トップ :: A 生活必需品 :: A01 農業;林業;畜産;狩猟;捕獲;漁業




【発明の名称】 養殖海苔用処理剤及び処理方法
【発明者】 【氏名】馬奈木 龍夫

【氏名】杉浦 英一

【氏名】松永 隆一

【要約】 【課題】海苔を傷めることなく効果的に病害及び雑藻の防除又は駆除を行う。

【解決手段】処理剤は、乳酸及び酢酸の少なくとも一方を5〜90重量%、カプリル酸、ペラルゴン酸等の炭素数6〜14の飽和脂肪酸、そのエステル又はその塩を0.1〜10重量%、飽和脂肪酸の溶解助剤としてプロピレングリコール等を1〜50重量%、必要に応じて水及びPH調整剤として乳酸及び酢酸以外の有機酸及び無機酸を配合してなり、この処理剤を、乳酸及び酢酸が合計で0.01〜1.8%、飽和脂肪酸、そのエステル又はその塩が合計で0.0005〜0.1%となるように水又は海水で希釈して処理液とし、海苔又は海苔が付着した海苔網等の養殖具を処理液に浸漬するか処理液を通過させて海苔を処理液に接触させる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 乳酸及び酢酸の少なくとも一方と、炭素数6〜14の飽和脂肪酸、そのエステル及びその塩の内から選択される少なくとも1種とを配合してなる養殖海苔用処理剤。
【請求項2】 飽和脂肪酸、そのエステル及びその塩が、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸及びミリスチン酸からなる群の内から選択される少なくとも1種の飽和脂肪酸、そのエステル及びその塩である請求項1記載の養殖海苔用処理剤。
【請求項3】 飽和脂肪酸、そのエステル及びその塩が、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、それらのエステル及びそれらの塩の内から選択される少なくとも1種である請求項1又は2に記載の養殖海苔用処理剤。
【請求項4】 飽和脂肪酸、そのエステル及びその塩が、カプリル酸、そのエステル及びその塩である請求項3記載の養殖海苔用処理剤。
【請求項5】 飽和脂肪酸のエステルが、飽和脂肪酸のグリセリンエステル及び/又はポリグリセリンエステルである請求項1〜4のいずれかに記載の養殖海苔用処理剤。
【請求項6】 飽和脂肪酸の塩が、飽和脂肪酸のナトリウム塩である請求項1〜4のいずれかに記載の養殖海苔用処理剤。
【請求項7】 飽和脂肪酸、そのエステル及びその塩の溶解助剤として、プロピレングリコール、エチレングリコール、ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、エチルアルコール、メチルアルコール及びイソプロピルアルコールよりなる群の内から選択される少なくとも1種を配合してなる請求項1〜6のいずれかに記載の養殖海苔用処理剤。
【請求項8】 乳酸及び酢酸の少なくとも一方を5〜90重量%、飽和脂肪酸、そのエステル及びその塩の少なくとも1種を0.1〜10重量%、溶解助剤を1〜50重量%、更に必要に応じて水を配合してなる請求項7に記載の養殖海苔用処理剤。
【請求項9】 乳酸及び酢酸以外の有機酸及び無機酸の少なくとも1種を配合してなる請求項1〜8のいずれかに記載の養殖海苔用処理剤。
【請求項10】 請求項1〜9のいずれかに記載の処理剤を水又は海水で希釈してなる養殖海苔用処理液。
【請求項11】 飽和脂肪酸、そのエステル及びその塩の溶解助剤として、ポリビニルアルコール及び/又は界面活性剤を配合してなる請求項10記載の養殖海苔用処理液。
【請求項12】 前記界面活性剤が、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキルアミン、アルキルジアミン、アルキルアミンEO付加体、アルキルジアミンEO付加体及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールからなる群の内から選択される少なくとも1種である請求項11記載の養殖海苔用処理液。
【請求項13】 請求項1〜9のいずれかに記載の処理剤を、乳酸及び酢酸が合計で0.01〜1.8%、前記飽和脂肪酸、そのエステル又はその塩が合計で0.0005〜0.1%となるように水又は海水で希釈して処理液とし、海苔又は海苔が付着した海苔網等の養殖具を前記処理液に浸漬するか処理液を通過させることで海苔を処理液に接触させることを特徴とする養殖海苔の処理方法。
【請求項14】 処理液のPHを1〜4の範囲内に調整してなる請求項13記載の養殖海苔の処理方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、養殖海苔の病害や雑藻を駆除するための処理剤に関し、更に詳しくはケイソウ等の雑藻類や、赤腐れ病菌、白腐れ病菌、壺状菌等による病害を防除又は駆除するための処理剤及び処理方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、養殖海苔の病害や雑藻を防除又は駆除するための処理方法や海苔用処理液としては、例えば特公昭56−12601号公報、特公昭60−31451号公報、特公昭60−31647号公報等に開示されたものがある。これらの従来技術は、いずれも海苔に付着する雑藻類や病害の防除、駆除を目的として各種有機酸や無機酸を用いて酸処理を行うものである。又、特開平9−201180号公報に開示された発明は、本出願人の先願であるが、これは、塩化ナトリウムや塩化マグネシウム等の無機塩と酸とにより海水の比重を調整した処理液を用いて処理するというものである。