる。
【0066】例えば、吸引血は、通常、ベント血よりも流入量が多いので、吸引血用フィルター部材15をベント血用フィルター部材21よりも有効面積が大きいものとすることにより、吸引血に含まれる異物や気泡をより効果的に除去することができる。
【0067】また、前述したような、異物の混入量の差異を考慮して、吸引血用フィルター部材15とベント血用フィルター部材21との材質や目開きを異ならせてもよい。
【0068】ベント血用フィルター部材21は、後述するフィルター部材(静脈血用フィルター部材)9と同種のものが用いられているのが好ましい。前述したように、ベント血は、異物や気泡の含有量が少なくて損傷が小さく、大静脈から脱血した血液に近いため、フィルター部材9と同種のものを用いることにより、効率良く、的確に濾過・消泡を行うことができる。
【0069】また、ベント血用フィルター部材21は、部材の表面で異物を捕捉するスクリーンフィルター(表面濾過型)であることが好ましい。スクリーンフィルターは、通過抵抗が小さく血液の透過性に優れることから、ベント血の活性化を防止することができるとともに、開口精度が高く、気泡等を有効に除去することができる。
【0070】スクリーンフィルターとしては、例えば、メッシュ等が挙げられる。ここで、メッシュとは、規則的に配列された網目を有するシート状の部材であって、その形態は、繊維の織物または編物、一体成形物、加工物等が挙げられる。
【0071】ベント血用フィルター部材21の構成材料、特にメッシュの構成材料としては、PET、PBTのようなポリエステル、ナイロン(ポリアミド)、テトロン、レーヨン、ポリプロピレン、ポリエチレンのようなポリオレフィン、ポリ塩化ビニル等の高分子材料、アルミニウム、ステンレス等の金属材料、あるいはこれらのうちの2以上を組み合わせたものが挙げられるが、そのなかでも、特に、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ステンレスが好ましい。
【0072】また、ベント血用フィルター部材21に用いられるメッシュの網目のオープニングは15〜300μm程度、特に20〜200μmであるのが好ましい。300μmを超えると、微細な気泡は血液とともにメッシュの網目を透過することがあり、また、15μm未満であると、血液の通過抵抗が増大し、濾過消泡装置7b内での血液の液面が上昇する傾向となるからである。
【0073】なお、ベント血用フィルター部材21には、血液の透過性をさらに向上するために、必要に応じ、プラズマ処理や親水性高分子材料のコーティングのような親水化処理を施しておくことができる。この場合、プラズマ処理等の親水化処理は、常法に従って行なえばよい。
【0074】このようなベント血用フィルター部材21は、それ自体剛性が低いため、図1に示す構成例では、格子状のフレーム部材24により支持、固定されている。このフレーム部材24の構成材料は、前記血液導入管14と同様のものを用いることができる。
【0075】濾過消泡装置7bにおける消泡部材22は、最大液面レベルLmaxより上方に設けられており、本実施形態では、ベント血用フィルター部材21の内周の上端部付近に設けられている。
【0076】このような構成により、ベント血流入口5bから流入したベント血は、通常は消泡部材22に担持された消泡剤に接触しない。すなわち、ベント血流入口5bから流入したベント血は、消泡剤に接触することなく、ベント血用フィルター部材21を通過する。前述したように、ベント血に含まれる気泡の量は、比較的(吸引血より)少ないため、消泡剤に接触しなくても、ベント血用フィルター部材21により十分に消泡がなされる。
【0077】このように、本発明では、ベント血流入口5bから流入したベント血が消泡剤に接触しないため、血液中への消泡剤の混入量を全体として減少させることができ、その結果、血液の損傷をより低減することができる。
【0078】なお、万一、濾過消泡装置7b内の気泡の量が過大になった場合には、該気泡は、消泡部材22に接触して消泡される。すなわち、消泡部材22は、緊急用として設けられているものであり、本発明では、消泡部材22を有さないものであってもよい。
【0079】濾過消泡装置7bにおける血液導入管20の下端は、血液導入管14の下端より下方に延長して形成されている。これにより、血液導入管20の下端から落下した血液は、血液分配部材17に穏やかに衝突するため、濾過消泡装置7b内での泡立ちを低減することができる。
【0080】次に、濾過消泡装置7cについて説明するが、前述した濾過消泡装置7a、7bとの相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。
【0081】濾過消泡装置7cは、大静脈から脱血した血液に含まれる気泡や異物を除去するものであり、図3に示すように、上端部が静脈血流入口5cに接続された血液導入管8と、フィルター部材9と、このフィルター部材9の上方に設置された消泡部材10とを有している。
【0082】血液導入管8は、ほぼ鉛直方向に延在する直管状の部材であり、その上端部は、静脈血流入口5cに接続されている。また、血液導入管8の下端は、濾過消泡装置7c内の底部付近まで延長されている。これにより、静脈血流入口5cから血液導入管8へ導入された血液は、後述する消泡部材10に接触することなく濾過消泡装置7c内に供給され、このような血液導入時における血液中への消泡剤の混入が防止される。
【0083】また、濾過消泡装置7c内には、血液導入管8より小径のプライミング液導入管11が設置され、その上端部は、プライミング液注入口5dに接続されている。また、プライミング液導入管11の下端は、血液導入管8と同様、濾過消泡装置7c内の底部付近まで延長されている。
【0084】このような血液導入管8およびプライミング液導入管11の周囲には、フィルター部材9および消泡部材10が設置されている。
【0085】フィルター部材9の素材としては、前述したのと同様のものが好ましく用いられるが、特にメッシュを含んでいるのが好ましい。メッシュは、血液の透過性に優れるとともに、開口精度が高く、気泡等を有効に除去することができるからである。
【0086】フィルター部材9に用いられるメッシュの網目のオープニングは15〜300μm程度、特に20〜200μmであるのが好ましい。300μmを超えると、微細な気泡は血液とともにメッシュの網目を透過することがあり、また、15μm未満であると、血液の通過抵抗が増大し、濾過消泡装置7c内での血液の液面が上昇する傾向となるからである。
【0087】以上のようなフィルター部材9により、例えば、直径約20μm以上の気泡を有効に除去することができる。
【0088】このようなフィルター部材9は、それ自体剛性が低いため、図3に示す構成例では、格子状のフレーム部材12により支持、固定されている。このフレーム部材12の構成材料は、前記血液導入管14と同様のものを用いることができる。
【0089】フィルター部材9の上方には、消泡部材10が設置されているのが好ましい。また、フィルター部材9(特にその上側)にも、前記と同様の消泡剤が同様の担持方法で担持されていてもよい。
【0090】消泡部材10の下端面の位置101は、最大液面レベルLmax付近またはそれより上方とするのが好ましい。
【0091】なお、本発明では、このような濾過消泡装置7cを有さないものであってもよい。
【0092】以上、本発明の貯血槽を図示の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、貯血槽を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。
【0093】
【実施例】次に、本発明の貯血槽を、具体的実施例に基づいてさらに詳細に説明する。
【0094】(実施例)図1ないし図3に示す構成の貯血槽を作製した。この貯血槽における諸条件は、下記表1に示す通りである。
【0095】
【表1】

