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【発明の名称】 広範囲心筋梗塞病態モデル動物及びその作成方法並びにそのモデル動物を用いて行う薬物のスクリーニング方法
【発明者】 【氏名】中村 浩士

【氏名】松崎 益徳

【氏名】吉田 勉

【要約】 【課題】従来技術は、高い確率でモデル動物が心不全を併発して死亡する、解析に際し他臓器の影響も考えなければならない、広範囲心筋梗塞病態のモデルは作成できない等の問題がある。本発明は、心不全状態を分離でき、広範囲心筋梗塞病態のモデルを作成可能な広範囲心筋梗塞病態モデル動物を提供する。

【解決手段】本発明は、健常動物の心臓を摘出し、摘出した心臓の左冠動脈中枢部に結紮手術を施し、結紮手術を施した心臓を別の健常動物の腹部に異所性移植し、異所性心臓移植を施した動物を広範囲心筋梗塞病態モデル動物とした広範囲心筋梗塞病態モデル動物及びその作成方法並びにそのモデル動物を用いて行う薬物のスクリーニング方法である。移植3週間後、広範囲心筋梗塞病態のモデルが完成する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】健常動物の心臓の左冠動脈中枢部に結紮手術を施し、該冠動脈結紮手術を施した心臓を別の健常動物の腹部に異所性移植し、該異所性心臓移植を施した動物を心筋梗塞病態モデル動物としたことを特徴とする広範囲心筋梗塞病態モデル動物。
【請求項2】前記冠動脈結紮手術は、健常動物の心臓を摘出する工程と、該摘出した心臓の左冠動脈中枢部に結紮手術を施す工程とを含むことを特徴とする請求項1記載の広範囲心筋梗塞病態モデル動物。
【請求項3】前記左冠動脈中枢部の結紮は、左心房をめくり、(1)左冠動脈主幹部(LMT)単独の結紮、或いは、(2)左前下降枝(LAD)中枢部と左回旋枝(CX)中枢部との同時結紮であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の広範囲心筋梗塞病態モデル動物。
【請求項4】健常動物の心臓の左冠動脈中枢部に結紮手術を施し、該冠動脈結紮手術を施した心臓を別の健常動物の腹部に異所性移植し、該異所性心臓移植を施した後、所定時間経過後、心筋梗塞病態様とすることを特徴とした広範囲心筋梗塞病態モデル動物の作成方法。
【請求項5】前記冠動脈結紮手術は、健常動物の心臓を摘出する工程と、該摘出した心臓の左冠動脈中枢部に結紮手術を施す工程とを含むことを特徴とする請求項4記載の広範囲心筋梗塞病態モデル動物の作成方法。
【請求項6】前記左冠動脈中枢部の結紮は、左心房をめくり、(1)左冠動脈主幹部(LMT)単独の結紮、或いは、(2)左前下降枝(LAD)中枢部及び左回旋枝(CX)中枢部との同時結紮であることを特徴とする請求項4又は請求項5記載の広範囲心筋梗塞病態モデル動物の作成方法。
【請求項7】前記所定時間を3週間以上としたことを特徴とする請求項4、請求項5又は請求項6記載の広範囲心筋梗塞病態モデル動物の作成方法。
【請求項8】請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の広範囲心筋梗塞病態モデル動物、或いは請求項4乃至請求項7のいずれかに記載の方法で作成された広範囲心筋梗塞病態モデル動物を用いて行う薬物をスクリーニングする方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、新規な心筋梗塞病態モデル動物に係わり、特に、心不全状態を分離でき、広範囲心筋梗塞病態のモデルを作成可能な広範囲心筋梗塞病態モデル動物及びその作成方法並びにそのモデル動物を用いて行う薬物のスクリーニング方法に関する。
【0002】
【従来の技術】日本人の生活や食生活の欧米化に伴い、心臓病、特に冠動脈閉塞に伴う心筋梗塞は大きな医療問題である。一般的に、心筋梗塞等の疾患の成因やメカニズムの解析、或いは疾患に対する薬物作用の確認を目的にする薬効スクリーニング試験は、健常動物ではなく、一定の病態状態にある疾患モデル動物を用いて行われている。
