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【発明の名称】 細胞膜プロトン−ATPアーゼ遺伝子破壊植物体及びその使用方法
【発明者】 【氏名】田中 倫子

【氏名】宮崎 力

【氏名】平井 正名

【要約】 【課題】土壌等の植物生育媒体の状態を簡易にかつその場評価できるモニタリング材料及び生育媒体評価方法を提供する。

【解決手段】細胞膜プロトン−ATPアーゼをコードする遺伝子が破壊された植物体を提供する。これにより、土壌等の植物生育媒体の状態を簡易にまたその場評価することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】細胞膜プロトン−ATPアーゼをコードする遺伝子が破壊された植物体。
【請求項2】細胞膜プロトン−ATPアーゼをコードする遺伝子の発現が阻害されたか、あるいは当該酵素の活性が阻害された植物体。
【請求項3】前記植物体はイネである請求項1又は2記載の植物体。
【請求項4】請求項1〜3のいずれかに記載の植物体の生育状態をモニタリングすることを特徴とする植物生育媒体の評価方法。
【請求項5】請求項1〜3のいずれかに記載の植物体の生育状態をモニタリングしつつ、維持しようとする植物体を栽培することを特徴とする、植物体の製造方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、植物生育媒体の状態、特に,降雨、化学肥料、植物遺体による土壌の酸性化をモニタリングする技術に関し、特に、細胞膜プロトン−ATPアーゼ遺伝子が破壊あるいは当該酵素活性を有するタンパク質の生成が抑制された植物体をモニタリング材料として使用して、簡易に、そしてその場評価可能に生育媒体の状態をモニタリングする技術に関する。
【0002】
【従来の技術】世界の農業において利用可能な耕地面積の31%(34億ha)は、作物の生育を著しく阻害する酸性土壌であり、深刻な農業問題を引き起こしている。土壌の酸性化は、降雨、化学肥料による施肥、植物遺体による有機酸の影響等によって引き起こされる。酸性化した土壌では、土壌粒子に吸着しているMg2+、Ca2+、K+などのイオンがH+に置換されて溶脱され、またリン酸の供給も低下することから、植物にとって栄養量の減少をもたらす。さらに、土壌の酸性化がpH4以下に進むと、土壌中のアルミニウムが可溶化(イオン化)し、植物の根の伸長反応にも著しい影響を与える。従って、このような土壌酸性ストレスは、作物等の生育全般に悪影響を及ぼし、収量減をもたらす結果となる。作物の栽培において、多収を得るためには、健全な土壌条件が必要であり、そのような土壌条件を維持するためには、土壌の状態を生物学的にモニタリングする技術の開発が必要である。
【0003】化学的な測定法としては、例えば、土壌の酸性度を、土壌粒子を水、あるいはKCl溶液、あるいはCaCl2溶液に一定量の割合でけん濁させてpHを測定する方法が定められている。生物を利用した土壌モニタリング方法には、例えば、微生物の生育度を指標として、土壌特性(病害阻止性)を評価する方法(特開2000-157258)がある。遺伝子工学手法を利用した方法では、ストレス誘導性プロモーター配列の制御下に発現可能な遺伝子を配置させた検出用微生物を用いた環境ストレス検出方法(特表平8-504101)がある。
【0004】しかしながら、従来の土壌モニタリングでは、測定機材を必要とし、測定に時間および手間がかかる、また、土壌の状態(季節、天候等)によって測定結果にばらつきがあり、土壌の性質を正しく評価するためには、測定回数を増やす必要がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】そこで、本発明は、土壌等の植物生育媒体の状態を簡易にかつその場評価できるモニタリング材料及び生育媒体評価方法を提供することを目的とする。また、本発明は、土壌等の植物生育媒体の状態を簡易にかつその場評価しながら、植物を栽培し製造する方法を提供することも、その目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、細胞膜プロトン−ATPアーゼに着目し、独自に保有するイネ遺伝子破壊ライブラリーより、細胞膜プロトン−ATPアーゼ遺伝子が破壊された変異体(遺伝子破壊個体)を見出した。