トップ :: G 物理学 :: G01 測定;試験




【発明の名称】 交流回転機のオンライン絶縁診断方法及び装置
【発明者】 【氏名】末長 清佳

【要約】 【課題】交流電動機等の交流回転機が有する巻線の絶縁劣化を運転状態で正確に診断できるようにする。

【解決手段】運転中の3相の交流発電機に発生する部分放電を検出して巻線の絶縁性を診断する交流回転機のオンライン絶縁診断装置において、前記交流回転機に流れるr、s、tの各相の電流を検出する検出部10A〜10Cと、検出された各電流信号から基本波成分を減衰させるHPF12A〜12Cと、各HPFを通過した電流信号をデジタル化するA/D変換部14と、任意の2つの電流信号のうち一方を120°シフトさせ、位相を合せた後に両信号間で減算する処理部18と、減算結果がどちらの相に発生した部分放電であるかの極性を判別する処理部20と、判別結果を2相の組合せで表示する表示装置22とを備えている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】運転中のn相の交流回転機に発生する部分放電を検出して巻線の絶縁性を診断する交流回転機のオンライン絶縁診断方法において、検出された対象電流信号に直近の検出電流信号を、(360/n)度シフトさせて両電流信号の位相を合わせ、シフト後の検出電流信号と前記対象電流信号との間で減算を行ない、減算後の信号から部分放電信号を抽出することを特徴とする交流回転機のオンライン絶縁診断方法。
【請求項2】請求項1において、前記nが、少なくとも1及び3を含む正整数であることを特徴とする交流回転機のオンライン絶縁診断方法及び装置。
【請求項3】運転中のn相の交流回転機に発生する部分放電を検出して巻線の絶縁性を診断する交流回転機のオンライン絶縁診断装置において、前記交流回転機に流れる電流を検出する検出手段と、検出された対象電流信号に直近の検出電流信号を、(360/n)度シフトさせて両電流信号の位相を合わせるシフト手段と、シフト後の検出電流信号と前記対象電流信号との間で減算を行なう減算手段と、減算後の信号から部分放電信号を抽出して表示する表示手段と、を備えていることを特徴とする交流回転機のオンライン絶縁診断装置。
【請求項4】請求項3において、前記検出手段により検出された電流信号の基本波成分を減衰させる高域通過フィルタと、該フィルタを通過した信号をデジタル信号に変換するA/D変換手段と、変換後の電流信号を蓄積する記憶手段とを備えているとともに、前記シフト手段が、該記憶手段にデジタル化して蓄積された前記直近の検出電流信号のメモリアドレスを、(360/n)度分だけシフトする機能を有していることを特徴とする交流回転機のオンライン絶縁診断装置。
【請求項5】請求項3において、前記nが、少なくとも1及び3を含む正整数であることを特徴とする交流回転機のオンライン絶縁診断装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明が属する技術分野】本発明は、交流回転機の絶縁診断方法及び装置、特に稼働中の交流電動機や交流発電機等の交流回転機について、その巻線の絶縁劣化を運転中に検出する際に適用して好適な、交流回転機のオンライン絶縁診断方法及び装置に関する。
【0002】
【従来の技術】交流電動機を停止した状態で巻線の絶縁劣化を検出する方法としては、電動機に試験電圧を課電して、その際に生じる部分放電電荷量を測定する方法や、巻線の静電容量及び損失角(tanσ)の量から劣化度を判定する方法がある。
【0003】従来、電動機の巻線の絶縁劣化を診断する最も有効な方法は、このように電動機を停止した状態で試験電圧を課電した際の部分放電電荷量を測定して、その電荷量の大きさから劣化度を判定する方法である。
【0004】ところが、この方法では、電動機を停止した状態でしか絶縁劣化の診断ができないため、長期間連続運転するプラントの電動機では、診断周期が適切にとれない場合が生じる。
【0005】又、この方法は、巻線と大地間の絶縁劣化の判定は可能であるが、巻線と巻線の間には試験電圧が課電されないため、たとえ巻線間に絶縁劣化が生じていたとしても、その正確な判定ができないという欠点をもっている。但し、電動機の停止状態でも、電動機工場のような場所において、特別な試験電源装置を用いれば巻線間の絶縁診断も可能であるが、現場で行う試験としてはコスト上からも現実的とは言えない。
【0006】更に、電動機を停止した状態での診断は、例えば温度上昇や振動等の電気的、機械的ストレスが実運転状態と異なるため、正確な診断を行うことができない。
【0007】従って、巻線の絶縁劣化の程度を正確に判定するためには、電動機が運転状態にあるときに診断を行うことが望ましい。
