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【発明の名称】 エリンギの人工栽培方法
【発明者】 【氏名】木村 栄一

【氏名】鴫原 隆

【要約】 【課題】子実体を大型化することにより、形質良好で商品価値の高いキノコを安定的に高収率で収穫することが出来、生育時における様々な病害の発生を防止したエリンギの人工栽培方法を提供する。

【解決手段】培養基にエリンギの種菌を接種し、菌糸の蔓延した菌床の表面を5〜20mmの深さに菌掻き処理した後、注水処理を行なわずに芽出室に搬入し、栽培容器の口を開放状態として倒立状態において、環境湿度50〜100%の範囲内で75%未満の低湿環境と75%以上の高湿環境とを一定間隔で保持することにより芽出し管理を行ない、原基形成時に生成される発芽水を5日間以内に消失させて原基の生育を行なう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 培養基にエリンギの種菌を接種し、菌糸の蔓延した菌床の表面を5〜20mmの深さに菌掻き処理した後、注水処理を行なわずに芽出室に搬入し、栽培容器の口を開放状態として倒立状態において、環境湿度50〜100%の範囲内で75%未満の低湿環境と75%以上の高湿環境とを一定間隔で保持することにより芽出し管理を行ない、原基形成時に生成される発芽水を5日間以内に消失させて原基の生育を行なうことを特徴とするエリンギの人工栽培方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、エリンギの人工栽培方法に関する。エリンギは、ヒラタケ科ヒラタケ属の食用キノコであり、次の様な特徴を有する。すなわち、傘の大きさは5〜10cm、傘色は灰褐色から浅黄色、形は丸型から扁平型で後に漏斗状となる。菌柄の長さは3〜10cm、太さは1〜2cmであり、上下は略同形であり、肉質は中実で堅い。また、日本には自生せず、南ヨーロッパ、ロシア南部、中央アジア等で自生し、Eryngium属やFerula属のセリ科草本植物の枯死した根部などに発生する。そして、ヨーロッパ等においては、歯触りが良く、美味であり、しかも、日持ちすることから、食用キノコとしての人気が高い。
【0002】
【従来の技術】本発明者らは、既に、特開2000−209944号公報において、エリンギの人工栽培方法として、培養基にエリンギの菌種を接種し、菌糸の蔓延した菌床の表面を5〜20mmの深さに菌掻き処理した後、注水処理を行なわずに芽出室に搬入し、栽培容器の口を開放状態として倒立または正立状態において、環境湿度50〜100%の範囲内で75%未満の低湿環境と75%以上の高湿環境とを一定間隔で保持することにより芽出しを行ない、次いで、原基の生育を行なう方法を提案している。
【0003】上記の方法は、ヒラタケ、ナメコ等の通常の食用キノコの人工栽培においては、到底採用されることのない、芽出し環境の湿度較差を大きく管理する栽培方法により発芽数を制限した点に特徴を有する。そして、斯かる方法、子実体を大型化することにより、形質良好で商品価値の高いキノコを安定的に高収率で収穫することが出来る効果を有するが、時として生育時に病害が発生するという問題がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、子実体を大型化することにより、形質良好で商品価値の高いキノコを安定的に高収率で収穫することが出来、生育時における様々な病害の発生を防止したエリンギの人工栽培方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、種々の病害発生が原基形成時に生成する発芽水の長期滞留に起因しているとの知見を得、本発明の完成に至った。
【0006】すなわち、本発明の要旨は、培養基にエリンギの種菌を接種し、菌糸の蔓延した菌床の表面を5〜20mmの深さに菌掻き処理した後、注水処理を行なわずに芽出室に搬入し、栽培容器の口を開放状態として倒立状態において、環境湿度50〜100%の範囲内で75%未満の低湿環境と75%以上の高湿環境とを一定間隔で保持することにより芽出し管理を行ない、原基形成時に生成される発芽水を5日間以内に消失させて原基の生育を行なうことを特徴とするエリンギの人工栽培方法に存する。
