| 【発明の名称】 |
暗黒培養によるユリ類の試験管内保存,増殖,球根養成法 |
| 【発明者】 |
【氏名】姫野 正己
【氏名】上野 敬一郎
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| 【要約】 |
【課題】ユリ類(ユリ属,ネギ属,チューリップ属)の球根を,多大の培養スペースや労力を用いずに,組織培養の方法により,球根の肥大や増殖を図りながら,無菌的に長期間簡易に保存する方法の開発を目的とする。
【解決手段】ユリ類(ユリ属,ネギ属,チューリップ属)の球根を,組織培養の方法により,発芽温度より高く致死温度より1〜2℃低めの高温で,培地の成分濃度も通常よりかなり高めて暗黒状態で,無菌的に長期間簡易保存する方法である。この時,培地の無機塩類の濃度を2〜7倍に,糖濃度を2〜5倍に高め,球根の肥大を図る方法である。また,高温で保存し,保存中に子球の増殖を図る方法である。さらに,この方法を用いて培養球根を順次保存していけば,鉢上げ時まで培養を繰り返さなくても,希望する時期に球根をまとめて鉢上げできる。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 ユリ類の無菌球根,リン片及びリン片の断片を,培養容器内で,発芽温度を超えてから致死温度未満の保存温度範囲で保存する方法。 【請求項2】 ユリ類がユリ属,ネギ属,チューリップ属の無菌球根,リン片及びリン片の断片である請求項1の方法。 【請求項3】 保存温度が,致死温度より1〜4℃低い,植物にとっては発芽が抑制される高温で,暗黒状態で,休眠状態に誘導することからなる請求項1または請求項2の方法。 【請求項4】 植物の培養に用いる基本培地の,無機成分濃度を1〜15倍に,好ましくは2〜7倍に,糖濃度を1.5〜7倍に,好ましくは2〜5倍に高めた培地でユリ類(ユリ属,ネギ属,チユーリップ属)の無菌球根を,暗黒保存することにより,保存中に球根を肥大させる方法。 【請求項5】 植物の培養に用いる基本培地の,無機成分濃度を1〜15倍に,好ましくは2〜7倍に,糖濃度を1.5〜7倍に,好ましくは2〜5倍に高めた培地でユリ類(ユリ属,ネギ属,チューリップ属)の無菌球根を,暗黒保存することにより保存温度を致死温度に近い温度,好ましくは致死温度より0.5〜2℃低い温度に保持して,保存中に球数を増殖する方法。 【請求項6】 ユリ類(ユリ属,ネギ属,チューリップ属)の無菌球根,リン片及びリン片の断片に光源を照射して増殖し,その一部を別の培養容器内で暗黒状態で保存し,残りをさらに増殖するサイクルを順次実施していき,鉢上げ予定の時期に,まとめて鉢上げすることからなる保存方法。 【請求項7】 請求項1から請求項6までの,少なくとも一つの方法から作出された球根。
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【発明の詳細な説明】【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,ユリ類の無菌の球根,リン片及びリン片の断片を培養容器内で,暗黒状態で,簡易に,長期に,保存し,増殖し,及び球根養成する方法に関するものである。 【0002】 【従来の技術】従来,ユリ類(ユリ属,ネギ属,チューリップ属)の球根は,圃場やハウスで毎年球根を植え継ぐ方法で保存されてきた。しかし,この方法は,保存に多大の面積と労力を要し,栽培中にウイルス等に汚染されたり,品種や優良系統が消滅することが問題とされている。低温で貯蔵する方法としては,特開平9−323902で,ユリ球根が設定温度に対し,温度変動幅±0.5〜±3.3℃の低温で貯蔵され,特開平08−205703では,ニンニクの球根が4〜6℃で貯蔵されている。通常の組織培養により,培養容器内で球根やリン片を植え継いで保存することも可能であるが,この方法は,数カ月毎に植え継ぐ必要があり効率が悪い。また,生長抑制剤などの薬剤を培地中に添加し,植物の生長を薬剤で抑制しながら培養容器内で保存することも可能であるが,この方法は植物が変異を起こす可能性があり,また鉢上げ後も薬剤の抑制作用が継続するために植物が生長せず,鉢上げ後すぐに植物を栽培したい場合には適さない。また,ユリを超低温で半永久的に保存する方法も開発されている(松元ら,Plant Tissue Tissue Letters13:29−34)が,この方法は高額の設備投資が必要で,その維持費が高いことと,保存操作に専門的技術を必要とし,0.5mm前後の極小さな組織しか保存できない。