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【発明の名称】 農業用マルチシート
【発明者】 【氏名】川崎 秀一

【氏名】伊藤 良二

【要約】 【課題】透水性が高く、日本の一般的な気候下で敷設した場合に1年間程度は形態を保持し、畑地に鋤込んだ後90日程度で生分解する農業用マルチシートを提供する。

【解決手段】坪量50g/m2以上120g/m2以下の紙シートを上層に、坪量15g/m2以上50g/m2以下の生分解樹脂不織布を下層とする2層構造から成り、かつ透水性が15ml/m2分以上500ml/m2分以下である農業用マルチシート。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 坪量50g/m2以上120g/m2以下の紙シートを上層に、坪量15g/m2以上50g/m2以下の生分解樹脂不織布を下層とする2層構造から成り、かつ透水性が15ml/m2分以上500ml/m2分以下であることを特徴とする農業用マルチシート。
【請求項2】 機械パルプを40重量%以上70重量%以下、化学パルプを30重量%以上60重量%以下含有する紙シートを上層に使用する請求項1記載の農業用マルチシート。
【請求項3】 坪量15g/m2以上50g/m2以下の生分解樹脂不織布の両面に、坪量50g/m2以上120g/m2以下の紙シートを積層した3層構造から成り、かつ透水性が15ml/m2分以上500ml/m2分以下であることを特徴とする農業用マルチシート。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明に属する技術分野】本発明は、農作物、苗木及び花卉の品質及び収穫量を向上させるため、あるいは、法面及び路肩等の防草用途に使用され、育成期間が1年以上の比較的長い期間敷設される農業用マルチシートに関するものである。更に詳しくは、従来のフィルム製及び不織布製の農業用マルチシートでは期待できなかった透水性に優れ、かつ生分解性を有する農業用マルチシートを提供するものである。
【0002】
【従来の技術】農業用マルチシートは、農作物、苗木及び花卉の周りの地面を被覆する資材であり、地温の調節、雑草発生の抑制等の効果により農作物及び花卉品質、収量の向上を目的として使用されている。従来この農業用マルチシートには、ポリオレフィン系のプラスチックフィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維から成る不織布が用いられてきた。しかし、これらフィルムマルチシートは殆ど生分解性がないため、使用後の回収、処分が困難である。
【0003】また、これらフィルムマルチシートは透水性が無く、雨水等が溜まる欠点があり、水を抜くために穴を開けるなど繁雑な作業が伴う。特に法面の緑化の場合、広範囲にわたってマルチシートを敷設するため、植栽植物への吸水のためにも吸水が必要である。一方、セルロース繊維が地中で腐食分解する特性を活かした農業用マルチシートに関する技術が開示されている。セルロース繊維を主体とした単なる紙を畑に敷設した場合、分解速度が早く、農業用マルチシートとしての用を為さない。特開昭55-92625号公報、特開昭55-111734号公報には、紙基材にパラフィンワックスを含浸する方法が開示されているが、この方法では、パルプ繊維の分解速度は抑えられるが、シートの透水性を得ることは期待できない。
【0004】特開平8-214707号公報、特開平10-84789号公報には、ラッテクスとワックスを紙基材に塗工することにより生分解性を制御し、なおかつ透湿性を抑える方法が開示されているが、本発明が目的としている透水性を持つ農業用マルチシートとは逆の特徴である。
【0005】特開平8-205692号公報には紙基材にフミン酸またはフミン酸塩を含浸することにより生分解性を制御する方法が開示されているが、フミン酸を含浸することによりシートの耐水性は高くなり、透水性は得難くなる。
【0006】特開2000-102329号公報には機械パルプの配合量を多くして、紙の耐生分解性を向上させる方法が開示されているが、耐生分解性の目標が90日間程度と本発明の目標としている約1年間と比べて短い。
