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【発明の名称】 木本性植物のカルスからの再分化方法
【発明者】 【氏名】土肥 敬悟

【氏名】山口 善紀

【氏名】近藤 啓子

【氏名】河津 哲

【要約】 【課題】木本性植物のカルスから苗条原基を誘導する際に、再分化効率が高くない樹種でも効率良く再分化できる方法、および、形質転換したカルスから効率的に苗条原基を形成させて、その形質転換植物を再分化させる方法を提供する。

【解決手段】ユーカリなどの木本性植物のカルスを竪型回転培養器により光照射下で培養することにより苗条原基を誘導するカルスからの再分化方法において、該竪型回転培養器の一辺から、その辺における受光量が230μmol/(m2・s)以上となるように、強い光を照射する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 木本性植物のカルスを竪型回転培養器により光照射下で培養することにより苗条原基を誘導する、カルスからの再分化方法において、該竪型回転培養器の一辺から、その辺における受光量が230μmol/(m2・s)以上となるように、光を照射することを特徴とする木本性植物のカルスからの再分化方法。
【請求項2】 木本性植物がユーカリ属植物である請求項1に記載の再分化方法。
【請求項3】 ユーカリ属植物がユーカリ交雑種あるいはユーカリプタス・ダニアイ(Eucalyptus dunnii)であることを特徴とする請求項2に記載の再分化方法。
【請求項4】 ユーカリ交雑種がユーカリプタス・グランディス(Eucalyptus grandis)とユーカリプタス・ユーロフィラ(Eucalyptus urophylla)との交雑種であることを特徴とする請求項3に記載の再分化方法。
【請求項5】 カルスが形質転換カルスである請求項1〜請求項4に記載の再分化方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は木本性植物の組織から得られたカルスを竪型回転培養器により光照射下で培養することにより苗条原基を誘導し再分化して、クローン植物を作出する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】木本性植物において組織培養は古くから研究され、主にはクローン増殖技術として利用され、更に形質転換技術として発展している。木本性植物で利用されている組織培養技術としては、通常、カルス培養、成長点培養、器官培養(例えば、腋芽培養)等によってカルス、不定芽、苗条原基あるいは多芽体等の組織を増殖させる。次に、これらの増殖組織から苗条を分化させた後に、その苗条を発根させることにより植物体を再分化させている。
【0003】これらの組織培養技術で用いられる基本培地や炭素源および植物ホルモンの種類と濃度、培養温度等が大きな役割を担っており、更に光が植物の分化や形態形成と密接な関係にあることが知られるようになってきた。これまで光は照度という単位を用いて定量化されてきたが、照度(ルクス)は植物の光合成とは直接的には関係ない単位であり、この単位だけを用いて植物の光環境を評価することには問題があることが指摘されている(稲田 勝美編著、光と植物生育、養賢堂)。つまり、植物が生育するために光合成を行う上で重要なのは葉緑素に入射する光量子(光子)の個数とその密度(光合成光量子束密度)によって左右される。これまでに草本性植物であるレタス、チンゲンサイ、コマツナ、ハツカダイコン等で光と形態形成との関係が調べられ、これらの植物においては、それぞれ特定の単色光により葉柄伸長や節間伸長等が起こることが知られている。
【0004】木本性植物においても光の重要性が指摘されており、ユーカリプタス・トレリアーナの組織培養方法(特開2000−139253号公報)において50μmol/m2/s以上の光強度で多芽体から分化する苗条の数が増加することが示されている。一方、本発明者らは特公平6−11209号公報で、ユーカリ属植物の組織培養による植物体の再生において、2000〜20000ルクスの光照射下で竪型回転培養を行って得た苗条原基から苗条を得る大量増殖法を提案している。なお、白色蛍光燈の場合、20000ルクスは227μmol/(m2・s)に相当する。
