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【発明の名称】 魚釣用リールの構成部材
【発明者】 【氏名】小池 守

【要約】 【課題】構成部材の形状や種類を問わず、衝撃などによって撥水性能が低下することがなく、使用環境の厳しい釣場においても安定した撥水効果を維持できる耐食性及び耐久性に優れた魚釣用リールの構成部材の提供を目的としている。

【解決手段】本発明の魚釣用リールの構成部材は、魚釣用リールを構成する金属製の部材本体26と、この部材本体26の表面に電解または化学エッチング処理を施し、その後に陽極酸化処理または化成処理を施すことによって、部材本体26上に形成された高次ピット被膜層28とを備え、高次ピット被膜層28中に撥水剤27が浸透保持されていることを特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 魚釣用リールを構成する金属製の部材本体と、この部材本体の表面に電解または化学エッチング処理を施し、その後に陽極酸化処理または化成処理を施すことによって、前記部材本体上に形成された高次ピット被膜層と、を備え、前記高次ピット被膜層中には、撥水剤が浸透保持されていることを特徴とする魚釣用リールの構成部材。
【請求項2】 前記撥水剤が撥油性を兼ね備えた化合物であることを特徴とする請求項1に記載の魚釣用リールの構成部材。
【請求項3】 前記部材本体には、これと異種の金属が接触または近接配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の魚釣用リールの構成部材。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、スピニングリールのリール本体、カバー、ロータ、ハンドル、レバーや、両軸受型リールのフレーム、側板等の魚釣用リールの構成部材に関する。
【0002】
【従来の技術】魚釣用リールは、海、湖、川などのフィールドで使用される道具であり、実釣時に海水等の水分や異物等がリール本体や各操作部材に付着したり部材間の隙間から内部に侵入する等の環境の厳しい状況で使用される。そのため、魚釣用リールは、一般に、他の分野の製品に比べて十分な耐食性能が要求される。
【0003】このような要求下にあって、例えば特許第2725175号や特開2000−41543号公報には、釣具表面に撥水処理を施すことによって、水分や異物等の付着を防止する技術が開示されている。すなわち、特許第2725175号では、釣竿等の釣用品の部材の外表面のみに撥水処理を施すことによって、水で濡れた糸や、水滴に吸着したゴミ等が、これらの部材の外表面に付着することを防止するとともに、部材の外表面の錆や腐食を防止している。また、特開2000−41543号公報では、リール本体内部に水が侵入する経路およびリール本体内の構成部材のうち、侵入した水が付着する部位に、フッ素化合物またはシリコン化合物もしくはこれらの混合物の粒子を、バインダーとともに揮発性溶媒に分散させて塗布するようにしている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで、これら2つの従来技術は、いずれも、リールの構成部材の表面に撥水剤を塗布して撥水性被膜層を形成するものであるが、このような撥水剤の塗布は、通常の塗装のように寸法のバラツキが大きく(また、撥水処理によって寸法変化が生じ)、膜厚管理が難しい。そのため、寸法精度が要求されるような個所や複雑な形状あるいは狭い部分、穴等への適用が困難である。すなわち、このような塗装処理では、構成部材のネジ部、小孔、深孔、鋭角部、複雑な形状を有する面に対して、均一な皮膜を形成することが困難であるため、腐食や異種金属接触腐食を引き起こし易いといった問題がある。
【0005】異種金属接触腐食は、貴な金属と卑な金属とが塩水等の電解質を介して電気的に繋がった時に卑な金属が腐食する現象であり、卑な金属の表面が濡れ易い状態であると、ここに塩水等の電解質が滞留し易く、リールのように卑な金属の部品と貴な金属の部品とが混在している構成では、異種金属の接触腐食が発生し易くなってしまう。したがって、使用環境の厳しい釣場で使用され、且つ、細部も含めて小型化される傾向にあるリールの構成部材には、撥水性の面で更なる改良が望まれている。
