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【発明の名称】 マツタケの人工シロ形成方法
【発明者】 【氏名】鈴木 和夫

【氏名】アレクシ・ゲレン

【氏名】ワーリオ・禄敏

【要約】 【課題】迅速にマツタケの人工シロを形成することが可能な方法を提供すること。

【解決手段】マツタケ菌糸を、菌糸の細胞膜透過性を制御する物質を有効成分として含む培養基質で培養することを特徴とするマツタケの人工シロ形成方法、並びに、マツタケ菌糸を、菌糸の親水性を高める物質を有効成分として含む培養基質で培養することを特徴とするマツタケの人工シロ形成方法。。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 マツタケ菌糸を、菌糸の細胞膜透過性を制御する物質を有効成分として含む培養基質で培養することを特徴とするマツタケの人工シロ形成方法。
【請求項2】 マツタケ菌糸を、菌糸の親水性を高める物質を有効成分として含む培養基質で培養することを特徴とするマツタケの人工シロ形成方法。
【請求項3】 マツタケ菌糸を、界面活性剤および/または天然植物油を有効成分として含む培養基質で培養することを特徴とするマツタケの人工シロ形成方法。
【請求項4】 マツタケ菌糸を、脂肪酸エステルを有効成分として含む培養基質で培養することを特徴とするマツタケの人工シロ形成方法。
【請求項5】 マツタケ菌糸のコロニーを無菌的に粉砕し、得られた菌糸を栄養培養液中で無菌培養するマツタケ菌糸の成長誘導工程と;前記工程で得られたマツタケ菌糸の培養液を、炭素源を含まない栄養培養液で無菌的に置換するマツタケ菌糸の接種源調製工程と;前記工程で得られたマツタケ菌糸の接種源を、菌糸の細胞膜透過性を制御する物質を有効成分として含む培養基質で培養する工程とを具備することを特徴とするマツタケの人工シロ形成方法。
【請求項6】 マツタケ菌糸のコロニーを無菌的に粉砕し、得られた菌糸を栄養培養液中で無菌培養するマツタケ菌糸の成長誘導工程と;前記工程で得られたマツタケ菌糸の培養液を、炭素源を含まない栄養培養液で無菌的に置換するマツタケ菌糸の接種源調製工程と;前記工程で得られたマツタケ菌糸の接種源を、菌糸の親水性を高める物質を有効成分として含む培養基質で培養する工程とを具備することを特徴とするマツタケの人工シロ形成方法。
【請求項7】 マツタケ菌糸のコロニーを無菌的に粉砕し、得られた菌糸を栄養培養液中で無菌培養するマツタケ菌糸の成長誘導工程と;前記工程で得られたマツタケ菌糸の培養液を、炭素源を含まない栄養培養液で無菌的に置換するマツタケ菌糸の接種源調製工程と;前記工程で得られたマツタケ菌糸の接種源を、界面活性剤および/または天然植物油を有効成分として含む培養基質で培養する工程とを具備することを特徴とするマツタケの人工シロ形成方法。
【請求項8】 マツタケ菌糸のコロニーを無菌的に粉砕し、得られた菌糸を栄養培養液中で無菌培養するマツタケ菌糸の成長誘導工程と;前記工程で得られたマツタケ菌糸の培養液を、炭素源を含まない栄養培養液で無菌的に置換するマツタケ菌糸の接種源調製工程と;前記工程で得られたマツタケ菌糸の接種源を、脂肪酸エステルを有効成分として含む培養基質で培養する工程とを具備することを特徴とするマツタケの人工シロ形成方法。
【請求項9】 前記有効成分の濃度が、0.2〜10重量%であることを特徴とする請求項1ないし8の何れか1項に記載のマツタケの人工シロ形成方法。
【請求項10】 有機溶媒と蒸留水とで調製された有効成分を使用することを特徴とする請求項1ないし9の何れか1項に記載のマツタケの人工シロ形成方法。
【請求項11】 培養基質として3mm以下の顆粒サイズの土または2mm以下の人工基質を使用することを特徴とする請求項1〜10の何れか1項に記載のマツタケの人工シロ形成方法。
