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【発明の名称】 チロシンキナーゼ阻害剤及び医薬組成物
【発明者】 【氏名】中谷 一泰

【氏名】梶本 幸子

【氏名】徐 曼

【氏名】上原 至雅

【氏名】渋谷 正史

【要約】 【課題】副作用が少なく、従来のチロシンキナーゼ阻害物質とは異なる化学構造を有する新規チロシンキナーゼ阻害剤の提供。

【解決手段】ナフトキノン骨格を備えたシコニン又はその誘導体で、下記一般式(I)で表せる化合物を有効成分とするチロシンキナーゼ阻害剤。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 ナフトキノン骨格を備えたシコニン又はその誘導体を有効成分とするチロシンキナーゼ阻害剤。
【請求項2】 前記シコニン又はその誘導体は、下記一般式(I)で表せる化合物であることを特徴とする請求項1記載のチロシンキナーゼ阻害剤。
【化1】

式中、Rは、次のa〜dのいずれかを示す。
【化2】

【請求項3】 請求項1又は2のいずれかに記載の化合物および薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物。
【請求項4】 請求項3記載の医薬組成物において、その用途が癌治療用であることを特徴とする医薬組成物。
【請求項5】 前記癌が乳癌、脳腫瘍、大腸癌、肺癌、卵巣癌又は胃癌であることを特徴とする請求項4記載の医薬組成物。
【請求項6】 請求項3記載の医薬組成物において、その用途が血管新生阻害用であることを特徴とする医薬組成物。
【請求項7】 請求項1〜6のいずれかに記載の医薬組成物において、前記化合物が植物から抽出されたものであることを特徴とする医薬組成物。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、チロシン特異的プロテインキナーゼ(以下チロシンキナーゼという)阻害活性を有するシコニン誘導体を有効成分とするチロシンキナーゼ阻害剤に関する。
【0002】
【従来の技術】癌の化学療法においては、多くの物質が医薬として実用化されているが、多くの場合、薬効が不十分なだけだなく、その阻害活性が癌に限定されずに正常細胞にも障害を与え、このために強い毒性を有することがあり、結果として副作用が問題となっている。
【0003】本発明者等は、ナフトキノン骨格を備えたβ−ヒドロキシイソバレリルシコニンが種々の癌細胞の増殖を阻害すること及びアポトーシス誘導能を有することを既に見いだしている(たとえば、J.Biochem.第125巻,P17-23、1999年)。ここで、アポトーシスが誘導された細胞は、その内容物が流出することなくアポトーシス小体が形成され、このアポトーシス小体はマクロファージ等により貪食されて消滅する。したがって、癌細胞に特異的にアポトーシスを誘導させる薬物は、炎症反応による副作用を伴わずに癌細胞を消滅させることができる。しかし、シコニン誘導体がアポトーシス誘導能があることを発表した段階では、シコニン誘導体が何をターゲットにしているかは不明であった。
【0004】一方、プロテインキナーゼは細胞の増殖や分化などのシグナル伝達を担う重要な酵素群であるが、中でもチロシンキナーゼは、多くの癌遺伝子がコードし、種々の癌細胞でチロシンキナーゼ活性が昆進していることから癌化学療法の分子標的の一つになっている。
【0005】また、最近、癌細胞に栄養を供給している血管を構成している血管内皮細胞の増殖に血管内皮細胞増殖因子(Vasclar endothelial growth factor:VEGF)とそのリセプター(Flt−1)が関与していることが明らかにされたが、そのFlt−1もチロシンキナーゼである。
【0006】したがって、Flt−1のチロシンキナーゼ活性を阻害すれば、癌細胞に栄養を供給する血管が新生されないので、癌細胞の増殖を阻害することができる。
