| 【発明の名称】 |
心不全モデル動物の作製方法 |
| 【発明者】 |
【氏名】藤原 秀司
【氏名】池田 正太
【氏名】楠本 啓司
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| 【要約】 |
【課題】心不全の予防・治療のために用いられる物質のスクリーニングに有用かつ効率的に適用することが可能な非ヒト哺乳動物を提供する。
【解決手段】非ヒト哺乳動物に冠動脈狭窄と冠動脈および腹部大動脈以外の動脈狭窄とを同時期に開始させることにより作製される心不全モデル動物。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 非ヒト哺乳動物に冠動脈狭窄と冠動脈および腹部大動脈以外の動脈狭窄とを同時期に開始させることを特徴とする、心不全モデル動物の作製方法。 【請求項2】 非ヒト哺乳動物が、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、マウスまたはラットである請求項1記載の方法。 【請求項3】 非ヒト哺乳動物がラットである請求項1記載の方法。 【請求項4】 心不全状態が心収縮力低下である請求項1記載の方法。 【請求項5】 心不全状態が左心室拡張末期圧の上昇である請求項1記載の方法。 【請求項6】 心不全状態が心肥大である請求項1記載の方法。 【請求項7】 心不全状態がカテコラミンの反応性低下である請求項1記載の方法。 【請求項8】 冠動脈および腹部大動脈以外の動脈が大動脈である請求項1記載の方法。 【請求項9】 大動脈が胸部大動脈である請求項8記載の方法。 【請求項10】 非ヒト哺乳動物に冠動脈狭窄と大動脈起始部狭窄とを同時期に開始させることを特徴とする請求項1記載の方法。 【請求項11】 冠動脈狭窄が、冠動脈の血管径の80%以上の遮断である請求項1記載の方法。 【請求項12】 冠動脈および腹部大動脈以外の動脈の狭窄が、該動脈の血管径の20%〜70%の遮断である請求項1記載の方法。 【請求項13】 一方の狭窄を開始した後、該狭窄に起因する急性状態を脱していない時期に、他方の狭窄を開始させることを特徴とする請求項1記載の方法。 【請求項14】 一方の狭窄を開始した後、1週間以内に、他方の狭窄を開始させることを特徴とする請求項1記載の方法。 【請求項15】 一方の狭窄を開始した後、1ないし2日以内に、他方の狭窄を開始させることを特徴とする請求項1記載の方法。 【請求項16】 一方の狭窄を開始した後、60分以内に、他方の狭窄を開始させることを特徴とする請求項1記載の方法。 【請求項17】 一方の狭窄を開始した後、5分以内に、他方の狭窄を開始させることを特徴とする請求項1記載の方法。 【請求項18】 冠動脈狭窄と冠動脈および腹部大動脈以外の動脈狭窄とを同時に開始させることを特徴とする請求項1記載の方法。 【請求項19】 冠動脈狭窄と大動脈起始部狭窄とを同時に開始させることを特徴とする請求項1記載の方法。 【請求項20】 冠動脈および腹部大動脈以外の動脈の狭窄開始以前に、冠動脈狭窄を開始させることを特徴とする請求項1記載の方法。 【請求項21】 心不全モデル動物の生存率が狭窄開始2時間後に90%以上であり、心不全モデル動物の死亡率が狭窄開始1週間後に20%以上である請求項1記載の方法。 【請求項22】 死亡率が狭窄開始1週間後に50%以上である請求項21記載の方法。 【請求項23】 請求項1記載の心不全モデル動物に被験物質を適用し、心不全への影響を検定することを特徴とする、医薬物質のスクリーニング方法。 【請求項24】 医薬物質が心不全の予防・治療のために用いられる物質である請求項23記載の方法。 【請求項25】 請求項23記載の方法により心不全への影響を有すると判定される医薬物質を含有してなる医薬組成物。 【請求項26】 心不全の予防・治療用医薬組成物である請求項25記載の組成物。 【請求項27】 請求項1記載の心不全モデル動物の、心不全の予防・治療のために用いられる物質をスクリーニングするための使用。 【請求項28】 請求項1記載の方法により得られる心不全モデル動物。
