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【発明の名称】 生体用骨充填セメント練和物及びその製造方法
【発明者】 【氏名】平野 昌弘

【氏名】竹内 啓泰

【氏名】浅岡 伸之

【要約】 【課題】生体用補綴物として有用な高粘度の生体用セメント練和物の提供、及び高い粉液比での練和が安価、簡便にでき、かつ雑菌や不純物の混入する恐れの少ない生体用セメント練和物の製造方法の提供。

【解決手段】リン酸カルシウム粉体とピロリン酸塩を含む粉体組成物と硬化用液体とを混合した被練和物を入れた容器に公転回転と自転回転とを同時に加えることにより、粉体と液体を練和することを特徴とする生体用セメント練和物の製造方法;比表面積が0.3〜2.0m2/g、あるいは2.0〜4.0m2/gであるリン酸カルシウム粉体とピロリン酸塩を含む粉体組成物と、硬化用液体とを、粉体と液体の重量混合比(P/L)=3.0〜5.0、あるいは1.5〜3.5で混合し、上記方法で処理して得られたことを特徴とする生体用セメント練和物。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 リン酸カルシウム粉体とピロリン酸塩を含む粉体組成物と硬化用液体とを混合した被練和物を入れた容器に公転回転と自転回転とを同時に加えることにより、粉体と液体を練和することを特徴とする生体用骨充填セメント練和物の製造方法。
【請求項2】 リン酸カルシウム粉体とピロリン酸塩を含む粉体組成物と硬化用液体とを混合した被練和物を入れた容器に、該容器を20〜50度傾斜させた状態で公転回転と自転回転とを同時に加えることにより、粉体と液体を練和することを特徴とする生体用骨充填セメント練和物の製造方法。
【請求項3】 リン酸カルシウム粉体とピロリン酸塩を含む粉体組成物と硬化用液体とを混合した被練和物を入れた容器に、該容器を20〜50度傾斜させた状態で1500rpm以上の公転回転と300rpm以上の自転回転とを同時に加えることにより、粉体と液体を練和することを特徴とする生体用骨充填セメント練和物の製造方法。
【請求項4】 前記リン酸カルシウム粉体が、α型第3リン酸カルシウムと第4リン酸カルシウムのいずれか一方からなる粉体、あるいはα型第3リン酸カルシウムと第4リン酸カルシウムの少なくとも一方を必須成分として含み、第2リン酸カルシウムと第1リン酸カルシウムを任意成分として含む粉体であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の生体用骨充填セメント練和物の製造方法。
【請求項5】 前記ピロリン酸塩が、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウムの少なくとも一方であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の生体用骨充填セメント練和物の製造方法。
【請求項6】 前記粉体組成物が、リン酸マグネシウムと硫酸マグネシウムの少なくとも一方をさらに含有していることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の生体用骨充填セメント練和物の製造方法。
【請求項7】 前記硬化用液体が、コハク酸塩、コンドロイチン硫酸塩及び亜硫酸水素塩からなる群から選択される少なくとも1種を含む水溶液であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の生体用骨充填セメント練和物の製造方法。
【請求項8】 前記容器が、外容器と該外容器内に収容される内容器とからなる二重容器であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の生体用骨充填セメント練和物の製造方法。
【請求項9】 前記外容器と内容器に、外容器内に収容した内容器の相対位置を変化させないロック機構が設けられていることを特徴とする請求項8項に記載の生体用骨充填セメント練和物の製造方法。
【請求項10】 前記内容器が、練和物吐出用の第1の開口と、該内容器内の練和物を第1の開口から押し出す押出部材が挿入される第2の開口とを有する容器本体と、該容器本体の第1,第2の開口を脱着自在に密封するカバー部材とを含むことを特徴とする請求項9に記載の生体用骨充填セメント練和物の製造方法。
【請求項11】 外容器内部と内容器とその内部の被練和物とを滅菌した状態で練和を行うことを特徴とする請求項8ないし10のいずれか1項に記載の生体用骨充填セメント練和物の製造方法。
【請求項12】 比表面積が0.3〜2.0m2/gであるリン酸カルシウム粉体とピロリン酸塩を含む粉体組成物と硬化用液体を、粉体組成物と液体の重量混合比(P/L)=3.0〜5.0で混合し、請求項1ないし11のいずれか1項に記載の方法で処理して得られたことを特徴とする生体用骨充填セメント練和物。
【請求項13】 比表面積が2.0〜4.0m2/gであるリン酸カルシウム粉体とピロリン酸塩を含む粉体組成物と硬化用液体を、粉体組成物と液体の重量混合比(P/L)=1.5〜3.5で混合し、請求項1ないし11のいずれか1項に記載の方法で処理して得られたことを特徴とする生体用骨充填セメント練和物。
【請求項14】 稠度が18〜22mmであることを特徴とする請求項12または13に記載の生体用リン酸カルシウム骨充填セメント練和物。
【請求項15】 気泡量が練和物体積の10%以下であることを特徴とする請求項12ないし14のいずれか1項に記載の生体用骨充填セメント練和物。
【請求項16】 請求項12ないし15のいずれか1項に記載の生体用骨充填セメント練和物を固体化させて得られ、60MPa以上の強度を有することを特徴とする生体用骨充填セメント硬化体。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、口腔外科を含む医科用に用いる生体用セメント練和物及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より生体用セメントとして利用可能なリン酸カルシウムセメントは知られている(特開昭64−37445号公報、特開平4−328185号公報等)。これらは中性付近のpHで硬化するため生体刺激がなく、骨の欠損部の補填や、骨折部の固定・修復などに使用できる。しかし、生体用として安全に使用するためには使用部位によっては高強度が要求される場合があり、また、これらは通常37℃では10分程度で硬化するが、使用目的によっては更に短時間で硬化することが要求される場合があって、用途が限定されていた。また、通常の粉体と液体の練和は乳鉢と乳棒を用いて行うため、作業が煩雑で雑菌や不純物が混入する恐れがあった。
【0003】なお、一般にセメント充填物の強度を高めるためには、練和時の粉体と液体の混合比P/L(粉体/液体重量混合比、以下、P/L又は粉液比と記す)を高くすれば良いが、高い粉液比で練和しようとすると、練和物の流動性が低下するため、均一な練和物を得ることが難しい。このため、粉体粒子を球状にして流動性を増し、練和時の粉液比を高める試みがなされている(例えば、特開平1−176252号公報、特開平5−319891号公報等)。
