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【発明の名称】 制御装置
【発明者】 【氏名】浜松 正典

【氏名】河野 行伸

【氏名】中島 健一

【要約】 【課題】オブザーバを用い、制御対象物の運動を高精度に制御可能な制御装置を提供する。

【解決手段】制御装置1は、飛行機や船舶などの剛体である制御対象物3の速度または位置などの運動制御を行う。制御対象物の速度は直接検出することが困難であるので、制御対象物3への推力指令値から速度を推定するオブザーバ2を備える。オブザーバ2は、速度u,v、制御対象物に作用する力Fx、Fyおよび角運動量Nを内部変数に含む非線形の運動モデルを有し、制御対象物に与えられる推力指令値から得られる力Fx,Fyおよび角運動量Nと前記運動モデルとから速度u,vを推定する。この推定した速度に基づいて制御装置1は制御対象物3の制御を行う。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 剛体である制御対象物に作用する力および角運動量と、内部変数に位置、速度、角運動量および力を含み、非線形の運動方程式で記述される制御対象物の運動モデルとから制御対象物の位置および速度、もしくは速度を推定するオブザーバを備え、オブザーバで推定した位置および速度、もしくは速度に基づいて、制御対象物の運動制御を行うことを特徴とする制御装置。
【請求項2】 流体中での制御対象物の速度と、速度に依存して制御対象物に作用する流体の抵抗力および制御対象物の位置と速度を内部変数に含み、非線形方程式で記述される抵抗モデルとから制御対象物に作用する抵抗力を推定するオブザーバを備え、オブザーバで推定した流体からの抵抗力に基づいて、流体中を運動する制御対象物の運動制御を行うことを特徴とする制御装置。
【請求項3】 制御対象物に推力指令および舵角指令を与えて制御対象物の運動制御を行う制御装置において、制御対象物に与える推力指令値および舵角指令値と、推力指令、舵角指令、および制御対象物に作用する力を内部変数に含む非線形方程式で記述される推力舵角モデルとから制御対象物に作用する力を推定するオブザーバを備え、オブザーバで推定した制御対象物に作用する力に基づいて制御対象物の運動制御を行うことを特徴とする制御装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、オブザーバ(状態推定器)を用いて制御を行う制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】制御を目的として制御対象物の状態量を得る必要がある場合、その状態量の観測が難しい場合には、通常、オブザーバ(状態推定器)を用いて状態量の推定を行う。図10は、オブザーバ2を用いた制御装置1の一例を示すブロック図であり、制御対象物3として、図9に示す飛行機を想定し、制御装置1は、制御対象物3の速度制御を行うものとする。
【0003】つまり、コントローラ4に速度が設定され、観測した速度が設定速度に一致するような推力指令値をコントローラ4で算出し、この推力指令値を制御対象物3に与えて制御対象物3の速度制御が行われる。推力指令値は、制御対象物3の直進成分と旋回成分の推力として算出され、設定速度と速度との差、およびコントローラ4に設定される制御ゲインKに基づいて算出する。
【0004】制御対象物3の運動制御を行うには、制御対象物3の速度が必要であるが、速度を直接検出することは困難である。たとえば、制御対象物3の位置を検出し、これを時間微分することによって速度を得ることは可能であるが、制御対象物の運動制御は時間的に速い制御動作であるので、位置を時間微分して得られた速度を用いる場合には、遅れが生じ、精度よく制御することは困難である。
【0005】そこで、観測可能な信号に基づいて、オブザーバ2で速度を推定する。制御対象物3の観測可能な信号として推力指令値があり、この推力指令値の直進成分から制御対象物3に働くx、y、zの3方向の力Fx、Fy、Fzが得られ、旋回成分からx、y、zの3軸まわりの角運動量L,M,Nが得られる。なお、ここでx軸は制御対象物3の前後方向であり、y軸は制御対象物3の左右方向であり、z軸は制御対象物3の上下方向とする。
【0006】つぎに、オブザーバ2による速度推定値の算出方法について説明する。オブザーバは制御対象物3の運動モデルを必要とするので、まず、運動モデルを作成する。飛行機などの剛体の運動はつぎの(1)式に示すように、変数に速度、力および角運動量を含む連立1次微分方程式であるオイラーの運動方程式で表される。
【0007】
【数1】

