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【発明の名称】 植物を保護するための植物エステラーゼおよびその使用方法
【発明者】 【氏名】オー ボング−ジュン

【氏名】キム ヤング スーン

【氏名】コー ムーン キュング

【氏名】リー ヒュン ファ

【氏名】ソング チャエ ユン

【氏名】リー ヨング ファン

【氏名】バエ チェオル ヨング

【要約】 【課題】

【解決手段】エステラーゼ活性により菌類(例えば、炭疽菌Colletotrichum gloeosporioidesまたはイネいもち病菌Magnaporthe grisea)の付着器形成を阻害することで、植物病原性菌類から植物を保護することを特徴とする、植物病原性菌類から植物を保護するための、トウガラシのエステラーゼおよびブタのエステラーゼからなる群より選ばれるエステラーゼ活性酵素の使用方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】エステラーゼ活性により菌類の付着器形成を阻害することで、植物病原性菌類から植物を保護することを特徴とする、植物病原性菌類から植物を保護するための、トウガラシのエステラーゼおよびブタのエステラーゼからなる群より選ばれるエステラーゼ活性酵素の使用方法。
【請求項2】上記菌類が炭疽菌Colletotrichum gloeosporioidesまたはイネいもち病菌Magnaporthe griseaであることを特徴とする請求項1に記載の使用方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の技術分野】本発明は、植物病原性菌類から植物を保護するための酵素の使用方法に関する。詳しくは、菌類の付着器形成を阻害することにより植物病原性菌類から植物を保護するための、エステラーゼ活性を示す酵素の使用方法に関する。さらに、本発明は、菌類の付着器形成を阻害することにより植物病原性菌類から植物を保護するため、大腸菌(Escherichia coli)を用いて発現される組み換えトウガラシエステラーゼの使用方法に関する。
【0002】
【発明の技術的背景】カルボキシルエステラーゼは、エステル結合を含有する化合物の加水分解を触媒する酵素である。酵素エステラーゼまたは酵素リパーゼをエンコードする遺伝子は、主に哺乳類および微生物の分野において研究されてきた(Contreras et al. 1996; Feller et al. 1991; Kok et al. 1993; Langin et al.1993; Osterund et al. 1997)。植物のリパーゼでは、胚の成長に必要なエネルギーを供給する発芽脂肪種子に関し、広く研究がされてきた(Huang, 1987)。
【0003】植物−微生物相互作用において、タバコエステラーゼ遺伝子、hsr203Jが、病原性バクテリアRalstonia solanacearumに対する過敏性反応において、タバコから単離された(Badounin et al. 1997; Pontier et al. 1994)。近年、シロイヌナズナ(Arabidopsis)中のR遺伝子が媒介する疾患耐性の重要な成分であるEDS1遺伝子が単離され、真核生物のリパーゼと相同性を有することが見出された(Falk et al. 1999)。さらに、Arabidopsis PAD4は、病原菌に感染すると、多重の防御応答の発現のため要求される遺伝子であるが、この遺伝子は、リパーゼモチーフおよびリパーゼの推定される触媒三つ組み残基(catalytic triad)を含むリパーゼをエンコードする(Jirage et al. 1999)。しかしながら、植物の防御機構におけるこれらの酵素の生理的役割はいまだ明らかにされていない。
【0004】Colletotrichum gloeosporioides(Penz.) Penz. & Sacc. in Penz.は、果実収穫物に影響を及ぼす炭疽病の原因となる病原体である(Daykin 1984; Oh et al.1998)。C. gloeosporioidesの初期感染の筋道は、分生子発芽と付着器形成から構成される(Bailey et al. 1992)。その後、付着器から感染菌糸が作られ、この菌糸が宿主組織に侵入して、ホストにコロニーを形成する。トウガラシ−C.gloeosporioidesの病理体系において、未完熟だが発育十分な果実のみが感受性(susceptible)相互作用を示し、熟した果実では相互作用に対し耐性を示した(Kim et al. 1999; Oh et al. 1998)。耐性相互作用では、感受性相互作用と比較して、より低いレベルの付着器形成が観察された。このことは、この病理体系において、付着器形成が炭疽病の発生に積極的に関係していることを示唆している。
