| 【発明の名称】 |
熱系プラントの温度制御装置及び温度制御方法 |
| 【発明者】 |
【氏名】横山 修一
【氏名】濱根 洋人
【氏名】小野垣 仁
【氏名】若林 栄次
【氏名】岩谷 征
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| 【要約】 |
【課題】熟練者の勘や経験に頼らず、かつ、ワインドアップを生じさせることなく簡単に温度制御を行い得る熱系プラントの温度制御装置を提供する。
【解決手段】PID制御部100と、制御対象Pを操作するための操作量を出力する操作量付加部110と、規範モデルPmを有するとともに、この規範モデルPmからむだ時間要素e-Lsを取り除くむだ時間除去手段120aを有する規範モデル部120と、操作量付加部110からの操作量を制御対象Pに入力する側と、PID制御部100による操作量を入力する側との間で回路を切り換える第1の切換部130とを有し、規範モデル部120は、むだ時間除去手段120aによってむだ時間要素e-Lsが除去された規範モデルPmの出力を測定し、この測定結果が予め定められた目標値に到達したときに第1の切換部130を操作して操作量付加部110からの操作量が制御対象Pに入力しないようにした。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 制御対象の温度を目標値に整定させるための熱系プラントの温度制御装置において、目標値と前記熱系プラントにおける制御対象から出力された出力値との偏差に応じた所定の操作量を出力し、前記制御対象の温度を制御するPID制御部と、このPID制御とは別に設けられ、前記制御対象を操作するための操作量を出力する操作量付加部と、規範モデルを有するとともに、この規範モデルからむだ時間要素を取り除くむだ時間除去手段を有する規範モデル部と、前記操作量付加部から出力された操作量を前記制御対象に入力する側と、前記PID制御部からの操作量を入力する側との間で回路を選択的に切り換える第1の切換部とを有し、前記規範モデル部は、前記むだ時間除去手段によって前記むだ時間要素が除去された前記規範モデルの出力を測定し、この測定結果が予め定められた目標値に到達したときに前記第1の切換部を操作して、前記操作量付加部から前記制御対象への操作量の入力を遮断すること、を特徴とする熱系プラントの温度制御装置。 【請求項2】 前記規範モデル部の規範モデルの同定が完了していない場合に、オンラインによって前記規範モデルの同定を行う規範モデルオンライン同定手段を設けたことを特徴とする請求項1に記載の熱系プラントの温度制御装置。 【請求項3】 前記操作量付加部からの操作量を前記規範モデル部に入力する側と、前記PID制御部からの制御結果を入力する側との間で回路を選択的に切り換える第2の切換部を設けるとともに、外乱が作用したときに、この外乱による影響を抑制する外乱オブザーバ部を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の熱系プラントの温度制御装置。 【請求項4】 前記外乱オブザーバ部を前記規範モデル部とレギュレータとから構成し、前記外乱に加えて前記規範モデルのモデル変動を生じさせる要因が作用したときに、この要因による影響を前記レギュレータで補正するようにしたことを特徴とする請求項3に記載の熱系プラントの温度制御装置。 【請求項5】 前記外乱オブザーバ部はH∞制御理論又はμ制御理論に基づくものであることを特徴とする請求項4に記載の熱系プラントの温度制御装置。 【請求項6】 前記操作量付加部から入力する操作量を、前記制御対象に入力することのできる最大の操作量としたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の熱系プラントの温度制御装置。 【請求項7】 前記制御対象に非干渉化を適用するために、前記制御対象に非干渉化部を設けたことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の熱系プラントの温度制御装置。 【請求項8】 制御対象の温度を目標値に整定させるための熱系プラントの温度制御方法において、目標値と前記熱系プラントにおける制御対象から出力された出力値との偏差に応じた所定の操作量をPID制御によって出力し、前記制御対象の温度を制御し、前記制御対象を操作するための操作量を、同定済みの規範モデル及び前記制御対象に加え、前記規範モデルからむだ時間を取り除き、むだ時間が除去された前記規範モデルの出力を測定し、この測定結果が予め定められた目標値に到達したときに、前記操作量の前記制御対象への入力を遮断し、前記PID制御に基づいて前記制御対象を制御すること、を特徴とする熱系プラントの温度制御方法。 