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【発明の名称】 有用エンドファイト菌が感染したイタリアンライグラス
【発明者】 【氏名】佐々木 亨

【氏名】笠井 恵里

【氏名】岡崎 博

【要約】 【課題】有用エンドファイト菌が感染したイタリアンライグラスを提供する。

【解決手段】メドウフェスクの植物体内に共生するエンドファイト菌から、アルカロイドのロリンを産生し、エルゴバリンとロリトレムBは産生しない有用エンドファイト菌を選抜し、これをイタリアンライグラスに人為的に感染させ、害虫に対する抵抗性を付与したことを特徴とするイタリアンライグラス、及びその作出方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 メドウフェスクの植物体内に共生するエンドファイト菌から、アルカロイドのロリンを産生し、エルゴバリンとロリトレムBは産生しない有用エンドファイト菌を選抜し、これをイタリアンライグラスに人為的に感染させ、害虫に対する抵抗性を付与したことを特徴とするイタリアンライグラス。
【請求項2】 有用エンドファイト菌が、メドウフェスク品種から分離した糸状菌Neotyphodiumに属する菌株Eto8(FERM P−18172)である、請求項1に記載のイタリアンライグラス。
【請求項3】 メドウフェスクの植物体内に共生するエンドファイト菌から、アルカロイドのロリンを産生し、エルゴバリンとロリトレムBは産生しない有用エンドファイト菌を選抜し、これをイタリアンライグラスに人為的に感染させ、害虫に対する抵抗性を付与したイタリアンライグラスを作出することを特徴とする、害虫に対する抵抗性を付与したイタリアンライグラスの作出方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、有用エンドファイト菌が感染した害虫抵抗性のイタリアンライグラスに関するものであり、更に詳しくは、エンドファイト菌の中から家畜毒性のない有用エンドファイト菌を選抜し、この有用エンドファイト菌を人為的に感染させ、害虫抵抗性を付与しイタリアンライグラス及びその作出方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】エンドファイト菌は、糸状菌の一種であり、植物に共生する菌である。この菌の産生するアルカロイドにより、エンドファイト菌に感染している植物体は、耐虫性、耐病性が強まり、その結果、植物体の生長が旺盛になる場合がある。エンドファイト菌が産生するアルカロイドは、主にエルゴバリン、ロリトレムB、ペラミン及びロリンがある。エルゴバリンとロリトレムBは、家畜に対して毒性があるが、一方、ペラミンとロリンは、家畜に対して毒性がないにも関わらず、植物体に耐虫性を付与することができる。芝地などに利用される緑化用品種については、殺虫剤や殺菌剤の農薬の軽減を目的に、近年では積極的に植物体内のエンドファイト菌の感染率を高くしている。このような観点から、エンドファイト菌は微生物資材として認識されるようになってきた。そして、近年、家畜に対して毒性を持たない有用エンドファイト菌として、例えば、エルゴバリンとロリトレムBを産生しない菌の探索が国内外で行われるようになった。
【0003】イタリアンライグラスは、主に飼料作物に利用されるイネ科牧草であり、国内で重要な基幹草種の1つである。本草種の育種は、国内では1955年から始められ、現在までの農林登録品種は18品種である。しかしながら、エンドファイト菌が産生するアルカロイドが家畜に対して毒性があるのでエンドファイト菌の感染品種を飼料作物に利用することは不適当との考えから、又は、エンドファイト菌の存在を知らなかったことから、国内の公的研究機関及び民間研究機関において、エンドファイト菌を積極的に利用した飼料作物用イタリアンライグラスの育種は行われておらず、これまで、エンドファイト菌を利用した牧草育種法は見落とされていた。このことは、他の飼料作物用草種についても同様である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】エンドファイト菌と植物の間には草種親和性と呼ばれる現象がある。