【0005】前記したように、このようなクローン増殖技術は植物の形質転換技術とも関連し、本出願人は特開2000−316403号公報において、形質転換された苗条原基を20000ルクス以下の光照射下で培養するユーカリ属植物の形質転換方法も提案している。
【0006】一般的な植物の形質転換方法では、アグロバクテリウム法〔Hooykaas et al.Ann. Rev. Phytopathol. (1994) 32:157-179〕、パーティクルガン法〔Kleinet al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1988) 85:8502-8505〕、エレクトロポレーション法〔Fromm et al. (1985) 82:5824-5828〕、PEG法〔Paszkowski et al.(1984) EMBO J 3:2717〕等の方法を用いて、生物的、物理的あるいは化学的に植物細胞に外来遺伝子を導入し、さらにその遺伝子が導入された細胞を選抜しつつ、組織培養を用いて形質転換細胞から形質転換植物を再分化させる過程を経る。
【0007】最近ではin planta法〔Chang et al. Plant J.(1994) 5:551-558、Ye et al.Plant J.(1999) 19:249-257〕等の組織培養を経由しない形質転換方法が開発されているが、多くの植物種にin planta法が適応できるまでにはいたっておらず、そのため形質転換過程における組織培養技術の重要性は高い。多くの植物種で形質転換方法の開発が望まれているが、その形質転換の成否を決定する要因は目的とする植物種における組織培養技術(再分化技術)であると考えられる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】前記した特公平6−11209号公報、特開2000−139253号公報などに記載される光照射による組織培養方法は有効であるが、カルスから苗条原基を誘導する場合には、木本性植物の樹種によっては必ずしも高い再分化効率を示さないという問題があり、特に、形質転換体ではその傾向が強い。本発明は、カルスから苗条原基を誘導する際に、再分化効率が高くない樹種でも効率良く再分化できる方法を提案することを課題とする。また、本発明は木本性植物の形質転換したカルスから効率的に苗条原基を形成させて、その形質転換植物を再分化させる方法を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため本発明は以下の構成を採用する。即ち、本発明の第1は、「木本性植物のカルスを竪型回転培養器により光照射下で培養することにより苗条原基を誘導する、カルスからの再分化方法において、該竪型回転培養器の一辺から、その辺における受光量が230μmol/(m2・s)以上となるように、光を照射することを特徴とする木本性植物のカルスからの再分化方法」である。
【0010】本発明の第2は、前記第1発明において、木本性植物がユーカリ属植物であるカルスからの再分化方法である。
【0011】本発明の第3は、前記第2発明において、ユーカリ属植物がユーカリ交雑種あるいはユーカリプタス・ダニアイ(Eucalyptus dunnii)であることを特徴とするカルスからの再分化方法である。
【0012】本発明の第4は、前記第3発明において、ユーカリ交雑種がユーカリプタス・グランディス(Eucalyptus grandis)とユーカリプタス・ユーロフィラ(Eucalyptus urophylla)との交雑種であることを特徴とする再分化方法である。
【0013】本発明の第5は、前記第1〜第4発明において、カルスが形質転換カルスであることを特徴とする再分化方法である。
【0014】
【発明の実施の形態】以下、木本性植物のカルスからの再分化方法について詳しく説明するが、世界的に植林が実施され、その技術が検討されているユーカリ属植物を例として説明する。本発明に使用するユーカリ属植物の組織は、ユーカリ属植物に由来するならば、いかなる植物組織を起源としていても良く、また植物組織の一部あるいは組織培養物であってもかまわない。
