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【発明の名称】 抗菌処理用保持体および抗菌処理方法
【発明者】 【氏名】白井 邦郎

【氏名】石井 泰博

【氏名】野村 義宏

【氏名】中澤 昭治

【氏名】鈴木 興輝

【氏名】佐藤 武

【要約】 【課題】環境を汚染することが少なく、人体に対する有害性の低い抗菌処理用保持体およびそれを使用した抗菌処理方法を提供。

【解決手段】銀イオンを保持することができしかもチオール基を有する基材と結合しうるようになっている抗菌処理用保持体であって、前記保持体が、ケラチン材料をS−スルホン化してなる可溶性S−スルホン化ケラチンであることを特徴とする抗菌処理用保持体。予め表面を還元処理してチオール基を形成してなるタンパク質系材料を、前記保持体を結合させた後に該保持体に銀イオンを保持させるかまたは保持体に銀イオンを保持させた後に前記タンパク質材料を結合させる抗菌処理工程を行うことを特徴とする抗菌処理方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 銀イオンを保持することができしかもチオール基を有する基材と結合しうるようになっている抗菌処理用保持体であって、前記保持体が、ケラチン材料をS−スルホン化してなる可溶性S−スルホン化ケラチンであることを特徴とする抗菌処理用保持体。
【請求項2】 予め表面を還元処理してチオール基を形成してなるタンパク質系材料を請求項1に記載の保持体に結合させた後に銀イオンを該保持体に保持させるか、または銀イオンを前記保持体に保持させた後に前記タンパク質材料を該保持体に結合させることからなる抗菌処理工程を行うことを特徴とする抗菌処理方法。
【請求項3】 請求項2に記載の方法により抗菌処理させたタンパク質系材料。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、タンパク質系材料等の基材の抗菌処理方法に関し、更に詳細には、環境を汚染することが少なく、人体に対する有害性の低い抗菌処理用保持体およびそれを使用した抗菌処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術および発明の解決しようとする課題】現代人は、人体に有害な各種の外的汚染要因にさらされていると共に、近年では生物学的な刺激に対する免疫抵抗力の低下という大きな問題を抱えている。生活環境の中で起こる微生物による汚染またはその攻撃から人体を安全に守るためには、衣類などの生活用品または作業上皮膚や人体組織と直接接触する用具類を介して起こる微生物汚染を有効に防止する必要があり、この観点から環境と体に優しい抗菌処理技術の開発が重要である。
【0003】このような観点から各種の抗菌システムが提案されており、従来は、対象とする生活用品や用具類の基材に何らかの抗菌物質を混合するか、またはその表面に結合させる方法が提案されている。
【0004】前者の抗菌物質を混合する方法は、熱可塑性樹脂のような基材に対しては有効であるが、通常衣類に使用される羊毛、絹等のタンパク質系材料には適用できないという問題がある。また、人体との接触面で抗菌作用が発揮されないと、十分な抗菌効果が得られないにもかかわらず、混合された抗菌物質の殆どが基材の表面に存在せず、基材のバルク中に埋没してしまうため、所望の抗菌効果が得られないという問題もある。
【0005】また、後者の表面に抗菌物質を結合させる方法は、対象とする基材の表面のみに重点的に抗菌効果を付与するのには適している。しかし、基材表面に抗菌物質を強固に結合させることができないという問題がある。例えば、羊毛などのタンパク質系繊維を直接有機または無機の抗菌物質で表面処理しても、使用中の摩擦や汗などの影響で容易に脱落し、抗菌効果が持続しにくい。例えば、代表的な抗菌物質である銀イオンをタンパク質繊維と反応させると、銀イオンはタンパク質の官能基(主としてカルボキシル基)とイオン結合または配位結合を形成してその表面に固定される。しかし固定された銀イオンは、皮膚との摩擦や汗などの影響で繊維表面から溶出する。溶出した銀イオンは皮膚表面の汗等の水相中に存在する高濃度の塩素イオンと反応して塩化銀を形成して固有の抗菌効力を失ってしまうという問題がある。一方、タンパク質繊維と銀イオンを不可逆的に強固に結合させると銀イオンは全く溶出しなくなり、この場合も銀イオンによる抗菌効果が現れないという問題があった。このように、銀イオンの放出濃度と速度とを適度に制御することが抗菌効果の持続に必要である。
