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【発明の名称】 抗菌性素材及び抗菌活性の増強方法
【発明者】 【氏名】新居 孝之

【氏名】塚田 益裕

【氏名】日本 理都子

【要約】 【課題】耐久性に優れ、抗菌活性に優れた抗菌性素材及び抗菌活性の増強方法の提供。

【解決手段】フェナントロリン、基本骨格としてフェナントロリン骨格を有する化合物、シアノフェナントレン、フェナントリジン、又はサリチルアルデヒドである配位子を含む素材、コバルト若しくはルテニウムのイオンが配位子に配位結合で結合した錯体を含む素材、EDTA酸無水物が導入されかつ該EDTA酸無水物を介して該金属イオンが結合された生体高分子からなる素材、又は該配位子、金属イオン若しくは錯体から選ばれた少なくとも1種類の物質を含んだ生体高分子からなる素材。これらの素材を用いて抗菌活性を増強せしめる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 フェナントロリン、基本骨格としてフェナントロリン骨格を有する化合物、シアノフェナントレン、フェナントリジン、又はサリチルアルデヒドから選ばれた配位子を含むことを特徴とする抗菌性素材。
【請求項2】 請求項1記載の配位子にコバルトイオン又はルテニウムイオンが配位結合で結合されてなる金属錯体を含むことを特徴とする抗菌性素材。
【請求項3】 シアノコバラミン(ビタミンB12)、コバルト(III)アセチルアセトナート、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)コバルト(I)、トリス(エチレンジアミン)コバルト(III)クロライドジハイドレート、5,10,15,20-テトラフェニル-21H,23H-ポルフィンコバルト(II)、ビス(サリチルアルデヒド)コバルト(II)ジハイドレート、N,N'-ビス(サリチリデン)-1,2-フェニレンジアミノコバルト(II)モノハイドレート、ビス(サリチリデンイミニナート-3-プロピル)メチルアミノコバルト(II)、コバルト(II)フタロシアニン、コバルト(II)1,2,3,4,8,9,10,11,15,16,17,18,22,23,24,25-ヘキサデカフルオロ-29H,31H-フタロシアニン、[1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]ジクロロコバルト(II)、トリス(1,10-フェナントロリン)ルテニウム(II)クロライドハイドレート、テトラフェニルホスフォニウムアセテートジクロロジオキソルテナート(VI)、ジクロロテトラキス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)、トリス(2,2'-ビピリジル)ルテニウム(II)クロライドヘキサハイドレート、及びジクロロ(1,10-フェナントロリン)銅(II)から選ばれた金属錯体を含むことを特徴とする抗菌性素材。
【請求項4】 高分子素材からなり、該高分子素材と化学的に結合できる働きを持つEDTA酸無水物が該高分子素材に導入され、かつ該素材に導入されたEDTAを介してルテニウムイオンが結合されていることを特徴とする抗菌性素材。
【請求項5】 請求項1記載の配位子、コバルトイオン若しくはルテニウムイオン、又は請求項2若しくは3記載の金属錯体から選ばれた少なくとも1種類の物質を含んでいる高分子素材からなることを特徴とする抗菌性素材。
【請求項6】 光照射条件下で使用することにより病原微生物の増殖抑制機能を増強することができることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の抗菌性素材。
【請求項7】 請求項1〜6のいずれかに記載の抗菌性素材を光照射条件下で使用することにより病原微生物の増殖抑制機能を増強することを特徴とする抗菌活性の増強方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、抗菌性素材及びこの素材を用いて抗菌活性を増強する方法に関わる。
【0002】
【従来の技術】近年、身の回りのあらゆる商品に安全性や清潔性が求められるようになってきた。若者を中心とした清潔志向が高まりを見せ、抗菌性を付与した製品が注目されている。生体組織や環境の汚染につながらない毒性の低い抗菌剤並びに抗菌性製品の開発が積極的に進められている。このように、近年、清潔指向、衛生指向が高まり、医療分野、衣料分野はもとより、トイレ用品、台所用品、鮮度保持フィルム及び除菌シート等の家庭用品分野、洗濯機、冷蔵庫、フロッピー(登録商標)ディスクケース及び文房具等の家電・事務用品分野、並びに食品分野等に抗菌性素材が用いられている。
【0003】抗菌性素材で最も一般的なものは、銀、銅等の抗菌性金属を含んだものである。例えば、銀イオンを担持した抗菌性素材には、銀イオンが溶出することにより抗菌性が発現する溶出型のものが多い。この溶出型素材の担体としては、ゼオライト、粘土鉱物、ガラス等が知られている。このような銀イオンをはじめとする抗菌性金属の溶出型素材は、優れた抗菌性機能を持つ反面、金属が溶出して生体系、環境系を汚染する懸念があり、安全性には特に注意を払う必要がある。
【0004】従来の抗菌性粉末としては、銀、銅、亜鉛、あるいはこれらの錯体を含有するものが知られている(特開平9−263715号公報)。この素材は、強い抗菌性を持つ反面、抗菌性無機粒子から銀等の金属イオンが微量づつ長年にわたり流出するので、これが生体組織、あるいは環境を汚染する原因ともなりかねない。そのため、抗菌性素材から金属イオンが流れ出ることのない、安定した抗菌性機能を維持できる抗菌性素材の開発が望まれてきた。
【0005】抗菌性金属を含有するゼオライトを練り込んだ抗菌性樹脂組成物も知られている(特開昭63−265958号公報)が、コスト高となり、光のエネルギーで樹脂が着色や変色をしてしまうために、実用上問題となっていた。また、抗菌性を有する粉末塗料を用いる時には、焼付け時に150〜200℃まで加熱する工程を必要とするため、通常多く用いられる一般的な有機系の抗菌剤では抗菌機能の低下が問題であった。
【0006】従来、抗菌性繊維の製造方法として、例えば、抗菌性を示す金属又は金属化合物の微粒子を分散液とし、これを有機高分子材料と接触させ、有機高分子材料の表面を被覆し、該表面に付着せしめる方法(特開平7−97769号公報)や、繊維表面をコロイド粒子サイズの抗菌性金属と他の金属の酸化物とで被覆する方法(特開平7−109674号公報)等が知られている。しかしながら、これらの方法により得られる抗菌性繊維は、抗菌性金属が繊維表面に単に付着しているだけなので、使用中に脱落し、抗菌効果がなくなるという耐久性上の問題がある。
【0007】特開平3−2106号公報には、グアニル−O−メチルイソ尿素等と第4族遷移金属の塩との錯体を有効成分とする抗カビ・抗菌剤であって、活性の持続性に優れ、合成樹脂等に優れた分散性を有するものが開示されている。
【0008】特開平9−124425号公報には、Pt、Pd、Ruからなる群から選ばれる1種以上の金属を、活性炭等の担体に担持してなる抗菌材及びその製造方法が記述されている。例えば、これらの金属を前駆体であるヘキサクロロ白金(+4)酸等の金属錯体とした後、含浸法等により担体上に担持させ、水素等による還元を行い金属担持物とする方法が開示されている。
【0009】特開平4−18177号公報には、銀置換抗菌性ゼオライト粒子を含む合成繊維を染色加工と同時に又はその前後で1価又は2価の銅イオンで処理して、染色又は仕上加工しても抗菌効果が失活せず、優れた抗菌性を発揮する合成繊維を得る方法が開示されている。
【0010】そのほか、抗菌性繊維の製造方法として、抗菌性金属である銀をシリカ、アルミナ等の球状セラミックス微粒子の表面に担持させたものを繊維表面に付着させる方法、多孔質の天然ゼオライト又は銀イオンをゼオライトに吸着させたものを素材表面に被覆させる方法等が知られている。
【0011】しかし、上記したように抗菌性金属を物理的に繊維に付着させる方法は、得られた繊維製品から、使用中に抗菌性金属担持物が脱落し易いので、初期の抗菌効果を長期間持続させ難い等の問題がある。そのため、抗菌スペクトルが広くて、広範囲の病原性細菌の増殖を阻害することができると共に、抗菌活性の持続性に優れ、様々な工業資材として利用できる抗菌性物質を開発する必要性が益々増している。