【0008】ここで、Fx:飛行機3に働くx軸方向の力Fy:飛行機3に働くy軸方向の力Fz:飛行機3に働くz軸方向の力u:飛行機3のx軸方向の速度v:飛行機3のy軸方向の速度ω:飛行機3のz軸方向の速度L:飛行機3のx軸まわりの角運動量M:飛行機3のy軸まわりの角運動量N:飛行機3のz軸まわりの角運動量p:飛行機3のx軸まわりの角速度q:飛行機3のy軸まわりの角速度r:飛行機3のz軸まわりの角速度【0009】
【数2】

【0010】m:飛行機3の質量Ix:飛行機3のx軸まわりの慣性モーメントIy:飛行機3のy軸まわりの慣性モーメントIz:飛行機3のz軸まわりの慣性モーメントJxy:x,z各軸に関する慣性乗数いま、式の簡単化のため、水平面運動のみ考える。
【0011】
【数3】

【0012】通常のオブザーバは、線形モデルを使用するが、(2)式は非線形であるため、(2)式を線形化する必要がある。そのために(2)式をある定常状態で近似線形化する。たとえば通常、飛行機はx軸方向のみに飛行するので、x軸方向に速度u0で飛行する定常状態(u0,0,0)まわりで近似する。これによって(2)式は次の(3)式となる。
【0013】
【数4】

