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【発明の名称】 キャリア位相相対測位装置および測位システム
【発明者】 【氏名】井澗 健二

【氏名】林 忠夫

【氏名】吉田 由治

【要約】 【課題】測位用衛星より送信される信号のキャリア位相に基づいて相対測位を行う際、受信可能な衛星数が少ないときでもサイクルスリップの発生有無の判定を可能とする。

【解決手段】キャリア位相二重位相差により求めた測位結果の高さ情報と、潮位観測値や船舶上下動観測値から求めた受信点の高さ情報との差を求め、これを基にサイクルスリップの有無を判定する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 基地局で求められた複数の測位用衛星のキャリア位相情報を受信する手段と、前記複数の測位用衛星からの信号を受信して各々のキャリア位相を求めるとともに、当該キャリア位相と前記基地局から受信した前記複数の測位用衛星のキャリア位相とからキャリア位相の二重位相差を求め、該二重位相差および前記複数の測位用衛星の位置から受信点を測位する手段と、当該受信点の高さと前記測位用衛星からの受信信号を用いないで求めた受信点の高さとの差に基づいて、前記二重位相差に生じるサイクルスリップの有無を判定する判定手段とを設けたキャリア位相相対測位装置。
【請求項2】 前記判定手段は、応答性の高い平滑化フィルタと応答性の低い平滑化フィルタとでそれぞれ求めた前記高さの差の平均値同士の差が、予め定めたしきい値を超えたとき、前記サイクルスリップが生じたものと見なす請求項1に記載のキャリア位相相対測位装置。
【請求項3】 前記判定手段は、前記高さの差から、当該高さの差の短期的変化速度と、長期的変化速度とを求め、両変化速度同士の差が、予め定めたしきい値を超えたとき、前記サイクルスリップが生じたものと見なす請求項1に記載のキャリア位相相対測位装置。
【請求項4】 前記測位用衛星からの受信信号を用いないで求められる受信点の高さは、船舶上下動観測装置により求められる船舶上下動観測値または潮位観測装置もしくは潮汐表により求められる潮位である請求項1、2または3に記載のキャリア位相相対測位装置。
【請求項5】 基地局で求められた複数の測位用衛星のキャリア位相情報を受信する手段と、前記複数の測位用衛星からの信号を受信して各々のキャリア位相を求めるとともに、当該キャリア位相と前記基地局から受信した前記複数の測位用衛星のキャリア位相とからキャリア位相の二重位相差を求め、該二重位相差および前記複数の測位用衛星の位置から受信点の高さ方向の変化速度を測定する手段と、当該受信点の高さ方向の変化速度と前記測位用衛星からの受信信号を用いないで求められる受信点の高さ方向の変化速度との差に基づいて、前記二重位相差に生じるサイクルスリップの有無を判定する判定手段とを設けたキャリア位相相対測位装置。
【請求項6】 前記測位用衛星からの受信信号を用いないで求めた受信点の高さ方向の変化速度は、船舶上下動観測装置により求められる単位時間当たりの高さ方向の変化量または潮位観測装置もしくは潮汐表により求められる単位時間当たりの潮位変化量である請求項5に記載のキャリア位相相対測位装置。
【請求項7】 前記基地局に請求項4に記載の潮位データを無線送信する手段を設け、当該基地局と請求項4に記載のキャリア位相相対測位装置とから構成した測位システム。
【請求項8】 前記基地局に請求項6に記載の単位時間当たりの潮位変化量のデータを無線送信する手段を設け、当該基地局と請求項6に記載のキャリア位相相対測位装置とから構成した測位システム。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、測位用衛星から送信される信号を受信して、キャリア位相相対測位を行う測位装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、GPSにおいては、数cm程度の高い測位精度が要求される場合に、キャリア位相を用いた相対測位が行われている。
【0003】例えば測量船や海洋土木船などにおいて、GPS衛星から送信される電波のキャリア位相をそれぞれ観測する受信機を、既に位置が正確に判明している基地局と、位置を求めるべき移動局とにそれぞれ設けて、実時間で受信点の位置を測位する、いわゆるリアルタイムキネマティック(RTK)GPS測位が行われている。