上記のような酸を用いた従来の海苔の処理方法は、海苔に付着する雑藻類や病害の防除又は駆除といった目的はある程度達成している。しかしながら、これらの酸処理技術のみでは必ずしも充分とはいえない場合がある。例えば、海苔表面に群生するタイプのケイソウ類が多量に付着した場合には、海苔製品に一般に「はと糞」とよばれる緑色の斑点として現れる。しかし、上記のような従来の酸処理では、このような製品に影響を与えるようなケイソウに対しては必ずしも十分な効果は期待できず、特に、モグリ船等による短時間処理の場合や、海水温度の低い寒冷な地方においては、酸処理のみでは充分な効果は期待できない。このように、従来の酸処理技術では必ずしも充分な病害及び雑藻の防除又は駆除効果が期待できない場合がある。そこで、病害や雑藻による被害が大きい場合には、多量の酸を使用したり、低いPH領域で処理を行う必要があるが、多量の酸の使用や低PH領域での処理では海苔を傷めるおそれがある。
【0003】一方、上記のような酸処理剤以外に、パラオキシ安息香酸エステルが海苔養殖における雑藻類や病害の駆除に効果があることも知られている。例えば、特開昭63−230608号公報には、パラオキシ安息香酸のn−プロピルエステル、イソプロピルエステル、n−ブチルエステル、イソブチルエステルもしくはエチルエステル、乳化剤としてポリオキシソルビタンエステルもしくはポリグリセリン脂肪酸エステル、乳化安定剤として部分ケン化型ポリビニルアルコール、並びに有機酸及び無機酸から選ばれた1種又は2種以上を含有するアマノリ用殺菌剤が開示されている。上記のパラオキシ安息香酸エステルを用いた公知の殺菌剤は、パラオキシ安息香酸エステルが水に溶け難いため、乳化状態のものである。しかし、この乳化状態の処理剤は、粘度が高くポンプでの移送が困難になる等、取り扱い性に問題があるだけでなく、相分離を生じやすく、雑藻や病害の駆除を効果的に行うには頻繁に処理液の混合を行う必要があるため作業が繁雑なだけでなく、処理剤の粘度が高いことから、混合により全体を均質化することが困難であり、特に養殖海苔の処理が行われる冬期の低温環境下では前記のような処理液の粘度の上昇による取り扱い性の悪化や相分離の問題は顕著であった。パラオキシ安息香酸エステルは酸性液には溶解することから、従来の酸処理剤と併用することも考慮されるが、酸性溶液中ではパラオキシ安息香酸エステルは安定性が悪く、時間がたつと酸成分によりパラオキシ安息香酸エステルが加水分解されてしまうことから、予め両者を一液に混合した状態で保存しておくことができず、処理作業に際し、その都度、両者を混合して処理剤を調製する必要があり、作業が繁雑になるという問題がある。更に、実際の海苔処理に際しては、上記のような処理剤は海水等で希釈して使用されるが、処理液中のパラオキシ安息香酸エステルと酸成分とを一液に混合溶解した処理剤では、海苔の状態に応じて処理液中のパラオキシ安息香酸エステルの濃度を下げたい場合に処理剤を海水等で希釈すると、処理液中の酸成分の濃度も同時に低下して処理液のPHが上昇し、酸成分による雑藻駆除効果や殺菌効果が損なわれてしまうといった問題がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記のような従来の養殖海苔における病害や雑藻の防除又は駆除の現状に鑑み、海苔を傷めることなく効果的に養殖海苔の病害及び雑藻を防除又は駆除しうる処理剤並びに処理方法を提供せんとするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、乳酸又は酢酸の少なくとも一方と、特定の飽和脂肪酸、そのエステル又はその塩とを併用することで、養殖海苔の病害やケイソウ等の雑藻を効果的に防除又は駆除することができ、しかも処理液のPHをあまり低くする必要もなく海苔を傷めることも少なく養殖海苔の病害や雑藻を防除又は駆除することができることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0006】即ち、本発明に係る養殖海苔用処理剤は、乳酸及び酢酸の少なくとも一方と、炭素数6〜14の飽和脂肪酸、そのエステル及びその塩の内から選択される少なくとも1種とを配合してなるものである。前記飽和脂肪酸としては、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸及びミリスチン酸が挙げられ、本発明では、これらの飽和脂肪酸、それらのエステル及びそれらの塩をいずれも用いることができる。前記飽和脂肪酸、そのエステル及びその塩の中でも、カプリル酸、、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、それらのエステル酸及びそれらの塩がより好ましく、更に、溶解性の観点からカプリル酸、そのエステル及びその塩が特に好ましい。又、前記エステルとしては、グリセリンエステル又はポリグリセリンエステルが好ましく、又、塩としては、ナトリウム塩が好ましい。
【0007】上記のような本発明にかかる養殖海苔用処理剤においては、乳酸や酢酸の配合量によっては、飽和脂肪酸、そのエステル又はその塩が溶解しにくい場合がある。このような場合には、前記飽和脂肪酸、そのエステル及びその塩の溶解助剤として、プロピレングリコール、エチレングリコール、ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、エチルアルコール、メチルアルコール及びイソプロピルアルコールよりなる群から選択される少なくとも1種を配合することで、飽和脂肪酸、そのエステル及びその塩を処理剤中で良好に溶解した状態にすることができる。