【0012】また、多くの抗菌性物質が知られているが、これをどのようにして合成繊維、天然繊維等に化学的に結合させて耐久性に優れた抗菌性素材を調製するかは未解決であり、その解決が待たれている。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、上記従来技術の問題を解決することにあり、耐久性に優れた抗菌性素材であって、病原微生物の増殖抑制機能を増強することができる抗菌性素材及びこの抗菌性素材を用いて病原微生物の抗菌活性を増強する方法を提供することにある。すなわち、これらの抗菌性素材として、抗菌活性に優れた配位子を含む素材、抗菌性金属イオンが該抗菌性配位子を含めた多数の配位子に配位結合で結合してなる錯体を含む素材、生体高分子と化学的に結合した化合物を介して該金属イオンが生体高分子と結合されてなる素材、該配位子又は錯体から選ばれた少なくとも1種類の化合物を含んだ生体高分子素材を提供することにある。これらの生体高分子からなる抗菌性素材の場合、使用中に抗菌性成分の脱落が少ないので、抗菌効果が持続し、耐久性に優れた抗菌性素材を容易かつ経済的に提供することができる。
【0014】また、本発明の課題は、使用環境の明暗条件により各種の細菌(以下、病原細菌、病原微生物と呼ぶこともある)の増殖を抑制する抗菌活性が変化する抗菌性素材及びこれを用いた抗菌活性増強方法を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、各種の細菌に対して広い抗菌性スペクトルを持ち、耐久性に優れた抗菌性有機高分子素材を開発すべく鋭意検討した結果、コバルト(Co)イオン、ルテニウム(Ru)イオンが抗菌活性を持つことを確認し、フェナントロリン等の配位子、さらに、コバルトイオン、ルテニウムイオン等が該配位子を含めた各種配位子に配位結合で結合した(本明細書では、以下、単に「結合する」あるいは「配位する」と表現する場合もある)錯体について、抗菌活性の発現の様子を観察し、試料環境の明暗の差で抗菌活性が変化することを明らかにすると共に、さらに、配位子、又は錯体を絹蛋白質、羊毛等の天然生体高分子に結合させることにより、耐久性に富む抗菌性素材を製造することできることを明らかにし、本発明を完成するに至った。
【0016】本発明の抗菌性素材は、フェナントロリン、基本骨格としてフェナントロリン骨格を有する化合物、シアノフェナントレン、フェナントリジン、又はサリチルアルデヒドから選ばれた配位子を含むものである。
【0017】本発明の抗菌性素材は、上記配位子にコバルトイオン又はルテニウムイオンが配位結合で結合されてなる金属錯体を含むものである。このイオンの由来は問わないが、例えば、硝酸コバルト、炭酸コバルト、塩化コバルト、チオシアン酸コバルト、硝酸ルテニウム、炭酸ルテニウム、塩化ルテニウム、又はチオシアン酸ルテニウム由来のコバルトイオン又はルテニウムイオンであっても良い。この金属錯体は、上記金属錯体の他に、シアノコバラミン(ビタミンB12)、コバルト(III)アセチルアセトナート、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)コバルト(I)、トリス(エチレンジアミン)コバルト(III)クロライドジハイドレート、5,10,15,20-テトラフェニル-21H,23H-ポルフィンコバルト(II)、ビス(サリチルアルデヒド)コバルト(II)ジハイドレート、N,N'-ビス(サリチリデン)-1,2-フェニレンジアミノコバルト(II)モノハイドレート、ビス(サリチリデンイミニナート-3-プロピル)メチルアミノコバルト(II)、コバルト(II)フタロシアニン、コバルト(II)1,2,3,4,8,9,10,11,15,16,17,18,22,23,24,25-ヘキサデカフルオロ-29H,31H-フタロシアニン、[1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]ジクロロコバルト(II)、トリス(1,10-フェナントロリン)ルテニウム(II)クロライドハイドレート、テトラフェニルホスフォニウムアセテートジクロロジオキソルテナート(VI)、ジクロロテトラキス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)、トリス(2,2'-ビピリジル)ルテニウム(II)クロライドヘキサハイドレート、及びジクロロ(1,10-フェナントロリン)銅(II)、から選ばれたものであってもよい。
【0018】また、本発明の抗菌性素材は、高分子素材からなり、該高分子素材と化学的に結合できる働きを持つEDTA酸無水物が該高分子素材に導入され、かつ該素材に導入されたEDTA酸無水物を介して高分子素材にルテニウムイオンが結合されているものであってもよい。さらに、上記配位子、上記コバルトイオン若しくはルテニウムイオンのような抗菌性金属イオン、又は上記金属錯体から選ばれた少なくとも1種類の物質を含んでいる高分子素材からなるものであってもよい。
【0019】また、上記抗菌性素材は、光を照射した条件下又は光を遮断した条件下での使用で抗菌活性を示すと共に、特に光照射条件下で使用することにより病原微生物の増殖抑制機能を増強することができる。
【0020】さらにまた、本発明の抗菌活性の増強方法は、上記抗菌性素材を光照射条件下で使用することにより病原微生物の増殖抑制機能を増強することからなる。
【0021】
【発明の実施の形態】以下、本明細書中で使用する用語を簡単に解説すると共に、発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0022】本明細書において、「結合」とは、金属イオンが配位結合により配位子と化学的に結合することや、絹蛋白質等に導入されたEDTAと金属イオンとが化学的に結合することのみならず、配位子又は錯体と高分子素材とを組み合わせた場合等に、両者間に働く、化学結合以外の水素結合、イオン結合、疎水結合等の物理的な結合をも意味するものとする。
【0023】配位子とは、金属イオンが配位結合できる化合物の総称である。本発明において用いることができる抗菌性配位子としては、上記したような、フェナントロリン、基本骨格としてフェナントロリン骨格を有する化合物、シアノフェナントレン、フェナントリジン、又はサリチルアルデヒドがある。これらの配位子の中で、3つのベンゼン環から成り、金属イオンが配位可能なN等の配位原子を1〜2個含むフェナントロリン等が好ましく利用できる。すなわち、本発明で用いる優れた抗菌活性を持つ配位子の代表としては、1,10-フェナントロリン、並びに基本骨格がこれに類似した2,7-ジメチル-1,10-フェナントロリン、及び4,7-フェナントロリンがある。なお、配位子のフェナントレン自体には抗菌活性がないが、この化合物にシアノ基が付いた9-シアノフェナントレンには抗菌活性が発現する。
【0024】本発明で用いることのできる抗菌性金属イオンには、コバルトイオン、ルテニウムイオン自体に加えて、これら金属イオンの由来原である塩化物、硝酸塩、炭酸塩、チオシアン酸塩等も含まれるものとする。
【0025】上記抗菌性金属イオンが配位結合で配位した錯体は、配位子自体には抗菌活性が見られなくとも上記抗菌性金属イオンが配位結合で配位した錯体は優れた抗菌活性を示す。例えば、トリフェニルホスフィンには抗菌活性はないが、この配位子にコバルトイオン等が配位すると抗菌活性が現れる。この錯体の場合の配位子には、上記した抗菌活性を有する配位子は勿論のこと、以下述べるような、金属イオンと配位結合で結合する配位子であればいずれの配位子であっても使用することができる。配位子には金属イオンが配位するいくつかの配位基がある。ここで、配位基とは、一般に、-NH2、-NH-、-CONH2、-CONH-、-SH、-COOH、-OH基等や、窒素、硫黄、酸素原子等を含む基を持つ化合物であり、金属イオンはこのような配位子と配位結合で結合する。コバルトイオンやルテニウムイオン等の金属イオンそのものでも抗菌活性があるが、コバルトイオンやルテニウムイオンの錯体とすれば、さらに優れた抗菌活性を発現する。
【0026】抗菌活性を発現する錯体を形成し得る配位子としては、上記配位子以外にも、例えば、2,2'-ビピリジン、EDTA、トリフェニルホスフィン、アセチルアセトン酸、トリフェニルホスフィン、エチレンジアミン、5,10,15,20-テトラフェニル-21H,23H-ポルフィン、サリチルアルデヒド、N,N'-ビス(サリチリデン)-1,2-フェニレンジアミン、ビス(サリチリデンイミニナート-3-プロピル)メチルアミン、フタロシアニン、1,2,3,4,8,9,10,11,15,16,17,18,22,23,24,25-ヘキサデカフルオロ-29H,31H-フタロシアニン、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、テトラフェニル等が使用できる。さらに、コバルトイオン又はルテニウムイオンのいずれかと配位結合した配位子化合物、例えばシアノコバラミン(ビタミンB12)でもよい(これも、本発明の錯体と称す。)。コバルトイオンやルテニウムイオンが配位結合してできる錯体としては、上記したように、例えば、コバルト(III)アセチルアセトナート、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)コバルト(I)、ビス(サリチルアルデヒド)コバルト(II)ジハイドレート、[1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]ジクロロコバルト(II)等が例示できる。