これは、例えば、メドウフェスクの植物体内に共生するエンドファイト菌は、同草種の他個体の植物体内でも共生できる場合があるが、他草種の植物体内で共生することは困難で、特にイタリアンライグラスにおいて次世代の種子まで伝播した例は報告されていない。このような状況の中で、本発明者らは、有用エンドファイト菌の探索と当該エンドファイト菌を積極的に利用した飼料作物用イタリアンライグラスを作出することを目標として研究を重ねた結果、イネ科植物のメドウフェスクの植物体内に共生するエンドファイト菌のうちから有用エンドファイト菌を発見し、次に、この有用エンドファイトをイタリアンライグラス育成系統に人工接種することにより、有用エンドファイト菌が感染し、害虫抵抗性の付与された飼料作物用イタリアンライグラスを作出し、更に有用エンドファイト菌が種子伝播により次世代に移行することを確認し、本発明を完成するに至った。
【0005】本発明は、アルカロイドのロリンを産生し、エルゴバリンとロリトレムBは産生しない有用エンドファイト菌を人為的にイタリアンライグラスに感染させ、害虫抵抗性を付与したイタリアンライグラスを提供することを目的とするものである。また、本発明は、上記有用エンドファイト菌として、真菌類中の子のう菌の無性世代でNeotyphodium属に属する菌株Eto8(FERM P−18172)を人為的にイタリアンライグラスに感染させ、害虫に対する抵抗性を付与したイタリアンライグラスを提供することを目的とするものである。更に、本発明は、上記有用エンドファイト菌を人為的にイタリアンライグラスに感染させ、害虫抵抗性を付与したイタリアンライグラスを作出する方法を提供することを目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)メドウフェスクの植物体内に共生するエンドファイト菌から、アルカロイドのロリンを産生し、エルゴバリンとロリトレムBは産生しない有用エンドファイト菌を選抜し、これをイタリアンライグラスに人為的に感染させ、害虫に対する抵抗性を付与したことを特徴とするイタリアンライグラス。
(2)有用エンドファイト菌が、メドウフェスク品種から分離した糸状菌Neotyphodiumに属する菌株Eto8(FERM P−18172)である、前記(1)に記載のイタリアンライグラス。
(3)メドウフェスクの植物体内に共生するエンドファイト菌から、アルカロイドのロリンを産生し、エルゴバリンとロリトレムBは産生しない有用エンドファイト菌を選抜し、これをイタリアンライグラスに人為的に感染させ、害虫に対する抵抗性を付与したイタリアンライグラスを作出することを特徴とする、害虫に対する抵抗性を付与したイタリアンライグラスの作出方法。
【0007】
【発明の実施の形態】次に、本発明について更に詳細に説明する。本発明では、イネ科植物のメドウフェスク(Festuca pratensis Hud.)の植物体内に共生するエンドファイト菌であって、アルカロイドのロリンを産生し、エルゴバリンとロリトレムBは産生しない有用エンドファイト菌が用いられる。本発明は、上記特定のアルカロイドを選択的に産生するエンドファイト菌を用いることが重要である。この有用エンドファイト菌は、メドウフェスクの植物体に共生するエンドファイト菌から上記アルカロイドのうち、ロリンを産生するが、エルゴバリンとロリトレムBを産生しない菌体を選抜することで得られる。上記メドウフェスクとしては、上記エンドファイト菌が共生するものであれば適宜の植物体が用いられ、その品種等は特に限定されるものではない。上記有用エンドファイト菌は、例えば、メドウフェスクについて、アルカロイド分析を行い、その結果に基づき、目的のエンドファイト菌をスクリーニングすることで選抜することができる。スクリーニング方法は、第1段階として、植物組織に共生するエンドファイト菌を染色し、生物顕微鏡でエンドファイトが感染する植物体を選別する方法、エンドファイト菌が共生する植物体の一部位からエンドファイト菌を分離することによる感染植物体の選別方法、抗原抗体反応を利用した選別方法がある。第2段階として、エンドファイトに感染した植物体について、各種のアルカロイド含有率を化学分析により求める。ロリンはガスクロマトグラフにより、エルゴバリンとロリトレムBは高速液体クロマトグラフにより測定する。