【請求項12】 培養基質の含水率が15〜30重量%であることを特徴とする請求項1〜11の何れか1項に記載のマツタケの人工シロ形成方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、マツタケの人工シロ形成方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】一般に、きのこを大量培養するための効率的な方法として、きのこの菌糸体を液体培養基中で増殖する方法がある。しかしマツタケは外生菌根菌であるために、その増産には生きた樹木の根が必要である。マツタケの発生する場所には菌糸の集まり(シロ)が存在し、このシロを誘導することが、マツタケ増産の重要な一歩となっている(小川真(1991)マツタケの生物学 333pp.築地書館)。
【0003】しかし、自然環境下では、栄養源に富んだアカマツ(マツタケ菌の宿主)生息域に、腐生菌、糖依存菌が優先的に繁殖するため、マツタケ菌(共生菌)は、シロを形成しにくい状況にある。
【0004】マツタケ(Tricholoma matsutake(S.Ito et Imai)Sing.)の人工栽培に関する研究は古くから行われているが、一般にマツタケの人工栽培はいまだに不可能である。
【0005】以下、今日までのマツタケ人工栽培に関する研究経緯について述べる。Masuiは、マツタケがアカマツに菌根を形成することを実験的に示した[Masui,K. (1927) Mem. Coll. Sci. Kyoto Univ. B(2)2, 149-279]。富永は、マツタケ菌糸の成長の最適条件について検討した[Tominaga,Y. (1965) Bull. Hiroshima Agri. Coll. 2: 242-246]。小川らは、純粋培養によるマツタケ子実体原基の形成を検討した[Ogawa, M&Hamada, M (1975) Trans. Mycol. Soc. Japan16: 406-415]。しかし、マツタケのシロを誘導した成功例はいまだに知られていない。
【0006】本発明を為すにあたり、本発明者らは、マツタケの人工栽培の研究の妨げになっている要因の一つとして、菌糸の成長が極めて遅いことに着目した。これまでマツタケ増産技術として、林地にマツタケ菌糸を接種して新しいシロを人工的に造成する方法が試みられている。しかし、実用的に利用できるほどマツタケ菌糸が成長してシロを形成した例はない。したがって、現段階ではマツタケの人工栽培の開発は困難と考えられている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】上記事情に鑑み、本発明者らは、マツタケ増産の重要な一歩となる人工シロの誘導法について検討した。本発明の目的は、迅速にマツタケの人工シロを形成することが可能な方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、マツタケ菌糸の成長を促進する有効成分を見出し、これによりマツタケ菌糸の迅速な増殖法を確立し、本発明を完成させるに至った。すなわち本発明は、以下に記載の手段により達成される。
【0009】(1) マツタケ菌糸を、菌糸の細胞膜透過性を制御する物質を有効成分として含む培養基質で培養することを特徴とするマツタケの人工シロ形成方法。
【0010】(2) マツタケ菌糸を、菌糸の親水性を高める物質を有効成分として含む培養基質で培養することを特徴とするマツタケの人工シロ形成方法。
【0011】(3) マツタケ菌糸を、界面活性剤および/または天然植物油を有効成分として含む培養基質で培養することを特徴とするマツタケの人工シロ形成方法。
【0012】(4) マツタケ菌糸を、脂肪酸エステルを有効成分として含む培養基質で培養することを特徴とするマツタケの人工シロ形成方法。