【0027】本発明によれば、以下述べるように、上記配位子や、錯体を含んだ絹糸又は絹フィブロイン膜等の高分子素材を調製して提供できるし、コバルトイオン、ルテニウムイオンと結合した絹糸又は絹フィブロイン膜等の高分子素材も調製して提供できる。
【0028】配位子を含んだ絹フィブロイン膜は次のようにして調製できる。例えば、まず、家蚕絹糸を臭化リチウムなどの中性塩の水溶液中で完全に溶解させた後、この水溶液をセルロース製透析膜に入れて、所定の温度で蒸留水と置換することにより不純物を除去し、純粋な絹フィブロイン水溶液を調製する。一方、1,10-フェナントロリンのような配位子の所定量を、DMF等の有機溶媒と水とを当量ずつ含む混合溶液に溶かす。得られた混合水溶液を上記絹フィブロイン水溶液に加え、必要によりセルロース製透析膜で透析する。この絹フィブロイン水溶液をポリエチレン膜上に広げて蒸発乾固させると、配位子を含んだ絹フィブロイン膜が製造できる。
【0029】金属イオンを含んだ絹フィブロイン膜は次のようにして調製できる。例えば、上記したようにして得た純粋な絹フィブロイン水溶液を、硝酸コバルト又は硝酸ルテニウム水溶液とイオン強度調整用の中性塩水溶液(例えば、硝酸カリウム水溶液)との混合水溶液に加えて、イオン強度を所定の範囲(例えば、I=0.1〜1)にし、この溶液のpHを所定の値に調整し、一定の温度で放置後、所望により透析膜を用いて透析し、この溶液をポリエチレン膜上に広げて蒸発乾固させると、金属イオンを含んだ絹フィブロイン膜が得られる。
【0030】上記のようにして反応系のイオン強度を一定にして絹フィブロインに金属イオンを配位させる反応を進めるために、イオン強度調整用の中性塩を加えるが、このカチオンは、特に制限されるわけではなく、例えば、K,Na,Ca,Mg等が使用できる。通常は、配位子に強く結合してしまわないカリウム塩が特に好ましい。この中性塩の添加量は、金属イオン濃度に比べて過剰にすることが望ましく、濃度的には、50-100 mMが適当であり、特に好ましくは 70-90 mMである。銀イオンと配位子との化学反応に着目して考えると、抗菌性金属塩の使用量は、優れた抗菌性を示す銀イオンの場合では、0.1-20 mM程度の微量でよいし、この添加量は用途に合わせて自由に変えることができる。本発明においては、一価の正イオンを持つ銀イオンでは、イオン強度調整用の中性塩を加える必要があるが、二価の正イオンを持つ銅イオンでは、イオン強度調整用の中性塩は不要である。価数の異なる金属イオンを配位子や配位基に結合させるには、イオン強度を一定にする必要があるため、所望により中性塩を加えるとよい。Fe,Cu,Zr,Zn等の抗菌性が中程度の金属塩では、添加すべき抗菌性金属イオンの量は多い方が望ましく、通常は、1-70 mMでよい。更に、この反応系のpHを、アルカリ水溶液添加によりpH 5-12(好ましくは、7-12)に調整しておくことが望ましい。アルカリ水溶液として用いられるアルカリ剤は、従来公知のものはいずれも利用できる。たとえば、アンモニア水、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等が挙げられ、好ましくはアンモニア水溶液が挙げられる。
【0031】金属イオン含有絹フィブロイン膜の場合において、絹フィブロイン膜にコバルトイオンが結合しているかどうかは、次のようにして実証できる。上記したようにイオン強度調整用に硝酸カリウムを加えた絹フィブロイン水溶液のpHを所定の値に調整した水溶液試料について、電子スペクトルを測定すると、絹フィブロイン水溶液単独ではみられない大きなピークが457nmに現れる。これは、d-d遷移に基づくものであり、絹フィブロインとコバルトイオンとが化学的に結合していることを示している。コバルトイオンの代わりにルテニウムイオンを用いた場合も同様である。そのため、絹フィブロイン膜を硝酸コバルト水溶液又は硝酸ルテニウム水溶液に浸漬することによっても、コバルトイオン又はルテニウムイオンを絹フィブロイン膜に結合させ得るものと考えられる。
【0032】本発明によれば、絹糸や絹フィブロイン膜のような高分子素材と抗菌性金属イオンとの間に強固な結合を形成するためには、金属イオンと結合できるEDTAを高分子素材に予め導入しておき、導入したEDTA部位に抗菌性金属イオンを結合させることにより可能となる。EDTAは金属イオン定量用に用いられるものであり、金属イオンと結合する働きを持っている。そのため、DMF等の有機溶媒に溶解したEDTA酸無水物が絹蛋白質等の高分子素材とアシル化反応を起こし、その結果、導入されたEDTAにも金属イオンを結合する働きがあるため、EDTA加工された絹糸や絹フィブロイン膜等の高分子素材にルテニウムイオン等の金属イオンが同様に結合する。
【0033】素材に導入したEDTAを介して金属イオンが結合している絹フィブロイン膜や絹糸の製造方法の概要は次の通りである。ルテニウムイオン又はコバルトイオンを絹糸や絹フィブロイン膜のような高分子素材に結合させるために、ルテニウムイオンやコバルトイオンを試料と結合させるに先だち、上記したように、試料にEDTA酸無水物を導入する。EDTA酸無水物としては、エチレンジアミン四酢酸2無水物[4,4'-エチレンビス(2,6-モルホリンジオン)](Aldrich社製, 33,204-6)(以下、EDTA酸無水物と略記することもある。)を用いる。
【0034】EDTA酸無水物を高分子素材の反応基と化学的に結合させるためには、まず、EDTA酸無水物をジメチルスルホキシド(以下、DMSOと略記する。)、又はN,N'-ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記する。)等の有機溶媒に溶解させ、高分子素材をこの溶液系に浸漬し、60-80℃の温度で1時間〜5時間かけてアシル化反応させればよい。EDTA酸無水物は水の存在下で反応してしまうので、DMSO又はDMFは脱水したものであることが望ましい。高分子素材に導入できるEDTA量は反応温度と反応時間により決まる。反応温度が低い場合には反応時間を長めに設定する必要があるし、反応温度が高すぎると反応が早すぎるためEDTA導入量が制御しにくい。そこで、最も好ましい反応条件は、家蚕絹糸では、75℃、2-4時間、羊毛では75℃、1-2時間である。
【0035】EDTA酸無水物は、絹蛋白質や羊毛蛋白質等の生体高分子の分子側鎖のリジン(Lys)、アルギニン(Arg)、ヒスチジン(His)等の反応性に富む塩基性アミノ酸残基とアシル化反応を起したり、セリン、チロシン、スレオニン等のフェノール性の水酸基を持つアミノ酸残基とも反応する。羊毛には、反応性に富むこれらの塩基性アミノ酸残基やフェノール性水酸基の総量が、絹蛋白質に比べて、ほぼ一桁多く含まれるので、羊毛を加工する際のEDTA酸無水物濃度は絹蛋白質の場合に比べて、希薄でも良く、また、反応時間は短時間でもよい。
【0036】反応終了後は、DMF等の有機溶媒で試料の高分子素材を洗い、試料に付着した未反応物を除去し、最終的には水で洗う。このようにして高分子素材とEDTA酸無水物とをアシル化反応で結合させることで、後の反応で抗菌性金属イオンと結合するEDTAが高分子素材に容易に導入できる。
【0037】高分子素材に導入したEDTAに抗菌性金属イオンを結合させるには次のようにするとよい。EDTAを導入した試料を室温の抗菌性金属塩水溶液に5-40時間浸漬することで、金属イオンを高分子素材に結合させることができる。効率的に金属イオンを結合させるには金属塩水溶液のpHを5-12、好ましくは7-12に調製するとよい。通常は、金属塩水溶液に1Nのアンモニア水を加えてpH調整をすることにより金属イオンの結合能力が高まる。金属塩水溶液濃度は、0.1-30 mMでよく、好ましくは0.1-10 mMである。ここで着目しなくてはいけないことは、EDTAを結合する前後における絹蛋白質、羊毛繊維への金属イオンの結合量と金属塩水溶液のpHとの関係である。
【0038】加工していない絹蛋白質、羊毛ケラチンの場合、家蚕フィブロインを構成するグルタミン酸(Glu)、アスパラギン酸(Asp)等の酸性アミノ酸残基のCOOH基が強酸性のpH領域では解離しないため金属イオンが簡単には結合しないが、pH3-5.6程度の強酸性〜弱酸性のpH領域では、COOH基が解離して金属イオンと結合するCOO-となるため、次第に金属イオンが結合するようになる。また、金属イオンの結合部位となり得るアミノ基は、酸性〜弱酸性のpH領域では解離しないが、弱アルカリ性となると脱プロトン反応が起こり金属が結合し易くなる。一方、EDTA酸無水物で化学修飾した蛋白質繊維は各種のpH領域で上記の反応が起こる他、反応の結果試料に導入されたEDTAのCOOH基が環境pHの違いにより次第に解離し、完全にCOOH基が解離する時点で金属イオンの結合量が次第に増加する。
