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【発明の名称】 自己免疫疾患モデル動物の作製方法
【発明者】 【氏名】天谷 雅行

【氏名】西川 武二

【氏名】小安 重夫

【要約】 【課題】組換えDsg3タンパク質等の抗原タンパク質の調製を不要とし、かつ、Dsg3-/-マウス等の自己免疫疾患の抗原遺伝子が欠損している非ヒト哺乳動物を免疫するステップを省略することができる、より簡便に短期間で尋常性天疱瘡等の自己免疫疾患の表現型を示す非ヒト哺乳動物を作製する方法を提供すること。

【解決手段】自己免疫疾患の抗原遺伝子を欠損している非ヒト哺乳動物から調製した脾細胞等の免疫担当細胞の所定量を、抗原タンパク質を有する非ヒト哺乳動物に移植し、かかる抗原タンパク質に反応する抗体の産生又はT細胞を活性化させて、尋常性天疱瘡等の自己免疫疾患の表現型を示す非ヒト哺乳動物の作製する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 自己免疫疾患の抗原タンパク質に反応する抗体の産生又はT細胞の活性化により、自己免疫疾患の表現型を示す非ヒト哺乳動物の作製方法であって、自己免疫疾患の抗原遺伝子を欠損している非ヒト哺乳動物から調製した免疫担当細胞の所定量を、抗原タンパク質を有する非ヒト哺乳動物に移植することを特徴とする非ヒト哺乳動物の作製方法。
【請求項2】 免疫担当細胞の移植が、免疫不全非ヒト哺乳動物に対して行われることを特徴とする請求項1記載の非ヒト哺乳動物の作製方法。
【請求項3】 免疫不全非ヒト哺乳動物が、Rag2遺伝子を欠損している非ヒト哺乳動物であることを特徴とする請求項2記載の非ヒト哺乳動物の作製方法。
【請求項4】 免疫担当細胞が、脾細胞であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の非ヒト哺乳動物の作製方法。
【請求項5】 移植する免疫担当細胞の所定量が、2×107〜5×107個の脾細胞であることを特徴とする請求項4記載の非ヒト哺乳動物の作製方法。
【請求項6】 自己免疫疾患が尋常性天疱瘡であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の非ヒト哺乳動物の作製方法。
【請求項7】 抗原タンパク質がデスモグレイン3タンパク質であることを特徴とする請求項6記載の非ヒト哺乳動物の作製方法。
【請求項8】 非ヒト哺乳動物が齧歯類であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載の非ヒト哺乳動物の作製方法。
【請求項9】 齧歯類がマウスであることを特徴とする請求項8記載の非ヒト哺乳動物の作製方法。
【請求項10】 請求項1〜9のいずれか記載の非ヒト哺乳動物の作製方法により得られることを特徴とする自己免疫疾患の表現型を示す非ヒト哺乳動物。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自己免疫疾患のモデル動物及びその作製方法、より詳しくは、尋常性天疱瘡のモデルマウス等の自己免疫疾患のモデル動物及びその作製方法に関する。
【0002】
【従来の技術】尋常性天疱瘡(pemphigus vulgaris;PV)は、皮膚及び粘膜の自己免疫水疱形成疾患であり、組織学的には表皮内の水疱形成により特徴付けられ、免疫病理学的にはケラチノサイトの細胞表面に対するIgG自己抗体により特徴付けられる(Stanley, J. R. Pemphigus. In Dermatology in General Medicine. I.M. Freedberg, A. Z. Eisen, K. Wolff, K.F.Austen, L.A. Goldesmith, S.I. Katz,and T.B. Fitzpatrick, eds. McGraw-Hill, New York, 654-666(1998))。臨床的には、尋常性天疱瘡患者は、広範な弛緩性の水疱及びびらんを示す。これらは、あらゆる重層扁平上皮に生じうる。適当な治療を行わなければ、広範囲の皮膚に生じた病巣が体液の漏出又は二次的な細菌感染を引き起こすため、尋常性天疱瘡は致命的となることもある。コルチコステロイドの全身投与及び免疫抑制療法を用いることにより、天疱瘡の予後は改善されているが、治療の合併症による死亡のため、死亡率は依然としてかなり高い。