【0013】(5) マツタケ菌糸のコロニーを無菌的に粉砕し、得られた菌糸を栄養培養液中で無菌培養するマツタケ菌糸の成長誘導工程と;前記工程で得られたマツタケ菌糸の培養液を、炭素源を含まない栄養培養液で無菌的に置換するマツタケ菌糸の接種源調製工程と;前記工程で得られたマツタケ菌糸の接種源を、菌糸の細胞膜透過性を制御する物質を有効成分として含む培養基質で培養する工程とを具備することを特徴とするマツタケの人工シロ形成方法。
【0014】(6) マツタケ菌糸のコロニーを無菌的に粉砕し、得られた菌糸を栄養培養液中で無菌培養するマツタケ菌糸の成長誘導工程と;前記工程で得られたマツタケ菌糸の培養液を、炭素源を含まない栄養培養液で無菌的に置換するマツタケ菌糸の接種源調製工程と;前記工程で得られたマツタケ菌糸の接種源を、菌糸の親水性を高める物質を有効成分として含む培養基質で培養する工程とを具備することを特徴とするマツタケの人工シロ形成方法。
【0015】(7) マツタケ菌糸のコロニーを無菌的に粉砕し、得られた菌糸を栄養培養液中で無菌培養するマツタケ菌糸の成長誘導工程と;前記工程で得られたマツタケ菌糸の培養液を、炭素源を含まない栄養培養液で無菌的に置換するマツタケ菌糸の接種源調製工程と;前記工程で得られたマツタケ菌糸の接種源を、界面活性剤および/または天然植物油を有効成分として含む培養基質で培養する工程とを具備することを特徴とするマツタケの人工シロ形成方法。
【0016】(8) マツタケ菌糸のコロニーを無菌的に粉砕し、得られた菌糸を栄養培養液中で無菌培養するマツタケ菌糸の成長誘導工程と;前記工程で得られたマツタケ菌糸の培養液を、炭素源を含まない栄養培養液で無菌的に置換するマツタケ菌糸の接種源調製工程と;前記工程で得られたマツタケ菌糸の接種源を、脂肪酸エステルを有効成分として含む培養基質で培養する工程とを具備することを特徴とするマツタケの人工シロ形成方法。
【0017】(9) 前記有効成分の濃度が、0.2〜10重量%であることを特徴とする(1)ないし(8)の何れか1に記載のマツタケの人工シロ形成方法。
【0018】(10) 有機溶媒と蒸留水とで調製された有効成分を使用することを特徴とする(1)ないし(9)の何れか1に記載のマツタケの人工シロ形成方法。
【0019】(11) 培養基質として3mm以下の顆粒サイズの土または2mm以下の人工基質を使用することを特徴とする(1)〜(10)の何れか1に記載のマツタケの人工シロ形成方法。
【0020】(12) 培養基質の含水率が15〜30重量%であることを特徴とする(1)〜(11)の何れか1に記載のマツタケの人工シロ形成方法。
【0021】
【発明の実施の形態】以下、本発明の方法について詳細に説明する。本発明のマツタケの人工シロ形成方法に使用することが可能なマツタケ菌株としては、ATCC(American Type Culture Collection)により市販されているものを挙げることができ、例えばATCC 34979、ATCC 34981、ATCC 34988などを使用することができる。また好ましくは、市販されている菌株から生育の良い菌株をスクリーニングして使用してもよい。
【0022】マツタケ菌株は、当業者が一般に共生菌の増殖維持に使用する培地、例えば太田培地(Ohta,A.(1990) Trans.Mycol.Soc.Japan 31: 323-334)、MMN培地(Marx,D.H. (1969) Phytopathology 59: 153-163)、浜田培地(浜田 (1964) マツタケ, 97-100)などを用いて増殖させることができる。マツタケ菌株の増殖効率の観点から、太田培地で増殖させることが好ましい。また培地は、寒天などの固体培地であっても液体培地であってもよい。
【0023】マツタケ菌株の継代培養は、一般的に暗所においておよそ20〜25℃の温度で無菌的に行われる。
【0024】上述の培地および条件下で継代培養されている任意のマツタケ保存菌株の菌糸を本発明に使用することができる。