【0004】このリアルタイムキネマティック(RTK)GPS測位では、先ず、基地局の受信機で観測した基準衛星のキャリア位相と、移動局の受信機で観測した基準衛星のキャリア位相との差(一重位相差)を求め、また基地局の受信機で観測した他の衛星のキャリア位相と、移動局の受信機で観測した、それらの衛星のキャリア位相との差(一重位相差)を求め、両者の差(二重位相差)を求める。そして、これを基に、受信点位置を未知数とする方程式を立て、それを解くことによって受信点の位置を求める。ただし上記二重位相差はキャリア位相の小数点以下の値についてのみ正しく求められるだけであり、整数波長の値(整数値バイアス)は当初は不明である。そこで、まずOTF (On The Fly calibration) と呼ばれるキャリア位相の整数バイアスを求める初期化処理を行って、以降は上記各二重位相差の整数部の値と小数点以下の値を基にして受信点の位置を求める。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところが、上記キャリア位相の測定は、GPS衛星から受信した信号からキャリア信号を再生し、そのキャリア信号の位相を、波長の端数に相当する位相角を含めた波数を位相カウンタで測定するものであり、衛星電波に対する障害物や雑音電波、多重反射などの影響で、受信が瞬間的に中断されることがあると、上記波数の整数部分の増減に関する情報が失われてしまう。この現象は「サイクルスリップ」と呼ばれる。例えば0.1秒以下の瞬断でも受信機のキャリア位相同期ループの同期がはずれて波数の整数部分の増減に関する情報が失われる。
【0006】このようなサイクルスリップが生じると、上記二重位相差による双曲面が、二重位相差の整数値のスリップ分だけジャンプして、測位結果に大きな誤差が入ることになる。そこで従来は、測位に用いた(観測による)二重位相差と、測位結果から逆算した二重位相差との隔たり(残差)の大きさを常にチェックし、その残差が或るしきい値を超えたときサイクルスリップが生じたものと見なすようにしていた。
【0007】図8の(A)において、実線は、観測による二重位相差から求めた3つの双曲面のうち2つの双曲面の交差によってそれぞれできる曲線を平面上に描いた線(キャリア位相位置線)であり、この例では3本のキャリア位相位置線が交わってできる三角形の重心位置を受信点の位置とする。破線は測位結果から逆算したキャリア位相位置線であり、この受信点の位置から各キャリア位相位置線までの隔たりが残差である。二重位相差の整数値が異なることによって隣接する複数のキャリア位相位置線の間隔は略キャリア位相の1波長分であり、約20cmである。これを1レーンと呼ぶと、例えば0.5レーン(約10cm)以上の残差が生じたとき、サイクルスリップが生じたものと見なす。
【0008】しかし、基準とする衛星以外に他に2つの衛星しか受信できない状況では、図8の(B)に示すように、キャリア位相位置線が2本しか引けないことになって、残差を求めることはできない。
【0009】但し、図8の例ではキャリア位相位置線を平面上に描いたので、基準とする衛星と他の3つの衛星との計4衛星により求められる二重位相差によるキャリア位相位置線が3本となって残差が求められるが、実際には3次元の測位を行う必要があるため、5衛星以上の衛星からの電波が受信できなければならない。すなわち、4衛星の場合には、3枚の双曲面の交点が1点だけとなり、残差が生じない。そのため、4衛星からの電波しか受信できない状況では上記残差のチェックによるサイクルスリップの判定ができず、この状態で実際にサイクルスリップが生じると、誤差が生じていることが分からないままとなってしまう。
【0010】この発明の目的は、4つの衛星しか利用できないような場合でも、サイクルスリップの発生有無を的確に検知できるようにしたキャリア位相相対測位装置を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】この発明のキャリア位相相対測位装置は、基地局で求められた複数の測位用衛星のキャリア位相情報を受信する手段と、前記複数の測位用衛星からの信号を受信して各々のキャリア位相を求めるとともに、当該キャリア位相と前記基地局から受信した前記複数の測位用衛星のキャリア位相とからキャリア位相の二重位相差を求め、該二重位相差および前記複数の測位用衛星の位置から受信点を測位する手段と、当該受信点の高さと前記測位用衛星からの受信信号を用いないで求められる受信点の高さとの差に基づいて、前記二重位相差に生じるサイクルスリップの有無を判定する判定手段とを設ける。