【0004】しかし、粉体を球状にするためには、例えば「ナラ・ハイブリダイザ」((株)奈良機械製作所)等の高速気流中衝撃装置に粉体を導入して、衝撃室中で機械的に衝撃を加える方法、あるいは、例えばアルゴン・水素混合ガス雰囲気下で、高周波プラズマ等で発生したプラズマアーク内に粉体を導入し、粉体の表面の一部を溶融状態とし、次いでプラズマアーク中から飛散する前記粉末の一部を冷却固定して球状化する方法等を用いねばならず、これらの方法は極めて煩雑でコストのかかる方法であって現実的ではなかった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】従って本発明の目的は、硬化時間が短く、補填後極めて高い強度になるため、生体用補綴物として有用な、高粘度のリン酸カルシウム粉体とピロリン酸塩とを含む生体用骨充填セメント練和物(以下、生体用セメント練和物という)を提供することである。また、別の目的は、高い粉液比の粉と液の練和が安価、簡便にでき、かつ雑菌や不純物の混入する恐れの少ない高粘度生体用セメント練和物の製造方法を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するため、本発明は、リン酸カルシウム粉体とピロリン酸塩を含む粉体組成物と硬化用液体とを混合した被練和物を入れた容器に公転回転と自転回転とを同時に加えることにより、粉体と液体を練和することを特徴とする生体用骨充填セメント練和物の製造方法を提供する。また本発明は、リン酸カルシウム粉体とピロリン酸塩を含む粉体組成物と硬化用液体とを混合した被練和物を入れた容器に、該容器を20〜50度傾斜させた状態で公転回転と自転回転とを同時に加えることにより、粉体と液体を練和することを特徴とする生体用骨充填セメント練和物の製造方法を提供する。さらに本発明は、リン酸カルシウム粉体とピロリン酸塩を含む粉体組成物と硬化用液体とを混合した被練和物を入れた容器に、該容器を20〜50度傾斜させた状態で1500rpm以上の公転回転と300rpm以上の自転回転とを同時に加えることにより、粉体と液体を練和することを特徴とする生体用骨充填セメント練和物の製造方法を提供する。本発明の製造方法において、リン酸カルシウム粉体は、α型第3リン酸カルシウムと第4リン酸カルシウムのいずれか一方からなる粉体、あるいはα型第3リン酸カルシウムと第4リン酸カルシウムの少なくとも一方を必須成分として含み、第2リン酸カルシウムと第1リン酸カルシウムを任意成分として含む粉体であることが好ましい。ピロリン酸塩は、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウムの少なくとも一方が好適に使用される。また、粉体組成物は、リン酸マグネシウムと硫酸マグネシウムの少なくとも一方をさらに含有させることができる。また本発明の製造方法において、硬化用液体は、コハク酸塩、コンドロイチン硫酸塩及び亜硫酸水素塩からなる群から選択される少なくとも1種を含む水溶液として良い。また本発明の製造方法において、前記容器は、外容器と該外容器内に収容される内容器とからなる二重容器であること、さらに外容器と内容器に、外容器内に収容した内容器の相対位置を変化させないロック機構が設けられていることが好ましい。さらにまた、内容器を、練和物吐出用の第1の開口と、該内容器内の練和物を第1の開口から押し出す押し出し部材が挿入される第2の開口とを有する容器本体と、該容器本体の第1,第2の開口を脱着自在に密封するカバー部材とを含む構成として良い。これらの二重容器を用いた製造方法において、外容器内部に収容される内容器とその内部の被練和物とを滅菌した状態で練和を行うことが好ましい。
【0007】また本発明は、比表面積が0.3〜2.0m2/gであるリン酸カルシウム粉体とピロリン酸塩を含む粉体組成物と硬化用液体を、粉体組成物と液体の重量混合比(P/L)=3.0〜5.0で混合し、本発明の製造方法で処理して得られたことを特徴とする生体用セメント練和物を提供する。さらに本発明は、比表面積が2.0〜4.0m2/gであるリン酸カルシウム粉体とピロリン酸塩を含む粉体組成物と硬化用液体を、粉体組成物と液体の重量混合比(P/L)=1.5〜3.5で混合し、本発明の製造方法で処理して得られたことを特徴とする生体用セメント練和物を提供する。本発明の生体用セメント練和物において、稠度が18〜22mmであることが好ましい。また本発明の生体用セメント練和物において、気泡量が練和物体積の10%以下であることが好ましい。さらに本発明は、本発明の生体用セメント練和物を固体化させて得られ、60MPa以上の強度を有することを特徴とする生体用骨充填セメント硬化体を提供する。
【0008】
【発明の実施の形態】本発明で使用される粉体組成物中、必須に配合されるリン酸カルシウム粉体としては、α型第3リン酸カルシウムと第4リン酸カルシウムのいずれか一方からなる粉体、あるいはα型第3リン酸カルシウムと第4リン酸カルシウムの少なくとも一方を必須成分として含み、第2リン酸カルシウムと第1リン酸カルシウムを任意成分として含む粉体が好適に使用される。必須成分であるα型第3リン酸カルシウムと第4リン酸カルシウムは、水硬性があり、これらの少なくとも一方を含む粉体組成物に硬化用液体を加えて練和した生体用セメント練和物を硬化させる働きを持つ。任意成分の第2リン酸カルシウムと第1リン酸カルシウムは、生体用セメント練和物の硬化促進、早期強度の向上、生体適合性の改善などの働きを持つ。
【0009】本発明で使用される粉体組成物中、必須に配合されるピロリン酸塩は、ピロリン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩などからなる群から選択される少なくとも1種を用いることができ、好ましくはピロリン酸ナトリウムとピロリン酸カリウムの少なくとも一方が用いられる。ピロリン酸塩は、リン酸カルシウム粉体の保存性を改善するために配合される。リン酸カルシウム粉体単独では、粉体を室温で長期間放置しておくと粉体の水硬性が劣化し、硬化用液体と練和して得た練和物の硬化時間が長くなったり、硬化物の強度が減少してしまう。これを防ぐため、リン酸カルシウム粉体は−10℃程度に冷蔵保存している。リン酸カルシウム粉体にピロリン酸ナトリウムのようなピロリン酸塩を添加することにより、粉体組成物を冷蔵保存することなく、室温保存した場合でも、高強度の硬化物が得られるようになる。すなわち、リン酸カルシウム粉体とピロリン酸塩を含む粉体組成物は、室温保存が可能なものとなる。さらにピロリン酸塩の添加により、より高い強度を有する生体用セメント硬化物が得られる効果がある。
【0010】本発明で使用される粉体組成物には、前述したリン酸カルシウム粉体とピロリン酸塩の他に、マグネシウム含有化合物を含めることができる。このマグネシウム含有化合物としては、マグネシウムのリン酸塩、硫酸塩、炭酸塩、有機酸塩などのマグネシウム塩、カルシウムとの復塩、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウムなどの化合物からなる群から選択される少なくとも1種とすることができ、特に好ましくはリン酸マグネシウムと硫酸マグネシウムの少なくとも一方を使用することができる。このマグネシウム含有化合物は、前述したピロリン酸塩と同じく、リン酸カルシウム粉体の保存性を改善し、室温保存が可能な粉体組成物を得ることができ、且つより高い強度を有する生体用セメント硬化物が得られるなどの効果を奏する。
【0011】本発明で使用される粉体組成物としては、例えば、α型第3リン酸カルシウムと第4リン酸カルシウムの少なくとも一方を99.97〜50重量%、好ましくは95〜60重量%、最も好ましくは90〜70重量%、第2リン酸カルシウムを0〜49.97重量%、好ましくは5〜20重量%、第1リン酸カルシウムを0〜49.97重量%、好ましくは3〜15重量%、を含むリン酸カルシウム粉体100重量部に、ピロリン酸塩0.03〜0.5重量%を混合したものなどが挙げられる。さらに任意成分として第2リン酸カルシウムと第3リン酸カルシウムの水和物を2〜10重量%、好ましくは3〜7重量%を含むものを用いても良い。これらの中から、生体適合性や使用目的等を考慮してリン酸カルシウム粉体とピロリン酸塩を含む粉体組成物の組成比、焼成温度、平均粒径等を適宜選択して使用することができるが、それらの内容に応じて比表面積はある程度の範囲に決定される。本発明では、特に比表面積が0.3〜2.0m2/g、あるいは2.0〜4.0m2/gのリン酸カルシウム粉体が好適に使用される。