【0025】[有効成分の種類およびその調製]本発明のマツタケの人工シロ形成方法においては、マツタケ菌糸を、菌糸の細胞膜透過性を制御する物質を有効成分として含む培養基質で培養する。本発明において、菌糸の細胞膜透過性を制御する物質とは、菌糸の細胞膜透過性を高めるものであれば特に限定されず、このような物質を数種類組み合わせて併用することも可能である。このような菌糸の細胞膜透過性を制御する物質は、菌体に含まれるセルラーゼなどの酵素の体外放出を促進するものと考えられる。菌糸の細胞膜透過性を制御する物質として、好ましくは、界面活性剤、天然植物油が挙げられる。
【0026】また、本発明のマツタケの人工シロ形成方法においては、マツタケ菌糸を、菌糸の親水性を高める物質を有効成分として含む培養基質で培養する。本発明において、菌糸の親水性を高める物質とは、菌糸の培地(培養基質)内への侵入を促進し、菌糸の養分吸収の増大に寄与するものであれば特に限定されず、このような物質を数種類組み合わせて併用することも可能である。菌糸の親水性を高める物質として、好ましくは、界面活性剤、天然植物油が挙げられる。
【0027】また、本発明のマツタケの人工シロ形成方法においては、マツタケ菌糸を、界面活性剤および/または天然植物油を有効成分として含む培養基質で培養する。有効成分として、界面活性剤または天然植物油を単独で含んでいてもよいし、両成分をともに含んでいてもよい。なお、本発明においては、界面活性剤および/または天然植物油の範疇に包含されるものであれば、これらが必ずしも菌糸の細胞膜透過性を制御していなくても、本発明の有効成分として使用可能である。同様に、本発明においては、界面活性剤および/または天然植物油の範疇に包含されるものであれば、これらが必ずしも菌糸の親水性を増大しなくても、本発明の有効成分として使用可能である。
【0028】本発明において使用可能な界面活性剤は、界面活性剤と称されるものであれば特に限定されないが、好ましくは非イオン性界面活性剤、より好ましくはTween系界面活性剤が使用される。例えば、Tween 80、Tween40を使用することができる。なお、数種類の界面活性剤を併用してもよい。
【0029】また、本発明において使用可能な天然植物油は、特に限定されないが、オリーブ油、ベニバナ油、ブドウ種油などを使用することができる。好ましくは、オリーブ油が使用される。なお、数種類の天然植物油を併用してもよい。
【0030】また、本発明において好ましく使用される有効成分を、別の概念で括ると、脂肪酸エステルと表現することができる。すなわち、本発明のマツタケの人工シロ形成方法においては、マツタケ菌糸を、脂肪酸エステルを有効成分として含む培養基質で培養する。本発明において脂肪酸エステルは、好ましくは高級脂肪酸エステルである。より好ましくは炭素数12〜18の脂肪酸を有する脂肪酸エステルであり、更に好ましくは炭素数12〜18の脂肪酸を有する不飽和脂肪酸エステルであり、更に好ましくはオレイン酸エステルである。例えば、上記好ましい脂肪酸を有する油脂を有効成分として使用することができる。なお、有効成分として数種類の脂肪酸エステルを併用してもよいし、脂肪酸エステル以外の菌糸の細胞膜透過性を制御する物質もしくは菌糸の親水性を高める物質と併用してもよい。
【0031】本発明における有効成分として上述の脂肪酸エステルが使用可能であることは、界面活性剤のなかに上述の脂肪酸エステルを含んでいるものが存在すること、および天然植物油が上述の脂肪酸エステルを含んでいることと密接に関連していると考えられる。なお、界面活性剤および/または天然植物油の範疇に含まれる物質であって、脂肪酸エステルの範疇にも包含される物質が、本発明の有効成分として使用可能であることはいうまでもない。
