| 【発明の名称】 |
樹木の被傷部位治療方法 |
| 【発明者】 |
【氏名】内田 清市
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| 【要約】 |
【課題】被傷部位を樹木自らの自然回復力によって確実に治癒させることはできる新規な樹木の被傷部位治療方法の提供。
【解決手段】樹木1の被傷部位5周囲の樹皮2を削り取って樹皮2内側の形成層3を露出させた後、その被傷部位5内に、予め水分を十分に吸い込ませた繊維質の泥炭8を隙間なく埋め込み、しかる後、その被傷部位5を遮光性及び防水性のシート10で覆う。これによって被傷部位5にカルス(癒傷組織)12が成長すると同時に形成層3から多数の不定根11が発生・成長し、このカルス12及び不定根11が互いに接着・融合して被傷部位5が覆われて確実に自然治癒する。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 樹木の樹皮が形成層と共に剥がれ落ちて木部が露出した被傷部位を治療する方法において、その被傷部位周囲の樹皮を数cmの厚さに亘って削り取って樹皮内側の形成層を露出させた後、その被傷部位内にその木部全体を覆い隠すように、予め水分を十分に吸い込ませた繊維質の泥炭を隙間なく埋め込み、しかる後、その被傷部位を遮光性及び防水性のシートで覆って日光を遮蔽すると共に乾燥を防ぐようにすることを特徴とする樹木の被傷部位治療方法。 【請求項2】 上記被傷部位に泥炭を埋め込む前に、その被傷部位の頂部の樹皮をさらにサネ状に削り込んでサネ部を形成するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の樹木の被傷部位治療方法。
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【発明の詳細な説明】【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、樹木の被傷部位を樹木自身の自然回復力によって治癒させるための樹木の被傷部位治療方法に関するものである。 【0002】 【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】一般に樹齢が数十年以上の樹木にあっては、落雷や動物,人為的な被害等を受け易くその結果、その樹皮の一部が剥がれ落ちて木部の一部が露出してしまうことがある。この場合、その被傷部位が小さければ傷の周囲にカルス、すなわち癒傷組織が形成され、やがて自然治癒することになるが、その被傷がある一定以上の大きさになると自然治癒が間に合わずにその部分から腐朽が進行してやがて大きな穴が形成されたり、最悪の場合は、その被傷が原因で樹木全体が朽ち果ててしまうことがある。 【0003】そのため、従来ではその被傷部位にウレタンやモルタルの詰め物を埋め込んで被傷部位を覆い隠し、その部位から腐朽の進行を食い止めるような措置が施されている。 【0004】しかしながら、このような措置ではその被傷部位の腐朽の進行を単に遅らせるだけしか期待できない。また、公園やホテル,観光地等の特に鑑賞等を目的とした樹木にあってはかかる措置のみでは樹木の美観を大きく損ねてしまう結果となる。 【0005】そこで、本発明はこのような課題を有効に解決するために案出されたものであり、その目的は被傷部位を樹木自らの自然回復力によって確実に治癒させることができる新規な樹木の被傷部位治療方法を提供するものである。 【0006】 【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために本発明は、請求項1に示すように、樹木の樹皮が形成層と共に剥がれ落ちて木部が露出した被傷部位を治療する方法において、その被傷部位周囲の樹皮を数cmの厚さに亘って削り取って樹皮内側の形成層を露出させた後、その被傷部位内にその木部全体を覆い隠すように、予め水分を十分に吸い込ませた繊維質の泥炭を隙間なく埋め込み、しかる後、その被傷部位を遮光性及び防水性のシートで覆って日光を遮蔽すると共に乾燥を防ぐようにするものである。 【0007】これによって被傷部位にカルス(癒傷組織)が形成し成長し易くなると共に削り取った樹皮の形成層から多数の不定根が発生・成長し、このカルス及び不定根が互いに接着・融合して被傷部位が覆われることによって被傷部位が完全に自然治癒されることになる。 【0008】また、請求項2に示すように、上記被傷部位に泥炭を埋め込む前に、その被傷部位の頂部の樹皮をさらにサネ状に削り込むようにすれば、不定根が発生し易くなるため、より短期間で効果的に自然治癒を行うことが可能となる。 