【0012】比表面積は、リン酸カルシウム粉体の粒度、反応性、流動性等と関連性の高い重要なパラメータであり、比表面積が0.3m2/g未満であると、反応性が乏しいため硬化時間が延長し、生体用セメントとして好ましくない。一方、比表面積が4.0m2/gを越えると、一般的に粒度が小さく反応性も高くなり、その結果練和ペーストの流動性が低下するので、粉体と液体の重量混合比P/Lを1.5〜5.0の範囲にまで高くすることができない。
【0013】ピロリン酸塩をリン酸カルシウム粉体と混合し、粉体組成物とする場合、所定量のリン酸カルシウム粉体とピロリン酸塩の粉末とを混合し、乾式混合、湿式混合、粉砕混合などの適宜な混合法で均一に混合して粉体組成物とする。あるいは、ピロリン酸塩の水溶液をリン酸カルシウム粉体にスプレーし、乾燥させ、リン酸カルシウム粉体表面にピロリン酸塩をコートした粉体組成物を製造することもできる。
【0014】本発明で使用される硬化用液体は、水、あるいはリン酸カルシウム粉体とピロリン酸塩を含む粉体組成物と混合、練和する際の練和容易性、練和物の安定性、pH調整、硬化速度などを改善する目的で水溶性の無機塩類及び/又は有機塩類を含む水溶液、あるいはそれ以外の成分、例えば保存料、殺菌剤などの医薬上許容される添加物を含む水溶液などを使用することができる。水溶性の無機塩類及び/又は有機塩類としては、例えば、コハク酸二ナトリウム6水和物のようなコハク酸塩、コンドロイチン硫酸ナトリウムのようなコンドロイチン硫酸塩及び亜硫酸水素ナトリウムのような亜硫酸水素塩を挙げることができる。これらの塩類を配合する場合、配合量は、コハク酸二ナトリウム6水和物が0〜30重量%、好ましくは5〜25重量%、コンドロイチン硫酸ナトリウムが0〜10重量%、好ましくは3〜7重量%、亜硫酸水素ナトリウムが0〜1重量%、好ましくは0.2〜0.5重量%とする。硬化用液体は、バイアル等の密封可能で適当な容量の容器に充填し、高圧蒸気滅菌、放射線滅菌などの方法を用いて滅菌処理するか、あるいは、滅菌ろ過器を用いて液体をろ過除菌し、滅菌済み容器内に無菌充填し、密封する方法などによって無菌状態で製造することが望ましい。
【0015】このような粉体と液体の練和は、乳鉢と乳棒を使用して行うことが通常であるが、かかる手作業で比表面積が2.0〜4.0m2/gの粉体と液体を練和する場合、均一に練和できる粉体と液体の混合割合はP/Lで高々2.0程度である。また、乳鉢と乳棒による練和は、当然のことであるが開放系であるため、雑菌や不純物が混入する可能性が高い。
【0016】本発明者らは鋭意研究の結果、粉体と液体を滅菌済みの容器に充填した後、容器ごと公転回転を加えながら、同時に容器を自転させることにより、全く用手的な作業を伴わずに、その回転の遠心力のみで粉体と液体が容易に練和できることを見出した。しかも、練和に要する時間はわずか5〜40秒程度でありながら、均一な生体用セメント練和物を無菌的に得ることができた。
【0017】更に、粉液比が高いことに加え、回転により発生する練和物と容器壁面との摩擦熱も手伝って、硬化時間が非常に短縮されること、また、回転中に練和物内部の気泡が抜ける効果により練和物の流動性が極めて向上することを見出した。
【0018】かかる公転回転と自転回転を与える方法としては、例えば「スピンクル」(商品名:モリタ東京製作所製)や「あわとり練太郎」(商品名:シンキー社製)を使用して行うことができる。すなわち、夫々の製品に付属する練和容器をエチレンオキサイドガス等で滅菌した後、容器内にリン酸カルシウム粉体とピロリン酸塩を含む粉体組成物と硬化用液体を粉液比1.5〜3.5、あるいは3.0〜5.0になるように充填し、5〜40秒程度練和すれば、容易に目的とする均一なペースト状又は粘土状の高粘度生体用セメント練和物を得ることが可能である。これらの装置での自転、公転運動による練和、気泡除去については特開平11−309358号、特開2000−271465号に記載されているが、この中には歯科用の印象材料、パウダーの混練に使用されること、その際スラリー中の気泡が公転速度1000rpm、自転速度500rpm〜1000rpmの条件での脱気泡性が記載されてはいるが、これによる硬化時間の短縮及び強度増大の事例は報告されていない。また併せて、対象物が生体用骨充填用セメントであること、二重容器を用いて無菌状態で練和を行うこと、高い粉液比で練和を行うことなどに関しては記載されていない。
【0019】生体用セメント練和物を無菌的に提供するという観点から、練和用容器としては、外容器と該外容器内に収容される内容器とからなる二重容器が望ましい。すなわち、粉体と液体(これらが予め滅菌済みであることは言うまでもない)をまず滅菌済みの内容器に充填する。その後、蓋を閉めて内部が汚染されないようにした後、内容器全体を滅菌済みの外容器にセットし、外容器の蓋を閉める。その後、外容器を上記の「スピンクル」や「あわとり練太郎」にセットし、公転回転と自転回転を加えて粉体と液体を練和する。装置全体を滅菌することはできないので、この際、外容器の外装は無菌状態ではない。しかし、練和終了後、外容器ごと装置から取り外し、外容器の蓋を開け、内容器を無菌的に取り出せば、内容器は内部も外装面も無菌状態が保たれたままである。従って、手術に際して術者自身がその中に内包された練和物を取り出す際にも、無菌状態を保ったまま容易に取り出せる。なお、外容器と内容器のいずれかに、外容器内に収容した内容器の回転を防止するロック機構を設ける必要がある。
【0020】図1は、本発明方法を実施するのに好適な二重容器の一例を示すものである。この二重容器1は、外容器本体2aとその上部開口を脱着可能に覆う外蓋2bとからなる外容器2と、該外容器2内に収容可能な内容器本体3aとその上部開口を脱着可能に覆うツマミ4付きの内蓋3bとからなる内容器3とから構成されている。内容器3は、内蓋3bを取り付けた状態で外容器本体2a内に収容され、外蓋2bを取り付けた状態で、内容器3のツマミ4の上端が外蓋2b内面に近接するか又は接触するようになっている。外容器本体2aの内方側底面には、十文字の凹部が設けられ、一方、内容器本体3aの外方側底面には、その十文字の凹部に嵌入される十文字の突起5(ロック機構)が設けられ、外容器2内に内容器3を収容し、突起5を凹部に嵌入することによって、外容器2内で内容器3が回転することなく保持できるようになっている。この二重容器1は、滅菌処理した内容器本体3aに、滅菌済みのリン酸カルシウム粉体とピロリン酸塩を含む粉体組成物と硬化用液体とを所定の粉液比となるように入れ、内蓋3bを閉じ、その内容器3をやはり滅菌処理した外容器2内に収容し、突起5を凹部に嵌入した後、外蓋2bを閉め、その外容器2を前述した練和装置に装着し、公転回転と自転回転とを同時に加えて練和する。練和終了後、内容器3を取り出し、内蓋3bを開けて内部の生体用セメント練和物を使用することにより、無菌的に該生体用セメント練和物を使用することができる。