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【発明の詳細な説明】【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、心不全モデル動物、その作製方法および用途に関するものである。 【0002】 【従来の技術】「心不全」とは、心臓が各臓器の需要に見合う血液を拍出できないために生じる症候群の総称であり、5年生存率が約50%という極めて予後不良の疾患である。現在、利尿薬・ジギタリス・カテコラミン・アンジオテンシン変換酵素阻害薬・β遮断薬等が心不全治療に用いられているものの、病態の進行を完全に抑制し、あるいは完全な健康体へと快復させる治療法は心移植術以外に存在せず、より有用な新しい心不全治療薬の発見が望まれている。新たな心不全治療薬の発見には、心不全モデル動物を用いたスクリーニングが重要であり、特に、短期間で末期心不全病態へと移行し、生命予後(生存率)に対する影響が評価できる動物モデルは有用性が高い。現在、心筋虚血に基づく心不全モデルとして一般的に用いられているのは、ラットを用いて冠動脈を永久に結紮するモデル (冠動脈結紮モデル)であるが、この方法で末期心不全病態へ移行させるには長期間を要し、生存率試験には通常半年から1年の試験期間が必要である。冠動脈のみを狭窄する冠動脈結紮モデルに、更に、他の動脈を結紮して新たな負荷を加えることで心不全の病態進行が加速される可能性がある。しかし、実際、2ヶ所以上の動脈を狭窄することによって心不全モデル動物を作製する方法としては、例えば、Clin. Exper. Hypertension, 18, 691-712 (1996), Linz et al. に、冠動脈狭窄の2週間前に腹部大動脈狭窄を開始する方法が開示されているが、この方法によれば、68%の死亡率を達成するのに冠動脈狭窄開始後6週間もの期間を要している。また、J. Am. Coll. Cardiol., 12, 1318-1325 (1988), Nolan et al. に、冠動脈狭窄の3週間前に大動脈起始部狭窄を開始する方法が開示されているが、この方法によれば、冠動脈狭窄開始1週間後の死亡率は13%であり、大動脈狭窄を伴わない場合と比べ差は認められていない。さらに、2ヶ所以上の動脈を同時に狭窄することによって心不全モデル動物を作製する方法としては、例えば、Jap. Heart J., 38, 697-708 (1997), Anthonio et al.に、冠動脈狭窄と腹部大動脈狭窄とを同時に開始する方法が開示されているが、この方法によれば、心不全病態の作成に6〜8週間もの期間を要している。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】新たな心不全治療薬をスクリーニングする上で、有用かつ効率的な in vivo評価系を構築することは重要な課題であるが、短期間(とりわけ1週間前後)で末期心不全の病態を呈する心不全モデル動物は確立されていないのが現状である。 【0004】 【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ラットの冠動脈狭窄と大動脈起始部狭窄とを同時に開始することにより、短期間で末期心不全の病態を呈する心不全モデル動物を作製できることを見い出した。本発明者らは、これらの知見に基づいて、さらに検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。 