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【発明の名称】 クルマエビの凍結保存法
【発明者】 【氏名】黒倉 寿

【氏名】照屋 和久

【要約】 【課題】解凍後生存可能なクルマエビの凍結保存法の提供。

【解決手段】4〜6期のクルマエビノープリウスを、凍結保護物質含有水溶液に浸漬した後、0.2〜5℃/分の速度で少なくとも−30℃まで冷却して凍結させ、次いで、−150℃以下に保持することを特徴とするクルマエビの凍結保存法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 4〜6期のクルマエビノープリウスを、凍結保護物質含有水溶液に浸漬した後、0.2〜5℃/分の速度で少なくとも−30℃まで冷却して凍結させ、次いで、−150℃以下に保持することを特徴とするクルマエビの凍結保存法。
【請求項2】 5又は6期のクルマエビノープリウスを用いるものである請求項1記載の凍結保存法。
【請求項3】 凍結保護物質が、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、エチレングリコール及びアドニトールから選ばれる1種又は2種以上である請求項1又は2記載の凍結保存法。
【請求項4】 凍結保護物質の濃度が0.5〜3.0mol/Lである請求項1〜3のいずれか1項記載の凍結保存法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、解凍後生存可能なクルマエビの凍結保存法に関する。
【0002】
【従来の技術】解凍後生存可能な凍結保存方法については、細胞レベルでは成功しており、精子の保存、各種動物細胞の保存等に広く応用されている。しかし、細胞レベルでなく、生体の解凍後生存可能な凍結保存法についてはほとんど成功していない。
【0003】ところで、クルマエビは養殖が広く行なわれているが、養殖場での各種細菌やウイルスへの感染は、その養殖場の閉鎖にもつながりかねないことから重要な問題である。当該感染の防止手段の開発のためには、未感染のクルマエビ生体がコントロールとして必要である。しかし、通常の環境で卵から生体を得ても全く感染しない生体はほとんど得ることができず、未感染の生体をくり返し、大量に得ることはほとんど不可能であった。これに対し、未感染の生体が得られた時に凍結保存できれば、感染実験のための材料が大量に確保できる。このようにクルマエビの生体を解凍後生存可能な凍結保存法が希求されていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】従って本発明の目的は、クルマエビ生体の解凍後生存可能な凍結保存法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】そこで、本発明者らはクルマエビの成長の種々の段階における凍結保存法を検討してきたところ、クルマエビの場合には、以前に本発明者らがフジツボで成功したノープリウスの前期では生存率は極めて低く、全く意外にもそれよりも成長した段階、すなわちノープリウスの後期において特定の条件下で凍結すれば解凍後の生存率が飛躍的に向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】すなわち、本発明は、4〜6期のクルマエビノープリウスを、凍結保護物質含有水溶液に浸漬した後、0.2〜5℃/分の速度で少なくとも−30℃まで冷却して凍結させ、次いで、−150℃以下に保持することを特徴とするクルマエビの凍結保存法を提供するものである。
【0007】
【発明の実施の形態】本発明において用いられるクルマエビは、ノープリウスの4〜6期であるが、5又は6期がより好ましい。ノープリウスの前期、すなわち、1〜3期では組織崩壊率が高く、解凍後の生残率が低下する。またノープリウスでなく、ゾエアでも組織崩壊率が高くなり、解凍後の生残率が低下する。
【0008】クルマエビのノープリウスは、幼生であって、体がまだ頭胸部と腹部とに分化せず、正中線の前方に1個のノープリウス眼、その後方に口と消化管、左右に第一触角、第二触角、大顎の3対の付属肢をもつ段階である。その4期は、3期に出現した四対の腹肢が、外部に露出するのが特徴である。5期は、大顎の咀嚼面の始痕がほとんど球状となり、尾端の両側に1本の棘が増加し、計12本となる。さらに尾端中央には紅色の色素胞がみられる。6期は、大顎の咀嚼面は臼状となり、内縁は鋸歯状となる。尾端の叉状は著しく発達し、左右の内側にそれぞれ1本の棘が出現し、合計14本となる。卵黄はほとんど吸収される。
【0009】本発明方法では、まずクルマエビノープリウスを凍結保護物質含有水溶液に浸漬する。ここで、凍結保護物質としては、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、エチレングリコール及びアドニトールから選ばれる1種又は2種以上が好ましい。このうち、エチレングリコールが特に好ましい。なお、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド又はエチレングリコールにアドニトールを組み合せて用いるのがより好ましい。
【0010】凍結保護物質含有水溶液中の凍結保護物質濃度は、用いる凍結保護物質によって異なるが通常0.5〜3.0mol/Lが好ましい。浸漬時間は5〜60分、特に5〜30分が好ましい。この濃度範囲で少なくとも2段階、好ましくは2〜6段階、より好ましくは2〜4段階に順次濃度を上昇させた水溶液にノープリウスを一定時間、好ましくは2〜60分、より好ましくは5〜30分浸漬するのがより好ましい。例えば、1.0mol/L中に5分、次いで1.5mol/L中に10分というように順次濃度が上昇した水溶液に浸漬する。かかる濃度段階的浸漬により、凍結保護物質水溶液にノープリウスが馴致し、生体に対する影響が少なくなる。
【0011】次にクルマエビノープリウスを0.2〜5℃/分の速度で少なくとも−30℃まで冷却して凍結する。凍結に至るまでの最も重要なことは、水の結晶のできる凝固点付近をうまく通過し、温度を下げることができるかである。すなわち、水が凍る時に熱を放出するため、凍る瞬間、一瞬温度が上昇する。その時の温度変化が小さいほど細胞に影響が少ない。そこで、上記の速度で冷却して凍結することにより凝固点前の保持時間をなくし、速やかに通過させることにより、解凍後の生残率を向上させることができる。より好ましくは、0.3〜5℃/分、さらに好ましくは0.5〜5℃/分の速度で−35℃まで冷却して凍結させる。
【0012】凍結したクルマエビノープリウスは、−150℃以下に凍結保持する。このように凍結されたクルマエビノープリウスは解凍後の生残率が50%を超える。なお、生残率とは、生体の損傷がなく遊泳している個体及び生体の一部分が損傷していても、体の一部分が動いている遊泳個体も含む割合である。
【0013】なお、本発明方法により凍結保存されたクルマエビノープリウスの解凍は、50℃の水に5〜10秒間、ストロー管ごと浸漬し、短時間で行うことが好ましい。そして解凍後は凍結保護物質含有水溶液に浸漬して海水溶液にもどすのが好ましい。当該浸漬は、凍結前の浸漬と逆の操作、すなわち高濃度の凍結保護物質含有水溶液に一定時間浸漬し、順次低濃度の海水溶液に変換していくのが好ましい。
【0014】
【実施例】次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0015】実施例1(1)3種類の凍結保護物質〔ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアアセトアミド、エチレングコール〕のクルマエビノープリウスに対する毒性を検討した結果、DMSOは1〜1.5M(1.5モル濃度)で浸漬時間30〜60分の範囲で有効と考えられた。また、エチレングリコールは2Mで浸漬時間30〜60分で十分有効と考えられた。
【0016】(2)凍結方法については2段階凍結方法(液体窒素(−196℃)に入れるまでの温度操作を1段階とし、−196℃へ入れた段階を2段階という)を用いた。
【0017】(3)高濃度のDMSOへの浸漬は、浸透圧が大きくなり、生体へ影響することが示唆された(図1)。そのため、凍結保護物質の濃度を段階的に換え馴致する方法(表1)を用いたところ、生体には影響が少ないことがわかった(図2、図3)。
【0018】
【表1】