【0003】従来、このような疾患モデル動物は、例えば、疾患を引き起こす物質を投与して糖尿病態モデル動物を作成する特開2000−270713号、チューブを介し細菌液を体内に接種して肺感染病態モデル動物を作成する特開2000−262182号、外科的な処置を施して皮膚虚血症病態モデル動物を作成する特開平11−308941号などのように、健常動物に外科的或いは内科的な処置を施して作成していた。
【0004】同様に、心筋梗塞に関しては、ラット、マウス、モルモット、ハムスター等の動物を使用し、前記動物に冠動脈結紮手術を施して心筋梗塞病態モデル動物とする方法が用いられてきた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】前記の従来技術では、動物の心臓に酸素や栄養素を直接供給している冠動脈を結紮するため、左前下降枝中部を結紮した場合でも、手術侵襲が強すぎて手術中、手術後を併せて30〜50%の動物が心不全を起こして死んでしまうという問題がある。即ち、冠動脈結紮による心臓のポンプ機能の低下(この場合、心筋梗塞になる)により、次第に肺や腎臓などの主要臓器の血流低下も引き起こし、多臓器不全(心不全)に移行していく。
【0006】また、心不全を併発する従来の心筋梗塞病態モデル動物を用いた解析では、他の臓器の影響も考えなければならず、心臓自体の解析が非常に大きな困難を伴うという問題がある。冠動脈結紮から心筋梗塞の完成までに、通常、3週間かかるとされているが、この間に心臓で何が起こっているのかを観察するためには、どうしても他の臓器の影響がない(心不全状態を分離した)新しい心筋梗塞病態モデル動物が必要である。
【0007】さらに又、広範囲心筋梗塞病態のモデルが欲しい場合には、冠動脈の中枢側を結紮すれば良い事になるが、左冠動脈中枢側を結紮するためには左心房をめくる必要があり、従来技術では、結紮手術の死亡率が高くなるため、左前下降枝中部以上の中枢を結紮するのは不可能である。即ち、広範囲心筋梗塞病態のモデルは作成できないという問題がある。前記の事情に鑑み、本発明は、心不全状態を分離でき、広範囲心筋梗塞病態のモデルを作成可能な広範囲心筋梗塞病態モデル動物及びその作成方法並びに薬物のスクリーニングを効率良く行うことができる方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】前記の目的を達成するため、本発明は、健常動物の心臓の左冠動脈中枢部に結紮手術を施し、冠動脈結紮手術を施した心臓を別の健常動物の腹部に異所性移植し、異所性心臓移植を施した動物を広範囲心筋梗塞病態モデル動物とした広範囲心筋梗塞病態モデル動物及びその作成方法並びにそのモデル動物を用いて行う薬物のスクリーニング方法である。
【0009】また、前記冠動脈結紮手術は、健常動物の心臓を摘出する工程と、摘出した心臓の左冠動脈中枢部に結紮手術を施す工程とを含む広範囲心筋梗塞病態モデル動物及びその作成方法並びにそのモデル動物を用いて行う薬物のスクリーニング方法である。
【0010】さらに又、前記左冠動脈中枢部の結紮は、左心房をめくり、(1)左冠動脈主幹部(LMT)単独の結紮、或いは、(1)左前下降枝(LAD)中枢部及び左回旋枝(CX)中枢部との同時結紮である広範囲心筋梗塞病態モデル動物及びその作成方法並びにそのモデル動物を用いて行う薬物のスクリーニング方法である。
【0011】また、本発明は、左冠動脈中枢部に結紮手術を施した心臓を別の健常動物の腹部に異所性移植した後、所定時間、例えば、3週間以上経過後、心筋梗塞病態様とする広範囲心筋梗塞病態モデル動物の作成方法並びに作成されたそのモデル動物を用いて行う薬物のスクリーニング方法である。
【0012】