【0039】錯体を含んだ絹フィブロイン膜は、上記金属イオンや配位子を含んだ絹フィブロイン膜の場合と同様に製造できる。その際、例えば、金属イオンとして、コバルトイオンやルテニウムイオンを利用できるし、配位子として、例えば、2,2'-ピピリジン、1,10-フェナントロリン、EDTA、トリフェニルホスフィン等を利用できる。
【0040】例えば、配位子として1,10-フェナントロリンを用いて、所望の錯体含有絹フィブロイン膜を製造するための概要は次の通りである。1,10-フェナントロリンに対して等モルのコバルト又はルテニウムの硝酸塩等をDMF等の有機溶媒に溶かしたものに等量の水を加えて、混合溶液を調製し、所定の温度に放置した後、このコバルト又はルテニウムの硝酸塩水溶液を、別に調製した絹フィブロイン水溶液に加え、冷蔵庫で静置する。所定の時間経過後、得られた溶液をポリスチレン膜上に広げ乾燥固化させると、錯体含有抗菌性絹フィブロイン膜が調製できる。この絹フィブロイン膜の水不溶化は、例えば、水:メタノール等の混合溶媒に浸漬して行う。得られた試料について、以下詳細に述べるようなトマトかいよう病細菌、大腸菌に対する菌増殖阻害実験を行い、抗菌活性を検討する。一般に、抗菌性の配位子やコバルトイオン、ルテニウムイオン等の金属イオンは病原細菌に対してほぼ同一の抗菌活性を示すが、これらの金属イオンが配位結合で配位した錯体の抗菌活性は相乗的に向上する。
【0041】また、上記錯体に光を照射すると(本明細書中では、明条件下と略記することもある。)、光を照射しない場合(暗条件下と略記することもある。)に比べて抗菌活性は増強する場合がある。このような錯体は、明条件下で用いる抗菌性商品などの素材として有用である。
【0042】本発明において、試料を明条件下に置くことにより、抗菌活性を増強させるための光としては、およその波長が400〜750nmの可視光であっても、1〜400nmの紫外線であっても、また、750nm〜1mmの赤外線であっても同様に利用できる。これらの光のうち、抗菌活性を増強させるための最も好ましい光は紫外線である。本明細書中で用いる暗条件下とは、病原微生物の増殖実験が光を遮った環境下で行われることを意味する。この暗条件は、黒い布を用いて光を遮断することにより簡単に設定できる。
【0043】本発明で利用できる高分子素材である生体高分子としては、昆虫由来、例えばカイコ由来の絹蛋白質繊維、この繊維から得られる絹蛋白質、羊毛繊維、羊毛ケラチン、動物由来コラーゲン、クモの糸、又は海性蛋白質である足糸等の蛋白質素材等がある。さらに、木綿等のセルロース繊維であってもよい。絹蛋白質繊維としては、例えば、家蚕(Bombyx mori)幼虫から得られる家蚕絹糸の他に、野蚕に属する柞蚕、天蚕、エリ蚕、ムガ蚕、シンジュ蚕の幼虫から得られる野蚕絹糸、又はこれらから得られる繊維製品の何れであっても使用できる。また、絹蛋白質としては、カイコが吐糸して作る繭繊維の外側を膠着するセリシン、又は該セリシンを除去して得られる絹フィブロイン繊維を中性塩水溶液中に溶解した後、セルロース製の透析膜を用いて透析して得られる水溶性絹フィブロイン、又はカイコ体内より取り出した絹糸腺内の水溶性絹セリシンもしくは水溶性絹フィブロインであってもよい。好ましくは、家蚕絹糸、柞蚕絹糸等の野蚕絹糸、羊毛繊維等の動物蛋白質繊維が挙げられる。繊維の形態は、特に制限されず、綿、糸、織物、編物、不織布等の繊維集合体或いは繊維製品のいずれであってもよい。
【0044】なお、絹フィブロイン繊維を溶解するには、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、臭化リチウム等一般に知られた中性塩が利用できる。絹糸の溶解性を高め、未変性状態に近い絹フィブロインを製造するためには、溶解性の高いリチウムイオンを含む中性塩が望ましく、臭化リチウム等が特に好ましく用いられる。絹フィブロイン繊維を溶解する前に、柞蚕あるいは天蚕等から得られる野蚕繭糸を、例えば、繭糸重量に対して50倍量の0.1%過酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、98℃で1時間処理してセリシンを予め除去しておく必要がある。セリシンの除去された野蚕絹フィブロイン繊維をチオシアン酸リチウム等の溶解性の高い中性塩で溶解し、さらにセルロース製透析膜にいれて純水で透析することで野蚕絹フィブロイン水溶液が調製できる。
【0045】
【実施例】次に、本発明を実施例及び比較例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0046】以下の実施例では、植物性病原細菌として、普遍的な植物性病原細菌の代表であって、耐性菌が出現しやすく、多くの植物を犯す多犯性の腐敗病菌であり、植物性病原細菌の中でも数少ないグラム陽性菌としてのトマトかいよう病細菌菌(学術名:Corynebacterium michiganese pv. michiganese)と、動物由来の病原細菌である大腸菌を選んだ。
【0047】<トマトかいよう病細菌の増殖阻害評価>実施例中の細菌に対する抗菌活性評価は下記の方法により行った。
【0048】細菌に対する抗菌活性検定法:加熱溶解後55℃に保持した半合成脇本培地又はキングB培地25mLと、検定菌の胞子液(濃度109-10個/mL)2mLとを混合し、この混合物をシャーレに流し込んで平板状に固めた。この菌液混合平板培地上に約2cmの長さ、0.1cmの幅に切断した繊維状の検定試料を置き、ピンセットで注意深く検定試料の両端を培地に埋め込み、試料全体を培地に密着させた。この培地を20〜25℃に保ち、培養2日目における試料の外周に現れる透明な阻止円(病原細菌の増殖が阻止された領域)の直径を抗菌活性の指標としてmm単位で表示した。
【0049】<大腸菌の増殖阻害評価>上記トマトかいよう病細菌の増殖に及ぼす阻害効果の評価方法と同様の方法で大腸菌の増殖に及ぼす阻害効果を評価した。大腸菌として、PROMEGA社製のStrain: JM109を使用し、培地として、LB培地、LB寒天培地を使用した。蒸留水100mL当たりのLB培地組成は次の通りであった。ポリペプトン1.0g、酵母エキス0.5g、塩化ナトリウム1.0gの組成から構成された培地であり(LB寒天培地の場合は、さらに、寒天1.5g)、滅菌後の培地のpHを7.0-7.4に調整した。具体的な培養手法は次の通りである。
【0050】(i)LB培地を用い、培養温度35℃で振盪しながら、一昼夜、大腸菌を増殖させた。
【0051】(ii)約60℃で溶解したLB寒天培地と、増殖した前記大腸菌の入ったLB培地を等量宛混合し、滅菌済みの容器に注入した。
【0052】(iii)混合培地が固化した後、被検試料を培地表面に置いた。
【0053】(iv)一定時間の培養後、阻止円の大きさを観察した。評価の判断基準は、トマトかいよう病細菌の場合と同様とした。
【0054】<金属イオンの耐久性評価試験法>高分子素材とひとたび結合した金属イオンが長期間安定して結合しているかどうかを次のようにして評価した。すなわち、金属イオンの結合した被検試料をpH3.8、25℃の酢酸水溶液中に浸漬し、3日間静置した後、試料を取り出して室温で風乾させた。この風乾させた試料について、上記の方法で抗菌活性を評価した。ここで、pH3.8の酢酸水溶液中での浸漬処理前後で抗菌活性の変化が少ないもの程高い耐久性を持つ素材といえる。
【0055】<光照射環境>トマトかいよう病細菌及び大腸菌の増殖阻害に及ぼす各種金属錯体の阻止効果を調べた。抗菌実験は、蛍光灯下(ナショナル10W)、30cmの位置に培養器を置いた明条件区と、遮光した暗条件区の2通りについて行った。これらの区を以下、明条件、暗条件と表記する。
【0056】<金属イオンの定量>試料に含まれる金属イオンの定量は、パーキンエルマー社製の原子発光分析装置(Inductive Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometer(ICP-AES))plasma400型を用いて行った。測定に先だって、CEM社製のMicrowave Digestion System Mod. MDS-81D を用い、5〜20mgの金属イオン含有の試料を65%, 2mLの硝酸で完全に分解させた後、ICP-AES分析の直前に、これに10mL蒸留水を加えて金属イオンの定量を行った。分析結果は4回の測定の平均値で示した。
実施例1:配位子の抗菌活性トマトかいよう病細菌の増殖に及ぼす表1記載の各種配位子の抗菌活性を暗条件下で評価した。試料の外周に現れる阻止円(病原細菌の増殖が阻止された領域)を抗菌強度の指標としてmm単位で表示した。得られた結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