【0006】従って、本発明の目的は、周辺環境を汚染することが少なく、人体に対してほぼ無害であり、しかも抗菌効果の持続性にも優れた抗菌効果を示し得る抗菌処理用保持体および当該保持体を使用する抗菌処理方法を提供することにある。
【0007】
【発明の概要】上述したように、銀イオンを直接繊維タンパク質に結合させることは好ましくなく、本発明者らは、銀イオンの放出を適切にコントロールできるような銀イオン保持体を介してタンパク質に結合させることが望ましいと考え、以下に述べるような抗菌システムの改善を考えた。
1)基本的に体に優しい材料のみを使用して抗菌システムを構成する。このため抗菌作用を持つ物質としては、医用その他の分野で古くから安全に使用されてきた銀イオンを使用する。
2)銀イオンを抗菌処理の対象とする基材、例えば、羊毛などのタンパク質系基材に固定させるため、両者を直接結合するのではなく、銀イオン保持体として可溶化した毛のタンパク質等の可溶性タンパク質を使用し、これにより銀イオンの放出を適切にコントロールできるように銀イオンを結合させる。
3)基材表面に保持体を強固に固定するため、両者の間で容易にジスルフィド共有結合が形成されるように化学修飾された保持体を使用する。
4)上記の化学修飾としては、保持体からの銀イオンの放出が適度な濃度と速度(すなわち塩素イオンとの間で塩化銀を形成しないが抗菌効果を発揮する程度の平衡濃度)で行われるようなものを選ぶ。
5)上記化学修飾としては3)の条件と同時に4)の条件を満足するものを選ぶ。そして、本発明者らは、上記2)〜5)の条件を満足するため、シスチンを多量に含むケラチンに着目し、これをS−スルホン化して得た可溶性S−スルホン化ケラチンを保持体として使用することにより前記目的が達成されうることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0008】
【発明を解決するための手段】したがって、本発明は、銀イオンを保持することができしかも表面にチオール基を有する基材、特にタンパク質系材料と結合しうるようになっている抗菌処理用保持体であって、前記保持体が、ケラチン材料をS−スルホン化してなる可溶性S−スルホン化ケラチンであることを特徴とする抗菌処理用保持体にある。
【0009】さらに、本発明は、予め表面を還元処理してチオール基を形成してなるタンパク質系材料を前記保持体に結合させた後に銀イオンを該結合した保持体に保持させるか、または銀イオンを前記保持体に保持させた後に前記タンパク質材料を該保持体に結合させることからなる抗菌処理工程を行うことを特徴とする抗菌処理方法にある。
【0010】また、本発明は、前記抗菌処理方法により抗菌処理させたタンパク質系材料にある。
【0011】
【発明の実施の形態】以下、本発明の好ましい実施形態について説明する。本発明の抗菌処理用保持体は、銀イオンを保持させることができしかも表面にチオール基を有する基材、特にタンパク質系材料を結合しうるようになっている抗菌処理用保持体であって、当該保持体は、ケラチン材料をS−スルホン化してなる可溶性S−スルホン化ケラチンであることを特徴とする。
【0012】本発明において前記可溶性S−スルホン化ケラチンの原材料として用いられる前記ケラチン材料としては、豚毛や牛毛等の動物毛、羽毛、動物の蹄、角等を挙げることができる。
【0013】前記ケラチン材料の可溶化は、羊毛等の微細構造の解析に際して用いられたような、毛ケラチンをスルホン化して可溶性にする公知の方法を使用することができ、例えば、ケラチン材料を亜硫酸塩単独または硫酸銅との併用の下で処理するか、ジチオスレイトール等のチオール化合物で処理した後、亜硫酸塩と4チオン酸ナトリウムのような4チオン酸塩とでスルホン化して前記ケラチン材料を処理することにより行うことができる。
