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【発明の名称】 菌根菌の感染促進剤および菌根菌の感染・生長促進剤
【発明者】 【氏名】桑田 光作

【氏名】松下 至

【氏名】宇多村 優

【氏名】石井 孝昭

【要約】 【課題】工業的に合成できる化学成分または自然界から効率よく抽出分離できる特定成分を有効成分として含有する菌根菌の感染促進剤とし、もしくは菌根菌の感染・生長促進剤とし、またはそのような薬剤を用いた植物の菌根形成促進方法とすることである。

【解決手段】マンニトールを有効成分として10〜1500ppm含有する植物の根に対する菌根菌の感染促進剤とする。また、菌根菌に感染した植物の根に対して50〜500ppmのマンニトールを有効成分として含有する菌根菌の感染・生長促進剤とする。菌根菌の生理活性が活発化し、植物の根に対する菌根菌の感染力が高められると共にその菌糸の生長が促進され、植物の生長がよくなると共に病気に対する抵抗力も高くなる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 マンニトールを有効成分として含有する植物の根に対する菌根菌の感染促進剤。
【請求項2】 有効成分が、10〜1500ppmの濃度である請求項1記載の菌根菌の感染促進剤。
【請求項3】 マンニトールを有効成分として50〜500ppm含有する菌根菌の感染・生長促進剤。
【請求項4】 菌根菌を含有する植物育成用培地に、マンニトールを添加して植物の根に対する菌根菌の感染およびその菌糸の生長を促進させる植物育成方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、植物の根に共生する菌根菌の感染と生長を促進する菌根菌の感染促進剤および菌根菌の感染・生長促進剤並びに植物育成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、植物の菌根(マイコリーザ)は、共生菌が植物から炭水化物を吸収する代わりに土壌中から水分や養分を集めて供給するという共生関係のある菌類であることが知られている。このような菌根は、菌糸が細根の表面と細胞の外側を包む外生菌根と、菌糸が根の細胞の中まで進入する内生菌根があり、内生菌根のうち、菌糸が根の細胞に進入して袋状体(Vesicule)や樹枝状体(Arbuscule)を作る菌根菌はVA菌根菌と呼ばれている。
【0003】VA菌根菌は接合菌類に属し、特にリンやカリウムの吸収に重要な働きをするものであり、VA菌根が形成された植物のリン等の吸収率が向上して植物の生長がよくなると共に、病気に対する抵抗力も高くなる。このような菌根菌の例としては、ギガスポーラ・マルガリータ(Gigaspora margarita)やギガスポーラ・ラミスポロフォーラ(Gigaspora ramisporophora)などがある。
【0004】本願の出願人は、食材のコンブ類等からメタノールなどの有機溶媒で抽出物を得て、これをメタノール濃度50重量%以下でODSの様な吸着樹脂(固定化担体)を充填したカラムを通過させることにより分画して得られる海藻抽出物の製造方法と、それを用いた植物の菌根形成促進方法を特開平10−201468号および特開平10−273410号公報に開示した。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上記した植物の菌根形成促進方法は、菌根形成促進する有効成分を単離または特定した方法ではなく、効率よく工業的に合成できる化学成分または自然界から効率よく抽出分離できる特定成分は不明であった。
【0006】そこで、本願の各請求項に係る発明の課題は、上記した問題点を解決して、効率よく工業的に合成できる化学成分または自然界から効率よく抽出分離できる特性の成分を有効成分として含有する菌根菌の感染促進剤もしくは菌根菌の感染・生長促進剤とし、またはそのような薬剤を用いた植物の菌根形成促進方法を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するため、本願の菌根菌の感染促進剤に係る発明においては、マンニトールを有効成分として含有する植物の根に対する菌根菌の感染促進剤としたのである。
【0008】マンニトールを有効成分として含有する菌根菌の感染促進剤は、後述の実験結果からも明らかなように、植物の根に対する菌根菌の感染力を高める。この作用は、有効成分が、10〜1500ppmの濃度である場合に特に顕著に現れる。