【0012】このように、測位用衛星からの受信信号を用いないで求められる受信点の高さは、上記サイクルスリップとは無関係であるので、この測位用衛星からの受信信号を用いないで求められる受信点の高さと、測位用衛星からの受信信号を用いて求めた受信点の高さとを比較することによって、サイクルスリップの有無の判定が可能となる。
【0013】最も単純には、予め定められた高さの平坦な地面を移動する工事車両などのように、受信点の高さが予め判明している場合には、この高さと衛星からの信号を受信して測位した受信点の高さとの差の値が所定値を超えたとき、サイクルスリップが生じたものと見なせば良い。
【0014】また、この発明のキャリア位相相対測位装置は、前記判定手段が、応答性の高い平滑化フィルタと応答性の低い平滑化フィルタとでそれぞれ求めた前記高さの差の平均値同士の差が、予め定めたしきい値を超えたとき、前記サイクルスリップが生じたものと見なすこととする。
【0015】サイクルスリップによる高さの差の変動は、上記応答性の高い平滑化フィルタによる平均値に大きく現れ、応答性の低い平滑化フィルタによる平均値には大きく現れないため、この2つの高さの差の平均値同士の差が所定値を超えたときにサイクルスリップが生じたものと見なすことができる。これにより、船舶のように潮位や波浪によって受信点の高さが常に変動するような場合でも、受信点の実際の高さの変動の影響を受けることなくサイクルスリップの発生有無が的確に判定される。
【0016】そのため、上記平均値同士の差をもとにサイクルスリップの発生有無を判定する場合には、「測位用衛星からの受信信号を用いないで求めた受信点の高さ」を常に0に固定しておいてもよい。
【0017】また、この発明のキャリア位相相対測位装置は、前記判定手段が、前記高さの差の短期的変化速度と、長期的変化速度とを求め、両変化速度同士の差が、予め定めたしきい値を超えたとき、前記サイクルスリップが生じたものと見なすこととする。
【0018】このような構成により、前記2つの高さの差の平均値同士の差が比較的小さく現れる場合であっても、サイクルスリップによる高さの差の変化は、上記短期的変化速度として大きく現れ、長期的変化速度としては大きく現れないため、サイクルスリップが的確に検知できる。
【0019】また、この発明のキャリア位相相対測位装置は、前記測位用衛星からの受信信号を用いないで求められる受信点の高さを、船舶上下動観測装置により求められる船舶上下動観測値または潮位観測装置もしくは潮汐表により求められる潮位とする。
【0020】例えば、測量船において、測位用衛星からの信号を受信する受信アンテナの位置を測位するものである場合、船に設けられている、高さ(鉛直)方向の運動の加速度を求めるバーチカルジャイロ等により船舶の上下動を観測し、また検潮所から無線送信される情報を受信して、これを潮位観測値とする。そして、この両者の和を受信点の高さとして求める。
【0021】また、この発明のキャリア位相相対測位装置は、基地局で求められた複数の測位用衛星のキャリア位相情報を受信する手段と、前記複数の測位用衛星からの信号を受信して各々のキャリア位相を求めるとともに、当該キャリア位相と前記基地局から受信した前記複数の測位用衛星のキャリア位相とからキャリア位相の二重位相差を求め、該二重位相差および前記複数の測位用衛星の位置から受信点の高さ方向の変化速度を測定する手段と、当該受信点の高さ方向の変化速度と前記測位用衛星からの受信信号を用いないで求められる受信点の高さ方向の変化速度との差に基づいて、前記二重位相差に生じるサイクルスリップの有無を判定する判定手段とを設ける。
【0022】このように、測位用衛星からの受信信号を用いないで求められる受信点の高さ方向の変化速度は、上記サイクルスリップとは無関係であるので、この測位用衛星からの受信信号を用いないで求められる受信点の高さ方向の変化速度と、測位用衛星からの受信信号を用いて求めた受信点の高さ方向の変化速度とを比較することによって、サイクルスリップの有無の判定が可能となる。
【0023】また、この発明のキャリア位相相対測位装置は、前記測位用衛星からの受信信号を用いないで求めた受信点の高さ方向の変化速度は、船舶上下動観測装置により求められる単位時間当たりの高さ方向の変化量または潮位観測装置もしくは潮汐表により求められる単位時間当たりの潮位変化量とする。
【0024】また、この発明の測位システムは、前記基地局に前記潮位のデータを無線送信する手段を設け、前記潮位のデータを利用するキャリア位相相対測位装置と前記基地局とから構成する。