【請求項9】 前記操作量が、前記制御対象に入力することのできる操作量の最大値であることを特徴とする請求項8に記載の熱系プラントの温度制御方法。 【請求項10】 制御系に外乱又は前記規範モデルのモデル変動を生じさせる要因が生じたときに、外乱オブザーバによりこれら要因による影響を抑制することを特徴とする請求項8又は9に記載の熱系プラントの温度制御方法。 【請求項11】 前記外乱オブザーバは、H∞制御理論又はμ制御理論に基づくものであることを特徴とする請求項10に記載の熱系プラントの温度制御方法。
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【発明の詳細な説明】【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、熱系プラントにおいて制御対象の温度を予め設定された目標値に整定させるための温度制御装置及び温度制御方法に関し、特に、ワインドアップを生じることなく短時間で前記目標値に整定させることができる熱系プラントの温度制御装置及びその温度制御方法を提供することを目的とする。 【0002】 【従来の技術】一般に、化学反応炉や各種電気炉、成形機、ゴミ処理プラント、熱処理炉及び発電プラント等の熱系プラントにおいては、制御対象を予め設定された目標値に整定させるために温度制御が行われている。例えば、加熱シリンダ内で溶融・混練した樹脂や金属などの材料をダイに供給し、前記ダイから押し出し又は前記ダイ内に射出して所望形状の製品を成形する成形機においては、前記加熱シリンダから前記ダイに至るまでの工程の途中で、溶融した前記材料の温度の制御を行っている。 【0003】図12は、成形機の一例にかかり、溶融樹脂を押し出して所定形状に成形する押出成形機の構成を説明するための概略図である。押出成形機1は、樹脂を溶融するシリンダ10と、所望形状の製品を押し出すための押出口21が形成されたダイ20と、シリンダ10内の溶融樹脂をダイ20に向けて送り出す押出機構30と、シリンダ10を外側から加熱するためにシリンダ10の外周に設けられた加熱手段であるバンドヒータ41,42,43と、シリンダ10内に材料(樹脂)を供給する材料供給部であるホッパ50とを有する。 【0004】シリンダ10は、筒状の3つのバレル11,12,13を直列に連結してなり、各バレル11,12,13ごとに加熱手段であるバンドヒータ41,42,43が巻き付けられている。加熱シリンダは、シリンダ10(バレル11,12,13)とバンドヒータ41,42,43とで構成される。 【0005】押出機構30は、バレル11,12,13を貫通して設けられたスクリュー31と、このスクリュー31を回転させるモータ32と、スクリュー31とモータ32との間に介在する減速手段としてのギヤボックス33とから構成される。この押出成形機30は二軸スクリュータイプであり、二本のスクリュー31(他方のものは図に表れない)がシリンダ10内に並設され、モータ32の駆動によって各スクリュー31が互いに逆方向又は正方向に回転するようになっている。そして、シリンダ10内の溶融樹脂は、モータ32の駆動によるスクリュー31の回転によってダイ20に送り出され、ダイ20の押出口21から所定の断面形状で押し出される。 【0006】上記した複数個(図12で示す例では3個)のバレル11,12,13、各バレル11,12,13ごとに設けられたバンドヒータ41,42,43は、シリンダ10内の溶融樹脂の温度を制御する温度制御系を構成している。そして、一般には、これらは各バレル11,12,13ごとに異なる温度設定値を有する独立のものとして取り扱われ、各バレル11,12,13ごとに1ループ制御が行われている。 【0007】ところで、休日や点検・修理などにより、押出成形機1の稼働を長時間停止させた後に稼働を再開する場合、シリンダ10内の樹脂の温度を速やかに所望の温度に制御して安定させることが望まれる。従来、このような制御を目的として、構成が簡単で操作も容易なPID制御が一般的に用いられている。PID制御においては、押出成形機1の稼働開始とともにPID制御による操作量を最大にしてシリンダ10の加熱ヒータ41,42,43の温度を急激に上昇させ、シリンダ10の温度が所定温度まで上昇したところで、前記PID制御による操作量を徐々に制限していく。 