【発明の実施の形態】本発明における広範囲心筋梗塞病態モデル動物は、発症の成因やメカニズムの解析が行え、心筋梗塞に対する薬物作用の確認を行えるものであれば特に限定されず、例えば、ラット、マウス、モルモット、ハムスター等が挙げられるが、好ましくはラットである。
【0013】健常動物の心臓の左冠動脈中枢部に結紮手術を施し、冠動脈結紮手術を施した心臓を別の健常動物の腹部に異所性移植し、異所性心臓移植を施した動物を広範囲心筋梗塞病態モデル動物とする。この際、好ましくは、健常動物の心臓を摘出し、摘出した心臓の左冠動脈中枢部に結紮手術を施し、これを別の健常動物の腹部に異所性移植する。なお、異所性心臓移植に用いる動物として、近交系動物を使用することにより、異所性心臓移植に際し、拒絶反応を完全に回避できる。
【0014】本発明による広範囲心筋梗塞病態モデル動物は、正常な心臓と左冠動脈中枢部に結紮手術を施した心臓との二つの心臓を持ったモデル動物であり、本発明によれば、心筋梗塞の成因やメカニズムを解析する際の余計な多因子現象である、心不全状態を分離できる。また、レシピエント(臓器提供を受ける動物)は健常動物を使うため、心筋梗塞に対する薬物作用の確認を明確に行うことができ、目的とする薬効スクリーニング試験を効率よく行うことができる。さらに又、異所性心臓移植の技術があれば、安定した広範囲心筋梗塞病態モデル動物の供給が可能であり、手術死亡率は5%未満、移植した心臓の生着率を約100%とすることができる。
【0015】本発明は又、左冠動脈中枢部、例えば、左心房をめくり、左冠動脈主幹部を結紮し、或いは、左前下降枝中枢部と左回旋枝中枢部とを同時に結紮し、これを別の健常動物の腹部に異所性移植することにより、従来技術では手術侵襲が強すぎて不可能だった(全例手術中に死亡)、広範囲心筋梗塞病態のモデルを作成できる。
【0016】なお、上記の結紮部位に限らず、結紮する中枢レベルを変えることにより、任意の大きさの心筋梗塞病態モデルを作成できる。従来技術では、左前下降枝の中部までしか結紮できなかったが、本発明によれば、左冠動脈中枢部を結紮しても95%以上の高い確率で広範囲心筋梗塞病態のモデルを得ることができる。
【0017】本発明においては、左冠動脈中枢部に結紮手術を施した心臓を別の健常動物の腹部に異所性移植した後、所定時間、例えば、3週間経過後、異所性心臓移植した動物を広範囲心筋梗塞病態モデル動物とする。3週間後に移植した心臓を取り出して、発症の成因やメカニズムの解析をする。また、この3週間の内に、レシピエント側に薬物を投与し、進行中の心筋梗塞に対する薬物作用の確認を行うことも可能である。
【0018】なお、冠動脈結紮から心筋梗塞が完成するまでに要する時間は、使用する動物、或いは結紮する中枢レベルにより変わり得るものであり、3週間に限定されるものではない。
【0019】また、心筋梗塞が完成しているか否かの観察、試験は、例えば、体重、尿量等の個体特性変化の観察、薬品による試験などが可能であり、心筋梗塞が完成しているか否か判定する手段、方法は、本発明を何ら限定するものではない。
【0020】以上のようにして、本発明の広範囲心筋梗塞病態モデル動物、或いは本発明の方法で作成された広範囲心筋梗塞病態モデル動物は、心不全状態から分離され、また広範囲心筋梗塞病態のモデルを有するものであり、これを用いて薬物のスクリーニングを効率良く行うことができる。
【0021】
【実施例】以下、本発明の実施例について、図に基づいて説明する。
【0022】図1は、本発明の広範囲心筋梗塞病態モデル動物及びその作成方法並びにそのモデル動物を用いて行う薬物のスクリーニング方法の実施例を、従来技術と比較して示した概念図である。図1において、Aは従来技術によるモデルであり、Bは本発明による新しいモデルである。なお、図1のBの新しいモデルでは、上段が図示しない別の健常ラットの心臓を異所性移植した形態を示し、下段は図示しない別の健常ラットの心臓に左冠動脈起始部結紮手術を施し、これを異所性心臓移植した形態を示している。この二つの形態を比較することにより、心臓の異所性移植による影響を分離することができ、このような方法は、疾患モデル動物を用いて行う疾患の成因やメカニズムの解析、或いは薬効スクリーニング試験で、一般的に用いられるものである。