表1の結果から、金属イオンが配位可能な配位子のうち、フェナントロリン、あるいはフェナントロリンを基本骨格として有する配位子と共に、9-シアノフェナントレリン、フェナントリジン、サリチルアルデヒドが優れた抗菌活性を示すことが分かる。なお、フェナントレンは抗菌活性を示さないが、この配位子にシアノ基(CN)が入った9-シアノフェナントレンには抗菌活性が見られる。
【0058】また、表1の結果から、試料と抗菌活性について、フェナントロリン類を下記の3グループ(■、■、■)に分類して論議することにする。
【0059】■ベンゼン環が3つあり、配位原子のNが2つある1,10-フェナントロリンと同じ基本構造を持つ配位子で官能基が異なる配位子化合物■化合物4,7-ジメチル-1,10-フェナントロリン■4,7-フェナントロリン上記■、■、■はいずれも抗菌活性を示し、■>■>■の順序で抗菌活性が高い。
実施例2:金属錯体の抗菌活性トマトかいよう病細菌の増殖に及ぼすコバルト錯体の抑制効果を実施例1と同様にして評価した。抗菌実験は、上記「光照射環境」に記載のように、蛍光灯下、30cmの位置に被測定試料を置いた明条件区と、遮光した暗条件区の2通りについて行った(これらの区を明条件、暗条件と表記した)。得られた結果を表2に示す。
【0060】
【表2】

