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【発明の名称】 炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材の溶解剤
【発明者】 【氏名】今井 庸二

【氏名】安蒜 正雄

【氏名】佐藤 公彦

【要約】 【課題】根管治療をやり直す際に、リーマーやファイルを用いて根管に炭酸化して固着した水酸化カルシウム系根管充填材を根管から除去しても除去不可能な炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材を溶解することができ、更に殺菌効果も有する炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材の溶解剤を提供する。

【解決手段】水に、リン酸,グルコン酸,フマル酸,乳酸,グリコール酸,プロピオン酸,りんご酸,マレイン酸,クエン酸,コハク酸,酒石酸,酢酸,グリセロリン酸,マロン酸から成る群から選ばれる少なくとも一種の酸を全体の1〜60重量%、ヨード製剤,界面活性剤,抗菌剤,過酸化水素,リモネンから成る群から選ばれる少なくとも一種の殺菌性付与剤を全体の0.1〜30重量%配合して炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材の溶解剤とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 水に、リン酸,グルコン酸,フマル酸,乳酸,グリコール酸,プロピオン酸,りんご酸,マレイン酸,クエン酸,コハク酸,酒石酸,酢酸,グリセロリン酸,マロン酸から成る群から選ばれる少なくとも一種の酸と、ヨード製剤,界面活性剤,抗菌剤,過酸化水素,リモネンから成る群から選ばれる少なくとも一種の殺菌性付与剤とを含むことを特徴とする炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材の溶解剤。
【請求項2】 リン酸,グルコン酸,フマル酸,乳酸,グリコール酸,プロピオン酸,りんご酸,マレイン酸,クエン酸,コハク酸,酒石酸,酢酸,グリセロリン酸,マロン酸から成る群から選ばれる少なくとも一種の酸が全体の1〜60重量%、ヨード製剤,界面活性剤,抗菌剤,過酸化水素,リモネンから成る群から選ばれる少なくとも一種の殺菌性付与剤が全体の0.1〜30重量%配合されている請求項1に記載の炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材の溶解剤。
【発明の詳細な説明】【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、根管に炭酸化して固着した水酸化カルシウム系根管充填材を根管から除去するために用いる炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材の溶解剤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】歯科治療において、歯牙の歯髄疾患及び根尖性歯周疾患の治療としては、根管内の壊死組織や汚染された根管壁の象牙質の除去を行う処置とリーマーやファイル等の器具を用いて根管充填を行い易い形態に根管を整える処置とが同時に行われ、その後に根管内に材質的に安定な物質、例えばガッタパーチャを充填して根管内の空隙を封鎖し根管と歯周組織,根管と口腔との間の感染経路を遮断する根管治療が行われる。
【0003】ところで、この根管治療を行うには、先ず歯髄を除去し根管を拡大するためにリーマーやファイル等の器具を用いて根管形成を行い、次に形成後の根管内に薬剤を用いて化学的な清掃を施す根管洗浄を行ったりする。しかし、根管は複雑であり、歯牙の存在する部位によって1歯当り、単根管,2根管,3根管,4根管と根管数が異なり、形状も直線状,偏平状,湾曲状等の個々の歯牙によって様々であるため、このような処置を行っても根管内の細菌を完全に取り除くことができないのでそのまま治療を進めても残存した細菌による感染で歯痛や歯肉の腫れが起きてしまうことがあった。このような場合、根管治療を再度やり直すことが必要となってしまう。
【0004】そのため、このような虞れに対する処置として根管消毒が行われている。この術式としては水酸化カルシウムを含んだ水酸化カルシウム系根管充填材を根管内に暫間的に充填し、水酸化カルシウムの強アルカリ性を利用して殺菌する方法が採用されている。そしてこの根管消毒という処置が済んだ後に根管を水洗し、水分を除去してからガッタパーチャ等の最終的な根管充填材を充填するのが通法となっている。
