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【発明の名称】 高セレン含有植物の栽培方法
【発明者】 【氏名】岩下 雄二

【要約】 【課題】セレン源の取扱いに危険を伴わず、セレン源により廃水や地下水の汚染を引き起こすおそれがなく、かつセレンを植物に多量に取り込むことができる高セレン含有植物の栽培方法を提供する。

【解決手段】植物を栽培する際に、地下水への浸透率が低く、かつ植物への取り込み率が高い水に難溶性のセレン源を含有する土壌を用いることを特徴とする高セレン植物の栽培方法
【特許請求の範囲】
【請求項1】 植物を栽培する際に、地下水への滲透率が低く、かつ植物への取込み率が高い水に難溶性のセレン源を含有する土壌を用いることを特徴とする高セレン植物の栽培方法。
【請求項2】 前記セレン源が、亜セレン酸アルミニウム、亜セレン酸カルシウム、亜セレン酸バリウムの中から選ばれた少なくとも1つの水に難溶性のセレン化合物である請求項1記載の高セレン植物の栽培方法。
【請求項3】 植物を栽培する際に、亜セレン酸アルミニウム、亜セレン酸カルシウム、亜セレン酸バリウムの中から選ばれた少なくとも1つの水に難溶性のセレン化合物を含有する土壌、産業廃土もしくは下水道廃土、またはこれらの土壌、廃土を混合した土壌を用いることを特徴とする高セレン植物の栽培方法。
【請求項4】 植物を栽培容器に入れた水に難溶性のセレン源を含有する土壌で栽培する際に、前記栽培容器から流出する水に難溶性のセレン源を含有する土壌水を回収し、これを再び前記栽培容器中の土壌に供給する工程を、少なくとも1回行うことを特徴とする高セレン植物の栽培方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、セレンを高度に含有する植物の栽培方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】米国においては、セレン含量の低い農作物を摂取している地域におけるガン発生率は高く、これに比べてセレン含量が高い農作物を摂取している地域におけるガン発生率は低いと言われている。このことは、すでに1950年ごろから疫学的研究で報告されている。また動物を用いた実験では、セレンを添加した食事で育てられた群のものは、ガンによる死亡率が通常の食事で育てられた群のものより低いことも明らかにされている。
【0003】人におけるセレンのガン予防効果については、1996年米国アリゾナ大学のクラークがアメリカ医学会誌に明確なデータを報告している(Clark L.C.,JAMA276,1957〜1963)。この報告では、1312人の被験者について行った10年間の研究の結果、セレンを摂取した群は対照群に比べガンの発生率が約50%低いことが明らかにされている。さらに、ガン患者の血液中のセレン濃度は、健常者に比べて低いことも報告されている。
【0004】また、エイズ(HIV)患者においても、病状の悪い患者の血液中のセレン濃度は低く、病状の悪化していない患者の血液中のセレン濃度は健常者のそれに近いことが知られている。
【0005】このように、セレンは人にとって必須の微量栄養素であり、摂取量が少ないと、ガン等悪性の病気に罹る危険性が増大することが知られている。それにもかかわらず、セレンの欠乏を補うために人が摂取できる物質が少なく、毒性の高いセレン酸ナトリウム等の無機化合物がセレン欠乏症の治療に用いられているだけである。
【0006】一方、セレンのガン予防作用は、植物等に由来する有機性セレンにだけしか見られないとの報告もある。このような事情から、現在では、安全性の高い高セレン含有植物の栽培が望まれている。
【0007】高セレン含有植物の栽培にあたっては、植物中のセレン含量を上げるために、セレン源として、これまで水溶性の高い化合物、例えば二酸化セレン、セレン酸ナトリウム、亜セレン酸ナトリウム、あるいはセレン酸カリウム、亜セレン酸カリウム等が用いられてきた。
【0008】しかし、これらの化合物は人や動物に対する毒性が高いため、取扱う者に危険であるばかりでなく、これらの物質の使用が土壌の汚染を引き起こし、さらには降水や降雪によるこれら毒物の拡散が廃水や地下水の汚染につながるなど多くの問題があった。