【0014】このように線形化することによって、図11に示すように制御対象物3の運動モデルを作成することができる。したがって、この運動モデルと、制御対象物3に作用するx、y軸方向の力Fx,Fyおよびz軸まわりの角運動量Nとからx,y軸方向の速度u,vおよびz軸まわりの角速度rを推定でき、これを用いて制御対象物3の速度制御を行うことができる。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述した制御では速度u0の定常状態まわりで飛行する場合を想定しているので、たとえば急旋回時など、定常状態を外れる場合にはオブザーバ2で推定する速度と実際の速度とが大きく外れることがあり、精度よく状態推定が行えないといった問題を有する。
【0016】また、他の従来技術である特開昭60−209820号公報「船舶の船位保持制御方法」には、線形オブザーバを用いて船位および船速を推定する方法が開示されている。この方法でも、上述した方法と同様に、オブザーバの運動モデルのパラメータが定数であるため、船体の状態変動に対しての対応が取れないといった問題を有する。
【0017】また、非線形モデルで状態推定を行う制御装置の従来技術である特開平8−68849号公報「船舶の航法装置」には、カルマンフィルタを用いて船位および船速を推定する方法が開示されている。この方法では、非線形モデルを常時線形化し、モデルのアップデートを行いっているが、厳密な非線形モデルを用いて推定しているのではないため、推定精度があまり高くないといった問題を有する。
【0018】また、制御対象が船舶など、流体中を運動するものである場合は、船の速度に依存する走行抵抗を受ける。したがって、このような抵抗力を受ける制御対象物を運動制御する場合は、走行抵抗を考慮して制御する必要があるが、走行抵抗を直接検出することは難しい。したがって、このような場合、図12に示すように、抵抗モデルを有する抵抗オブザーバ5を用いて抵抗力を推定し、この推定した抵抗力を運動モデルに与えられる力Fx,Fy,Nから減算し、制御対象物に作用する力を補正して運動制御を行う方法が考えられる。
【0019】抵抗モデルは内部変数に速度および抵抗力を含む非線形方程式で表されるので、従来は、制御対象物がある定常状態の速度(u0,v0,r0)まわりで近似線形化を行い、定係数のゲインマトリックスで記述される抵抗モデルを作成していた。しかしながら、この場合も前述と同様に、制御対象物の速度が定常状態から大きく外れた場合は、走行抵抗を正確に推測できないといった問題を有する。
【0020】また、たとえば特開平3−243190号公報「機械系の制御装置」には、負荷を駆動するモータのモデルに非線形摩擦の特性を持たせる方式が開示されているが、非線形要素が摩擦に特定されており、流体中で運動する制御対象物に作用する走行抵抗に適用することは困難である。
【0021】本発明の目的は、オブザーバを用い、制御対象物の運動を高精度に制御可能な制御装置を提供することである。
【0022】
【課題を解決するための手段】請求項1記載の本発明は、剛体である制御対象物に作用する力および角運動量と、内部変数に位置、速度、角運動量および力を含み、非線形の運動方程式で記述される制御対象物の運動モデルとから制御対象物の位置および速度、もしくは速度を推定するオブザーバを備え、オブザーバで推定した位置および速度、もしくは速度に基づいて、制御対象物の運動制御を行うことを特徴とする制御装置である。
【0023】本発明に従えば、制御装置は、制御対象物の位置または速度などの運動制御を、オブザーバを用いて行う。オブザーバは運動モデルを有し、運動モデルは内部変数に速度、力および角運動量を含む非線形の運動方程式で記述される。制御対象物に作用する力および角運動量は、たとえば制御対象物に与える推力指令値から得ることができ、オブザーバは、得られた力および角運動量を直接運動モデルに代入して制御対象物の速度を算出する。
【0024】つまり、前進速度u、左右速度v、上下速度wを、予め定める定常状態として固定し、定常状態まわりで近似線形化を行うのでなく、速度u,v,wを内部変数として含む非線形の運動モデルをそのまま用いるので、制御対象物が定常状態にあるか否かにかかわらず、制御対象物の速度を常に高精度に推定することができる。これによって良好に運動制御を行うことができる。