【0005】水酸化カルシウム系根管充填材の特徴は、一過性の強力な殺菌効果というよりもソフトな効果であると共に、生体内等からの二酸化炭素により水酸化カルシウムが炭酸カルシウムになって根管に固着することにより硬組織形成を促進させて根尖孔の生物学的封鎖を期待でき、生体に優しいという他の製剤には見られない特徴を有している。ところが、水酸化カルシウム系根管充填材による根管消毒の処置中に不運にも根尖性歯周炎等の感染症が起きてしまった場合には、根尖部までの炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材を確実に除去して感染部を取り除き、薬剤による処置からやり直すことが必要となるが、前述のように複雑な根管内から、根管内で徐々に炭酸カルシウムに変わり根管に固着した水酸化カルシウム系根管充填材をリーマーやファイル等の機械的な切削方法で取り除くことは非常に困難で時間のかかる治療であり、根管内に取り残した感染部の一部から再び炎症等の感染症が引き起こる虞れがあった。また、リーマーやファイル等で機械的に切削して削り取る際に根管壁を必要以上に削ってしまう虞れもあった。更には、根管消毒中に発生した感染は水酸化カルシウムだけでは殺菌できなかった細菌等が原因である場合が多く、この場合には炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材を除去した後にヨード製剤等による消毒を別途行う必要があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】そこで本発明は、根管治療をやり直す際に、短時間で確実に炭酸化して根管に固着した水酸化カルシウム系根管充填材を根管から取り除くことが可能であり、炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材の溶解除去と同時に根管内を殺菌することも可能な炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材の溶解剤を提供することを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意研究した結果、根管充填した後、生体内等からの二酸化炭素により徐々に炭酸カルシウムに変化し根管壁に固着した水酸化カルシウム系根管充填材を除去するには、水に特定の酸と特定の殺菌性付与剤とを配合した炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材の溶解剤を用いると炭酸カルシウムを容易に短時間で溶解でき、同時に根管内を殺菌することが可能であるこを究明して本発明を完成した。
【0008】
【発明の実施の形態】即ち、本発明に係る炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材の溶解剤は、水に、リン酸,グルコン酸,フマル酸,乳酸,グリコール酸,プロピオン酸,りんご酸,マレイン酸,クエン酸,コハク酸,酒石酸,酢酸,グリセロリン酸,マロン酸から成る群から選ばれる少なくとも一種の酸と、ヨード製剤,界面活性剤,抗菌剤,過酸化水素,リモネンから成る群から選ばれる少なくとも一種の殺菌性付与剤を含むことを特徴とするものであり、リン酸,グルコン酸,フマル酸,乳酸,グリコール酸,プロピオン酸,りんご酸,マレイン酸,クエン酸,コハク酸,酒石酸,酢酸,グリセロリン酸,マロン酸から成る群から選ばれる少なくとも一種の酸が全体の1〜60重量%、ヨード製剤,界面活性剤,抗菌剤,過酸化水素,リモネンから成る群から選ばれる少なくとも一種の殺菌性付与剤が全体の0.1〜30重量%配合されていることが好ましい。
【0009】本発明に係る炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材の溶解剤は、炭酸化して根管に固着した水酸化カルシウム系根管充填材を溶解して除去するために酸を使用するが、この酸は口腔内で使用した際に生体に対し安全であることが必要であるから、使用可能な酸の種類は当然ながら制限される。即ち、炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材の溶解剤という点からは歯質の脱灰作用が強くなく、炭酸カルシウムと反応し溶解する能力が求められる。本発明に係る炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材の溶解剤に用いることができる酸は、リン酸,グルコン酸,フマル酸,乳酸,グリコール酸,プロピオン酸,りんご酸,マレイン酸,クエン酸,コハク酸,酒石酸,酢酸,グリセロリン酸,マロン酸から成る群から選ばれる少なくとも一種の酸であり、固着した水酸化カルシウム系根管充填材の溶解性を有するだけでなく生体に無害な酸に限られることは言うまでもない。この本発明に係る炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材の溶解剤に含まれるリン酸,グルコン酸,フマル酸,乳酸,グリコール酸,プロピオン酸,りんご酸,マレイン酸,クエン酸,コハク酸,酒石酸,酢酸,グリセロリン酸,マロン酸から成る群から選ばれる少なくとも一種の酸の量は水酸化カルシウム系根管充填材用の溶解剤中に1〜60重量%であることが好ましく、1重量%未満であると炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材の溶解効果が得られ難く、また60重量%を超えて配合すると歯質の脱灰作用が強く歯牙を痛める可能性が高くなる傾向がある。
