トップ :: A 生活必需品 :: A61 医学または獣医学;衛生学




【発明の名称】 動物の眼病治療方法及びそれに用いる人工涙管
【発明者】 【氏名】中山 正成

【要約】 【課題】点眼・洗眼を嫌って暴れる犬や猫などの動物のために、眼瞼をこじ開けなくても眼瞼内の結膜や眼球表面に薬液を流せるようにする。

【解決手段】眼瞼裏側の結膜に設けた人工涙管を頭部と頚部の皮下に留置し、頚部後方に開口する末端に注射器や小型ポンプを接続して薬液を眼瞼内に流し込めるようにする。また、人工涙管の先端部にリングやフックなどの先端固定手段を設けて、人工涙管の先端を結膜に固定する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】眼瞼から頚部後方に至る頭部・頚部の皮下に留置した人工涙管の末端に薬液を注入して、眼瞼裏側の結膜に開口する人工涙管の先端から薬液を放出するようにした、動物の眼病治療方法。
【請求項2】柔軟な細長管の先端部に、先端を結膜に縫合するためのリング、あるいは結膜に引っ掛けるためのフックなど適宜形状の先端固定手段を設けたことを特徴とする、請求項1記載の方法に用いる人工涙管。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、動物の眼病治療方法及びそれに用いる人工涙管に関する。点眼・洗眼を嫌って暴れる犬や猫が多いので、眼瞼裏側の結膜に設けた人工涙管から眼病治療薬や洗眼液、人工涙液などの薬液を放出して動物の眼病を治療できるようにしたものである。
【0002】
【従来の技術】犬や猫などの動物では、乾性角結膜炎、角膜炎、結膜炎、ブドウ膜炎、角膜裂傷、角膜潰瘍、緑内障、白内障など長期間にわたって点眼や洗眼で治療する眼病が多い。特に乾性角結膜炎は、人工涙液を2〜3時間おきに点眼してやらないと失明するので、飼い主は動物が死ぬまで点眼を続けなければならない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところが人間と違って、おとなしく点眼・洗眼をさせてくれる犬猫は少ない。動物は眼に水滴が飛び込むことを本能的に避けようとするものであるから、無理やり眼瞼をこじ開けて行う点眼・洗眼を嫌うのは当然である。中には飼い主が制御できないほど大暴れして抵抗する犬猫もいる。そのため、従来から獣医師も飼い主も犬猫の点眼・洗眼に難渋していた。そこで、本発明が解決しようとする課題は、動物の眼瞼を開けずに点眼・洗眼と同じ効果を得ることができるようにした、新規の眼病治療方法及びそれに用いる人工涙管を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明の眼病治療方法は、眼瞼から頚部後方に至る頭部と頚部の皮下に細長い人工涙管を留置し、眼瞼裏側の結膜に人工涙管の先端を固定する。そして、頚部後方の皮膚に開口する人工涙管の末端に注射器や輸液器などのポンプを取り付けて、眼病治療薬や洗眼液、人工涙液などの薬液を注入する。人工涙管に注入された薬液は、眼瞼の内側、すなわち結膜や眼球表面に放出されるので、従来の点眼や洗眼と同じ働きをする。このように眼瞼裏側の結膜に人工涙管を設けることにより、動物の眼瞼を開けないで眼病の治療ができるようになる。このため、点眼・洗眼を嫌がって暴れる動物を押え付け、無理やり眼瞼をこじ開ける必要がなくなる。従って、獣医師や飼い主の負担を著しく軽減することができる。しかも、いつでも必要なときに簡単に薬液を眼瞼内側に流すことができる。このため、眼病の治療効果が格段に向上し、完治するまでの所要期間を著しく短縮することができる。従って、従来の点眼・洗眼に代わる新規の眼病治療方法を提供するという目的を、人工涙管の皮下留置という極めて簡単な手段で実現した。