【0005】すなわち、本発明は、(1)非ヒト哺乳動物に冠動脈狭窄と冠動脈および腹部大動脈以外の動脈狭窄とを同時期に開始させることを特徴とする、心不全モデル動物の作製方法; (2)非ヒト哺乳動物が、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、マウスまたはラットである前記(1)記載の方法; (3)非ヒト哺乳動物がラットである前記(1)記載の方法; (4)心不全状態が心収縮力低下である(心不全が心収縮力低下を呈する心不全である)前記(1)記載の方法; (5)心不全状態が左心室拡張末期圧の上昇である(心不全が左心室拡張末期圧の上昇を呈する心不全である)前記(1)記載の方法; (6)心不全状態が心肥大である(心不全が心肥大を呈する心不全である)前記(1)記載の方法; (7)心不全状態がカテコラミンの反応性低下である(心不全がカテコラミンの反応性低下を呈する心不全である)前記(1)記載の方法; (8)冠動脈および腹部大動脈以外の動脈が大動脈である前記(1)記載の方法; (9)大動脈が胸部大動脈である前記(8)記載の方法; (10)非ヒト哺乳動物に冠動脈狭窄と大動脈起始部狭窄とを同時期に開始させることを特徴とする前記(1)記載の方法; (11)冠動脈狭窄が、冠動脈の血管径の80%以上の遮断である前記(1)記載の方法; (12)冠動脈および腹部大動脈以外の動脈の狭窄が、該動脈の血管径の20%〜70%の遮断である前記(1)記載の方法; (13)一方の狭窄を開始した後、該狭窄に起因する急性状態を脱していない時期に、他方の狭窄を開始させることを特徴とする前記(1)記載の方法; (14)一方の狭窄を開始した後、1週間以内に、他方の狭窄を開始させることを特徴とする前記(1)記載の方法; (15)一方の狭窄を開始した後、1ないし2日以内に、他方の狭窄を開始させることを特徴とする前記(1)記載の方法; (16)一方の狭窄を開始した後、60分以内に、他方の狭窄を開始させることを特徴とする前記(1)記載の方法; (17)一方の狭窄を開始した後、5分以内に、他方の狭窄を開始させることを特徴とする前記(1)記載の方法; (18)冠動脈狭窄と冠動脈および腹部大動脈以外の動脈狭窄とを同時に開始させることを特徴とする前記(1)記載の方法; (19)冠動脈狭窄と大動脈起始部狭窄とを同時に開始させることを特徴とする前記(1)記載の方法; (20)冠動脈および腹部大動脈以外の動脈の狭窄開始以前に、冠動脈狭窄を開始させることを特徴とする前記(1)記載の方法; (21)心不全モデル動物の生存率が狭窄開始2時間後に90%以上であり、心不全モデル動物の死亡率が狭窄開始1週間後に20%以上(好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上)である前記(1)記載の方法; (22)死亡率が狭窄開始1週間後に50%以上である前記(21)記載の方法; (23)前記(1)記載の心不全モデル動物に被験物質を適用し、心不全への影響を検定することを特徴とする、医薬物質のスクリーニング方法:(24)医薬物質が心不全の予防・治療のために用いられる物質である前記(23)記載の方法; (25)前記(23)記載の方法により心不全への影響を有すると判定される医薬物質を含有してなる医薬組成物; (26)心不全の予防・治療用医薬組成物である前記(25)記載の組成物; (27)前記(1)記載の心不全モデル動物の、心不全の予防・治療のために用いられる物質をスクリーニングするための使用; (28)前記(1)記載の方法により得られる心不全モデル動物; (29)冠動脈狭窄と冠動脈および腹部大動脈以外の動脈狭窄とを同時期に開始した非ヒト哺乳動物;などに関する。 【0006】本発明で対象とし得る「非ヒト哺乳動物」としては、サル、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、ラット、マウスなどが挙げられる。好ましくは、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、マウスまたはラットであり、なかでも齧歯目(Rodentia)が好ましく、とりわけラット(Wistar,SDなど)、特にWistar系統のラットがモデル動物として最も好ましい対象動物である。本発明で用いる「非ヒト哺乳動物」の週齢、体重等については、目的とするスクリーニングに適用可能である限り、特に制限はないが、これらの条件を適宜変更させることにより、例えば、狭窄開始1週間後の死亡率を増加ないし減少させるなどの調整を行うことも可能である。