【0009】 【発明の実施の形態】次に、本発明を実施する好適一形態を添付図面を参照しながら説明する。 【0010】先ず、本発明の実施の形態を説明するにあたって一般的な樹木の組織と生理及びその特性について簡単に説明する。 【0011】針葉樹や広葉樹等の樹木は、地中に位置する地下部(根部)と地上に露出した地上部(幹や枝葉)とからなり、さらに地上部は、既に細胞分裂が終了した永久組織と次々と細胞分裂を繰り返す分裂組織とからなっている。この分裂組織は樹木の頂端部、枝や根の先端部及び後述する樹皮下の形成層に存在し、この分裂組織が繰り返し分裂することで幹の上長,肥大,根の発達等といった樹木の生長が行われるようになっている。 【0012】図6はこのような樹木の幹部の組織を示す楔型組式図を示したものであり、図中Aは樹幹の横断面、Bはその径断面、Cは触断面をそれぞれ示したものである。 【0013】図示するように、この樹幹は、根から吸収した水分や養分を上方へ導通すると共に樹木の支持機能を有する木部(永久組織)Dと、この木部Dの周囲に位置すると共に、葉での光合成により合成された養分や水分を下方へ導通する組織である篩部(内樹皮)E及び外樹皮Fとから主に構成されている。尚、この木部Dはさらにその軸部に位置する髄Gと心材部Hと辺材部(白太)Iとからなっている。 【0014】そして、この篩部Eと木部Dとの間に分裂組織となる形成層Jが形成されており、これが篩部E及び辺材部Iを介して樹木の頂部から下方に向かって流れ落ちてくる水分や養分によって細胞分裂を繰り返し、樹幹の内側に向かって木部組織を、また外側に向かって篩部組織をそれぞれ新生・増加させることで樹幹の肥大・生長が行われるようになっている。尚、この形成層Jから新生された細胞組織は、我が国の気象条件下では、冬季には活動が一時休止するが、春期になると直ちに活発な活動を開始する。この活動は形成層Jから篩部Eに対しては比較的緩慢であるのに対し、形成層Jから木部Dへの移行は甚だしく、篩部Eのそれに対して6〜8倍程度の厚さに増殖されることから、木部Dの肥大に対して篩部Eの肥厚は極僅かである。また、この形成層Gは、温暖で旺盛な成長期には細胞膜の薄い大型の細胞からなる春材層が形成され、寒冷な成長率が低下する時期には厚膜で扁平な小型細胞からなる秋材層が形成され、これによって木部Dに髄Gを中心として年輪が形成されることになる。 【0015】一方、このような樹木に限らず植物一般には、■組織の接着融合、■不定根の発生、■癒傷組織の形成等といった特性を有していることが知られている。 【0016】■組織の接着融合植物は、同一種類の個体又は異なる種類の個体同士の組織が一定の条件下で互いに接着融合する特性を持っており、自然界においても異なる個体が接合・融合してあたかも1本の木のように生長しているものが見受けられ、この特性に着目した技術が「接木」である。異個体組織間の接着融合のメカニズムは接穂と台木が接触する面に初めカルス(植物体を傷付けたときに傷の周囲にできる癒傷組織)が形成され、その後カルスの中に導管部、篩管部等の繊管部が分化し、それによって両者の組織が連絡し、水,養分,植物ホルモンの移動が可能になって個体同士が接合・融合するものである。尚、根については、土中にある場合又は日が当たる場合は接着・融合しない。 【0017】■不定根の発生不定根とは、土中の根部以外の部位から形成される根のことをいい、その発生は内生的であり、前記の形成層Jの細胞の一部が分裂能力を回復し、篩部Eを破って外部に出てくるものである。この特性に着目した技術が「挿木」であり、この技術を活用し、母植物体の一部を母体から切り離して一定の条件下で土中に挿し、不定根を発生、発達させて独立の植物体とするものである。 【0018】■癒傷組織の形成植物には一群の細胞を破壊したときに分泌されて他の細胞の生長や増殖を促すと考えられる物質(癒傷ホルモン)の存在が確認されており、植物に傷を付けたときに傷の周囲にカルス、すなわち癒傷組織が形成される。この特性に着目した技術が「枝打ち」であり、枝打ちを行うと、幹の形成層から癒傷組織であるカルスが生成され、やがて幹の肥大生長により節が完全に覆われて正常な組織が形成され、いわゆる無節材が得られることになる。 【0019】そして、本発明の樹木の被傷部位治療方法は、このような樹木特有の組織構造及び特性を利用して被傷部位を自然治癒させるものであり、その具体的な実施の形態を図1〜図3の添付図面を参照しながら説明する。 