【0010】本発明に係る炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材の溶解剤に使用する殺菌性付与剤は、水酸化カルシウム系根管充填材では殺菌できなかった細菌を炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材の溶解除去と同時に殺菌するために使用する。殺菌性付与剤としてはヨード製剤,界面活性剤,抗菌剤,過酸化水素,リモネンが挙げられる。ヨード製剤,界面活性剤,抗菌剤,過酸化水素,リモネンから成る群から選ばれる少なくとも一種の殺菌性付与剤は、炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材の溶解剤中に0.1〜30重量%配合されていることが好ましく、0.1重量%未満では殺菌の効果を得難く、30重量%を超えて配合すると生体為害作用が強くなってしまう可能性がある。
【0011】ヨード製剤としてはポピドンヨード,ヨウ素含有ヨウ化カリウム等が例示でき、ポピドンヨードはヨウ素とポリビニルピロリドンとの複合体である。これらのヨウド製剤中のヨウ素は酸化作用により細胞機能を阻害して、細菌に対して強い殺菌作用を示し、真菌,ウイルスにも有効である。
【0012】本発明に係る炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材の溶解剤に使用する界面活性剤は、一般的に表面張力を低下させる物質であり、同時に塩化ベンゼトニウム等に代表されるように広範囲に強い殺菌作用がある。そのような界面活性剤としては陽イオン界面活性剤が好ましく、塩化ベンゼトニウム,塩化ベンザルコニウムの他に脂肪族4級アンモニウム塩,ピリジニウム塩,イミダゾリニウム塩等が例示できる。
【0013】抗菌剤は主に微生物が作る抗菌,抗ウィルス,酵素阻害,免疫修飾の作用がある物質であり、その効力はグラム陽性菌・陰性菌、好酸菌、放線菌、カビ、ウィルス等に及ぶ。抗菌剤としてはクロルヘキシジン等の化学物質の他に、一般的に使用されている抗生物質が使用でき、例えばペニシリンGカリウム,ペントレックス,メトシリンS,ペントリシン,ユナシンS等のペニシリン系、セファメジン,セフメタゾン,タケスリン,セフォタクッス,モダシン等のセフェム系,トブラシン,ゲンタシン,アミカマイシン,カナマイシン,ストレプトマイシン,フラジオマイシン等のアミノグリコシド系、ロイコマイシン,ダラシンS等のマクロライド系、ミノマイシン等のテトラサイクリン系、その他クロラムフェニコール系、ペプチド系、グリセオフルビン系、ポリエン系等の抗生物質を例示することができる。
【0014】本発明に係る炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材の溶解剤に使用する過酸化水素は、歯科に於いて殺菌性付与剤として広く使用されているものであるが、本発明に於いては特に酢酸と併用した場合により高い殺菌効果が期待できる。また、本発明に係る炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材の溶解剤に使用するリモネンは、単環式モノテルペンの一種であり、d−リモネン,l−リモネンのどちらも使用可能である。
【0015】本発明に係る炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材の溶解剤の使用方法としては、先ず、根管に充填されて炭酸化し根管に固着している水酸化カルシウム系根管充填材や根管充填用シーラーとして用いられている水酸化カルシウム系根管充填材を、通常の根管形成操作によりリーマーとファイルとを用いて取り除く。その後、本発明に係る炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材の溶解剤を根管内に注入し暫く放置した後、根管内から炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材の溶解剤を水洗して取り除く。この時、放置する代わりにレンツーロ,抜髄針等の刃のない器具を用いて炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材の溶解剤を根管内で攪拌すると、溶解効果の向上が期待できる。
【0016】本発明に係る炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材の溶解剤には、その特性を害さない範囲で、着色剤等を添加しても良いのは勿論である。
【0017】
【実施例】以下に実施例を示すが、本発明はこれ等実施例に限定されるものではない。
実施例1水62重量%に、クエン酸13重量%と市販のd−リモネン(製品名:オレンジクリーナー18,ヤスハラケミカル社製)25重量%を混合して炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材の溶解剤とした。この炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材の溶解剤について、下記の「炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材の溶解性」、「炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材除去後の根管内観察」、「炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材の溶解剤の殺菌性」の試験を実施した。