表2から明らかなように、コバルトイオンが配位した錯体は、光を照射した明条件下で抗菌活性が増大するものがほとんどである。また、トリフェニルホスフィンには抗菌活性がみられないが(表1)、この配位子にコバルトイオンが配位したクロロトリス(トリフェニホスフィン)コバルト(I)は高い抗菌活性を示し、特に明条件下で高い抗菌活性を示すこと分かる。
【0061】次に、ルテニウム錯体の抗菌性を実施例2と同様にして調べた。得られた結果を表3に示す。
【0062】
【表3】

また、大腸菌の増殖抑制に及ぼすコバルト、及びルテニウム錯体の抗菌活性を明・暗条件下で調べた。得られた結果を表4に示す。
【0063】
【表4】

表3、表4から明らかなように、金属イオンの錯体では、明条件下で病原細菌の増殖を抑制する機能が増加することが分かる。表1に示したようにトリフェニルホスフィンのような配位子のみでは抗菌活性が微弱であるが、これにコバルトイオンが配位して錯体となると優れた抗菌活性を示す。
【0064】また、ルテニウム錯体がコバルト錯体と同様に優れた抗菌活性を有すること、光の明条件下で抗菌活性が顕著に増大することが明らかであった。
【0065】また、コバルト錯体、ルテニウム錯体が大腸菌の増殖を阻害することも明らかであった。
【0066】1,10-フェナントロリン(表1)にルテニウムイオンが配位したトリス(1,10-フェナントロリン)ルテニウム(II)クロライドハイドレート(表3)はともに優れた抗菌活性を示す。
実施例3:金属硝酸塩の抗菌性評価上記実施例で抗菌性が示唆されたコバルトやルテニウムそのものが抗菌性を示すのか、又は金属イオンとなって流出したときに抗菌性を示すのかをこれら金属の硝酸塩を用いて検討した。すなわち、コバルトやルテニウムの硝酸塩によるトマトかいよう病細菌の増殖抑制効果を明・暗条件下で調べた。得られた結果を表5に示す。
【0067】
【表5】

表5から明らかなように、コバルト、銀、銅、及びルテニウムの硝酸塩や塩化物が病原微生物の増殖を抑制することが分かる。コバルト塩に着目すると、明条件下において抗菌活性が最も優れているものは硝酸塩、次いで硫酸塩、最後に塩化物の順である。また、硝酸塩に着目して抗菌活性をみると、ルテニウムイオンが最も優れた抗菌活性を示し、次いで、銀イオン、コバルトイオン、銅イオンの順になっている。
実施例4:金属イオンを結合させた高分子素材の調製と抗菌活性評価20%EDTA酸無水物を含むDMF溶液中に絹糸又は羊毛を加え、75℃で異なる時間アシル化反応を行い、EDTAの導入量が違う試料を調製した。表6において、例えば、羊毛−EDTA(5.92%)及び絹糸−EDTA(10.31%)は、EDTAが羊毛及び絹糸に対して試料重量基準で、それぞれ5.92、10.31重量%化学的に導入されたことを意味する。
【0068】次に、これらの試料を、アンモニア水でpH11.4に調整した硝酸コバルト、硝酸ルテニウム、硝酸銀、又は硝酸銅等の金属塩水溶液に浸漬することにより、試料に金属イオンを結合させた。また、EDTA未加工の絹糸、羊毛についても、同様にして金属塩水溶液に浸漬することで金属イオンを結合させた。表6において、例えば、羊毛−EDTA(5.92%)−コバルト、絹糸−EDTA(10.31%)−コバルトとは、EDTAを所定量導入した上記試料を硝酸コバルト水溶液に浸漬し、コバルトイオンをEDTAに結合させた試料を意味する。
【0069】また、上記試料の他に、絹フィブロイン膜を用いて、上記と同様にして金属イオンを結合させた。まず、2.5gの家蚕絹糸を55℃の8.5M臭化リチウム水溶液20mL中で完全に溶解させた後、この水溶液をセルロース製透析膜に入れて、5℃で5日間蒸留水と置換することにより不純物を除去し、純粋な絹フィブロイン水溶液を調製した。かくして得られた絹フィブロイン水溶液に蒸留水を加え、絶乾濃度が0.4%となるように絹フィブロイン水溶液の原液を調製した。また、0.02mL/Lの金属塩水溶液(硝酸コバルト、硝酸ルテニウム、硝酸銀、又は硝酸銅水溶液)1mLと所定量の硝酸カリウム水溶液1mLとを混合し、混合水溶液を調製した。次いで、この混合水溶液に上記0.4%絹フィブロイン水溶液10mLを加え、蒸留水で全液量を25mLとした(イオン強度I=0.1)。この水溶液に1Nのアンモニア水を加えてpHを11.4とした後、5℃で12時間放置し、次いで、セルロース製透析膜を用いてpH11.4のアンモニア水で透析した。得られた水溶液をポリエチレン膜上に広げ、室温で水分を蒸発させ、金属イオンを含んだ、すなわち金属イオンの結合した絹フィブロイン膜を得た。
【0070】このようにして得た各種の試料について、トマトかいよう病細菌及び大腸菌に対する抗菌活性(明・暗条件下)の測定を行った。得られた結果をそれぞれ表6及び7に示す。
【0071】
【表6】

【0072】
【表7】

表6及び7の結果から、羊毛、絹等の蛋白質繊維や、絹フィブロイン膜に直接又はEDTAを介して金属イオンを導入したものが、病原細菌の増殖を抑制する活性を持つこと、明条件下では錯体のみの場合と同様に抗菌活性が増強していることが分かる。天然蛋白質繊維にEDTAを化学結合したものにコバルトイオン、ルテニウムイオンを結合させたものは優れた抗菌活性を示す。絹フィブロイン膜にコバルトイオン、ルテニウムイオンを結合させた膜状試料も抗菌活性を示す。コバルトイオンの代わりにルテニウムイオンを結合させた方がより優れた抗菌性を示した。
【0073】表6の試料、羊毛−EDTA(5.92%)−コバルト、絹糸−コバルト、絹糸−EDTA(10.31%)−コバルト、絹フィブロイン−コバルト膜、絹フィブロイン−ルテニウム膜、絹糸−EDTA(17.18%)−ルテニウムについて、上記した「金属イオンの耐久性評価試験法」に基づいて試験をした。試験後の試料は、いずれも抗菌性が試験前の試料とほとんど変わらず、耐久性は良好であった。
実施例5:金属錯体を固定化した高分子素材の調製と抗菌活性絹フィブロイン中に各金属の錯体を含んだ試料を調製するために、まず、コバルトの錯体の溶解条件を検討した。コバルトの錯体の中から、抗菌活性に優れた、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)コバルト(I)、コバルト(III)アセチルアセトナート、ビス(サリチルアルデヒド)コバルト(II)ジハイドレートの3種類の化合物を選び、水、DMF中での溶解度を調べた。なお、コバルトの錯体の溶解性は、5mLの水又はDMFに錯体2mgを投入し、25℃で20分静置した際の錯体の溶解状態を目視により簡易に評価したものである。その評価は次の3段階評価によって行った。
【0074】○:投入後速やかに溶解し、粉末状態が確認されなくなる。
【0075】△:粉末の一部が認められるだけで、ほとんどの試料は溶解して見えなくなる。
【0076】×:錯体は試験管の底に沈殿し、全く溶解する形跡が認められない。得られた結果を表8に示す。
【0077】
【表8】