【0003】尋常性天疱瘡の標的抗原は、最初、ケラチノサイト抽出物の免疫沈降により、130kDの糖タンパク質として同定された(J. Clin. Invest. 70, 281-288,1982、J. Clin. Invest. 74, 313-320, 1984)。その後、尋常性天疱瘡抗原に特異的なアフィニティ精製自己抗体を用いて、ヒト・ケラチノサイト発現ライブラリーを免疫スクリーニングすることにより、尋常性天疱瘡抗原のcDNAが単離された(Cell, 67, 869-877, 1991)。塩基配列の解析により、尋常性天疱瘡抗原は、細胞間接着分子のカドヘリン・スーパー遺伝子ファミリーに属することが示された。尋常性天疱瘡抗原は、デスモソームの膜タンパク質であり(J. CellBiol. 122, 409-415, 1993)、デスモグレイン3(desmoglein3;Dsg3)と名付けられた(Adv. Dermatol. 11, 319-352, 1996)。
【0004】Dsg3タンパク質に対するIgG自己抗体が尋常性天疱瘡の病因的役割を示す証拠は多数存在する。第一に、経時的な疾患の活性が、血中抗体力価と相関していることが、間接蛍光抗体法(Br. J. Dermatol. 84, 7-13, 1971)又はELISA(J. Immunol. 159, 2010-2017, 1997、Br. J. Dermatol. 140, 351-357,1999)により報告されている。第二に、尋常性天疱瘡を患う母親の新生児は、胎盤を介して移行した母親由来のIgGのために一時的に疾患を有する(Pediatrics 78, 1102-1105, 1986)。母親由来のIgGが異化されるにつれ、症状は軽快する。第三に、尋常性天疱瘡患者由来のIgGは、組織培養された皮膚において、補体又は炎症細胞なしに水疱形成を誘導することができる(J. Invest. Dermatol. 67, 254-260, 1976、J. Exp. Med. 157, 259-272, 1983)。第四に、患者の血清由来のIgGを新生マウスに受動移入すると、典型的な組織学的所見を伴う表皮内水疱形成が起こる(N. Engl. J. Med. 306, 1189-1196, 1982)。第五に、患者の血清を、細胞外ドメインからなる組換えDsg3タンパク質(rDsg3)を用いて免疫吸収除去すると、血清の病原性が除去され、新生マウスにおける水疱形成が阻害される(J. Clin. Invest. 94, 59-67, 1994)。最後に、rDsg3でアフィニティ精製された抗体は、抗原性を有し、新生仔マウスにおいて尋常性天疱瘡の組織学的所見を伴う水疱を形成させる(J. Clin. Invest. 90, 919-926, 1992、J. Clin. Invest. 102, 775-782, 1998)。これらの研究から、尋常性天疱瘡は、特に自己抗体生成後の過程に関しては、最もよく特徴が決定された自己免疫疾患の一つとなっている。従って、尋常性天疱瘡は、現在では、自己抗体産出又は自己寛容の破壊の細胞メカニズムを研究するため、また、疾患特異的な治療法を開発するための、臓器特異的自己免疫疾患の良い疾患モデルとされている。