【0005】本発明者らは、これまでに、熟した果実とC. gloeosporioidesとの耐性相互作用の間に、高度に発現されるトウガラシエステラーゼ遺伝子(PepEST)を複製している(U.S. Pat. No. 6,018,038; EP 1 018 554 A1)。ここでは、我々は、Escherichia coli中で発現される組み換えPepESTタンパク質が、p-ニトロフェニルエステルの加水分解において基質特異性を示すことを報告した。この組み換えPepESTは、供与量に依存して炭疽病菌の付着器形成を阻害し、C. gloeosporioidesの感染からトウガラシ果実を保護した。さらに、我々は、イネいもち病菌Magnaporthe griseaを用いて得られた実験結果に基づき、組み換えPepESTが、付着器形成を含むシグナル変換経路に影響を与えるということを提案する。
【0006】
【発明の概要】本発明は、植物病原性菌類から植物を保護するための、エステラーゼ活性を示す酵素の使用方法を提供するものである。上記酵素は、菌類の付着器形成を阻害することにより、植物病原性菌類から植物を保護し得るエステラーゼであることが好ましい。動植物から得ることができるこのエステラーゼの使用方法は、植物を保護する目的で用いることができる。さらに、上記エステラーゼは、ナス科(family Solanaceae)のナス・ジャガイモ属(genus Solanum)より得られるものであることがより好ましい。このようなエステラーゼは、例えば、トウガラシ植物からも得ることができる。上記菌類としては、例えばトウガラシ炭疽病菌Colletotrichum gloeosporioidesとイネいもち病菌Magnaporthe griseaが挙げられる。
【0007】トウガラシ(Capsicum annuum)と炭疽病菌Colletotrichum gloeosporioidesとの耐性相互作用の間に高度に発現されるトウガラシエステラーゼ遺伝子(PepEST)がこれまでに複製されている〔トウガラシエステラーゼ遺伝子(PepEST)の配列は、特許公報No.3,103,344に開示されている〕。Escherichia coli中で発現されるグルタチオン−S−トランスフェラーゼが付けられた(tagged)組み換えPepESTタンパク質は、p-ニトロフェニルエステルに対し、基質特異性を示した〔トウガラシエステラーゼタンパク質(PepEST protein)の配列は、特許公報No.3,103,344に開示されている〕。
【0008】感受性-未熟のトウガラシの果実に、組み換えPepESTタンパク質を用いて改質した(amended)C. gloeosporioidesの胞子を接種しても、果実に炭疽病の兆候は起きなかった。この組み換えタンパク質は、殺菌活性を持たないが、供与量に依存して炭疽病菌の付着器形成を有意に阻害する。ブタの肝臓から得られるエステラーゼもまた付着器形成を阻害した。
【0009】さらに、組み換えPepESTタンパク質は、イネいもち病菌Magnaporthe griseaの付着器形成を阻害した。組み換えタンパク質によるM. griseaの付着器形成の阻害は、cAMPまたは1,16-ヘキサデカンジオールを用いた処理によって可逆的であった。この結果は、組み替えタンパク質が、この菌類中のcAMP依存性シグナル経路を調節することにより、付着器形成を制御していることを示唆している。総合すると、PepESTエステラーゼ活性は、C. gloeosporioidesの付着器形成を阻害することができ、その結果として、菌類から未熟の果実が保護されるのであろう。
【0010】
【発明の実施の形態】本発明は、植物病原性菌類から植物を保護するための酵素の使用方法を提供するものである。詳しくは、本発明は、菌類の付着器形成を阻害することにより、植物病原性菌類から植物を保護するために、エステラーゼ活性を示すトウガラシエステラーゼ酵素およびブタのエステラーゼ酵素を使用する方法を提供するものである。さらに、本発明は、菌類の付着器形成を阻害することにより、植物病原性菌類から植物の保護を図るために、Escherichia coliを用いて発現される組み換えトウガラシエステラーゼを使用する方法を提供するものである。