【0014】ケラチンの可溶化の方法を具体的に挙げると、図1に示すように、ケラチン材料としての動物毛を公知の方法により粉砕して毛粉を得、得られた毛粉を適量のトリス塩酸緩衝液(pH9.5)中に分散させて分散液を得、これに尿素/ジチオスレイトールを加えて攪拌処理をする。次いで、亜硫酸塩および4チオン酸塩を添加し、更に攪拌してS−スルホン化を行う。その後、遠心分離を行い、上澄み液を蒸留水に対して透析し、全可溶化ケラチンであるS−スルホン化ケラチン(以下、「Bk」ということがある)を得る。更に、得られたBkを一旦凍結させ、解凍した後、再度遠心分離にかけ、上澄み液と沈殿物とに分ける。それぞれを凍結乾燥させて、上澄み液からマトリックス由来のS−スルホン化ケラチン(以下、「Bs」ということがある)が得られ、沈殿物からミクロフィブリル由来のS−スルホン化ケラチン(以下、「Bp」ということがある)が得られる。
【0015】前記遠心分離、前記透析、前記凍結、前記解凍、前記凍結乾燥等は、通常公知の方法を特に制限なく用いて行うことができる。本発明の保持体として、このようにして得られる全可溶性S−スルホン化ケラチンであるBk自体を用いることができるが、目的に応じてマトリックス由来のBsまたはミクロフィブリル由来のBpを使い分けることにより、より所望の効果が得られる。
【0016】ここでBkからの画分BsとBpとの顕著な違いをまとめてみると、BsはS−スルホン酸基含量がBpの約2倍で、酸性からアルカリ性まで広いpH範囲で溶解度が高く、分子量が2万以下で、繊維形成能のないタンパク質である。
【0017】一方、Bpは、分子量4.5万〜6万で、中性〜アルカリ性でよく解け、繊維形性能を有するタンパク質である。また、Bsは、Bpに比較してシスチン、プロリン、セリン、スレオニン残基が顕著に多い。また、Bsが主に分子サイズ10〜20kDaの成分からなるのに対して、Bpが主に45kDa,55kDaの成分からなる。これらはそれぞれ、原毛のマトリックスタンパクとミクロフィブリルタンパクとの差に基づく特性を示している。
【0018】本発明の抗菌処理用保持体は前記可溶性S−スルホン化ケラチンを含み、該保持体に銀イオンを保持させることができる。即ち、本発明の可溶性S−スルホン化ケラチンのスルホン化された部分の概念式は【0019】
【化1】CP(S−SO3-) (1)のように表すことができる。ここで、CPは保持体のタンパク質本体である。
【0020】このように前記可溶性S−スルホン化ケラチンに銀イオンを保持させるには、前記可溶性S−スルホン化ケラチンの水溶液に銀イオンを形成し得る硝酸銀などの銀塩化合物を添加して、前記可溶性S−スルホン化ケラチンのS−スルホン酸基と銀イオンとを下記式のように反応させて結合させる。
【0021】
【化2】
CP(S-SO3-)x+y+xAg+ → CP(S−SO3-)y[S-SO3Ag]x (2)ここで、xは銀イオンが結合されるモル数を表し、yは銀イオンが未結合で残るスルホン化された部分のモル数であり、[S-SO3Ag]は配位結合の形成を示す。
【0022】本発明の抗菌処理用保持体は、後述の抗菌処理方法等により各種のチオール基を有する基材、特にタンパク質系材料の抗菌処理に用いることができる。本発明の抗菌処理用保持体は、上述のように構成されているので、周辺環境を汚染することが少なく、人体に対してほぼ無害であり、しかも抗菌効果の持続性にも優れたものである。
【0023】次に、本発明の抗菌処理方法について説明する。本発明の抗菌処理方法は、前述の抗菌処理用保持体に銀を保持させた後、基材を結合させるか、または前記保持体に基材を結合させた後、銀イオンを保持させるかのいずれかにより抗菌処理工程を行うができる。
【0024】前記抗菌処理工程の前に、基材の表面にチオール基を形成する前処理、例えば、タンパク質系材料の表面を還元処理してチオール基を導入する前処理を行い、前記保持体をジスルフィド結合により強固にタンパク質系材料の表面に結合させる。前記還元処理工程は、チオール化合物を用いて行うのが好ましい。
【0025】更に具体的に説明すると、処理の対象である基材としてはタンパク質系材料、例えば羊毛等の動物系繊維が好ましく挙げられるが、本発明による抗菌処理の対象となるものはこれらに限定されず、チオール基を有するようにしたその他のタンパク質材料またはチオール基を付加しうるような合成材料にも適用できる。
【0026】本発明でチオール基を導入するのに用いることができるチオール化合物としては、例えば、β−メルカプトエタノール、チオグリコール酸塩、ジチオスレイトール等を挙げることができる。
【0027】また、前記抗菌処理工程において、前記保持体の使用量は、保持体のスルホン基の数、基材のチオール基の数、結合させるべき銀イオンの数等に依存して変動し得るが、通常、前記タンパク質系材料1gに対して、S−スルホン酸基として0.1〜20ミリモル、好ましくは、0.5〜5ミリモルを使用する。