【0032】上述の菌糸の細胞膜透過性を制御する物質などの有効成分(例えば、界面活性剤および/または天然植物油)は、好ましくは、培養基質に添加する前に有機溶媒(好ましくはエタノール)と蒸留水とを用いて所望の濃度に希釈調製される。菌糸の細胞膜透過性を制御する物質は、好ましくは0.2〜10重量%の濃度に希釈調製される。同様に、菌糸の親水性を高める物質も、好ましくは0.2〜10重量%の濃度に希釈調製される。
【0033】具体的に、界面活性剤の希釈濃度としては、0.2重量%以上、好ましくは0.2〜10重量%、より好ましくは1〜5重量%である。0.2重量%より低い濃度では、菌糸の顕著な成長効果が期待できず好ましくない。
【0034】また、天然植物油の希釈濃度としては、0.2重量%以上、好ましくは0.2〜5重量%、より好ましくは0.5〜2重量%である。界面活性剤と同様、0.2重量%より低い濃度では、菌糸の顕著な成長効果が期待できず好ましくない。
【0035】界面活性剤と天然植物油を併用する場合の有効成分の濃度は、0.2重量%以上、好ましくは0.2〜10重量%、より好ましくは0.5〜5重量%である。
【0036】また、脂肪酸エステルの希釈濃度としては、0.2重量%以上、好ましくは0.2〜10重量%、より好ましくは0.5〜5重量%である。
【0037】その希釈調製の仕方は、好ましくはまず、菌糸の細胞膜透過性を制御する物質などの有効成分(例えば、界面活性剤および/または天然植物油)を、有機溶媒(好ましくはエタノール)に溶かして5〜10分間攪拌し均一な溶液を得る。その後、蒸留水を加えて有効成分を所望の濃度とし、最終的に有機溶媒濃度を0.2〜5重量%、好ましくは約2重量%とする。希釈調製に使用される有機溶媒は、マツタケ菌糸の成長に悪影響を及ぼさない有機溶媒であれば特に限定されないが、エタノールが好ましい。例えば、1重量%のTween 80は、市販のTween 80 1gを、2mLの99.5%エタノールと混合し、その後98mLの蒸留水を添加することにより調製することができる。このような調製により、均一な界面活性剤および/または天然植物油等の有効成分の調製液を作成することが可能である。
【0038】[培養基質の調製]上述の有効成分(例えば、菌糸の細胞膜透過性を制御する物質など)を含ませるための培養基質としては、マツタケ菌糸が生育可能な基質であれば特に限定されず、自然環境から採取した土、人為的に作成した人工基質(例えば、土:バーミキュライト=1:1)の何れも使用することができる。本発明の実施例においては、関東ローム層を母材とする黒色土(黒ボク土)を使用した。
【0039】このような任意の培養基質を、好ましくは篩にかけて、基質の顆粒サイズを小さく均質なものに揃える。好ましくは、土の顆粒サイズを約3mm以下、約2〜3mmとなるように調製する。人工基質の場合には、好ましくは顆粒サイズを約2mm以下、約1〜2mmとなるように調製する。
【0040】サイズを均質にした培養基質を乾熱滅菌することにより、基質を乾燥させることができる。乾熱滅菌は、例えば60℃で20〜30時間程度行えば充分である。
【0041】乾燥させた基質に、所望の濃度に調製された界面活性剤および/または天然植物油等の有効成分の調製液を混合する。このとき、乾燥させた培養基質全体に有効成分の調製液がゆきわたっているが、培養基質が調製液でべたついた状態にならず、さらさらとした状態になるようにする。好ましくは培養基質の含水率が、15〜30重量%、より好ましくは20〜25重量%となるようにする。界面活性剤および/または天然植物油等の有効成分を混合された基質は、滅菌した後に、マツタケ菌糸の培養基質として使用される。この滅菌は、例えば、オートクレーブで121℃、30分間の滅菌、あるいはγ線照射50〜60kGyの滅菌により行うことができる。
【0042】このように調製された培養基質は、マツタケ菌糸の成長に適したものである。