【0009】また、菌根菌に感染した植物の根に対して50〜500ppmのマンニトールを有効成分として含有する菌根菌の感染・生長促進剤を施用すると、後述の実験結果からも明らかなように、菌根菌の感染力を増すと共に、その菌糸の生長が促進される。
【0010】また、上述した菌根菌の感染・生長促進剤を用いた植物育成方法として、菌根菌を含有する植物育成用培地に、マンニトールを添加して植物の根に対する菌根菌の感染および菌糸の生長を促進させる植物育成方法とすることができる。
【0011】このような植物育成方法によると、通常、野生の菌根菌を含有している土壌その他の植物育成用培地に対し、マンニトールを添加することによって、菌根菌の感染および菌糸の生長が促進される。これにより、植物の生長がよくなると共に病気に対する抵抗力も高くなる。
【0012】
【発明の実施の形態】この発明に用いるマンニトールは、化学合成物質であっても天然材料からの抽出物であってもよい。マンノースの糖アルコールであるマンニトールは、褐藻類、野菜のセロリ、キノコ類、カビ類(アスペルギルス属)などの植物界に広く分布する物質であり、自然界に最も多い糖アルコールである。
【0013】例えば、細断したコンブを抽出材料にすると、加熱したエタノールで抽出すれば容易に無色針状晶として得られる。また、工業的には、アルカリ性の条件下でD−グルコース、または転化糖を電解還元または接触還元し、エピメリゼイション(エピ化)し、還元させ、不純物を取り除いて得られる。
【0014】この発明に用いるマンニトールの濃度は、菌根菌の菌糸生長を促進させるためには50〜500ppmであることが好ましい。なぜなら、50ppm未満の濃度では菌糸の生長が顕著に促進されない。また、500ppmを超えて濃度が濃くなると、目立った生長が認められずに実用性が低くなる。
【0015】また、菌根菌の植物の根への感染率を向上させるためにはマンニトールの濃度は、10〜1500ppmが好ましい。なぜなら、マンニトールの濃度が10ppm未満の低濃度では効果がほとんど認められず、1500ppmを超える高濃度では、却って感染率が低下して実用的でなくなるからである。
【0016】上記したような所定濃度でマンニトールを有効成分として含有する菌根菌の生長促進剤は、その剤型を特に限定されるものではなく、例えば水溶性薬剤などの液剤とし、または周知の賦型剤を配合して粉末剤、顆粒剤、錠剤などに製剤することができる。
【0017】この発明において、マンニトールの添加によって感染率が向上し、または菌糸の成長が促進される菌根菌の例としては、ギガスポーラ・マルガリータ(Gigaspora margarita)やギガスポーラ・ラミスポロフォーラ(Gigaspora ramisporophora)などがある。
【0018】この発明の植物育成方法の対象となる植物は、菌根菌と共生することによって植物の生理状態が改善される植物であればよく、特に限定された種類の植物でなくてもよい。水分と栄養分の吸収を主として根から行う一般的な植物として、特に後述のように柑橘類に対して施用することによって好ましい結果を得ている。
【0019】また、この発明の植物育成方法に用いる植物育成用培地は、菌根菌を含有するものであればよく、有機物を多量に含み、ある程度水はけのよい土壌またはバーミキュライト、パーライトまたはゼオライトを混合した微生物増殖性の良い人工土壌を用いることもできる。
【0020】さらにまた、寒天培地などの微生物の繁殖しやすい培地を用いて植物の幼苗を育成し、菌根菌を感染させた苗を通常の土壌などに移植して栽培することもできる。
【0021】
【実施例】〔実験例1〜5〕(菌糸生長率の確認試験)
10ppm、50ppm、100ppm、500ppm、1500ppmにそれぞれ調整したマンニトール溶液(この濃度順に実験例1〜5)について、各調整液毎に1.5%の素寒天培地10ml(直径70mmのシャーレを使用)を調製し、121℃で加圧滅菌した。その後、表面消毒したギガスポーラ・ラミスポロフォーラ(Gigaspora ramisporophora)(以下Grと略記する。)の胞子を1シャーレあたり4個を置床し、30℃の暗黒化でインキュベートした。なお、対照区(Cont)は水のみとした。2週間後、胞子からの菌糸の伸長をCCDカメラを装備した実体顕微鏡及びパソコンによる画像処理システムによって測定し、結果を表1および図1に示した。
【0022】
【表1】

