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【発明の名称】 ミジンコの培養方法
【発明者】 【氏名】蒲池 加寿子

【氏名】丸山 功

【氏名】安藤 洋太郎

【要約】 【課題】ミジンコを安定して高密度で培養することができるミジンコの培養方法を提供する。

【解決手段】ミジンコを培養するに当たり、ミジンコの培養液にクロレラを添加し、酸素または高い酸素濃度を有する空気を培養液に通気し、ミジンコを培養液槽に残したまま培養液の入れ替えを行う。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 ミジンコの培養液にクロレラを添加すること、酸素または高い酸素濃度を有する空気を培養液に通気すること、ミジンコを培養液槽に残したまま培養液の入れ替えを行うこと、を含むことを特徴とする、ミジンコの培養方法。
【請求項2】 ミジンコの培養液にクロレラを添加すること、酸素または高い酸素濃度を有する空気を培養液に通気すること、ミジンコの培養液槽に新たに培養液を加えると共に、ミジンコを培養液槽に残したまま、加えた量に相当する培養液を培養液槽から除くこと、を含むことを特徴とする、ミジンコの培養方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はミジンコの培養方法に関する。更に詳しくは、有用魚種や甲殻類等の種苗生産用の生物餌料として有用なミジンコを安定して高密度で培養することができるミジンコの培養方法に関する。
【0002】
【従来技術】現在、有用魚種や甲殻類等の種苗生産用の生物餌料として、ワムシやアルテミアなどの動物性プランクトンが使用されている。
【0003】ワムシは大きさが150〜350μmと小型であり、主に孵化直後の餌料として使用される。アルテミアは孵化時の大きさが約600μmと大きく、更に養成することによって1000μm以上の大型のものも生産することができる。よって、ワムシを給餌して成長した仔魚の次の段階の生物餌料として主に使用されている。
【0004】上記した動物性プランクトンのうち、ワムシは、ワムシ餌料となるクロレラの餌料価値の改良(特許第2062476号公報)や、ワムシの培養法の改良(特公平4−75735号公報)などの様々な研究成果によって、安定して生産することが可能になった。
【0005】一方、アルテミアは天然の耐久卵を孵化させて養成しているが、現在、その耐久卵は輸入に頼っており、また近年の世界的な需要増加や資源(耐久卵)の枯渇によって、需要に対するアルテミアの供給量が不足している。
【0006】このため、輸入に頼ることなく、国内で再生産が可能な代替動物性プランクトン餌料が求められている。代替動物性プランクトン餌料としては、アルテミアに匹敵する大きさを有している汽水産ミジンコ(例えば、Diaphanosoma sp.等)や淡水産のタマミジンコ(Moina sp.)が挙げられる。汽水産ミジンコ及び淡水産のタマミジンコの大きさは400〜1200μmである。
【0007】汽水産ミジンコは、パン酵母やプラシノ藻類テトラセルミス(Tetraselmis)を用いて海水中で人為的な培養が可能である。このため、1980年代、水産餌料としての使用を目的として、汽水産ミジンコの大量培養が試みられた。しかし、培養可能なミジンコの密度は数個体/ミリリットル(以下、ミリリットルを「mL」と表記し、リットルを「L」と表記する)程度であり、安定した培養も困難であるため、実用化までには到っていない。
【0008】また、研究室レベルでは、培養液量40mL中で、プラシノ藻類テトラセルミス(Tetraselmis)を給餌し、ミジンコを毎日ガーゼで濾し取ってミジンコを洗浄した後、海水を入れ替えて培養を再開することにより、ミジンコの密度を100個体/mLまで上げることに成功したという研究結果も報告されている(日本プランクトン学会報、第35巻、第1号、67-73頁、1988)。しかしながら、この様な煩雑な作業を要する培養方法ではスケールアップすることは困難であり、水産種苗の大量生産への応用も行われなかった。
【0009】一方、淡水産のタマミジンコは、比較的培養が容易であるため、淡水魚の種苗生産に使用されている。一般的には、鶏糞や油粕等を施肥して増殖した藻類やバクテリアなどを餌料として培養したり、パン酵母などを用いて培養したりするが、その培養密度は数個体/mL程度と低い。
【0010】更に、特開平10−113095号公報には、クロレラを給餌し、無菌的にミジンコを培養する方法も提案されているが、ミジンコの培養密度は20〜30個体/mLと低い。
【0011】このような事情から、タマミジンコを生産している種苗施設は限られており、タマミジンコは補助的な動物性プランクトン餌料として使用されているにすぎなかった。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】上記したように、従来のミジンコの培養は、非常に低密度で粗放的に行われていたため、ミジンコを大量に生産するためには、大量の培養液を備えた広大な水槽が必要であった。このため、水温や通気条件等のコントロールが困難で、ミジンコを安定して培養することが難しく、培養を管理するために要する労力も多大なものとなっていた。
【0013】本発明者等は、ミジンコを安定して、しかも高密度で培養することができないか数々研究を重ね、ミジンコの培養液にクロレラを添加すること、酸素または高い酸素濃度を有する空気を培養液に通気すること、ミジンコを培養液槽に残したまま培養液の入れ替えを行うことにより、ミジンコを安定して、しかも高密度で培養することができることを知見した。本発明はこの知見に基づいて完成したものである。
【0014】(発明の目的)そこで本発明の目的は、ミジンコを安定して高密度で培養することができるミジンコの培養方法を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】第1の発明にあっては、ミジンコの培養液にクロレラを添加すること、酸素または高い酸素濃度を有する空気を培養液に通気すること、ミジンコを培養液槽に残したまま培養液の入れ替えを行うこと、を含むことを特徴とする、ミジンコの培養方法である。
【0016】第2の発明にあっては、ミジンコの培養液にクロレラを添加すること、酸素または高い酸素濃度を有する空気を培養液に通気すること、ミジンコの培養液槽に新たに培養液を加えると共に、ミジンコを培養液槽に残したまま、加えた量に相当する培養液を培養液槽から除くこと、を含むことを特徴とする、ミジンコの培養方法である。
【0017】
【発明の実施の形態】本発明に係るミジンコの培養方法は、ミジンコの培養液にクロレラを添加すること、酸素または高い酸素濃度を有する空気を培養液に通気すること、ミジンコを培養液槽に残したまま培養液の入れ替えを行うこと、を含んでおり、これらの作業(処理)順序は特に限定するものではなく、また同時に行うこともできる。