【0011】GST-付加(tagged)組み換えPepESTは、E. coli中で製造し、ほぼ均一になるまで精製した(図1)。この組み換えタンパク質は、カルボキシエステラーゼ活性の基質として用いられるp-ニトロフェニルエステルを加水分解する能力を有するが、GSTタンパク質は、これらの基質を分解することはできなかった(図2)。我々は、p-ニトロフェニルエステルを用いて、アシル鎖長による酵素活性を調べた。この組み換えタンパク質の酵素活性は、p-ニトロフェニル−アセテート(C2)では192nmol min-1 mg-1であり、−ブチレート(C4)では24nmol min-1 mg-1であり、−ラウレート(C12)では、0.1nmol min-1 mg-1であった(図3)。この活性は、p-ニトロフェニルアセテートで最大で、−ブチレートで10倍減少し、−ラウレートではさらに低かった。
【0012】菌類のクチナーゼまたはエステラーゼにより改質された植物病原性菌類Rhizoctonia solaniのインゲン豆(bean)への接種によっては、くもの巣病(web blight symptoms)の症状は生じなかったことが報告されている(Parker and Koeller 1998)。そのため我々は、PepESTタンパク質が、C. gloeosporioidesによってトウガラシの果実に引き起こされる炭疽病の症状を防止する能力を有するか否かを試験した。胞子の懸濁液をトウガラシの未熟の果実と、熟れた果実の双方に点滴接種した。我々がこれまでに観察していたように、接種後、5日以内で未熟な果実に、典型的な炭疽病の症状である壊死性のくぼんだ病斑が観察された(Oh et al. 1998)(図4A)。しかしながら、100μg ml-1の組み換えタンパク質で改良した胞子は、未熟な果実と不和合的(incompatible)であった(図4B)。ポジティブコントロールとして用いた不和合性の熟した果実は、炭疽病の症状を全く示さなかった(Kim et al. 1999)。組み換えタンパク質単独で果実を処理した場合、肉眼で見られるような変化は生じなかったが(データ示さず)、100μg ml-1のGSTタンパク質で改質した胞子の懸濁液を適用した場合、未熟の果実に病気の症候が現れた。
【0013】さらに、上記の組み換えPepESTの防御作用を解明するために、我々は、組み換えタンパク質がインビトロで菌類の成長に直接影響を及ぼすかについても調査を行った。C. gloeosporioidesの胞子を、100μg ml-1の組み換えPepESTタンパク質、GST、ブタのエステラーゼ、または滅菌水の存在下、カバーガラス上で育成した。組み換えタンパク質、GST、あるいはブタのエステラーゼのいずれにおいても殺菌作用は見られなかった。水で改質した胞子では、3時間インキュベーションした後では、63%(発芽した胞子の数/観察した胞子の全個数×100)の割合で、また、9時間インキュベーションした後では92%の割合で発芽した(図5A)(Kim et al. 1999)。その後は、発芽の割合はほんの僅かしか増加せず、その割合は24時間のインキュベーションまで変わらなかった。組み換えタンパク質で改質した胞子は、3時間インキュベーションした後では、45%の割合で、また24時間インキュベーションした後では75%の割合で発芽した。GSTまたはブタのエステラーゼでもまた発芽の割合が減少した。しかしながら、GSTまたはブタのエステラーゼの存在下では、発芽の割合の減少は組み換えPepESTタンパク質で観察されたものよりも少なかった。
【0014】さらに、我々は、組み換えPepESTが付着器形成に与える影響について研究した。滅菌水で改質したC. gloeosporioidesの付着器形成を3時間インキュベーションした後に観察した(図5B)。24時間後、付着器形成の割合は82%まで増加した(付着器を有する胞子の数/観察している胞子の全個数×100)。組み換えタンパク質で改質したC. gloeosporioidesは、6時間のインキュベーションより前では、付着器を形成しなかった。組み換えタンパク質の存在下における、菌類の最大の付着器形成の割合は、24時間のインキュベーション後で34%であった。特に、組み換えタンパク質で処理した菌類は菌糸の成長を示したが、付着器形成は見られなかった(図6)。GSTまたは肝臓エステラーゼの存在下で24時間インキュベーションした後の付着器形成の割合はそれぞれ62%と41%であった。