【0028】処理条件は、10〜40℃の温度条件で、1〜3時間の反応時間条件とするのが好ましい。具体的な処理は、前記保持体をS−スルホン酸基として2〜40ミリモル/リットルの濃度で含む水溶液中に前記前処理を施したタンパク質系材料を浸漬させる等して行うことができる。
【0029】そして、前記保持体でタンパク質系材料を処理した場合には、この後、銀イオンを保持させるために、硝酸銀溶液等の銀塩溶液に処理されたタンパク質系材料を浸漬させる。この際の銀塩溶液における銀塩化合物の濃度は、10〜100ミリモル/リットルとするのが好ましい。
【0030】要するに、本発明において、前記抗菌処理工程では、前記保持体に銀イオンを保持させてからタンパク質材料を結合させる方法と一旦前記保持体にタンパク質材料を結合させた後、銀イオンを保持させる方法とが採用しうるが、後者の方法の方が実施が容易である。
【0031】このようにして抗菌処理を行うことにより、基材表面、例えば、繊維表面のチオール基と保持体のS−スルホン酸基が反応してジスルフィド結合が形成され、銀イオンが繊維表面で保持体の残余のS−スルホン酸基と結合して、図2に示すような保持体を介して銀イオンが繊維に結合した抗菌システムが構築できる。このように構成された抗菌システムでは、以下のような特徴的な効果が奏される。
1)保持体と繊維との間でジスルフィド共有結合を形成しているので、その結合が強固であるのに対して、銀イオンとの間ではイオン結合ないし配位結合を形成しているので適度に解離して銀イオンを放出し、銀イオン固有の制菌効果を発揮できる。
【0032】保持体が上記のような機能を発揮できる理由は、下の概念式に示すように反応性を有するS−スルホン酸基がSH基を持つ物質との間でジスルフィド結合を形成する一方で、銀イオンとの間で配位結合もしくはイオン結合を形成する二種類の反応をし得るからである。
【0033】
【化3】
CP−S−SO3- + RSH → CP−S−S−R +HSO3- (3)CP−S−SO3- + Ag+ → CP−〔S−SO3Ag〕 (4)ここで、CPは保持体のタンパク質部分本体を示す。また、Rは基材の本体部分を示す。また、保持体が、このような機能を実際に発揮できるためには、保持体分子中にS−スルホン酸基が多数存在することが必要である。この点、S−スルホン酸基は、前述したようにタンパク質中のシスチン残基から容易に変換できるので、動物毛のようにシスチン残基の多いタンパク質からなるケラチン材料を保持体に選ぶことが重要である。
2)ケラチン材料として動物毛を用いた場合には、上記のような反応性を持つだけでなく、前述のように毛中のシステン含量が特に多い画分を分離して使用することが可能であり、効果を更に高めることが可能である。
3)本発明を構成する保持体のタンパク質と抗菌物質(銀イオン)とは、いずれも人体と環境に優しい物質であるので、本発明の抗菌処理剤および抗菌処理方法により形成される抗菌システムの人体の健康並びに周辺環境に対する安全性が保証される。
【0034】
【実施例】以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、これらの実施例は、本発明の範囲を何ら制限するものではない。
【0035】(実施例1)<保持体としての可溶化物の調製>豚毛を粉砕した毛粉2gを200mlの8Mの尿素と0.05Mのジチオスレイトールを含む0.05Mトリス塩酸緩衝液(pH9.5)に分散し、4℃で24時間攪拌して、前処理を行った。
【0036】次いで、この反応液に亜硫酸ナトリウムおよび4チオン酸ナトリウムをそれぞれ最終濃度0.2Mとなるように添加し、4℃で24時間攪拌してS−スルホン化を行った。
【0037】そして、図1に示すように遠心分離をし、上澄み液を蒸留水に対して透析をし、透析チューブ内に1.32g(無水物重量換算)の蛋白質溶液(Bk)を得た。得られたBkの溶液をチューブ内で凍結、解凍後、内容物を遠心分離により上澄み液と沈殿物に分けた。それぞれを凍結乾燥し、上澄み液から0.36g(無水物重量換算)の白色のBs粉末を得、沈殿物からは0.96g(無水物重量換算)の白 色のBp粉末をそれぞれ得た。
