トップ :: A 生活必需品 :: A01 農業;林業;畜産;狩猟;捕獲;漁業




【発明の名称】 殺菌材料
【発明者】 【氏名】立澤 秀高

【要約】 【課題】被処理液中に薬品を混入させることなく、更に被処理液の変質を引き起こす酸化を起こさないで、強力に殺菌を行う殺菌材料を提供する。

【解決手段】本発明に係る殺菌材料は、エンドペルオキシド結合を有する基を有機高分子基材に固定したことを特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 エンドペルオキシド結合を有する基が有機高分子基材に固定されていることを特徴とする殺菌材料。
【請求項2】 エンドペルオキシド結合を有する基が、放射線グラフト重合法を用いて有機高分子基材に導入されている請求項1に記載の殺菌材料。
【請求項3】 請求項1又は2に記載の殺菌材料から構成される殺菌フィルター。
【請求項4】 請求項1又は2に記載の殺菌材料と、前記殺菌材料を加温する手段とを具備してなる殺菌処理装置。
【請求項5】 エンドペルオキシド結合を導入可能な基本骨格を有する基が有機高分子基材に固定されていることを特徴とする高分子材料。
【請求項6】 エンドペルオキシド結合を導入可能な基本骨格を有する基を有機高分子基材に固定した後、該基にエンドペルオキシド結合を導入することを特徴とする請求項1又は2に記載の殺菌材料の製造方法。
【請求項7】 放射線グラフト重合法を用いてエンドペルオキシド結合を導入可能な基本骨格を有する化合物から誘導される基を有機高分子基材に固定する請求項6に記載の方法。
【請求項8】 対象物を一重項酸素に曝露して、実質的に対象物の酸化変性を起こすことなしに殺菌を行うことを特徴とする対象物の殺菌方法。
【請求項9】 前記一重項酸素は、請求項1に記載の殺菌材料に由来するものである請求項8に記載の殺菌方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、食品、薬品等の製造工程における原料水や液体原料(血清、牛乳等)或いは常湿気体などの殺菌に用いることができる殺菌材料に関する。
【0002】
【従来の技術】食品や薬品の製造工程においては、原料水や液体原料中の細菌を完全に殺菌することが要求されている。特に、重大な疾患の原因となる細菌は、たとえ数個の低レベルでも混入したり、残存していたりすると、それを摂取した人間や動物に対して病気を引き起こす恐れがある。例えば、O−157などの病原性大腸菌は、ごく少ない菌数で食中毒を引き起こし、数個〜数十個の菌数での発症例も報告されている。更に、この病原性大腸菌は、通常の食中毒症状に加えて、菌が産生する毒素によって腎障害等の全身症状を引き起こし、死亡する例が極めて高い。したがって、特にこのような細菌については、完全に殺菌することが厳しく要求されている。また、日和見感染を起こす菌についても十分な殺菌が必要である。
【0003】液体媒体中のこれらの細菌を殺菌する方法としては、対象液体を高温高圧に曝露することによって物理的に殺菌する方法;対象液体に抗生物質等の薬剤を加えて殺菌する方法;対象液体を殺菌剤に曝露して殺菌する方法;などが考えられる。しかしながら、対象液体を高温高圧に曝露する方法は、液体自体も変質してしまう恐れがあり、液体の種類によっては使用することができず、変質を避けるために温度・圧力条件を緩和すれば殺菌効率の問題が生じる。また、対象液体に抗生物質等の薬剤を加える方法は、薬剤による二次汚染の問題が避けられず、食品や薬品の製造工程における殺菌プロセスには利用することができない。
【0004】対象液体を殺菌剤に曝露して殺菌する方法において現在通常的に用いられている殺菌剤としては、オゾン、次亜塩素酸、次亜臭素酸、過酸化水素などが挙げられる。これらは、いずれも殺菌剤の酸化力によって殺菌を行うもので、殺菌作用を強化しようとすると、必然的に酸化変性作用も増大し、対象液体の変質を引き起こすという問題がある。特に、脂質が酸化されると有害物質が生成するため、問題が大きい。また、次亜塩素酸などにおいても残留の問題がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】以上の観点から、食品、薬品の製造工程における原料水や液体原料の殺菌に対しては、細菌を限りなく0に近づける高い殺菌活性を有し、原料成分に対する酸化変性作用がないか又は極めて小さく、薬剤による二次汚染がない、という殺菌剤が求められている。しかしながら、これらの要求を全て満足する殺菌剤は現在のところ知られていない。