【0008】処理剤における各成分の配合量としては、乳酸及び酢酸が合計で5〜90重量%、前記飽和脂肪酸、そのエステル又はその塩が合計で0.1〜10重量%、及び溶解助剤が1〜50重量%の範囲内となるように配合し、必要に応じて水を添加した製剤とすることが好ましい。
【0009】又、処理剤中には、PH調整剤として、又、前記飽和脂肪酸などの溶解性向上のため、乳酸及び酢酸以外の有機酸や無機酸を配合することもできる。
【0010】なお、本発明の処理剤には、栄養成分として塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、リン酸アンモニウム及びアミノ酸等を配合してもよい。
【0011】上記のような本発明にかかる養殖海苔用処理剤は、海苔製品に出る前記「ハト糞」の主な原因である付着ケイソウに対し充分な防除又は駆除効果を発揮する。又、本発明で使用する飽和脂肪酸、そのエステル及びその塩は、従来用いられていたパラオキシ安息香酸エステルとは異なり、乳酸や酢酸と混合した状態で長期間保管しても病害や雑藻に対する防除又は駆除効果が低下するといったこともない。又、使用時の処理液のPHが2.0程度でも充分な効果を発揮できるため、海苔を傷めるといったおそれも少ない。
【0012】上記のような本発明にかかる養殖海苔用処理剤は、使用時、即ち、海苔の処理に際して、必要に応じて水又は海水等で希釈した処理液として使用する。希釈に際しては、例えば、処理液中で乳酸及び酢酸が合計で0.01〜1.8%、好ましくは0.02〜1.0%、前記飽和脂肪酸、そのエステル又はその塩が合計で0.0005〜0.1%、好ましくは0.001〜0.04%となるように海水等で希釈し、この処理液に海苔又は海苔が付着した海苔網等の養殖具を浸漬するか、モグリ船等を利用して前記海苔網等を処理液に通過させる等の公知の方法で海苔を処理液に接触させることで処理を行うことができる。又、処理液のPHは1〜4の範囲、更には1.5〜2.5の範囲に調整することが好ましい。なお、本発明における処理液中の酸その他の成分の濃度は、処理液容量に対する重量%(重量/容量%)である。
【0013】更に、上記のように処理剤を養殖海苔の処理に際して海水等で希釈した処理液として使用する場合にも前記飽和脂肪酸、そのエステル及びその塩の溶解性が低下する場合がある。そのための溶解助剤として、処理液にポリビニルアルコールや界面活性剤を配合することもできる。界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキルアミン、アルキルジアミン、アルキルアミンEO付加体、アルキルジアミンEO付加体及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールが挙げられる。
【0014】
【発明の実施の形態】本発明に係る養殖海苔用処理剤に配合される炭素数6〜14の飽和脂肪酸としては、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸及びミリスチン酸等が挙げられ、更にこれら飽和脂肪酸のエステル及びこれらの塩を使用することができる。前記飽和脂肪酸のエステルとしては、グリセリンエステル、ポリグリセリンエステル、ソルビタンエステル、プロピレングリコールエステル等が挙げられる。エステルの具体的なものとしては、カプリル酸グリセリド、モノ・ジカプリル酸ヘキサグリセリン、モノカプリル酸デカグリセリン、カプリン酸グリセリド、モノラウリン酸ヘキサグリセリン、モノラウリン酸デカグリセリン、モノラウリン酸トリグリセリン、モノラウリン酸ペンタグリセリン、ミリスチン酸グリセリド、モノミリスチン酸ヘキサグリセリン、モノミリスチン酸デカグリセリン、モノミリスチン酸トリグリセリン、モノミリスチン酸ペンタグリセリン、モノミリスチン酸ペンタグリセリン、カプロン酸アミル、カプロン酸アリル、カプロン酸イソアミル、カプロン酸エチル、カプロン酸ヘキシル、カプリル酸アリル、カプリル酸イソアリル、カプリル酸エチル、カプリル酸ヘキシル、ペラルゴン酸エチル等が挙げられる。エステルとしては、溶解性や臭い等の点でグリセリンエステルやポリグリセリンエステルを用いることが好ましい。また、前記飽和脂肪酸の塩としては、ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩等が挙げられるが、これらの塩の中でも、ナトリウム塩が好ましい。前記のような飽和脂肪酸、そのエステル及びその塩は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。併用する場合、種類の異なる酸同士を併用してもよいし、飽和脂肪酸と該飽和脂肪酸のエステルや該飽和脂肪酸の塩とを併用してもよいし、更に飽和脂肪酸と、これと異なる飽和脂肪酸のエステルや塩とを組み合わせるなどしてもよく、任意に組み合わせて使用することができる。
【0015】前記のような飽和脂肪酸、そのエステル、その塩は、一般的には水に対する溶解度は小さいが、本発明の処理剤中では乳酸や酢酸と共存することで溶解性が向上する。従って、処理剤中の乳酸や酢酸の濃度が低いと前記飽和脂肪酸、そのエステル、その塩の溶解性が悪い場合がある。このような場合には、前記飽和脂肪酸、そのエステル、その塩の溶解助剤として、プロピレングリコール、エチレングリコール、ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、エチルアルコール、メチルアルコール及びイソプロピルアルコール等を処理剤中に配合することが好ましい。このような溶解助剤を用いて乳酸や酢酸の配合量を低減することで、海苔に対する傷害の発生のおそれがより小さくなる。なお、乳酸及び酢酸以外に、ピルビン酸、プロピオン酸、蟻酸、酢酸等を前記飽和脂肪酸及びそのエステルやその塩と併用しても、乳酸及び酢酸の場合と同様に養殖海苔の病害や雑藻の防除又は駆除効果を期待できる。