【0008】しかし、上記したようなPID制御においては、操作量の減少を徐々に収束させながら長時間にわたって制御する必要があり、その間、シリンダ10の温度は、前記目標の温度を境として振動しながら収束したり、オーバシュートを引き起こす。そのため、操作量を最適にしながら、目標の設定温度に収束させるための制御は、熟練者の勘と経験に頼っているのが現状である。また、PID制御においては、外乱や、成形機が設置される場所や季節、稼働条件、システム変更などによって生じるモデル変動が、制御性能に大きな影響を与え、このような要因が作用する場合には長時間を経過しても、温度が目標値に整定しないという問題がある。 【0009】 【発明が解決しようとする課題】本発明は上記状況にかんがみてなされたもので、制御目標にワインドアップを生じることなく迅速に整定させることができ、かつ、熟練者の勘や経験に頼らず簡単に温度制御を行うことができる熱系プラントの温度制御装置及びその温度制御方法を提供すること、及び、外乱やモデル変動を生じさせる要因が作用しても、これら要因による影響を抑制しながら短時間で目標値に整定させることができる熱系プラントの温度制御装置及びその温度制御方法を提供することを目的とする。 【0010】 【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、溶融材料を所定形状の製品に成形する熱系プラントの温度制御装置において、目標値と前記成形機における制御対象から出力された出力値との偏差に応じた所定の操作量を出力し、前記制御対象の温度を制御するPID制御部と、このPID制御部とは別に設けられ、前記制御対象を操作するための操作量を出力する操作量付加部と、規範モデルを有するとともに、この規範モデルからむだ時間要素を取り除くむだ時間除去手段を有する規範モデル部と、前記操作量付加部から出力された操作量を前記制御対象入力する側と、前記PID制御部からの操作量を入力する側との間で回路を選択的に切り換える第1の切換部とを有し、前記規範モデル部は、むだ時間除去手段によってむだ時間要素が除去された前記規範モデルの出力を測定し、この測定結果が予め定められた目標値に到達したときに前記第1の切換部を操作して、前記操作量付加部から前記制御対象への操作量の入力を遮断する構成としてある。 【0011】この構成によれば、熱系プラントの稼働開始とともに、第1の切換部を操作して操作量付加部から任意の操作量を制御対象に対して付加する。同時に、同じ操作量を規範モデル部に入力する。これにより、加熱温度等の制御対象が、前記操作量に応じて急速に目標値に向かう。制御対象にむだ時間が含まれていると、むだ時間分の過剰な熱供給により、オーバーシュートを生じる。そこで、これを回避するために、規範モデルからむだ時間を取り除き、むだ時間を取り除いた時刻で操作量の切り換えを行う。すなわち、むだ時間を取り除いた時刻で第1の切換手段を切り換えて操作量付加部を制御系から切り離し、PID制御部に基づいて制御を行う。このようにして、制御目標にワインドアップを生じることなく、短時間で到達することができる。 【0012】請求項2に記載の発明は、前記規範モデル部の規範モデルの同定が完了していない場合に、オンラインによって前記規範モデルの同定を行う規範モデルオンライン同定手段を設けた構成としてある。この構成によれば、規範モデルのパラメータ同定とそれに基づくコントローラのパラメータ調整をオンラインで同時に実行することができる。 【0013】請求項3に記載の発明は、前記操作量付加部からの操作量を前記規範モデル部に入力する側と、制御部からの制御結果を入力する側との間で回路を選択的に切り換える第2の切換部を設けるとともに、外乱が作用したときに、この外乱による影響を抑制する外乱オブザーバ部を設けた構成としてある。 【0014】また、請求項4に記載するように、前記外乱オブザーバ部を前記規範モデル部とレギュレータとから構成し、前記外乱に加えて前記規範モデルのモデル変動を生じさせる要因が作用したときに、この要因による影響を前記外乱オブザーバで抑制するようにしてもよい。この構成によれば、外乱やモデル変動による影響を抑制して、前記制御対象を前記規範モデルに迅速に追随させることが可能になる。前記外乱オブザーバ部は、請求項5に記載するように、H∞外乱オブザーバ又はμ設計外乱オブザーバを含んでいるとよい。【0015】請求項6に記載の発明は、前記操作量付加部から入力される操作量が、前記制御対象に入力することのできる操作量の最大値である構成としてある。