【0006】食品、薬品の原料水や液体原料の殺菌方法として、活性酸素を用いる方法が検討されている。活性酸素は、対象の物質との反応性が高いことや、活性酸素自体には残留性がないことなどの理由で、食品、薬品用の有用な殺菌剤の候補として注目されている。活性酸素には、スーパーオキサイド(O2-)、ヒドロキシラジカル(OH-)、一重項酸素(12)、過酸化水素(H22)などがあるが、その中で、一重項酸素(12)は、次亜塩素酸と同等以上の高い殺菌活性を有する。しかしながら、細菌の生存率が10-4〜10-5以下になる一重項酸素曝露下で、酸化され易い油脂であるコレステロールを一重項酸素に曝露しても、酸化脂質は発生しないことが分かっている。このことから、一重項酸素の殺菌特性は、酸化作用と殺菌特性とがリンクしない点にあるということができる。したがって、一重項酸素は、上記の要求を満たす殺菌剤として有用である可能性が高い。
【0007】一重項酸素の発生方法としては、メチレンブルーやローズベンガルなどの光増感色素に白色光を照射する方法や、ミエロペルオキシダーゼ酵素の存在下で臭化水素と過酸化水素とを反応させる方法などがある。しかしながら、前者は活性化した色素自体の反応やフリーラジカル及び過酸化水素の生成も合わせて起こるため、純粋な一重項酸素発生法としては使用することができず、過酸化水素等による被対象物の酸化が避けられない。また後者は、過酸化水素を添加しなければならないため、過酸化水素の残留の問題が生じ、また中間体として生成する次亜臭素酸の残留の問題もある。そこで、最も純粋な一重項酸素発生法としては、ナフタレンエンドペルオキシド(NEPO)等のエンドペルオキシド結合を有する化合物を加温することによって一重項酸素を発生させる方法が最も有効と考えられる。"Inactivation of bacterial respiratory chain enzymes by singlet oxygen", Tatsuzawa, et.al., FEBS Letters 439 (1998), p.329-333においては、NEPOを加温することによって発生させた一重項酸素が、大腸菌などの細菌の呼吸酵素を瞬時に破壊することによる強力な殺菌作用を示すことが報告されている。
【0008】しかしながら、上記各方法で一重項酸素を発生させるための物質として用いられるメチレンブルーなどの光増感色素や、過酸化水素、ミエロペルオキシダーゼ、ナフタレンエンドペルオキシドなどの薬品を食品や薬品の原料水や液体原料に添加することは問題が大きく、これらの方法をそのまま食品や薬品の原料水や液体原料の殺菌方法として用いることはできない。また、一重項酸素は水中での寿命が数マイクロ秒と極めて短いので、発生させた一重項酸素を単離して殺菌に使用することは事実上不可能である。
【0009】
【課題を解決するための手段】そこで、本発明者らは、エンドペルオキシド結合を有する基を担体等の基材に固定して使用すれば、食品や薬品の原料水や液体原料或いは常湿気体用の殺菌剤として、被対象物中に薬剤を混入させることなく、更には被殺菌処理対象物を酸化させることなしに、細菌に対する殺菌処理を行うことができる可能性があることを想到し、鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0010】即ち、本発明は、エンドペルオキシド結合を有する基を有機高分子基材に固定したことを特徴とする殺菌材料に関する。
【0011】
【発明の実施の形態】以下、本発明の各種態様に関して説明する。以下の説明は、本発明の好ましい態様を記載したものであり、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【0012】上記したように、本発明に係る殺菌材料は、有機高分子基材にエンドペルオキシド結合を有する基を固定したことを特徴とする。
【0013】本発明において、エンドペルオキシド結合を有する基を固定するために用いることのできる有機高分子基材としては、任意の種々の形態のものを採用することができる。例えば、織布/不織布、板状部材、ビーズ状部材、バルク状部材、フィルム、ネットなどの形態で本発明に係る高分子殺菌材料を構成することができる。この中でも、織布/不織布は軽量で加工が容易であり、フィルターとして成形するのに好適なので、本発明に係る殺菌材料を用いて殺菌フィルターを構成するのに好ましい。また、ビーズ状部材にエンドペルオキシド結合を有する基を固定した本発明に係る殺菌材料は、カラム等に充填して殺菌フィルターを構成することができるので、同様に好適である。