【0016】更に、実際の海苔処理に際し、上記駆除剤を海水等で希釈した処理液として使用する場合、希釈により乳酸や酢酸の濃度が低下して前記飽和脂肪酸、エステル、塩が溶解しにくくなる場合がある。そのような場合には、飽和脂肪酸やエステル、塩の溶解性を向上させるための溶解助剤として、ポリビニルアルコールや界面活性剤を処理液に配合することが好ましい。前記界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキルアミン、アルキルジアミン、アルキルアミンEO付加体、アルキルジアミンEO付加体及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールを挙げることができる。
【0017】上記のような本発明の処理剤による海苔の処理方法は特に限定されず、従来の酸処理方法と同様でよい。例えば、漬け込み処理といわれる方法では、前記処理液を船内の処理液槽等の容器に収容し、海中から引き上げた海苔又は海苔が付着した養殖具を処理液に浸漬する。この浸漬処理のような比較的長時間処理を行う場合の処理液の濃度としては、前記飽和脂肪酸、そのエステル及びその塩の合計が処理液中で0.0005〜0.02%、更には0.001〜0.01%、乳酸と酢酸の合計が処理液中で0.01〜0.3%、更には0.02%〜0.2%の範囲となるように比較的低めの濃度に調整することが好ましい。処理液への海苔の浸漬時間は、海苔の生育状態やケイソウその他の雑藻や病害の状況、処理剤に用いる飽和脂肪酸及びそのエステルや塩、その他の酸の種類、それらの濃度、処理液のPH、更には処理時の温度等にもよるが、通常の場合であれば1〜20分以内でよい。
【0018】又、モグリ船等のように、海苔の養殖網の下に船を潜らせて、処理液に網を素通ししながら比較的短時間で処理をすることもできる。このモグリ船等による短時間処理の場合には、前記浸漬処理に較べて処理液の濃度を高めに設定することが好ましく、前記飽和脂肪酸、そのエステル及びその塩の合計が処理液中で0.0025〜0.1%、更には0.005〜0.04%、又、乳酸と酢酸との合計が処理液中で0.1〜1.8%、更には0.3〜1.0%の範囲となるように調整することが好ましい。このモグリ船等による処理時間は30秒〜2分程度、通常の場合は40秒〜1分程度である。更に、一部の地域では、小型の船を用いた素通し処理といわれる方法が行われている。これは処理液を船内の処理液槽等の容器に収容し、海苔の養殖網の下に船を潜らせて処理液に海苔の養殖網を漬けながら通過する処理方法である。この素通し処理の場合の処理時間は5〜30秒程度、通常の場合は10〜20秒程度である。
【0019】前記処理液のPHは、1〜4程度であることが好ましく、更に浸漬処理等の比較的長時間での処理の場合には、1.5〜3の範囲内、又、モグリ船等による比較的短時間での処理の場合には1〜2.5の範囲内に調整することがより好ましい。処理液のPHは、塩酸、リン酸等を用いることで容易に所望の値に調整することができる。PH調整用として用いられる酸としては、無機酸では、上記の塩酸やリン酸の他、硫酸、硝酸等を用いることもできる。又、有機酸では、リンゴ酸、クエン酸、フマール酸、グルコン酸、マレイン酸、マロン酸、蟻酸、酒石酸、アクリル酸、クロトン酸、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸等を用いることもできる。更に、有機リン酸としてフィチン酸、重合リン酸としてメタリン酸、ポリリン酸等を用いることもできる。これらの酸は、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。尚、これらの酸は、処理液のPH調整のみでなく、雑藻駆除効果や殺菌効果も有するものである。
【0020】又、本発明の処理液には、必要に応じて栄養成分を添加してもよい。例えば、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム等のアンモニウム塩、硝酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、硫酸ナトリウム等のナトリウム塩、硝酸カリウム、リン酸カリウム、硫酸カリウム等のカリウム塩、グリシン、グルタミン酸、リジン等のアミノ酸、植物性蛋白分解物、動物性蛋白分解物等の分解液等が挙げられる。これらの栄養成分は、乳酸や酢酸と、前記飽和脂肪酸、そのエステル、その塩等との混合時に同時に添加混合することもできるし、それらのいずれかに予め添加しておいてもよい。更には、処理剤を海水で希釈して処理液を調製する時に添加してもよい。
【0021】
【実施例】[実験例1]人工海水に、乳酸0.5%、酢酸0.2%、及び下記表1に示す飽和脂肪酸を0.02%添加して混合し、各試験区の海苔用処理液を調製した。なお、処理液のPHはリン酸で2.0に調整した。これらの処理液に、ケイソウが付着した塩化ビニル板を1分間浸漬して取り出した後、前記と同様の人工海水で洗滌(約20秒)したうえで、新たな人工海水に戻し、塩化ビニル板に付着しているケイソウの駆除効果を判定した。ケイソウの駆除効果の判定は、エリスロシン染色によるケイソウの染色率を「−」〜「100%」の範囲で示し、「−」が全く効果がなく、その「%」が高いほど効果があるものとした。結果を表1に示した。
【0022】
【表1】