また、本発明で用いる「非ヒト哺乳動物」は、正常な動物(病態を示さない動物)を用いてもよいが、例えば、高血圧、糖尿病、肥満、高脂血症、胃潰瘍などの病態を示す動物(例えば、高血圧自然発生ラット(SHR)など)を用いて、前記した動脈狭窄処置を施してもよい。このような病態を示す動物に前記した動脈狭窄処置を施す場合、作製された心不全モデル動物は、例えば、前記病態(例、高血圧などの循環器系疾患など)を併発させることが可能であり、かかる合併症の予防・治療用医薬物質のスクリーニングに有効に適用することも可能であるが、例えば、前記病態(例、胃潰瘍などの消化器系疾患など)のみに有効であり、心不全には影響を及ぼさない(心機能の低下を増悪しない)医薬物質をスクリーニングすることにも適用でき、あるいは、心不全を増悪する被験物質を選定すべき医薬物質から除外することを目的とするスクリーニングにも適用できる。更に、本発明の心不全モデル動物は、被験物質を適用し、心不全改善効果を検定することによって、心不全の予防・治療用医薬物質のスクリーニングに有効に適用することのみならず、被験物質を適用し、心不全への影響(増悪、無影響、改善を含む)を検定することによって、種々の医薬物質をスクリーニングするのに、有効に適用することも可能である。即ち、心不全を増悪する被験物質を選定すべき医薬物質から除外すること;心不全に影響を及ぼさない被験物質を心不全以外の疾患の予防・治療用医薬物質として選定すること;心不全に改善効果を示す被験物質を心不全または心不全とある種の疾患(例、高血圧などの循環器系疾患など)との合併症の予防・治療用医薬物質として選定すること;などの目的でスクリーニングに有効に適用することができる。本発明の心不全モデル動物は、短期間(とりわけ1週間前後)で末期心不全の病態を呈するとともに高い致死率を示し、被験物質の延命効果や心不全への影響(増悪、無影響、改善を含む)を短期間で効率的に確認することができるので、前記した何れの目的で各種医薬物質をスクリーニングする場合でも、有用なモデル動物として適用することが可能である。 【0007】本発明における「心不全モデル動物」は、冠動脈狭窄と冠動脈および腹部大動脈以外の動脈狭窄を同時期に開始させることにより作製されるが、かかる心不全モデル動物としては、狭窄開始(ここで、「狭窄開始」とは、冠動脈狭窄と冠動脈および腹部大動脈以外の動脈狭窄との両狭窄が開始されることを意味し、例えば、冠動脈狭窄と冠動脈および腹部大動脈以外の動脈狭窄とが時間差をおいて開始される場合には、冠動脈狭窄と冠動脈および腹部大動脈以外の動脈狭窄との何れか遅い方の狭窄が開始されることを意味する。)2時間後の生存率(前記動脈狭窄処置後(前記動脈狭窄に伴なう開胸−閉胸術後)に自発呼吸が回復しなかった個体は除く)が90%以上であり、狭窄開始1週間後の死亡率が20%以上(好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上)である点に特徴を有するが、狭窄開始2時間後の生存率が95%以上であり、狭窄開始1週間後の死亡率は50%以上であることが好ましい。また、死亡率の指標を、狭窄開始2ないし3週間後の死亡率(40%〜50%以上)として設定することも可能であるが、狭窄開始1週間後の死亡率として設定するのが好ましく、とりわけ、狭窄開始1週間後の死亡率であり、かつ40%〜50%以上(好ましくは50%以上)であることとして設定するのが好ましい。また、本発明における「心不全モデル動物」は、前記動脈狭窄処置後1週間以内に重篤な心機能低下を呈することが好ましく、ここで、心機能低下としては、例えば、左心室拡張末期圧の上昇、心肥大、カテコラミンの反応性低下、心収縮力の低下、GRK2〔G protein-coupled receptor kinase (G蛋白共役型受容体リン酸化酵素) 2〕の発現誘導と活性化などが挙げられる。 