前記操作量付加部から入力する操作量は任意であるが、制御対象に入力することのできる操作量を最大とすることで、制御目標値に最も速やかに達することができる。 【0016】請求項7に記載の発明は、前記制御対象に非干渉化を適用するための状態フィードバック部を設けた構成としてある。この構成によれば、制御対象において、例えば熱干渉等の問題を除去して、非干渉化を行うことができる。 【0017】請求項8に記載の発明は、制御対象の温度を目標値に整定させるための熱系プラントの温度制御方法において、目標値と前記成形機における制御対象から出力された出力値との偏差に応じた所定の操作量をPID制御によって出力し、前記制御対象の温度を制御し、前記制御対象を操作するための操作量を、同定済みの規範モデル及び前記制御対象に加え、前記規範モデルからむだ時間を取り除き、むだ時間が除去された前記規範モデルの出力を測定し、この測定結果が予め定められた目標値に到達したときに、前記操作量の前記制御対象への入力を遮断し、前記PID制御に基づいて前記制御対象を制御する方法である。 【0018】この方法によれば、制御目標にワインドアップを生じることなく、迅速に到達させることができる。前記操作量は、請求項9に記載するように、操作可能な最大の操作量とするとよい。 【0019】また、請求項10に記載するように、制御系に外乱又は前記規範モデルのモデル変動を生じさせる要因が生じたときに、外乱オブザーバによりこれら要因による影響を抑制するとよい。これにより、外乱やモデル変動のような要因が作用しても、これら要因による影響を取り除いて、短時間で目標値に到達することができる。 【0020】なお、上記した本発明のPID制御は、1自由度系又は2自由度系のいずれであってもよい。制御対象等に応じて、1自由度系又は2自由度系のいずれかを適宜に選択するとよい。 【0021】 【発明の実施の形態】以下、本発明の好適な実施形態を、図面にしたがって詳細に説明する。図1は、本発明の第1の実施形態にかかる温度制御装置の制御ブロック図である。なお、以下の実施形態では、熱系プラントの温度制御として、図12に示した押出成形機のシリンダ10の温度制御を例に挙げて説明するが、本発明はこのような押出成形機及びシリンダに限らず、温度制御の必要なあらゆる分野に適用が可能である。 【0022】本発明の制御装置はPID制御(比例微分積分制御)を前提とし、図1に示すようにPID制御部100を有している。このPID制御部100は、目標値(Ref)と制御対象Pから出力された出力値(y)との偏差(制御信号)に応じて、操作量(U)を出力し、バレル11,12,13の温度を制御する。PIDパラメータは、例えばリターンスイッチやコントロールパネル等を用いることによって、稼働中はいつでも変更できるように構成するのが好ましい。なお、このPID制御部100には、PIDパラメータのオートチューニング機構又はセルフチューニング機構を付加してもよい。また、図中仮想線で示すように、測定可能な外乱及び操作量の変化に対して偏差を予測し、操作量を決定するフィードフォワード制御部105をこのPID制御部100に付加し、PID制御部を2自由度系とすることも可能である。フィードフォワード制御部105をこのPID制御部100に付加する場合には、フィードフォワードKFFは、目標値追随性を考慮して、以下の式により決定することができる。 【0023】 【数1】
【0024】ここで、Hzrは目標値から操作量への伝達関数で、この伝達関数Hzrをなるべく広い周波数帯域で1にすると良い。 【0025】この実施形態におけるシリンダ10は、上記したように制御温度の異なる3つのバレル11,12,13からなっている。これらバレル11,12,13の制御温度がそれぞれ異なる場合には、隣接するバレル11とバレル12及びバレル12とバレル13間で互いに熱干渉が生じる。 【0026】そのため、この場合には、状態フィードバックHを導入したクロスコントローラ150に制御対象Pの出力結果を入力して、バレル11〜13の非干渉化を行う。 【0027】一方、バレル11,12,13の制御温度が同一である場合のように、シリンダ10が干渉系を構成しないような場合には、制御対象Pの出力をクロスコントローラ150に入力して非干渉化を適用する必要はない。したがって、制御目標が干渉系か非干渉系かを判断して自動的に、あるいは、作業者の判断によって手動で制御対象Pの出力をクロスコントローラ150に入力できるようするスイッチを、制御対象Pと非干渉部150の間に設けるとよい。 