【0023】[実験例2]人工海水に、乳酸0.5%、酢酸0.2%、及び下記表2に示す飽和脂肪酸エステルを0.02%又は0.04%添加して混合し、各試験区の海苔用処理液を調製した。なお、処理液のPHは塩酸で2.0に調整した。これらの処理液に、ケイソウが付着した塩化ビニル板を1分間浸漬して取り出した後、前記と同様の人工海水で洗滌(約20秒)したうえで、新たな人工海水に戻し、塩化ビニル板に付着しているケイソウの駆除効果を前記実験例1と同様にして判定し、結果を表2に示した。
【0024】
【表2】

【0025】表1、2の結果から明らかなように、乳酸や酢酸と、炭素数6〜14の飽和脂肪酸やそのエステルとを併用することにより、高いケイソウ駆除効果が得られる。
【0026】[実験例3]次に、上記各種の飽和脂肪酸及び飽和脂肪酸エステルの内から、ケイソウ駆除効果と溶解性の観点から、カプリル酸及びカプリル酸モノグリセリドを用い、以下の表3〜10に示す試験区の海苔用処理液を調製し、前記実験例1と同様にケイソウの駆除効果を調べた。なお、処理液のPHはリン酸又は塩酸で調整した。更に、海苔葉体への影響を、エリスロシン染色による海苔葉体の染色率と検鏡により観察した芽の傷み具合で判定した。海苔葉体の染色率、および芽の傷み具合の判定は、以下のとおりである。すなわち、海苔葉体の染色率は、「−」〜「+++」の範囲で示し、「−」は全く傷みなし、「+」の数が多いほど傷みがひどいものとした。また、芽の傷み具合については、「○;傷みなし」、「△;やや傷みあり」、「×;傷みあり」とした。結果を表3〜表10に示した。なお、酸処理による海苔の芽傷みは、海苔の生長段階ごとの大きさや処理時の健全度合い、更には養殖地域によって比較的大きな差が見られる傾向があることから、上記芽の傷み具合の評価結果は相対的なものである。
【0027】
【表3】