【0043】[マツタケ菌糸の培養]上述のとおり調製された有効成分を含む培養基質を無菌容器(シャーレ等)に分注し、この培養基質全体に、マツタケ菌株の菌糸を含む菌糸溶液を接種する。培養は、25±1℃の暗室で行うことができる。培養1〜3ヶ月後、サンプルの一部を採取し、成長した菌糸量の測定を、エルゴステロールの量を指標として行うことができる。エルゴステロール量の測定は、例えば、シロのサンプルを凍結乾燥(EYELA, FDU-830)した後、サンプル1gを取り出し、2.5mLエタノール(99.5%)で抽出し、次いで、HPLC(高速液体クロマトグラフ;HITACHI, Column L-7300;UV Detector L-7400;Autosampler L-7200;Pump L-7100;Integrator D-7500)を用いて、抽出液中のエルゴステロールの量を測ることにより行うことができる。詳しくは、Martin et al. (1990) Mycol. Res. 94: 1059-1064を参照されたい。培養1週間後あたりに、培養基質の表面に菌糸の成長が観察され、4週間後あたりには、菌糸の成長量の増大が認められる。
【0044】このように、有効成分(例えば、界面活性剤および/または天然植物油)を含む培養基質でマツタケ菌糸を培養すると、有効成分を含まない培養基質での培養と比べて、マツタケ菌糸の成長量は著しく高い。また、本発明の人工シロ形成方法により、数ヶ月という短期間の培養により、マツタケ生産林のシロ土壌に匹敵する菌糸量のシロを形成することができる。本発明の人工シロ形成方法は、マツタケの人工栽培の基礎となる点で大変有用な技術である。
【0045】[好ましい態様]次いで、以下に本発明の方法の好ましい態様について説明する。
【0046】マツタケの人工シロの誘導は、上述のとおり、マツタケ菌株の菌糸を、菌糸の細胞膜透過性を制御する物質などの有効成分(例えば、界面活性剤および/または天然植物油)を含む培養基質で培養することにより行われるが、好ましくはまず、旺盛に成長している菌糸の接種源を調製し、その接種源を、上記有効成分を含む培養基質で培養することが好ましい。成長が盛んな菌糸の接種源を調製する方法は、(1)菌糸の成長誘導工程と(2)菌糸の接種源調製工程とから成る。
【0047】以下、この2つの工程を順に説明する。以下の工程は全て無菌的に行われる。
【0048】(1)菌糸の成長誘導工程迅速に成長するマツタケ菌糸を誘導する工程は、マツタケ菌糸のコロニーを無菌的に粉砕し、その菌糸を栄養培養液中で培養することにより行われる。
【0049】この方法においてマツタケ菌糸のコロニーは、固体培地(例えば太田寒天培地)上で無菌的に継代培養されている菌糸のコロニーを使用することができる。しかし好ましくは、固体培地上のコロニーの一部を同じ液体培地に植え、20〜25℃、暗所において2〜3週間培養して得られたコロニー(菌糸体)が使用される。
【0050】このように増殖したコロニーを培養液中から取りだし、新たな同培養液を添加して粉砕することにより、菌糸細胞の懸濁液を得ることができる。ここで粉砕とは、菌糸細胞自体は破壊されず、菌糸細胞同士が互いに分離されることを意味する。無菌的な粉砕は、例えば乾熱滅菌したホモジナイザーを用いてクリーンベンチ中で行うことができる。コロニーは、ホモジナイザーにより約80×100 rpm〜120×100 rpm、好ましくは100×100 rpmの速度で、約4〜8秒、好ましくは6秒の間、粉砕される。
【0051】この粉砕により得られた菌糸細胞の懸濁液をさらに3〜5日間、上記条件で同じ液体培地中で再培養して、旺盛に成長している菌糸の懸濁液を得ることができる。
【0052】上述のようにコロニーを粉砕することにより、コロニー状態にあった菌糸細胞は、およそばらばらな状態にされる。この分離により、増殖能の高いマツタケ菌糸細胞が得られる。増殖能が高くなる要因は、分離された個々の菌糸細胞が、コロニー状態にある菌糸細胞と比べて、栄養培地からの栄養の摂取効率が高くなるために細胞の先端成長が活発になるものと推測される。