【0007】道路の法面及び路肩のマルチシートは、樹木の育成期間中に雑草の繁殖を防ぐ目的で使用されるため、敷設期間は1〜3年間と長い。また、畑のように整地されていない地面に敷設されることが多いため、PET繊維不織布が用いられている。PET繊維不織布は高度な強度が得られるが、生分解性がないため、育成期間終了後に撤収する必要があり、非常に繁雑な作業を要する。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、道路の法面及び路肩の植林及び緑化のような長期間にわたって使用される農業用マルチシートに関するものである。本発明の目的は、生分解性を制御し、かつ透水性を付与した農業用マルチシートを提供することである。具体的には、生分解性の制御の目標は、気温10〜30℃の日本の一般的な気候下で敷設した場合に1年間形態を保持し、畑地に鋤込んだ後90日で生分解する。また、透水性の目標は1時間当たりの降水量が約1mmの降雨に対応する15ml/m2・分以上の透水性とした。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、紙シートを用いた農業用マルチシートに1年間程度の耐生分解付与する方法を鋭意研究した結果、坪量が50g/m2以上120g/m2以下の紙シートを上層に、坪量15g/m2以上50g/m2以下の生分解樹脂不織布を下層として積層することにより効果的に目的が達成されることを見出した。
【0010】本発明者らは、耐生分解性の制御方法として、機械パルプの配合量を規定することにより透水性を損なわずに、地中で90日程度形態を保持出来ることを既に特開2000-102329号公報で見出したが、1年間程度形態を保持することは困難であった。そこで、この紙シートに生分解時間の長い生分解性樹脂不織布を積層することにより、1年間程度形状を保持出来ることを見出した。
【0011】さらに本発明者らは、1時間当たりの降水量が約1mmの降雨に対応する15ml/m2・分以上の透水性を農業用マルチシートに付与することで、シート上の水の滞留が無くなり、植栽した苗への水分の供給が十分になされることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】また、透水性は多い方が良好と考えられるが、本発明の範囲内では500ml/m2・分が限度であった。この透水性は1時間当たりの降水量が30mmの降雨に対応できることを示し、日本において1日当たりの降水量が300mmを超えることは稀なことから充分な性能と考えられる。
【0013】
【発明の実施の形態】本発明の農業用マルチシートの上層の紙シートに使用される機械パルプは、砕木パルプ(GP)、リファイナーグラインドパルプ(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等である。また、これらのパルプからなる故紙から製造したパルプ(DIP等)を用いることも可能である。また、使用される化学パルプとしては、未晒しクラフトパルプ(UKP)、晒しクラフトパルプ(BKP)、サルファイトパルプ(SP)等が用いられる。
【0014】機械パルプは、化学パルプに比べリグニンが多く残留し、セルロース繊維を被覆している。リグニンを分解することの出来る微生物は、セルロースを分解することの出来る微生物に比べて極めて少ない。その結果として、機械パルプは化学パルプに比べて耐生分解性が高いと考えられる。
【0015】本発明の農業用マルチシートは比較的生分解速度の遅い生分解樹脂不織布と紙シート中の機械パルプの配合量を規定することにより、生分解の速度を制御している。本発明の紙シート部分における機械パルプの配合率は、40重量%以上70重量%以下にすることが望ましい。25〜30℃の環境下で日本の畑地に埋設すると、機械パルプの配合率が40重量%未満の場合では、90日以内に生分解してしまい、紙シートの下層に比較的生分解速度の遅い生分解樹脂不織布を用いても1年程度形状を保持することができない。また、機械パルプの配合率を増加させることによって耐生分解性は向上するが、70重量%を超過して配合した場合に次のような問題が生じるため70重量%を限度に配合した。すなわち、機械パルプのパルプ繊維が細く緻密なことにより透水性に悪影響を及ぼし、機械パルプは濾水性が一般に化学パルプより劣るため、70重量%を超過して配合すると、抄紙性が悪く生産性が低下する。
【0016】本発明の農業用マルチシートの下層で使用する生分解樹脂不織布としては、ポリビニルアルコール、レーヨン、ポリエチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリ乳酸ポリグリコール酸等の比較的生分解速度の遅い樹脂から適宜選択する。これらの樹脂はフィルムとしても貼合可能であるが、透水性が得られないため、本発明が目的としている農業用マルチシートには適さない。