【0014】本発明に係る殺菌材料において、有機高分子基材にエンドペルオキシド結合を有する基を固定する方法は、まず、ナフタレン、アントラセンなどのエンドペルオキシド基を導入することができる芳香環の基本骨格を有し、更にこの基本骨格を基材に固定するための官能基、例えばカルボキシル基、アミノ基、水酸基、重合性不飽和結合を有する基(例えばビニル基、イソプロペニル基)などを側鎖として有する化合物を出発物質として用い、これを基材に固定する。次に、得られた材料を、例えば、ローズベンガルやメチレンブルーなどの光増感剤と共に溶剤中に浸漬し、酸素をバブリングすると共に光を照射するなどの方法によって、芳香環の基本骨格中にエンドペルオキシド結合を導入することにより、本発明に係る殺菌材料を製造することができる。
【0015】上記の出発物質を基材に固定する手段としては、公知の有機合成法、例えば共重合、固相反応法などの方法を採用することができるが、グラフト重合法が好ましい方法である。中でも、放射線グラフト重合法は、ポリマー基材に放射線を照射してラジカルを生成させ、それにグラフトモノマーを反応させることによって、所望のグラフト側鎖を基材に導入することのできる方法であり、グラフト鎖の数や長さを比較的自由にコントロールすることができ、また、各種形状の既存の高分子材料にグラフト側鎖を導入することができるので、本発明の目的のために用いるのに最適である。
【0016】本発明の目的のために好適に用いることのできる放射線グラフト重合法において、用いることのできる放射線としては、α線、β線、γ線、電子線、紫外線などを挙げることができるが、本発明において用いるのにはγ線や電子線が適している。放射線グラフト重合法には、グラフト用基材に予め放射線を照射した後、重合性単量体(グラフトモノマー)と接触させて反応させる前照射グラフト重合法と、基材とモノマーの共存下に放射線を照射する同時照射グラフト重合法とがあるが、いずれの方法も本発明において用いることができる。また、モノマーと基材との接触方法により、モノマー溶液に基材を浸漬させたまま重合を行う液相グラフト重合法、モノマーの蒸気に基材を接触させて重合を行う気相グラフト重合法、基材をモノマー溶液に浸漬した後、モノマー溶液から取り出して気相中で反応を行わせる含浸気相グラフト重合法などが挙げられるが、いずれの方法も本発明において用いることができる。
【0017】繊維や繊維の集合体である織布/不織布は本発明の殺菌材料として用いるのに最も適した素材であるが、これはモノマー溶液を保持し易いので、含浸気相グラフト重合法において用いるのに適している。
【0018】本発明の殺菌材料用の有機高分子基材としては、ポリオレフィン系の有機高分子材料が好ましく用いられる。ポリオレフィン系の有機高分子材料は、放射線に対して崩壊性ではないので、放射線グラフト重合法によってグラフト側鎖を導入する目的に用いるのに適している。更に、本発明の殺菌材料をフィルタ素材として用いる場合には、基材として、繊維、又は繊維の集合体である織布又は不織布、或いはそれらの加工品が好ましく用いられる。
【0019】有機高分子基材に固定させるエンドペルオキシド結合を有する基の好適な量は、殺菌処理すべき媒体の種類、除去対象となる細菌、バクテリア等の存在量、殺菌材料の使用環境、高分子基材の形態などによって変化し、放射線グラフト重合法などの基材への出発物質の固定化反応の反応条件を適宜選択することによって変動させることが可能である。
【0020】本発明に係る殺菌材料は、高分子基材の主鎖上にエンドペルオキシド結合を有する基を含むグラフト側鎖が固定されている。したがって、この殺菌材料を加温しながら、細菌やウィルスなどを含む被処理媒体を接触させると、エンドペルオキシド結合から一重項酸素が発生して、これにより被処理媒体中の細菌やウィルスが殺菌される。エンドペルオキシド結合からの一重項酸素の発生は、一般に、殺菌材料を35℃〜40℃の温度に加温することによって行うことができる。エンドペルオキシド結合を有する基自体は、高分子基材に固定されているので、対象液中に溶け出すことはなく、薬剤による汚染のおそれはない。また、一重項酸素による殺菌は対象物の酸化を伴わず、高温も用いないので、変質が問題となる液体食品などの処理に極めて好適である。
【0021】本発明に係る殺菌材料のエンドペルオキシド基から所定量の一重項酸素が解離して十分な殺菌能を発揮し得なくなったら、殺菌材料を、その製造工程におけるものと同様の方法、即ち、光増感剤と共に溶剤中に浸漬し、酸素をバブリングすると共に光を照射するなどの方法により、再び基本骨格中にエンドペルオキシド基を導入することによって、殺菌能を再生させることができる。