【0008】そこで、稼働中の交流電動機の界磁巻線の絶縁劣化を検知することも行われており、このようなオンライン検出技術としては、絶縁劣化で生じるコロナ放電に起因する高周波電流を結合コンデンサで検出する方法や、接地線に流入する高周波電流を高周波CT(Current Transformer:電流変成器)で検出する方法が考案されている。又、コロナ放電を検出して絶縁性を監視する装置としては、例えば実公昭59−4294に提案されているものがある。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、既に考案されている前記オンライン診断(検出)技術で、高周波電流を結合コンデンサで検出する方法や、接地線に流入する高周波電流を高周波CTで検出する方法では、電源に存在する高調波ノイズが、常時部分放電信号に重畳しているため、正確な部分放電検出が困難であるという問題がある。
【0010】特に、製鉄プラントにおいては、VVVF(Variable Voltage Variable Frequency)やサイクロコンバータ等を用いて正確な回転数制御を行っているため、電源には多くの高調波が重畳しており、検出信号から微弱な部分放電信号だけを抽出することは極めて困難である。
【0011】又、他に、絶縁劣化に起因するコロナ放電音(超音波)をマイクロフォンで捕らえる方法もあるが、電動機の強磁界下においてはマイクロフォンが電磁誘導を受けるため、微小な超音波を捉らえることが困難で、実用化には至っていない。
【0012】本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、交流電動機や交流発生機等の交流回転機が有する巻線の絶縁劣化を運転状態で正確に診断することができる交流回転機の絶縁診断方法及び装置を提供することを課題とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】本発明は、運転中のn相の交流回転機に発生する部分放電を検出して巻線の絶縁性を診断する交流回転機のオンライン絶縁診断方法において、検出された対象電流信号に直近の検出電流信号を、(360/n)度シフトさせて両電流信号の位相を合わせ、シフト後の検出電流信号と前記対象電流信号との間で減算を行ない、減算後の信号から部分放電信号を抽出することにより、前記課題を解決したものである。
【0014】本発明は、又、運転中のn相の交流回転機に発生する部分放電を検出して巻線の絶縁性を診断する交流回転機のオンライン絶縁診断装置において、前記交流回転機に流れる電流を検出する検出手段と、検出された対象電流信号に直近の検出電流信号を、(360/n)度シフトさせて両電流信号の位相を合わせるシフト手段と、シフト後の検出電流信号と前記対象電流信号との間で減算を行なう減算手段と、減算後の信号から部分放電信号を抽出して表示する表示手段と、を備えたことにより、同様に前記課題を解決したものである。
【0015】即ち、本発明においては、運転中のn相の交流回転機の電流を検出し、検出された対象電流信号に直近の検出電流信号を、(360/n)度シフトさせて両電流信号の位相を合せた後に、該両電流信号間で減算を行なうようにしたので、高調波ノイズのみを除去することができるため、減算結果から部分放電に起因する電流信号(部分放電信号)を確実に抽出することができる。
【0016】なお、直近の検出電流信号は、n=1の単相交流の場合は、前記対象電流信号から1サイクル(360°度)後又は前の同じ電流信号であり、n=2以上の場合は、前記対象電流から(360/n)度後又は前の隣接相の検出電流信号である。
【0017】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0018】図1は、本発明に係る一実施形態の絶縁診断装置の概略構成を示すブロック図である。
【0019】本実施形態の絶縁診断装置は、3相交流電動機(交流回転機)に適用されるもので、電動機Mのr、s、tの各相の巻線に流れる電流信号を検出する検出部10A、10B、10Cと、検出された各相の電流信号からそれぞれ基本波成分を減衰させるための高域通過フィルタ(HPF)12A、12B、12Cと、これらHPF12A〜12Cを通過した各信号をデジタル信号に変換すると共に、図示しないバッファメモリに各デジタル信号を蓄積するA/D変換部14と、蓄積された任意の2相分の信号のうち一方を120度シフトするシフト部16と、シフトされた方の信号を他方の信号から減算して高調波成分を除去する減算処理部18と、減算後の信号(減算結果)の極性を元の信号の極性と比較して、減算結果がどちらの信号に属しているか、その極性を判別する極性判別処理部20と、該判別処理部20により極性が判定された部分放電を発生相に対応させて表示する放電量表示装置22とを備えている。
【0020】本実施形態では、前記検出部10A、10B、10Cにより検出する電流信号は、前記A/D変換部14によるA/D変換の分解能を上げるため、図示しないCT(電流変成器)の2次回路から分岐するか、又は分割型CTで取り出している。
【0021】又、前記減算処理部18で減算処理する前に行うシフト部16によるシフト処理は、A/D変換部14でデジタル化した信号を前記バッファメモリに蓄積した後、片方の入力信号を位相差の120度(360度/3)に相当するメモリアドレス分(=Fs/60/3,Fs:サンプリング周波数)だけシフトすることに当たる。