【0015】我々は、組み換えPepESTタンパク質による、胞子の発芽阻害および付着器形成阻害の供与量依存性について調べた。菌類の胞子を、1、10、100および1,000μgml-1の組み換えPepESTタンパク質またはブタのエステラーゼにより改質した。100μg ml-1の組み換えタンパク質は、ほんのわずかしか胞子の発芽を阻害しなかったが、1,000μg ml-1ではまったく阻害を生じなかった。このことは、組み換えタンパク質が、胞子の発芽になんら有意な影響も与えていないことを示している(図7A)。しかしながら、ブタのエステラーゼは、供与量に依存して、胞子の発芽を阻害した。組み換えタンパク質およびブタのエステラーゼは、双方とも、供与量に依存して付着器形成を有意に阻害した(図7B)。また、我々は、組み換えPepESTの加水分解活性とブタのエステラーゼの加水分解活性とをp-ニトロフェニルブチレートを用いてインビトロで比較した(図7C)。エステラーゼ(10ng)の加水分解活性は、組み換えタンパク質(1μg)の加水分解活性よりも非常に高かった。加熱(煮沸)したGST-PepEST融合タンパク質は、胞子の発芽阻害および付着器形成阻害に影響を及ぼさず、p-ニトロフェニルブチレートを加水分解しなかった。
【0016】次に我々は、組み換えPepESTが、M. griseaの付着器形成に及ぼす効果について研究した。組み換えタンパク質の一組の希釈物により改質したM. griseaの胞子の懸濁溶液をゲルボンド・フィルム(GelBond film)の疎水性表面上で24時間インキュベートした。組み換えタンパク質が10μg ml-1のとき、付着器形成を有意に阻害した(表1)。組み換えタンパク質の希釈率がより大きい希釈物では、供与量に応じて徐々に阻害能が失われた。組み換えタンパク質の濃度が0.625および0.3125μg ml-1のときには、M. griseaの付着器形成に対して有意な阻害効果は見られなかった。
【0017】阻害機構を解明する最初の一歩として、我々は、付着器形成に関係するシグナル変換経路に対する、組み換えPepESTタンパク質の効果を調べた。ゲルボンドの疎水性表面上での付着器形成の組み換えタンパク質による阻害は、cAMPまたは1,16-ヘキサデカンジオールで胞子を処理することにより、可逆となった。組み換えPepESTタンパク質の存在下、cAMPまたは1,16-ヘキサデカンジオールにより誘導される付着器は、よくメラニン化(黒化)し、未処理のコントロール中で形成された付着器と区別がつかなかった。付着器形成を誘導するのに、1,16-ヘキサデカンジオールは、cAMPよりも、より効果的であった。
【0018】
【実施例】タンパク質の発現と酵素の研究PepESTのcDNA(GenBank accession number AF122821, US Patent 6,018,038)のオープンリーディングフレームをPCRにより増幅し、EcoRIとXhoI部位の間にある、発現ベクターpGEX-6p-1(Pharmacia, Sweden)中の、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)をコードする配列をフレームに挿入した。E. coli BL21を得られたプラスミドを用いて形質転換し、イソプロピルチオ-B-D-ガラクトシド(IPTG)によりGST-PepEST融合タンパク質の生成を誘導した。細菌の細胞を、PBSバッファー中に懸濁させ、超音波処理により溶菌した。回収した上清に、グルタチオンセファロース4B基質を混合し、室温で30分間、ゆっくり振動させながらインキュベートした。この基質をPBSで3回洗浄し、基質に結合したタンパク質を、50mMのトリス-HCl(pH8.0)中に溶解した10mMの還元型グルタチオンを用いて溶離させた。GST-PepEST融合タンパク質が発現され、取扱説明書に従って精製した。タンパク質含量を、Bradford法(1979)に従って決定した。