【0038】得られたBk、Bs、Bpの収量を表1に示す。また、Bk、Bs、Bpのアミノ酸組成を表2に示す。また、豚毛に代えて牛毛を用いた以外は同様にして、牛毛由来のBk、Bs、Bpをそれぞれ得た。得られたBk、Bs、Bpの収量を表1に示す。Bk、Bs、Bpのアミノ酸組成を表2に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】表2に示す結果から明らかなように、Bs画分の方がBpに比較してシスチン、プロリン、セリン、スレオニン残基が顕者に多いことが判る。これは原毛のミクロフィブリル由来のタンパクとマトリックス由来のタンパクとの違いを反映している。
【0042】得られた生成物のうち豚毛由来のBs、Bpについてフーリエ変換赤外吸収スペクトル分析を行い(KBr錠剤法で透過光測定)、また別にSDSポリアクリルアミド電気泳動測定を行った(12.5%濃度のポリアクリルアミドゲルを用い、アルシアンブルーとクマシーブルーによる二重染色により行った)。フーリエ変換赤外吸収スペクトル分析のチャートを図3に示す。SDSポリアクリルアミド電気泳動写真を図4に示す。
【0043】図3から明らかなように、可溶性S−スルホン化毛ケラチン画分Bs、Bpに原毛のスペクトルにはない1024cm―1にするどいピーク(ペプチド鎖に結合したS−SO3による吸収)が存在することが判る。また、このピークは生成物をジチオスレイトールで還元してスルホン基を脱離させると消失したので、Bs、Bp生成物がS−スルホン化ケラチンからなることが確認できた。
【0044】図4から明らかなように、Bsが主に分子サイズ10〜20kDaの成分からなり、Bpが主に45kDa,55kDaの成分からなることが判る。これはそれぞれ、マトリックスタンパク、ミクロフィブリルタンパクに特徴的なパターンで、原毛の画分による分子サイズの特徴を反映している。
【0045】(実施例2)実施例1の動物毛の代わりに羽毛、動物の蹄、角などのシスチン含量の高いタンパク質を使用した以外は同様にして保持体を得た。
【0046】(実施例3)<保持体による銀イオンの保持>本実施例は、銀イオンが所定の保持力を有して保持体により捕捉されることを示す。
【0047】銀イオンは塩素イオンが存在する水溶液中では、下式(5)のような反応で塩化銀として沈殿する。
【0048】
【化4】Ag++Cl―=AgCl(沈殿) …(5)
―定量の塩素イオンを含む水溶液に添加する銀イオン(硝酸銀)の量を段階的に増していくと、塩化銀の溶解度積条件を超えた時から溶液は塩化銀により白濁してくる。この白濁は溶液の吸光度(600nm)の増加で検出できる。そこで、塩素イオンを含む系として塩化ナトリウムを0.5mg/mlの濃度で含む水溶液を調製し、ここに硝酸銀を徐々に添加した際の検出記録を図5に示す。図5のAgNO3(…○…印)の曲線から分かるように、Agを0.2mg/ml相当量添加すると既に塩化銀の沈殿が生じていることが判る。
【0049】同様に塩素イオンを含む溶液にさらに上記で得られたS−スルホン化ケラチンとして豚毛由来のBsを1.6mg/mlとなるように含ませた溶液に硝酸銀を徐々に添加した。その結果、図5のAg−Bs曲線(−●−印)で示されるように、Agの添加量が0.3mg/ml以内であれば全く白濁せず、0.6mg/ml以内であれば殆ど白濁しないこと、添加量が0.8mg/mlを超えると白濁が急激に上昇することを示す。したがって、1.6mgのBsが0.6mgまでのAgを十分に捕捉する能力を持つことが判る。このことから、S−スルホン化ケラチンからなる保持体が所定の保持力を有して銀イオンを捕捉することが確認できた。
【0050】このようにして、Bsからなる保持体に銀イオンが保持された複合体を得た。
(実施例4)<複合体の細菌生育阻止効果>実施例3に記載したようにして得られた複合体から銀イオンが全く放出されなければ、銀イオン固有の制菌効果は発揮しない筈である。そこで、図6に示す各濃度で銀イオンを含む液体培地で且つBsと硝酸銀とをBs 1に対して銀 10の割合の複合体を形成し得るような割合で含む液体培地を作り、培地中で複合体を形成させ、大腸菌E.coliの生育実験を行い、その際の600nmでの吸光度を測定した。その結果を図6に示す。また、比較対照として、単に各濃度で銀イオンを含む硝酸銀のみを含有する液体培地を作り、大腸菌E.coliの生育実験を行った。図6に示す銀のみの系の結果(Ag曲線−□−)から明らかなように、菌の生育は、銀の濃度が0.003mg/ml以下であれば阻止を受けず、この濃度を超えると急激に菌の生育が減少した。この濃度以上で銀イオン固有の抗菌効果が現れることを示す。銀とBsとの複合体系(Ag + Bs曲線…◇…)も前記銀のみの系も共に、Agとして0.003mg/ml以上の濃度で生育阻止効果が現れた。同様の実験を寒天平板培地で行い、菌の生育が阻止された面積で測定し、両者共に等しい抗菌効果を持つことを認めた。