【0053】(2)菌糸の接種源調製工程次いで、マツタケ菌糸の接種源を調製する工程は、液体培地中で培養されている菌糸懸濁液を、炭素源を含まない培養液で無菌的に置き換えることにより行われる。
【0054】接種源の調製は、まず液体培養されている懸濁液(好ましくは上記方法により得られた増殖能の高い菌糸培養液)を、ナイロンフィルターなどのメッシュ状のものを用いて濾過する。例えば、ナイロンフィルター(24×30μm)を用いることができる。
【0055】次いで濾過により得られた菌糸を、炭素源を含まないように改良された培養液(改良培養液)で無菌的に洗浄する。この洗浄は、少なくとも10 mLの培養液で3回為されるのが好ましい。洗浄培養液は、菌糸の培養が可能な培養液から炭素源を除去したものであれば限定されないが、好ましくはSH培養液(Schenk,R.U. & Hildebrandt, A.C. (1972) Can.J.Bot. 50: 199-204)からグルコースを除去したものが使用される。
【0056】上記洗浄後の菌糸に、適量の改良培養液を加えることで、炭素源を含まない培養液で置換された菌糸接種源を作成することができる。
【0057】上記(1)および(2)の工程により調製された旺盛に成長している菌糸の接種源を用いて、マツタケの人工シロを誘導すると、本発明の効果はより顕著なものとなる。
【0058】
【実施例】以下、実施例により、本発明を更に詳細に説明する。
【0059】[実施例1]界面活性剤(Tween 80)を用いたマツタケの人工シロ形成法■マツタケ菌糸の接種源の調製マツタケ菌株(Tm89;発明者研究室にて保存)の保存菌糸の一部を太田寒天培地で4週間培養する。以下に太田培地の組成を示す。
【0060】
【表1】

【0061】増殖させた菌糸を約2mm×2mmに切り取り、新しい太田液体培地で3週間培養する。増殖したマツタケコロニーをホモジナイザーで粉砕し、3日間再培養する。培養後、グルコースを含まない液体培地(改良SH液体培地)で3回洗い、グルコースを含まない培地に懸濁してマツタケ菌糸の接種源とする。以下にグルコースを含まない培地の組成を示す。
【0062】
【表2】

【0063】■界面活性剤(Tween 80)添加剤の調製Tween 80[(Polyoxyethylene(20)Sorbitan Monooleate)和光純薬]を各濃度に応じて99.5%エタノールと混合して5分間攪拌する。十分混合したTween 80に蒸留水を加えて、Tween 80添加剤を調製する。例えば、1重量%のTween 80は、市販のTween 80 1gを、2mLの99.5%エタノールと混合し、その後98mLの蒸留水を添加することにより調製される。最終的にエタノール濃度を約2重量%とする。
【0064】■マツタケ菌糸の培養土の調製東京大学構内の植栽樹木下の土壌を掘り取って篩にかける。土の顆粒サイズを3mm以下に調製する。サイズの揃った土を乾熱滅菌器で60℃、24時間乾燥する。上記■により0%、1%、2%、5%の濃度で調製されたTween 80添加剤のそれぞれを、土に添加し土とよく混合する。なお、0%の場合は同量のエタノールを添加し、各処理区のエタノールの濃度を2%とする。最終的な含水率を20%に調整し、オートクレーブで121℃、30分間滅菌する。