【0025】同様に、この発明の測位システムは、前記基地局に前記単位時間当たりの潮位変化量のデータを無線送信する手段を設け、前記潮位変化量のデータを利用するキャリア位相相対測位装置と前記基地局とから構成する。
【0026】
【発明の実施の形態】図1はこの発明の第1の実施形態であるキャリア位相相対測位装置および測位システムの構成を示す図であり、(A)は基地局の構成、(B)は移動局の構成を示す。基地局は(A)に示すようにGPSアンテナ1、GPS受信機2、データ送信機3およびデータ送信用アンテナ4とから構成する。ここでGPS受信機2は、各衛星からの電波を受信してそれぞれのキャリア位相のデータを所定周期で繰り返し求める。データ送信機3は衛星番号とキャリア位相情報を時刻情報と共にデータ送信用アンテナ4から所定のサービスエリア内に放送する。
【0027】一方、移動局は(B)に示す構成からなり、GPSアンテナ11は複数の衛星からの信号を受けて、L1帯増幅回路12はこれを増幅し、ミキサ回路14はこの信号と局部発振回路13による信号とをミキシングして中間周波信号に変換する。中間周波増幅回路15はこれを増幅し、サンプラ16はこれを所定周期でサンプリングし、ADコンバータ17はその値をディジタルデータに変換する。CPU25はROM26に予め書き込んだプログラムを実行して相対測位を行う。RAM27はそのプログラムの実行に際してワーキングエリアとして用いる。データ受信機19は上記基地局から放送されたデータを受信する。18はその受信用アンテナである。またデータ受信機22は検潮所から無線送信される潮位観測値のデータを受信する。21はその受信用アンテナである。CPU25は、インタフェース20を介してデータ受信機19,22による受信データを読み取る。バーチカルジャイロ23は船舶の高さ(鉛直)方向の運動の加速度を検出するものであり、ジャイロ部と加速度検出部およびその加速度の2回積分により瞬時高さのデータを求める演算部とから成る。CPU25はインターフェース24を介してその検出データを読み取り、潮汐の周期より短時間における船舶の高さ変化を求める。またCPU25は測位結果およびサイクルスリップ情報をインタフェース28を介して外部へ出力する。
【0028】なお、上記潮位観測値のデータの代わりに、予め推定した潮汐表に基づいて現在の潮位を求め、そのデータを放送するようにしてもよい。
【0029】図2および図3は図1に示したCPU25の処理手順を示すフローチャートである。図2は測位処理に関するフローチャートである。まず現在受信中の各衛星のキャリア位相情報を読み出す。このキャリア位相情報は、位相カウンタの値である。基地局から送信された、各衛星のキャリア位相情報と、この移動局側で求めた各衛星のキャリア位相情報に基づいて複数の二重位相差を求める。このとき、基準とする衛星を、受信可能な衛星のうちの最も仰角の大きな衛星に決める。これらの二重位相差により定まる複数の双曲面の交点が受信点の位置である。但し、受信開始直後は、二重位相差の整数バイアスが未定であるので、上記双曲面の交点は受信点の位置の候補として複数個存在する。これらの複数の候補位置のうち正解の位置をOTF (On The Fly calibration) によって求める。すなわち各二重位相差の整数バイアスを求める。
【0030】このOTFが完了した後は、正しく求められた各二重位相差の整数バイアス値と小数点以下の値を基にして受信点の位置を求める。ここで求められる位置情報はECEF(Earth Center Earth Fixed) 座標での値であるので、これを緯度,経度,高さの座標系に座標変換して出力する。
【0031】以降はRTKの手法により測位結果を周期的に出力するが、後述するように、高さ情報を基にその都度サイクルスリップの発生有無を判定する。もし、サイクルスリップが発生したことを検出すれば、再び上記OTFの処理へ戻る。
【0032】図3は上記測位処理の途中で行うサイクルスリップの判定手順を示すフローチャートである。まず検潮所から送信された電波を受信して得た潮位観測値と、バーチカルジャイロにより求めた船舶上下動観測値とから受信点の高さを求める。ここで、潮位観測値は約12時間周期で変動する成分であり、船舶上下動観測値は数秒〜数十秒周期で変動する成分であり、両者の和を受信点の瞬時の高さとして求める。
