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【発明の名称】 刺咬性節足動物忌避剤
【発明者】 【氏名】白井 良和

【要約】 【課題】刺咬性節足動物による刺咬被害から免れるための忌避剤を提供する。

【解決手段】グルコン酸を、好ましくは1〜10%含有する刺咬性節足動物忌避剤を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】グルコン酸を含有することを特徴とする刺咬性節足動物忌避剤。
【請求項2】前記グルコン酸を1〜10%含有することを特徴とする請求項1記載の刺咬性節足動物忌避剤。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ヒト、動物や鳥類などの脊椎動物を刺咬する節足動物の忌避剤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】罹患者数が極めて多いマラリアをはじめ、デング熱、黄熱、日本脳炎、フィラリア症など、蚊媒介性疾病は今なお世界各地で発生している。東南アジアやアフリカなどに限らず、1999年秋には公衆衛生が発達したニューヨークで、イエカ等の媒介による西ナイルウイルス熱の患者が多数発生し、2000年秋にはサウジアラビアで、蚊が媒介するリフトバレー熱が流行するなど、蚊媒介性疾病は深刻な状況である。また、刺咬するサシガメ類はシャーガス病を媒介し、ブユ類がオンコセルカ症を、ツェツェバエはトリパノソーマ症、特にアフリカ睡眠病とナガナ病を、マダニ類はロシア春夏脳炎、コロラドダニ熱、ロッキー山紅斑熱、ボタン熱、Q熱、ライム病、野兎病などを、ツツガムシ類はツツガムシ病リケッチアを、ノミ類はペスト、発疹熱を媒介するなど、刺咬性節足動物が媒介する疾病が数多く報告されている。
【0003】昔と違って衛生状態が良くなっても、蚊媒介性疾病は、将来に渡って人類や動物を悩まし続ける可能性がある。また、自動車産業が発展し、国民の自動車保有台数が増えるに伴って、タイヤ数も大幅に増え、交換後の廃タイヤも増えている。しかしながら、野積みされた廃タイヤ内にたまった雨水内で、ヤブカ属の蚊が多く発生し、近辺の労働者を悩まし、仕事の能率を落とし、産業の発展を阻害している。また、本来ヒトスジシマカが存在しなかった国に、日本から廃タイヤを輸出することによって、輸出先の国にヒトスジシマカが定着し、ネッタイシマカとともにデング熱を広め、その国の衛生状態をも悪くし、国際的な問題となっている。
【0004】また、地球温暖化に伴って、日本にネッタイシマカが侵入し、定着することでデング熱が広まる可能性もある。また飛行機などの交通手段の発達によって、マラリア原虫を保有するハマダラカが日本国内に侵入し、空港近辺の住民など渡航経験のない人でさえ、マラリアに罹患する危険性がある。これはエアポートマラリアと呼ばれ、実際にいくつかの症例が報告されている。また、病気に罹患しなくとも、蚊に刺されるだけで蚊刺アレルギーを起こす症例も報告されている。
【0005】一方、昔から現在に至るまで、犬や猫などの動物は人の良き伴侶であり、愛玩動物として飼い主の心の支えとなっているし、愛玩動物に限らず盲導犬や介護犬など多くの役割を果たしている動物もある。しかし、犬などの動物も、例えば刺咬性節足動物の一つであるアカイエカなどが媒介する糸条虫症(フィラリア症)に罹患し、命を落とす例も多い。良き伴侶を失った飼い主の悲しみは、想像以上に大きいものである。また、糸条虫症予防のために動物病院から予防薬を購入し、飼い犬に薬を飲ませ続けねばならず、薬の購入費が高くつき、且つ薬の投与に手間もかかるものである。従って、蚊などの刺咬性節足動物による刺咬から免れることは非常に重要である。
【0006】ヒトや動物を刺咬する蚊などの刺咬性節足動物対策として、有機リン剤、カーバメート剤、合成ピレスロイド剤などの殺虫剤、ディートを含有する忌避剤などについて研究がなされてきた。しかし、殺虫剤の多用により、コガタアカイエカで有機リン剤に対する高度の抵抗性を発達させた個体群が生じるなど、殺虫剤抵抗性が生じる恐れもある。
【0007】世界的に、吸血害虫忌避剤としてディート(N, N-ジエチル-m-トルアミド)が使われてきたが、連用することによって、脳障害を起こす危険性があると警鐘する報告もある(Robbins, P. J. and M. G. Cherniack 1986. Review of the biodistribution and toxicity of the insect repellent N, N-Diethyl-m-toluamide (DEET). J. Toxicology Environ. Health 18: 503-525)。そこで、これまでに刺咬性節足動物、特に蚊について、ディートの他に安全で有効な忌避剤がないかと試験、研究がなされてきた。そこで、発明者らは、この課題を達成すべく、様々な化学物質を用いて、忌避剤の探索を行った結果、遂に蚊忌避剤として有効な化学物質を見出し、本発明に至ったものである。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、ヒトや動物、鳥類などの脊椎動物を刺咬する刺咬性節足動物に忌避作用を示す薬剤を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するために、本発明のうち請求項1記載の発明によれば、グルコン酸を含有する刺咬性節足動物忌避剤とする。このように構成すれば、該忌避剤をヒトや動物の皮膚や衣服に処理したり、該忌避剤を含有した湯に入浴することで、効果的に刺咬性節足動物による刺咬から免れることができる。
