| 【発明の名称】 |
ホログラム記録媒体 |
| 【発明者】 |
【氏名】池田 富樹
【氏名】山本 貴広
|
| 【要約】 |
【課題】屈折率変調を利用した高回折効率のホログラム記録媒体を得る。
【解決手段】式(I) |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 式(I) 【化1】
(式中、Rは、Hもしくはアルキル基、Xはアルキル、アルコキシ、シアノもしくはニトロ基、mは1〜20、nは重合度を示す。)で表わされる高分子アゾベンゼン液晶をホログラム記録材料として用いてなるホログラム記録媒体。 【請求項2】 一般式(I)において、Rがメチル基、Xがエトキシ基、mが6である請求項1記載のホログラム記録媒体。
|
【発明の詳細な説明】【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、ホログラム記録媒体に関し、さらに詳しくは、高分子アゾベンゼン液晶を用いたホログラム記録媒体に関する。 【0002】 【従来の技術】近未来に到来する高度情報化社会では、場所・時間を問わずリアルタイムでストレスなく必要な情報を選択、記録・表示でき、かつ双方向情報伝達に基づく各種サービス(超高速光情報検索)を享受できなければならない。特に情報量の多い画像情報については、従来の技術に代わる新しいシステムの構築が求められている。そして、従来原理に基づくデバイスの工夫や既存の記録媒体の改良では限界があることは容易に想像がつく。このような社会的背景において、最近、記録密度の飛躍的な向上を目指して、次世代記録技術としてのホログラフィーが注目されている。 【0003】ホログラフィーは「干渉・回折」という光の波動性を利用して情報を記録する技術であり、完全な3次元画像の記録・再生ができる唯一の技術である。また、いかなる情報も干渉縞という形で記録でき(デジタル化)、多重記録も可能であるため高密度光情報記録の一つのアプローチとして期待されている。このような光の関与する情報の処理・記録技術は、「フォトニクス」という用語で総称される。フォトニクスとは光技術を支える光子のプロセスであり、光通信はフォトニクスに基づく情報処理の代表例である。光は電子と比較して波長・偏光・位相など独立した多くの物理量を持っており、エレクトロニクス(電子のプロセス)と比較すると、取り扱うことのできる情報量は飛躍的に増加する。フォトニクスが、21世紀の情報処理技術として注目される理由はここにある。とりわけ、ホログラフィーは光の波動性を巧みに利用しており、その有用性は疑う余地がない。 【0004】ホログラフィーの歴史は、1948年、英国の物理学者ガボール(D.Gabor )によって波面の記録技術として発明されたときにさかのぼる(D.Gabor: Nature,Vol.161, p.777 (1948))。しかし当時は干渉性のよい光源がなく、ホログラフィーの研究が盛んになったのは1960年にレーザーが発明されてからである。一般的なホログラム記録・再生の方法は、リース(E.N.Leith )とウパトニークス(J.Upatonieks)によって1962年に提案された「二光束法」である(E.N.Leith, J.Upatonieks: J.Opt.Soc.Am., Vol.52, p.1123 (1962) 等)。すなわち、まず、コヒーレント光であるレーザー光を二つに分け、一方を参照光とし、他方は物体光とする。記録材料に直接入射する参照光と、物体から反射する光(物体光)が記録材料表面で交差(干渉)して干渉縞が形成される。この干渉縞を記録したものがホログラムである。記録した像の再生は、参照光と同じ光(再生照明光)をホログラムに照射することによって行われ、記録時の方向に物体が浮かびあがる。このように、ホログラムには物体の明るさに関する情報(振幅)とどの方向から光が伝搬してきたかという情報(位相)が含まれている。別の表現をすれば、ホログラムは従来の写真のように物体の像そのものをフィルムに記録したものではなく、参照光を導入することにより、物体から伝搬してくる光そのものを干渉縞の形で凍結して記録したものといえる。 【0005】このためホログラム記録材料には、写真用感光材料とは異なった特性が要求される。