【0006】また、撥水性被膜層は、塗膜が柔らかく傷に弱いため、実釣時のキャスティング操作や巻き取り操作、あるいは、釣り場の移動および運搬移動時などにおいて、手に触れたり、他の障害物に当たったり、落としてしまったりすると、被膜が剥がれて撥水効果を発揮できなくなる。
【0007】本発明は前記事情に着目してなされたものであり、その目的とするところは、構成部材の形状や種類を問わず、衝撃などによって撥水性能が低下することがなく、使用環境の厳しい釣場においても安定した撥水効果を維持できる耐食性及び耐久性に優れた魚釣用リールの構成部材を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】前記課題を解決するために、本発明の魚釣用リールの構成部材は、魚釣用リールを構成する金属製の部材本体と、この部材本体の表面に電解または化学エッチング処理を施し、その後に陽極酸化処理または化成処理を施すことによって、前記部材本体上に形成された高次ピット被膜層とを備え、前記高次ピット被膜層中に撥水剤が浸透保持されていることを特徴とする。
【0009】
【発明の実施の形態】以下、本発明の一実施の形態に係る魚釣用リールの構成部材について、添付図面を参照して説明する。
【0010】図1は魚釣用リールとしてのスピニングリールを示している。図示のように、スピニングリールには、リール本体1に対して折り畳み可能なハンドル2が装着されており、このハンドル2を回転操作すると、その回転運動は、駆動歯車4を介してピニオン6に伝達され、ピニオン6を回転させる。同時に、ハンドル2の回転運動は、オシレーティング機構(図示しない)を介してスプール軸8に伝達され、スプール軸8を前後動させる。このとき、ロータ10がピニオン6と一体的に回転しつつ、スプール12がスプール軸8と共に前後動することによって、釣糸は、ラインローラ(図示せず)14を介してスプール12に均一に巻回される。
【0011】なお、リール本体1には、カバー16が着脱自在に取り付けられており、ハンドル2は、ハンドルノブ18、ハンドルアーム20、ハンドルストッパ22、ハンドルスタンド24等を備えて構成されている。
【0012】これらの構成部材の全部、又は一部は、図2に示すように、金属材で形成された部材本体26であり、ダイキャスト法(例えば、コールドチャンバ法、ホットチャンバ法)、半溶融、半凝固加工(例えば、チクソモールディング法、レオキャスト法、SSF等)によって成型することができる。この場合、金属材としては、例えば、マグネシウム合金、アルミニウム合金、亜鉛合金、鉄合金等を用いることが可能である。
【0013】本実施形態では、部材本体26の表面に以下のような技術的思想を適用している。
【0014】すなわち、図2に示されるように、部材本体26上には、高次ピット被膜層28が形成され、この被膜層28中に撥水剤27が浸透保持されている。このように、高次ピット被膜層28を部材本体26上に形成するためには、図3に示されるように、部材本体26を構成する素材(例えば、マグネシウム合金やアルミニウム合金等の卑な金属)を用意し(ステップS1)、この素材に電解エッチングまたは化学エッチングを施し(ステップS2)、その後、陽極酸化処理または化成処理を施せば良い(ステップS3)。これにより、部材本体26上には、絶縁性を有する高硬度の高次ピット被膜層28が形成される。
【0015】電解エッチングは、公知のように、硫酸、硝酸、リン酸等の酸性の水溶液中において電解処理を行なうことにより、達成できる。具体的には、リン酸水溶液中での交流電解処理をする。この電解エッチングにより、部材本体26の表面がエッチングされて、凹凸を成す一次ピットP1(図2参照)が形成される。一次ピットP1のピット径は、電解エッチングの処理条件により異なるが、一般に、0.1μm〜10μm程度になる。また、陽極酸化処理も、例えば硫酸、しゅう酸、クロム酸、その他の有機酸等の電解液を用いて従来と同様に達成できる。具体的には、例えば水酸化カリウム、フッ化カリウム、リン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、過マンガン酸カリウムなどにより調整された処理液中に、接点をとった部材本体26を投入し、一定時間電気を流す条件でHAE陽極酸化処理を施す。この陽極酸化処理により、部材本体26の表面に形成された所定深さの各一次ピットP1内には、更に所定深さの二次ピットP2が形成される。この陽極酸化処理によって形成される二次ピットP2のピット径は、電解エッチングによって形成される一次ピットP1のピット径よりも小さく、陽極酸化処理の条件によっても異なるが、一般に、0.01μm〜0.1μm程度になる。