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】圃場やハウスでのユリ類球根の保存は,多大の面積と労力を要し,常にウイルス感染の危険が伴うので,簡易にかつ安全に保存できる方法の開発が求められている。本発明は,生長抑制剤を用いないで,ウイルスの感染なく,歩留まりよく,培養容器内で1年間ほど簡易保存すること,保存中に球重や球数を増加させること,及び小規模の増殖設備しかなくても,多量の培養球の鉢上げ時期を揃えることなどを目的とする。 【0004】 【課題を解決するための手段】本発明は,従来の方法とは技術的思想を異にする,全く新規な保存方法である。生長抑制剤などの薬剤を培地中に添加することなく,超低温や低温で保存する方法でもない。逆に,無菌的に高温で保存する方法である。すなわち、ユリ類(ユリ属,ネギ属,チューリップ属)の球根,それらのリン片,およびリン片の断片を,無菌的に培養容器内で,暗黒で,致死温度よりやや低く,発芽温度を超える高温で培養することにより,実用的に支障無く,簡易に長期間保存できる手法を達成させたものである。 ユリ類の無菌球根,リン片及びリン片の断片を,培養容器内で発芽温度より高い,致死温度未満の温度範囲で保存する方法であり,保存はユリ類(ユリ属,ネギ属,チューリップ属)の無菌球根,リン片及びリン片の断片であってもよい。また,保存温度が致死温度より1〜4℃低く,植物にとっては発芽が抑制される高温で,暗黒状態で,休眠状態に誘導することことにより保存する方法である。さらに,保存中に球根を積極的に肥大させる方法として,植物の培養に用いる基本培地の無機成分濃度を,1〜15倍に,好ましくは2〜7倍に,糖濃度を1.5〜7倍に,好ましくは2〜5倍に高めた培地で,ユリ類(ユリ属,ネギ属,チューリップ属)の無菌球根を,暗黒保存することも本発明の手法の一つである。球数を増殖する方法として,植物の培養に用いる基本培地の,無機成分濃度を1〜15倍に,好ましくは2〜7倍に,糖濃度を1.5〜7倍に,好ましくは2〜5倍に高めた培地で,ユリ類(ユリ属,ネギ属,チューリップ属)の無菌球根を,暗黒保存する。保存温度を,致死温度に近い温度,好ましくは致死温度より0.5〜2℃低い温度に保持することも含まれる。 また,致死温度に近い状態で試験管内で保存すると,球根内の本来の主芽がつぶれて,腋芽(リン片間の間に形成される側芽)から複数の球根が形成される。同様に,リン片上に複数の球根が形成される。それで,簡易に球根の増殖ができる【0005】小規模の増殖設備において,多量の球根を鉢上げするための手法として,ユリ類の無菌球根,リン片及びリン片の断片に光源を照射して増殖し,その一部を別の培養容器内で暗黒状態で保存し,残りをさらに増殖するサイクルを順次実施していき,鉢上げ予定の時期に,まとめて鉢上げすることからなる保存方法も含まれる。もちろん,上記の方法の少なくとも一つの方法から作出された球根も本発明により製造された物として含まれる。 【0006】ユリ類は,ユリ属,ネギ属,チューリップ属が挙げられる。ユリ属球根は,テッポウユリ,スカシユリ,園芸種のオリエンタル系ハイブリッド,新テッポウユリ,カノコユリ,ササユリ,ウケユリ,オトメユリ,ヒメユリ,LAユリ(テッポウユリ系ハイブリッドユリ)等,ネギ属球根とは,ニンニク,ラッキョウ,ニラ等を指す。 【0007】無菌球根とは,組織培養により育成された細菌やカビ類に汚染されていない健全な球根,あるいは圃場から持ち込まれた球根であっても,消毒により完全に細菌やカビ類に死滅させた健全な球根をいう。 【0008】発芽温度とは,その植物の発芽に適した最適温度前後の,発芽可能な温度をいう。致死温度とは,継続してその温度に置かれると枯死する温度をいう。保存温度は,培養容器に植物の球根,リン片,リン片の断片を置き長期間保存する際の温度を意味する。 【0009】球根の休眠状態とは,球根が生長に不適な温度条件におかれた時,葉や根の形成を,あるいは茎の伸張を停止し,眠った状態になることを意味する。自然状態では,球根類が春から夏にかけての高温期間,地上部が枯死し,球根の状態で地中で生長を停止する状態をいう。 【00010】基本培地としては,Murasige & Skoog培地(MS培地),Whiteの培地,Gamborgの培地,Nitschの培地,Knudsonの培地,Hyponex培地等を用いる。培地の無機成分とは,植物の組織培養時に,植物の栄養源として培地に添加する成分で,基本培地に含まれる無機塩類に属する成分をいう。