【0009】ちなみに、セレン酸ナトリウムをセレン源として用いたところ、土壌水中のセレン濃度が1ppmを超えて上昇し、この土壌水が地下へ浸透していくという事実を確認することができた。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】この発明は、このような従来の問題点を解決するためになされたもので、植物の栽培に、人や動物に対する毒性がなく、地下水への滲透率が低い水に難溶性のセレン源を使用することにより、セレン源の取扱いに危険を伴わず、セレン源により廃水や地下水の汚染を引き起こすおそれがなく、かつセレンを植物に多量に取り込むことができる高セレン含有植物の栽培方法を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】この発明が提供する高セレン含有植物の栽培方法は、次の(1)〜(4)に記載の方法である。
【0012】(1)植物を栽培する際に、地下水への滲透率が低く、かつ植物への取込み率が高い水に難溶性のセレン源を含有する土壌を用いることを特徴とする高セレン植物の栽培方法(以下、第1の栽培方法という)。
【0013】(2)第1の栽培方法におけるセレン源が、亜セレン酸アルミニウム、亜セレン酸カルシウム、亜セレン酸バリウムの中から選ばれた少なくとも1つの水に難溶性のセレン化合物である高セレン植物の栽培方法。
【0014】(3)植物を栽培する際に、亜セレン酸アルミニウム、亜セレン酸カルシウム、亜セレン酸バリウムの中から選ばれた少なくとも1つの水に難溶性のセレン化合物を含有する土壌、産業廃土もしくは下水道廃土、またはこれらの土壌、廃土を混合した土壌を用いることを特徴とする高セレン植物の栽培方法。
【0015】(4)植物を栽培容器に入れた水に難溶性のセレン源を含有する土壌で栽培する際に、前記栽培容器から流出する水に難溶性のセレン源を含有する土壌水を回収し、これを再び前記栽培容器中の土壌に供給する工程を、少なくとも1回行うことを特徴とする高セレン植物の栽培方法。
【0016】
【発明の実施の形態】発明者は、実際の農場において土壌に散布されたセレンがどのような比率で植物と土壌水に分配されるかを解明するため、図1に示す栽培装置を設置し、セレン源と栽培植物の種類を変えながら、土壌水と収穫植物に含まれるセレンの濃度を調べた。
【0017】栽培装置は、図1に示すように、土壌Sを入れた縦15m、横10m、深さ1.2mの栽培容器1と、この容器1より低い位置に設置した地下水槽2と、栽培容器1中の土壌水を地下水槽2に導く(回収する)導管3と、地下水槽2に留った土壌水をポンプPでポンプアップして栽培容器1に散布する散布管4と、導管3の入口に設置したフィルタ5とより構成されている。栽培容器1と地下水槽2はコンクリート製で、いずれも水密構造となっている。
【0018】セレン源としては、二酸化セレン、セレン酸およびそのナトリウム、カリウム、アルミニウム、亜鉛、カルシウム、バリウムとの塩類、さらに亜セレン酸およびそのナトリウム、カリウム、アルミニウム、亜鉛、カルシウム、バリウムとの塩類を使用した。また下水処理残土やセレンを含む工業廃土も用いた。
【0019】栽培した植物は、ニンニク、ブロッコリー、玉ネギ、キノア、ナス、トマト、落花生等である。
【0020】土壌水中のセレンの量は、図1に示した地下水槽2より定期的に採取した土壌水中のセレン濃度を分析することにより決定した。収穫植物中のセレンの量は、可食部分のセレン分析値で代表させた。
【0021】すなわち、土壌水および収穫植物中のセレンの量は、次の要領で決定した。
【0022】(1)土壌水中のセレンの量は、地下水槽2から土壌水中の不溶物を濾紙で除去したあと、硝酸と過塩素酸で有機成分を分解し、残渣を塩酸で加熱溶解後水で定容とした。この溶液につき水素化物−原子吸光法でセレンを定量し、土壌水中の全セレン含量をもとめた。
【0023】(2)収穫植物中のセレンの量は、可食部分を乳ばちですり潰し、これを(1)の操作で処理した溶液につき2,3−ジアミノナフタレンと反応させ、蛍光光度法にてセレンを定量しセレン含量をもとめた。