【0007】このように、チロシンキナーゼ阻害剤は、癌細胞自身の増殖の抑制やアポトーシスの誘導に加えて癌細胞に栄養を補給する血管の新生阻害という二重の作用により、抗癌作用を示せることが明らかとなり、抗癌剤の候補として世界的に探索が続けられている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】チロシンキナーゼ活性を特異的に阻害する薬剤が新しい作用機序を持った制癌剤となることがすでに提案され、その代表的な化合物としては、例えば、微生物由来のアーブスタチン(Erbstatin)、ラベンダスチン A(Lavendustin A)、ハービマイシンA(Herbimycin A)、ゲニスタイン(Genistein)が例示される。
【0009】また、これらの化合物のチロシンキナーゼ阻害物質の阻害作用のメカニズムも明らかとなりつつある。たとえば、図1に示すハービマイシンAは不可逆的結合型を示す物質として、図2に示すゲニスタインやラベンダスチンAはATP拮抗型を示す物質として知られている。また、図3に示すアーブスタチン、メチル2,5−ジヒドロキシシンナメート、チルホスチン、ST638等は基質拮抗型を示す物質として知られ、これらの詳細は、たとえば、癌と化学療法1997年1月号第136頁〜第144頁に記載されている。また、最近、血管新生に関与するチロシンキナーゼであるFlk−1やFGFリセプター1を阻害するSU6668(図4)が報告されている。
【0010】これらの化合物は、類縁体を合成するなどして、そのチロシンキナーゼ阻害活性の増大が試みられている。たとえば、天然物由来のアーブスタチンは、アーブスタチン類縁化合物として、化学修飾されたり、新たに化学合成されたりしている(特開昭62−277347号公報等参照)。
【0011】しかしながら、シコニン及びその誘導体は、癌細胞の増殖を阻害すること及びアポトーシス誘導能を有することは確認されているが、その基本骨格がナフトキノンであることから、公知のチロシンキナーゼ阻害物質の芳香族骨格とは異なるので、チロシンキナーゼの阻害活性があるとは予想されずに、また、現実に調べられることはなかった。
【0012】ここで、このシコニン又はその誘導体はムラサキ科ムラサキの根に含まれており、また、ムラサキの根は生薬シコンとして古来より漢方で消炎、解熱、解毒剤として内用されているので、このシコニン又はその誘導体にアポトーシス誘導能に加えてチロシンキナーゼ阻害活性があれば、新規な骨格を備えたチロシンキナーゼ阻害剤への応用及びその骨格を備えた種々の化合物の合成により副作用の少ない制癌剤への画期的な用途が期待される。
【0013】そこで、この発明の目的は、副作用が少なく、従来のチロシンキナーゼ阻害物質とは異なる化学構造を有する新規チロシンキナーゼ阻害剤を提供することである。
【0014】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を進めた結果、従来のチロシンキナーゼ阻害作用を備えた化合物群とは全く異なった骨格であるナフトキノン骨格を備えたシコニン又はその誘導体が、特異的に増殖因子受容体,癌遺伝子産物及び血管増殖因子リセプターの強力なチロシンキナーゼ阻害活性を有することを見い出し本発明に到達した。即ち、本発明はナフトキノン骨格を備えたシコニン又はその誘導体を有効成分とするチロシンキナーゼ阻害剤である。
【0015】このチロシンキナーゼ阻害剤は、薬学的に許容される担体が含まれて医薬組成物として利用される。この医薬組成物の例としては、広く癌治療用に用いられるが、シコニンの側鎖を変換すると固形癌細胞に対する特異性が変わり、β−ヒドロキシイソバレリルシコニンは肺癌細胞に高い特異性を示し、シコニンは乳癌細胞、卵巣癌細胞、脳腫瘍、大腸癌等に広く用いることができる。
【0016】また、この医薬組成物は、血管新生阻害用を目的とした医薬組成物に対しても有効に利用される。
【0017】また、これらの化合物は、従来から生薬として知られているシコンに含まれる成分であり、植物から抽出された利用することができる。
【0018】
【発明の実施の形態】このシコニン又はその誘導体は、下記一般式(I)で表せる化合物が好ましい化合物として例示される。
【0019】
【化3】