【0021】図2は、本発明方法を実施するのに好適な二重容器の他の例を示すものである。この二重容器11は、外容器本体12aとその上部開口を脱着可能に覆う外蓋12bとからなる外容器12と、練和物吐出用の第1の開口と該内容器内の練和物を第1の開口から押し出すための押し出し部材が挿入される第2の開口とを有する略円筒状の内容器本体13aと、内容器本体13aの第1,第2の開口を脱着自在に密封する2つのカバー部材13bとからなる内容器13とから構成されている。外容器本体12aの内方側底面中央部には、十文字の凹部が設けられ、一方、内容器13の下方のカバー部材13bには、その十文字の凹部に嵌入される十文字の突起14(ロック機構)が設けられ、外容器12内に内容器13を収容し、突起14を凹部に嵌入することによって、外容器12内で内容器13が回転することなく保持できるようになっている。内容器本体13aの中央には、内容器13を注入器として使用する場合のホルダーとなるフランジ15が形成されている。この二重容器11は、滅菌処理し、上方側のカバー部材13bを開けて内容器本体13aに滅菌済みのリン酸カルシウム粉体とピロリン酸塩を含む粉体組成物と硬化用液体とを所定の粉液比となるように入れ、上方側のカバー部材13bを閉じ、その内容器3をやはり滅菌処理した外容器12内に収容し、下方のカバー部材13bに設けられた突起14を外容器本体12aに形成した凹部に嵌入した後、外蓋12bを閉め、その外容器12を前述した練和装置に装着し、公転回転と自転回転とを同時に加えて練和処理する。練和終了後、外容器12から内容器13を取り出し、一方のカバー部材13bを外し、注射針が一体に取り付けられた注入用具、あるいは市販の注射針を装着可能なコネクタを取付け、それに注射針を取り付るとともに、他方のカバー部材13bを取り外し、注射器用のピストン部材(押出部材)を挿入し、セメント練和物注入器として使用することができる。
【0022】前述した粉体と液体を滅菌済みの容器に充填した後、容器に公転回転と自転回転を同時に加え、粉体と液体とからなる被練和物を練和することにより、その公転によって容器内の被練和物に遠心力が働き、その遠心力で被練和物が容器の内壁に押圧され、その押圧力で被練和物中の気泡が外部に放出(脱泡)されるとともに、容器の自転により容器内の被練和物が撹拌され、強力且つ効率的な練和が可能となり、粉液比が高い高粘度の生体用セメント練和物を製造することができる。
【0023】容器に公転回転と自転回転を同時に加え、粉体と液体とからなる被練和物を練和する際に、容器を20〜50度に傾斜させた状態で練和を行うことが望ましい。容器を傾斜させることにより、遠心力による押圧力の一部が被練和物に作用し、容器の自転により生じる作用力と一緒になって被練和物の撹拌、脱泡が促進される。傾斜角度が20度より小さいと、被練和物の撹拌、脱泡の促進効果が十分に得られなくなる。一方、傾斜角度が50度より大きいと、被練和物の撹拌、脱泡の促進効果が十分得られなくなるとともに、内容物がこぼれ易くなるので好ましくない。
【0024】粉体と液体とからなる被練和物を練和する際に、容器に加える回転は、公転回転数が1500rpm以上であり、自転回転数が300rpm以上とすることが好ましい。公転回転数及び自転回転数がそれぞれ前記値より低いと、被練和物の撹拌及び脱泡作用が十分でなくなり、均一な練和物が得られなかったり、均一な練和物を得るために必要な練和時間が長くなる不具合がある。
【0025】本発明の生体用セメント練和物は、比表面積が2.0〜4.0m2/gの粉体を用いる場合には、粉体と液体の混合割合が重量混合比(P/L)で1.5〜3.5の範囲、比表面積が0.3〜2.0m2/gの粉体を用いる場合には、粉体と液体の混合割合が重量混合比(P/L)で3.0〜5.0の範囲で練和されることを特徴とする。それぞれのP/L範囲の下限値未満であれば、本発明の練和方法を用いることなく練和できるので、無菌状態を維持できることを除くとそれほどメリットがなく、それぞれのP/L範囲の上限値を超えると、本発明の練和方法によっても均一な練和物を得ることが難しい。なお、P/L=2.0〜3.0(表面積2.0〜4.0m2/gの粉体使用時)、あるいはP/L=3.5〜4.5(表面積0.3〜2.0m2/gの粉体使用時)であれば、用手的な練和では達成できない粉液比であることに加え、得られる生体用セメント練和物は内径2.0mmの針を通して吐出できる程度の流動性を有するので、本法のメリットを最大限に享受することができる。
【0026】さらに、本発明の生体用セメント練和物は、稠度が18〜22mmであることが好ましい。練和物の稠度は、下記の方法によって測定する。即ち、比表面積が2.0〜4.0m2/gの粉体の場合はP/L=2.0で、比表面積が0.3〜2.0m2/gの粉体の場合はP/L=3.5で練和したセメントペースト1gをガラス板上に置き、上から静かに120gの自重を有するガラス板を重ねる。その際、広がったセメントペーストの最短径と最長径の長さを測定し、その平均値をmm単位で求める。稠度が22mmより大きいと、高強度のセメント硬化物を得ることができなくなり、稠度が18mmより小さいと、練和が困難となって均一な練和物を得ることが困難になるとともに、流動性がなくなり、取り扱いが困難になる。
【0027】また、本発明の生体用セメント練和物は、気泡量が練和物体積の10%以下であることが好ましい。この気泡率は、一定体積の練和物又は硬化物中に含まれる気泡の体積%で表される。気泡量が練和物体積の10%より大きいと、練和物の強度低下を招き、好ましくない。本発明方法によって練和した場合、この気泡率が極めて小さい生体用セメント練和物を得ることができる。
【0028】本発明によって提供される生体用リン酸カルシウム骨充填セメント硬化体は、前述して得られる生体用セメント練和物を、骨の欠損部の補填や、骨折部の固定・修復などに補填後固体化されたもの、あるいは必要とされる形状、大きさのキャビティーが形成された型内に注入し、固体化せしめたものである。このセメント硬化体は、60MPa以上の極めて高い強度を有することを特徴とする。以下、実施例によって本発明の効果を明確化するが、以下の実施例は単なる例示に過ぎず、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0029】
【実施例】[比表面積が2.0〜4.0m2/gの粉体組成物に関する実施例1,2]
・合成例1:α型第3リン酸カルシウム水酸化カルシウム((株)宇部マテリアルズ製)3モルを水10リットルに懸濁させ、これにリン酸(ラサ工業社製)2モルを水で希釈して40wt%水溶液としたものを徐々に撹拌滴下し、滴下終了後、室温にて1日放置し、その後乾燥機(ヤマト科学社製、DV61型)にて110℃、24時間乾燥させた。この凝集塊を1250℃、3時間焼成した(モトヤマ社製、スーパーバーン2035型)。最後に擂潰機((株)石川工場社製、かくはん擂潰機たて型20号)で粉砕し88μmのふるいを通過させて平均粒径4.5μmのα型第3リン酸カルシウムを得た。
【0030】・合成例2:第4リン酸カルシウム水酸化カルシウムを4モル、リン酸を2モル用い、合成例1と同様に乾燥させ、凝集塊を得た。この凝集塊を900℃で3時間仮焼成し、取り出して均一に粉砕した後、更に1400℃で3時間焼成した。最後に擂潰機((株)石川工場社製、かくはん擂潰機たて型20号)で粉砕し88μmのふるいを通過させて、平均粒径6.0μmの第4リン酸カルシウムを得た。
【0031】・実施例1合成例1で合成したα型第3リン酸カルシウム95%と市販の第2リン酸カルシウム(和光純薬工業社製、特級)5%とを混合して、リン酸カルシウム粉体を得た。比表面積を湯浅アイオニクス社製モノソーブMS-13型にて測定したところ、2.38m2/gであった。このリン酸カルシウム粉体100重量部に対し、ピロリン酸ナトリウム(純正化学社製)粉末0.2重量部を加え、擂潰機を用いて混合し、粉体組成物とした。一方、硬化用液体として、コハク酸二ナトリウム6水和物(純正化学社製、特級)を20wt%、コンドロイチン硫酸ナトリウム(生化学工業社製、注射用グレードND品)を5wt%溶解した水溶液を作製した。
【0032】次に、粉体組成物10gに対して、液体を粉液比(P/L)1.5,2.0,2.5,3.0,3.5,4.0の割合になるように混合し、「あわとり練太郎」(商品名:シンキー社製、仕様 公転回転2000rpm、自転回転400rpm)の専用容器に入れ、同機で15秒練和した。得られた生体用セメント練和物についての性状試験、吐出試験、硬化時間の結果を表1に示す。
【0033】・比較例1比較のために、実施例1と同じ粉体と液体を市販の薬用乳鉢に入れ、乳棒にて用手練和した。均一なペーストを得るには1分を要した。表1に性状試験、吐出試験、硬化時間の結果を実施例1と比較して示す。
【0034】
【表1】

