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【発明の名称】 菌根菌の生長促進剤
【発明者】 【氏名】石井 孝昭

【氏名】桑田 光作

【氏名】松下 至

【氏名】宇多村 優

【氏名】松本 勲

【氏名】門屋 一臣

【要約】 【課題】熱水抽出加工済みのコンブ類を原材料として利用し、確実に生長作用が認められる菌根菌の生長促進剤を提供することである。

【解決手段】コンブ類から熱水溶出物を分離除去した残渣の固形分を原料とし、この固形分から分取したアルコール抽出物をODS系カラムクロマトグラフィーで分画し、アルコール濃度15〜40%のアルコール水溶液で溶出した画分を有効成分として含有する菌根菌の生長促進剤とする。予め熱水に溶解しやすい物質が除去されており、しかも所定アルコール濃度で抽出され、かつODS系樹脂に吸着されて所定濃度のアルコール水溶液で抽出される有機物が有効成分として含有されており、有効成分以外の夾雑物が除去されていることによって効力の安定した菌根菌の生長促進剤になる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 コンブ類から熱水溶出物を分離除去した残渣の固形分を原料とし、この固形分から分取したアルコール抽出物をODS系カラムクロマトグラフィーで分画し、アルコール濃度15〜40%のアルコール水溶液で溶出した画分を有効成分として含有する菌根菌の生長促進剤。
【請求項2】 固形分から分取したアルコール抽出物が、アルコール濃度50%以上のアルコール水溶液を抽出溶媒とするアルコール抽出物である請求項1記載の菌根菌の生長促進剤。
【請求項3】 アルコール濃度15〜40%のアルコール水溶液が、アルコール濃度20〜30%のメチルアルコール水溶液である請求項1または請求項2に記載の菌根菌の生長促進剤。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、植物の根に共生する菌根菌の生長を促進する菌根菌の生長促進剤の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、植物の菌根(マイコリーザ)は、共生菌が植物から炭水化物を吸収する代わりに土壌中から水分や養分を集めて供給するという共生関係のある菌類である。このような菌根としては、菌糸が細根の表面と細胞の外側を包む外生菌根と、菌糸が根の細胞の中まで進入する内生菌根があり、内生菌根のうち、菌糸が根の細胞に進入して袋状体(Vesicule)や樹枝状体(Arbuscule)を作る菌根菌はVA菌根と呼ばれている。
【0003】VA菌根菌は接合菌類に属し、特にリンやカリウムの吸収に重要な働きをするものであり、VA菌根が形成された植物のリン等の吸収率が向上して植物の生長がよくなると共に、病気に対する抵抗力も高くなるといわれている。
【0004】一方、海藻類の褐藻、紅藻、緑藻、珪藻などには、インドール酢酸などのオーキシン、サイトカイニン、ジベレリンなどの植物の生理活性を調節する物質が含まれていることが知られている。
【0005】海藻類のうち、コンブ類は、グルタミン酸ナトリウムなどの水溶性の旨み成分を多く含んでいるため、そのような旨み成分を熱水で抽出して、いわゆる食品産業上重要な「出し汁」を取ることが工業的に行なわれている。
【0006】そして、本願の出願人は、食材のコンブ類からメタノールなどの有機溶媒抽出物を得て、これをメタノール濃度50重量%以下でODSの様な吸着樹脂(固定化担体)を充填したカラムを通過させることにより分画して得られる海藻抽出物の製造方法およびそれを用いた植物の菌根形成促進方法を特開平10−201468号および特開平10−273410号公報に開示した。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上記した従来の海藻抽出物の製造方法およびそれを用いた植物の菌根形成促進方法は、食材として利用されるコンブ類を生または乾燥状態で利用したものであり、予め、旨み成分が熱水で抽出された後のもの、いわゆる「出し汁」をとった後の残渣のコンブ類を原料としたものではなく、このような残渣のコンブ類については、これまでに上記の公報に開示されるような海藻抽出物の製造方法およびそれを用いた植物の菌根形成促進方法の発明と同様な植物の菌根形成促進の効果が確実に得られるか否かについては明らかにされていない。
【0008】因みに、水やアルコールは分子内部に極性を有する極性溶媒であり、従来のコンブ類の熱水抽出法によって菌根菌生長促進物質の大部分が抽出されているならば、抽出残渣には菌根菌生長促進物質はあまり残っていないのではないか、とも考えられた。