【0015】また、本発明の方法はカルスから苗条原基を誘導する方法であり、それゆえに、未分化の組織に有用遺伝子を導入して形質転換体を作出する場合にその効果を最も発揮する。従って、以下では主として形質転換カルスを例として説明する。形質転換カルスの作出方法は特に限定されるものではないが、好ましくは本発明者らが提案している「木本性植物のクローン増殖法」(特開平10−304785号公報)や「ユーカリ属植物の成木を形質転換する方法」(特開2000−316403号公報)に従って早生分枝あるいは多芽体を誘導し、更に得られた早生分枝や多芽体にアグロバクテリウム菌を感染させる方法が効果的である。以下には、そのような例として、本発明を実施する操作の一例を取り上げて具体的に説明する。
【0016】<竪型回転培養器>本発明で言う竪型回転培養器とは、図1に模式図を示すように、例えば直径1m程度の回転する円板を持つ回転培養装置(日本医化機械製作所)の回転軸方向になるように培地が入った試験管を回転板に設置したものである。この場合、図1には示していないが、回転板が回転しても試験管は常に一定の方向(ナナメ下)を向くようになっており、一辺(最も通常には上辺)から光を照射する。
【0017】本発明では光のエネルギーに対応する量として、光の粒子である光量子(光子)の個数で表示し、1molは6.02×1023を示す。即ち、単位面積(m2)単位時間(秒)あたりの光量子の数をμmol/(m2・s)で表わす。一般的にはμmol・m-2・s-1と表示されることが多いが、本明細書では読みやすさのため、μmol/(m2・s)と表示する。
【0018】本発明では光の強さが重要なポイントであるが、前記した本発明で使用する光量μmol/(m2・s)は、竪型回転培養器の一辺における受光量である。一辺が上辺の場合、最上部に来た試験管が受ける光量を意味する。
【0019】<アグロバクテリウム菌を感染させるための早生分枝の作出>屋外に生育しているユーカリ属植物を材料に、当年枝の茎頂あるいは腋芽を含む5〜20mmの外植体を通常の殺菌方法を用いて殺菌調整の後、例えばWPM〔Loyd&McCown Proc.Int.Plant Prop.Soc. 30:421-427(1980)〕、B5〔Gamborg et al.Exp. Cell Res. 50:151-158(1980)〕、MS〔Murashige & Skoog Physiol.Plant15:473-497(1962)〕基本培地等に、炭素源として、例えばショ糖を1〜3%加えた液体培地の中で竪型回転培養を行う。培養条件は1〜10rpmの回転速度、竪型回転培養器の上辺で120〜320μmol/(m2・s)の光量、15〜35℃の温度で竪型回転培養することにより、20〜50日で苗条の伸長と増殖を同時にできる早生分枝が得られる。なお、得られた早生分枝の茎頂を含む一部の組織片を継代することにより増殖を繰り返し行うことが可能である。
【0020】<アグロバクテリウム菌を感染させるための多芽体の作出>屋外に生育しているユーカリ属植物を材料に、当年枝の茎頂あるいは腋芽を含む5〜20mmの外植体を通常の殺菌方法を用いて殺菌調整の後、例えばWPM、B5、MS基本培地に、植物ホルモンであるオーキシン類としてナフタレン酢酸(NAA)、インドール酢酸(IAA)等を0.01〜0.02mg/lおよびサイトカイニン類としてベンジルアデニン(BA)、1-(2-クロロ-4-ピリジル)-3-フェニル尿素(4-PU)、1-フェニル-3-(1,2,3,-チアジアゾル-5-イル)尿素(TDZ)等を0.01〜0.02mg/lを含有し、更に炭素源として、例えばショ糖1〜3%、支持体材として寒天0.3〜0.6%あるいはゲランガム0.15〜0.3%を含有する多芽体誘導培地に植え付ける。培養条件は、光量16〜160μmol/(m2・s)、温度15〜35℃の条件があげられる。以上の条件で20〜50日間培養することによって、多芽体を得ることが可能である。なお、得られた多芽体は一部の茎頂を含む組織片を継代することにより増殖を繰り返し行うことが可能である。