【0033】次に、図2に示した測位処理による受信点の高さ(以下「GPS高さ」という。)と、上記潮位観測値と船舶上下動観測値とから求めた受信点の高さ(以下「観測高さ」という。)との差を求める。続いて、この高さの差を、応答性の高い平滑化フィルタと応答性の低い平滑化フィルタとを用いてそれぞれ平均値を求め、両者の差を求める。この値が、予め定めたしきい値を超えるとき、サイクルスリップが発生したものと見なして、その情報を出力する。また上記しきい値を超えない場合には、上記高さの差の短期的変化速度と長期的変化速度とをそれぞれ求めて、両者の差を求める。すなわち応答性の異なった2つの高さの差の変化速度同士の差を求める。そしてこの値が、予め定めたしきい値を超えたときサイクルスリップが発生したものと見なしてその情報を出力する。
【0034】図4は上記サイクルスリップ判定の手順をブロック図として示したものである。図4においてαβフィルタは、一般に同図の下部に示すように表され、次の演算を行う。
【0035】
n =Rn −Pnn =Pn +αEnn ′=Sn-1 ′+βEnn+1 =Sn +Sn ′ここで、Rn :時刻nにおける入力値Sn :時刻nにおける入力値の平均値Sn ′:時刻nにおける入力値の変化速度Pn :時刻nにおける推定値En :時刻nにおける推定値と入力値とのずれ(推定誤差)
n+1 :次回に備えての推定値(次ステップでPn となる。)
α:入力値の推定に関する補正係数β:入力値の変化速度の推定に関する補正係数である。
【0036】したがって、時間経過にともなって変動する入力値Rn の平滑した値がSn として求められるが、αを小さくする程、その平滑化の応答性が遅くなり、αを大きくする程、その平滑化の応答性が高くなる。
【0037】また、入力値Rn の変化速度がSn ′として求められるが、βを小さくする程、その応答性が遅くなって長期的変化速度が求まり、βを大きくする程、応答性が高くなって短期的変化速度が求まる。
【0038】上記αとβを、β=α2 /(2−α)
の関係とすれば、推定値と入力値とのずれから入力値の推定および入力値の変化速度の推定を行う際に、推定値の追従の遅れや過応答がなく、安定した推定が行える。
【0039】この実施形態では、上記αβフィルタの入力値を、GPS高さと観測高さとの差とし、図4の上部に示すように用いる。このように、上記高さの差をRn として入力することにより、高さの差の平均値がSn として得られ、高さの差の変化速度がSn ´として得られる。
【0040】ここで、「軽いαβフィルタ」ではα=0.2,β=0.022とし、「重いαβフィルタ」ではα=0.05,β=0.0013としている。「軽いαβフィルタ」は、上記高さの差の平均値を求める際の応答性の高い平滑化フィルタとして作用し、また上記高さの差の短期的変化速度を求めるフィルタとして作用する。逆に「重いαβフィルタ」は、上記高さの差の平均値を求める際の応答性の低い平滑化フィルタとして作用し、また上記高さの差の長期的変化速度を求めるフィルタとして作用する。
【0041】尚、以上に示した実施形態では、測位用衛星からの受信信号を用いないで、受信点の高さを求めるためにバーチカルジャイロによる観測値と潮位観測値の両方を用いたが、例えば短時間周期における船舶の上下動を求め、高さの差の変化速度からサイクルスリップの発生有無を判定する場合には、潮位観測値を用いることなく、バーチカルジャイロによる観測値のみを用いてもよい。逆に、長時間周期における船舶の高さを求め、高さの差の平均値からサイクルスリップの発生有無を判定する場合には、バーチカルジャイロを用いることなく、潮位観測値のみを用いてもよい。
【0042】また、実施形態では船舶の上下動を観測する装置としてバーチカルジャイロを用いたが、その他に、3次元方向の加速度を検出する装置を用い、その検出結果から船舶の上下(鉛直)方向の動きを抽出するようにしてもよい。
【0043】また、以上に示した実施形態では、GPS高さと観測高さの比較によってサイクルスリップの有無を検出するようにしたが、5つ以上の衛星からの電波が受信可能な状態であるときは、前記残差も求めて、残差の大きさまたはその変化速度からサイクルスリップの有無を検出するようにし、残差による方法と上記高さによる方法の両面からサイクルスリップの発生有無を判定するようにしても良い。これによりサイクルスリップの検出漏れがより少なくなって安全性が高まる。
【0044】また、以上に示した実施形態では、測量船や海洋土木船などの船舶に適用した例を示したが、高さの予め定められた平坦な地面を移動する工事車両などのように、受信点の高さが予め判明していて固定値である場合には、その固定値を上記実施形態における「観測高さ」として入力すればよい。または、単に、上記実施形態における「GPS高さ」と上記固定値との差がキャリアの1波長分の距離の半分(約10cm)を超えたときに、サイクルスリップが生じたものと見なすように構成してもよい。