【0018】「炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材の溶解性」炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材の溶解剤25mlに、直径1mm×長さ15mmに成形した炭酸カルシウム柱を浸漬し、23℃で10分間放置し、10分後の炭酸カルシウム柱の状態を目視にて確認し、下記の基準で評価した。
A:炭酸カルシウ柱が溶解し崩れている。
B:炭酸カルシウム柱の表面が溶解し折れたり細くなっている。
C:炭酸カルシウム柱に殆ど変化が確認されない。
【0019】「炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材除去後の根管内観察」抜歯後10%ホルマリン溶液中に保存された標準的なヒト上顎側切歯を試料とし、切端を切断し髄室開拡後、通常の根管拡大操作で根管形成を行った。市販の水酸化カルシウム粉末60重量%に根管壁との識別のため青色に着色した蒸留水40重量%とスパチュラで混合し均一なスラリー状態とした後、レンツーロで根管に充填した。試料を37℃恒温、湿度100%、CO2濃度5%雰囲気中に7日放置後、リーマーとファイルとを用いて丁寧に根管を拡大しないように注意しながら炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材を除去した。その後、炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材の溶解剤を根管内に注入してファイルを用いて根管内に残っている炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材を溶解して除去する操作を行い水洗した。試料を切断し、目視にて根管内部の観察を行い、炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材除去後の根管内の状態を以下のようにAからCの3段階で評価した。また、ファイルのみを用いた炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材の除去を比較例1とした。
A:根管壁から炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材が除去されている。
B:根管壁に炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材が僅かに残っている。
C:根管内に炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材が残っている。
【0020】「炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材の溶解剤の殺菌性」菌種として大腸菌を用い、24時間培養後の生菌数を測定し、殺菌性付与剤を含まない比較例2と比較して下記の基準で評価した。
A:比較例2の1/10以下である。
B:比較例2の1/5以下である。
C:比較例2と同等数である。
実施例2から実施例16及び比較例2についても実施例1と同様な各試験を行って、成分配合(残部は水)と試験結果とは表1に纏めて示した。
【0021】
【表1】

【0022】表1の実施例及び比較例から明らかなように、本発明に係る炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材の溶解剤は、従来のリーマーやファイルのみを用いた機械的な炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材の切削除去(比較例1)と比較して確実に水酸化カルシウム系根管充填材を除去可能であることが確認でき、更に殺菌性付与剤による良好な殺菌効果も得られることが確認できた。
【0023】
【発明の効果】以上に記述したように本発明に係る炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材の溶解剤は、従来、根管の再治療を行う際にリーマーやファイルを用いて根管から炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材を取り除いても未だ根管内に残留した炭酸化した水酸化カルシウム系根管充填材を簡単な操作により確実に取り除くことができるばかりでなく、水酸化カルシウム系根管充填材では殺菌不可能であった菌の殺菌も可能とするものであり、その歯科医療に貢献する価値の非常に大きなものである。
【出願人】 【識別番号】000181217
【氏名又は名称】株式会社ジーシー
【出願日】 平成13年3月5日(2001.3.5)
【代理人】 【識別番号】100070105
【弁理士】
【氏名又は名称】野間 忠之
【公開番号】 特開2002−255720(P2002−255720A)
【公開日】 平成14年9月11日(2002.9.11)
【出願番号】 特願2001−60281(P2001−60281)