【0021】<不定苗条の感染誘導処理>アグロバクテリウム菌を感染させるため、早生分枝あるいは多芽体の茎頂を含む組織片を20〜50mmの長さにナイフで切り取り、例えばWPM、B5、MS基本培地等に、オーキシン類としてNAA、IBA、IAA等を0.01〜0.2mg/l、またサイトカイニン類としてBA、4-PU、TDZ等を0.01〜0.2mg/lの濃度で含有し、更に炭素源として、例えばショ糖1〜3%、支持体材として」寒天0.3〜0.6%あるいはゲランガム0.15〜0.3%を含有する感染誘導培地に植え付ける。培養は遮光条件下、温度15〜35℃の条件で7〜20日間培養する。
【0022】<アグロバクテリウム菌の調整>アグロバクテリウム菌は、そのTiプラシミドを無毒化したもの、あるいは無毒化してしていない菌株を用意する。導入する遺伝子は、植物細胞内で発現するように改良した後に、Tiプラスミドベクターあるいはバイナリーベクターに結合し、アグロバクテリウム菌に形質転換して使用する〔Chilton et.al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4060-4064 (1980)〕、〔Herrera-Estrella et.al.Nature 303:209-213(1983)〕。上記の方法で得たアグロバクテリウム菌を、ベクターの保有する抗生物質抵抗性遺伝子が規定する適正量の選抜抗生物質を添加したL-液体培地〔Miller Experiments in Molecular Genetics(1972)〕10g/l Bact-tryptone、5g/l Bact-yeast extractおよび5g/NaClにて、30℃、一晩でO.D.600が0.8以上まで培養する。
【0023】<アグロバクテリウム菌の感染>感染誘導処理した早生分枝あるいは多芽体の植物組織を、0.1%の界面活性剤(Tween-20)で洗浄後、ナイフで2〜10mmの大きさに切断し、アグロバクテリウム菌の感染培地、例えばWPM、B5、MS基本培地等に、サイトカイニン類として4-PU、BA、TDZあるいはカイネチン等を、またオーキシン類としてNAA、2,4-DあるいはIAA等と、ショ糖、ガラクトース等の糖類、アセトシリンゴンおよびアグロバクテリウム菌添加した液体培地に植え付ける。更に好ましくは、組織片をアグロバクテリウム菌培養液に浸けた後に、アグロバクテリウム菌以外を含有する固形培地に着床する。これを20〜30℃の温度、遮光条件下で1〜2日間静置培養し、アグロバクテリウム菌を感染させる。
【0024】<アグロバクテリウム菌の除菌>アグロバクテリウム菌を感染させた組織片を除菌培地、例えばWPM、B5、MS基本培地等に、サイトカイニン類として4-PU、BA、TDZあるいはカイネチン等を、またオーキシン類としてNAA、2,4-DあるいはIAA等と、アグロバクテリウム菌を殺菌するために抗生物質、例えばカルベニシリン、バンコマイシン、クラフォラン等とショ糖を添加した液体培地に植え付ける。これを15〜35℃の温度、0〜20μmol/(m2・s)の光量下で3〜14日間静置培養し、アグロバクテリウム菌の除菌を行う。
【0025】<形質転換カルスの形成>アグロバクテリウム菌を完全に除菌した組織片を、基本培地として、例えばWPM、B5、MS基本培地に、植物ホルモンであるサイトカイニン類として4-PU、BA、TDZあるいはカイネチン等を、またオーキシン類としてNAA、2,4-DあるいはIAA等と炭素源、アグロバクテリウム菌を殺菌するための抗生物質、更に形質転換された細胞集塊を選抜するための抗生物質を添加した液体培地の中で竪型回転培養を行う。培養条件は1〜10rpmの回転速度、竪型回転培養の上辺が0〜230μmol/(m2・s)の光量、15〜35℃の温度とする。14〜40日間隔で新鮮培地へ継代して培養を継続すると、形質転換カルスの選抜を始めてから20〜50日で、組織片中に黄白色の形質転換カルス形成が認められる。