【0045】例えば、上記「観測高さ」を常に0に固定し、「GPS高さ」と「観測高さ」との差すなわち「GPS高さ」そのものについて、応答性の高い平滑化フィルタで求めた平均値と、応答性の低い平滑化フィルタによって求めた平均値との差が予め定めたしきい値を超えたか否かによってサイクルスリップの発生有無を判定するようにしてもよい。
【0046】次に、第2の実施形態であるキャリア位相相対測位装置および測位システムの構成を図5〜図7を参照して説明する。図5はキャリア位相相対測位装置および測位システムの構成を示す図であり、(A)は基地局の構成、(B)は移動局の構成を示す。基地局は(A)に示すようにGPSアンテナ1、GPS受信機2、データ送信機3、潮位観測装置5およびデータ送信用アンテナ4とから構成する。GPS受信機2は図1に示したものと同様である。データ送信機3は衛星番号とキャリア位相情報を時刻情報と共にデータ送信用アンテナ4から所定のサービスエリア内に放送し、さらに、潮位観測装置5により観測された潮位のデータを放送する。このとき、キャリア位相情報に関するデータと潮位に関するデータは1つの電波を用いて多重化してもよいし、独立して放送してもよい。
【0047】なお、上記潮位観測装置5の代わりに、予め推定した潮汐表により現在の潮位または現在の単位時間当たりの潮位変化量を求め、そのデータを放送するようにしてもよい。
【0048】一方、移動局は(B)に示す構成からなる。図1に示した構成と異なり、この例では、データ受信機19は上記基地局から放送されたキャリア位相情報に関するデータだけでなく、上記潮位に関するデータも受信する。その他の各部は図1に示したものと同様である。
【0049】図6および図7は図5に示したCPU25の処理手順を示すフローチャートである。図6は測位処理に関するフローチャートである。図2に示した実施形態と異なり、ここでは、観測高さの変化速度とGPS高さの変化速度との比較によりサイクルスリップの発生有無を判定する。その他の各ステップにおける処理内容は図2に示したものと同様である。
【0050】図6は上記測位処理の途中で行うサイクルスリップの判定手順を示すフローチャートである。まずバーチカルジャイロにより求めた船舶上下動観測値から受信点の高さ方向の変化速度を求める。
【0051】次に、図6に示した測位処理による受信点の高さ方向の変化速度と、上記船舶上下動観測値から求めた受信点の高さ方向の変化速度との差を求める。続いて、この差が、予め定めたしきい値を超えるとき、サイクルスリップが発生したものと見なして、その情報を出力する。
【0052】なお、上記受信点の高さ方向の変化速度は、データ受信機19により受信した潮位または単位時間当たりの潮位変化量から求めてもよい。
【0053】
【発明の効果】請求項1,5,7,8に記載の発明によれば、4つの測位用衛星しか受信できずに、残差が求められない場合でも、サイクルスリップの発生有無を判定できるため、多くの測位用衛星からの電波が受信できない領域や時間帯でも、サイクルスリップの発生有無を判定しつつ正しくキャリア位相相対測位を行うことができる。そのため、キャリア位相相対測位可能な時間的または空間的な領域が広がる。
【0054】請求項2,3に記載の発明によれば、船舶のように潮位や波浪によって受信点の高さが常に変動するような場合でも、受信点の実際の高さの変動の影響を受けることなくサイクルスリップが的確に判定可能となる。
【0055】請求項4,6に記載の発明によれば、測量船や海洋土木船などでは、検潮所等から無線送信される潮位に関する情報を受信する手段、船舶上下動観測装置、およびキャリア位相相対測位を行う測位装置は、元々測量のために用いるものであるため、外部に新たな装置を設けることなく、演算のみによって、サイクルスリップの発生有無の判定を容易に行えるようになる。
【出願人】 【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
【出願日】 平成12年4月14日(2000.4.14)
【代理人】 【識別番号】100084548
【弁理士】
【氏名又は名称】小森 久夫
【公開番号】 特開2001−13237(P2001−13237A)
【公開日】 平成13年1月19日(2001.1.19)
【出願番号】 特願2000−113143(P2000−113143)