【0019】エステラーゼ活性は、p-ニトロフェニルエステルの加水分解割合(rate)として測定し、この加水分解の割合は、ベックマン分光光度計を用いて、400nmで分光学的に決定した(Heymann et al. 1981)。エステラーゼ活性は、0.5MのHEPES(pH8.0)0.2ml、1mMのp-ニトロフェニルエステル1.8mlおよび組み換えPepEST 20μgからなる反応混合溶液中で、30℃で測定した。アシル鎖長に関係した比活性は、p-ニトロフェニルアセテート(C2)、−ブチレート(C4)および−ラウレート(C12)を用いて測定した。全ての測定値は、p-ニトロフェニルエステルの非酵素的加水分解で修正した。
【0020】菌類の接種源と植物材料C. gloeosporioidesの単一分生子(monoconidial)の分離株を、ジャガイモのデキストロース・寒天(Difco, Detriot, MI)上、5日間、28℃で、暗所で培養した。分生子を採収し、滅菌蒸留水中で懸濁した。10μlの胞子の懸濁溶液(5×105胞子/ml)をインビトロとインビボにおける点滴接種に用いた。
【0021】M. grisea 70-15は、ウィスコンシン大学(WI)のE. Ellingboe博士のご好意により提供された。菌類の培養物は、分生子化(conidiation)を促進するために、22℃、蛍光下、オートミール寒天(50gオートミール/リットル)上で育成した。分生子は10日後の培養物から回収し、蒸留水で2回洗浄した。トウガラシcv. Nokkwangの未熟だが発育の十分な緑色の果実と、熟れた赤い果実を、温室条件下で育成した(Oh et al. 1998)。
【0022】組み換えPepESTタンパク質で改質したC. gloeosporioidesの胞子胞子の懸濁溶液(5×105胞子/ml)、10μl分量(aliquots)を、10μl(最終的濃度が100μg ml-1になるまで)の組み換えPepEST、GST、ブタのエステラーゼ(アメリカ合衆国のSIGMA社より商業的に販売)、または滅菌水(コントロール)で改質し、カバーガラスに滴下した。カバーガラスを、25℃で、24時間、暗所の加湿したチャンバー中でインキュベートした。その後、カバーガラス上の菌類を、0.1%(w/v)のコットンブルー(cotton blue)のラクトフェノール溶液で染色した。カバーガラス上で、胞子の発芽と付着器形成を、顕微鏡により観察した(Kim et al., 1999)。菌類の形態形成における組み換えタンパク質およびエステラーゼの供与量/効果の実験についても同様の手法で行った。100μg ml-1の組み換えPepESTまたはGSTを用いて改質した胞子を用いた接種試験を、前述したような健康で未熟な果実および熟した果実に対し行った(Oh et al., 1998)。
【0023】組み換えPepESTタンパク質で改質したM. griseaの胞子付着器形成を、前述したようにゲルボンド・フィルム(FMC BioProducts, Rockland, Maine)上で測定した(Lee and Dean,1993)。すなわち、6μl滴の胞子の懸濁溶液(5×105胞子/ml)を、ゲルボンド・フィルムに置き、加湿箱に密閉し、24℃で、24時間インキュベートした。付着器形成している、発芽した胞子および芽生え始めている胞子の割合を、少なくとも3回の検査中で、1つの処理につき3回の繰り返し(replicates)を行い、1回の繰り返し(replicate)につき少なくとも100個の胞子を顕微鏡で直接検査することにより決定した。組み換えPepESTの一組の希釈物(最終的濃度:10、5、2.5、1.25、0.625、および0.3125μgml-1)を胞子の懸濁溶液に加えた。相補性試験では、組み換えPepESTの存在下でcAMP(10mM)あるいは1,16-ヘキサデカンジオール(0.01mM)を胞子の懸濁溶液に加えた。
【0024】エステラーゼ活性および組み換えPepESTタンパク質の基質特異性GST付加組み換えPepESTは、大腸菌(E. coli)で製造し、ほぼ均一になるまで精製した(図1)。組み換えタンパク質は、カルボキシルエステラーゼ活性の基質として用いられるp-ニトロフェニルエステルを加水分解することができるが、GSTタンパク質は、これらの基質を分解することができなかった(図2)。p-ニトロフェニルエステルを用いて、我々は、アシル鎖長に基づく酵素活性を調べた。組み換えタンパク質の酵素活性は、p-ニトロフェニルアセテート(C2)では、192nmol min-1 mg-1、−ブチレート(C4)では、24nmol min-1 mg-1、−ラウレート(C12)では、0.1nmol min-1 mg-1であった(図3)。活性は、p-ニトロフェニルアセテートで最大で、−ブチレートでは10倍減少し、−ラウレートではさらに低下した。