【0025】請求項2記載の本発明は、流体中での制御対象物の速度と、速度に依存して制御対象物に作用する流体の抵抗力および制御対象物の位置と速度を内部変数に含み、非線形方程式で記述される抵抗モデルとから制御対象物に作用する抵抗力を推定するオブザーバを備え、オブザーバで推定した流体からの抵抗力に基づいて、流体中を運動する制御対象物の運動制御を行うことを特徴とする制御装置である。
【0026】本発明に従えば、非線形で記述される抵抗モデルを、定常状態速度(u0,v0,r0)まわりで近似線形化することなく、非線形モデルに直接速度を代入して抵抗を算出するので、制御対象物が定常状態にあるか否かにかかわらず、高精度に抵抗を推定することができる。これによって良好に運動制御を行うことができる。
【0027】請求項3記載の本発明は、制御対象物に推力指令および舵角指令を与えて制御対象物の運動制御を行う制御装置において、制御対象物に与える推力指令値および舵角指令値と、推力指令、舵角指令、および制御対象物に作用する力を内部変数に含む非線形方程式で記述される推力舵角モデルとから制御対象物に作用する力を推定するオブザーバを備え、オブザーバで推定した制御対象物に作用する力に基づいて制御対象物の運動制御を行うことを特徴とする制御装置である。
【0028】本発明に従えば、制御対象物はたとえば船舶であり、たとえばコントローラからの移動指令を推力指令値と舵角指令値とに配分し、これらの指令値によって位置または速度などの運動制御が行われる。制御装置が、たとえば船体に作用する力に基づいて速度を推定する船体オブザーバを備える場合、このオブザーバに、船体に作用する正確な力を与える必要がある。しかしながら、船体に作用する力を直接観測することは困難である。
【0029】そこで、本発明では、推力舵角モデルを有し、舵各指令値と推力指令値とから船体に作用する力を推定するオブザーバを設け、これに基づいて船体の運動制御を行う。これによって、高精度に制御を行うことができる。また、推力舵角モデルは、非線形方程式で記述されるが、たとえば定常状態の推力、舵角まわりで近似線形化せず、推力指令、舵角指令、力を内部変数として含む非線形方程式に、直接推力指令値、舵角指令値を与えて船体に作用する力を算出するので、高精度に力を推定でき、船体の運動制御を良好に行うことができる。
【0030】
【発明の実施の形態】つぎに、本発明の実施の一形態の制御装置1について説明する。なお、本実施形態の制御装置1の前提とする構成は、図9および図10で説明したものと同一のものとし、オブザーバ2の運動モデルの中身だけが異なるものとする。ただし、運動モデルの基礎とする式は、前述した式(1)で表されるものとする。そして、前述と同様に、式の簡略化のため、水平面の運動のみを考え、前述の式(2)を得る。
【0031】式(2)は、内部変数に前後方向(x軸)の力Fx、左右方向(y軸)の力Fyおよび上下方向の軸線(z軸)まわりの角運動量N、前後方向速度u、左右方向速度v、z軸まわりの角速度rを含む非線形の連立1次微分方程式である。前述したように、従来は、この式(2)を、速度u0で飛行する定常状態(u0,0,0)まわりで近似線形化して式(3)を作成し、この式(3)を運動モデルとして図11に示すオブザーバモデルを作成していた。つまり、つねに横方向yには速度が生じないものとしていた。
【0032】これに対し、本発明では、式(2)を線形化することなく、式(2)をそのまま運動モデルとし、この運動モデルから図1に示すオブザーバモデルを作成する。式(2)から分かるように、本発明の運動モデルには内部変数として前後方向速度uおよび左右方向速度v、およびz軸まわりの角速度rを含み、図1のブロック図に示すように、推定する速度u,v,rは、算出した速度u、v、rを用いて算出される。つまり、速度u,v,rは予め固定されているのでなく、飛行機の状態に応じて変化する。したがって、たとえば急旋回時など横方向(y軸)に速度が生じ、定常状態から大きく外れる場合であっても速度u、v、rを正確に算出することができる。これによって制御装置1は高精度に速度制御を行うことができる。
【0033】本実施形態では、制御装置1のコントローラ4は、オブザーバ2で推定した速度と、コントローラ4に設定される速度との基づいて速度制御するように構成されるが、たとえばGPS(global positioning system)によって位置を検出し、検出した位置および推定した速度に基づいて位置速度制御するように構成してもよい。