【0017】本発明では農業用マルチシートの遮光性と生分解性のバランスを紙シートと生分解樹脂不織布の坪量により制御している。上層に使用する紙シートの坪量は50g/m2以上120g/m2以下であり、その下層に配される生分解樹脂不織布の坪量は15g/m2以上50g/m2以下がであることを必須とする。生分解性樹脂不織布は、単独では遮光性能に劣るため、50g/m2以上の紙シートを上層に配する必要がある。
【0018】紙シート単独では90日程度の耐生分解性しか得られないため、比較的生分解速度の遅い生分解樹脂不織布をその下層に配している。この生分解樹脂不織布の坪量が、15g/m2未満の場合、十分な強度が得られないため、上層の紙基材が生分解した後に、一定の強度を保持することが出来ない。一方、生分解性樹脂不織布は、高坪量の方が耐生分解性に有利であるが、本発明の目標とする生分解耐久期間が1年程度の場合では、坪量30g/m2程度で十分である。また、一般に紙基材に比べて高価な生分解樹脂不織布の坪量が50g/m2を越えても、コストの割に得られる効果は小さい。
【0019】道路の法面、路肩等の荒れた地面に敷設される農業用マルチシートは高度な強度を要するため、生分解樹脂不織布層の両面に坪量50g/m2以上120g/m2以下の紙シートを積層した3層構造とすることが望ましい。50g/m2未満の紙シートを積層した場合、十分な強度の向上が認められない。また、120g/m2越える紙シートを積層した場合、本発明の目標としている透水性の良好な農業用マルチシートを提供することが出来ない。
【0020】本発明の農業用マルチシートにおいて、透水性を15ml/m2・分以上500ml/m2・分以下にする必要があり、サイズ剤、耐水化剤等の透水性に悪影響を与える抄紙薬品の添加は好ましくない。一方、圃場に於ける作業性を考えると、3.5kN/m以上の裂断長及び0.65kN/m以上の湿潤引張り強度が必要である。そのため、メラミン・ホルムアルデヒド樹脂、ポリアミド・エピクロルヒドリン樹脂、ポリエチレンイミン、グリオキザール、ジアルデヒドデンプン等の紙力増強剤の添加が望ましい。
【0021】本発明の農業用マルチシートに、雑草の成長の抑制や地温の保温の目的で有色顔料、あるいは染料を加えても良い。また、土壌中の微生物による分解を妨げない範囲で、填料を添加しても良い。填料としてはホワイトカーボン、シリカ、クレー、カオリン、炭酸カルシウム、酸化チタン、プラスチックピグメント等が挙げられる。
【0022】
【実施例】以下に実施例にて本発明を詳細に説明するが、本発明は実施例によって制限を受けるものでない。
【0023】実施例及び比較例の農業用マルチシートについて、透水性、防草適性、耐生分解性及び地中分解性を以下の方法で測定した。
【0024】<透水性の測定方法>農業用マルチシートを0.1m2の円形に採取して、平折り濾紙状に成形し、漏斗に装着し、50mlの水が透過する時間を測定することにより、1分間に1.0m2の農業用マルチシートが透水できる水の量を推定する。
【0025】<防草適性の評価方法>実験圃場(茨城県土浦市)に幅1m、長さ10mの農業用マルチシート(2層構造の場合、紙シート側を上にした。)を敷設して、90日間及び1年間放置した後、雑草の生育状況を比較した。ほとんど、雑草の生育が認められなかった場合に○、一部に雑草の生育が認められた場合に△、未敷設地域と同様に雑草の生育が認められた場合に×の評価を与えた。
【0026】<耐生分解性の評価方法>紙基材の土壌中での分解性は、埋設する土壌によって大きく異なり客観的評価が難しい。そこで本発明では、日本の代表的な農業用土壌である黒ボク土(サカタの種(株)製)に、分解を促進するために腐葉土を10%配合した試験土壌を用いた。25℃の温室において幅10cm、長さ20cmの試験片を深さ10cmに埋設し、土が乾かないように水を散布して90日間及び1年間保持した後に取り出して形状を観察した。シートの形状が保持されていた場合に○、一部分に分解が認められた場合に△、分解によって形状が確認できなかった場合に×の評価を与えた。
【0027】<地中分解性の評価方法>耐生分解性の評価で使用した温室内で、試験片を10cm四方に裁断して耐生分解性の評価で使用した試験土壌中に埋設し、3ヶ月間保持した後に回収して状態を目視で判定した。試験片が形状を留めていない場合に○、試験片にほとんど変化が認められない場合に×の評価を与えた。