【0010】さらに、本発明のうち請求項2記載の発明によれば、グルコン酸を1〜10%含有する刺咬性節足動物忌避剤とする。このように構成すれば、該忌避剤をヒトや動物の皮膚や衣服に処理したり、該忌避剤を含有した湯に入浴することで、低コスト且つ効果的に刺咬性節足動物による刺咬から免れることができる。
【0011】本発明に効果的な刺咬性節足動物としては刺咬性昆虫の蚊などが挙げられる。双翅目蚊科の刺咬性昆虫としては、例えば、ヒトスジシマカ、オオクロヤブカ、アカイエカ、チカイエカ、ネッタイイエカ、カラツイエカ、コガタアカイエカ、シナハマダラカ、オオハマハマダラカ、オオツルハマダラカ、チョウセンハマダラカ、オオモリハマダラカ、コガタハマダラカ、エセシナハマダラカ、ステフェンシーハマダラカ、ガンビアハマダラカ、アノフェレスクアドリマカラータス、アノフェレスファラウティ、アノフェレスアトロパルバス、アノフェレスアルビマヌス、アノフェレスフネスタス、キンパラナガハシカ、アシマダラヌマカ、イナトミシオカ、ヤマトハボシカ、ミスジハボシカ、トウゴウヤブカ、ヤマトヤブカ、ブナノキヤブカ、シロカタヤブカ、ハトリヤブカ、セスジヤブカ、コバヤシヤブカ、エセチョウセンヤブカ、オキナワヤブカ、ムネシロヤブカ、セボリヤブカ、ワタセヤブカ、チシマヤブカ、カラフトヤブカ、ハマベヤブカ、サッポロヤブカ、ダイセツヤブカ、キタヤブカ、ハクサンヤブカ、アカンヤブカ、トカチヤブカ、ヒサゴヌマヤブカ、キンイロヤブカ、オオムラヤブカ、コガタキンイロヤブカ、エゾヤブカ、ホッコクヤブカ、アカエゾヤブカ、アカフトオヤブカ、クロフトオヤブカ、エーデスタエニオリンクス、エーデスソリシタンス、エーデスキャンテーター、エーデストリセリエイタス、ネッタイシマカ、ミスジシマカ、ダウンスシマカ、リバーズシマカ、ヤマダシマカ、タカハシシマカ、エーデススカテラリスなどが挙げられる。
【0012】他の双翅目の刺咬性昆虫としては、アオキツメトゲブユ、ニッポンヤマブユ、ヒメアシマダラブユ、キアシオオブユ、イソヌカカ、トクナガクロヌカカ、イヨシロオビアブ、ニッポンシロフアブ、ゴマフアブ、メクラアブ、サシチョウバエ、ツェツェバエなどが挙げられる。半翅目の刺咬性昆虫としては、アカモンサシガメ、ブラジルサシガメ、トコジラミなどが挙げられる。その他、ヒトジラミ、アタマジラミ、コロモジラミ、ケジラミ、ヒトノミ、ネコノミ、イヌノミ、ケオプスネズミノミ、スナノミ、イエダニ、トリサシダニ、ワクモ、シュルツェマダニ、ヤマトマダニ、タネガタマダニ、アカツツガムシ、フトゲツツガムシ、タテツツガムシなどが挙げられる。
【0013】本発明の忌避剤の剤型は問わないが、液剤、粉剤、クリーム、ゲル、ムース、ミストなどが挙げられる。また、グルコン酸を含有する入浴剤とすることで、本発明の入浴剤を使用して入浴した後は、蚊などの刺咬性節足動物からの刺咬を免れることができる。また、グルコン酸を含有させた乳液や、保湿液等の化粧品とすることによって、化粧と同時にグルコン酸を皮膚上に塗布することができ、塗布後には蚊などの刺咬性節足動物による刺咬から免れることができる。さらに、グルコン酸を含有させたボディシャンプー、シャンプー、リンスとすることで、洗浄と同時に蚊などの刺咬性節足動物による刺咬予防対策をすることができる。
【0014】また、グルコン酸の他に従来より使われているディートを混合し、危険性が報告されているディートを可能な限り少なくして安全性を高めながら、蚊忌避効果を高くすることも可能である。その他、p-メンタン-3, 8-ジオール、ペリラアルデヒド、乳酸などの他の忌避剤と併用することもできる。
【0015】また、動物についても、グルコン酸を含有させた液剤を塗布、噴霧したり、グルコン酸を含有させた入浴剤を用いて入浴させたり、シャンプー、リンスなどで洗浄したりすることによって、蚊などの刺咬性節足動物による刺咬から免れることができる。動物の種類は問わないが、犬、猫、兎、モルモット、ハムスター、フェレット、プレイリードッグ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、マウスなどの哺乳類や鳥類などが挙げられる。
【0016】
【実施例】以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0017】実施例1グルコン酸濃度を0.5、1、3、5、7、10%とした水溶液を作製した。次に、開閉可能なナイロンゴーズ製袖口を2箇所備えた幅60×高さ36×奥行き29.5cmのガラス製試験容器内に口吻を切断した刺咬不能蚊(ヒトスジシマカ雌成虫)35頭を放飼し、3%砂糖水をしみこませた脱脂綿を200mL容のプラスティックカップに入れて置いた。この刺咬不能蚊の降着蚊数で誘引、忌避を評価する方法にて、グルコン酸水溶液の蚊忌避性の評価を行った。
【0018】1人の被験者(32歳男性)の一方の前腕に、作製したグルコン酸水溶液1mLを塗布し、他方の前腕に対照として同量の蒸留水1mLを塗布した。次に、試験容器内に両前腕を挿入し、30秒ごとに10分間、両前腕それぞれの降着蚊数を記録した。試験は3反復行った。結果を表1に示す。また、忌避率(%)=100×(対照区の降着蚊数−グルコン酸処理区の降着蚊数)/対照区の降着蚊数とした。有意差検定は対応のあるt検定により行った。
【0019】
【表1】