【0022】本発明に係る高分子殺菌材料は、細菌やウイルス等の存在が問題となる任意の液体の殺菌処理に用いることができる。また、本発明に係る高分子殺菌材料は、任意の常湿気体の殺菌処理にも用いることができる。例えば、本発明に係る殺菌材料を不織布の形態に形成して、これに液体を通す手段を設けると共に、不織布を加温する手段を設けることによって、例えば、ビール、牛乳などの殺菌・濾過装置、薬品製造用水の殺菌・濾過装置、農業用水、廃液、クーリングタワー水又は下水処理場処理水用の殺菌・殺ウィルス用フィルタとして、養殖場における用水フィルタとして、循環式浴槽用のフィルタとして、プール、水族館のオゾン消毒代替機として、飲料用水、醸造用水製造システムにおける殺菌・濾過装置として、或いは半導体洗浄用超純水ラインのファウリング防止装置における殺菌・濾過装置として用いることができる。
【0023】
【発明の効果】以上説明したように、本発明に係る殺菌材料は、高分子基材にエンドペルオキシド結合を有する基が固定されていることを特徴としており、これを35℃〜40℃程度の温度に加温しながら被処理対象媒体を接触させることによって、殺菌力の極めて高い一重項酸素を発生させて対象媒体を殺菌することができる。また、エンドペルオキシド結合を有する基自体は、高分子基材に固定されているので、対象液中に混入することがなく、薬品や食品用の原料水や液体原料などのような、薬品の混入が忌避される用途においても用いることができる。更に、本発明に係る殺菌材料は、対象物の酸化を引き起こすことがなく、また高温も用いないので、食品などのような変質が大きな問題となる用途において、極めて好適に用いることができる。更に、使用後の殺菌材料は、極めて簡便に再生することができる。
【0024】以下、実施例により本発明を更に詳細且つ具体的にに説明する。これらの記載は、本発明を限定するものではない。
【0025】
【実施例】実施例1:殺菌材料の製造目付50g/m2、厚さ0.3mm、繊維径12μmのポリエチレン繊維より構成された不織布に、電子線150kGyを窒素雰囲気下で照射した。この照射不織布から10cm2の試料を切取り、9−ビニルアントラセン1gをベンゼン3mlに溶解した溶液中に浸漬し、50℃で1時間反応させた。反応後、不織布をアセトン溶液に浸漬して、未反応モノマーやホモポリマー(ビニルアントラセンの単独重合物)を除去した。乾燥後、重量を測定してグラフト率(重量増加率)を算出したところ、100%であった。このグラフト不織布を、メチレンブルーを光増感剤として加えたメチレンクロライド中に浸漬し、ドライアイス冷却下(反応温度0℃以下)で、空気(酸素)をバブリングしながらハロゲンランプにより3時間光照射し、基材に固定したアントラセン骨格にエンドペルオキシド結合を導入した。反応後、光増感剤を洗浄除去した。
【0026】実施例2:殺菌材料の製造目付50g/m2、厚さ0.3mm、繊維径12μmのポリエチレン繊維より構成された不織布に、電子線150kGyを窒素雰囲気下で照射した。この照射不織布から10cm2の試料を切取り、2−ビニルナフタレン1gをベンゼン3mlに溶解した溶液中に浸漬し、50℃で1時間反応させた。反応後、不織布をアセトン溶液に浸漬して、未反応モノマーやホモポリマー(ビニルアントラセンの単独重合物)を除去した。このグラフト不織布を、メチレンブルーを光増感剤として加えたメチレンクロライド中に浸漬し、ドライアイス冷却下(反応温度0℃以下)で、空気(酸素)をバブリングしながらハロゲンランプにより3時間光照射し、基材に固定したアントラセン骨格にエンドペルオキシド結合を導入した。反応後、光増感剤を洗浄除去した。
実施例3:殺菌材料の殺菌能の評価37℃で培養した大腸菌を集菌し、108cell/mlとなるようにバッファー中に懸濁した。この菌体懸濁液100mlに、実施例1で得られた不織布殺菌材料100mg(即ち、有効成分50mg)を加え、37℃、スターラー撹拌下で1時間インキュベートした。インキュベート後の大腸菌の生存率を寒天平板培地によるコロニー計測法で求めたところ、103cell/ml以下に低下した。これにより、本発明に係る殺菌材料の非常に強力な殺菌能が示された。
【出願人】 【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
【出願日】 平成12年7月3日(2000.7.3)
【代理人】 【識別番号】100089705
【弁理士】
【氏名又は名称】社本 一夫 (外4名)
【公開番号】 特開2002−20205(P2002−20205A)
【公開日】 平成14年1月23日(2002.1.23)
【出願番号】 特願2000−200520(P2000−200520)