【0023】表1および図1の結果からも明らかなように、マンニトールを添加しなかった対照区(Cont)は、菌糸が実験例1の2分の1、実験例2に対しては5分の1程度しか生長しなかった。
【0024】これに対して、実験例1〜5のマンニトールを有効成分として含有する水溶液(菌根菌の生長促進剤)は、対照区の1.5〜4.8倍の生長率を示した。特にマンニトール濃度が50〜500ppmの実験例2〜4は、対照区(マンニトール濃度0)の2.4〜4.8倍という高成長率であった。
【0025】〔実験例6〜9〕(柑橘幼樹栽培試験)
マンニトールの菌根感染率に及ぼす作用を確認するために、柑橘幼樹栽培試験を行なった。すなわち、無菌のバーミキュライトで生育したカラタチの1年生実生苗を、バーミキュライトとパーライトとゼオライトをそれぞれ2:1:1の割合で混合した培土を用いてプラスチック8号鉢に移植し、苦土石灰を15g/鉢施用した。2週間後、全ての区にGrの胞子約60個を接種した。その後、マンニトール処理区に対して毎週5ppm、10ppm、100ppmおよび1500ppmのマンニトール溶液(この順に実験例6〜9)を100ml/鉢にて潅水施用し、対照区(Cont)は同量の水を潅水施用した(計4回)。期間中の施肥量はN:P:K=1:0.2:1g/鉢とし、微量要素は液肥で施した。移植後、9週目に鉢を解体し、根をPhillipsら(Trans. Br. Mycol. Soc. 55:158-161. 1970)および、石井ら(園芸学会誌、63巻、529-535,1994)の方法で観察し、感染率を求めた。感染率は観察した根の長さに対する感染した根の長さの割合で表わし、表2および図2に示した。
【0026】
【表2】

【0027】表2および図2の結果からも明らかなように、マンニトールを添加しなかった対照区(Cont)は、感染率が、実験例8の約2分の1程度しかなかった。
【0028】これに対して、実験例6〜9のようにマンニトールを有効成分として含有する水溶液(菌根菌の生長促進剤)を施用すると、感染率が対照区の1.2〜1.7倍を示した。
【0029】
【発明の効果】本願の菌根菌の感染促進剤に係る発明は、以上の説明から明らかなように、効率よく工業的に合成できる化学成分または自然界から効率よく抽出分離できるマンニトールを有効成分とする菌根菌の感染促進剤である。このようにマンニトールを有効成分として含有する菌根菌の感染促進剤は、菌根菌の生理活性を活発化し、植物の根に対する菌根菌の感染力を高め、菌根が形成された植物のリン等の吸収率が向上して植物の生長がよくなり、病気に対する抵抗力も高くなる。これらの利点は、有効成分であるマンニトールが10〜1500ppmの場合に特に顕著に現れる。
【0030】また、特に50〜500ppmのマンニトールを有効成分として含有する菌根菌の感染・生長促進剤に係る発明は、菌根菌の感染力が増し、しかも菌糸の生長も促進されるものになる。
【0031】また、上述した菌根菌の感染・生長促進剤を用いた植物育成方法は、菌根菌を含有する植物育成用培地にマンニトールを添加するから、植物の根に対して菌根菌の感染および菌糸の生長が促進され、植物のリン等の吸収率が向上して植物の生長がよくなり、病気に対する抵抗力も高くなる。
【出願人】 【識別番号】000114732
【氏名又は名称】ヤマキ株式会社
【出願日】 平成13年5月30日(2001.5.30)
【代理人】 【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二 (外2名)
【公開番号】 特開2002−354943(P2002−354943A)
【公開日】 平成14年12月10日(2002.12.10)
【出願番号】 特願2001−162643(P2001−162643)