【0025】C. gloeosporioides感染による病状進行に対する組み換えPepESTタンパク質の効果インゲン豆に、菌類のクチナーゼあるいはエステラーゼで改質した植物病原性菌類Rhizoctonia solaniを接種したところ、くもの巣病の症候は発生しなかったという報告がされている(Parker and Koeller 1998)。それゆえ我々は、PepESTタンパク質がC. gloeosporioidesによって生じるトウガラシ果実の炭疽病の症状を妨げる能力を有するか否かの試験を行った。胞子の懸濁溶液を、未熟のトウガラシの果実および熟したトウガラシの果実の双方に点滴接種した。我々が以前観察したような、典型的な炭疽病の症状である壊死性のくぼんだ病斑が、接種後5日以内に未熟の果実上に観察された(Oh et al. 1998)(図4A)。しかしながら、100μg ml-1の組み換えタンパク質で改質した胞子は、未熟の果実と不和合性であった(図4B)。ポジティブコントロールとして用いられる不和合性の熟した果実は、炭疽病の症状を示さなかった(Kim et al. 1999)。組み換えタンパク質のみで処理した果実には、目に見える変化は見られなかったが(データ示さず)、100μg ml-1のGSTタンパク質で改質した胞子の懸濁溶液を適用した場合には、未熟の果実に病気の症状が生じた。したがって、我々のデータは、PepESTタンパク質が、C. gloeosporioidesの感染した未熟の果実の炭疽病の進行を阻害する保護活性を有することを示唆している。
【0026】インビトロにおける組み換えPepESTタンパク質による付着器形成の阻害上述した組み換えPepESTの保護活性をさらに解明するために、我々は、組み換えタンパク質がインビトロで菌類の成長に直接影響を及ぼすか否かについて研究を行った。C. gloeosporioidesの胞子を、100μg ml-1の組み換えPepESTタンパク質、GST、ブタのエステラーゼあるいは水の存在下、カバーガラス上で発芽させた。組み換えタンパク質あるいはGSTまたはブタのエステラーゼは、殺菌の効果を示さなかった。滅菌水で改質した胞子は、3時間のインキュベーション後、63%(発芽した胞子の数/観察した胞子の全個数×100)の割合で発芽し、9時間のインキュベーション後には、92%の割合で発芽した(図5A)(Kim et al. 1999)。その後、発芽の割合は、ほんの僅かしか増加せず、これは24時間までのインキュベーション後でも維持された。組み換えタンパク質で改質した胞子は、3時間のインキュベーション後、45%の割合で発芽し、24時間のインキュベーション後には、75%の割合で発芽した。GSTまたはブタのエステラーゼでもまた発芽の割合が減少した。しかし、GSTまたはブタのエステラーゼ存在下における発芽率の減少は、組み換えPepESTタンパク質を用いたときに観察された減少よりも少なかった。
【0027】また、我々は、付着器形成に対する組み換えPepESTタンパク質の効果を調べた。滅菌水で改質したC. gloeosporioidesの付着器形成は、3時間のインキュベーション後に観察された(図5B)。24時間後、付着器形成の割合は、82%(付着器を有する胞子の数/観察した胞子の全個数×100)まで増加した。組み換えタンパク質で改質したC. gloeosporioidesでは、6時間のインキュベーションより前には付着器を形成しなかった。組み換えタンパク質の存在下、菌類による最大の付着器形成は、24時間インキュベーション後で34%であった。特に、組み換えタンパク質で処理した菌類は、菌糸の成長は見られたが、付着器形成はされなかった(図6)。GSTまたは肝臓エステラーゼの存在下、24時間インキュベーション後の付着器形成は、それぞれ、62%および41%であった。総合すると、これらの結果は、組み換えPepESTは胞子の発芽よりも付着器形成に対し、より有意の影響を与えているということを示している。