【0005】実験的自己免疫疾患動物モデルの大部分は、様々なアジュバンドを用いて自己抗原を繰り返し注射することにより作製されている。しかし、重症筋無力症の場合のように、アセチルコリン・レセプター(T. カリフォルニカ(T. californica))で免疫されたマウスに疾患が発生する頻度は系統により極めて異なるため、この方法は、非常に経験に頼ったものである(Ann. N. Y. Acad. Sci. 377, 237-57, 1981)。また、その他の自己免疫疾患動物モデルの作製方法として、通常では自己免疫病を自然発症しないマウスの胸腺を新生時期に摘出することにより多くの近交系マウスにおいて複数の臓器に自己免疫疾患を発症させる方法や、ヌードマウスに正常マウスのTリンパ球を注射することにより類似の病変を発症させる方法や、ヌードマウスに異種の胎仔胸腺を移植して該マウスに免疫能を獲得させ、多発性のきわめて激しい臓器特異的自己免疫疾患を発症させる方法が知られている(医学のあゆみ、Mar.別冊、282〜284頁、1995)。そして、上記方法のうち、ヌードマウスへの同系マウスのT細胞の注入による自己免疫疾患の導入方法については次のように言及されている。ヌードマウスには自己免疫疾患は自然発症しないが、雌雄のヌードマウスに同系の異性マウス又は新生時期去勢マウスの脾細胞あるいはリンパ節細胞を少量(1×105〜4×106個)注入することにより、自己免疫性の卵巣炎や前立腺炎を発症させることができる。ところが、同じドナーマウスの細胞を多量(4×107個)注入したヌードマウスには自己免疫病は発症しない。
【0006】従来、重症複合免疫不全(SCID)マウスを尋常性天疱瘡患者由来のPBMCで再構築することにより、尋常性天疱瘡の実験モデルが開発されている(J. Clin. Invest. 92, 2401-7, 1993)。このモデルでは、患者由来のリンパ球が低力価の血中自己抗体を産出したが、マウス皮膚にヒトIgG沈着を伴う自発的な表皮内水疱が見られることは稀であった。ヒトの皮膚をSCIDマウスに移植した場合には、移植された皮膚に尋常性天疱瘡様の水疱が見られたが、このモデルにおける水疱発生の原因は、ヒトのPBMC及び皮膚の組織不適合による炎症反応である可能性も否定できていない。このように確実な尋常性天疱瘡の活性疾患モデルは存在していなかったが、本発明者らは、マウス体内において病原性抗体が産生されないのは、Dsg3タンパク質に対する自己寛容のためであるとの仮説の下、遺伝子ターゲティング技術により作製したDsg3欠損マウスは発生段階で免疫系がDsg3タンパク質に曝されず、Dsg3タンパク質に対する自己寛容を獲得していないとの知見に基づき、尋常性天疱瘡の表現型を示す非ヒト哺乳動物の作製方法を開発した(特願平11−91408号)。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】上記本発明者らによる作製方法(特願平11−91408号)は、自己免疫疾患の抗原遺伝子(Dsg3)が欠損している非ヒト哺乳動物(マウス)を自己免疫疾患の抗原タンパク質(rDsg3タンパク質)で免疫し、該免疫された非ヒト哺乳動物から脾細胞を調製し、該調製した脾細胞を抗原タンパク質を有する非ヒト哺乳動物に移植し、自己免疫疾患の抗原タンパク質に反応する抗体の産生又はT細胞の活性化により、自己免疫疾患(尋常性天疱瘡)の表現型を示す非ヒト哺乳動物を作製するというものであり、きわめて完成度の高い方法であるが、rDsg3タンパク質等の抗原タンパク質が必要とされ、また、Dsg3-/-マウス等の自己免疫疾患の抗原遺伝子が欠損している非ヒト哺乳動物を免疫するステップも必要とされていた。