【0024】(3)収穫植物の水溶性画分のセレン含量については、可食部分を細片化後、室温下蒸留水で6時間抽出し、この試料液を上記(1)と同じ方法でセレン含量をもとめた。
【0025】これまで報告されていたセレンの植物への取込み条件は、セレン源が水溶性であることが必要であると言われていた。しかし、上記調査の結果、セレン源は水溶性であることを必要とせず、難溶性のセレン源(セレン化合物)であっても十分に植物の中に取り込まれることが明らかとなった。
【0026】また、地下水槽2に採取された土壌水は、地下水層へ浸透すると見做すことができるので、土壌水の地下水層への浸透によるセレン源の地下水への浸透率を考慮すると、高セレン植物の栽培に適するセレン源としては、水に難溶性の亜セレン酸アルミニウム、亜セレン酸カルシウム、亜セレン酸バリウム、またはこれらの化合物のいずれか1つまたは2つ以上を含む土壌、産業廃土、下水道残土、あるいはこれらを混合したものが優れていることが判明した。特に、亜セレン酸カルシウム、亜セレン酸バリウムは地下水への浸透率が低く、植物への取込み率が高いことが判明した。
【0027】土壌水の地下水層への浸透によるセレン源の地下水への浸透量が一定量、例えば、セレンの放流上限である0.01ppmを超える場合には、セレン源の土壌(栽培土)への散布等による供給をコントロールするとよい。
【0028】散布等によるセレン源の土壌への供給量を特に制限しない場合には、セレンが上記放流上限を超えるようになる。
【0029】この場合には、図1の栽培装置を例にして言えば、栽培容器1の中の水に難溶性のセレン源を含有する土壌から流出する同セレン源を含有する土壌水を一旦導管3で地下水層2に回収し、これを再びポンプアップして散布管4で栽培容器1の前記土壌に供給する工程を少なくとも1回行うとよい。
【0030】なお、これらのセレン源を用いた植物の栽培では、通常の条件下における栽培と比べ、品質、収量とも変化はなかった。セレンを含んだ種子も正常の種子と変わらない発芽、成長を示した。
【0031】本発明の実施にあたっては、セレン源を植物の根部分と緊密に接触させることが重要である。このため、あらかじめセレン源を添加混合した土壌に種子を蒔くか苗を植え付けるかするとよい。
【0032】また、セレン源は、植物の成長期にあわせて散布してもよい。セレン源は、例えば、(1)細紛化してそのままあるいは懸濁液として、(2)化学肥料あるいは有機肥料と混和して、(3)天然あるいは合成高分子と混合あるいは結合させて、(4)珪藻土あるいは珪砂等の無機化合物へ配位あるいはこれと混合して散布することができる。
【0033】高セレン植物に適した上記セレン源は、一般に難溶性であり、植物に対する毒性が低いため使用量に上限はないが、使用量が畑1平方メートル当たりセレン換算で0.03グラム以上となると、収穫植物に含有されるセレン量の上昇が認められる。また、上記セレン源の植物に対する毒性は特に認められないため、その散布量に特に上限はないが、1平方メートル当たりセレン換算で100グラム程度まで散布できる。
【0034】(実施例1)図1に示した栽培装置の栽培容器1と地下水槽2に水漏れがないことを確かめた後、栽培容器1の底部に小石と砂を敷き、その上に土壌を充填した。9月に畝立て、マルチングを行い、株間12cmでホワイト6片種のニンニクを植え付けた。
【0035】11月になってから土壌に鶏糞と一緒に亜セレン酸バリウムを1平方メートル当たりセレン換算2グラム散布した。この後、地下水槽2に流出した土壌水のセレン濃度を定期的に測定したところ、最高値で0.03ppmであった。
【0036】亜セレン酸バリウムを用いた場合のニンニク中のセレン含量は5mg/100gであり、亜セレン酸ナトリウムを用いた場合のニンニク中のセレン含量は、6.5mg/100gであった。また、比較のため、同様の実験をセレン酸バリウムを用いたところ、土壌水中のセレン濃度は、0.07ppm、ニンニク中のセレン含量は、2mg/100gであった。