【0028】
【表4】

【0029】
【表5】

【0030】
【表6】

【0031】
【表7】

【0032】
【表8】

【0033】
【表9】

【0034】
【表10】

【0035】表3〜表10の結果から明らかなように、乳酸や酢酸を単独で使用しただけの場合や、クエン酸とカプリル酸やカプリル酸モノグリセリドとを併用した場合には、効果的にケイソウを駆除することができない。これに対し、乳酸や酢酸とカプリル酸やカプリル酸モノグリセリドとを併用した場合には、効果的にケイソウの駆除を行うことができる。
【0036】[実験例4]人工海水に、下記表11に示す処理剤成分を添加して混合し、各試験区の海苔用処理液を調製した。なお、処理液のPHは塩酸で1.8に調整した。これらの処理液に、ケイソウが付着した塩化ビニル板を5秒間浸漬して取り出した後、10秒放置し(合計15秒)、その後、前記と同様の人工海水で洗滌(約20秒)したうえで、新たな人工海水に戻し、実験例1と同様にケイソウの駆除効果を調べた。更に、海苔葉体への影響を、実験例3と同様にエリスロシン染色による海苔葉体の染色率と検鏡により観察した芽の傷み具合で判定した。また、従来から市販の酸処理剤(Wダッシュ;扶桑化学工業株式会社)についても同様の実験を行った。結果を表11に示した。
【0037】
【表11】