【0008】次に、上記有用エンドファイト菌は、イタリアンライグラス(Loliummultifloru Lam.)の植物体に接種されるが、この被接種植物としては、飼料作物用イタリアンライグラスであれば適宜のものが用いられ、その育成系統は特に制限されるものではない。本発明において、上記有用エンドファイト菌は、例えば、被接種植物の無菌幼苗の分裂組織付近に、穴をあけて挿入して接種する方法、又は被接種植物体から誘導されたカルスに傷をつけて挿入する方法等が例示されるが、それらに限らず、エンドファイト菌を接種できる方法であれば適宜の接種方法が用いられる。上記有用エンドファイト菌を接種した幼苗は、例えば、素寒天培地、又は塩濃度が半分の1/2MS培地上で2週間から2ヶ月の育苗と順化の後、移植して栽培することにより目的のエンドファイト菌が感染したイタリアンライグラス植物体を得ることができる。この有用エンドファイト菌が感染したイタリアンライグラスは、当該有用エンドファイト菌の効果により、害虫抵抗性が向上することが予測され、特に、アブラムシに対しては抵抗性が確認されており、かつ、エンドファイト非感染植物に比較して生育が旺盛であったため、飼料作物の重要育種目標である飼料生産性も向上することが予測される。また、上記有用エンドファイト菌を感染させる方法で、特に、接種個体の草勢、草丈及び越冬性を向上させることができ、更に、有用エンドファイト菌を種子伝播により、次世代へ移行させることができる。以上のことから、本発明は、畜産農家に対して貢献するところは大きい。
【0009】本発明により、メドウフェスクの植物体から分離した有用エンドファイト菌の菌株Eto8は、2001年1月19日に経済産業省産業技術総合研究所生命工学工業技術研究所に寄託番号FERM P−18172として寄託されている。この菌株Eto8は、イネ科植物のメドウフェスク(Festuca pratensis Hud.)から分離され、分生子はかぎ型で、長さが5.0〜7.0μm、幅が約1.0μmであり、120℃、15分のオートクレーブで殺菌したPDA培地(ジャガイモエキス、ブドウ糖、寒天、水、pH5.6±0.2)上で40日間(約23℃、暗黒条件)培養した場合、菌叢の直径は約2cmとなり、好気性、23℃の条件で培養し、保存することができる。
【0010】
【実施例】次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
実施例1(1)有用エンドファイト菌のイタリアンライグラスへの人工接種1)接種した有用エンドファイト菌有用エンドファイト菌として、イネ科植物のメドウフェスク(Festucapratensis Hud.)の1個体から分離した菌株Eto8を用いた。このEto8は、電子顕微鏡による胞子の形態の観察、及び、培地上での培養特性から、真菌類中の子のう菌の無性世代、Neotyphodium uncinatumと同定された。Eto8が感染していた個体について、アルカロイド分析を行った結果、エルゴバリンとロリトレムBは検出されず、ロリンが検出された。
【0011】2)被接種植物被接種植物として、イタリアンライグラス系統JNIR−1を用いた。このJNIR−1は、飼料作物用イタリアンライグラス品種を母材にした育成系統であり社団法人日本草地畜産種子協会から入手可能である。
【0012】3)接種方法接種に供試したエンドファイト菌株は、PDA培地上で増殖させたEto8である。被接種植物は、素寒天培地上、及び、1/2MS培地上で発芽させた育成系統JNIR−1の無菌幼苗の合計254個体である。接種方法は、幼苗の分裂組織付近にメスで穴をあけ、その穴にEto8の菌を挿入した。接種した幼苗は各培地上で2週間から2ヶ月間の間、育苗を行い、順化後、土の詰められた鉢に移植した。エンドファイト菌の感染の有無を、被接種植物の葉鞘組織についてSahaら(1998)の方法により確認した結果、14個体で感染が認められた。表1に、有用エンドファイト菌株Eto8のイタリアンライグラス育成系統JNIR−1への接種成功率を示す。
【0013】
【表1】