【0020】この一般式(I)において、Rは、水素又は置換基を示す。
【0021】このような一般式(I)で示されるシコニン誘導体として入手可能な代表例としては、β,β-ジメチルアクリルシコニン、イソバレリルシコニン、α-メチル-n-ブチルシコニン、イソブチルシコニン、アセチルシコニン、β−ヒドロキシイソバレリルシコニンが示される。これらのシコニン又はその誘導体は、公知のチロシンキナーゼ阻害活性を備えた化合物が化学修飾されて、そのチロシンキナーゼ阻害活性を増大させているように、同様な手法によりチロシンキナーゼ阻害活性を損なわない範囲で化学的に修飾されていてもよい。
【0022】これらのシコニン又はその誘導体は、チロシンキナーゼ阻害剤として有用であり、その作用に基づき制癌剤及び血管新生阻害剤の用途が期待できる。本発明によるチロシンキナーゼ阻害剤の製剤としては、経口、経腸または非経口的投与による製剤のいずれをも選ぶことができる。具体的製剤としては、錠剤、カプセル剤、細粒剤、シロップ剤、坐薬、軟膏剤、注射剤等を挙げることができる。
【0023】ここで、製剤として利用する場合には、経口、経腸、その他非経口的に投与するために適した薬学的担体材料とともに用いられる。それらの薬学的担体材料としては有機であっても無機であってもよく、また、固体であっても液体であってもよい。このような不活性な薬学的担体材料としては、具体的には、例えば結晶性セルロース、ゼラチン、乳糖、澱粉、ステアリン酸マグネシウム、タルク、植物性および動物性脂肪および油、ガム、ポリアルキレングリコール等が例示される。製剤中の担体に対する本発明のチロシンキナーゼ阻害剤の割合は広く変化させることができ、例えば0.1重量%〜10重量%の割合で変化させることができる。
【0024】また、本発明によるチロシンキナーゼ阻害剤は、他のチロシンキナーゼ阻害剤、その他医薬を含んでいてもよい。この場合、本発明によるチロシンキナーゼ阻害剤がその製剤中の主成分でなくてもよい。
【0025】
【実施例】以下に実施例を挙げ、シコニン及びその誘導体の抽出・単離、チロシンキナーゼ阻害活性、発癌抑制試験の各工程を詳述するが、本発明を限定するものではない。
(シコニン又はその誘導体の抽出・単離)シコニン又はその誘導体は、常法によりムラサキ科ムラサキの根皮から概ね次の手法により抽出・単離した。
【0026】成熟ムラサキが小片に切断され、エーテルにより抽出された。その後、溶媒はエバポレータにより蒸発除去された。2%の苛性ソーダにより誘導体が加水分解された後にシコニンはシリカゲル薄層クロマトにより精製された。
【0027】シコニン誘導体の単離にはエーテル抽出物をシリカゲル(キーゼルゲル60;ドイツのメルク社製)のプレート上で、n−ヘキサン、アセトン及びギ酸の混合液(70:30:1,v/v)を展開溶媒として用いて薄層クロマトグラフィーが行われた。
【0028】その結果、4つのスポット(a〜d)が検出され、各スポットはスパーテルでかき集められた。その後、回収物はエーテルにより抽出され、シリカゲルは遠心分離により除かれ、上澄みが捕集された。その上澄みから完全にエーテルが蒸発された後、各々のサンプルはエタノールに溶解された。各々のスポットa〜dに対応するシコニン又はその誘導体の同定は、Kyougoku等(Syoyakugaku Zasshi、第27巻、第24−30頁、1973年)によるNMRスペクトルの値と比較することにより、スポットaはβ,β-ジメチルアクリルシコニン、イソバレリルシコニン、α-メチル-n-ブチルシコニン、イソブチルシコニンの混合物であり、スポットbはアセチルシコニンであり、スポットcはシコニンであり、スポットdはβ−ヒドロキシイソバレリルシコニンであることが確認された。
【0029】また、β−ヒドロキシイソバレリルシコニン及びシコニンを大量精製するには、ムラサキのエーテル抽出物をシリカゲルカラム(キーゼルゲル60;メルク社製)にかけ、n−ヘキサン、アセトン及び蟻酸の混合液(70:30:20,v/v)で溶出した。
(チロシンキナーゼ阻害活性)対照にチロシンキナーゼの阻害剤として知られているハービマイシンA及びアーブスタチンを用いて、上記の方法により単離されたシコニン及びβ−ヒドロキシイソバレリルシコニンの種々のチロシンキナーゼへの阻害作用(チロシンキナーゼ阻害活性)を測定し、比較した。