【0028】さらに我々は、組み換えPepESTによる胞子の発芽および付着器形成阻害の供与量依存性について調べた。菌類の胞子を、1、10、100、および1,000μg ml-1の組み換えPepESTタンパク質またはブタのエステラーゼで改質した。100μg ml-1の組み換えタンパク質では、ほんのわずかに胞子の発芽を阻害したのに対し、1,000μg ml-1ではまったく阻害しなかった。このことは、組み換えタンパク質が胞子の発芽になんらの有意な影響も有しないことを示している(図7A)。しかしながら、ブタのエステラーゼは、供与量に依存して胞子の発芽を阻害した。組み換えタンパク質およびブタのエステラーゼの双方とも、供与量に依存して付着器形成を有意に阻害した(図7B)。また、我々は、ブタのエステラーゼと、組み換えPepESTの加水分解活性を、p-ニトロフェニルブチレートを用いてインビトロで比較した(図7C)。そのエステラーゼ(10ng)の加水分解活性は、組み換えタンパク質(1μg)の加水分解活性よりも非常に高かった。加熱したGST-PepEST融合タンパク質は胞子の発芽および付着器形成の阻害に影響を与えず、p-ニトロフェニルブチレートを加水分解しなかった。
【0029】M. griseaの付着器形成における組み換えPepESTタンパク質の影響次に、我々は、M. griseaの付着器形成に対する組み換えPepESTタンパク質の影響について研究を行った。組み換えタンパク質の一組の希釈物により改質したM. griseaの胞子の懸濁溶液を、ゲルボンド・フィルムの疎水性表面上で24時間インキュベートした。10μg ml-1の組み換えタンパク質は、付着器形成を顕著に阻害した(表1)。より希釈した組み換えタンパク質の希釈物では、供与量に依存して、徐々に阻害能力を失った。組み換えタンパク質は、濃度0.625および0.3125μg ml-1では、M. griseaの付着器形成に有意な阻害効果を与えなかった。
【0030】阻害機構解明の最初の一歩として、我々は、付着器形成を含むシグナル変換経路における、組み換えPepESTタンパク質の効果を調べた。ゲルボンドの疎水性表面上での組み換えタンパク質による付着器形成の阻害は、cAMPまたは1,16-ヘキサデカンジオールで胞子を処理することにより、可逆となった。組み換えPepESTタンパク質の存在下、cAMPまたは1,16-ヘキサデカンジオールにより誘導される付着器は、よくメラニン化(黒化)するため、未処理のコントロール中で形成された付着器と区別がつかなかった。1,16-ヘキサデカンジオールは、cAMPよりも、付着器形成を誘導するのに、より効果的であった。
【0031】
【表1】

【0032】考察リパーゼモチーフ(GXSXG)をエンコードする遺伝子(EDS1, hsr203J, PAD4)およびリパーゼ中の推定されるSer、AspおよびHisからなる触媒三つ組み残基を、植物-微生物相互作用に関与する種々の植物組織から単離した(Falk et al. 1999; Jirage et al. 1999; Pontier et al. 1994)。我々は、トウガラシ果実とC. gloeosporioidesとの間で不和合的相互作用がされている間に、高度に発現されるトウガラシのエステラーゼ遺伝子(PepEST)をクローンした。大腸菌(E. coli)中で発現された組み換えPepESTタンパク質は、インビトロで、p-ニトロフェニルエステルに対し基質特異性を示した。組み換えPepEST活性は、p-ニトロフェニルアセテートで最大で、−ブチレートで顕著に減少し、−ラウレートではほとんど検出されなかった。これらのデータは、組み換えタンパク質が、1本鎖ポリペプチドとして活性であり、短鎖アシルエステルに最も効果的であることを示している。したがって、PepESTの基質特異性は、p-ニトロフェニルアセテートおよび−ブチレートの双方とに活性なタバコエステラーゼであるHSR203Jの基質特異性と異なっていた(Baudouin et al. 1997)。これら双方のエステラーゼは、幾分異なる基質特異性を示すにもかかわらず、なおこれらのエステラーゼは、類似の天然基質を有しているかもしれない。両エステラーゼは、不和合的相互作用をしている間にのみ高度に蓄積されるという事実が、この可能性を示唆している。しかしながら、植物の防衛におけるこのエステラーゼの正確な生理的役割はいまだ確定されていなかった。