以下にホログラム材料に最低限必要とされる特性を列挙する。 1.再生照明光を効率よく回折することができる(高回折効率) 2.干渉縞を忠実に記録することができる(高解像力) 3.S/N比が高い4.耐光性や耐熱性・耐湿性に優れているここに示した特性のうち、回折効率はホログラム記録において材料を評価する最も重要な特性である。ホログラムは干渉縞の記録方式によって2つに分類することができる。一つは振幅ホログラムと呼ばれ、材料中に透過率の周期的な変化を誘起する。もう一つは位相ホログラムであり、表面形状や屈折率の変化を利用している。回折効率の点から両者を比較すると、位相ホログラムは振幅ホログラムよりも回折効率が高いことが知られている。解像力に関しては、記録材料との間に明確な関係は報告されておらず、言及することはできない。しかし回折効率は位相ホログラムにおいて、1)記録材料の厚み、2)屈折率の変調度、そして3)凹凸の深さと形状に依存することが知られている。したがって材料の厚みが一定のとき屈折率変調もしくは凹凸変化の大きい材料を使用すればよいことがわかる。 【0006】近年、液晶材料を用いたホログラフィーに関する研究が数多く報告されている。液晶は、棒状あるいは円盤状の有機分子が作る特殊な液体状態であり、ミリメートルに及ぶマクロ領域にわたって分子が向きを揃え、結晶に匹敵する高い配向秩序を保つところにその特徴がある。液体に埋め込まれた分子配向の柔らかい秩序は、外部電場や界面状態に敏感に応答してその向きを変えることができる。この性質を活用した液晶ディスプレイは、液晶の用途を大きく広げた。液晶の特性の中で、分子形状や配向に由来する屈折率異方性は非常に大きく、>10-1であることが知られている。これを光で制御することができれば、液晶ホログラム材料の構築が可能となる。ホログラフィーにおいて液晶材料が注目される理由はこのためである。しかしながら、液晶は基本的に光に対して応答性はなく、光応答性化合物の導入が必須である。光応答性化合物としては、光により吸収スペクトルが変化するフォトクロミック化合物をはじめとして様々な化合物が検討されている。また、ホログラム記録のメカニズムは、従来の二次元情報を対象とした光記録と同様にヒートモードとフォトンモードに分けることができる。 【0007】例えば低分子液晶では、コレステリック液晶中にアントラキノンを混合した系でヒートモードによる回折格子形成が報告されている(H.J.Eichler, G.Heppke,R.Macdonald, H.Schmid: Mol.Cryst.Liq.Cryst., Vol.223, p.159 (1992) 等)。回折効率は10%程度である。その他、合成が比較的容易であるという利点から、コレステリック相だけでなくネマチック相(Elschner, R.Macdonald: Mol.Cryst.Liq.Cryst., Vol.282, p.107 (1996))やフタロシアニン誘導体から構成されるディスコチック相(Contzen, G.Heppke, H.-S.Kitzerow, H.Schmid: Appl.Phys., Vol.63, p.605 (1996))においてもヒートモードによる回折格子形成が検討されている。また、Brady らは、ネマチック液晶中にアゾ色素であるメチルレッドを混合した液晶セル(厚さ〜100μm)を用い、フォトンモードによる回折格子形成と回折光のスイッチング挙動を検討した(A.G.-S.Chen, D.J.Brady:Opt.Lett., Vol.17, p.441 (1992)等)。一般に、低分子液晶は高分子液晶に比べて粘性が低い(流動性が大きい)。そのため露光中も液晶分子が熱的に拡散してしまい、1mmあたりに記録される干渉縞の本数は20〜200本程度である。また、露光を止めると、回折格子は次第に消失してしまう。したがって低分子液晶はホログラム記録ではなく、回折光のスイッチングという観点から研究されている。 【0008】低分子液晶とは逆に、高分子液晶は記録の観点から盛んに研究されており、現在の社会的要求に応える形であると言うことができる。高分子物質の示す特性のひとつにガラス転移がある。ガラス転移点(Tg )以下ではセグメントの運動が凍結されるため、アモルファス状態となる。