【0009】本願の発明は、上記の予想に反して、旨み成分を熱水で抽出した後の固形状残渣、いわゆる「出し汁」をとった固形物残渣のコンブ類にも菌根菌の生長促進物質が充分に含まれていることを発見したことに基づいている。
【0010】すなわち、本願の各請求項に係る発明の課題は、これまでに使用されることがなかった原材料の使用可能性を新たに見出すことであり、そのような原材料を用いて生長作用が確実に認められる菌根菌の生長促進剤を製造することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するために、この発明は、コンブ類から熱水溶出物を分離除去した残渣の固形分を原料とし、この固形分から分取したアルコール抽出物をODS系カラムクロマトグラフィーで分画し、アルコール濃度15〜40%のアルコール水溶液で溶出した画分を有効成分として含有する菌根菌の生長促進剤としたのである。
【0012】上記したように構成される菌根菌の生長促進剤は、熱水抽出によって旨み成分を抽出した残渣のコンブ類を再利用したものであり、熱水溶出物を分離除去する抽出工程を経た副産物のコンブ類にも菌根菌の生長促進作用のある有効成分が確実に含有されていることの発見に基づいている。
【0013】熱水溶出物を分離除去したコンブ類をさらにアルコールで抽出すると、熱水には溶解し難いがアルコールには溶解する所定成分が抽出される。
【0014】このようにこの発明の菌根菌の生長促進剤は、予め熱水に溶解しやすい物質が除去されており、その代わりに所定アルコール濃度で抽出され、かつODS系樹脂に吸着されて所定濃度のアルコール水溶液で抽出される有機物が有効成分として含有されており、有効成分以外の夾雑物が除去されていることによって効力の安定した菌根菌の生長促進剤になっている。
【0015】上記の作用が確実であるように、固形分から分取したアルコール抽出物は、アルコール濃度50%以上のアルコール水溶液を抽出溶媒とするアルコール抽出物であることが好ましい。
【0016】また、同様の理由によって上記したアルコール濃度15〜40%のアルコール水溶液は、アルコール濃度20〜30%のメチルアルコール水溶液であることがより好ましい。
【0017】
【発明の実施の形態】この発明に用いるコンブ類は、特にその種類を限定するものではなく、マコンブ(Laminaria japonica) その他の周知の食用コンブ類(コンブ属:Laminaria)を用いることができる。
【0018】コンブ類から熱水溶出物を分離除去するには、生のコンブや乾燥したものまたは冷凍・冷蔵されたコンブ類を、熱水すなわち80〜100℃程度に加熱された熱水中に浸漬するか、または熱水をシャワーのように注ぎかけて接触させた後、ろ過または遠心分離などの分離操作によって固・液を分離し、熱水溶出物を除去して残渣の固形状のコンブ類を得る。
【0019】このようにしてコンブ類からその熱水溶出物を分離除去した残渣の固形分を原料とし、この原料からアルコールで抽出する場合に用いるアルコールは、低級一価のアルコールである。低級一価のアルコールの具体例としては、メチルアルコールもしくはエチルアルコールまたは両者の混合物が挙げられる。
【0020】ここで抽出溶媒として用いるアルコール濃度は、50%以上であることが好ましく、好ましくは60%以上、より好ましくは75%以上の高濃度アルコールを用いて好ましい結果を得ている。なお、この発明でいうアルコール濃度は、重量%である【0021】カラムクロマトグラフィーで分画する際に用いるODS系カラムは、多孔性物質であるシリカ系吸着樹脂を担体として充填した固相カラムであり、特に好ましい担体の例としてオクタデシルシリル化シリカゲルが挙げられる【0022】ODS充填カラムの市販品としては、富士シリシア化学社製:DM1020T、高圧充填ODSカラムとしては、ナカライテスク社製:ODS5C18−ARが例示できる。
【0023】アルコール抽出物をODS系カラムクロマトグラフィーで分画する際には、溶出液として、アルコール濃度15〜40%のアルコール水溶液を用い、これで溶出した画分を有効成分として用いるアルコール濃度15%未満では、菌根菌の生長促進物質の濃度が低くてその作用が実用的な程度に高まらず、40%を超える高濃度では、夾雑物が多くなり易くて安定した効果を得られ難いからである【0024】上記したような方法で得られる菌根菌の生長促進物質を有効成分として含有する菌根菌の生長促進剤は、その剤型を特に限定されるものではなく、例えば水溶性薬剤などの液剤とし、または周知の賦型剤を配合して粉末剤、顆粒剤、錠剤などに製剤することができる。
【0025】
【実施例および比較例】[実施例1]乾燥したマコンブ(Laminaria japonica)を熱水(90〜100℃)に10分浸漬し、綿布でろ過した出汁滓(残渣)を乾燥したもの1kgを原料として、これを80%メタノール40リットルに24時間浸漬し、抽出液を東洋濾紙5番で濾過し、分取した液体を50〜60℃のエバポレーションにより濃縮し、2リットルの粗抽出物を得た。