本発明は、上記本発明者らによる作製方法(特願平11−91408号)の改良に関するものであり、本発明の課題は、組換えDsg3タンパク質等の抗原タンパク質の調製を不要とし、かつ、Dsg3-/-マウス等の自己免疫疾患の抗原遺伝子が欠損している非ヒト哺乳動物を免疫するステップを省略することができる、より簡便に短期間で尋常性天疱瘡等の自己免疫疾患の表現型を示す非ヒト哺乳動物を作製する方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究し、まず、組換えDsg3タンパク質で免疫していないナイーブなDsg3-/-マウスの脾細胞を、前記作製方法(特願平11−91408号)における移植量と等量の一匹あたり1×107細胞に調整し、レシピエントマウス(Rag2-/-)7匹に移植したところ、2ヶ月間の観察後でも、7匹中全てにおいて、ELISAで血中抗体価の上昇は認められず、DIFにおいても表皮細胞間へのIgGの沈着は認められなかった。また、観察期間を通してマウスに脱毛、糜爛、痂皮形成などの明らかな表現型は認められなかった。かかる結果より、ナイーブ脾細胞移植によるモデルマウスの作製は困難と考えられたが、ナイーブなDsg3-/-マウスの脾細胞の移植量を5倍に増やし、一匹あたり5×107細胞に調整し、レシピエントマウス(Rag2-/-)に移植したところ、移植4週間で明らかな尋常性天疱瘡の表現型が認められることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0009】すなわち本発明は、自己免疫疾患の抗原タンパク質に反応する抗体の産生又はT細胞の活性化により、自己免疫疾患の表現型を示す非ヒト哺乳動物の作製方法であって、自己免疫疾患の抗原遺伝子を欠損している非ヒト哺乳動物から調製した免疫担当細胞の所定量を、抗原タンパク質を有する非ヒト哺乳動物に移植することを特徴とする非ヒト哺乳動物の作製方法(請求項1)や、免疫担当細胞の移植が、免疫不全非ヒト哺乳動物に対して行われることを特徴とする請求項1記載の非ヒト哺乳動物の作製方法(請求項2)や、免疫不全非ヒト哺乳動物が、Rag2遺伝子を欠損している非ヒト哺乳動物であることを特徴とする請求項2記載の非ヒト哺乳動物の作製方法(請求項3)や、免疫担当細胞が、脾細胞であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の非ヒト哺乳動物の作製方法(請求項4)や、移植する免疫担当細胞の所定量が、2×107〜5×107個の脾細胞であることを特徴とする請求項4記載の非ヒト哺乳動物の作製方法(請求項5)や、自己免疫疾患が尋常性天疱瘡であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の非ヒト哺乳動物の作製方法(請求項6)や、抗原タンパク質がデスモグレイン3タンパク質であることを特徴とする請求項6記載の非ヒト哺乳動物の作製方法(請求項7)や、非ヒト哺乳動物が齧歯類であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載の非ヒト哺乳動物の作製方法(請求項8)や、齧歯類がマウスであることを特徴とする請求項8記載の非ヒト哺乳動物の作製方法(請求項9)や、請求項1〜9のいずれか記載の非ヒト哺乳動物の作製方法により得られることを特徴とする自己免疫疾患の表現型を示す非ヒト哺乳動物(請求項10)に関する。
【0010】
【発明の実施の形態】本発明の非ヒト哺乳動物の作製方法としては、自己免疫疾患の抗原タンパク質に反応する抗体の産生又はT細胞の活性化により、自己免疫疾患の表現型を示す非ヒト哺乳動物の作製方法であって、自己免疫疾患の抗原遺伝子を欠損している非ヒト哺乳動物から調製した免疫担当細胞の所定量を、抗原タンパク質を有する非ヒト哺乳動物に移植する方法であれば特に制限されるものではなく、ここで免疫担当細胞とは、体液性免疫や細胞性免疫などの一連の生体防御反応に関与するリンパ球やマクロファージ等の細胞をいい、また、免疫担当細胞の所定量とは、抗原タンパク質を有する非ヒト哺乳動物に移植した場合、自己免疫疾患の抗原タンパク質に反応する抗体の産生又はT細胞の活性化により、自己免疫疾患の表現型を示す非ヒト哺乳動物を作製することができる免疫担当細胞の量をいう。免疫担当細胞を調製する非ヒト哺乳動物がマウスのような小動物の場合、かかる免疫担当細胞として脾細胞を有利に用いることができ、例えば、尋常性天疱瘡の抗原遺伝子Dsg3を欠損しているマウスから調製した脾細胞を免疫不全マウスに移植する場合の所定量としては、1.5×107以上、好ましくは2×107〜5×107個の脾細胞を好適に例示することができる。