表8から明らかなように、コバルトの金属錯体の例にみるとおり、DMFには良く溶解するが、水に対する溶解性は余り良くないものがある。そのため、金属錯体の溶媒として、DMF等の有機溶媒、水、又は所望によりDMFと水の混合溶液を用いることが好ましい。
【0078】次いで、上記結果に基づいて、絹フィブロイン膜中に配位子を含んだ試料を調製した。2.5gの家蚕絹糸を55℃の8.5M臭化リチウム水溶液20mL中で完全に溶解させた後、この水溶液をセルロース製透析膜に入れて、5℃で5日間蒸留水と置換することにより不純物を除去し、純粋な絹フィブロイン水溶液を調製した。この絹フィブロイン水溶液に蒸留水を加え、2%絹フィブロイン水溶液とした。一方、1,10-フェナントロリン(10mg=0.0555mmol)をDMFと水とを当量ずつ含む200μLの混合溶液に溶かした。この水溶液を5mLの上記2%絹フィブロイン水溶液に加え、セルロース製透析膜で透析した。このようにして得られた溶液をポリスチレン膜上に広げ、乾燥固化させることにより配位子結合抗菌性絹フィブロイン膜を調製した。
【0079】また、上記と同様にして、絹フィブロイン膜中に、銅、コバルト、ルテニウムの錯体を含んだ試料を調製した。1,10-フェナントロリン(10mg=0.0555mmol)に対して等モルの金属塩(硝酸銅、硝酸ルテニウム、又は硝酸コバルト)をDMF(100μL)に溶かし、これにDMFと等量の水(100μL)をさらに加え、室温で1日放置した。その後、得られた金属錯体水溶液を上記と同様にして調製した2%絹フィブロイン水溶液(5mL)に加え、さらに冷蔵庫内に1日静置した。このようにして得られた溶液を、セルロース製透析膜を用いて透析を行った後、又は透析を行うことなく、ポリスチレン膜上に広げ、乾燥固化させることにより金属錯体結合抗菌性絹フィブロイン膜を調製した。
【0080】上記の抗菌性絹フィブロイン膜はまた、市販の1,10-フェナントロリン錯体をDMFと水とからなる200μLの混合溶液(DMFと水との体積比=1:1)に溶かし、得られた混合溶液を2%絹フィブロイン水溶液(5mL)に加え、この水溶液をポリスチレン膜上に広げ、乾燥固化させることによっても得られる。
【0081】上記のようにして得られた膜を、水:メタノールの体積比1:1の混合溶媒に室温で5分間浸漬して、水不溶性にした。得られた不溶性試料についてトマトかいよう病細菌、大腸菌に対する菌増殖阻害実験を行った。得られた結果を表9〜11に示す。
【0082】
【表9】

【0083】
【表10】

【0084】
【表11】

表9〜11から明らかなように、配位子や金属錯体を絹フィブロイン蛋白質に坦持させることにより抗菌機能を持った膜を製造することが可能となった。また、膜調製時に透析を行うことにより金属錯体が流失し、抗菌活性が低下する傾向がある。
【0085】表9〜11の試料のうち、ジクロロ(1,10-フェナントロリン)銅(II)、トリス(1,10-フェナントロリン)ルテニウム(II)クロライドハイドレート、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)コバルト(I)を含有した絹フィブロイン膜について、上記した「金属イオンの耐久性評価試験法」に基づいて、pH3.8、25℃の酢酸水溶液に浸漬し、3日間静置した後、試料を取り出し室温で風乾させて、トマトかいよう病細菌に対する抗菌活性を評価した。得られた結果を表12に示す。
【0086】
【表12】

表12から明らかなように、浸漬試験後の試料は、いずれも抗菌活性が浸漬試験前の試料とほとんど変わらず、耐久性は良好であった。
実施例6:絹フィブロインと金属イオンとの錯体形成の検証水溶液状態のコバルト錯体化絹フィブロインのpH滴定曲線を文献(高分子論文集、51巻、167-171(1994))に示された方法で求めた。得られた結果において、消費されたOHの量を金属1イオン当たりに換算してpHに対してプロットすると、複数の階段状ステップ部位が認められたことから、絹フィブロインに金属イオンが結合していることが確かめられた。
【0087】次に、金属イオン含有絹フィブロイン水溶液中において絹フィブロインと金属イオンとが錯体を形成しているかどうかの検証を行った。
【0088】金属イオンの強度を調整するために、3.6mMの金属イオン(コバルトイオン、ルテニウムイオン)と50mM硝酸カリウムとを含む0.31重量%の絹フィブロインの水溶液のpHを、アンモニア水溶液で11.4に調整した。このようにして調整した金属イオンを含む絹フィブロイン水溶液を1mLの石英製の角形セルに入れ、電子スペクトル測定装置(日立製作所製、U-3200)で吸光度を測定した。測定の波数範囲は200〜500nmであった。コバルトイオン又はルテニウムイオンを含む絹フィブロインの水溶液の電子スペクトルに、絹フィブロインのみ、及び金属イオンのみの水溶液では全く見られない新しい吸収が出現した。すなわち、457nmに強度の大きなピークが出現した。この吸収ピークはd-d遷移に基づくものであり、絹フィブロインと金属イオンとが錯体を確かに形成していることを示すものである。従って、金属イオンを含む絹フィブロイン水溶液を乾燥固化させて得た絹フィブロイン膜の場合も金属イオンが錯体を形成している。
実施例7ジクロロ(1,10-フェナントロリン)銅(II)水溶液に絹フィブロイン水溶液を加え、銅の金属錯体を絹フィブロインに結合させた試料において、金属錯体が絹フィブロイン膜から溶出するかどうかの安定性(耐久性ともいう)を次のようにして評価した。なお、絹フィブロインと結合しない、錯体、銅イオン、又は配位子を混合水溶液系から除去する処理の前後で、絹フィブロインに含まれる金属錯体の耐久性を評価するため、銅の金属錯体水溶液と絹フィブロイン水溶液とを混合した後、セルロース製透析膜を用いて純水で置換操作を行った。透析処理を行った混合水溶液、行わなかった混合水溶液をポリエチレン膜上に広げて蒸発乾固させ、銅の金属錯体を含んだ絹膜を調製した。これらの試料をpH3.8の酢酸水溶液中に1〜72時間浸漬後、トマトかいよう病細菌に対する抗菌活性の測定を行った。得られた結果を表13に示す。
【0089】
【表13】