【0022】本実施形態において、減算処理する入力信号の組合せは、r相とt相、r相とs相、s相とt相のいずれであってもよいが、便宜上、ここではr相とs相の組合せの場合を中心に詳述する。
【0023】まず、本発明者が鋭意検討した結果知見して得たシフト減算法について説明する。
【0024】図2(A)に示すように、前記図1と同様の3相交流電動機Mに流れるr、s、tの各相の電流を検出すると、これらは、電源に含まれる高調波の影響で、同図(B)に示すように、滑らかな正弦波とはならない。従って、電動機内部の部分放電を、図3(A)にイメージを示すように、3相の合成電流に相当する零相電流で検出しようとしても、同図(B)に示すように高調波ノイズが大きく重畳していて0Aにならないことから、部分放電を正確に捉らえることができない。
【0025】そこで、高調波ノイズと部分放電の性質の違いを利用して、高調波ノイズだけを除去するために、本出願人が考案したのがシフト減算法である。
【0026】このシフト減算法の原理は、「高調波はVVVF等人為的な操作によって生じるもので、短時間の中では発生サイクルに周期性をもっており、又異相間において発生パターンはほぼ等しいが、部分放電は偶発的な発生形態を示すため、発生パターンに周期性をもっておらず、又異相間で発生パターンが異なる。」という性質の違いを利用したもので、3相交流で高調波の繰り返しサイクルとなる120度(単相の場合は360度)だけサンプリング信号をシフトして減算し、高調波成分を打ち消そうというのがシフト減算法である。
【0027】このシフト減算法について、同じく3相交流の場合を例に詳細に説明する。r相の電流が図4(A)に示す観測波形で検出されたとすると、この電流は同図(B)、(C)、(D)にそれぞれ示した基本波、高調波、部分放電が重なり合ってできた波形で形成されている。一方、図5(A)に示す観測波形で得られるs相の電流も、同様に(B)、(C)、(D)にそれぞれ示した基本波、高調波、部分放電が重なり合ってできた波形で形成され、上記r相との間に120度の位相差をもっている。
【0028】従って、s相の電流信号を120度シフトすると、その波形はr相に相似した波形になり、シフトした状態でr相の電流信号から減算すると、図6(A)、(B)にそれぞれ減算する側をマイナスの信号として基本波、高調波を示したように、これらはいずれも打ち消し合い、残った差分信号波形は同図(C)に示したr相とs相の部分放電の成分となる。
【0029】以上のように、シフト減算法を用いることによって高調波ノイズを打ち消し、部分放電だけを抽出することが可能となる。従って、前記図1に示した本実施形態の絶縁診断装置によれば、図7に正常状態の場合を、図8に異常状態の場合を、それぞれ観測されたs相の電流信号と共に示したように、部分放電の信号を正確に検出することができ、これらを前記放電量表示装置22に表示することができる。なお、図中CH1はs相の、CH2は部分放電の各電流信号である。
【0030】以上詳述したように、本実施形態によれば、交流電動機の巻線の絶縁が劣化したときに生じる部分放電を、電動機が運転状態のまま高調波ノイズを分離して連続して検出することができるため、これまで困難であったオンライン診断が可能となった。
【0031】又、これまで停止状態の試験でもできなかった巻線間の絶縁劣化をもオンラインで診断することが可能となった。
【0032】以上、本発明について具体的に説明したが、本発明は、前記実施形態に示したものに限られるものでなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0033】例えば、前記実施形態では3相交流の場合について説明したが、これに限定されず、単相交流であっても、3相以外であってもよい。単相交流の場合は、位相の代わりに自らの相の電流を360度シフトして減算することで、同様の効果を得ることができる。又、3相交流の場合、ある特定の相の電流を360度シフトして減算することで、その相に関する放電を検出できるし、零相回路であれば360度シフトして減算することで、内部の部分放電を検出できる。
【0034】又、前記実施形態では、交流電動機について説明したが、本発明は交流発電機にも同様に適用できることは言うまでもない。
【0035】
【発明の効果】以上説明したとおり、本発明によれば、交流電動機や交流発電機等の交流回転機が有する巻線の絶縁劣化を運転状態で正確に診断することができる。
【出願人】 【識別番号】000001258
【氏名又は名称】川崎製鉄株式会社
【出願日】 平成11年6月29日(1999.6.29)
【代理人】 【識別番号】100080458
【弁理士】
【氏名又は名称】高矢 諭 (外2名)
【公開番号】 特開2001−13225(P2001−13225A)
【公開日】 平成13年1月19日(2001.1.19)
【出願番号】 特願平11−184408