【0051】このことからBsは上述のように銀イオンを捕捉して複合体を形成するが、この複合体は銀イオン固有の制菌効果を失っていないことが確認できた。
(実施例5)<羊毛繊維への保持体の固着能の確認>本実施例は、保持体が基材に結合することができることを示す。
【0052】Bsの官能基であるS−SO3基は、チオール化合物RSHと室温で下式(6)式のように反応して、スルホン基を脱離するとともにRとの間でジスルフィド共有結合物を形成する。
【0053】
【化5】
Bs(S−SO3-)x+y+yRSH=Bs(S−SR)y(S−SO3-)x+yHSO3- (6)
ここで、RはS−スルホン酸基との間でスルフィド結合を形成し得る適当な基(基材本体部)であり、xは銀イオンと結合し得る残余のS−スルホン基のモル数であり、yはR基と結合し得るモル数である。
【0054】この反応を還元羊毛に応用すれば、Bsを羊毛タンパク質にジスルフィド共有結合で結合することが可能となり、繊維へのBsの非常に強固な固定が実現する筈である。
【0055】そこで、羊毛粉を予めジチオスレイトールで還元し、過剰の試薬を除いてからpH8.6に調整したBsの水溶液に添加し、常温で2時間インキュベートした後、該液のタンパク質濃度の低下から羊毛と結合したBs量を計算すると、初発のBs量の25〜30%が羊毛粉と結合したことがわかった。この羊毛粉とBsの結合物をpH7の緩衝液で洗ったが溶出したBsは僅かで、最終的に羊毛に対して1%のBsが強固に結合したことがわかった。したがって、本発明の抗菌処理剤を構成する前記保持体に羊毛に強固に結合することが確認できた。これはBsが還元羊毛との間で下式(7)のような反応でジスルフィド共有結合を形成したためと推測される。
【0056】
【化6】
Bs(S−SO3-)x+y+(WSH)y=Bs(S−SW)y(S−SO3-)x+yHSO3- (7)
ここで、x、yは(6)式で定義した通りであり、WSHは還元羊毛であり、羊毛のタンパク質中にSH基が存在することを示す概念式である。
【0057】以上の結果から、本発明の抗菌システム(すなわち、可溶性S−スルホン化ケラチンを保持体として使用し、これを繊維表面に共有結合させ、当該結合した銀イオンを付加することにより繊維の抗菌処理をするシステム)の有効性が確認された。
【0058】(実施例6)上述のようにして得られた可溶性S−スルホン化ケラチン(Bk)の1重量%水溶液に、予めβ―メルカプトエタノールで表面を還元し、水洗した羊毛繊維のニットを浸漬し、炭酸アンモニウムでpH8以上に調整した後、室温で2時間保持した。
【0059】保持体で処理した前記ニットを水洗してから、硝酸銀の0.5重量%水溶液に室温で2時間浸漬した。過剰の銀塩を水洗して除去してから繊維を乾燥し、銀で抗菌処理した羊毛繊維製品を得た。
【0060】(実施例7)保持体としての可溶性S−スルホン化ケラチンの水溶液にその1gあたり1ミリモル以下のチオグリコール酸ナトリウムを添加後、還元前処理をしていない未処理羊毛を浸漬し、炭酸アンモニウムでpH8以上に調整した後、40℃以下の温度で数時間保持した以外は、実施例6と同様にして銀で抗菌処理した羊毛繊維製品を得た。
【0061】
【発明の効果】本発明の抗菌処理剤用保持体および当該保持体を使用する抗菌処理方法は、周辺環境を汚染することが少なく、人体に対してほぼ無害であり、しかも抗菌効果の持続性にも優れたものである。
【出願人】 【識別番号】000135151
【氏名又は名称】株式会社ニッピ
【出願日】 平成13年1月26日(2001.1.26)
【代理人】 【識別番号】100089705
【弁理士】
【氏名又は名称】社本 一夫 (外5名)
【公開番号】 特開2002−220311(P2002−220311A)
【公開日】 平成14年8月9日(2002.8.9)
【出願番号】 特願2001−18060(P2001−18060)