性状試験は完全に均一なペーストまたは粘土状になる場合は○、完全に均一とは言えないものの、ほぼ均一と認められる場合は△、均一なものが得られない場合は×とした。吐出試験は内径2mm、長さ40mmの針から吐出できる場合は○、出来ない場合は×とした。
【0035】・実施例2(粉体の準備)合成例2の第4リン酸カルシウム70.0wt%、市販の第2リン酸カルシウム(和光純薬工業社製)を30.0wt%混合してリン酸カルシウム粉体を得た。このリン酸カルシウム粉体100重量部に、ピロリン酸ナトリウム(純正化学社製)0.4重量部を加えて混合し、得られた粉体組成物の比表面積を実施例1と同様にして測定したところ、3.48m2/gであった。
【0036】(滅菌)次に、粉体組成物にγ線を25kGy照射して滅菌し、実施例1の液体も孔径0.22μmの滅菌用フィルタ(日本ポール社製)を通してろ過滅菌した。一方、図1に示す形状の二重容器を用意し、外容器(特別仕様、栃木精工社製、ポリカーボネート製)を121℃、20分の条件で高圧蒸気滅菌するとともに、内容器(特別仕様、栃木精工社製、ポリプロピレン製)を日東理科工業社製のエチレンオキサイドガス滅菌器(CL−30−B型)で滅菌した。
【0037】(練和)その後、粉体組成物10gと、これに対して液体をP/L=2.0,2.5,3.0になるような割合で内容器に充填し、更に内容器を外容器にセットした。次に、外容器を「スピンクル」(モリタ東京製作所社製、仕様 公転回転2500rpm、自転回転500rpm)にセットし、同機で10秒練和した。
【0038】(試験)得られた生体用セメント練和物の硬化時間と強度試験の結果を表2に示す。また、該練和物を日本薬局方一般試験法の「無菌試験法」に則り無菌試験を実施したところ、無菌であることが確認された。
【0039】・比較例2比較のために、実施例2と同じ粉体と液体を、粉液比2.0の割合で市販の薬用乳鉢に入れ、乳棒にて1分間用手練和した。表2に硬化時間及び圧縮強度の結果を比較して示す。
【0040】
【表2】