(1)v-src癌遺伝子発現NIH3T3細胞抽出液による分析チロシンキナーゼ活性をもつv-src癌遺伝子を発現させたマウスのNIH3T3細胞をpHバッファ−(1mM HEPES(N-2-hydroxyethylpiperazine-N-2-ethanesulfonic acid)、pH7.4,5mM MgCl2)に懸濁してホモジナイザーにより破砕し、それを500gで5分間遠心して核を除き、その遠心上精に各種キナーゼのアクチベータや阻害剤を加え、32Pでラベルしたアデノシン 5’−トリフォスフェート([γ−32P]ATP)を加えて25℃で20分間リン酸化反応を行わせた。リン酸化反応後、SDS(sodium dodecyl sulfate)ゲル電気泳動を行い、オートラジオグラフィーによりリン酸化されたタンパク質のバンドを検出した。
【0030】その結果、図5Aに示すように、β−ヒドロキシイソバレリルシコニン及びシコニンは、それぞれ10μgおよび1μgまではプロテインキナーゼC及びプロテインキナーゼAの活性を変化させなかったが、チロシンキナーゼ活性を阻害した。
【0031】さらにリン酸化されたチロシン残基はアルカリ性でも安定であるが、リン酸化セリンやリン酸化スレオニンは不安定で分解消失することを利用して、ゲルをアルカリ処理したところ、図5Bに示すように、チロシンがリン酸化されたバンドがβ−ヒドロキシイソバレリルシコニン及びシコニンの濃度の増加とともに顕著に減少した。この結果、β−ヒドロキシイソバレリルシコニン及びシコニンがチロシンキナーゼを阻害することが確認された。
(2)EGF(epidermal growth factor)リセプターのチロシンキナーゼ活性に与える影響ヒト類表皮癌A431細胞を1% Triton X-100で可溶化し、核を除いた後、超遠心でEGFリセプターに富む膜画分を集め酵素液とした。これに試料とEGFを加え、25℃で30分間保温後、[γ−32P]ATPを加えて0℃で10分間リン酸化反応を行った。10%トリクロロ酢酸溶液を加えて生じる沈殿物をフィルター上に回収して放射活性を測定した。
【0032】放射活性は、ヒト類表皮癌A431細胞に種々の濃度のシコニン又はβ−ヒドロキシイソバレリルシコニン(β−HIVS)を加えて、EGFリセプターのチロシンキナーゼ活性化を測定し%で表した。その結果、図6に示すように、β−ヒドロキシイソバレリルシコニン及びシコニンは0.1μg/ml以上の濃度でEGFリセプターのチロシンキナーゼ活性を顕著に阻害した。阻害の強さは、チロシンキナーゼ阻害剤として知られているアーブスタチン(erbstatin)と同程度であった。
(3)血管新生に関与する血管内皮細胞増殖因子リセプターに与える影響血管内皮細胞増殖因子リセプター(Flt-1)遺伝子を組み込んだバキュロウイルスを昆虫細胞Tn5に感染させ、上記(2)に記載した方法で膜画分を調整した。これに試料として[γ−32P]ATPを加えて、25℃で10分間リン酸化反応を行った。リン酸化反応後、SDSゲル電気泳動を行い、オートラジオグラフィーによりリン酸化されたFlt-1のバンドを検出した。
【0033】その結果、図7Aに示すように、Flt-1のチロシンリン酸化は1μg/ml以上の濃度のβ−ヒドロキシイソバレリルシコニン及びシコニンにより阻害された。特にβ−ヒドロキシイソバレリルシコニンの阻害活性が強く、その阻害の程度はシコニンより強力であった。
【0034】図7Bは、Aのゲルをアルカリ処理し、アルカリに安定なリン酸化チロシンのみを残存させてチロシンキナーゼに与える影響を測定した結果を示す。
【0035】やはり、β−ヒドロキシイソバレリルシコニン及びシコニンがFlt-1のチロシキナーゼ活性を強く阻害していることが確認された。
【0036】以上の結果を表1にまとめて示した。なお、表1中ハービマイシン及びアーブスタチンの結果は癌と化学療法1997年1月号第136頁〜144頁及びBiochem.J.1994年第57頁〜62頁より引用した。
【0037】
【表1】