【0033】多くの菌類の病原体による付着器形成は、宿主植物への感染に不可欠である(Staple and Hoch 1987)。従来の研究では(Kim et al.1999)、和合性(compatible)の未熟のトウガラシの果実と比較して、耐性を有する熟した果実では、より低いレベルの付着器形成が観察された。今回の研究では、我々は、組み換えPepESTがC. gloeosporioidesの付着器形成を阻害することができ、その結果、菌類の感染から果実を保護し得ることを発見した。組み換えPepESTタンパク質およびブタのエステラーゼの濃度がより高いほど、付着器形成に有意な減少が生じた。しかしながら、加熱した組み換えPepESTは、p-ニトロフェニルブチレートを加水分解せず、付着器形成阻害に何らの影響も及ぼさなかった。ブタのエステラーゼもまた、菌類の感染から未熟の果実を保護し(データ示さず)、このことは、付着器形成の阻害が、組み換えPepESTのエステラーゼ活性により起こることを示唆している。
【0034】ブタのエステラーゼ(10ng)の加水分解活性は、組み換えPepEST(1μg)の加水分解活性と類似していた(図7C)。しかしながら、より高濃度なエステラーゼ(100μg ml-1)では、組み換えタンパク質(100μg ml-1)の結果よりも付着器形成の阻害が低かった(図7B)。このことは、組み換えタンパク質は、p-ニトロフェニルブチレートに対し、より低い加水分解活性を示すにも拘わらず、PepESTタンパク質は、菌類の付着器形成を強力に阻害し得る特異的活性を有するということを示唆している。
【0035】多くの植物病原性菌類は、植物に侵入するために、植物クチクラ(cuticles)のクチン分子間のエステル結合を壊すエステラーゼのような働きをするクチナーゼを分泌する(Kolattukudy 1985; Koeller et al. 1982)。菌類のクチナーゼは、リパーゼモチーフ(GXSXG)およびSer、AspおよびHisからなる触媒三つ組み残基を有する(Sweigard et al. 1992)。エステラーゼが、植物−微生物相互作用の両方の側で用いられることは、興味深い。クチナーゼの他の役割として、植物クチクラ由来のクチンモノマーの生成を通じて疾病耐性を誘導するであろうということが仮説づけられている(Schweizer et al.1996a,b)。外部から未熟果実へPepESTを適用することによって、H2O2の発生および防御関係の遺伝子発現を誘導した(Ko and Oh, 未発表結果)。これらの結果は、PepESTが、菌類のクチナーゼに類似した防御応答を誘導するだけでなく、菌類の形態形成に影響を及ぼす能力を有するであろうことを示唆している。
【0036】M. griseaの付着器形成の阻害は、PepESTもまた、炭疽病菌以外の菌類に対しても阻害能力を有する可能性があるということを示唆している。さらに、cAMPまたは1,16-ヘキサデカンジオールによる処理は、PepESTにより阻害されたM. griseaにおける付着器形成を回復させた。このことは、PepESTにより示される阻害機構が、cAMPまたは1,16-ヘキサデカンジオールの作用部位より上流で作用するであろうことを示唆している。類似の現象は、従来よりこれらのエフェクター剤およびポリアミンでも観察されている(Choi et al. 1998)。PepESTは、細胞内でのcAMPレベルを減少させたり、または、直接的あるいは間接的にcAMPへの要求を増加させたりするであろうことが予想される。PepESTによる付着器形成の阻害に関与する正確なメカニズムは、いまだに解明されていないが、我々のデータは、PepESTがcAMPおよび1,16-ヘキサデカンジオールのシグナル変換経路を調節することによりその効果を発揮するということを示唆している。
参考文献【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【0039】
【表4】

【0040】
【表5】

【出願人】 【識別番号】597088708
【氏名又は名称】錦湖石油化學 株式會▲社▼
【出願日】 平成12年12月12日(2000.12.12)
【代理人】 【識別番号】100081994
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 俊一郎 (外3名)
【公開番号】 特開2002−193720(P2002−193720A)
【公開日】 平成14年7月10日(2002.7.10)
【出願番号】 特願2000−378007(P2000−378007)