【0038】[実験例5]人工海水に、下記表12に示す処理剤成分を添加して混合し、各試験区の海苔用処理液を調製した。なお、処理液のPHは塩酸で1.8に調整した。これらの処理液に、ケイソウが付着した塩化ビニル板を5秒間浸漬して取り出した後、10秒放置し(合計15秒)、その後、前記と同様の人工海水で洗滌(約20秒)したうえで、新たな人工海水に戻し、実験例4と同様にケイソウの駆除効果及び海苔葉体への影響を判定した。結果を表12に示した。
【0039】
【表12】

【0040】[実験例6]人工海水に、下記表13に示す処理剤成分を添加して混合し、各試験区の海苔用処理液を調製した。なお、処理液のPHは塩酸で1.8に調整した。これらの処理液に、ケイソウが付着した塩化ビニル板を5秒間浸漬して取り出した後、25秒放置し(合計30秒)、その後、前記と同様の人工海水で洗滌(約20秒)したうえで、新たな人工海水に戻し、実験例4と同様にケイソウの駆除効果及び海苔葉体への影響を判定した。また、従来から市販の酸処理剤(Wダッシュ;扶桑化学工業株式会社)についても同様の実験を行った。結果を表13に示した。
【0041】
【表13】

【0042】[実験例7]人工海水に、下記表14に示す処理剤成分を添加して混合し、各試験区の海苔用処理液を調製した。なお、処理液のPHは塩酸で1.8に調整した。これらの処理液に、ケイソウが付着した塩化ビニル板を5秒間浸漬して取り出した後、10秒放置し(合計15秒)、その後、前記と同様の人工海水で洗滌(約20秒)したうえで、新たな人工海水に戻し、実験例4と同様にケイソウの駆除効果及び海苔葉体への影響を判定した。また、従来から市販の酸処理剤(Wダッシュ;扶桑化学工業株式会社)についても同様の実験を行った。結果を表14に示した。
【0043】
【表14】

【0044】表11〜14の結果から明らかなように、乳酸とカプリル酸、カプリル酸モノグリセリドまたはカプリル酸ナトリウムとを併用した場合には、従来の酸処理剤に較べて効果的にケイソウの駆除を行うことができる。
【0045】[実験例8]カプリル酸ナトリウムを下記表15に示す濃度となるように人工海水に溶解した後、市販の酸処理剤(Wダッシュ、WクリーンFX;いずれも扶桑化学工業株式会社)を添加、混合して各試験区の100倍希釈処理液を調製した。これらの処理液に、ケイソウが付着した塩化ビニル板を10秒間浸漬して取り出した後、50秒放置し(合計1分)、その後、前記と同様の人工海水で洗滌(約20秒)したうえで、新たな人工海水に戻し、実験例4と同様にケイソウの駆除効果及び海苔葉体への影響を判定した。結果を表15に示した。
【0046】
【表15】

【0047】[実験例9]カプリル酸ナトリウムを下記表16に示す濃度となるように人工海水に溶解した後、市販の酸処理剤(Wダッシュ、WクリーンFX;いずれも扶桑化学工業株式会社)を添加、混合して各試験区の100倍希釈処理液を調製した。これらの処理液に、ケイソウが付着した塩化ビニル板を5秒間浸漬して取り出した後、10秒放置し(合計15秒)、その後、前記と同様の人工海水で洗滌(約20秒)したうえで、新たな人工海水に戻し、実験例4と同様にケイソウの駆除効果及び海苔葉体への影響を判定した。結果を表16に示した。
【0048】
【表16】