【0038】これらの結果から、β−ヒドロキシイソバレリルシコニン(β−HIVS)及びシコニンは癌細胞の増殖に関与するsrc遺伝子産物やEGFリセプターのチロシンキナーゼ活性を阻害するだけでなく、癌細胞に栄養を補給する血管内皮細胞の増殖因子リセプター(Flt-1)のチロシンキナーゼ活性も阻害することが明らかとなった。
(ヒト培養固形癌細胞に対する殺細胞効果)37種類のヒト癌細胞を96ウェルプレートにまき、翌日、種々の濃度のβ−ヒドロキシイソバレリルシコニンを添加し、2日間培養後、細胞増殖をスルホローダミンBによる比色定量で測定した。結果を0時間の細胞数の50%に減少させるモル濃度(LC50)で表した。この値は殺細胞効果を表す。さらに検定したすべての癌細胞についてのLog LC50の平均値(MG MID)を求め、この平均値と各々の細胞でのLog LC50との差を求め、それらを平均Log LC50値を中心(目盛り0)として左右に棒グラフで示した。これがヒト培養固形癌細胞パネルで、感受性が高い癌細胞株ほど右側に長い棒(bar)がのびる。
【0039】その結果、図8に示すように、β−ヒドロキシイソバレリルシコニンは肺癌細胞(図中、lung)の2種類の株(NHl-H226,DMS273)に対して特異的に強い殺細胞作用を示すことがわかった。この結果は、β−ヒドロキシイソバレリルシコニンが肺癌の治療薬となる可能性を示している。
【0040】これに対し、シコニンは図9に示すように、β−ヒドロキシイソバレリルシコニンほど特異性が高くなく、乳癌細胞(図中、Breast)、脳腫瘍細胞(図中、Brain)、大腸癌細胞(図中、Colon)、肺癌細胞(図中、Lung)、卵巣癌細胞(図中、Ovarian)、胃癌細胞(図中、Stomach)に対して特異的に殺細胞作用を示すことがわかった。これにより、シコニンは種々の固形癌細胞株に対し、殺細胞作用を示すが、なかでも乳癌細胞や卵巣癌細胞には比較的特異性が高い。
【0041】以上の結果は、シコニン誘導体の側鎖を変えることにより特定の固形癌細胞に殺細胞効果の高い抗癌剤を開発できる可能性を示している。
【0042】以上のように、古くから生薬として用いられてきたシコン中の成分であるシコニン及びその誘導体β−ヒドロキシイソバレリルシコニンが、癌細胞の増殖を促進するチロシンキナーゼ及び血管新生に関与する血管内皮細胞増殖因子リセプターのチロシンキナーゼ活性の両者を強力に阻害することが明らかにされた。
【0043】従って、シコニン及びその誘導体β−ヒドロキシイソバレリルシコニンは、癌細胞自身の増殖の阻害及び癌細胞に対する栄養補給の阻害という二重の作用で働く抗癌剤として有用であることが期待される。
【0044】実際に、シコニン及びその誘導体β−ヒドロキシイソバレリルシコニンは、ヒトの広範な種類の固形癌細胞に対し低濃度で殺細胞作用を示し、特にβ−ヒドロキシイソバレリルシコニンは肺癌細胞に対し非常に高い特異性を、シコニンは乳癌細胞や卵巣癌細胞に比較的高い特異性を示すことから、シコニン誘導体の側鎖構造を変えることにより、組織特異的な抗癌剤の開発の可能性が示された。
【0045】また、シコニン及びβ−ヒドロキシイソバレリルシコニンの殺癌細胞作用は、以前に報告(J. Biochem., 125巻, 17-23頁, 1999年)したように、白血病細胞や大腸癌細胞ではアポトーシス誘導作用によるものであることが証明されている。アポトーシスを起こした癌細胞は、炎症反応を伴わずに消滅するので、アポトーシス誘導能が強い抗癌剤は副作用が少ないことが予期される。
【0046】したがって、シコンが生薬として服用されたことを合わせ考えると、シコニン及びその誘導体β−ヒドロキシイソバレリルシコニンは、副作用の少ない画期的な抗癌剤としての有用性が期待される。
【0047】なお、以上の説明では、シコニン及びその誘導体は植物から抽出されて用いられていたが、発酵法、化学合成など他の手段により入手されてもよい。
【0048】
【発明の効果】以上説明したように、この発明に従えば、副作用が少なく、従来のチロシンキナーゼ阻害物質とは異なる化学構造を有する新規チロシンキナーゼ阻害剤が提供される。
【出願人】 【識別番号】592019213
【氏名又は名称】学校法人昭和大学
【出願日】 平成13年1月23日(2001.1.23)
【代理人】 【識別番号】100082670
【弁理士】
【氏名又は名称】西脇 民雄
【公開番号】 特開2002−212065(P2002−212065A)
【公開日】 平成14年7月31日(2002.7.31)
【出願番号】 特願2001−14667(P2001−14667)