【0026】<形質転換カルスから苗条原基の形成>本願における形質転換カルスとは、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法、エレクトロポレーション法、PEG法等のいずれかの方法で形質転換した結果得られる外来遺伝子が導入されたカルスであり、カルスの大きさは問題にはならない。形質転換によって得られたカルスを組織片からナイフによって切り離し、基本培地として、例えばWPM、B5、MS基本培地に、植物ホルモンであるサイトカイニン類として4-PU、BA、TDZあるいはカイネチン等を、またオーキシン類としてNAA、2,4-DあるいはIAA等と炭素源、更に形質転換された苗条原基を選抜するための抗生物質を添加した液体培地の中で竪型回転培養を行う。培養条件は1〜10rpmの回転速度、竪型回転培養器の一辺が230μmol/(m2・s)以上の光照射下、15〜35℃の温度で竪型回転培養し、選抜開始から40〜120日で形質転換された苗条原基が誘導される。
【0027】なお、ここにおける光の強さは340μmol/(m2・s)以上がより好ましく、最も好ましくは400〜500μmol/(m2・s)である。500μmol/(m2・s)を越えた場合、温度が上がり過ぎる危険性がある。光源としては、蛍光燈、ナトリウムランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプなどが例示されるが、植物成長に影響する光変換効率が高く、光質バランスが良いメタルハライドランプが最も適切である。また、光をもっとも強く受ける辺において、一本の試験管全体があまりむらなく230μmol/(m2・s)以上の光を受けるよう、ランプの大きさ、反射板構造などを選択すれば良い。
【0028】また、光は竪型回転培養器の一辺からのみ当てることが重要で、一辺とは、例えば図1に記載するような上辺、下辺、側辺あるいはその間のいずれか一辺であれば良いが、上辺が植物体にとってもっとも自然な位置である。光を当てる辺に対向する辺では光量が光を当てる辺の半分以下となっていることが好ましく、より好ましくは1/3以下、最も好ましくは1/4以下である。対向する辺の光量を制御する方法としては、竪型回転培養器の回転直径、ランプの位置、ランプカバー、培養器ケースの反射などの条件を調整することにより可能である。
【0029】カルスから苗条原基を形成する前記過程において、一辺から230μmol/(m2・s)以上の光を照射する期間は少なくとも5日以上、好ましくは10日以上最も好ましくは14〜40日である。この期間の前に、それより弱い光を照射する期間を設けても良い。
【0030】<形質転換植物の再生>竪型回転培養して得られた形質転換苗条原基を、苗条を再生するための培地、例えばB5あるいはMS基本培地等に植物ホルモン類として、例えばNAA、2,4-D、IAA等のオーキシン類、BA、4-PU、カイネチン、ゼアチン、TDZ等のサイトカイニン類および炭素源、寒天あるいはゲランガム、更に形質転換された細胞集塊を選抜するための抗生物質を添加した苗化培地で培養する。培養は15〜35℃の温度、20〜35μmol/(m2・s)の光量で40〜80日間行うことにより苗条を再生させ、更に、発根させて完全な形質転換植物を得ることができる。
【0031】
【実施例】以下、実施例によって本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<実施例1>(1)供試植物ユーカリ交雑種のユーカリプタス・グランディス×ユーカリプタス・ユーロフィラ(Eucalyptus grandis×E.urophylla)を使用した。
【0032】(2)早生分枝の作出屋外に生育している3年生のユーカリプタス・グランディス×ユーカリ・ユーロフィラの茎頂を含む組織を70%アルコールで30秒、10倍に希釈したアンチホルミンで1分間殺菌した後、更に滅菌水による洗浄を3回行い、ピンセットとナイフを用いて無菌的に茎頂を含む組織を切り出した。得られた茎頂を含む組織をB5基本培地に対して1%ショ糖を含有する液体培地に移植し、上辺で160μmol/(m2・s)の光量、24〜28℃の温度で、竪型回転培養することにより30日で早生分枝を誘導した。
【0033】(3)早生分枝の感染誘導処理安定的に増殖する早生分枝の茎頂を含む組織片を20〜50mmの長さにナイフで切り取り、B5基本培地に対して0.02mg/l NAA、1%ショ糖と0.2%ゲランガムを含有する感染誘導培地に植え付ける。培養は遮光条件下、温度26〜28℃の条件で14日間培養した。