高分子液晶の場合、液晶相からTg以下まで徐冷するとガラス転移によってメソゲンの運動が抑制されるので、配向状態を維持したまま複屈折性を示すガラス状態になる。高分子液晶のガラス状態を積極的に利用することで、記録において重要となる情報のメモリー性という課題を克服できる。Wendorffらは、光応答部位としてアゾベンゼン部位を有する側鎖型高分子液晶のセル(厚さ〜7μm)を用いて、偏光照射によるホログラム記録をガラス状態で行った(M.Eich, J.H.Wendorff, B.Reck, H.Ringsdorf: Makromol.Chem., Rapid Commun., Vol.8, p.59 (1987)等)。回折効率は50%に達し、1mmあたり3,000本以上の干渉縞を記録することができた。記録された画像は、室温(<Tg )において安定に保存される。画像の消去はTg 以上に加熱するだけでよく、繰り返し記録が可能であった。この報告をきっかけに、高分子液晶を用いたホログラム記録の研究が数多く報告されるようになった。一方で、Natansohn とTripathyらは非液晶性のアゾベンゼン高分子フィルムを用いガラス状態において回折格子を記録すると、フィルム表面に約100nmに達する周期的な凹凸構造(表面レリーフ型回折格子、Fig.1-2 (B) )が形成されることをほぼ同じ時期に報告した(P.Rochon, E.Batalla, A.Natansohn: Appl.Phys.Lett., Vol.66, p.136 (1995) 等。D.Y.Kim, S.K.Tripathy, L.Li, J.Kumar: Appl.Phys.Lett., Vol.66, p.1166 (1995)等)。その後、高分子液晶を用いた場合もガラス状態においては表面レリーフ型回折格子の形成が確認され、現在の研究の主流となっている。そのため、屈折率変調を利用した回折格子形成については、ほとんど議論されていない。 【0009】ところでフォトクロミック化合物の一つであるアゾベンゼン分子は、室温・暗所では熱的に安定な棒状のトランス体として存在し、液晶相を発現するメソゲンとなりうる。実際にアゾベンゼン部位の両端に適当な置換基を導入した誘導体は、液晶性を発現することが広く知られている。ここで、アゾベンゼン誘導体が吸収する波長の光を照射すると、アゾベンゼン誘導体は屈曲したシス体へと異性化する。このシス体は分子形状が元のトランス体とは大きく異なるため、液晶相中では不純物として振る舞う。その結果、液晶相を不安定化し、最終的には等温的な等方相への相転移を誘起する。この相転移現象は光相転移と呼ばれ、フォトニクスを目指した光−光制御を構築する手段として詳細に検討されてきた。光相転移の特徴は、>10-1の屈折率変調を光で誘起できることである。すなわち、この手法を用いれば、前記の液晶の相転移とは異なるメカニズムに基づく回折格子形成と高回折効率を期待できると考えられるが、現時点では得られていない。 【0010】 【発明が解決しようとする課題】本発明は、屈折率変調を利用した高回折効率のホログラム記録媒体を得ることを課題とする。 【0011】 【課題を解決するための手段】本発明者は、上記課題を解決するために、種々の検討を行ない、本発明に到達した。すなわち、本発明の要旨は、式(I) 【0012】 【化2】
【0013】(式中、Rは、Hもしくはアルキル基、Xはアルキル、アルコキシ、シアノもしくはニトロ基、mは1〜20、nは重合度を示す。)で表わされる高分子アゾベンゼン液晶をホログラム記録材料として用いてなるホログラム記録媒体、にある。 【0014】 【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。本発明において用いられる高分子アゾベンゼン液晶は、上記式(I)で表わされる。式中、RはHもしくはアルキル基、好ましくは炭素数1〜6の低級アルキル基、Xはアルキル、アルコキシ、シアノもしくはニトロ基を示し、該アルキルおよびアルコキシ基は、通常炭素数1〜6程度、好ましくは1〜3から選ばれる。mは1〜20、好ましくは3〜11であり、nは重合度である。 【0015】このような高分子アゾベンゼン液晶は、対応する低分子アゾベンゼンより常法によって得ることができる。