【0028】PID制御部100と制御対象Pとの間には、規範モデル部120が設けられ、この規範モデル部120と制御対象Pとに、制御対象Pに入力することのできる操作量の最大値(飽和値:Umax)を入力する操作量付加部110が設けられる。操作量付加部110と制御対象Pとの間には、第1の切換部としてのスイッチ130が設けられ、PID制御部100側と操作量付加部110側との間で入力回路を切り換えることができるようになっている。 【0029】また、この実施形態では、規範モデル部120と操作量付加部110との間に第2の切換部としてのスイッチ140が設けられている。このスイッチ140は、後述する規範モデル部120の切換操作手段の作用によって、スイッチ130の切換のタイミングと同期するタイミングで、スイッチングが行われるようになっている。そして、このスイッチングにより、スイッチ140は、規範モデル部120から操作量付加部110を切り離し可能にしている。 【0030】これらスイッチ130,140は、手動でも操作可能にして、作業者が任意に切換を行うことができるようにすることが好ましい。このようにすることで、操作量付加部110及び規範モデル部120を制御系から切り離して、通常のPID制御によって制御を行うことが可能である。 【0031】規範モデル部120は、オンライン同定されたパラメータからなる規範モデルPm又は、予めシステム同定を行った公称値からなる規範モデルPmを有している。この規範モデルPmには、むだ時間要素e-Lsが含まれる。Gmは、規範モデルPmからむだ時間要素e-Lsを除去した残りの部分である。規範モデル部120には、規範モデルPmからむだ時間要素e-Lsを除去するむだ時間除去手段120aと、むだ時間を除去した所定の時刻tswで第1の切換部13の切換操作を行う図示しない切換操作手段とが設けられる。以下、時刻tswの決定手順について説明する。 【0032】制御対象Pは大きなむだ時間Lを含む。したがって、制御対象Pが目標値に達した時点で操作量の切り換えを行うと、オーバーシュートを生じることになる。むだ時間Lを含む制御対象Pが目標値まで必要とする入力熱量Uinは次式で表される。 【0033】 【数2】
【0034】ここで、t1は、むだ時間Lのない制御対象Pが目標値に達する時間を表している。むだ時間L分の過剰な熱供給によるオーバーシュートを回避するためには、時刻t1より前の時刻tswにて操作量の切り換えを行うとよい。しかしながら、実際の制御対象の応答からこの時刻tswを予測することはできない。そこで、規範モデル部120のむだ時間除去手段120aを用い、ブロック線図上でむだ時間要素e-Lsを分離する。このようにすれば、むだ時間要素e-Lsを含まない規範モデルの出力ygを得ることができ、この出力ygが目標値に達した時刻から、第1の切換部13の切り換えに最適な時刻tswを得ることができる。 【0035】今、一次遅れ+むだ時間系の制御対象P0(s)=K0/(T0S+1)・e(-L0s)を考える。このときのステップ応答は、【0036】 【数3】
【0037】但し、0<L0<T0,目標入力ref=y0=K0u0である。ここで、0<ya<ybかつ0<L0<tyaが成立するとき、t=0、y=0でref=ybに対するステップ入力Ub(操作量の飽和値 Umax)を印加すると、【0038】 【数4】
【0039】になる時刻tyaが唯一存在する。この時刻tyaを計算すると、【0040】 【数5】
【0041】を得る。以上を考慮して、第3式に示したように、スイッチを切り換えるので、切換のタイミングtswは、【0042】 【数6】
【0043】と決まり。したがって、このタイミングでステップ入力Uaに切り換えると、目標値yaに速く整定できる。このタイミングの時刻が、第1の切換部13を切り換えるべき時刻tswである。上記した規範モデルPmは予め同定されている必要があるが、同定されていない場合には、オンラインを介して同定を行うことが可能である。 【0044】図2に、この実施形態における制御装置の制御の手順を、フローチャートで示す。押出成形機1の稼働開始(ステップS1)と同時に、制御装置は、各入力関係の非干渉化が必要かどうかを判断する(ステップS2)。シリンダ10の各バレル11,12,13の制御温度が異なる場合のように、制御目標が干渉系であると判断した場合には、制御目標Pの出力を非干渉部150に入力して、非干渉化を適用する(ステップS3)。 