表13から明らかなように、透析の有無に関わらず酸性溶液に浸漬することで抗菌活性の若干の低下が見られるが、透析を行っていない試料の方が、72時間後でも抗菌活性が保持されることが分かった。
実施例8EDTA酸無水物で加工した家蚕絹糸、柞蚕絹糸、及び羊毛へのコバルトイオンの結合量(mmol/g)と加工率(%)との関係を調べた。結合量は、上記「金属イオンの定量」に記載の方法に従って測定した。得られた結果を図1に示す。EDTA酸無水物で加工した羊毛(羊毛−EDTA)へのコバルトイオンの結合量は加工率が増えると目立って増加する。EDTA加工した羊毛では、加工率が13%以上となるとコバルトイオンの結合率は平衡状態となる。このことから、羊毛に対するEDTAの使用量は、所定の平衡状態の結合率が達成できるだけの量であれば十分である。一方、EDTA加工した家蚕絹糸、柞蚕絹糸へのコバルトイオンの結合量はほぼ0.5〜0.6mmol/gであり、加工率が変わっても結合量の増加は明瞭ではない。このことから、絹糸に対するEDTAの使用量は、EDTA酸無水物がアシル化反応の結果、試料重量の10%となるように調整するとよい。羊毛と家蚕絹糸及び柞蚕絹糸とでみられたコバルトイオンの結合量の違いは、次の理由に基づくものと考えられる。未加工の羊毛及びEDTA加工した羊毛にコバルトイオンが結合するのは、絹の分子構造とちがって羊毛の分子構造には分子間に-S=S-結合が存在し、還元反応でこの結合が決裂する結果、生じた-S-基にコバルトイオンが結合するためであろう。
実施例9EDTA酸無水物で加工した家蚕絹糸をpHが異なるコバルトイオン含有水溶液(硝酸コバルト水溶液)中に一定時間浸漬することにより、この加工された家蚕絹糸にコバルトイオンを結合させ(家蚕絹糸−EDTA−コバルト)、コバルトイオンの結合量(mmol/g)とコバルトイオン含有水溶液pHとの関係を調べた。結合量は、実施例8の場合と同様に、上記「金属イオンの定量」に記載の方法に従って測定した。得られた測定結果を図2に示す。なお、EDTA酸無水物未加工の家蚕絹糸を対照区(家蚕絹糸−コバルト)として用いた。図2から明らかなように、未加工家蚕絹糸へのコバルトイオンの結合量は、該水溶液pHが7未満であると実質的にゼロであるが、pHが7以上となるとコバルトイオンの結合量は次第に増加した。これは、pHが7未満の酸性pHであると、家蚕絹フィブロインを構成する塩基性アミノ酸(例えば、Lys、Arg、Hist等)が解離し難いため、金属イオンと結合し易いNH2が形成されないからである。しかし、pHが7以上になると、NH3+が解離してNH2が形成するため、コバルトイオンの結合が目立って増加したものと考えられる。一方、EDTA酸無水物加工した家蚕絹糸へのコバルトイオンの結合量は、浸漬液のpHによらず0.4〜0.6mmol/gの値となり、浸漬液のpHが大きく変動してもコバルトイオンを効率的に結合するという長所が観察できる。このことから、目的に応じて、適宜の水溶液pHを自由に選択することが可能である。
実施例10EDTA酸無水物で加工した柞蚕絹糸をpHが異なるコバルトイオン含有水溶液(硝酸コバルト水溶液)中に一定時間浸漬することにより、この加工された柞蚕絹糸にコバルトイオンを結合させ(柞蚕絹糸−EDTA−コバルト)、コバルトイオンの結合量(mmol/g)とコバルトイオン含有水溶液pHとの関係を調べた。結合量は、実施例8の場合と同様に、上記「金属イオンの定量」に記載の方法に従って測定した。得られた測定結果を図3に示す。なお、EDTA酸無水物未加工の柞蚕絹糸を対照区(柞蚕絹糸−コバルト)として用いた。図3から明らかなように、得られた結果は実施例9で述べた家蚕絹糸の場合と同様であった。
実施例11EDTA酸無水物で加工した羊毛をpHが異なるコバルトイオン含有水溶液(硝酸コバルト水溶液)中に一定時間浸漬することにより、この加工された羊毛にコバルトイオンを結合させ(羊毛−EDTA−コバルト)、コバルトイオンの結合量(mmol/g)とコバルトイオン含有水溶液pHとの関係を調べた。結合量は、実施例8の場合と同様に、上記「金属イオンの定量」に記載の方法に従って測定した。得られた測定結果を図4に示す。なお、EDTA酸無水物未加工の羊毛を対照区(羊毛−コバルト)として用いた。図4から明らかなように、得られた結果は実施例9で述べた家蚕絹糸の場合と同様であった。
【0090】
【発明の効果】本発明の抗菌性素材は、抗菌性金属イオンとしてコバルトイオン、ルテニウムイオンを利用し、フェナントロリン等の抗菌性配位子、又は金属イオンと配位子が化学的に結合した錯体からなり、いずれも優れた抗菌活性を示す。また、これらの抗菌性物質は、絹蛋白質、羊毛ケラチン等の生体高分子素材と結合し得るため、使用に適した耐久性に富む抗菌性素材が提供できる。さらに、抗菌性を示さない配位子であっても、抗菌性金属イオンと配位結合した錯体は、優れた抗菌活性を示す。本発明のこれらの抗菌性素材はいずれも使用環境の明・暗等、すなわち光を照射するか否かの光照射条件により抗菌活性が変化し、光を照射する環境下で抗菌活性が著しく増強する。
【0091】これら抗菌性生体高分子素材は金属イオンを溶出し易くする酸性pHの水溶液中に浸漬処理しても、抗菌性の低下が極めて少なく、抗菌効果が持続し耐久性に優れたものである。従って、本発明の抗菌性素材は、衣料分野、医療分野、家庭用品分野、家電・事務分野、食品分野等の従来抗菌性が要求される分野のみならず、植物病原細菌に対して有効な抗菌活性を示すことから、農業、園芸分野においても好適に用いられ得る。農業、園芸分野において、特に液中や土壌中の病原菌の低減、外部からの病原菌侵入の阻止に有効であるので、例えば養液(水耕)栽培における循環液の殺菌フィルター材、土壌に混入する消毒材、土壌面に敷設する病害防除用不織布シート、又は樹木の病害治療部や切除部の保護テープ若しくはシート等として用いることができる。さらに、本発明の抗菌性素材は、植物病原細菌に近い動物病原細菌や腸内細菌に対しても同様な抗菌活性を示す。
【0092】本発明の抗菌性素材は、含有する金属イオンが溶出し難いため、生体や環境を悪染する危険性がない。また、金属イオンを配位した金属錯体を複数用いることで、各種の金属イオンを同一素材表面に固定化して同時に担持できるので、抗菌スペクトルを一層制御、拡大することが可能である。
【0093】本発明による抗菌性錯体の場合、抗菌性金属イオンを含み、かつ金属イオンと配位子とが錯体を形成しているので、抗菌性成分が溶出し難いという、従来の有機系抗菌剤にはない優れた特徴を有している。また、この抗菌性素材に人が接触しても、抗菌性成分が付着したりしないため安全である。
【0094】本発明で利用する抗菌性金属イオン、配位子、又は錯体の組成物は、スプレーとして用いることができ、木材、紙、金属、ガラス、セラミックス、プラスチック等のあらゆるものに、容易に抗菌性を付与することが可能である。
【0095】さらに、本発明の抗菌性素材は、細菌等の微生物に対し抗菌性を示し、かつ抗菌効果の耐久性に優れたものであるので、例えば、肌着、シャツ、ブラウス、パジャマ等の衣料品、寝装具、タオル、ハンカチ、若しくは包帯等の各種抗菌性製品として、又はマット、シート、綿体、粉砕体等の各種抗菌性製品の素材として好適なものである。
【出願人】 【識別番号】501167644
【氏名又は名称】独立行政法人農業生物資源研究所
【出願日】 平成13年2月14日(2001.2.14)
【代理人】 【識別番号】100106105
【弁理士】
【氏名又は名称】打揚 洋次 (外3名)
【公開番号】 特開2002−241206(P2002−241206A)
【公開日】 平成14年8月28日(2002.8.28)
【出願番号】 特願2001−37071(P2001−37071)