糖とは,同じく植物の栄養源(炭素源)として添加する有機物で,ショ糖,ブドウ糖,フラクトース,マルトース等である。 【00011】 【発明の実施の形態】以下に本発明の実施の形態を説明する。すなわち,本発明の保存方法は,ユリ類(ユリ属,ネギ属,チューリップ属)の球根,リン片,リン片の断片を用意し,これらを暗黒状態で発芽温度から致死温度の範囲で,たとえば致死温度より1〜4℃低い,発芽が抑制される温度で,培養しながら保存することである。そして,その際培地の無機成分及び糖濃度を高めることにより,単に保存できるのみでなく,球根を肥大させたり,球数を増加させたりできる。また,この方法を用いれば,培養中の球根を順次保存しておき,鉢上げ予定時期に一斉に鉢上げすることもできる。 【0012】まず、基本培地としては,MS培地,Whiteの培地,Gamborgの培地,Nitschの培地,Knudsonの培地,Hyponex培地等を用いる。これらの培地の無機成分濃度を,1〜15倍に,好ましくは2〜7倍に、糖濃度を1.5〜7倍に,好ましくは2〜5倍に高めた培地を作成する。培養容器に分注する培地の量は,保存する期間によって調整する。本発明は,高温状態での保存であるために乾燥が激しく,培地の量が少ないと数ヶ月で乾燥する。それで,1年間ほど保存する場合には,上記の培地を直径4cmの培養容器に40〜60mlほど分注する。ついで,ユリ類(ユリ属,ネギ属,チューリップ属)の球根,リン片,リン片の断片を培地上に置床し,暗黒状態で保存する。暗黒状態とは,基本的に光を照射しない暗黒の状態で継続して保存することをいうが,ここでは,わずかな照明用の光または調査時等に短期間光が当たることも含まれる。保存温度は,ユリの種類毎に異なる。基本的には,暗黒状態で発芽温度から致死温度の範囲で,致死温度より1〜4℃低い,発芽が抑制される温度で保存する。例えばテッポウユリの場合は,30℃で,ウケユリは26〜28℃で,ササユリは,22〜28℃の範囲で保存する。ササユリは,葉や茎が伸びてもすぐに枯死して,球根だけが肥大を続けやすいので保存温度の幅が広い。 【0013】培養中の球根を順次保存していけば,鉢上げ予定時に,多数の球根を一斉に鉢上げできる。その場合,保存した球根は,鉢上げ前に冷蔵処理を1ヶ月ほど行い,発芽の揃いを良くする。この方法を用いることにより,鉢上げ時まで,必要な球根数全部を継続して培養することなく,効率よく培養できる。 【0014】 【実施例】〔実施例1〕球径7〜8mmの,ウケユリの無菌の小球を,MS培地にショ糖濃度を20,4060g/Lの3通りに変えて添加し,1試験管当たり20mlずつ分注した培地に置床し,24,26,28,30℃の定温で1年間暗黒状態で保存した。28℃以下の温度で保存した場合は,球根の枯死は殆ど認められなかった。30℃で保存した場合は,培地の組成に関係なく保存全球根の枯死,球根の一部リン片の枯死など,殆どの区で高温障害が発生した(図1)。28℃以下の区では,保存球の腋芽部やリン片の上に子球が形成された。子球の形成率は,ばらつきはあるが,ショ糖濃度が低いほうが高い傾向が認められた。子球を含めた球根の総重量は,ショ糖濃度が同じ場合は培地固化剤の濃度が低いほど,ショ糖濃度については濃いほど増加した。 【0015】〔実施例2〕ウケユリの小球(球高8mm×球径9mm,球重150mg)を,MS基本培地に,ショ糖濃度を20〜100g/Lまで10g単位で変えて添加し,1試験管当たり40mlずつ分注した培地に置床し,暗黒状態で,温度24℃で1年間保存した。1年後の保存球の大きさは,通常の培養で用いられるショ糖濃度20〜30g/L区より,ショ糖濃度が高い70g/L以上添加した区の方が大きくなった。ショ糖濃度が70g/L以上の場合は,球高は保存開始時の約2倍,球径は約1.5倍に肥大した(図2)。球重は,ショ糖濃度の増加に比例して急増し,100g/L区の場合は,保存開始時の約9倍に増加した(図3)。 【0016】〔実施例3〕テッポウユリの培養小球(球高9mm×球径10mm,球重300mg)を,基本培地はMS培地,ショ糖濃度は90g/L,培地の量40mL/本の培地に置床し,暗黒状態で,温度を24,26,28,30,32,34℃に設定し,1年間保存した。テッポウユリの場合は,到死温度がウケユリより高く,30℃までは順調に肥大したが,32℃で生存率が極端に低下し,34℃では全固体枯死した。球重は26℃保存区でやや小さかったが,24℃〜30℃区まで,ほぼ15倍に肥大した。