【0016】すなわち、本実施形態においては、このように二段の処理操作(エッチングと陽極酸化処理(または化成処理)を組み合せて実施することにより、大きなピットP1から小さなピットP2へと順次、大きなピットのそれぞれの内部に小さなピットが複数形成されて成る高次ピット構造(ピット径:0.1μm〜10μm)が部材本体26上に効果的に形成される。
【0017】なお、陽極酸化処理では、前記HAE陽極酸化処理やDow17陽極酸化処理を用いることによって、緻密な陽極酸化皮膜(高次ピット被膜層28)を形成することができる。これらの陽極酸化処理によれば、緻密で硬い複合酸化物構造を成すと共に、スピネル構造を成す陽極酸化皮膜が形成されるため、耐食性に優れた魚釣用リールを実現することができる。この場合、陽極酸化皮膜(高次ピット被膜層28)の厚さ即ちピットP1,P2の深さは、安定した性能(硬くて緻密)を維持するために、5〜20μmに設定することが好ましい。これは、厚さ(ピットP1,P2の深さ)が5μm未満であると、皮膜の硬さが不充分になると共に、厚さ(ピットP1,P2の深さ)が20μmを超えると、皮膜の成長過程においてクラックが発生する場合があるからである。
【0018】また、このように形成された高次ピット被膜層28中に撥水剤27を浸透保持させるには、図3に示されるように、高次ピット被膜層28が形成された部材本体26を撥水剤の溶液中に所定時間(例えば1時間)浸漬したり、撥水剤を高次ピット被膜層28に連続的に(例えば 塗料状態で)吹き付けて(ステップS4)、その後、例えば80℃〜100℃で60分間乾燥させれば良い(ステップS5)。撥水剤27は、撥油性を兼ね備えている化合物であることが望ましく、そのような化合物の例としては、例えばフッ素化合物、シリコン化合物で特にポリテトラフルオロエチレンやフルオロアルキルシラン等のフルオロアルキル基を有する化合物等を挙げることができる。無論、撥油性を有さない撥水剤27(例えば、フッ素化合物やシリコン化合物等)を使用することもできる。
【0019】このように、エッチングや陽極酸化等により形成される高次ピットP1,P2は、表面自由エネルギを低下させ、部材本体26の表面を水に濡れにくくする。また、これらのピットP1,P2内に、主鎖中の撥水基(フルオロアルキル基)数が6以上の撥水剤を浸透させると、水との接触角が150°以上になり、油との接触角が100°以上となる。
【0020】ところで、図1に示したピニングリールにおいて、ハンドルアーム20、ハンドルストッパ22、ハンドルスタンド24は、その本体部材がMg合金で形成され、その上に、撥水剤27が浸透保持されて成る高次ピット被膜層28が形成されている。この場合、Mg合金から成る部材と接触或いは近接(例えば、1mm以内)する金属部材は、Mg合金との電極電位差が1V以下であることが好ましい。このような材料としては、Al合金(電極電位−0.7〜−0.9V)やZn合金(電極電位−0.7〜−1.0V)などを適用することができる。従って、本実施の形態において、ハンドルアーム20、ハンドルストッパ22、ハンドルスタンド24に近接する部材、即ち、キャップ32、ハンドルスタンドリベット34、ハンドルノブリベット36は、Al合金で形成することが好ましい。
【0021】また、これ以外にも、ワッシャ38,40と構成部材(ハンドルアーム20)の合金部分とが接触するような場合、上述したように、電極電位差が1V以下となるような材料を接触箇所に適用すれば良い。更に、ハンドル軸42についても構成部材との電極電位差を考慮して形成することが好ましいが、強度的な問題により一般的にはステンレス鋼で形成されている。ステンレス鋼は、Mg合金との間の電極電位差が1Vを超える。
【0022】また、特に、Mg合金やAl合金等の卑な金属(腐食を受ける金属)と、これらよりも電極電位が遥かに高い貴な金属(腐食を起こさせる金属)とが接触もしくは近接する場合、例えば、卑な金属と貴な金属とが結合する場合には、撥水剤27が浸透保持されて成る高次ピット被膜層28を卑な金属の表面だけに形成すれば、貴な金属側に高次ピット被膜層28を設けなくても、従来の耐食性を確保することができる。ここで、貴な金属とは、金、銀、銅、銅合金、チタン、チタン合金、鉄、鉄合金、ニッケル、ニッケル合金等を言う。