【0007】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。本発明において、培養基は、通常、オガコと穀類糠に水を加えて形成される。オガコとしては、針葉樹オガコが好適であるが、広葉樹オガコも使用することが出来る。また、3ケ月以上堆積したオガコが好適であるが、新鮮なオガコも使用することが出来る。オガコと共にコーンコブ粉砕物を使用することも出来、その場合、オガコ:コーンコブ粉砕物の容積比は、8:2程度とされる。一方、穀類糠としては、米糠、フスマ、大麦糠、トウモロコシ糠などが使用される。穀類糠は、出来る限り新鮮なものが好ましい。培養基総重量に対し、穀類糠の使用割合は、通常10〜20重量%、好ましくは15〜18重量%(1瓶当たり90〜100g)の範囲とされ、含水率は、通常55〜75重量%、好ましくは66〜68重量%の範囲とされる。
【0008】培養基は、通常、栽培容器に充填して使用される。栽培容器としては、ポリプロピレン製栽培瓶が好適であり、その大きさは、通常、800〜1000cc程度で十分である。培養基の充填は、充填機の使用により簡便に行なうことが出来る。栽培容器に充填された培養基の中央部には、菌糸の蔓延を良好にするため、直径が10〜20mmであり、底部に到達する接種孔を設けるのが好ましい。
【0009】栽培容器に充填された培養基は、常法に従い、容器に蓋を施した後に殺菌処理される。殺菌処理は、通常、高圧殺菌釜を使用して行われ、培養基内温度が約120℃に達した後、同温度を1時間程度保持することにより、完全殺菌を行なうことが出来る。殺菌処理終了後の培養基は、無菌的に冷却される。
【0010】先ず、本発明の栽培方法においては、培養基にエリンギの種菌を接種する。種菌の接種は、接種室において無菌的に行われる。接種量は、800〜850cc程度の大きさの栽培瓶の場合、通常、1瓶当たり10〜20cc程度とし、瓶口全面に接種するのが好ましい。
【0011】次いで、種菌が接種された培養基の培養を行ない、菌糸の蔓延した菌床を得る。培養管理は、18℃で20日間程度の初期管理を行なった後、23℃に昇温し、更に、15日間程度の熟成を行なうのが好ましい。培養期間中は栽培容器内の温度が28℃を超えない様にするのが好ましい。通常、35日程度の培養期間で菌糸の蔓延した完熟菌床が得られる。
【0012】次いで、菌糸の蔓延した菌床の表面を5〜20mmの深さに菌掻き処理する。斯かる菌掻き処理により、接種した種菌が掻き取られると共に菌床表面の菌糸に物理的刺激が与えられる。また、発芽の同調化が図られ、発芽数を抑制して子実体を集中発生させることが出来る。菌掻き処理の深さは、好ましくは10〜20mm、更に好ましくは15〜20mmである。
【0013】次いで、注水処理を行なわずに芽出室に搬入し、栽培容器の口を開放状態として倒立状態または正立状態において、環境湿度50〜100%の範囲内で75%未満の低湿環境と75%以上の高湿環境とを一定間隔で保持することにより、芽出しを行なう。
【0014】本発明においては、芽出しを行うに際し、断続的な乾/湿管理を行い、しかも、原基形成時に生成される発芽水を5日間以内に消失させることが重要である。芽出し時の環境湿度が90%以上と常に高い場合は、菌床表面の発芽水の停留期間が5日間を超えて長くなり、発芽数が多くなるばかりでなく、発芽水からのバクテリア類などの感染による病害の発生により、子実体の萎縮症状や立枯症状が頻発に発生する様になる。また、芽出し時の環境湿度が60%以下と常に低い場合は、発芽水の生成が認められなくなるものの、原基形成が極端に遅れ、時としては形成されず、発生するキノコも奇形が多くなることから、短期間で形質良好な大型のエリンギを安定して高収率で収穫することが出来ない。
【0015】本発明において、低湿環境の好ましい湿度は60〜70%、高湿環境の好ましい湿度は85〜95%である。そして、交互に繰り返される上記の各湿度環境の保持間隔は、通常3〜12時間、好ましくは5〜8時間の範囲である。なお、低湿環境と高湿環境との保持時間は一定である必要はなく、また、繰り返し行われる低湿(高湿)環境の保持時間も一定である必要はない。
【0016】芽出しは、通常12〜22℃、好ましくは14〜15℃の温度において、炭酸ガス濃度が通常2000ppm以下、照度が50〜200luxの環境下に行われる。通常、菌掻き処理後7〜10日間で原基が形成される。原基が1cm程度に生長した時点で栽培容器を正立状態に戻し、同一の管理を継続する。
【0017】次いで、原基から幼子実体(原基の先端部に灰白色の菌傘が形成される様になった状態)に生長する過程で菌床表面に発芽水が生成される様になる。発芽水の消失は、生成後3日以内に行うのが好ましい。発芽水の停留期間の短縮化は、高湿環境の保持時間を短縮化の他、幼子実態が瓶口部高さ程度に生育した状態までの栽培容器の倒立期間を長くすることによって達成し得る。芽出し期間は、通常、発芽水が完全に消失して子実体が2〜4cmに生長するまで行われる。