【0020】その結果、グルコン酸水溶液を処理した前腕は、蒸留水処理した前腕に比べて有意に降着蚊数が少なかった(0.5%ではP=0.02、1〜10%ではP<0.0001)。従って、グルコン酸は蚊に対して忌避性を示した。グルコン酸濃度が3%以上では極めて高い忌避率を示した。
【0021】実施例2濃度が3、5%のグルコン酸水溶液を用いて、ヘアレスマウスに処理した場合の蚊忌避性を検討した。ほぼ同じ体重(約3g)で同性のヘアレスマウス2頭に、0.7%生理食塩水で3倍希釈したペントバルビタールナトリウム0.15mLを腹腔内注射して麻酔した。一方のマウスにグルコン酸水溶液1mLを、他方のマウスに蒸留水1mLを、頭部を除いて塗布し、これらの2頭をシャーレ上に置いた。次に、完全な口吻を持ち、刺咬可能な無処理のヒトスジシマカ未吸血雌成虫35頭を入れた幅45×高さ36×奥行き29.5cmのガラス製容器内に、2頭のマウスを20cmの間隔をあけて併置した。そして、5分間にそれぞれのマウスの頭部以外を吸血した蚊数を記録した。これを4反復行った。結果を表2に示す。
【0022】
【表2】

【0023】ヘアレスマウスに処理し、実際に吸血する蚊を用いた試験でも、蒸留水を処理した対照区に比べて、グルコン酸を処理したマウスでは有意に吸血蚊数が少なかった(3%ではP<0.0001、5%ではP=0.013)。よって、マウスに処理した場合も高い忌避率を示した。従って、動物に処理した場合でも、グルコン酸処理により蚊刺咬を軽減できると考えられた。
【0024】実施例3次に、基礎化粧品の一つである化粧水にグルコン酸を含有させ、蚊忌避性の検討を行った。化粧水(ニュースキンジャパン株式会社製、商品名:NaPCAモイスチャーミスト)にグルコン酸濃度が3%となるよう、グルコン酸を添加した液を作製した。この1mLを一方の前腕に塗布し、同量のグルコン酸無添加化粧水1mLを他方の前腕に塗布し、実施例1と同様にして両前腕の降着蚊数を記録した。試験は4反復行ったが、両方ともに降着蚊数がなかった場合を除いた。結果を表3に示す。
【0025】
【表3】