細胞膜プロトン−ATPアーゼは、ATPのエネルギーを利用してプロトンの能動輸送を行うタンパク質である。そのプロトンポンプによって、細胞内に流入してきたプロトン(H+)を細胞外に汲み出し、細胞内のpHを調整する機能を有している。細胞膜プロトン−ATPアーゼ遺伝子が耐酸性に関与していることを調べた実験例として、酵母を用いた報告がある。この報告では、細胞膜プロトン−ATPアーゼ遺伝子の発現を抑制した酵母において耐酸性が失われること、タバコの細胞膜プロトン−ATPアーゼ遺伝子を酵母に導入し、発現させることによって耐酸性が付与されることを確認している(Marc Boutry,Plant Physiol. 119:627-634(1999))。
【0007】本発明者らは、細胞膜プロトン−ATPアーゼをコードする遺伝子が破壊等されて、当該酵素が適切に発現されない植物体は、プロトンポンプが適切に機能しないために、土壌等の植物生育媒体の酸性化に伴い、細胞内のpHを正常に維持することができず、生育が阻害され、該植物体の生育状態をモニタリングすることによって、土壌の酸性度を評価できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明によれば、細胞膜プロトン−ATPアーゼをコードする遺伝子が破壊された植物体が提供される。また、細胞膜プロトン−ATPアーゼをコードする遺伝子の発現が阻害された植物体が提供される。さらに、これらの植物体を用いて、その生育状態をモニタリングすることを特徴とする植物生育媒体の評価方法が提供される。これらの発明によれば、土壌等の植物生育媒体の状態を簡易にまたその場評価することができる。
【0008】また、このような植物体の生育状態をモニタリングしつつ、維持しようとする植物体を栽培することを特徴とする、植物体の製造方法が提供される。この方法によると、植物生育媒体の状態を簡易にまたその場評価によってモニタリングしながら、維持しようとする植物体を適切に栽培し製造できる。
【0009】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。本発明は、細胞膜プロトン−ATPアーゼ遺伝子の発現が阻害された植物体、あるいは細胞膜プロトン−ATPアーゼ活性が阻害された植物体であり、また、かかる植物体を、土壌等の植物生育媒体の状態を評価するためのモニタリング材料として使用するものである。かかる植物体としては、好ましくは、細胞膜プロトン−ATPアーゼ遺伝子が破壊された植物体であり、より好ましくは変異により当該遺伝子は破壊された植物体である。
【0010】本明細書において細胞膜プロトン−ATPアーゼ遺伝子とは、真核細胞の細胞膜に存在する、プロトン−ATPアーゼ(Proton−Translocating ATPase)である。真核細胞には、各種の細胞膜プロトン−ATPアーゼ遺伝子が存在しており、特に限定するものではなく、少なくとも1つの細胞膜プロトン−ATPアーゼ遺伝子が破壊されていればよいが、好ましくは、耐酸性に関連する細胞膜プロトン−ATPアーゼ遺伝子である。細胞膜プロトン−ATPアーゼ遺伝子は、各種植物体のcDNAライブラリーから分離することができる。たとえば、既知の細胞膜プロトン−ATPアーゼのアミノ酸配列(Wadaら, Plant Physiol. (1992) 99, 794-795)に基づいて得られたDNA配列における共通配列をもとに作製したプライマーを用いて、各種植物体のcDNAライブラリーに対してPCRを行うことにより、その植物体の細胞膜プロトン−ATPアーゼのcDNA断片(あるいはcDNAの一部分)を得ることができる。このcDNA断片(またはcDNAの一部分)をプローブとして用いてcDNAライブラリーをスクリーニングし、細胞膜プロトン−ATPアーゼ遺伝子をクローニングすることができる。多くの細胞膜プロトン−ATPアーゼ遺伝子は、膜貫通部分と親水性の頭部とを備えており、その分子量はおおよそ100,000Dである。