【0018】本発明は、ミジンコ全般に利用することができ、特に汽水産ミジンコ(例えばDiaphanosoma sp.等)や淡水産のタマミジンコ(Moina sp.)の培養に有効に利用することができるが、これらに限定するものではない。
【0019】用いるクロレラは、クロレラ属に属するものであれば、特に制限はない。クロレラの一例として、クロレラ・ブルガリス(Chlorella vulgaris)、クロレラ・ビレノイドサ(Chlorella pyrenoidosa)、クロレラ・サッカロフィラ(Chlorella saccharophila)、クロレラ・レギュラリス(Chlorella regularis)、クロレラ・ソロキニアーナ(Chlorella sorokiniana)等が挙げられる。これらクロレラは、当業者が容易に入手することができる。例えば、東京大学IAMカルチャーコレクションから入手することができる。
【0020】クロレラの培養方法としては、例えば、光独立栄養培養、従属栄養培養、混合栄養培養等が知られているが、培養方法に特に制限はない。
【0021】クロレラの形態は、濃縮冷蔵したものや乾燥粉末としたものが使用できるが、ミジンコの増殖が優れている点から、生のまま濃縮冷蔵したものが好ましい。具体的には、例えばワムシ生産用に製造・販売されているクロレラ濃縮液(商品名「生クロレラ-V12」、クロレラ工業製等)を使用することができるが、特にこれに限定するものではない。
【0022】クロレラの給餌方法は、クロレラ懸濁液を保管するための冷蔵庫、給餌ポンプ、タイマー等を組み合わせて連続的または断続的に給餌しても良いし、1日分のクロレラを1回または数回に分けて与えても良い。
【0023】クロレラの給餌量はミジンコの状態、ミジンコの培養密度などによって異なるが、クロレラの乾燥重量換算でミジンコ1万個体当たり10〜150mg/日程度を残餌の様子を観察しながら与えるのが好ましい。
【0024】培養液を撹拌し、酸素を供給することを目的として、ミジンコ培養時に通気を行う。通気は、酸素または高い酸素濃度を有する空気で行う。
【0025】空気を通気する場合の酸素濃度は、ワムシの飼育密度と通気量に応じて調整するのが好ましく、例えば20〜100%未満の範囲で使用することができる。通気量は、弱すぎると酸素の供給が不充分になり、強すぎるとミジンコの増殖が阻害されるので、ワムシの飼育密度と通気する空気の酸素濃度に応じて調節するのが望ましく、実用的な範囲としては1〜50mL/L分の範囲が適当である。
【0026】培養液の入れ替えを行うことで、培養液槽内の培養液の水質悪化(液質の悪化)を防ぐことができる。培養液は、培養液槽内の一部を入れ替えるようにしても良いし、全部を入れ替えるようにしても良い。入れ替える培養液の量は、少ないと水質悪化を招き、多いと培養液の無駄となる。具体的には、ミジンコの飼育密度やクロレラの給餌量等に応じて調整するのが好ましく、実用的な範囲としては、培養液量1L当たり0.4〜2.5L/日の範囲で培養液の入れ替えを行うことが好ましい。
【0027】培養液の入れ替えは、例えば、新しい培養液の追加と古い培養液の排出によって行うことができる。培養液の追加方法としては、例えば貯留槽などに予め貯めておいた培養液をバルブなどで調節して追加する方法や、定量ポンプなどを使用して追加する方法などを挙げることができるが、特にこれらに限定するものではない。培養液槽への培養液の追加は、連続的に行っても良いし、断続的に行っても良い。
【0028】培養液槽内にクロレラを添加した直後は、培養液の追加を控えることが好ましい。その理由は次の通りである。即ち、培養液の追加と共に培養液の排出を行わない場合では、クロレラを添加した直後に培養液を加えると、単位容量あたりのクロレラの個体数が減るので、ミジンコがクロレラに接触する頻度が少なくなり、餌料として与えたクロレラが有効に利用されない可能性があるためである。また、培養液の追加と共に培養液の排出を行う場合では、添加したクロレラが培養液と共に培養液槽から排出される可能性があるためである。
【0029】新たに加えた量に相当する培養液を培養液槽から除く方法(古い培養液の排出方法)としては、例えばオーバーフローによる方法や、ポンプを使用して排液(排水)する方法等を挙げることができるが、特にこれらの方法に限定するものではない。オーバーフローによる方法の一例としては、例えば容積120L程度のプラスチック製容器を培養液槽として用い、培養液量を100Lに調整する。そして、培養液槽の側面等のうち、液面(液量100Lとなる部分)より上方に穴等を空けてパイプやチューブ等の排液(排水)ラインを通す。このような構成にすれば、所定量の培養液を培養液槽に加えることで、100Lを越える培養液は排液(排水)ラインから排出される。
【0030】このとき、ミジンコを培養液中に残すために、プランクトンネット等のろ過布を排液(排水)ラインに設けることができる。使用するろ過布の目は、小さすぎると目詰まりを起こしやすく、大きすぎるとミジンコが流出しやすいため、例えば100〜500μm程度が好ましい。
【0031】
【実施例】以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】[実施例1]クロレラを給餌して、汽水産ミジンコ(Diaphanosoma sp.)の培養実験を行った。海水を満たした50Lのアルテミア孵化槽を培養温度25℃に維持し、汽水産ミジンコの培養を5個体/mLで開始した。培養は、所定の濃度で酸素を強化した空気を、7.5mL/L分の流量で通気しながら行った。
【0033】海水は、塩分濃度を10‰に調製した人工海水(九州積水工業(株)製)を用いた。また、アルテミア孵化槽には、定量ポンプを使用して所定量の海水を加えていき、加えた量に相当する海水をオーバーフローによってアルテミア孵化槽から排水した。アルテミア孵化槽の排水ラインには、ミジンコの流出を防ぐためプランクトンネット(目の大きさ150μm)を設置した。
【0034】クロレラは、「生クロレラ−V12」(商品名、クロレラ工業(株)製)を用い、1日の給餌量分を2回または3回に分けて給餌した。なお、「生クロレラ−V12」1Lは、乾燥重量換算で145gのクロレラを含んでいる。
【0035】以上のような条件の下で、ミジンコの培養を行い、ミジンコ個体数の変化を調べた。なお、培養は全体で20日間行い、培養12日目にミジンコを収穫し、その収穫した一部(15個体/mL)を種として、引き続き同様の操作で2回目の培養を行った。
【0036】以下の表1に、培養日数、アルテミア孵化槽に加えた海水量、通気した空気の酸素濃度、クロレラの給餌量及びミジンコ密度を示す。また、図1に培養日数とミジンコ密度をグラフとして示す。
【0037】
【表1】