【0008】重篤な心不全状態としての「左心室拡張末期圧の上昇」としては、例えば、ラットの場合では、約5mmHg以上の上昇が好ましく、約10mmHg以上の上昇がより好ましく、とりわけ約15mmHg以上の上昇が好ましい。重篤な心不全状態としての「心肥大」としては、例えば、左心室および/または右心室重量の増加などが挙げられるが、ここで、増加した左心室重量としては、例えば、ラットの場合では、体重100g当たり約200mg以上が好ましく、約210mg以上がより好ましい。また、増加した右心室重量としては、例えば、ラットの場合では、体重100g当たり約50mg以上が好ましく、約60mg以上がより好ましい。重篤な心不全状態としての「心収縮力低下」としては、例えば、ラットの場合では、左心室内圧最大微分値の値が、約10000mmHg/sec以下となることが好ましく、約8000mmHg/sec以下となることがより好ましい。前記した心機能低下に関する各種パラメーターは、偽手術群(動脈狭窄処置群と同様な開胸手術を行うが、動脈狭窄処置を施さない動物群)との比較において、統計学上有意な差を示すことが望ましい。 【0009】本発明における「心不全モデル動物」は、非ヒト哺乳動物に冠動脈狭窄と冠動脈および腹部大動脈以外の動脈狭窄を同時期に開始させることにより作製される。ここで、冠動脈および腹部大動脈以外の動脈としては、例えば、腸管動脈、胸部大動脈などが挙げられるが、胸部大動脈などの大動脈などが好ましく、なかでも、腹部大動脈よりも心臓に近い部位の大動脈(例えば、上行大動脈、大動脈起始部などの胸部大動脈など)が好ましく、とりわけ、大動脈起始部が好ましい。ここで、冠動脈狭窄は、冠動脈(好ましくは、左冠動脈;さらに好ましくは、左冠動脈起始部)をほぼ完全に狭窄(閉塞)することが好ましく、例えば、血管径(血管の直径)の80%以上(好ましくは、血管径の90%以上;さらに好ましくは、血管径の95%〜100%)を遮断するのが好ましい。一方、冠動脈および腹部大動脈以外の動脈(例、胸部大動脈、上行大動脈、大動脈起始部など)の狭窄は、軽度であることが好ましく、例えば、血管径の20%〜70%(好ましくは、血管径の30%〜60%;さらに好ましくは、血管径の40%〜50%)を遮断するのが好ましい。また、冠動脈狭窄と冠動脈および腹部大動脈以外の動脈(例、胸部大動脈、上行大動脈、大動脈起始部など)の狭窄は同時期に開始させるが、ここで、「同時期」とは、一方の動脈狭窄開始後から他方の動脈狭窄開始までの期間において、前者の動脈狭窄開始に起因する急性状態を脱していない時期を意味する。即ち、一方の動脈狭窄開始後から他方の動脈狭窄開始までの期間が2〜3週間となるような場合よりも、動物に対する負荷が大きくなる時期を意味し、具体的には、一方の動脈狭窄開始後から他方の動脈狭窄開始までの期間が1週間以内となることが好ましく、なかでも、2〜3日以内となることが好ましく、とりわけ、1〜2日以内となることが好ましい。特に、冠動脈狭窄と冠動脈および腹部大動脈以外の動脈(例、胸部大動脈、上行大動脈、大動脈起始部など)の狭窄は、同時に開始させることが望ましいが、ここで、「同時」とは、若干の時間差(例、60分〜1分程度;好ましくは、30分以内;より好ましくは、5分以内;など)がある場合も含む。ここで、冠動脈狭窄処置と冠動脈および腹部大動脈以外の動脈狭窄処置とは、何れを先に実施してもよいが、冠動脈狭窄処置を先に実施するのが好ましい。冠動脈狭窄処置と冠動脈および腹部大動脈以外の動脈狭窄処置を施すための手段としては、前記した血管径の遮断を行えるものであれば何れでもよいが、例えば、糸などによる結紮、チューブ(血管径よりも小さな径のチューブ)などの装着などの手段が挙げられ、また、狭窄部位に針金(血管径よりも小さな径の針金)などを添わせて血管と共に糸などを用いて狭窄し、その後、該針金を抜き取る方法などが挙げられる。前記した狭窄の度合いや時期を適宜変更させることにより、例えば、狭窄開始1週間後の死亡率を増加ないし減少させるなどの調整を行うことも可能である。 