【0045】次に、本発明による制御を適用するかどうかを判断し、適用しない場合には、スイッチ130及びスイッチ140をともに切り換えて、操作量付加部110及び規範モデル部120を制御系から切り離す(ステップS4)。これにより、PID制御のみによる制御が可能になる(ステップS11)。 【0046】本発明の制御を適用する場合には、スイッチ130,140を操作して、操作量付加部110と制御対象P及び操作量付加部110と規範モデル部120を接続状態にし、飽和操作量Umaxを制御対象Pと規範モデル部120に適用する(ステップS5)。このとき、規範モデル部120の規範モデルPmが同定済みかどうかが判断され(ステップS6)、同定が完了していなければ、オンラインを使って規範モデルPmの同定を行う(ステップS7)。 【0047】次いで、むだ時間要素e-LSを取り除いた規範モデルPmの出力をオンラインで測定し(ステップS8)、この測定値が予め決定された目標値に到達したかどうかが判断される(ステップS9)。目標値に到達していなければ、継続して操作量Umaxが規範モデル部120及び制御対象Pに入力され(ステップS5)、ステップS6〜S9の手順が繰り返される。 【0048】目標値に到達すれば、規範モデル部120の切換操作手段が切換指令をスイッチ130及びスイッチ140に出力し、操作量付加部110及び規範モデル部120が制御系から切り離される(ステップS10)。これにより、以後、制御目標PはPID制御によって制御される(ステップS11)。 【0049】次に、本発明の第2の実施形態を図3にしたがって説明する。この実施形態では、外乱及びモデル変動を生じさせる要因が作用した場合に、これらの影響を抑制するための外乱オブザーバ部260を有している。PID制御部100、操作量付加部110等他の部位については第1の実施形態と同じであるので、同一の符号を付して詳しい説明は省略する。外乱オブザーバ部260は、規範モデルPmとレギュレータKOBとから構成される。この外乱オブザーバ部260は、公知のH∞制御理論又はμ設計法に基づくものであるのが好ましい。第1の実施形態と同様に、規範モデルPmからはむだ時間要素e−Lsが取り除かれる。【0050】この実施形態では、規範モデルPmの出力と制御目標Pの出力との偏差が求められ、この偏差をレギュレータKOBが補正する。第1の実施形態と同様の手順で得られた時刻tsw(式6)のタイミングでスイッチ130を切り換えてステップ入力Uaに切り換えると、目標値yaに速く整定できるが、このとき、出力ygは実際の制御対象より早く目標値に到達する。 【0051】そこで、規範モデルPmと制御対象Pの出力差をKOBが補正することによって、実際の制御対象Pを規範モデルPmに追従させることができる。制御対象Pを規範モデルPmに追従させた後は、レギュレータKOBはH∞外乱オブザーバの役割を果たすことになる。 【0052】次に、この第2の実施形態における制御装置の制御手順を、図4のフローチャートにしたがって説明する。なお、図2のフローチャートと同一のステップについては、同一の符号を付して詳しい説明は省略する。この実施形態の制御装置では、規範モデルPmが目標値に達してスイッチ130,140が切り換えられ、操作量付加部110が制御系から切り離されるとともに、規範モデルPmにPID制御部100の出力が入力される。これにより、外乱オブザーバ部260が、PID制御部100の補償器の積分項と、規範モデルPmの出力と制御目標Pの出力との差を補正し、目標値整定が完了する(ステップS10′)。以後、PID制御に外乱オブザーバが加味されて制御が行われる(ステップS11′)。 【0053】[実験結果]本発明の発明者らは、本発明の制御装置における目標整定能を、アンチワインドアップ非干渉化PID制御系の制御装置の目標整定能と比較して検討した。以下、その検討結果について説明する。まず、アンチワインドアップ制御の特徴について簡単に説明する。アンチワインドアップ制御とは、ワインドアップ現象問題を解決するための制御理論で、制御器がPIあるいはPIDのように構成が簡単で、積分項だけを他の項から分離して実現できる場合には、直接積分項の状態のみを操作することにより、ワインドアップ現象を抑圧できるという特徴を有している。 【0054】アンチワインドアップ制御を非干渉化PID制御装置に適用したブロック図を図5(a)に示す。この制御系では、制御対象PとPID制御器300の間に飽和特性(リミッタ制限)320が設けられ、この飽和特性320で、飽和量を超えた入力(操作量)Urとリミッタにより抑制された入力Uの差を直接PID制御器300の積分項(1/S)にフィードバックすることによって、ワインドアップを抑えている。