【0011】本発明に使用できる細胞膜プロトン−ATPアーゼ遺伝子としては、例えば、イネ(典型的にはOryza sativaである)においては、OSA1(Wadaら, PlantPhysiol. (1992) 99, 794-795)、OSA2(Kasamoら, Plant Cell Physiol. (1994)35, 1251-1256)等を挙げることができる。また、トマトにおいては、LHA1(Ewingら, Plant Physiol. (1990)94, 1874-1881)を挙げることができる。さらに、シロイヌナズナにおいてはAHA1(Harperら, Proc. Natl. Acad.Sci. USA(1989) 86, 1234-1238)、タバコにおいてはPma3(Perezら, J. Biol. Chem. (1992)267, 1204-1211)を挙げることができる。
【0012】細胞膜プロトン−ATPアーゼ遺伝子が破壊された植物体の形態としては、外来DNA配列の導入によって破壊された組換え体でもよいが、自然発生的あるいは人工的に発生させた突然変異によって破壊された変異体であることが好ましい。この遺伝子は、相同染色体においてヘテロの状態で遺伝子が破壊されていてもよいが、好ましくは、ホモの状態で破壊されている。
【0013】本明細書の対象となる植物体とは、特に限定しない。単子葉植物でも双子葉植物であってもよい。植物体としては、各種栽培作物種から選択することもできる。例えば、イネ、ライムギ、コムギ、トウモロコシ、オオムギ、モロコシ等の穀類、オレンジ等の各種果実類、キャベツ、ダイコン、ニンジン等の野菜類、タバコ、サトウキビ、ナタネ、ダイズ、ヒマワリ等の工芸作物を挙げることができる。さらに、シロイヌナズナ等、緑藻類、紅藻類、ヒメツリガネゴケ等のコケ植物等を挙げることができる。また、本発明は、本発明の植物体から得た繁殖媒体(例えば、種子、根茎、切穂等)も対象とする。また、本明細書において植物細胞とは、前記した植物の培養細胞、植物器官(例えば、葉、花弁、茎、根、根茎、種子等)、又は植物組織(例えば、表皮、師部、柔組織、木部、維管束等)のいずれを意味するものである。
【0014】一方、変異体は、各種公知の突然変異誘発処理により変異を誘発させることにより得ることができる。例えば、エチルメタンスルホン酸(EMS)、5−ブロモウラシル、2−アミノプリン、ヒドロキシルアミン、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン、アジ化ナトリウム、エチレンイミン等の突然変異を誘発する化合物を用いた処理、ガンマ線、ベータ線、X線、速中性子、熱中性子等の各種照射処理、トランスポゾン等を利用できる。
【0015】トランスポゾンを利用する例として、組織培養や各種ストレスなどにより活性化することが知られているトランスポゾンの転移挿入を利用することができる。例えば、使用するトランスポゾンが活性化することが知られている条件下に植物細胞を生育させ、突然変異を誘発することができる。イネにおいては、Tos17等を使用できる。また、トウモロコシでは、Ac/Ds、Mutator、Spm/dSpm、En/Spm等を使用できる。シロイヌナズナでは、Ac/Ds、En/Spmt、タバコにおいてはTnt1を使用できる。以下、イネのレトロトランスポゾンの一種であるTos17による遺伝子破壊変異体の作製方法について説明する。
【0016】Tos17は、組織培養によってその転移活動が活性化することが知られている。このため、植物体から採取した器官や組織をカルス誘導する。カルス誘導は、採取した、例えば、玄米(種子)等の植物器官を滅菌、洗浄後、公知のカルス誘導培地に移植し、一定期間、培養することにより実施することができる。さらに、得られた細胞塊の一部を採取し、これを例えばN6基本培地等の液体培養に適した培地に移植し、さらに、継代培養することができる。液体培養期間は、通常2、3ヶ月から5ヶ月程度とすることができる。
【0017】Tos17は、特に、液体培養期において転移活動が活発化するとされている。Tos17による挿入転移を有する細胞系統では、再分化個体とすることにより保存され、安定した変異植物体を得ることができる。Tos17の転移により細胞膜プロトン−ATPアーゼ遺伝子の破壊された変異体を分離するには、公知のTos17配列(Hirochika et al., Proc. Natl. Sci. USA93:7783-7788(1996))に基づいて作製したPCRプライマーを用いて、TAIL-PCR(Liu and Whittier,GENOMICS 25:674-681(1995))等を実施して、Tos17挿入部位に隣接するゲノムDNA領域を増幅し、細胞膜プロトン−ATPアーゼ遺伝子に基づいて作製したプローブによるスクリーニング、当該増幅断片について塩基配列の決定・相同性検索等を実施することにより可能である。