【0096】(比較例)実施例の貯血槽に対し、吸引血とベント血とが共通の濾過消泡装置内に流入して濾過、消泡されるよう構成されている点が異なる貯血槽を作製した。すなわち、この比較例の貯血槽は、カーディオトミーリザーバー部が単一の濾過消泡装置を有し、吸引血流入口からの吸引血とベント血流入口からのベント血とが共に該濾過消泡装置内に流入するよう構成されている。この濾過消泡装置の構造は、実施例の貯血槽における濾過消泡装置7bとほぼ同様とした。比較例の貯血槽における、この濾過消泡装置等の諸条件は、下記表2に示す通りである。
【0097】
【表2】

【0098】上記実施例および比較例の各貯血槽に対し、次のような実験を行った。図5は、この実験における血液循環回路図である。
【0099】実施例および比較例の各貯血槽をそれぞれ図5に示す循環回路に接続した。すなわち、この循環回路では、血液流出口6に接続されたラインにローラーポンプ60および熱交換器61をそれぞれ設けた。そして、このラインを熱交換器61を出たところでベントライン62と吸引ライン63との2つのラインに分岐させ、ベントライン62のチューブをベント血流入口5bに接続し、吸引ライン63のチューブを吸引血流入口5aに接続した。また、吸引ライン63の途中には、空気混入ライン64を設置した。
【0100】このような循環回路をヘパリン加人新鮮血200mlと乳酸リンゲル液350mlとの混合液で充填し、血液温度37℃、平均流量1000ml/minで灌流(循環)させた。このとき、吸引ライン63を流れる血液には、100ml/minの割合で空気(気泡)を混入させた。しばらくすると、実施例の濾過消泡装置7aおよび比較例の濾過消泡装置内には、吸引ライン63の血液から凝集塊が濾別されているのが観察された。
【0101】灌流を開始して2時間経過後、それぞれの循環回路から血液流出口6の直後での血液を採取し、それぞれに対して、血小板数、白血球数、β−TG、顆粒球エラスターゼを測定した。なお、β−TGは、血小板の活性化により生じる因子であり、顆粒球エラスターゼは、白血球の活性化により生じる因子である。
【0102】この測定結果を下記表3に示す。なお、血小板数、白血球数については、灌流を行う前の測定値に対する割合(% of pre)で示す。
【0103】
【表3】

【0104】表3に示す結果から、実施例の貯血槽を用いた循環回路では、血液循環後の血小板数および白血球数は、比較例の貯血槽を用いた循環回路よりも大幅に多く残存していた。また、実施例の貯血槽を用いた循環回路では、β−TGおよび顆粒球エラスターゼは、比較例の貯血槽を用いた循環回路よりも大幅に少なく、血液の活性化の度合いが小さかった。このようなことから、実施例の貯血槽を用いた循環回路は、比較例の貯血槽を用いた循環回路よりも血液の損傷が大幅に低減されることが明らかとなった。
【0105】
【発明の効果】以上述べたように、本発明によれば、流入したベント血に対し、活性化の抑制および消泡剤の混入防止が図られることから、貯留した血液に対する損傷を低減することができる。
【0106】また、吸引血用フィルター部材と、ベント血用フィルター部材とを互いに条件の異なるものとした場合、例えば、吸引血用フィルター部材をスクリーンフィルターとし、ベント血用フィルター部材をデプスフィルターとしたような場合には、ベント血と吸引血とを、それぞれにより適した状態で濾過することができ、上記効果がより顕著に発揮される。
【出願人】 【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
【出願日】 平成13年5月7日(2001.5.7)
【代理人】 【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
【公開番号】 特開2002−325841(P2002−325841A)
【公開日】 平成14年11月12日(2002.11.12)
【出願番号】 特願2001−136076(P2001−136076)