得られる高分子アゾベンゼン液晶は、たとえばXがエトキシ基、Rがメチル基、mが6である場合、Mw =79,000,Mw /Mn =4.4,Tg =68℃であり、68℃〜150℃の温度範囲においてネオマチック相を発現する。また、Xがエトキシ基、Rが水素、mが6である場合、Mn =9,100,Mw /Mn =1.3,Tg =45℃である。 【0016】本発明の高分子アゾベンゼン液晶は、後述するように、光異性化に基づく液晶の等温的な相転移(光相転移)による回折現象が、屈折率の周期的な変化に支配されており、かつ回折効率を著しく向上することができる。本発明においては、このような高分子アゾベンゼン液晶をホログラム記録材料として、常法によりホログラム記録媒体を構成することができ、ホログラムが本発明の高分子アゾベンゼン液晶薄膜中に記録される。 【0017】以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。 【0018】 【実施例】1.高分子アゾベンゼン液晶式(I)において、X=OC2 H5 ,R=CH3 ,m=6の液晶(PM6AB2)を用いた(式(I′))。 【0019】 【化3】
【0020】PM6AB2は液晶性を示すアゾベンゼン誘導体から構成され、68℃から150℃の温度範囲においてネマチック相を発現した。測定用のフィルム(厚さ:500〜600nm)は、ポリイミドを塗布しラビング処理を施したガラス基板上に、PM6AB2のTHF(テトラヒドロフラン)溶液をキャストすることにより調製した。 2.光学系および諸条件(1)回折格子形成は、図1に示す光学系を用いて行った(1:ビームスプリッター、2:偏光解消板、3:レンズ、4:鏡、5:偏光子、6:フォトダイオード、7:ピンホール、8:試料)。Ar+ レーザーの488nmの非偏光を書き込み光に用い、He−Neレーザーの632.8nmの直線偏光を読み出し光としたときの一次回折光を検出することによって回折格子形成挙動を評価した。形成される回折格子の格子周期は、次式(II)を用いて算出した。 【0021】 Λ=λw /2sinθ (II) 式IIにおいてΛは格子周期を表し、λw は書き込み光の波長を表している。また、θは書き込み光の入射角である。回折効率(η)は、次式(III )により評価した。 η(%)=I1 /I0 ×100 (III ) I1 ,I0 は、それぞれ+1次回折光と入射光(読み出し光)の強度である。 【0022】(2)光相転移挙動を評価する光学系を図2に示す(9:検光子)。ポンプ光は、回折格子形成と同様に488nmの非偏光を用いた。直交する2枚の偏光板の間に試料フィルムをおき、ポンプ光照射にともなうプローブ光(632.8nm)の透過光量変化をフォトダイオードを用いて測定し、評価した。原子間力顕微鏡(AFM)、偏光顕微鏡、そして読み出し光の偏波面に対する回折効率の異方性の各測定は、所定の条件において回折格子を形成した後、室温で測定・評価した。 3.液晶相において形成される回折格子まず、AFMを用いて、回折格子形成後のフィルムの表面形状を評価した。ガラス状態(室温)ならびにネマチック相(80℃)において回折格子を形成したフィルムを測定したところ、格子周期は、2μmである。ガラス状態において回折格子を形成すると、試料フィルム表面に非常に綺麗なレリーフ構造が誘起されることがわかった。この結果は、先に紹介した表面レリーフ型回折格子形成の報告例と合致する。一方、ネマチック相で回折格子を形成したフィルムについてもレリーフ構造の誘起を確認できたが、その形状は幾分乱れることがわかった。表1には、異なる相状態で回折格子を形成したときのレリーフ高さ(H)と回折効率の値をまとめた。興味深い結果として、ネマチック相で回折格子を形成すると(試料3,4)、誘起されるレリーフの高さはガラス状態で形成した場合(試料2)とほぼ同じであるのに対し、回折効率はネマチック相において3〜4倍増幅されることがわかった。別の見方をし、以前にカナダの研究グループによって報告された系と比較すると(P.Rochon et.al.: Appl.Phys.Lett., Vol.66, p.136(1995))、ネマチック相で回折格子を形成することによって3〜5分の1の表面形状の変化で高い回折効率(28%)を達成できた。 【0023】 【表1】