【0034】また、速度推定に用いる観測可能な力および角運動量は、本実施形態では、制御対象物に与える推力指令値から得るように構成したので、現在速度を迅速に推定することができるが、このように推力指令値を用いる場合に限らず、たとえば制御対象物に加速度および角加速度を検出するセンサを設け、検出したこれらの加速度と制御対象物の質量とから制御対象物に作用する力および角運動量を算出し、これを用いるようにしてもよい。
【0035】また、本実施形態では制御対象物は飛行機を想定したが、本発明はこれに限らず、船舶、潜水艇、宇宙機、ロボットなど、剛体の運動制御であれば適用可能である。また、運動制御は、速度制御に限らず、位置制御、または姿勢制御なども含む。また、本実施形態では、式の簡略化のため水平面運動のみを説明したが、これに限らず、3次元で運動する剛体の制御にも適用可能である。この場合は、前述した式(1)を運動モデルとする。
【0036】次に、本発明の他の実施形態である流体中を運動する制御対象物を制御するの制御装置10について説明する。たとえば船舶など、水に浮かんで走行する制御対象物は、走行速度に依存する抵抗を水から受けるので、この抵抗力を考慮して制御する必要がある。
【0037】図2は、抵抗オブザーバ11を備える制御装置10の構成を示すブロック図であり、図3は船体13に対する速度u,v,rを示す図である。この制御装置10では、コントローラ12から船体13に推力指令を与えて船体13の運動制御を行う。推力指令は前後方向推力Fx、左右方向推力Fy、旋回方向の角運動量(z軸まわりの角運動量)Nとして与えられる。また、船体13の位置x,yはGPSで検出され、方位角θはジャイロで検出される。速度は、直接検出することが困難であるので、船体モデルを有する船体オブザーバ14で前後方向速度u、左右方向速度v、旋回速度(z軸まわりの角速度)rを推定する。なお、このオブザーバ14は、前述した非線形モデルを有するオブザーバとする。つまり、水平面での剛体の運動を示す式(2)を運動モデルとする。そして、コントローラ12では、検出した位置x,y,θと、推定した速度u,v,rとに基づいて、船体13の運動制御を行う。つまり、コントローラ11には船体の位置、方位および速度が設定され、設定位置を、設定方位および設定速度で通過するように制御する。
【0038】前述したように、走行する船体13は速度に依存した抵抗を受けるので、この抵抗を考慮して速度を推定する必要がある。そのために、本実施形態では、抵抗モデルを有する抵抗オブザーバ11を設けて、船体オブザーバ11で推定した速度u,v,rに基づいて船体に作用する前後方向の抵抗力XH、左右方向の抵抗力YH、旋回方向の角運動量NHを推定し、これらを推力指令から得られた力Fx,Fy,Nから減算して船体オブザーバ14に与える。これによって、走行抵抗を考慮した速度u,v,rを推定することができ、高精度に船体13の位置制御を行うことができる。
【0039】つぎに、抵抗モデルについて説明する。抵抗モデルは、理想流体力、粘性流体力、誘導抗力、クロスフロー直圧力、クロスフロー揚力(船体前後非対称揚力)、および船体前後摩擦抗力の6つの流体力要素成分と、失速影響とを考慮し、流体から受ける抵抗力をX,Y,Nの3分力に分け、無次元化して作成する。
【0040】理想流体力は、流体に粘性がなく、自由表面影響を無視できる場合の流体力である。また、翼理論では、流体に粘性があるとき、拘束渦が翼面内に誘起され、この拘束渦によって揚力が生じる。粘性揚力は、理想流体からの揚力の増減分である。また、誘導抗力は、拘束渦の翼端流出渦に起因するものである。また、クロスフロー直圧力は、クロスフロー(船体横断仮想流)による直圧力であり、クロスフロー揚力は、クロスフローの流向に対して垂直に働く前後力であり、船体が前後非対称である場合に生じる。また、船体前後摩擦抗力は、船体の受ける摩擦抵抗であり、これはとくに船の前進速度が低い場合に船体抵抗の大部分を占める。また、失速影響は、失速時に粘性揚力の減少と誘導抗力の増加が船体前後方向になると仮定し、粘性揚力微係数および誘導抗力微係数をを補正するものである。これらを考慮すると、船体の抵抗モデルは次の(4)式で表される。
【0041】
【数5】