【0018】細胞膜プロトン−ATPアーゼをコードする遺伝子の発現が阻害された植物体、あるいは細胞膜プロトン−ATPアーゼ遺伝子の活性が阻害された植物体は、上記した当該遺伝子の破壊体の他、植物細胞においてアンチセンスRNAを発現させたり、不完全な細胞膜プロトン−ATPアーゼを発現させたり、あるいはコサプレッション現象(Montgomeryら(1998)、Trends Genet., 14,255-)を利用するような形質転換細胞を得て、植物体に再生することにより取得できる。
【0019】このような形質転換細胞は、プロモーター配列、プロモーター配列の下流にセンスあるいはアンチセンス方向に連結した細胞膜プロトン−ATPアーゼ遺伝子の全部あるいは一部、さらに必要に応じてポリアデニレーション配列を含むターミネーター配列を含むDNAコンストラクトを植物細胞に導入することにより行う。DNAコンストラクトに含めることのできるプロモーター配列としては、下流に連結されたコード配列を恒常的又は誘導的に発現させることのできるものを使用できる。好ましくは、恒常的発現型プロモーターである。恒常発現型プロモーターとしては、恒常発現型プロモーターとしては、たとえば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター(Odell et al.1985 Nature 313:810)、イネのアクチンプロモーター(Zhang et al.1991 Plant Cell 3:1155)、トウモロコシのユビキチンプロモーター(Cornejo et al.1993 Plant Mol.Biol.23:567)などが挙げられる。
【0020】アンチセンスRNAを発現させるには、細胞膜プロトン−ATPアーゼをコードするDNAの全部又は一部を、植物細胞内で恒常的あるいは誘導的に転写可能に作用するプロモーターの下流にアンチセンス方向に連結する。細胞膜プロトン−ATPアーゼの転写産物に相補的なアンチセンスRNAを発現させることにより、植物細胞内で細胞膜プロトン−ATPアーゼの発現が阻害され、結果として、植物体で生育媒体のpH変化による傷害を引き起こすことができるようになる。また、コサプレッション現象を利用する場合、植物細胞で作用可能な強力なプロモーター下に細胞膜プロトン−ATPアーゼ遺伝子をセンス方向に連結する。これにより、この導入した遺伝子と内在する当該遺伝子の発現が阻害され、結果として、植物細胞内で細胞膜プロトン−ATPアーゼの発現が阻害されることになる。さらに、植物細胞内で作用可能なプロモーターの下流に、不完全な細胞膜プロトン−ATPアーゼを発現するように、細胞膜プロトン−ATPアーゼ遺伝子の一部あるいは改変したDNA配列を連結する。これにより、不完全な当該酵素が蓄積した場合には、植物細胞内において内在する完全な酵素の機能を阻害し、結果として、細胞膜プロトン−ATPアーゼの発現が阻害されることになる。
【0021】なお、細胞膜プロトン−ATPアーゼ遺伝子が破壊された植物体は、例えば、植物細胞において当該遺伝子を外来核酸配列によってノックアウトすることによって得ることもできる。ヒメツリガネゴケ等の相同組換えが可能な植物では、当該遺伝子をターゲィテングしてノックアウトできる。このために導入される外来核酸配列は、当該遺伝子領域に相同なDNA配列を有する他は、特に限定しない。また、その植物細胞に対して外来性であるトランスポゾン(レトロトランスポゾンを含む)やT−DNAを利用して、当該遺伝子をノックアウトすることもできる。この場合の核酸配列は、DNAであってもRNAであってもよい。これらの外来核酸配列によるノックアウトでは、導入のための外来核酸配列として、染色体への組み込みを選別するのに有効な選択マーカー遺伝子を含めることもできる。選択マーカー遺伝子としては、各種公知の抗生物質耐性遺伝子やレポーター遺伝子を使用できる。また、これらのマーカー遺伝子を発現させるためのプロモーターも外来核酸配列に含めることができる。