【0026】グルコン酸含有化粧水を塗布した前腕への降着蚊数は、グルコン酸無添加化粧水を塗布した前腕への降着蚊数に比べて有意に少なかった(P<0.0001)。なお、グルコン酸無添加化粧水への降着蚊数もあまり多くなかったが、これは、濡れた手や、汗を多くかいた手が逆に蚊に刺されにくい傾向が報告されていることから、化粧水処理に伴い保湿力が高くなったことによって、蚊の降着が少なくなった可能性がある。それを考慮しても、グルコン酸添加によって、さらに一層、蚊忌避性が高まることが確認された。
【0027】実施例4グルコン酸水溶液を入浴剤として用いた場合の蚊忌避性を検討した。40℃の3%グルコン酸水溶液と、40℃の湯をそれぞれ100mL作製した。実施例2と同様にして麻酔したマウス2頭の頭部以外を、グルコン酸水溶液または湯に1分間浸漬した。次に、紙タオルで完全に水分を拭き取った。そして、実施例2と同様にして、無処理のヒトスジシマカ未吸血雌成虫35頭を入れた試験容器内に置き、それぞれの5分間の吸血蚊数を記録した。これを続けて4回行った。結果を表4に示す。
【0028】
【表4】

【0029】グルコン酸水溶液に浸漬したマウスへの吸血蚊数は、対照とした湯に浸漬したマウスへの吸血蚊数より有意に少なかった(P=0.003)。忌避率も高い値(72.0%)を示した。なお、この試験は続けて4回行った。経過時間ごとの吸血蚊数を表5に示す。表5よりグルコン酸水溶液を拭き取ってから20分間にわたって、対照マウスよりも吸血蚊数が少なくなったことから、グルコン酸水溶液を塗布し、その後乾燥した肌でも忌避効果が持続していることが示された(表5)。従って、グルコン酸を含有した湯に入浴し、身体の水分を拭き取った後も蚊忌避効果が発揮され、入浴剤に使用することが有効であることが示された。
【0030】
【表5】

【0031】実施例5グルコン酸を含有する液体タイプの刺咬性節足動物忌避剤を以下の処方例に基づいて作製した。
グルコン酸 3.0(w/w)
防腐剤 適量香料 微量精製水 〜100(w/w)
【0032】実施例6グルコン酸を含有するローションタイプの刺咬性節足動物忌避剤を以下の処方例に基づいて作製した。
グルコン酸 5.0(w/w)
プロピレングリコール 3.0(w/w)
70%ソルビット液 5.0(w/w)
ポリオキシエチレンソルビットラウリルエーテル 0.1(w/w)
エタノール 5.0(w/w)
クエン酸−クエン酸ナトリウム 0.3(w/w)(pH4.5〜5.5)
防腐剤 適量精製水 〜100(w/w)
【0033】実施例7グルコン酸と他の忌避剤L-乳酸を含有するローションタイプの刺咬性節足動物忌避剤を以下の処方例に基づいて作製した。
グルコン酸 3.0(w/w)
L-乳酸 1.0(w/w)
プロピレングリコール 3.0(w/w)
70%ソルビット液 5.0(w/w)
ポリオキシエチレンソルビットラウリルエーテル 0.1(w/w)
エタノール 5.0(w/w)
クエン酸−クエン酸ナトリウム 0.3(w/w)(pH4.5〜5.5)
防腐剤 適量精製水 〜100(w/w)
【0034】
【発明の効果】本発明のうち請求項1記載の発明のように、グルコン酸を含有した刺咬性節足動物忌避剤とし、液剤や粉剤などの剤型で提供し、虫よけ剤、化粧品などとして皮膚や衣服に塗布したり、入浴剤として用いたり、シャンプーなどとして洗髪したり、動物に塗布、シャンプーで洗浄したりすることで、塗布や入浴、洗浄後に、刺咬性節足動物による刺咬を効果的に減少させることができる。これにより、刺咬に伴う痛み、痒み、さらに刺咬性節足動物媒介性疾患に罹患することから免れることができる。
【0035】さらに、本発明のうち請求項2記載の発明のように、グルコン酸を1〜10%含有する刺咬性節足動物忌避剤とすることで、低コストかつ効果的に刺咬性節足動物による刺咬から免れることができる。
【出願人】 【識別番号】598142885
【氏名又は名称】白井 良和
【出願日】 平成12年12月8日(2000.12.8)
【代理人】 【識別番号】100090206
【弁理士】
【氏名又は名称】宮田 信道
【公開番号】 特開2002−179512(P2002−179512A)
【公開日】 平成14年6月26日(2002.6.26)
【出願番号】 特願2000−373928(P2000−373928)