【0010】本発明における「心不全モデル動物」は、動脈狭窄開始1週間後の死亡率が20%以上(好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上)であり、かつ、動脈狭窄開始後1週間以内に重篤な心機能低下を呈するので、心不全の予防・治療のために用いられる物質(例、GRK2阻害薬などの心不全予防・治療薬など)のスクリーニングに有用かつ効率的に適用することが可能である。例えば、約0.01 〜 1000mg/kg(好ましくは、約0.1〜100mg/kg)の被験物質を本発明の心不全モデル動物に投与し、心機能低下の改善効果、死亡率の改善効果などを指標に、その被験物質の治療効果を調べることにより心不全予防・治療薬の評価を行うことができる。ここで、心不全の予防という概念には、心不全の再発予防も含まれ、心不全の治療という概念には、心不全の改善、進展抑制、重症化予防も含まれる。また、被験物質を本発明の心不全モデル動物に投与する時期としては、動脈狭窄開始前;動脈狭窄開始後から心機能低下前;心機能低下後;などの時期が挙げられ、各々の投与時期に応じて、心不全の予防や軽症または重症の心不全の治療を目的とした薬物の評価を行うことができる。また、被験物質を本発明の心不全モデル動物に適用し、延命効果や心不全への影響(増悪、無影響、改善を含む)を調べることにより、各種医薬物質の評価を行うこともできる。ここで、被験物質としては、公知の合成化合物、ペプチド、蛋白質などの他に、例えば温血哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ブタ、ウシ、ヒツジ、サル、ヒトなど)の組織抽出物、細胞培養上清などが用いられる。前記したスクリーニング方法により心不全の改善効果を有すると判定される被験物質や心不全への影響を有すると判定される医薬物質はそのままあるいは薬理学的に許容される担体を配合し、経口的又は非経口的に投与することができる。当該物質を錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等の経口製剤;注射剤、注入剤、点滴剤、坐剤等の非経口製剤;などの剤形に製造する方法としては、当該分野で一般的に用いられている公知の製造方法を適用することができる。また、前記の剤形に製造する場合には、必要に応じて、その剤形に製する際に製剤分野において通常用いられる賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、甘味剤、界面活性剤、懸濁化剤、乳化剤等を適宜、適量含有させて製造することができる。更に、所望により、製剤分野において通常用いられる着色剤、保存剤、芳香剤、矯味剤、安定剤、粘稠剤等を適量添加することができる。 【0011】 【発明の実施の形態】以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。 【0012】 【実施例】実施例1〔実験方法〕雄性 JCL-Wistar ラット(13〜15週齢)をペントバルビタール(50mg/kg,i.p.)で麻酔し、人工呼吸下、正中にて開胸した。心嚢膜を切開し、心臓を露出させ、更に上行大動脈起始部を剥離した。糸付き縫合針で左冠動脈起始部に心筋ごと糸を通し、その糸を結紮して、冠動脈を閉塞させた。冠動脈閉塞後速やかに(5分以内に)、長さ3mmのポリエチレンチューブ(外径:2.80mm;内径:1.77mm)を上行大動脈起始部に装着し、40〜50%の狭窄を行った。その後、閉胸手術を行い、自発呼吸を確認した上で飼育ケージに戻し、通常の方法で1週間飼育した。自発呼吸の回復が認められなかった例については、以下の解析より省いた。手術1週間後に、心循環動態を調べるため、ペントバルビタール(40mg/kg,i.p.)で麻酔後、気管カニューレを挿入し、右頚動脈から圧センサー付きミラーカテーテル(2F)を左心室に挿入・留置した。また、左心室内圧の波形を、微分アンプを介して測定し、最大微分値(LVdp/dtmax)および最小微分値(LVdp/dtmin)を記録した。