【0034】(4)アグロバクテリウム菌の調整アグロバクテリウム菌は、そのTiプラスミドを無毒化したEHA101株〔Hood etal .J.Bacteriology 168:1291-131(1986) 〕を使用した。遺伝子導入としてはいかなる遺伝子であろうとも、そのプロモーターを植物用のプロモーターに置換することによって発現させ得る。ここでは選抜マーカー遺伝子となるハイグロマイシン抵抗性遺伝子とカナマイシン抵抗性遺伝子を有し、更にレポーター遺伝子としてヒマのカタラーゼ遺伝子の第1イントロンを含むβ―グルクロニダーゼ(イントロンGUS)遺伝子をT-DNA領域に有するバイナリーベクターpIG121-Hm〔中村ら、植物バイオテクノロジーIIpp.123-132、現代化学増刊、(1991)〕をアグロバクテリウム菌に形質転換して使用した。上記のイントロンGUS遺伝子を保有するアグロバクテリウム菌EHA101/pIG121-Hmをカナマイシンを50mg/l、ハイグロマイシンを50mg/lの濃度で含有するL液体培地にて、一晩30℃で培養して調整した。
【0035】(5)アグロバクテリウム菌のユーカリ属植物組織への感染感染誘導処理した早生分枝をナイフで2〜10mmの大きさに切断した後、前記の方法で調整したアグロバクテリウム菌EHA101/pIG121-Hmの培養液に浸けた。早生分枝に付着した培養液を濾紙で拭き取った後、早生分枝をB5基本培地に2mg/l NAA、0.2mg/l 4-PU、1mMガラクトース、10μMアセトシリンゴン、3%ショ糖と0.2%ゲランガムを含有する感染培地に置床し、26℃の温度、遮光条件下で2日間静置培養して、アグロバクテリウムを感染させた。
【0036】(6)アグロバクテリウム菌の除菌アグロバクテリウム菌を感染させた組織片のアグロバクテリウム菌を殺菌するために、B5基本培地に対して2mg/l NAA、0.2mg/l の4-PU、3%ショ糖、更にアグロバクテリウム菌を殺菌するための抗生物質である500mg/lカルベニシリンを含有する除菌培地に移植した。これを26℃の温度、遮光条件下、2rpmの回転速度で7日間竪型回転培養して、アグロバクテリウム菌の除菌を行った。
【0037】(7)形質転換カルスの形成アグロバクテリウム菌を完全に除菌した組織片を、B5基本培地に0.02mg/l NAA、0.2mg/l 4-PU、3%ショ糖、および抗生物質ハイグロマイシンを10mg/lで含有する液体培地に、1本の試験管に対し5片の割合で植え付けた。26℃の温度、遮光条件下で7日間竪型回転培養した。更に竪型回転培養器の下辺が20μmol/(m2・s)、上辺が150μmol/(m2・s)の光照射下、2rpmの竪型回転培養で1カ月間竪型回転培養することによって、組織片中に黄白色で2〜3mmの形質転換したカルス形成が認められた。
【0038】(8)形質転換カルスから苗条原基の形成得られたカルス65個を、竪型回転培養器の下辺が80μmol/(m2・s)、上辺が420μmol/(m2・s)の光照射条件において、30日目で新鮮培地へ継代して回転培養を継続し60日目で取り出して苗条原基の形成を確認した。その結果、40個のカルスが苗条原基を形成したことが判明し、苗条原基形成率は61.5%であった。なお、本明細書の実施例における光照射は三菱電気製メタルハライドランプBOCランプを使用した。
【0039】(9)形質転換植物の再生以上により得られた形質転換された苗条原基より、形質転換された苗条を再生させるためにB5基本培地に0.02mg/l NAA、0.2mg/l BA、1%ショ糖、0.2%ゲランガムおよび10mg/lハイグロマイシンを含有する苗化培地に5mm角程度の大きさにした苗条原基を移植した。そして、25℃の温度、光量40μmol/(m2・s)、16時間光照射下で培養した結果、移植後1カ月後に苗条の再生が認められた。得られた苗条はB5基本培地に0.01mg NAA、1%ショ糖、0.35%寒天および10mg/lハイグロマイシンを含有する発根培地に移植することによって、1カ月後には発根が認められ完全な植物体となった。すなわち、本方法の場合、組織片への感染から形質転換植物の作出まで6カ月を要した。