【0065】■マツタケ菌糸の接種上記■で調製された培養土を無菌シャーレ(直径90 mm)に30mL分注する。各シャーレにマツタケの接種用菌糸液(■で調製された接種源)5mLを、土全体に行き渡るように接種する。その後、シャーレを25±1℃の暗室で培養した。培養1ヶ月後、菌糸量を測定するため、菌の細胞膜の構成要素であるエルゴステロール測定を行った(Martin et al. (1990) Mycol.Res.94: 1059-1064)。エルゴステロールの測定は、マツタケ菌糸量の指標となる。各処理区のサンプルから1gの土を採取して、抽出、測定を行った。対照として、長野県伊那市マツタケ生産林のシロ土壌を採取して(2000年10月)、同様の測定を行った。エルゴステロールの測定結果(図1)から、Tween 80の添加により、マツタケ菌糸の成長量に顕著な増加が認められた。一方、伊那市マツタケ生産林のシロ土壌のエルゴステロール量は59.68μg/g dry soilであった。
【0066】[実施例2]
天然植物油(オリーブ油)を用いたマツタケ人工シロの形成法■マツタケ菌糸の接種源の調製マツタケ菌株としてTm2(発明者研究室にて保存)を使用した以外、実施例1■に記載の調製法と同様に行う。
【0067】■天然植物油(オリーブ油)添加剤の調製オリーブ油(味の素)を各濃度に応じて99.5%エタノールと混合して5分間攪拌する。十分混合したオリーブ油に蒸留水を加えて、オリーブ油添加剤を調製する。例えば、1重量% オリーブ油は、市販のオリーブ油1gを、2mLの99.5%エタノールと混合し、その後98mLの蒸留水を添加することにより調製される。最終的にエタノール濃度を約2重量%とする。
【0068】■マツタケ菌糸の培養土の調製上記■により0%、1%、2%の濃度で調製されたオリーブ油添加剤のそれぞれを土に添加した以外は、実施例1■に記載の調製法と同様に行う。
【0069】■マツタケ菌糸の接種上記■で調製された培養土を無菌シャーレ(直径90 mm)に30mL分注する。各シャーレにマツタケの接種用菌糸液(■で調製された接種源)5mLを、土全体に行き渡るように接種する。その後、シャーレを25±1℃の暗室で培養した。培養3ヶ月後、菌糸量を測定するため、菌の細胞膜の構成要素であるエルゴステロール測定を行った(Martin et al. (1990) Mycol.Res.94: 1059-1064)。各処理区のサンプルから1gの土を採取して、抽出、測定を行った。対照として、長野県伊那市マツタケ生産林のシロ土壌を採取して(2000年10月)、同様の測定を行った。エルゴステロールの測定結果(図2)から、オリーブ油の添加により、マツタケ菌糸の成長量に顕著な増加が認められた。一方、伊那市マツタケ生産林のシロ土壌のエルゴステロール量は59.68μg/g dry soilであった。培養3ヶ月後に得られたエルゴステロール量は、オリーブ油の添加により、マツタケ生産林に匹敵する程度までに著しく増大した。
【0070】
【発明の効果】一般に、マツタケの人工栽培は未だに不可能な状況にある。本発明の利点は、無菌土もしくは人工基質などの培養基質を用いて、この培養基質に、菌糸の細胞膜透過性を制御する物質、菌糸の親水性を高める物質などの有効成分を添加することにより、他の栄養要素を用いずにマツタケ菌糸の良好な成長を誘導したことにある。しかも本発明は、上記の方法によって短期間に、マツタケ生産林のシロ土壌に匹敵する菌糸量のマツタケのシロを形成できる点で優れている。
【0071】本発明の方法により誘導された人工シロを用いて、野外のアカマツ林でのマツタケ菌糸の直接接種を行うことが可能となる。また、本発明の迅速なマツタケの人工シロ形成法は、マツタケの人工栽培確立の基礎となるものである。
【出願人】 【識別番号】391012327
【氏名又は名称】東京大学長
【出願日】 平成13年1月26日(2001.1.26)
【代理人】 【識別番号】100058479
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴江 武彦 (外5名)
【公開番号】 特開2002−218843(P2002−218843A)
【公開日】 平成14年8月6日(2002.8.6)
【出願番号】 特願2001−18691(P2001−18691)