(*)比較例2と実施例2の粉液比2.0の圧縮強度の結果は統計学的に有意差あり(t検定、危険率5%)。
【0041】圧縮強度及び硬化時間は、JIS T6602「歯科用リン酸亜鉛セメント」に準拠して測定した。ただし、圧縮強度については、検体(7mmφ×14mmL)を表3の疑似体液中に7日間浸漬した後、取り出して濡れたまま測定した。加重速度は0.5mm/分とし、インストロン社製4455型試験器を使用した。
【0042】
【表3】

【0043】表1及び表2に示した結果より、本発明の製造方法に従って製造した実施例1,2の生体用セメント練和物は、用手法(乳鉢使用)によって製造した比較例1,2の練和物に比べて、短時間で製造でき、高い粉液比で粉体組成物と液体とを練和することが可能であり、得られた生体用セメント練和物は、比較例3,4と比較して硬化時間が短縮されることが判る。さらに、実施例1では、粉液比1.5〜3.0の範囲で針から吐出可能な生体用セメント練和物が製造できた。また、表2の結果から、本発明の製造方法に従って製造した実施例2の生体用セメント練和物は、用手法による比較例2の練和物に比べ、硬化時に高い圧縮強度が得られることが判る。さらに、実施例2の如く、二重容器を用いて無菌的に練和物を製造することにより、無菌状態の生体用セメント練和物を製造することができた。また、実施例1,2で製造した粉体組成物を、室温で1年間保管し、硬化物の硬化時間と圧縮強度を測定した結果、硬化時間は保管後でも変化はなく、圧縮強度の経時的劣化はわずかであった。
【0044】前記実施例1,2において、粉液比、練和条件(公転回転数、自転回転数)を変えて種々の生体用セメント練和物を製造し、性状試験、吐出試験、硬化時間及び圧縮強度を測定し、用手法(乳鉢)により製造した比較例1,2の練和物と比較した。結果を表4〜表7にまとめて記す。
【0045】
【表4】