【0028】[実施例1]サーモメカニカルパルプ(CSF200ml)35重量部、針葉樹未晒しクラフトパルプ(CSF500ml)65重量部から成るパルプスラリーに、湿潤紙力増強剤(商品名:SZ665、住友化学(株)製)を対パルプ当たり0.2重量%添加し、硫酸バンドでpH4.5に調成した紙料を長網抄紙機で抄紙して、坪量80g/m2、密度0.5g/cm3の紙シートを得た。この紙シートに、水中溶解温度80℃のポリビニルアルコール繊維から製造された坪量30g/m2の不織布(商品名:クラロンKII、(株)クラレ製)を熱圧着法により貼合して農業用マルチシートを製造し、透水性、防草適性及び耐生分解性について評価し、結果を表1に示した。
【0029】[実施例2]水中溶解温度80℃のポリビニルアルコール繊維から製造された坪量30g/m2の不織布(商品名:クラロンKII:(株)クラレ製)の両面に実施例1で使用した紙シートを熱圧着法により貼合し、農業用マルチシートを製造し、透水性、防草適性及び耐生分解性について評価し、結果を表1に示した。
【0030】[実施例3]サーモメカニカルパルプ(CSF200ml)50重量部、針葉樹未晒しクラフトパルプ(CSF500ml)50重量部から成るパルプスラリーに、湿潤紙力増強剤(商品名:SZ665、住友化学(株)製)を対パルプ当たり0.2重量%添加し、硫酸バンドでpH4.5に調成した紙料を、長網抄紙機で抄紙し、坪量80g/m2、密度0.5g/cm3の紙シートを得た。この紙シートに、水中溶解温度80℃のポリビニルアルコール繊維から製造された坪量20g/m2の不織布(商品名:クラロンKII、(株)クラレ製)を熱圧着法により貼合して農業用マルチシートを製造し、透水性、防草適性及び耐生分解性について評価し、結果を表1に示した。
【0031】[実施例4]サーモメカニカルパルプ(CSF200ml)65重量部、針葉樹未晒しクラフトパルプ(CSF500ml)35重量部から成るパルプスラリーに、湿潤紙力増強剤(商品名:SZ665、住友化学(株)製)を対パルプ当たり0.2重量%添加し、硫酸バンドでpH4.5に調成した紙料を、長網抄紙機で抄紙し、坪量55g/m2、密度0.5g/cm3の紙シートを得た。この紙シートに、レーヨン繊維から製造された坪量30g/m2の不織布(商品名:トービス、東邦レーヨン(株)製)を酢ビ系接着剤により貼合して農業用マルチシートを製造し、透水性、防草適性及び耐生分解性について評価し、結果を表1に示した。
【0032】[比較例1]実施例4と同様の紙料を長網抄紙機で抄紙し、坪量100g/m2、密度0.5g/cm3の農業用マルチシートを製造し、透水性、防草適性及び耐生分解性について評価し、結果を表1に示した。
【0033】[比較例2]実施例1と同様の紙料を調成後、長網抄紙機で抄紙し、坪量40g/m2、密度0.5g/cm3の紙シートを得た。この紙シートに水中溶解温度80℃のポリビニルアルコール繊維から製造された坪量30g/m2の不織布(商品名:クラロンKII、(株)クラレ製)を熱圧着法により貼合して農業用マルチシートを製造し、透水性、防草適性及び耐生分解性について評価し、結果を表1に示した。
【0034】[比較例3]実施例1と同様の紙料を調成後、長網抄紙機で抄紙し、坪量80g/m2、密度0.5g/cm3の紙シートを得た。この紙シートに水中溶解温度80℃のポリビニルアルコール繊維から製造された坪量10g/m2の不織布(商品名:クラロンKII、(株)クラレ製)を熱圧着法により貼合して農業用マルチシートを製造し、透水性、防草適性及び耐生分解性について評価し、結果を表1に示した。
【0035】[比較例4]目付180g/m2のポリエチレンテレフタレートのメルトフロー不織布(東レ(株)製)を農業用マルチシートとして用い、透水性、防草適性及び耐生分解性について評価し、結果を表1に示した。
【0036】
【表1】

表1の結果から明らかなように、実施例1〜4に示される本発明の農業用マルチシートは透水性に優れ、土壌中の耐生分解性に優れた、特に道路の法面及び路肩の防草用に用いられる農業用マルチシートに適している。従って工業的意義は極めて大きい。
【出願人】 【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
【出願日】 平成13年3月30日(2001.3.30)
【代理人】 【識別番号】100074572
【弁理士】
【氏名又は名称】河澄 和夫
【公開番号】 特開2002−291351(P2002−291351A)
【公開日】 平成14年10月8日(2002.10.8)
【出願番号】 特願2001−101419(P2001−101419)