【0011】本発明における自己免疫疾患としては、例えば、尋常性天疱瘡、重症筋無力症、自己免疫性溶血性貧血、バセドー病、橋本病、グットパスチャー症候群、自己免疫性糖尿病、多発性硬化症などの疾患を具体的に挙げることができるが、これらに制限されるものではなく、また、これら自己免疫疾患の抗原遺伝子としては、例えば、自己免疫疾患が尋常性天疱瘡であればDsg3遺伝子、重症筋無力症であればアセチルコリン受容体遺伝子、バセドー病や橋本病であればTSH受容体遺伝子、グットパスチャー症候群であればIV型コラーゲン遺伝子、多発性硬化症であればミエリン塩基性タンパク質遺伝子などを具体的に挙げることができるが、これらに制限されるものではない。そして、かかる自己免疫疾患の抗原遺伝子を欠損している非ヒト哺乳動物の作製は、当業者によって公知の方法で行うことができる。
【0012】本発明においては、非ヒト哺乳動物から調製した脾細胞等の免疫担当細胞の所定量が、抗原タンパク質を有する非ヒト哺乳動物に移植されるが、かかる脾細胞等の免疫担当細胞を調製するための非ヒト哺乳動物(ドナー)と、脾細胞等の免疫担当細胞の移植を受ける非ヒト哺乳動物(レシピエント)とは、移入される脾細胞等に由来のリンパ球がレシピエントの組織を破壊するGVHDが発症しないようにするために、同種であり、遺伝子背景が同じであることが好ましい。また、レシピエントは、移入された脾細胞等に由来のリンパ球を拒絶しないようにするために、免疫不全非ヒト哺乳動物であることが好ましく、かかる免疫不全非ヒト哺乳動物として、Rag2遺伝子が欠損した非ヒト哺乳動物を好適に例示できるが、この他、例えば、SCIDマウス、ヌードマウス、MHCノックアウトマウス、共通γ鎖ノックアウトマウスなどを例示することもできる。そして、ドナーからの脾細胞等の免疫担当細胞の調製やレシピエントへの脾細胞等の免疫担当細胞の移植は、公知の方法により行うことができる。そしてまた、上記ドナーとしては、遺伝子欠損動物を作製しうるものであれば特に制限されるものではなく、齧歯類、例えば、マウスやラットを好適に例示することができ、上記レシピエントとしては、自己免疫疾患の表現型を示すことができるものであれば特に制限されるものではなく、齧歯類、例えば、マウスやラットを好適に例示することができる。
【0013】本発明により作製される非ヒト哺乳動物としては、自己免疫疾患の抗原タンパク質に反応する抗体の産生、好ましくは抗体の安定的な産生、又はT細胞の活性化、好ましくはT細胞の持続的な活性化により、自己免疫疾患の表現型を示すことができるモデル動物として有用であれば特に制限されるものではなく、かかる自己免疫疾患の表現型、特に主要な表現型としては、尋常性天疱瘡のモデル動物においては体重減少及び可逆的な脱毛など、重症筋無力症では筋力低下など、自己免疫性溶血性貧血では貧血など、バセドー病では甲状腺機能亢進など、橋本病では甲状腺機能低下など、グットパスチャー症候群では腎障害や肺障害など、自己免疫性糖尿病では糖尿など、多発性硬化症では神経麻痺などをそれぞれ例示することができる。