【0020】図1中1は樹木の幹部であり、樹皮2及びその内側の形成層3が部分的に完全に剥がれ落ちて辺材部4(木部D)が露出した被傷部位5の状態を示したものである。 【0021】この辺材部4は前述したように既に細胞分裂が終了した永久組織であるため、このような状態を放置しておいても自然治癒することなく、やがてその露出した辺材部4部分が腐朽して穴が開いたり、最悪の場合にはその腐朽が進行し枯死に至ることがある。また、この被傷部位5の回りには、樹木自体の治癒力によって幹の形成層から癒傷組織であるカルスが生成されるが、このような大きな被傷であると光合成により合成された養分や水分が十分に供給されないため、被傷部位5を覆うまでには成長しない。また、この被傷部位5には十分な養分や水分が供給されない上に日光が直接当たるため、不定根も発生しない。 【0022】そのため、本発明の被傷部位治療方法は、先ず、このような状態の被傷部位5周囲の樹皮2を2〜3cm程度の厚さに亘って削り取ってその樹皮2内側の形成層3を露出させる。すなわち、被傷部位5周囲はカルスによって形成層3が完全に覆われた状態となっているため、形成層3が十分に発達するように邪魔となっている古いカルスを削り取っておくのである。また、この時その露出した辺材部4に図示するように腐朽している部分6がある場合には、その腐朽の進行を食い止めるためにその腐朽部分6を除去しておく。また、この被傷部位5周囲の樹皮2を削り取るに際しては、その頂部をサネ状、すなわち上方に向けて鋭角に削り込んでサネ部7を形成しておくことが肝要である。これによって、そのサネ部7が不定根の発生誘導部位となり、治療後における不定根が発生し易くなるからである。 【0023】次に、図2に示すように、予め一昼夜程度水に浸け十分に水を吸った状態の繊維質の泥炭(ピートモス)8をその露出した辺材部4を完全に覆い隠すように被傷部位5内に十分な量に張り付ける。この時、被傷部位5が図示するように縦長,平滑で泥炭4の張り付けが困難な場合は、泥炭8を張り付ける前に、予めその被傷部位5に藁製の縄9を螺旋状に緩く巻き付けておけば、泥炭8を安定して張り付けることができる。また、このようにして泥炭8を張り付けるに際しては、できるだけ空隙を作らないように留意する。すなわち、空隙があると、その部分に養分や水分が行き渡らず不定根の伸長が期待できないからである。また、ここで使用する泥炭4は、石灰等の異物が混入した外国産等のピートモスや水苔が混入したものを用いてはならず、厳選された純粋な繊維質のものを用いることが肝要である。すなわち、石灰等の異物が混入していると、樹木自体の治癒力が阻害されてしまい、また、水苔等が混入しているとこれ自体が短期間で分解し、土状になって流れ落ちたり、毛細管現象が消失してしまうからである。具体的には、この泥炭8としては北海道石狩川上流等で産出される繊維質の泥炭、例えば、オスマンダ群落,ミカズキグサ・オオイノハナヒゲ群落,ミズゴケ・ホロムイスゲ・ツルコケモモ群落,ワタスゲ・ヌマガヤ・スゲ・ガンコウラン群落,エゾカンゾウ・エデテイカ・ヒオウギアヤメ群落,イワノガリヤス・ヤマドリゼンマイ・ヨシ群落,ヤチヤナギ・ハンノキ群落等からなるものが最適である。尚、本発明者は、前述した樹木の組織及び特性に着目し、治療に最適な泥炭を長年に亘って鋭意探求した結果、係る産地の泥炭が最適であることを見出し本発明の完成に至ったものであり、現在のところ係る産地の泥炭以外のものを使用した場合では、本発明の目的とする樹木の治癒を確実に達成することはできない。 【0024】次に、このようにして被傷部位が泥炭8によって完全に覆われたならば、図2に示すように、さらにその周囲を遮光性及び防水性のシート10、例えば黒色のビニールシートで覆い、その部分からの水分の蒸発を防止すると共に、保護テープを巻いて日光の遮蔽と保温機能を持たせたる。尚、使用する保護テープは被傷部位5の治癒に数年を要することから、数年間は劣化しないものを用いることが望ましい。また、被傷部位の上部から雨水の浸入や水分の蒸発を防止するために、特に被傷部位5上部のシート10と樹皮2との間に間隙を生じないようにすることが肝要である。 【0025】そして、このような治療を施した場合、被傷部位5周囲の篩部を流れ落ちる養分や水分が毛細管現象によって張り付けられた泥炭8の全体、すなわち露出した辺材部4の表面に十分に供給されると共にその泥炭自身にも成長に必要な養分が豊富に含まれているため、図3に示すようにこれを求めてサネ部7付近から不定根11が多数発生して十分に生長し、やがてその下端部が被傷部位5の底部に達して接着・融合、あるいはそのまま引き続き地面まで延びて本根となる。