【0024】本実施例において、散乱など光の透過光強度の周期的な変化に基づく振幅型回折格子の形成は確認できず、位相型回折格子のもう一つのタイプである屈折率変調を利用した回折格子が形成されたと推察できる。そこで、光照射による系の屈折率変化を検討するため、80℃における回折格子形成と光相転移の両挙動を評価した。結果を図3に示す。Y軸は、二光束系における回折効率を表し、R軸は一光束系で光相転移挙動を評価したときの透過光量である。一光束系において透過光量の減少は、光相転移の進行を表している。そして、透過光量がゼロのとき光相転移が完了し、照射部分は完全に等方相が誘起された状態となる。図3より、光照射後、回折効率が最大値に達するまでの時間と透過光量がゼロになるまでの時間がほぼ一致することがわかった。一光束系(光相転移挙動)の結果を二光束系(回折格子形成)に当てはめて考えると、回折効率が最大値に達したとき干渉縞明部において光相転移が完了し、フィルム中においては液晶相と等方相が交互に配置した構造であると推察できる。言い換えると、オーダーとディスオーダーという分子配向の交互配置に基づく周期的な屈折率変調が形成されたことになる。AFM測定の結果をあわせると、ネマチック相において形成される回折格子は表面形状と屈折率の両者の変調によって構成されると示唆される。 【0025】液晶相と等方相の交互配置を検討するため、回折格子形成前後のフィルムについて透過光量の角度依存性を偏光顕微鏡を用いて測定した。回折格子形成後のフィルムは、図3において回折効率が最大値に達した時点で書き込み光の照射を止め、室温まで急冷することにより調製した。図4に測定結果を示す。回折格子形成後のフィルムは回折格子形成前のフィルムに比べて、透過光量の最大値は減少したが、依然として透過光量の角度依存性を示し一軸配向性を有することがわかった。回折格子形成後のフィルムについて透過光量が最大値を示す角度でフィルムを観察すると、明確な明暗の縞模様を観察できた。さらにフィルムを回転し、ラビング方向が偏光子もしくは検光子に平行となる角度においてフィルムを観察すると、明視野部分が暗視野へと変化し、縞模様は消失した。そして、この縞模様は90°おき(45°,135°,225°,315°)に観察できた。偏光顕微鏡観察における暗視野は、分子の配向が等方的である、あるいは液晶分子がガラス基板に対して垂直に配向(ホメオトロピック配向)している状態を表している。本実施例においてホメオトロピック配向に特徴的なコノスコープ像は観察されず、暗視野部分における分子配向は等方的であることは明らかである。この結果から、液晶相において形成される回折格子は回折効率が最大のとき、図5に示すような構造であることを確認できた。 4.液晶性に基づく挙動このように、回折格子が液晶相と等方相の交互配置によって構成される場合、回折格子は液晶の複屈折性に基づく特異的な挙動を示すと期待できる。棒状分子から構成される液晶相において、分子長軸に平行な光に対する屈折率はne 、垂直な光に対する屈折率はno と表記される。また、等方相の屈折率はnとなる。本研究において読み出し光には直線偏光(λ=632.8nm)を用いており、その偏波面を回転すると読み出し光は偏波面の方向に応じて異なる屈折率差を認識し、回折効率に異方性を生じるはずである。例えば、読み出し光の偏波面がラビング方向に平行なとき、干渉縞暗部の屈折率はne であり、|ne −n|という屈折率差を認識する。また、ラビング方向に垂直なときは、|no −n|を認識する。ここで、PM6AB2とアゾベンゼン部位の構造が類似する低分子アゾベンゼン液晶(BMAB、式(IV))をモデル化合物とし、上に示した屈折率差の大小関係について検討した。 【0026】 【化4】