【0014】これらのモデル動物は、自己免疫疾患の治療効果を検討したい所望の化合物を投与し、その表現型を観察することにより、該疾患に対する治療薬や治療法の開発に用いることができる。特に、本実施例において作製された尋常性天疱瘡のモデルマウスは、その主要な表現型が体重減少及び可逆的な脱毛であり、また表現型が6カ月以上に亘って持続するため、該マウスを屠殺することなく観察してそれぞれの治療薬や治療法の有効性を容易かつ客観的に評価することが可能である。また、これらのモデルマウスは、抗原タンパク質に対する抗体産生の細胞メカニズムを解明する上でも非常に有用である。
【0015】
【実施例】以下に、実施例を挙げてこの発明を更に具体的に説明するが、この発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。実施例1(ナイーブDsg3-/-マウス脾細胞移植による尋常性天疱瘡モデルマウスの作製;図1参照)rDsg3で免疫せずにDsg3-/-マウスのナイーブな脾細胞がレシピエントマウス内において内在性のDsg3により刺激され、抗Dsg3 IgG抗体を産生し、尋常性天疱瘡の表現型を誘導するか検討した。ドナーマウスとしては、雄Dsg3-/-マウスと雌Dsg3+/-マウスの交配により得られたDsg3-/-マウスを用いた(Koch, P.J., et al., J. Cell Biol. 137:1091-1102(1997))。また、レシピエントマウスとしては、タコニック社(TaconicGerman Town,NY)より入手したB6.SJL-ptprcに10世代にわたり戻し交配させたRag2-/-マウスを用いた(Schulz, R. -J. et al., J. Immunol. 157:4379-4389(1996))。このRag2-/-マウスは、Dsg3タンパク質を発現しているが、T細胞レセプター又は免疫グロプリンの遺伝子を再編成することができず、これらのマウスには成熟T又はB細胞が存在しないため、移入した脾細胞が拒絶されない。
【0016】ナイーブなDsg3-/-マウスから常法により脾細胞を分離した。脾細胞の養子移入にあたっては、単核細胞を、Dsg3-/-マウスの脾臓から単離し、10%のウシ胎児血清、0.21%の重炭酸ナトリウム溶液(w/v)、2mMのL−グルタミン(GIBCO)、及び抗生物質を含む完全培地RPMI1640(Nissui Pharmaceuticals,Tokyo)に再懸濁させた。約2×107個の脾細胞と約5×107個の脾細胞をそれぞれPBSに懸濁させ、尾静脈への静脈注射により各20匹のRag2-/-マウスに移入した。抗体産生は、マウスrDsg3(J. Clin.Invest. 105, 625-631, 2000)をコーディング用抗原として用いて、ELISAにより測定した。
【0017】マウスrDsg3をコーティング用抗原として用いる、マウスにおけるマウスDsg3タンパク質(mDsg3)に対する血中IgGのELISAによる測定は、以下のようにして行った。マイクロタイター96穴プレートを、4℃で一晩、100μlの5μg/mlの精製マウスrDsg3でコーティングした。全ての血清試料を50〜5,000倍に希釈し、室温で1時間、96穴ELISAプレート上でインキュベートした。ペルオキシダーゼ結合抗マウスIgG抗体(MBL, Nagoya, Japan)と共に室温で1時間インキュベートした後、1mMのテトラメチルベンジジンをペルオキシダーゼの基質として用いて発色させた(J. Immunol. 159, 2010-2017, 1997、Br. J. Dermatol. 140, 351-357, 1999)。各試料のOD450の経時変化をデュープリケートで分析した。レシピエントマウス一匹あたり2×107個の脾細胞を移植したマウス#799,#800及び#317とレシピエントマウス一匹あたり5×107個の脾細胞を移植したマウス#310及び#337の結果を図2に示す。マウス#317を除いては、Dsg3-/-の脾細胞を移入してから14日目にはレシピエントRag2-/-マウスの血中に抗Dsg3 IgGが検出された。抗体産生は迅速に増加し、28日目付近でプラトーに達し、その後永続的に持続した。また、持続的な抗体産生は、6ヶ月以上にわたり、マウスが生存している限り観察された。