【0037】(実施例2)下水道処理場において発生する残土を焼却して得られた、難溶性セレン2ppm,可溶性セレン47ppbが含まれている土壌改質剤(A)と、難溶性セレン2ppm,可溶性セレン10ppbが含まれている土壌改質剤(B)を、それぞれ通常の畑の上に厚さ10cmに敷設して栽培地(A)と栽培地(B)をつくり、以下それぞれの栽培地(A),(B)で実施例1と同様の方法でニンニクを栽培した。
【0038】収穫したニンニクのセレン含量を蛍光光度法で測定したところ、栽培地(A)から採ったニンニクにはセレン100ppb、栽培地(B)から採ったニンニクにはセレン110ppbが含まれていることが分った。
【0039】なお、通常の畑から得られたニンニクでは、セレン含量は検出限界以下であった。このことより、植物へのセレンの取り込みは、可溶性セレンばかりでなく、難溶性のセレン源であっても可能であることが分った。
【0040】(実施例3)縦40cm、横100cm、深さ30cmのプラスチック製プランター(A)および(B)に、腐葉土、赤玉土、黒土(1:1:2)をよく混合して入れ、さらに化学肥料を加えた。
【0041】このプランター(A)、(B)のそれぞれに、種子から育てたキノアの苗2本づつを植え付けた。水やりは隔日に行い、各プランターの底から流出した水は貯蔵し、分析に供した。
【0042】植え付けから1ケ月後に、プランター(A)に亜セレン酸カルシウムをセレン換算で0.5グラム、プランター(B)にセレン酸カルシウムをセレン換算で0.5グラム散布した。
【0043】キノアの収穫は、その約3ケ月後に行い、プランター(A)のキノアには1.2mg/100gのセレンが、またプランター(B)のキノアには0.4mg/100gのセレンが含まれていることが分った。また、貯蔵した水の中のセレン濃度はプランター(A)では0.05ppm、プランター(B)では0.08ppmであった。
【0044】(実施例4)赤土成分の多い畑に幅80cmの畝をたて、落花生の種子を30cm間隔で蒔いた。発芽2ケ月後に亜セレン酸バリウムをセレン換算で10g/平方メートルを散布した。その約4ケ月後に収穫したピーナッツには、57mg/100gのセレンが含まれていた。
【0045】(実施例5)実施例1で使用した栽培装置の栽培容器1の土壌Sに120cmの畝をたて、玉ネギの苗の株間10cmで4条植えのマルチングを行った。玉ネギの苗は市販のものを用いて植え付けた。植え付け後4ケ月後、亜セレン酸カルシウム30g/平方メートルを散布した。収穫した玉ネギのセレン含量は2.3mg/100gであった。
【0046】(実施例6)あらかじめブロッコリーの種子を蒔き、15cmの高さまで育てて苗とした。一方、畑に幅60cmの畝をたて土の表面に亜セレン酸バリウム20g/平方メートルを散布し、その後マルチングを行った。ブロッコリーの苗は、60cm間隔で植え付けた。その3ケ月後収穫し、セレン含量を測ったところ、1.3mg/100gであった。
【0047】(実施例7)塩化カルシウムと亜セレン酸ナトリウムを珪藻土の存在下で反応させ、生成した沈澱物をよく水で洗い、亜セレン酸カルシウム700グラム含有の混合物を得た。この混合物を乾燥して、実施例1で使用した栽培装置によるニンニクの栽培に用い、10平方メートルの範囲に散布した。収穫したニンニクのセレン含量は22mg/100gであった。また、土壌水中のセレン濃度は0.02ppmであった。
【0048】
【発明の効果】以上説明したように、この発明によれば、植物を栽培する際に、セレン源として水に難溶性のものを使用するようにしたので、セレン源の取扱いに危険を伴わず、セレン源により廃水や地下水の汚染を引き起こすおそれがなく、かつセレンを植物に多量に取り込むことができる高セレン含有植物の栽培方法を提供することができる。
【出願人】 【識別番号】501103044
【氏名又は名称】岩下 雄二
【出願日】 平成13年3月14日(2001.3.14)
【代理人】 【識別番号】100066061
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 宏之 (外1名)
【公開番号】 特開2002−262656(P2002−262656A)
【公開日】 平成14年9月17日(2002.9.17)
【出願番号】 特願2001−72041(P2001−72041)