【0022】上記したDNAコンストラクト又はこのような核酸配列を有するプラスミドやファージ等のベクターを、パーティクルガン法、ポリエチレングリコール法、リポソーム法、マイクロインジェクション法等により植物細胞に直接導入することができる。また、形質転換因子として、アグロバクテリウム属菌であるアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)、アグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)を用いたT−DNAによる形質転換法も用いることができる。この場合、導入すべきDNA配列を中間ベクターあるいはバイナリーベクターの中にクローニングする。例えば、外来遺伝子は、採取した植物切片に、適当な外来遺伝子を含むベクターをアグロバクテリウム感染法等で処理して、前記植物細胞に導入される。
【0023】変異処理後の細胞や形質転換した植物細胞は、再生過程を経ることにより植物体に変換することができる。再生の方法は、植物の種類によって異なるが、例えば、イネでは、Fujimuraら(Fujimuraら(1995)、Plant Tissue Culture Lett.,vol.2:p74-)の方法、トウモロコシでは、Shillitoら(Shillitoら(1989), Bio/Technology, vol. 7:p581-)の方法、シロイヌナズナではAkamaら(Akamaら(1992)、Plant Cell Rep., vol.12:7-)の方法が挙げられる。なお、再生された植物体を他の品種と交配して、好ましい品種において細胞膜プロトン−ATPアーゼ遺伝子が破壊され、その発現が阻害等された植物体を得ることもできる。例えば、細胞膜プロトン−ATPアーゼ遺伝子(OSA1)が破壊された植物体が水稲である場合、これを適当な陸稲品種と交配し、細胞膜プロトン−ATPアーゼ遺伝子(OSA1)が破壊された陸稲を作成することにより、水田以外の畑作地等でも使用可能となり、より実用的になる。
【0024】これらの方法により作出された植物体又はその繁殖媒体(種子、根茎、切穂等)は、正常型(野生型を含む)の植物体を比較して、生育媒体のpH変化、特に酸性化した場合において、その形態、成長等が変化する。
【0025】本発明の植物体は、出芽後、育苗した苗を評価する生育媒体に正常植物体とともに移植して用いることができる。これにより、生育媒体評価用のモニタリング材料として使用できる。植物体の生育媒体としては、土壌が一般的であるが、植物体の種類、生育方法、収穫形態によって、水耕等とすることができる。本発明における植物体の生育状態のモニタリングは、地上部である草丈、葉の姿勢、葉色、分げつの程度を主に、また地下部においては根の伸長具合を、正常個体と比較することにより行う。本発明の植物体において生育阻害が観察された生育媒体では、酸性化が起こっていると予測される。
【0026】あらかじめ、評価対象である生育媒体(典型的には土壌である)における低pHの影響、あるいは塩高濃度の影響を、数段階の条件を設定して、それぞれの生育状態の変化を観察しておくことにより、定性のみならず定量的な生育媒体の特性評価も可能となる。例えば、pHを3.5,4.0,4.5,5.0.5.5,6.0にそれぞれ調整した生育媒体に本発明の植物体および正常植物体を移植し、草丈、葉の姿勢、葉色、および根の伸長等を比較観察し、低pHが及ぼす影響を調べておく。このような定量的予備評価は、評価対象の生育媒体の種類ごとに実施しておくのが望ましい。
【0027】これらの発明によれば、本発明の植物体を評価対象の生育媒体に植生させ、その生育状態を目視によって観察するという非常に簡便な方法で、特に測定機材、測定操作等の手間を必要としないところに最大のメリットがあり、利用価値が高い。また、植物体が変異体である場合には、組換え体の制限を受けないため、使用場所に制限はなく、評価対象生育媒体に直接植生させ、栽培現場での評価を可能にする方法を提供できる。特に、生育媒体の酸性化は、作物の生育に悪影響を及ぼし、収量減をもたらしうる。本発明を用いることにより、簡便で迅速な土壌等の酸性ストレスのモニタリングが可能となり、土壌等の生育媒体ストレスに早急に対処することができ、作物の減収を未然に防ぐことが可能になる。