【0018】さらに、Dsg3タンパク質に対する抗体産生を、培養ケラチノサイトの免疫蛍光染色により試験した。マウス・ケラチノサイト細胞株PAM212(CancerRes. 40, 4694-4703, 1980)を、37℃で、5%のCO2を含む加湿空気中で、30分間、10%のFCSを含むDMEMで20倍に希釈したマウス血清試料と共にインキュベートした。次にPBS(−)で洗浄した後、−20℃で20分間、細胞を100%のメタノールで固定化し、フルオレセイン・イソチオシアネート(FITC)結合ヤギ抗マウスIgG抗体(DAKO, Copenhagen, Denmark)と共に室温で30分間インキュベートした。染色は、蛍光顕微鏡(Nikon, EclipseE800)で観察した。結果を図3(参考写真1参照)に示す。図3に示されるように、レシピエントRag2-/-マウスの重層扁平上皮のケラチノサイト細胞表面には、in vivoのIgG沈着が見られた。
【0019】レシピエントマウス一匹あたり2×107個の脾細胞を移植したマウスでは、移植後2週間で20匹中12匹に血中抗Dsg3抗体の産生をELISA法で確認し、移植4週間で11匹に明らかな天疱瘡の表現型を認めた。レシピエントマウス一匹あたり5×107個の脾細胞を移植したマウスでは、移植後2週間で20匹中16匹の血中抗体価が上昇し、移植3週間で15匹に明らかな表現型を認めた。表現型を示したマウスの口蓋では粘膜上皮細胞間にIgGの沈着を認め、病理組織学的に典型的な尋常性天疱瘡所見である基底膜直上での棘融解が確認された(図4;参考写真2参照)。また、表現型を示したマウスにおいては、広範囲にわたる脱毛や、顎下及び足底の糜爛、痂皮形成が認められた(図5;参考写真3参照)。以上の結果よりDsg3-/-マウスの脾細胞は、レシピエントマウスへ移植された後、インビボの状態で内在性のDsg3に接触し、活性化されて抗Dsg3抗体を産生することが示された。
【0020】これに対し、免疫していないDsg3-/-マウス脾細胞を一匹あたり1×107細胞に調整し、レシピエントマウス(Rag2-/-)7匹に移植したところ、2ヶ月間の観察後でも、7匹中全てにおいて、ELISAで血中抗体価の上昇は認められず、DIFにおいても表皮細胞間へのIgGの沈着は認められなかった。観察期間を通してマウスに脱毛、糜爛、痂皮形成などの明らかな表現型は認められなかった。これらの結果より、ナイーブ脾細胞移植により尋常性天疱瘡モデルマウスを作製するには、所定量のナイーブ脾細胞の移植が必要であることがわかる。
【0021】
【発明の効果】本発明により作製される尋常性天疱瘡モデルマウス等の自己免疫疾患の表現型を示すモデル動物は、自己免疫疾患の抗原タンパク質に特異的なリンパ球がレシピエント動物内で、いつ、どのように抗体産生能を獲得するのか、自己抗体産生機序を解析するのに有用なモデルとなる。またモデル動物作製の上でも、抗原タンパク質の調製が不要で、かつ、ドナー動物を免疫するステップも省略でき、より簡便に短期間で尋常性天疱瘡モデルマウス等の自己免疫疾患の表現型を示すモデル動物の作製が可能である。
【出願人】 【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
【出願日】 平成13年5月24日(2001.5.24)
【代理人】 【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀 (外2名)
【公開番号】 特開2002−345364(P2002−345364A)
【公開日】 平成14年12月3日(2002.12.3)
【出願番号】 特願2001−156126(P2001−156126)