【0049】表15、16の結果から明らかなように、従来からの酸処理剤にカプリル酸ナトリウムを併用することで、ケイソウを効果的に駆除することができる。
【0050】〔実施例〕以下の配合例1〜8に示す養殖海苔の病害及び雑藻駆除用処理剤を調製した。各配合例の処理剤を海水で100倍に希釈して調整した処理液について、前記実験例1と同様にして海苔に付着するケイソウの駆除効果を判定し、また実験例3と同様にして海苔への傷害度をエリスロシン染色による海苔葉体の染色率と検鏡による芽の傷み具合の観察により判定した。結果を表17に示した。
【0051】(配合例1)乳酸(80%溶液)50%、酢酸(90%溶液)20%、リン酸(75%溶液)20%、カプリル酸0.5%及びプロピレングリコール9.5%を用い、乳酸、酢酸及びプロピレングリコールの混合液にカプリル酸を溶解し、これにリン酸を加えて均一に混合して処理剤を調製した。
【0052】(配合例2)乳酸(80%溶液)60%、酢酸(90%溶液)19.5%、リン酸(75%溶液)20%及びカプリル酸0.5%を用い、乳酸及び酢酸の混合液にカプリル酸を溶解し、これにリン酸を加えて均一に混合して処理剤を調製した。
【0053】(配合例3)乳酸(80%溶液)50%、酢酸(90%溶液)20%、リン酸(75%溶液)20%、カプリル酸1%、プロピレングリコール8%及び部分ケン化型ポリビニルアルコール(10%溶液)1%を用い、乳酸、酢酸及びプロピレングリコールの混合液にカプリル酸を溶解し、これにリン酸及びポリビニルアルコールを加えて均一に混合して処理剤を調製した。
【0054】(配合例4)乳酸(80%溶液)65%、酢酸(90%溶液)10%、リン酸(75%溶液)10%、塩酸(35%溶液)6%、カプリル酸1%、プロピレングリコール7%及び部分ケン化型ポリビニルアルコール(10%溶液)1%を用い、乳酸、酢酸及びプロピレングリコールの混合液にカプリル酸を溶解し、これにリン酸、塩酸及びポリビニルアルコールを加えて均一に混合して処理剤を調製した。
【0055】(配合例5)乳酸(80%溶液)70%、酢酸(90%溶液)5%、リン酸(75%溶液)10%、塩酸(35%溶液)6%、カプリル酸1%、プロピレングリコール7%及び部分ケン化型ポリビニルアルコール(10%溶液)1%を用い、乳酸、酢酸及びプロピレングリコールの混合液にカプリル酸を溶解し、これにリン酸、塩酸及びポリビニルアルコールを加えて均一に混合して処理剤を調製した。
【0056】(配合例6)乳酸(80%溶液)40%、酢酸(90%溶液)10%、リン酸(75%溶液)20%、カプリル酸1.5%、プロピレングリコール25.5%及び部分ケン化型ポリビニルアルコール(10%溶液)3%を用い、乳酸、酢酸及びプロピレングリコールの混合液にカプリル酸を溶解し、これにリン酸及びポリビニルアルコールを加えて均一に混合して処理剤を調製した。
【0057】(配合例7)乳酸(80%溶液)50%、酢酸(90%溶液)10%、リン酸(75%溶液)20%、カプリル酸1.5%、プロピレングリコール15.5%及び部分ケン化型ポリビニルアルコール(10%溶液)3%を用い、乳酸、酢酸及びプロピレングリコールの混合液にカプリル酸を溶解し、これにリン酸及びポリビニルアルコールを加えて均一に混合して処理剤を調製した。
【0058】(配合例8)乳酸(80%溶液)60%、酢酸(90%溶液)5%、リン酸(75%溶液)20%、カプリル酸1.5%、プロピレングリコール10.5%及び部分ケン化型ポリビニルアルコール(10%溶液)3%を用い、乳酸、酢酸及びプロピレングリコールの混合液にカプリル酸を溶解し、これにリン酸及びポリビニルアルコールを加えて均一に混合して処理剤を調製した。
【0059】
【表17】

【0060】
【発明の効果】以上のように、本発明によれば、養殖海苔の処理に際して、海苔を傷めることなく、従来の酸処理に較べてより効果的にケイソウなどの雑藻や病害を駆除することができる。
【出願人】 【識別番号】000238164
【氏名又は名称】扶桑化学工業株式会社
【出願日】 平成13年2月7日(2001.2.7)
【代理人】 【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
【公開番号】 特開2002−10717(P2002−10717A)
【公開日】 平成14年1月15日(2002.1.15)
【出願番号】 特願2001−30874(P2001−30874)