【0038】表1及び図1の結果から、ミジンコを150個体/mL以上まで増殖させることができ、煩雑な培養作業を要することなく、ミジンコの高密度生産が可能であることが明らかとなった。
【0039】[実施例2]クロレラを給餌して、淡水産ミジンコ(Moina sp.)の培養実験を行った。海水を満たした50Lのアルテミア孵化槽を培養温度25℃に維持し、淡水産ミジンコの培養を5個体/mLで開始して、9日間行った。その他の培養条件は、実施例1と大体において同様であるため、説明を省略する。
【0040】以下の表2に、培養日数、アルテミア孵化槽に加えた海水量、通気した空気の酸素濃度、クロレラの給餌量及びミジンコ密度を示す。また、図2に培養日数とミジンコ密度をグラフとして示す。
【0041】
【表2】

【0042】表2及び図2の結果から、ミジンコを160個体/mL以上まで増殖させることができ、煩雑な培養作業を要することなく、ミジンコの高密度生産が可能であることが明らかとなった。
【0043】なお、本明細書で使用している用語と表現はあくまで説明上のものであって、限定的なものではなく、上記用語、表現と等価の用語、表現を除外するものではない。
【0044】
【発明の効果】本発明に係るミジンコの培養方法によれば、ミジンコを安定して高密度で培養することができる。よって、容量の小さな培養液槽で、集約的にミジンコを大量培養することができる。したがって、広大な培養液槽での培養と相違して、水温や通気条件等のコントロールが容易となり、従来困難であったミジンコの計画生産が可能である。また、従来の方法と比べ、容量の小さな培養液槽で同じ生産量のミジンコの培養が可能になるので、培養の管理に多大な労力を要することがなく、生産コストを低く抑えることができる。
【0045】
【出願人】 【識別番号】000105051
【氏名又は名称】クロレラ工業株式会社
【出願日】 平成13年2月15日(2001.2.15)
【代理人】 【識別番号】100085327
【弁理士】
【氏名又は名称】梶原 克彦
【公開番号】 特開2002−238396(P2002−238396A)
【公開日】 平成14年8月27日(2002.8.27)
【出願番号】 特願2001−39089(P2001−39089)