【0019】実施例21.5MのDMSOに、細胞内への浸透を助けるアドニトールを加えた液にノープリウスを浸漬して毒性試験を行った。その結果、1.5MのDMSOに0.4Mのアドニトールを添加するのが有効と考えられた。
【0020】
【表2】

【0021】1.5M DMSO及び0.4Mアドニトール含有水溶液に60分間浸漬したノープリウス4期のクルマエビを、植水板と凍結板を有するプログラムフリーザーを用い、表3の冷却速度で冷却して凍結した。凍結ノープリウスを解凍して遊泳個体率を測定したところ、−20℃において35%程度の遊泳個体率を得ることができた(図4)。なお、解凍後は海水をスポイトで足して、徐々に凍結保護物質溶液の濃度を下げ、最終的に全海水にする。全海水にするまでの所要時間は10〜15分である。
【0022】
【表3】

【0023】実施例3次に分子量が小さく、体内への浸透の高い凍結保護物質のエチレングリコールを用いることとし、1〜4Mの範囲での経過時間に対する毒性試験をノープリウスの4期を用い再度行った。その結果、1〜2.5Mの範囲では、浸漬後60分を経過した後も90%以上の遊泳個体率が認められた。この結果を踏まえ、1.5M及び2.0Mのエチレングリコールへ15分間の浸漬を行い、一次冷却でのノープリウスへの影響を調べた結果、2M浸漬の−20℃で54.4%の遊泳個体率を得ることができた。なおプログラムフリーザーは、表3に示した設定値を用いた。
【0024】実施例4これまでの結果から、ノープリウスの齢期(1期〜4期)が進むにつれて生残率の向上や組織崩壊率が低下する傾向がみられることから、齢期ごとの検討を行った。凍結方法は、これまでの結果から2Mエチレングリコールを凍結保護物質として用い、浸漬時間は15分とした。なおプログラムフリーザーの設定値は表4に示した。
【0025】
【表4】

【0026】幼生の齢期が進むにつれて一次冷却および凍結後の組織崩壊率は減少する傾向があり、凍結後では、最も低い幼生の齢期はノープリウスの6期であった(図5、図6)。それと比例して、生残率は幼生の齢期が進むにつれて高くなる傾向を示しており、凍結後の生残率では−30℃および−35℃まで一次冷却を行ったノープリウス5期、6期およびゾエアI期で50%前後の生残率を示した(図7、図8)。一方、一次冷却中の遊泳個体率もノープリウスの齢期が進むにつれて高くなる傾向を示し、ノープリウス6期をピークにゾエアのI期では、再び減少した(図9)。凍結後では、ノープリウス6期の一次冷却温度−30℃と−35℃で1%の遊泳個体が観察されたが、その他の齢期では、遊泳個体は観察されなかったことから、凍結にはノープリウス6期が最も適していると考えられた(図10)。
【0027】
【発明の効果】本発明方法によれば、解凍後の生残率が高いので、未感染のクルマエビが大量かつ容易に確保できるので、解凍後は種々の感染実験用種苗として有用である。
【出願人】 【識別番号】592116383
【氏名又は名称】社団法人日本栽培漁業協会
【出願日】 平成13年1月22日(2001.1.22)
【代理人】 【識別番号】100068700
【弁理士】
【氏名又は名称】有賀 三幸 (外6名)
【公開番号】 特開2002−209469(P2002−209469A)
【公開日】 平成14年7月30日(2002.7.30)
【出願番号】 特願2001−12781(P2001−12781)