制御対象Pにはクロスコントローラ350が接続され、状態フィードバックによる非干渉化が適用されている。押出成形機のようなプラントの制御においては、現場技術者の判断にる比例帯の調整によって、前記補償器の比例動作を決定している。発明者らは、まず、上記したアンチワインドアップ制御における適正な比例帯の限界を求めた。 【0055】最初に、アンチワインドアップを施さない一般のPID制御と非干渉化PID制御に関して検討する。この場合、シミュレーションから、比例帯は17%まで狭くすることができた。しかし、それ以上に比例帯を狭くした場合、システムは不安定となった。比例帯を17%からさらに狭くすればするほどオーバーシュートは大きくなり、目標値整定時間は長くなった。 【0056】図5(b)に、比例帯が17%の場合のPID制御と非干渉化PID制御シミュレーション結果を示す。この表からわかるように、比例帯が17%のときに比例帯の調整限界を示し、オーバーシュートは生じておらずシステムは安定している。目標値の±1℃以内に整定する時間は、非干渉化PID制御の場合45分である。これに対して、PID制御の場合は、バレル11〜13間に熱干渉が存在するため、8時間が経過しても目標値に整定することはできなかった。以下では熱干渉問題を解決するために非干渉化を施した非干渉化PID制御のみに限定して検討を行う。 【0057】アンチワインドアップ制御を非干渉化PID制御に適用し、比例帯の調整限界がどこまで狭くできるか、シミュレーションを行った。アンチワインドアップを適用した場合のシミュレーション結果を図6に示す。図5の非干渉化PID制御の場合、比例帯は17%までしか狭くできなかった。これは、操作量が飽和状態となり、PID制御器300の積分項が過剰に誤差情報を積算してしまうため、オーバシュートを引き起こしてしまうからである。アンチワインドアップ制御の適用によって、比例帯は5%まで狭くすることができた。このときバレル11,12,13は、目標値の±1℃以内に、それぞれ17分・19分・22分で目標値整定を完了する。 【0058】本発明の制御によるシミュレーション結果を図7に示す。図7に関しては、バレル11,12,13は、それぞれ22・18・20分で、目標値の±1℃以内で目標値整定を完了する。これより目標値整定に関しては、アンチワインドアップ制御と本発明の制御方法は同様な立ち上がり時間を得ていることがわかる。 【0059】[モデル変動の影響の検討]例えば熱系のプラントは,装置が設置される場所・季節・操業条件・システム変更などによってモデル変動を起こし,制御性能に大きく影響を及ぼす。そこで、発明者らは、システム同定から得られた各パラメータ変動の最大値・最小値を用いて、モデルの最大変動を表す最大値プラント・最小値プラントを作成し,モデル変動の影響を受けた場合の各制御系の応答結果を解析した。 【0060】図8と図9に、各パラメータ変動に対するアンチワインドアップ制御と本発明の制御方法における時間応答のシミュレーション結果を示す。アンチワインドアップ非干渉化PID制御の場合、モデル変動の影響を受けて目標値に整定できないケースが出てくる。特に、最大値プラントの時間応答は、図8に示すように、5℃以上の定常偏差を残している。これに対して本発明の場合は、図9に示すように、すべてのバレル11〜13において、目標値の±1℃以内に整定している。このことから本発明は、アンチワインドアップ制御に比べ、モデル変動が起ころうとも目標値整定を必ず得ることができるという利点がある。 【0061】また、本発明は、立ち上がり時間が速く、同時にロバストな制御系を構成することが分かる。これにより、外的要因を受けやすくモデル変動が起こりやすい熱系プラントにおいては、ロバストな系を持つ本発明の制御装置及び制御方法の方が適していると考えられる。 【0062】比例帯を狭めること(比例ゲインを上げること)は、ハードフェア(機械)自身に対して大きな負担を与える。同時に、ゲインが高いと制御系の感度が高まり、さまざまな雑音や外乱等に影響しやすい。このため,実際現場にて使用される比例動作は適当な比例帯幅を使用する。代表的な例では,産業用ロボットハンドにおいてゲインを高く設定して作業を行わせると、ハンドに振動が伴いながら動作する。機械自身の仕様(スペック)に対し、仕様の限界点で動作させることは好ましくない。比例帯を狭め速応性を向上させることと、ハードフェアへの負担の2点はトレードオフの関係にあると言ってよい。 