【0028】
【実施例】以下に本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。なお、DNAの切断、連結、大腸菌の形質転換、遺伝子の塩基配列決定等一般の遺伝子組換えに必要な方法は、各操作に使用する市販の試薬、機械装置等に添付されている説明書や、実験書(例えば「Molecular cloning (Maniatis T. et al. Cold Spring Harbor Laboratory Press)」)に基本的に従った。また、イネの寒天培地や土壌を用いた育成、交配、ゲノムDNAの調製は実験書(例えば「モデル植物の実験プロトコール(秀潤社)」)に基本的に従った。
【0029】細胞膜プロトン―ATPアーゼ遺伝子(OSA1)破壊個体の作製発明者らは、レトロトランスポゾンTos17による遺伝子破壊変異体を得るために、以下の方法を実施した。カルス誘導は以下に述べる方法で実施した。台中65号種籾から籾を手で取り除いた。未熟なもの、変色したもの、ひび割れのある玄米は省き、充実した玄米を選び、滅菌操作に移した。滅菌シャーレ内に玄米を入れ、70%エタノールにて1分間ロータリーシェーカーで振とうさせ、表面殺菌を行った。エタノール殺菌後、滅菌水にて表面を洗浄し、10%次亜塩素酸ナトリウム溶液にて1時間表面殺菌を行った。カルス誘導は表1に示す組成のMS基本培地を使用した。ゲル化剤としてゲランガムを用いた。
【表1】

【0030】培地を滅菌後、シャーレにてプレートを作製した。籾を除去した玄米を表面殺菌した後、カルス誘導培地プレート上に無菌的に玄米の胚の部分を上部にし、置床した。プレート上には5、6粒の玄米を等間隔に置床した。置床後、30℃、暗条件のインキュベータにて3週間から一カ月培養を行った。
【0031】液体培養は表2に示す組成のN6基本培地を用いた。培地の液量は100ml三角フラスコ(植物培養用リム無し)の場合30ml ,200m三角フラスコの場合は50mlとした。カルスをN6基本培地に移植後、30℃、暗条件下で旋回培養(100rpm)を行った。1〜2週間毎に新しい培地に交換し継代培養を行った。
【表2】

【0032】継代培養後、再分化個体(遺伝子破壊個体)を得るため、カルスを再分化培地へ移植した。再分化には表3に示す組成のR2基本培地を用いた。ゲル化剤としてゲランガムを用い、シャーレにてプレートを作製した。
【表3】

植物細胞からの再分化は通常植物ホルモンのバランスを変えることが刺激となる。カルス段階の維持にはオーキシン濃度がサイトカイニン濃度より高い状態で加えられているが、再分化時はサイトカイニン濃度がオーキシン濃度より高い状態で加えられることにより植物体が再生するといわれている。オーキシンとしてインドール酢酸(IAA)、サイトカイニンとしてカイネチン(kinetin)を用いた。IAAについては熱に弱いため濾過滅菌し、オートクレーブ後添加した。
【0033】カルスは約1〜2mmの大きさに切断し、再分化培地上に無菌的に置床した。1プレートに4〜10個のカルスを等間隔に置床した。置床後30℃、6000Lxの連続照明下で培養した。2週間後、グリーンスポット(緑点)が観察された。グリーンスポットおよび白色カルスを再分化培地上に移植した。カルスの移植は2週間毎に行った。芽が2cm程度に生育したら、付着した寒天培地を除去後、ホルモンフリーのR2基本培地(培養用丸ポット)に移植した。再生された植物体を土壌に移植する際、培地容器内の環境から外部の栽培環境に適応できるように馴化を行った。植物体が丸ポットの蓋につくまで生育させた後、植物体に付着した寒天培地を水道水で洗浄、除去した後、50%バーミキュライトと50%くみあい肥鉄培土( 水田土)を混合したミニポットに移植した。ビニール袋を上部にかぶせ、30℃6000Lxの連続照明下で栽培した。数日後、ビニール袋に小さな穴を10カ所ほどあけ、環境に徐々に馴れさせた。馴化後、植物体はくみあい肥鉄培土のみ入ったミニポットへ移植した。