【0042】
【数6】

【0043】
【数7】

【0044】
【数8】

【0045】ここで、ρ :水の密度Lpp:垂線間長d :平均吃水U :船体中央における船速β :船体中央における横流れ角C’Ll,C’Lt :翼前縁および後縁での無次元揚力微係数C’Dil,C’Dit:翼前縁および後縁での無次元誘導抗力微係数CD90 :横行時のクロスフロー抗力係数Ci0,Cv0 :斜航時の誘導抗力、粘性揚力における翼の前後縁に対する力の配分を表す係数ΔCL,ΔCDi :前後力の粘性揚力微係数および誘導抗力微係数C’Di=C’Dit+C’DilC’L=C’Lt+C’Ll【0046】
【数9】

【0047】
【数10】

【0048】
【数11】

【0049】
【数12】

【0050】上記した(4)式は、非線形連立方程式であるが、本発明ではこれを線形化せず、この式(4)をそのまま抵抗モデルとして用いる。つまり、船体オブザーバ14で推定した前後速度u、左右速度vおよび旋回方向の角速度rを上記(4)式に代入して流体から船体に作用する前後方向の抵抗力XH、左右方向の抵抗力YH、旋回方向の角運動量NHを推定する。そして、コントローラ12から船体オブザーバ14に与える推力指令の前後方向推力Fx、左右方向推力Fy、旋回方向の角運動量Nから、抵抗オブザーバ14で推定した力XH,YH,NHをそれぞれ減算して船体オブザーバ14に与える。
【0051】これによって、船体オブザーバ14は、流体から受ける抵抗力を考慮した船体速度u,v,rを推定することができる。これによって、制御装置10は高精度に制御することが可能である。また、抵抗オブザーバ11は、定常状態まわりで近似線形化せず、内部変数に速度u,v,rを含む非線形連立方程式をそのまま用いるので、船の運動が定常状態から大きく外れるよぅな場合であっても、精度良く流体から受ける抵抗を推定することができる。
【0052】本実施形態では、船体オブザーバに非線形船体モデルを用いる場合について説明したが、本発明はこれに限らず、線形モデルの船体オブザーバに本発明の非線形抵抗オブザーバを適用するように構成してもよく、また、船体オブザーバを用いず直接検出した制御対象物の速度を用いて抵抗力を推定する場合にも適用可能である。
【0053】次に、推力舵角オブザーバを備える本発明の他の実施形態の制御装置20について説明する。図4は、制御装置20の構成を示すブロック図であり、制御装置20は、制御対象物である船22の運動制御を行う。本実施形態では、制御装置21は船22が洋上で定点保持するように制御するものとする。
【0054】つまり、コントローラ21には所定の位置および方位が設定されており、GPSで検出した船体22の位置x、yおよびジャイロで検出した船体22の方位θと偏差、船体オブザーバ25で推定した船22の前後方向速度u、左右方向速度v、旋回方向角速度r、および制御ゲインKに基づいて、位置および方位の偏差が0となり、船の速度u,v,rが0となるような移動指令をコントローラ21は算出する。移動指令は、船体を移動および旋回させるための指令値であり、推力配分器23は、移動指令値を推力指令値と舵角指令値とに分ける。推力指令値は船22のスラスタ(推進機)に与えられ、舵角指令値は船22のラダー(舵)に与えられ、船22の位置および方位が調整される。このようにして、船体22は、所定位置に所定方位角で停止するように制御される。
【0055】コントローラ21に与えられる推定速度u,v,rは船体オブザーバ25で算出される。この船体オブザーバ25は、前述した船体オブザーバと同様であり、式(2)で表される非線形船体モデルを有する。したがって、船体オブザーバ25は、船体22に作用する前後方向の力Fx、左右方向の力Fy、および旋回方向の角運動量Nを必要とする。これらの力も直接観測することが困難であるので、本発明では、推力配分器23からの推力指令値および舵角指令値に基づいて力Fx,Fy,Nを算出する推力舵角オブザーバ24を設ける。推力舵角オブザーバ24は、内部変数として推力指令、舵角指令および力Fx,Fy,Nを含む推力舵角モデルを有し、この推力舵角モデルと舵角指令値および推力指令値とから力Fx,Fy,Nを推定する。そして、この推定した力Fx,Fy,Nに基づいて、船体オブザーバ25は速度を推定する。
【0056】次に、推力舵角オブザーバ24の推力舵角モデルについて説明する。本実施形態の船22は、洋上での定点保持を目的としており、通常のプロペラ、ラダーと配置構成が異なっており、船体後部の左右舷後部にプロペラが1基ずつ設けられ、その後方にラダーが1基ずつ設けられ、さらに船首に左右方向に推力を発生させるプロペラ(バウスラスタ)1基が装備されている。したがって、推力舵角オブザーバ24の推力舵角モデルは、スラスタモデル、舵モデル、およびバウスラスタモデルとに分けられる。
【0057】まず、スラスタモデルについて説明する。図5に示すように、船体22の左右舷後部には、1基ずつCPP(可変ピッチプロペラ)が装備されている。左右舷プロペラピッチ角をそれぞれθP,θSとする。
【0058】左舷プロペラ推力TPP、右舷プロペラ推力TPSより、・前後方向推力(XP
u≧0の場合XP = (TPS+TPP)(1−tAH) …(5)
u<0の場合XP= (TPS+TPP)(1−tAS) …(5’)
・左右方向推力(YP
P = 0 …(6)
・旋回方向推力(NP
u≧0の場合 NP = (TPP−TPS)(1−tAH)LP …(7)
u<0の場合 NP= (TPP−TPS)(1−tAS)LP …(7’)
ここで、tAH,tAS:補正係数u:前後方向速度LP:重心から推力作用点までのY方向距離・プロペラ推力TPP = CtPP(θP)NPP2PS = CtPS(θS)NPS2CtPP:左舷補正係数。θPの関数となる。
CtPS:右舷補正係数。θSの関数となる。
PP:左舷プロペラ回転数NPS:右舷プロペラ回転数【0059】したがって、上記した式(5)〜(7’)がスラスタモデルとなる。これらの式から前後方向推力前後方向推力XP、左右方向推力YP、旋回方向推力NPが推定される。これらの式は非線形であるが、本発明では線形化を行わず、そのままスラスタモデルとして用いる。