【0005】本発明の眼病治療方法に用いる人工涙管は、柔軟な細長管の先端部に先端固定手段として、結膜に縫合するためのリング、あるいは結膜に引っ掛けるためのフックなどを設けている。このようにすることにより、人工涙管の先端を眼瞼裏側の結膜に確実に固定することができる。また、人工涙管の先端を鰐口鉗子に挟んで皮下を挿通させるとき、リングやフックが突起の役目を果たすので確実に鉗子で挟むことができる。
【0006】
【発明の実施の形態】本発明の眼病治療方法に用いる人工涙管を頭部と頚部の皮下に挿通するとき、皮膚の要所を切開して小孔を設け、この小孔から鰐口鉗子を皮下に挿入する。そして、皮下を推進して別の小孔から鰐口鉗子を突出させ、鉗子先端の鰐口で人工涙管の先端部を挟んで手元に引き寄せる。これを数回繰り返して、小孔から次の小孔へと人工涙管を誘導しながら眼瞼の裏側に引き出す。
【0007】上記小孔の位置は、頚部後方の第5頚椎付近、頭頂部付近、眉毛上部付近、および上眼瞼を反転して露出させた結膜の4ヶ所を好適とする。あるいは、頬部に小孔を設けて頭頂部に引き寄せた人工涙管を頬部の皮下に下降させ、そこから下眼瞼裏側の結膜に誘導するようにしてもよい。
【0008】左右両眼に人工涙管を設けるときは、2本の人工涙管を頚部後方から頭頂部付近の小孔に引き寄せた後、一方の人工涙管を左眼へ、他方の人工涙管を右眼に誘導する。あるいは、聴診器のゴム管のように二又に分岐する人工涙管を使用し、頭頂部付近から左右別々に顔面両側の皮下へ挿通してもよい。
【0009】人間の皮膚と違って動物の皮膚は厚くて丈夫であり、人工涙管を挿通する皮下には重要な神経や血管が分布していない。このため、皮下に挿入した鰐口鉗子を小孔から小孔まで強引に推進しても、動物に及ぼす障害は全く認められない。また、動物の眼瞼は人間よりも遥かに奥行きが深いので、最奥部付近の結膜に人工涙管の先端を固定すれば角膜に接触する恐れがない。このため、人間なら角膜に触れてゴロゴロするであろう人工涙管の固定部は、動物に対して全く障害を及ぼすことがない。
【0010】また、手術終了後、直ちに抗生物質やアトロピン、人工涙液などを混合した薬液を人工涙管の末端に注入することにより、麻酔が覚めずに閉じられている眼瞼内に薬液を放出することができる。このため、切開した結膜の縫合部位を充分に消毒し洗浄することができるので、結膜に固定した人工涙管の先端部付近の組織が化膿することを確実に防止できる。
【0011】本発明の眼病治療方法に用いる人工涙管は、シリコン製や塩化ビニール製の柔軟な細管を好適とするが、材質を特に限定するものではない。人工涙管の長さは約30〜40cm、外径は約1〜2mmの単管を好適とする。あるいは、単管の代わりに膀胱洗浄などに使用する2路式カテーテルを利用してもい。すなわち、一方の通路で眼病治療薬を放出し、別の通路から生理食塩水を流して洗眼することができる。さらに、一方の通路を目頭付近に固定し、別の通路を目尻付近に固定することにより、目頭の人工涙管から角膜や結膜に流した薬液を、目尻に設けた人工涙管につないだ吸引ポンプで吸い出すことができる。こうすると眼の周囲の体毛が薬液で汚れるのを防ぐことができる。
【0012】上記人工涙管に設ける先端固定手段は、縫合糸で結膜に縫い付けるためのリング状突起や結膜に引っ掛けて固定させるためのフック状突起を好適とする。これらの先端固定手段は、人工涙管の先端を結膜から突出させないようにするのが目的であるから、人工涙管の先端部に略直角に設けられている。リングの数は1個ないし2個でよい。リングの大きさは人工涙管の外径と同じか、それ以下であることが望ましい。また、これらの先端固定手段を人工涙管と一体成形してもよいし、別に製造した固定手段を人工涙管の先端部に接着するようにしてもよい。