【0040】(10)形質転換植物における導入遺伝子の存在確認抗生物質による選抜によって得られた個体について、PCR法を用いて導入遺伝子の存在を確認したところ、全個体において導入遺伝子が確認された。このことにより本方法によるユーカリ属植物の形質転換が有効であること証明された。
【0041】(11)形質転換植物における導入遺伝子の発現確認PCR法によって導入遺伝子の存在が確認された個体に付いて、イントロンGUS遺伝子の発現を組織染色〔Kosugi et al. Plant Sciene 70:133-140(1990)〕によって調べたところ、葉の周囲、根端および根毛において強いイントロンGUS遺伝子の発現が確認された。
【0042】<実施例2>実施例1の(1)〜(7)までの工程で選られたカルスを、(8)の光強度条件のみを変更した。即ち、得られたカルス65個を、竪型回転培養器の下辺が66μmol/(m2・s)、上辺が344μmol/(m2・s)の光照射条件において、30日目で新鮮培地へ継代して回転培養を継続し60日目で取り出して苗条原基の形成を確認した。その結果、25個のカルスが苗条原基を形成したことが判明し、苗条原基形成率は38.5%であった。
【0043】<比較例1>実施例1の(1)〜(7)までの工程で選られたカルスを、(8)の光強度条件のみを変更した。即ち、得られたカルス65個を、竪型回転培養器の下辺が30μmol/(m2・s)、上辺が160μmol/(m2・s)の光照射条件において、30日目で新鮮培地へ継代して回転培養を継続し60日目で取り出して苗条原基の形成を確認した。その結果、4個のカルスが苗条原基を形成したことが判明し、形成率は6.2%であった。以上の実施例・比較例をまとめて表1記載した。
【0044】
【表1】

但し、照度と光合成光量子束密度は竪型回転培養器の上辺での値のみ記載してある。
【0045】<実施例3>(1)供試植物ユーカリ属植物としてユーカリプタス・ダニアイ(Eucalyptus dunnii)を使用した。
【0046】(2)多芽体の作出(a) 無菌播種ユーカリプタス・ダニアイ(Eucalyptus dunnii)種子を7倍に希釈した次亜塩素酸ナトリウム溶液に、Tween20を0.1%加えた液に40分間浸漬し、70%アルコールで2分間、さらに5倍に希釈した次亜塩素酸ナトリウム溶液にTween-20を0.1%加えた液に30分間浸漬して殺菌後、滅菌水で3回洗浄した。次いで1% ショ糖および0.6%の寒天を含むB5培地上に種子を置床した。培養条件は温度26℃、照度46μmol/(m2・s)、16時間日長で行った。播種後、約2週間生育させて苗条を得た。
【0047】(b) 多芽体の作出無菌発芽させた苗条の茎頂を含む組織片を切り出し、B5基本培地に対して0.02mg/l NAA、0.02mg/l BA、1% ショ糖と0.2% ゲランガムを含有する固体培地に植え付け、温度26℃、光量46μmol/(m2・s)、16時間光照射下で行い、約4週間毎に新鮮培地に継代した。
【0048】(3)感染誘導処理前記で得られた多芽体の感染誘導処理を実施例1と同様に行った。
(4)アグロバクテリウム菌の調整アグロバクテリウム菌の調整は実施例1と同様に行った。
【0049】(5)アグロバクテリウム菌のユーカリプタス・ダニアイへの感染前記感染誘導した多芽体を取り出しナイフで2〜10mmの大きさで切断した。更にB5基本培地に2mg/l NAA、0.2mg/l 4-PU、1mMガラクトース、10μMアセトシリンゴンと3%ショ糖を含有する培地を調整し、更に前記の方法で調整したアグロバクテリウム菌EHA101/pIG121-Hmの培養液に浸けた。ついで実施例1と同様の方法で前記組織片を感染培地に移植し、26℃の温度、遮光条件下で2日間静置培養して、アグロバクテリウム菌を感染させた。
【0050】(6)アグロバクテリウムの除菌アグロバクテリウム菌を感染させたユーカリ属植物組織より、アグロバクテリウム菌を除くために、組織片をB5基本培地に2mg/l NAA、0.2mg/l 4-PUと3%ショ糖、更にアグロバクテリウム菌を殺菌するために抗生物質として500mg/lのカルベニシリンを含有する除菌培地に移植した。これを26℃の温度、遮光条件下、2rpmの回転速度で7日間竪型回転培養して、アグロバクテリウム菌の除菌を行った。