【0060】次に、図6を参照して舵モデルについて説明する。また、左右舷舵角をそれぞれδP、δSとする。
【0061】・前後方向舵力(XR
R = XRP+XRS…(8)
RP = −FNPsin(δP)・CRXRS = −FNSsin(δS)・CRX・左右方向舵力(YR
R = YRP+YRS…(9)
RP = −FNPcos(δP)・CRYRS = −FNScos(δS)・CRY・旋回方向舵力(NR
R = NRP+NRS…(10)
RP ={FNPsin(δP)・LYRP+FNPcos(δP)・LXRP}・CRNRS ={FNSsin(δS)・LYRS+FNScos(δS)・LXRS}・CRN・舵力はプロペラ推力(TPP,TPS)、舵角(δP,δS)の関数となる。
NP = f(TPP,δP
NS = f(TPS,δS
RX,LRY:重心から舵力作動点までのX,Y方向の距離舵力作動点座標:左舷(LXRP,LYRP)=(−LRX,−LRY
右舷(LXRS,LYRS)=(−LRX,+LRY
RX,CRY,CRN:舵と船体の干渉係数【0062】したがって上記した式(8)〜(10)が舵モデルとなる。これらの式から前後方向舵力XR、左右方向舵力YR、旋回方向舵力NRが推定される。この舵モデルも非線形方程式で表されるが、ここでも線形化せず、非線形のまま用いる。
【0063】次に、図7を参照して、バウスラスタモデルについて説明する。船体22には、船体前部に左右方向に推力を発生させる可変ピッチプロペラ(バウスラスタ)が装備される。バウスラスタプロペラピッチ角をδBとする。
【0064】・前後方向推力(XB
B = 0…(11)
・左右方向推力(YB
B = YB’TB…(12)
・旋回方向推力(NB
B = YBB’LB…(13)
B’:バウスラスタ推力係数、LB’:モーメントレバー係数・バウスラスタ推力TB = CBδBB:推力係数【0065】したがって、上記式(11)〜(13)がバウスラスタモデルとなる。これらの式から前後方向推力XB、左右方向推力YB、旋回方向推力NBが推定される。このバウスラスタモデルも非線形となるが、ここでも線形化せず、非線形のまま用いる。
【0066】このようにして、推力舵角舵角オブザーバ24で推定した力を用いて船体オブザーバ25は速度を推定するが、本実施形態では、船体オブザーバ25は、GPSで検出した位置x,yおよびジャイロで検出した方位角θとを用いて船体オブザーバ25の船体モデルを修正する。
【0067】図8は、前後方向xの位置に基づいて船体モデルを修正するときの方法を示すブロック図である。船体モデルでは入力された前後方向の力Fxを積分器30で積分することによって推定速度^vを算出し、されに積分器31で積分することによって、推定位置^xを算出する。GPSによって船体22の位置は検出可能であるので、検出した船体22の前後方向の位置xと、推定した位置^xとを減算器32で減算して偏差eを算出する。そして算出した偏差eにゲインLを乗じて、各積分器30,31の積分係数31a,32aを補正する。このようにして、船体モデルが補正され、速度を高精度に推定することができる。また、左右方向yの位置に関しても同様にGPSで検出した左右方向の位置を用いて船体モデルが補正され、また、方位角θに関してもジャイロで検出した方位角θに基づいて船体モデルを補正する。このようにして船体オブザーバを補正することによって、さらに高精度に速度を推定することができる。
【0068】さらに、本実施形態の船体オブザーバ25に、図2で説明した抵抗オブザーバ11を適用するように構成してもよい。
【0069】本実施形態の船は洋上での定点保持を目的とするものであるが、本発明はこのような船に限らず、後部にプロペラおよびラダーを1基ずつ設け、プロペラで推力を発生し、ラダーで操舵して航行する通常の船舶にも適用することが可能である。
【0070】またさらに、本発明の推力舵角オブザーバは船舶の制御に限らず、推力を舵角とで制御対象物の運動制御を行う制御装置であれば適用可能でありたとえば潜水艇などにも適用可能である。
【0071】
【発明の効果】請求項1記載の本発明によれば、内部変数に速度、力および角運動量を含む非線形の運動方程式で記述される非線形モデルを有するオブザーバを用い、従来技術のように定常状態まわりで近似線形化を行わないので、制御対象物が定常状態にあるか否かにかかわらず、制御対象物の速度を常に高精度に推定することができる。これによって良好に運動制御を行うことができる。
【0072】請求項2記載の本発明によれば、非線形で記述される抵抗モデルを、定常状態速度(u0,v0,r0)まわりで近似線形化することなく、非線形抵抗モデルをそのまま用いて抵抗力を推定するので、制御対象物が定常状態にあるか否かにかかわらず、高精度に抵抗を推定することができる。これによって良好に運動制御を行うことができる。
【0073】請求項3記載の本発明によれば、推力舵角モデルを有し、舵各指令値と推力指令値とから船体に作用する力を推定するオブザーバを設け、これに基づいて船体の運動制御を行う。これによって、高精度に制御を行うことができる。また、推力舵角モデルは、非線形方程式で記述されるが、たとえば定常状態の推力、舵角まわりで近似線形化せず、推力指令、舵角指令、力を内部変数として含む非線形方程式に、推力指令値、舵角指令値を与えて船体に作用する力を推定するので、高精度に力を推定でき、良好に船体の運動制御を行うことができる。
【出願人】 【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
【出願日】 平成12年3月17日(2000.3.17)
【代理人】 【識別番号】100075557
【弁理士】
【氏名又は名称】西教 圭一郎 (外3名)
【公開番号】 特開2001−265406(P2001−265406A)
【公開日】 平成13年9月28日(2001.9.28)
【出願番号】 特願2000−75566(P2000−75566)