28〜30℃区では,茎の伸長が押さえられ,球根が肥大した。 【0017】〔実施例4〕テッポウユリの培養小球(球高9mm×球径10mm,球重300mg)を,基本培地をMS培地の標準無機塩類濃度区(×1)とその2倍量添加区(×2),ショ糖濃度を30g/L区と100g/Lの2区を設定し,これらの要因を組み合わせた合計4区の培地に置床し1年間保存した。ショ糖濃度については,実施例2の結果のように,ショ糖濃度が多い100g/L添加区が,30g/L添加区に比較して明らかに肥大した。また,基本培地の無機塩類の量に関しても,無機塩類を倍量添加した培地で保存した場合は,標準区で保存した場合より明らかに球重が増加した(図4)。 【0018】〔実施例5〕ニンニクの培養小球(球高8mm×球径9mm,球重250mg)を,基本培地を通常のMS培地とし,ショ糖濃度を30g/L,50g/L,70g/L区の3通りに変えて添加した培地に置床し,1年間暗黒状態で保存した。ユリ類と同様に,ショ糖濃度が高い区ほど球重が増加した。 【0019】〔実施例6〕本州中南部で自生するササユリの培養小球(球径11mm,球重480mg)を,MS培地を基本培地として,ショ糖を50g/L添加した培地に置床し,20〜28℃まで2℃刻みで温度を変えて,暗黒状態で保存し,約14ヶ月後に調査した。ササユリもウケユリ同様,保存中に球根が肥大した。どの試験区も球根が肥大し,肥大程度については,保存温度間に顕著な差異は認められなかった。球重についても一定の傾向は認められなかったが,22℃区が一番大きかった。りん片上に形成された子球数については試験区間で一定の傾向は認められなかったが,腋芽由来の子球数は,温度が高い区で保存するほど漸増する傾向が認められた。 【0020】〔比較例1〕培養容器外でも,高温状態に保ちユリ類(ユリ属,ネギ属,チューリップ属)の球根を保存することは可能であるが,高温状態では乾燥し,球重が激減した。また,乾燥を防ぐために高温多湿状態にすると,球根が腐敗した。 【0021】〔比較例2〕従来の組織培養による保存方法と,本報告の保存方法を比較したものを,図5に示した。従来の方法の問題点としては,0℃〜1℃の低温条件,暗黒条件で保存する方法は,冷却施設の設置が必要であり,ランニングコストが高額となる。 【0022】〔比較例3〕培地中に生長抑制剤を添加して保存する方法は,植物が突然変異を起こす可能性があり,鉢上げ後生長抑制剤の効果が消えるまで発芽しない場合があった。 【0023】〔実施例4〕通常の照明をともなう培養方法で、数カ月置きに植え継ぎながら保存すると,植え継ぎに多大の労力を要し,植え継ぎ時に汚染を起こした。 【0024】 【発明の効果】以上説明したように,本発明によれば,ユリ類(ユリ属,ネギ属,チューリップ属)の球根を,組織培養の方法により,多大の培養スペースや労力を必要とせず,またウイルス感染の恐れもなく,無菌的に長期間簡易保存できる。この時,最適保存温度はユリの種類により異なり,基本的には該当するユリの培養時の致死温度より1〜2℃低めの温度で,培地の成分濃度も通常よりかなり高めて暗黒状態で培養すると,培養中に球根が肥大するので保存と同時に球根の養成も可能となる。この方法を用いて培養球根を順次保存していけば,鉢上げ時まで培養を繰り返さなくても,希望する時期に球根をまとめて鉢上げできる。 また,ユリの種類によっては保存中に子球が形成され増殖もできる。保存期間は培地の量を増やすことにより長くすることができる。
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| 【出願人】 |
【識別番号】591155242 【氏名又は名称】鹿児島県
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| 【出願日】 |
平成13年3月30日(2001.3.30) |
| 【代理人】 |
【識別番号】501170079 【氏名又は名称】脇 秀一郎
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| 【公開番号】 |
特開2002−302403(P2002−302403A) |
| 【公開日】 |
平成14年10月18日(2002.10.18) |
| 【出願番号】 |
特願2001−137974(P2001−137974) |
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