【0027】アッベ屈折計を用いた屈折率(ne ,no ,n)測定より、BMABについては|ne −n|の方が|no −n|よりも常に大きいことがわかっている。また、本実施例における回折現象はラマン−ナス領域に属し、回折効率は次式を用いて近似できる。 η(%)=(πdΔn/λR )2 ×100 (V) 式(V)において、d,Δn、そしてλR はそれぞれ、試料フィルムの厚さ(500〜600nm)、屈折率変調度、そして読み出し光の波長(632.8nm)を表している。フィルムの厚さ・読み出し光の波長は一定であり、BMABの結果を考慮すると、回折効率は読み出し光が|no −n|よりも|ne −n|を認識するとき高くなると予想できる。実際にPM6AB2を用いて測定した結果を図6に示す。回折効率は読み出し光の偏波面に対して異方性を示し、図中で定義したαの値が90°,270°において極大値を示した。この角度において偏波面はラビング方向に平行であり、|ne −n|を認識する。また、α=0°,180°,360°において回折効率は極小値を示した。この角度で読み出し光の偏波面はラビング方向に垂直となり、|no −n|を認識し、先に示した理論的考察によく一致する結果である。 【0028】しかしながら、このような挙動は表面レリーフ型回折格子においても充分に予想でき、この結果から回折現象が表面形状と屈折率のどちらの周期的な変調に基づいているのか判断することはできない。そこで回折格子を記録する光学配置は一定とし、ラビング方向のみを90°回転した試料を調製し同様の測定を行った。この場合、フィルム表面に誘起されるレリーフ構造は変化せず、干渉縞暗部における分子の配向方向のみが90°回転する。そしてこの測定によって、回折現象が表面形状と屈折率のどちらの変調に基づいているのか議論することができる。測定結果を図7に示す。この試料についても、回折効率は読み出し光の偏波面に対して異方性を示した。そして、α=0°,180°,360°において回折効率は極大値を示した。このとき、読み出し光は|ne −n|を認識する。また、回折効率は読み出し光が|no −n|を認識するα=90°,270°において極小値を示した。この結果は図6の結果と比較して90°シフトした結果であり、干渉縞暗部における分子の配向方向の変化に一致している。これより、本実施例において観察された回折現象が、表面形状ではなく屈折率の周期的に変調に主に基づくことが明らかとなった。このような結果は、これまでに報告がなく新規な現象である。 5.ホログラム記録次に、PM6AB2の解像力を評価した。図8にネマチック相で回折格子を形成し、1mmあたりに記録される干渉縞の本数を変化させたときの回折効率の値を示す。回折効率は、1mmあたり約500本の干渉縞を記録したとき最も高くなった。そして記録する干渉縞の本数を多くすると、回折効率は急激に減少した。一般に、透過型ホログラムにおいて1,000〜1,500本/mm以上、反射型ホログラムにおいて5,000本/mm以上の解像力が材料には要求される。PM6AB2については、透過型の光学配置において1,000本/mmのとき回折効率は約5%を保持することがわかった。このときの解像度は1μmであり、記録密度は100Mbits /cm2 に相当する。記録密度については、現在最も高密度記録が可能と言われている光ディスクの値(〜40Mbits /cm2 )を既に凌いでいる。 【0029】そして実際に、ホログラム記録を試みた(図9に光学系を示す)。被写体には五重の塔の模型(3.3×1.2×1.2cm)を用い、記録は室温で行った。記録の結果、比較的鮮明な再生像を観察することができた。このホログラムは室温に保存する限り、1年以上消えることはない。情報の消去は、試料フィルムをTg 以上に加熱するだけでよく、情報の書き換えが可能である。図10に示す光学系を用いた2次元画像の記録も良好結果を示した。この実施例では被写体にフォトマスクを用いたが、記録する画像を指紋・顔・医用画像に変えることで、相関演算を利用した画像認識や検索用素子として使用しうる。 6.動的ホログラフィー近年、フォトニクスに基づいた情報の高速・並列処理(光コンピューティング)が注目されている。ホログラフィーは3次元画像の記録・表示技術として発展したが、この分野においても光学像や波面の変換・変調技術として重要な役割を担っている。具体的な応用例としては、コンパクトディスクプレーヤーなどにおける情報の読み出し素子などを挙げることができる。また、3次元画像についても記録・表示・消去というプロセスをビデオレート(〜30ms)で繰り返すことができれば、ホログラムテレビのようなホログラフィーの新しい可能性が広がる。