【0051】(7)形質転換カルスの形成アグロバクテリウム菌を完全に除菌した組織片を、B5基本培地に0.02mg/l NAA、0.2mg/l 4-PU、3%ショ糖および10mg/lハイグロマシンを含有する選抜培地に、1本の試験管に対し5片の割合で植え付けた。26℃の温度、遮光条件下で7日間、更に下辺20μmol/(m2・s)、上辺が150μmol/(m2・s)の光照射下、2rpmの竪型回転培養で1カ月間竪型回転培養することによって、組織片中に黄白色で2〜3mmの形質転換したカルス形成が認められた。
【0052】(8)カルスから苗条原基の形成得られたカルス40個を、竪型回転培養器の下辺が20μmol/(m2・s)、上辺が420μmol/(m2・s)の光照射条件において、30日目で新鮮培地へ継代して培養を継続した。光照射下で竪型回転培養をはじめてから60日目で取り出して苗条原基の形成を確認した。その結果、25個のカルスが苗条原基を形成したことが判明し、形成率は62.5%であった。
【0053】(9)形質転換植物の再生竪型回転培養して得られた形質転換された苗条原基から苗条を再生させるために、B5基本培地に0.01mg/l NAA、0.5mg/l BA、1%ショ糖、0.2%ゲランガムおよび10mg/lハイグロマイシンを含有する苗化培地に5mm角程度の大きさにした苗条原基を移植した。そして、26℃の温度、光量40μmol/(m2・s)、16時間光照射下で培養した結果、移植後1カ月後に苗条の再生が認められた。得られた苗条は1/4B5基本培地に0.1mg/l IBA、1%ショ糖、0.4%寒天および10mg/lハイグロマイシンを含有する発根培地に移植することによって、1カ月後には発根が認められ完全な植物体になった。
【0054】(10)形質転換植物における導入遺伝子の存在確認と発現確認形質転換によって得られた固体について、実施例1と同様にPCR法によって、導入遺伝子の存在確認を行った。またGUS遺伝子の発現を組織染色によって確認した。
【0055】<実施例4>実施例3の(1)〜(7)までの工程で選られたカルスを、(8)の光強度条件のみを変更した。即ち、得られたカルス40個を、竪型回転培養器の下辺が66μmol/(m2・s)、上辺が344μmol/(m2・s)の光照射条件において、30日目で新鮮培地へ継代して回転培養を継続し60日目で取り出して苗条原基の形成を確認した。その結果、14個のカルスが苗条原基を形成したことが判明し、形成率は35.0%であった。
【0056】<比較例2>実施例3の(1)〜(7)までの工程で選られたカルスを、(8)の光強度条件のみを変更した。即ち、得られたカルス27個を、竪型回転培養器の下辺が30μmol/(m2・s)、上辺が160μmol/(m2・s)の光照射条件において、30日目で新鮮培地へ継代して回転培養を継続し60日目で取り出して苗条原基の形成を確認した。その結果、苗条原基を形成したものが無いことが判明し、形成率は0%であった。以上の実施例・比較例の結果をまとめて表2に記載した。
【0057】
【表2】

但し、照度と光合成光量子束密度は竪型回転培養器の上辺での値のみ記載してある。
【0058】
【発明の効果】本発明によって、これまで形質転換植物の作出が困難であったユーカリ属植物の形質転換においても、強度の光照射下で形質転換カルスを竪型回転培養することにより苗化能力に優れた苗条原基を高頻度に誘導できるようになった。その結果、効率的よく安定的に形質転換苗条原基形成を行うことで形質転換植物体の作出が可能になった。従って、従来育種法である選抜や交雑によって作出されたプラス木に対して有用遺伝子の導入ができることから、従来よりも安価で更に生物種を越えた有用遺伝子形質を保有する新品種を供給することが可能になった。
【出願人】 【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子製紙株式会社
【出願日】 平成13年3月29日(2001.3.29)
【代理人】
【公開番号】 特開2002−281851(P2002−281851A)
【公開日】 平成14年10月2日(2002.10.2)
【出願番号】 特願2001−95323(P2001−95323)