性状試験は完全に均一なペーストまたは粘土状になる場合は○、完全に均一とは言えないものの、ほぼ均一と認められる場合は△、均一なものが得られない場合は×とした。吐出試験は内径2mm、長さ40mmの針から吐出できる場合は○、出来ない場合は×とした。
【0046】
【表5】

【0047】
【表6】

性状試験は完全に均一なペーストまたは粘土状になる場合は○、完全に均一とは言えないものの、ほぼ均一と認められる場合は△、均一なものが得られない場合は×とした。吐出試験は内径2mm、長さ40mmの針から吐出できる場合は○、出来ない場合は×とした。
【0048】
【表7】

【0049】[比表面積が0.3〜2.0m2/gの粉体組成物に関する実施例3,4]
・合成例3:α型第3リン酸カルシウム水酸化カルシウム((株)宇部マテリアルズ製)3モルを水10リットルに懸濁させ、これにリン酸(ラサ工業社製)2モルを水で希釈して40wt%水溶液としたものを徐々に撹拌滴下し、滴下終了後、室温にて1日放置し、その後乾燥機(ヤマト科学社製、DV61型)にて110℃、24時間乾燥させた。この凝集塊を1400℃、3時間焼成した(モトヤマ社製、スーパーバーン2035型)。最後に擂潰機((株)石川工場社製、かくはん擂潰機たて型20号)で粉砕し88μmのふるいを通過させて平均粒径6.50μmのα型第3リン酸カルシウムを得た。
【0050】・合成例4:第4リン酸カルシウム水酸化カルシウムを4モル、リン酸を2モル用い、合成例1と同様に乾燥させ、凝集塊を得た。この凝集塊を900℃で3時間仮焼成し、取り出して均一に粉砕した後、更に1400℃で3時間焼成した。最後に擂潰機((株)石川工場社製、かくはん擂潰機たて型20号)で粉砕し88μmのふるいを通過させて、平均粒径6.0μmの第4リン酸カルシウムを得た。
【0051】・実施例3合成例3で合成したα型第3リン酸カルシウム95%と市販の第2リン酸カルシウム(和光純薬工業社製、特級)5%とを混合して、リン酸カルシウム粉体を得た。このリン酸カルシウム粉体100重量部に、ピロリン酸ナトリウム(純正化学社製)を0.2重量部加え、擂潰機で混合して粉体組成物とした。得られた粉体組成物の比表面積を湯浅アイオニクス社製モノソーブMS-13型にて測定したところ、0.82m2/gであった。一方、硬化用液体として、コハク酸二ナトリウム6水和物(純正化学社製、特級)を20wt%、コンドロイチン硫酸ナトリウム(生化学工業社製、注射用グレードND品)を5wt%溶解した水溶液を作製した。
【0052】次に、粉体組成物10gに対して、液体を粉液比(P/L)3.0,3.5,4.0,4.5,5.0,5.5の割合になるように混合し、「あわとり練太郎」(商品名:シンキー社製、仕様 公転回転2000rpm、自転回転400rpm)の専用容器に入れ、同機で15秒練和した。得られた生体用セメント練和物についての性状試験、吐出試験、硬化時間の結果を表8に示す。
【0053】・比較例3比較のために、実施例3と同じ粉体と液体を市販の薬用乳鉢に入れ、乳棒にて用手練和した。均一なペーストを得るには1分を要した。表8に性状試験、吐出試験、硬化時間の結果を実施例3と比較して示す。
【0054】
【表8】