一方、全身血圧測定および薬物投与のため、左大腿動脈および左大腿静脈にポリエチレンチューブを挿入し、血圧脈波から心拍数を、さらに第二誘導心電図を記録した。ドブタミンは、0.01%アスコルビン酸を含む生理食塩水に溶解して、0.3〜10μg/kg,i.v.を投与し、β−受容体の反応性を調べた。手術1週間後の心循環動態は、ドブタミン投与前の値を示し、β−受容体の反応性については、ドブタミン投与前の値に対する最大反応値の変化量(△mmHg/sec)を平均値±標準誤差で示した。 〔結果〕 (1)死亡率冠動脈狭窄処置+大動脈起始部狭窄処置群(n=14)では、14例中10例が1週間以内に死亡し、71%の死亡率となった(3日目に1例、4日目に2例、5日目に3例、6日目に4例がそれぞれ死亡した)。生存した4例を以下の解析に用いた。一方、偽手術(sham)群(n=2)、冠動脈狭窄処置群(n=3)および大動脈起始部狭窄処置群(n=2)の何れの群においても、1週間以内に死亡する例は見られなかった。 (2)手術1週間後の心循環動態冠動脈狭窄処置+大動脈起始部狭窄処置群において、LVdp/dtmaxおよびLVdp/dtminはそれぞれ7777mmHg/secおよび−6145mmHg/secであり、偽手術群(LVdp/dtmax:12841mmHg/sec;LVdp/dtmin:−11121mmHg/sec)と比較して著明に減少した。冠動脈狭窄処置+大動脈起始部狭窄処置群において、左心室拡張末期圧(LVEDP)は18.1mmHg上昇し、にせ手術群(2.4mmHg)と比較して著明に上昇した。冠動脈狭窄処置+大動脈起始部狭窄処置群において、血圧および心拍数は、偽手術群と比較して著明な変化を示さなかった。 (3)心重量に対する作用体重あたりの左心室重量は、偽手術群の186mg/100gに対し、冠動脈狭窄処置+大動脈起始部狭窄処置群では215mg/100gとなり、また、体重あたりの右心室重量は、偽手術群の45mg/100gに対し、冠動脈狭窄処置+大動脈起始部狭窄処置群では65mg/100gとなり、心肥大が確認された。 (4)ドブタミンに対する反応性ドブタミン0.3、1.0,3.0、10μg/kg,i.v.の何れの投与量においても、冠動脈狭窄処置+大動脈起始部狭窄処置群では、LVdp/dtmaxの最大反応を、偽手術群と比較して著明に減弱させた。結果を表1に示す。 【表1】
【0013】 【発明の効果】本発明の心不全モデル動物は、短期間で末期心不全の病態を呈するので、in vivo 評価系として優れており、心不全の予防・治療のために用いられる物質のスクリーニングに有用かつ効率的に適用することが可能である。他方、他の疾患の予防・治療のために用いられる物質が、心不全病態を悪化しないことを検定する評価系としても有用である。また、本発明の心不全モデルを用いることで、病態に伴ない発現が変動する遺伝子の同定や動態の解明、蛋白発現変動の解析、遺伝子導入による心不全治療効果の検討など、心不全の病態メカニズムの解明を目的とした種々の病態生理学的研究を、短期間で効率よく行うことが可能である。
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| 【出願人】 |
【識別番号】000002934 【氏名又は名称】武田薬品工業株式会社
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| 【出願日】 |
平成13年9月27日(2001.9.27) |
| 【代理人】 |
【識別番号】100062144 【弁理士】 【氏名又は名称】青山 葆 (外2名)
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| 【公開番号】 |
特開2002−291373(P2002−291373A) |
| 【公開日】 |
平成14年10月8日(2002.10.8) |
| 【出願番号】 |
特願2001−296485(P2001−296485) |
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