【0023】卑な金属と貴な金属との接触腐食を防止する上記手段は、本実施形態においても採用されている。すなわち、本実施形態において、駆動歯車4は例えば銅合金またはステンレス合金によって形成され、図示しない前記オシレーティング機構の摺動子は例えばNiメッキされた亜鉛合金によって形成されるとともに、駆動歯車4と近接し或いは前記摺動子と接触するリールボディや側板等のリール本体1は例えばMg合金やAl合金等によって形成されている。そして、卑な金属によって形成されるリール本体1の表面には、撥水剤27が浸透保持されて成る高次ピット被膜層28が形成されており、これにより、異種金属接触(近接)腐食が防止されている。この場合、異種金属部品が接触或いは近接する部分の陽極酸化皮膜28の厚さ(ピットP1,P2の深さ)は、他の部分に比べて厚くすることが好ましい。例えば、異種金属部品が接触する部分の厚さを10〜20μmに設定し、これ以外の部分の厚さを5〜20μmに設定する。また、陽極酸化処理の接点は、各部材の接合箇所における陽極酸化皮膜の厚さが薄くならないように、腐食する恐れのない部分に設定することが好ましい。
【0024】以上説明したように、本実施形態では、部材本体26の表面に電解または化学エッチング処理を施し、その後に陽極酸化処理または化成処理を施すことによって、部材本体26上に高次ピット被膜層28が形成され、この高次ピット被膜層28中(高次ピット被膜層のピット内)に撥水剤27が浸透保持されている。すなわち、部材本体26の表面に撥水剤が塗布されて撥水性被膜層が形成されているのではなく、部材本体26の表面に凹設されたピット内に、撥水剤27が、結果として、陽極酸化被膜28とともに充填された構成となっている(撥水剤27が高次ピットP1,P2内に全て浸透している)。
【0025】したがって、撥水処理によって部材本体26の寸法に変化が生じることがないため、寸法のバラツキが大きい通常の塗装のように膜厚管理を行なう必要がなく、精度が要求される箇所や複雑な形状の構成部材に対しても容易且つ確実に撥水処理を施すことができる。
【0026】また、撥水剤が浸透保持される被膜層28自体が高硬度であるため、傷に強く、手に触れたり、他の障害物に当たったり、落としてしまった場合でも、撥水性能が低下することがなく、使用環境の厳しい釣場においても安定した撥水効果を維持できる。
【0027】また、本実施形態においては、撥水剤27として撥油性を兼ね備えた化合物を使用すれば、グリス、オイル、手油等の油脂分の付着による撥水効果の低下を防ぐことができるため、撥水効果を更に長期間維持することができる。
【0028】また、本実施形態においては、異種金属が接触または近接配置されている部材本体26に上記効果を奏する撥水処理を施せば、塩水等の電解質の滞留がなくなり、異種金属との接触腐食の発生を抑えることができる。
【0029】なお、本発明は、前記実施形態に限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施できることは言うまでもない。例えば、前述した実施形態では、スピニングリールの構成部材に本発明が適用されているが、魚釣用リールの構成部材としては、このようなスピニングリールのリール本体、カバー、ロータ、ハンドル、レバーの他、両軸受型リールのフレーム、側板など、あらゆる部分が該当し、これらの構成部材に対しても本発明の技術的思想を適用することができる。
【0030】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の魚釣用リールの構成部材は、その形状や種類を問わず、衝撃などによって撥水性能が低下することがなく、使用環境の厳しい釣場においても安定した撥水効果を維持でき、耐食性及び耐久性に優れている。
【出願人】 【識別番号】000002495
【氏名又は名称】ダイワ精工株式会社
【出願日】 平成13年1月19日(2001.1.19)
【代理人】 【識別番号】100058479
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴江 武彦 (外4名)
【公開番号】 特開2002−209483(P2002−209483A)
【公開日】 平成14年7月30日(2002.7.30)
【出願番号】 特願2001−11990(P2001−11990)