このような目的を達成するためには、情報の記録・消去のプロセスを如何に高速化するかが最も重要となる。 【0030】光相転移により誘起される等方相は、アゾベンゼン部位のシス体からトランス体への熱異性化反応とそれに続くトランス体の再配向というプロセスを経て初期の液晶相へと相転移する。この等方相から液晶相への相転移(戻りの相転移)の律速段階は、アゾベンゼン部位の熱異性化反応である。そのため、温度を上げることによって戻りの相転移を促進でき、高分子アゾベンゼン液晶においても回折光の動的制御(動的ホログラフィー)を期待できる。図11にPM6AB2が液晶相を示す143℃において回折光の動的制御を検討した結果を示す。書き込み光を照射すると直ちに回折光を観察することができた。そして回折効率が最大値に達した時点で書き込み光の照射を止めると、回折光は速やかに消失した。この挙動は、書き込み光のオン・オフによって繰り返し制御できた。高分子液晶を用いた動的ホログラフィーの報告例は非常に数が少なく、高分子アゾベンゼン液晶がホログラム記録のみならず動的ホログラフィーの材料としても有望であることがわかる。ここで、回折効率が最大値の90%に達するまでの時間を応答時間とし、最大値の10%に減衰するまでの時間を減衰時間と定義した。測定の結果、応答時間は約50msであり、減衰時間は約600msであることがわかった。最近、光相転移の応答時間は極短パルス光(ピコ秒、1ピコ秒は1兆分の1秒)の照射によって、約200ns(1ns(ナノ秒)は10億分の1秒)で誘起できることが見いだされている。よってこれらの値は、今後高分子アゾベンゼン液晶の構造を検討し、光学系など実験環境を改良することによって更に向上すると考えている。 【0031】前述のとおり、液晶相(80℃)で形成される回折格子は表面の凹凸と屈折率変調の両者が混在する構造である。今回検討した温度(143℃)における回折光の応答時間は約50msであり、この時間スケールにおいて回折格子を形成するのに充分なレリーフ構造が誘起されるとは考えにくい。そこで、実験において得られた回折効率(5%)から式(V)を用いて、露光により誘起される屈折率変調度を計算した。計算の結果、屈折率変調度は0.075〜0.090であることがわかった。この値は、現在主に用いられているホログラム記録材料で達成できる屈折率変調度を凌駕する値である。この結果は、ホログラム材料としての、本発明の高分子アゾベンゼン液晶の優位性を如実に表している。しかし原理的には、光相転移を利用すると>10-1の屈折率変調を誘起できることがわかっており、これについても先の応答時間と同様に向上しうる。 【0032】以上の結果、本発明の高分子アゾベンゼン液晶(たとえばPM6AB2)は、ホログラム記録媒体として、たとえば以下の特徴を有することがわかる。 1.液晶相において形成される回折格子は、表面形状と屈折率の両者の周期的な変調が混在している。 2.回折効率は、液晶相で回折格子を形成することによって3〜4倍増幅される。 【0033】3.回折現象は、材料中に誘起された屈折率変調によって支配され、表面形状の変化はほとんど寄与しない。これは、これまでに報告のない新規な現象である。 4.記録されたホログラムは、室温において1年以上安定に保存される。その際、現像などの後処理を必要とせず、取り扱いが簡便である。また、記録した画像情報の消去は加熱だけで達成され、繰り返し記録が可能である。 【0034】5.液晶の協同効果を利用することによって、非常に大きな屈折変調度(0.075〜0.090)を約200nsの時間スケールで誘起できる。 6.静的な画像記録のみならず、動的なスイッチング材料としても有望な多機能液晶ホログラム材料である。
|
| 【出願人】 |
【識別番号】899000013 【氏名又は名称】財団法人 理工学振興会
|
| 【出願日】 |
平成12年3月21日(2000.3.21) |
| 【代理人】 |
【識別番号】100077517 【弁理士】 【氏名又は名称】石田 敬 (外4名)
|
| 【公開番号】 |
特開2001−265199(P2001−265199A) |
| 【公開日】 |
平成13年9月28日(2001.9.28) |
| 【出願番号】 |
特願2000−83278(P2000−83278) |
|