【0018】次いで、幼子実態の生育を行なうが、この際、環境温度は、通常12〜26℃、好ましくは16〜18℃、環境湿度は、通常70%以上、好ましくは85〜95%の範囲とされる。
【0019】
【実施例】以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0020】実施例1先ず、スギオガコとコーンコブミールを容積比で8:2の割合で混合し、培養基総重量当たり9重量%の専管フスマと9重量%の米糠を添加(合計で1瓶当たり95g添加)した後、含水率を約68重量%に調節して培養基を調製した。そして、ポリプロピレン製栽培瓶(850cc)に正味重量で530〜540gの培養基を充填機によって充填し、培養基の中央部に直径が約15mmで底部に到達する接種孔を設けて施栓した。次いで、常法に従って高圧殺菌釜中で殺菌した後に冷却した。冷却は、放冷時における戻り空気による再汚染を防止するため、クリーンルーム内で行なった。
【0021】次いで、同クリーンルーム内で無菌的にエリンギの種菌(「KX−EG077号」)を接種して培養を開始した。培養は、18℃で20日間保持した後、23℃で菌糸が蔓延するまで行ない、更に、10日間継続させ、合計35日間行なった。その後、培地の表面も含めて約15mmの深さの菌掻き処理を行なった。
【0022】次いで、直ちに、環境温度14〜15℃、炭酸ガス濃度800〜1800ppm、昼間の時間のみ200luxの光を照射し、環境湿度60〜98%の範囲で低湿環境と高湿環境とを一定間隔で保持しながら繰り返す、芽出し管理を行なった。具体的には、栽培容器の口を開放状態として倒立状態において、60〜70%の低湿環境と85〜98%の高湿環境を6時間ずつ交互に繰り返した。
【0023】次いで、栽培容器を倒立状態にしてから10日後に原基の形成を確認した。その後、栽培瓶を正立状態に戻して芽出し管理を継続した。正立状態に戻してから2日後に発芽水の生成が認められたことから、60〜70%の低湿環境を6時間継続し、85〜98%の高湿環境を2時間継続する湿度管理に変更した。これにより、発芽水は生成後3日以内に完全に消失した。
【0024】次いで、菌傘が分化した状態で栽培容器を生育室へ移動し、環境温度を16〜18℃、環境湿度を80〜90%に変更し、収穫作業時以外は暗黒管理下で生育を行なった。そして、キノコの柄の長さが10cm程度にまで生長し、菌傘が平らになるまで生長した段階で1本毎に収穫した。収穫までの日数は18.2日(標準偏差値1.4)、1瓶当たりの収量は157.8g(標準偏差値13.3)であり、菌柄の萎縮、屈曲、腐敗などの病害発生率は6.3%であった。
【0025】実施例2実施例1において、原基形成時の発芽水の停留を防止する目的で、栽培容器の口部に高さ5cmの補足具を装着し、幼子実体が容器口部高より吐出しても変形しない様に空間部を設け、栽培容器の倒立期間を15日間とし、栽培容器を正立状態に戻してからの湿度管理を60〜70%の低湿環境と85〜98%の高湿環境とを6時間毎に交互に繰り返す管理に変更した以外は、実施例1と同様に操作してエリンギの栽培を行った。栽培容器の倒立期間を長くしたことにより、正立状態に戻してからの発芽水の生成は全く認められなかった。収穫までの日数は17.7日(標準偏差値1.2)、1瓶当たりの収量は162.3g(標準偏差値11.9)であり、病害発生率は0%であった。
【0026】比較例1実施例1において、栽培容器を正立状態に戻してからの湿度管理を60〜70%の低湿環境と85〜98%の高湿環境とを6時間毎に交互に繰り返す管理に変更した以外は、実施例1と同様に操作してエリンギの栽培を行った。原基形成時に生成した発芽水の消失時にばらつきが認められ、完全に消失するまでには7日間程度を要した。収穫までの日数は17.8日(標準偏差値1.0)、1瓶当たりの収量は160.2g(標準偏差値27.8)であり、病害発生率は12.5%であった。
【0027】
【発明の効果】以上説明した本発明によれば、原基形成時に生成される発芽水を5日間以内の短期間に消失させて原基の生育を行うことにより、生育時における様々な病害の発生を防止して商品価値の高い形質良好な大型のエリンギを安定的に高収率で収穫することが出来る。
【出願人】 【識別番号】591225039
【氏名又は名称】株式会社キノックス
【出願日】 平成13年2月5日(2001.2.5)
【代理人】 【識別番号】100097928
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 数彦
【公開番号】 特開2002−233239(P2002−233239A)
【公開日】 平成14年8月20日(2002.8.20)
【出願番号】 特願2001−28095(P2001−28095)