【0034】Tos17の転移により破壊された遺伝子を分離するために、公知のTos17の配列(Hirochika et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:7783-7788(1996))に基づいて作製したPCRプライマーを用いて、TAIL-PCR(Liu and Whittier, GENOMICS25:674-681(1995))を行った。具体的には、Tos17の挿入部位に隣接するゲノムDNA領域を増幅することがきる3種類のPCRプライマー「配列番号:1/5-ACTGTATAGTTGGCCCATGTCCAG-3」、「配列番号:2/5-CCCATCGGATGTCCAGTCCATTGG-3」、「配列番号:3/5-GCTAATACTATTGTTAGGTTGCAA-3」を合成し、これらを用いて、Tos17挿入部位に隣接したゲノムDNAをTAIL-PCR法を用いて増幅させ、アガロース電気泳動で調べた。該断片をベクターにサブクローニング(TOPO TA cloning kit:Invitorogen社)し、塩基配列の決定(ABI PRISMTM 310 Genetic Analyser)を行ったところ、Tos17の3'LTR側の配列とそれに続く染色体ゲノムDNAと思われる領域を含んでいた。次に、該断片についてデータベース解析(http://www.ncbi.nlm.nih.gov:80/)を行ったところ、染色体ゲノムDNAと思われる領域の一部が、「細胞膜プロトン―ATPアーゼ遺伝子(OSA1)」と一致した系統を一系統(T4-7#16)を見出した。細胞膜プロトン―ATPアーゼ遺伝子OSA1は、Kasamo, Kらによって、イネの培養細胞(品種日本晴)から単離された(Plant. Physiol.99:794-795 (1992))。これまでにイネの細胞膜プロトン−ATPアーゼ遺伝子は3個のisoformsが報告されている。アミノ酸配列で比較して、OSA1は、OSA2と89%の相同性を、OSA3とは92%の相同性を有している。また、他の植物のプロトン−ATPアーゼ遺伝子と比較すると、トマト(Lycopersicon esculentum)のLHA1で88%、のタバコ(Nicotianaplumbaginifolia)のPma3で87%と非常に高い相同性を有している。OSA1のコードするタンパク質は、956個のアミノ酸残基より成り、300番目に位置するアミノ酸残基の上流に存在するイントロン領域に、レトロトランスポゾンTos17が転移挿入し、本遺伝子を完全に破壊した変異体を作出できた。
【0035】
【配列表】
SEQUENCE LISTING <110> KABUSHIKI KAISHA TOYOTA CHUO KENKYUSHO<120> Proton-ATPase Gene Knock-out Plants<160> 3 <210> 1<211> 24<212> DNA<213> Artificial Sequence<220> <223> Description of Artificial Sequence:PCR Primer<400> 1actgtatagt tggcccatgt ccag 24 <210> 2<211> 24<212> DNA<213> Artificial Sequence<220> <223> Description of Artificial Sequence:PCR Primer<400> 2cccatcggat gtccagtcca ttgg 24 <210> 3<211> 24<212> DNA<213> Artificial Sequence<220> <223> Description of Artificial Sequence:PCR Primer<400> 3gctaatacta ttgttaggtt gcaa 24
【出願人】 【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
【識別番号】396020800
【氏名又は名称】科学技術振興事業団
【出願日】 平成13年2月28日(2001.2.28)
【代理人】 【識別番号】100064344
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 英彦 (外3名)
【公開番号】 特開2002−253071(P2002−253071A)
【公開日】 平成14年9月10日(2002.9.10)
【出願番号】 特願2001−55203(P2001−55203)