【0026】得られた粗抽出物を、蒸留水1000mlと共に富士シリシア化学社製のODSDM1020Tカラム(内容量3リットル)に導入し、次いで送液圧を0.6kg/cm2 として水6リットルを通過させた後、25%の濃度のメタノール水溶液6リットルを導入するフラッシュクロマトグラフィーを行なった。
【0027】そして、25%濃度のメタノール水溶液の溶出物を分取し、エバポレーションによって12倍(6リットルを0.5リットル濃縮)に濃縮し、これを実施例1の溶出物(図表中にTSGEと記した。)とした。
【0028】実施例1の溶出物(TSGE)を配合した液肥の調整は、その1リットル当たりコンブ出汁滓の乾燥物重量で1kg分または2kg分に相当するTSGEを含有させるようにし、尿素、リン酸ニカリウム、塩化カリウムを用いてN:P:K=10.35:3.38:6.32(%)となるように調整した。
【0029】この液肥を松山市内の宮内イヨカン園に10アール当たり1リットル用い、500倍に希釈したものを散布した。散布期間は、1998年の6月初旬から7月下旬(第1期)まで、および1999年の6月下旬から7月下旬まで(第2期)とし、毎週1回行なった。そして、液肥処理直前から処理終了後1〜2週間までの間に、カラタチ(Citrus iyo)の根および土壌を深さ5〜15cmのところから定期的に採取し、土壌25g中の菌根菌胞子数を石井ら(1989):園芸学会雑誌58(別1).30−31,1989の方法で測定し、またVA菌根感染率をPhillips,J.M.and D.S.Hayman. Trans.Br.Mycol.Soc,1970 IshiiおよびKadoya(1994)の方法で観察し、これらの結果を図1〜3に示した。
【0030】[比較例1]液肥1リットル当たりに、乾燥したマコンブ(Laminaria japonica)を熱水(90〜100℃)に10分浸漬し、綿布でろ過した出汁滓(残渣)を乾燥したものの粉砕物(TSGP)を0.5kg分加え、これを比較例1のTSGP混用液肥とした。
【0031】これらについても土壌25g中の菌根菌胞子数と、VA菌根感染率を実施例1と同様の試験条件で調べ、結果を図1〜3に示した。
【0032】[比較例2,3]TSGEまたはTSGPをいずれも含まず、液肥のみのものを比較例2とした。また、TSGEまたはTSGPをいずれも含まない従来慣行の肥料(愛媛県の肥料基準通りのもの)を比較例3とした。
【0033】これらについても土壌25g中の菌根菌胞子数と、VA菌根感染率を実施例1と同様の試験条件で調べ、結果を図1〜3に示した。
【0034】図1〜3の結果からも明らかなように、TSGE混用液肥処理区は、液肥のみの区または慣行区に比べてカラタチ根における菌根菌感染率を高める傾向が認められた。また、TSGE混用液肥処理区における土壌中のVA菌根菌胞子数は、液肥のみの処理区や対照(慣行)区の場合に比べて増加した。
【0035】これらの結果から、TSGE混用液肥は、菌根菌の有効利用において有利であることが判明した。
【0036】
【発明の効果】本願における熱水溶出物を分離除去したコンブ類を原料とし、これをアルコールで抽出しさらにカラムクロマトグラフィーで分取した分画物を有効成分として含有する菌根菌の生長促進剤に係る発明は、熱水抽出された後のコンブ類残渣を新規な原材料として利用して得られる菌根菌の生長促進剤であり、しかも確実に生長作用が認められる菌根菌の生長促進剤であるという利点がある。
【0037】また、本願におけるアルコール濃度50%以上のアルコール水溶液を抽出溶媒とした菌根菌の生長促進剤に係る発明およびアルコール濃度20〜30%のメチルアルコール水溶液をカラムクロマトグラフィーの溶出液として用いる発明は、いずれも上記した効果がより確実に得られる菌根菌の生長促進剤になる。
【0038】このように本願の各請求項に係る発明は、コンブ類から旨み成分を熱水抽出した固形状残渣に新たな価値を創出させることのできる発明であり、特に海藻原料の再利用(リサイクル)の観点からみても利用価値の高いものであるといえる。
【出願人】 【識別番号】000114732
【氏名又は名称】ヤマキ株式会社
【出願日】 平成12年6月19日(2000.6.19)
【代理人】 【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二 (外2名)
【公開番号】 特開2002−3324(P2002−3324A)
【公開日】 平成14年1月9日(2002.1.9)
【出願番号】 特願2000−182855(P2000−182855)