【0023】図1のAの従来のモデルは、健常ラットの心臓に左前下降枝中部結紮手術を施し、3週間経過後に、心筋梗塞病態モデル動物を得ようとしたものである。この従来技術では、左前下降枝の中間部を結紮したにも拘わらず、高率で心不全を合併して30〜50%のラットが死亡した。
【0024】図1のBの新しいモデルは、詳細は図示を省略しているが、図示しない別の健常ラットの心臓を摘出し、この摘出した心臓の左冠動脈起始部を結紮し、これを健常ラットの腹部に異所性移植し、3週間経過後に、広範囲心筋梗塞病態モデル動物を得ようとしたものである。本実施例の広範囲心筋梗塞病態モデル動物は、冠動脈結紮手術を施した心臓の動脈系血管と静脈系血管とを、レシピエントの腹部の動脈血管と静脈血管と、各々繋いだもので、正常な心臓と心筋梗塞病態様の心臓との二つの心臓を並列に持った心筋梗塞病態モデル動物である。
【0025】本実施例では、左冠動脈起始部という高い中枢レベルを結紮したにも拘わらず、3週間経過後の死亡率は5%未満であり、高い確率で広範囲心筋梗塞病態のモデルを作成できた。
【0026】図2は、左冠動脈中枢部を結紮し広範囲心筋梗塞病態のモデルを作成した、本発明の広範囲心筋梗塞病態モデル動物の一例を示す写真であり、健常ラットに左冠動脈中枢部を結紮した心臓を異所性移植し、その3週間後、異所性心臓移植したラットを開腹した状態を示している。
【0027】図2の向かって右側がラットの尾側であり、左側が頭側である。左側に写っているのは肝臓で、中央の物が移植心である。この移植した心臓が大きくなり、右半分が茶色く変色し、広範囲心筋梗塞病態のモデルが作成されているのが分かる。
【0028】本実施例によれば、心不全状態を分離でき、95%以上の高い確率で広範囲心筋梗塞病態のモデルを得ることができる。本実施例の広範囲心筋梗塞病態モデル動物を用いることにより、心筋梗塞の成因やメカニズムの解析を高率良く行うことができ、また、心筋梗塞に対する薬物のスクリーニングを効率良く行うことができる。以上、本発明の実施例を説明したが、特許請求の範囲で規定された本発明の精神と範囲から逸脱することなく、その形態や細部に種々の変更がなされても良いことは明らかである。例えば、左冠動脈起始部を結紮する実施例を説明したが、結紮する中枢レベルは、必要とする心筋梗塞病態の大きさにより決められるものであり、何ら本発明を限定するものではない。
【0029】
【発明の効果】本発明によれば、左冠動脈中枢部結紮手術を施した心臓を別の健常動物の腹部に異所性移植するため、心筋梗塞の成因やメカニズムを解析する際の余計な多因子現象である、心不全状態を分離できる効果がある。また、本発明は、例えば、左冠動脈主幹部を結紮し、これを別の健常動物の腹部に異所性移植することにより、従来技術では手術侵襲が強すぎて不可能だった、広範囲心筋梗塞病態のモデルを作成できる効果がある。さらに又、心不全状態を分離でき、広範囲心筋梗塞病態のモデルを作成できる本発明による広範囲心筋梗塞病態モデル動物は、重大な医療問題である心筋梗塞に対する薬効スクリーニング試験を効率よく行うことを可能とするものであり、その産業上の利用価値は極めて大きい
【出願人】 【識別番号】800000013
【氏名又は名称】有限会社 山口ティー・エル・オー
【識別番号】500557440
【氏名又は名称】有限会社バイオフェニックス
【出願日】 平成13年1月19日(2001.1.19)
【代理人】 【識別番号】100080539
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 義輝
【公開番号】 特開2002−209473(P2002−209473A)
【公開日】 平成14年7月30日(2002.7.30)
【出願番号】 特願2001−11866(P2001−11866)