また、これと同時に被傷部位5の側面からは癒傷組織であるカルス12が勢い良く成長し、被傷部位5をその側面から覆い隠すように発達し、やがてこの発達したカルス12と不定根11同士が接着・融合することで露出した辺材部4が完全に覆われて被傷部位5が完治することになる。 【0026】すなわち、本発明は被傷部位5を厳選された繊維質の泥炭8で覆うことによって長期間に亘って安定して養分及び水分を被傷部位5全体に供給することが可能となり、また、これを遮光性及び防水性のシート10で覆うことによって供給された養分及び水分の蒸発を防止してカルス12及び不定根11の発達を促進し、かつ、日光を遮蔽することによって不定根11同士或いは不定根11と周囲組織の接着・融合を促進するようにしたものである。これによって樹木本来の自然治癒力を最大限に引き出し、従来方法では不可能であった被傷部位5の治癒をほぼ完全に達成することができる。尚、本実施の形態では、被傷部位5の頂部にのみサネ部7を設けた例で示したが、図4に示すようにさらにその周辺に複数形成しすれば、頂部のサネ部7ほどではないにしろ、その部分からも同様に不定根11の発生を促進することができる。また、図5に示すように、被傷部位5は樹木1の根本部まで達している場合が多く、この場合には、サネ部7から発生した不定根11がそのまま被傷部位5を覆いように下方に延びやがて土中に達し、土中の養分や水分を吸い上げる本根となる。 【0027】図7(A)は、本治療を施す前の樹木の被傷部位付近及び同図(B)は治療を施した後、約3年後の被傷部位付近を示した写真図である。図示するように、本治療を施す前の状態を放置しておくとその被傷部位から腐朽が進行し、やがて樹木全体が枯死に至ってしまうが、このような状態の樹木であっても本発明の治療を施した結果、同図(B)に示すように、被傷部位の周囲にカルスが発達して被傷部位を両側から塞ぐと共に、サネ部付近から発生した不定根が網の目のように発達して不定根同士、及びカルスと接着・融合して被傷部位が完全に覆われて完全に治癒するに至った。 【0028】尚、治療を施した部位に蟻等の小動物が侵入することは、その排泄物(蟻酸等)がカルスや不定根の養分となり、その発達をより促進することから、むしろ蟻などの小動物が被傷部位に侵入することは好ましい。このため、被傷部位の下部を覆うシートには、乾燥や遮光性を阻害しない程度にある程度の隙間を形成しておくことが望ましい。従って、治療を施すにあたっては被傷部位の消毒は不要である。また、本治療は最初に1回施せば、原則としてその後は手を加えることはないが、台風や地震などの自然災害によってシート10が剥がれ落ちたり、張り付けた泥炭8が流れ落ちた場合にはその都度適当な補修を施すことは勿論である。 【0029】 【発明の効果】以上要するに本発明によれば、被傷部位のカルス(癒傷組織)が良好に成長すると共に、樹皮の形成層から多数の不定根が発生・成長し、このカルス及び不定根が互いに接着・融合して被傷部位が覆われるため、大きな被傷部位であっても樹木自身の自然回復力によって確実にこれを自然治癒することができる。この結果、特に樹齢が長く貴重な老木等にあっては、被傷による枯死を防止できるだけでなく、その樹勢を増してその樹齢をより確実に伸ばすことができる。さらに、本発明方法は、原則として1回被傷部位に対して治癒を施せば、その後殆ど手を加える必要がないため、被傷回復に要する費用や手間が少ない等といった優れた効果を発揮することができる。
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| 【出願人】 |
【識別番号】501158789 【氏名又は名称】内田 清市
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| 【出願日】 |
平成13年4月18日(2001.4.18) |
| 【代理人】 |
【識別番号】100068021 【弁理士】 【氏名又は名称】絹谷 信雄
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| 【公開番号】 |
特開2002−315435(P2002−315435A) |
| 【公開日】 |
平成14年10月29日(2002.10.29) |
| 【出願番号】 |
特願2001−119898(P2001−119898) |
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