【0013】皮下に留置した人工涙管の末端から雑菌が侵入するのを防止するため、末端部に末端密封手段を設けることが望ましい。最も簡単な末端密封手段として、頚部後方の皮膚外に露出させた人工涙管の末端に、常時、注射器を装着したままにしておく。あるいは、皮膚外に露出する人工涙管の末端にゴムキャップを被せておき、注射器の針をゴムキャップに刺して薬液を注入するようにしてもよい。あるいは、人工皮膚で開口部を被覆した管端密封具(米国BARD社製、リザーバーまたはポートと呼ばれる)を末端に装着して皮膚に埋設し、この人工皮膚に注射器の針を刺して人工涙管内に薬液を注入するようにしてもよい。
【0014】人工涙管の末端に設ける薬液注入手段として、一番便利なのが注射器である。また、動物病院に入院中であれば、動物を収容したケージに輸液用のタイマー付き電動ポンプを吊るして人工涙管の末端に接続し、夜間も含めて終日、数時間ごとに一定量の薬液を眼瞼の内側に放出することができる。さらに、家庭で飼い主が管理するときは、小型ポンプを首輪に取り付けたり、動物用リュックサックに入れて背負わせたり、網包帯(製品名:プレスネット)で背中に載置したり、あるいは小型ポンプを背中の皮膚に縫い付けたりしておくと便利である。小型ポンプの機種を特に限定するものではないが、例えば、米国MED・E・CELL社製のInfu・Disk(製品名)などが好適である。
【0015】上記のように構成された動物の眼病治療方法を本発明の発明者が経営する動物病院において実験したところ、期待していた以上の優れた効果を発揮することが確認された。すなわち、猫の爪で引っ掻かれて左眼の角膜に大きな裂傷を負った雄犬(ビーグル種、3歳)の眼瞼に人工涙管を取り付け、その末端に輸液用のタイマー付き電動ポンプを接続して抗生物質と人工涙液の混合液を0.5mlずつ、連日連夜3〜4時間ごとに送り込んだ。すると驚くべきことに、従来の点眼法による治療であれば完治するまでに3〜4週間はかかると予想された角膜の裂傷が、何と僅か10日後に癒着し、14日後には完治してしまった。他にも白内障や重度の結膜炎に罹患した犬5頭、猫3頭について実験したのであるが、いずれも経過は極めて良好であり、臨床上、不都合な弊害は全く認められなかった。
【0016】しかも、退院後の犬や猫を家庭で看護する飼い主たちから高く評価され、絶賛と言っても過言でない。すなわち、激しく首を振って嫌がる犬や猫に無理やり点眼・洗眼を強制する苦労から解放されたばかりでなく、楽々と簡単かつ確実に眼病治療ができるようになったと感謝されている。特に、死ぬまで人工涙液を点眼し続けなければならない乾性角結膜炎に罹患した犬の飼い主は、タイマー付きの小型ポンプを犬に背負わせることにより、点眼のため夜中に起きる必要がなくなったので大助かりだと喜んでいる。
【0017】強いて欠点らしいことを挙げれば、人工涙管の留置手術をする際に頭部と頚部を完全に剃毛するため、術後の犬や猫の外観が損なわれることである。しかし、約2ヶ月間で元通りに毛が生え揃うので、あらかじめ飼い主の了解を得ておけば全く問題にはならない。
【0018】
【実施例】実施例について図面を参照して説明すると、図1は本発明の眼病治療方法の一実施例を示す説明図である。この実施例では、右眼の目尻付近における上眼瞼裏側の結膜に人工涙管1を誘導し、先端固定手段2のリングに縫合糸4を通して結膜に結紮縫合している。縫合するときは鉗子5で眼瞼の縁を挟んで牽引し、眼瞼を裏返しにして結膜を露出させる。人工涙管の固定部位は目尻付近だけに限定するものではなく、眼瞼の中央部や目頭付近であってもよい。
【0019】図2は、本発明の人工涙管を皮下に挿通する手順を示す説明図である。まず、全身麻酔した動物の頭部と頚部の体毛を剃って皮膚を露出させる。次に、第5頚椎付近Aの皮膚、頭頂部付近Bの皮膚、眉毛上部付近Cの皮膚、および上眼瞼の目尻付近Dの結膜をそれぞれ5〜8mmほど切開し、4ヶ所に小孔を形成する。
【0020】次に、頭頂部付近の皮膚に形成したB孔に鰐口鉗子6を挿入し、頚部後方の皮膚に形成したA孔に向けて頚部の皮下を強引に推進させる。そして、A孔から鰐口鉗子6の先端を突出させ、鰐口7を開いて先端固定手段2が備わる人工涙管1の先端部を挟み、そのまま後退してB孔から人工涙管1の先端部を引き出す。