【0063】アンチワインドアップ制御と本発明の制御方法は、共に同様の短い時間で目標値に立ち上がる。しかし,アンチワインドアップ制御では比例帯は5%であり、本発明の制御方法では50%である。本発明の制御方法の方が、装置自身に余裕を持たせていることから、装置に負担を与えずとも、希望する早い目標値整定が得られる長所が得られる。 【0064】シミュレーションの確認のため、テスト機において実験を行った。まず、アンチワインドアップ制御実験結果を図10に示す。操作量の飽和特性を考慮するため、比例帯は5%とした。非干渉化PIDアンチワインドアップ制御の結果、バレル11,12,13の目標値の±1%以内にする時間は、それぞれ約26・27・25分であり、早い目標値整定が得られている。 【0065】しかし、比例帯が5%であり機械自身に負担がかかっていること、また、シミュレーションから得られているようにモデル変動が生じたときに目標値整定が得られない場合がある。本実験は基礎加熱実験のため大きなモデル変動を仮定できないことから、図8の公称値プラントに対する結果に近い形となっている。実機へ適用する際は、システムの安全のため稼動方法に細心の注意が必要であることがわかる。 【0066】図11に、テスト機における本発明の制御方法実験結果を示す。比例帯は50%とした。本発明の制御方法においてバレル11,12,13における目標値の±1℃以内に整定する時間は、それぞれ約32・38・45分である。また,定常状態においても安定している。比較のために、装置自身の余裕を残した比例帯50%における非干渉化PID制御についても同様の実験を行った。これを、図11のグラフで点線で示す。バレル11,12,13のすべて2時間後においても目標値の±1℃以内に整定しない。これにより、現在使用されているPID補償器のみで構成される制御系では2時間の整定時間を要することが分かった。 【0067】本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態により何ら限定されるものではない。例えば、上記の実施形態は、熱系プラントとして溶融樹脂の押出成形を例に挙げて説明したが、本発明は押出成形に限らず射出成形にも適用が可能で、樹脂に限らず金属の押出や射出成形にも適用が可能である。また、制御対象の温度を目標値に整定させる必要のある他の熱系プラントにも本発明を適用することが可能である。さらに、シリンダの温度制御を例に挙げて説明したが、本発明は温度制御を行う必要のある他の部位にも適用が可能である。 【0068】 【発明の効果】本発明によれば、成形機の稼働開始とともに、ワインドアップを生じることなく、迅速に制御目標に到達することのできる制御装置及び制御方法を得ることができる。また、PID制御を基本としているので、熟練した作業者でなくても、また、制御に関する専門的な知識のない作業者であっても簡単に操作を行うことが可能である。さらに、従来のPID制御系に簡単な改良を加えるだけで、本発明を適用することが可能であり、低廉なコストで実施することができる。さらに、システムに変更があっても、簡単に対応することが可能である。また、機械的余裕を有し早い目標値整定が得られ、同時に定常状態において安定した制御性能が得られる。さらに、本発明は、アンチワインドアップ制御より優れたロバスト性を得ることができ、モデル変動が起ころうとも安定した温度制御を行える。
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| 【出願人】 |
【識別番号】500128446 【氏名又は名称】横山 修一 【識別番号】000000103 【氏名又は名称】株式会社池貝
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| 【出願日】 |
平成12年3月22日(2000.3.22) |
| 【代理人】 |
【識別番号】100086759 【弁理士】 【氏名又は名称】渡辺 喜平
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| 【公開番号】 |
特開2001−265408(P2001−265408A) |
| 【公開日】 |
平成13年9月28日(2001.9.28) |
| 【出願番号】 |
特願2000−80878(P2000−80878) |
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