【0014】これら14個体を含む菌糸検出個体26個体について、植物体内でのEto8の共生状況を調査した結果、23個体は接種8ヶ月後の4月中旬の節間伸長開始直後でも共生していることが確認された。表2に、幼苗時に菌糸が検出された個体における節間伸長開始直後の成植物体内での有用エンドファイト菌Eto8の検出率を示す。
【0015】
【表2】

【0016】(2)菌糸検出個体のアブラムシ類の一種(Schizaphis jaroslavi(Mordvilko))に対する抵抗性次に、菌糸検出個体について、そのSchizaphi jaroslaviに対する抵抗性を調べた。Schizaphis jaroslavi 5個体と共に菌糸検出個体と菌糸非検出個体の葉身を湿ったろ紙を敷いたガラスシャーレ内に入れ、6、24、30及び48時間後の葉身上の個体数を調査した。この結果、菌糸非検出個体に比較して菌糸検出個体の葉身上における24、30及び48時間後のSchizaphis jaroslaviの個体数は1%水準で有意に少なかった。表3に、菌糸検出個体及び菌糸非検出個体の葉身でSchizaphis jaroslavi 15個体を飼育した場合、6、24、30及び48時間後の葉身上におけるSchizaphis jaroslaviの個体数を示す。この試験から、有用エンドファイト菌株Eto8が共生したイタリアンライグラス系統JNIR−1は、Schizaphis jaroslaviに対する抵抗性が付与されたことが明らかになった。
【0017】
【表3】

【0018】(3)菌糸検出個体の農業特性次に、菌糸検出個体の農業特性を調べるために、菌糸検出21個体と菌糸非検出21個体を圃場で栽培し、草勢、草丈及び越冬性を調査した。表4に、菌糸検出21個体と菌糸非検出21個体における草勢、越冬性及び草丈の比較を示す。この結果、菌糸非検出個体に比較して菌糸検出個体の草勢、草丈及び越冬性は有意に優れる場合が多く、有意差が認められなかった草丈の場合でも、その平均値は、菌糸検出個体が菌糸非検出個体よりも高かった。
【0019】
【表4】

【0020】(4)有用エンドファイト菌の次世代への移行次に、有用エンドファイト菌の種子伝播、つまり、次世代への移行を調査するために、菌糸検出23個体から、個体毎に採種を行った。採種種子各19から20粒と採種種子からの幼苗各4から20個体をSahaら(1998)の方法に従って調査した結果、採種種子中のEto8の検出率は10〜90%であり、幼苗のEto8の検出率は11〜100%であった。表5に、菌糸検出個体の採種種子各19から20粒と採種種子からの幼苗各4から20個体におけるEto8の検出率を示す。この試験から、接種したEto8は次世代へ移行したことが明らかになった。
【0021】
【表5】

【0022】
【発明の効果】以上詳述した通り、本発明は、メドウフェスクの植物体内に共生するエンドファイト菌から、アルカロイドのロリンを産生し、エルゴバリンとロリトレムBは産生しない有用エンドファイト菌を選抜し、これをイタリアンライグラスに人為的に感染させ、害虫に対する抵抗性を付与したことを特徴とするイタリアンライグラスに係るものであり、本発明により、1)有用エンドファイト菌を積極的に利用した飼料作物用イタリアンライグラスの育種を行うことができる、2)有用エンドファイト菌を感染させた害虫抵抗性の飼料作物用イタリアンライグラスを提供することができる、3)アルカロイドのロリンを産生し、エルゴバリン、ロリトレムBを産生しない新規な有用エンドファイト菌の菌株Eto8を提供することができる、4)上記有用エンドファイト菌を感染させ、害虫抵抗性を付与した飼料作物用イタリアンライグラスの作出方法を提供することができる、5)アブラムシ抵抗性が付与されたイタリアンライグラスを提供することができる、6)上記有用エンドファイト菌を感染させることで、接種個体の草勢、草丈及び越冬性を向上させることができる、7)有用エンドファイト菌を種子伝播により、次世代へ移行させることができる、という格別の効果が奏される。
【出願人】 【識別番号】501025388
【氏名又は名称】社団法人日本草地畜産種子協会
【出願日】 平成13年1月19日(2001.1.19)
【代理人】 【識別番号】100102004
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 政彦
【公開番号】 特開2002−209441(P2002−209441A)
【公開日】 平成14年7月30日(2002.7.30)
【出願番号】 特願2001−12513(P2001−12513)