【0021】次に、眉毛上部付近のC孔に挿入した鰐口鉗子6をB孔に向けて頭部の皮下を推進させ、B孔に引き出しておいた人工涙管1を挟んでC孔に引き寄せる。次に、上眼瞼を反転して露出させた結膜のD孔から鰐口鉗子6を挿入し、C孔に引き寄せておいた人工涙管1の先端をD孔まで引き出して来る。
【0022】図3は、本発明に用いる人工涙管の先端を固定する好適部位の一例を示す説明図である。上眼瞼の裏側に誘導した人工涙管1は、眼瞼内の最奥部付近の結膜に先端固定手段2を用いて固定する。このとき、図示していないが、鰐口鉗子を挿入するために設けた結膜の切開部も縫合糸で結紮して閉鎖する。人工涙管1の先端を固定しないまま放置しておくと、先端が動揺して結膜を刺激し、炎症を惹起するから必ず固定する必要がある。最後に、皮膚に設けた3ヶ所の小孔A、B、Cを縫合して人工涙管の留置手術を終了する。以上の手術は簡単であり、皮膚切開から切開部縫合までの所要時間は、片目だけなら約30〜50分間ほどで済む。両眼でも1時間半以内に完了する。縫合した切開部は約10日後に癒着する。
【0023】図4は、本発明の眼病治療方法における小型ポンプの使用例を示す説明図である。頭部と頚部の皮下に留置した人工涙管1の末端を頚部後方の皮膚外に突出させ、露出した末端部に末端密封手段3としてゴムキャップを被せている。このゴムキャップに薬液注入手段8として小型ポンプを接続し、網包帯9を用いて猫の頚部後方の背中に載置している。
【0024】図5は、本発明に用いる人工涙管に設けた先端固定手段の実施例を示す斜視図である。人工涙管1の先端部に、先端固定手段2aとして1対2個のリング状小突起を人工涙管と同じ材料で一体成形している。2個のリングを用いて2ヶ所で縫合することにより、結膜への固定を著しく強化することができる。
【0025】図6は、本発明に用いる人工涙管に設けた先端固定手段の別の実施例を示す斜視図である。先端固定手段2bとして、フック状突起が備わる円筒を別に成形し、これを人工涙管1の先端部に嵌合している。この先端固定手段2bを用いることにより、人工涙管1の先端を結膜に縫合する手間が省けて便利である。
【0026】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の眼病治療方法は、眼瞼裏側の結膜に開口する人工涙管を頭部と頚部の皮下に留置し、頚部後方の皮膚内あるいは皮膚外に開口する末端に注射器や小型ポンプなどの薬液注入手段を取り付けることにより、眼病治療薬や洗眼液、人工涙液などの薬液を眼瞼内の結膜や眼球表面に向けて簡単かつ確実に押し出すことができるようになる。このため、点眼や洗眼を嫌がる動物の眼瞼をこじ開けて無理やり治療を強行する必要がなくなるので、獣医師と飼い主の負担が著しく軽減される。
【0027】しかも、従来の点眼や洗眼を夜中に実行することは極めて困難であったが、本発明の眼病治療方法では、人工涙管の末端にタイマー付き小型ポンプを接続することにより、夜間も含めて終日、数時間ごとに自動的に薬液を患部に流すことができるようになる。このため、理想的な治療が可能となり、眼病治療に要する期間が著しく短縮される。
【0028】本発明の眼病治療方法に用いる人工涙管は、先端部にリングやフックなどの先端固定手段を設けることにより、眼瞼裏側の結膜に人工涙管の先端を確実に固定することができる。また、鰐口鉗子を用いて人工涙管を皮下に挿通するとき、先端固定手段が突出しているので確実に鉗子先端の鰐口で挟むことができる。
【出願人】 【識別番号】592004172
【氏名又は名称】中山 正成
【出願日】 平成13年3月12日(2001.3.12)
【代理人】
【公開番号】 特開2002−263124(P2002−263124A)
【公開日】 平成14年9月17日(2002.9.17)
【出願番号】 特願2001−118891(P2001−118891)