性状試験は完全に均一なペーストまたは粘土状になる場合は○、完全に均一とは言えないものの、ほぼ均一と認められる場合は△、均一なものが得られない場合は×とした。吐出試験は内径2mm、長さ40mmの針から吐出できる場合は○、出来ない場合は×とした。
【0055】・実施例4(粉体の準備)合成例1のα型第3リン酸カルシウム75.0wt%、合成例2の第4リン酸カルシウム20.0wt%、市販の第2リン酸カルシウム(和光純薬工業社製)を5.0wt%混合してリン酸カルシウム粉体を得た。このリン酸カルシウム粉体100重量部に、ピロリン酸ナトリウム(純正化学社製)を0.2重量部加え、擂潰機で混合して粉体組成物とした。得られた粉体組成物の比表面積を実施例1と同様にして測定したところ、1.27m2/gであった。
【0056】(滅菌)次に、粉体組成物にγ線を25kGy照射して滅菌し、実施例3の液体も孔径0.22μmの滅菌用フィルタ(日本ポール社製)を通してろ過滅菌した。一方、図1に示す形状の二重容器を用意し、外容器(特別仕様、栃木精工社製、ポリカーボネート製)を121℃、20分の条件で高圧蒸気滅菌するとともに、内容器(特別仕様、栃木精工社製、ポリプロピレン製)を日東理科工業社製のエチレンオキサイドガス滅菌器(CL−30−B型)で滅菌した。
【0057】(練和)その後、粉体組成物10gと、これに対して液体をP/L(重量比)=3.0,3.5,4.0になるような割合で内容器に充填し、更に内容器を外容器にセットした。次に、外容器を「スピンクル」(モリタ東京製作所社製、仕様 公転回転2500rpm、自転回転500rpm)にセットし、同機で10秒練和した。
【0058】(試験)得られた生体用セメント練和物の硬化時間と強度試験の結果を表9に示す。また、該生体用セメント練和物を日本薬局方一般試験法の「無菌試験法」に則り無菌試験を実施したところ、無菌であることが確認された。
【0059】・比較例4比較のために、実施例4と同じ粉体と液体を、粉液比2.0の割合で市販の薬用乳鉢に入れ、乳棒にて1分間用手練和した。表9に硬化時間及び圧縮強度の結果を比較して示す。
【0060】
【表9】

(*)比較例4と実施例4の粉液比3.0の圧縮強度の結果は統計学的に有意差あり(t検定、危険率5%)。
【0061】表8及び表9に示した結果より、本発明の製造方法に従って製造した実施例3,4の生体用セメント練和物は、用手法(乳鉢使用)によって製造した比較例3,4の練和物に比べて、短時間で製造でき、高い粉液比で粉体組成物と液体とを練和することが可能であり、得られた生体用セメント練和物は、比較例3,4と比較して硬化時間が短縮されることが判る。さらに、実施例3では、粉液比3.0〜4.5の範囲で針から吐出可能な生体用セメント練和物が製造できた。また、表9の結果から、本発明の製造方法に従って製造した実施例4の生体用セメント練和物は、用手法による比較例4の練和物に比べ、硬化時に高い圧縮強度が得られることが判る。さらに、実施例4の如く、二重容器を用いて無菌的に練和物を製造することにより、無菌状態の生体用セメント練和物を製造することができた。また、実施例3,4で製造した粉体組成物を、室温で1年間保管し、硬化物の硬化時間と圧縮強度を測定した結果、硬化時間は保管後でも変化はなく、圧縮強度の経時的劣化はわずかであった。
【0062】前記実施例3,4において、粉液比、練和条件(公転回転数、自転回転数)を変えて種々の生体用セメント練和物を製造し、性状試験、吐出試験、硬化時間及び圧縮強度を測定し、用手法(乳鉢)により製造した比較例3,4の練和物と比較した。結果を表10〜表13にまとめて記す。
【0063】
【表10】

性状試験は完全に均一なペーストまたは粘土状になる場合は○、完全に均一とは言えないものの、ほぼ均一と認められる場合は△、均一なものが得られない場合は×とした。吐出試験は内径2mm、長さ40mmの針から吐出できる場合は○、出来ない場合は×とした。
【0064】
【表11】

【0065】
【表12】

性状試験は完全に均一なペーストまたは粘土状になる場合は○、完全に均一とは言えないものの、ほぼ均一と認められる場合は△、均一なものが得られない場合は×とした。吐出試験は内径2mm、長さ40mmの針から吐出できる場合は○、出来ない場合は×とした。
【0066】
【表13】

【0067】
【発明の効果】以上説明した通り、本発明によれば、リン酸カルシウム粉体とピロリン酸塩を含む粉体組成物と硬化用液体とを容器に入れ、容器に公転回転と自転回転を同時に加えて練和することによって、従来の用手的な練和方法では均一な練和が困難であった高い粉液比で粉体と液体を均一に練和することができ、高い粉液比の均一な高粘度セメント練和物を安価、簡便かつ短時間で製造することができる。また、本発明によれば、雑菌や不純物を混入させることなしに生体用セメント練和物を製造できるので、無菌状態の練和物を簡単、確実に提供することができる。また、本発明によれば、同じ粉液比で練和物を製造した場合でも、従来の用手的な練和方法で製造した練和物よりも硬化時の強度が高く、硬化時間の短い練和物を製造することができる。さらに本発明によれば、従来法では製造困難であった生体用補綴物として有用な高粘度の生体用セメント練和物を製造することができ、生体用セメントの利用範囲を広げることができる。
【出願人】 【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
【出願日】 平成13年3月28日(2001.3.28)
【代理人】 【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武 (外6名)
【公開番号】 特開2002−291865(P2002−291865A)
【公開日】 平成14年10月8日(2002.10.8)
【出願番号】 特願2001−94041(P2001−94041)