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【発明の名称】 鉄道設備用低圧電線ケーブルのための超音波劣化診断装置
【発明者】 【氏名】池田 毅

【氏名】川辺 勝男

【要約】 【課題】簡単な設備で鉄道用低圧ケーブルの劣化を正確にかつ迅速に診断でき、鉄道設備の保守現場での使用に適した超音波劣化診断装置を提供すること。

【解決手段】有機高分子材料からなる被覆層C1を有する鉄道設備用低圧電線ケーブルCを、超音波を用いて劣化診断するための装置である。該装置は、超音波送信手段1と、超音波受信手段2と、被覆層を超音波Wが伝搬させるときの送信手段1から受信手段2までの伝搬時間を測定する伝搬時間測定手段(図1では制御部5に含まれる)と、被覆層の表面温度を測定する温度測定手段3とを有する。温度測定手段3は、被覆層の表面に接するための良熱伝導性部材31と、該部材31に取り付けられた温度センサ32とを有する。これによって、超音波伝搬特性の測定と、迅速で正確な温度測定とが可能となる。また、ケーブルの好ましい保持のために、滑り止め付きの溝を設けたケーブル保持具を用いる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 有機高分子材料からなる被覆層を有する鉄道設備用低圧電線ケーブルを診断対象とし、超音波送信手段と、超音波受信手段と、該送信手段から該受信手段へと超音波が前記被覆層を伝搬するときの伝搬時間を測定する伝搬時間測定手段と、被覆層の表面温度を測定する温度測定手段とを有し、該温度測定手段が、被覆層の表面と接するための良熱伝導性部材と、該部材に取り付けられた温度センサとを有することを特徴とする、鉄道設備用低圧電線ケーブルのための超音波劣化診断装置。
【請求項2】 良熱伝導性部材が、銅、銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるものである請求項1記載の超音波劣化診断装置。
【請求項3】 さらに、演算部を有し、該演算部は、被覆層の材料に関して超音波伝搬特性と劣化診断特性とが対応した劣化診断用データ群を有し、上記伝搬時間を含む超音波伝搬特性を、温度測定手段で得た温度を用いて温度補正し、前記劣化診断用データ群を用いて被覆層の劣化診断特性を求める演算を行なうものである請求項1記載の超音波劣化診断装置。
【請求項4】 さらに、ケーブル保持具を有し、該ケーブル保持具は、上記低圧電線ケーブルの保持に用い得る溝を有し、かつ、上記超音波送信手段、超音波受信手段、温度測定手段と、前記溝とによって低圧電線ケーブルを挟んで保持し得る構造であり、前記溝の表面には、保持すべき低圧電線ケーブルに対する滑り止めが設けられている請求項1記載の超音波劣化診断装置。
【請求項5】 上記滑り止めが、上記溝の表面に粗面化加工が施されてなるものであるか、または、上記溝の表面に弾性材料からなる層が設けられてなるものである請求項4記載の超音波劣化診断装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、超音波を用いて電線ケーブルの劣化を診断する技術分野に属するものであり、特に、鉄道設備用の低圧電線ケーブル(以下、「鉄道用低圧ケーブル」または単に「ケーブル」とも呼ぶ)を診断するための診断装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】鉄道用低圧ケーブルは、線路に沿って多数設けられた設備や機器などに対する電力供給や、これらを制御するための信号電流の供給などのために敷設され、沿線のあらゆる設備に対して重要な役割を果している。沿線の設備としては、例えば、踏み切りなどの信号器・遮断機、ポイントに関係する装置、種々の監視装置や制御機器などが挙げられる。
【0003】鉄道用低圧ケーブルの被覆層(導線の外周を被覆する有機高分子材料からなる絶縁体層)に、劣化による絶縁不良などの不具合が発生すると、安全で安定した車両の運転や、鉄道設備全体の運営に支障をきたす恐れがある。このため、鉄道用低圧ケーブルに対しては、一般の低圧ケーブルよりも高い頻度で、定期的に絶縁性能試験が実施されている。
【0004】従来、鉄道用低圧ケーブルに対する絶縁性能試験では、ケーブルの相間(例えば、3相交流の各相に対応するケーブル同士の間)あるいは対地の絶縁抵抗を電気的に測定したり、超低周波電流を重畳通電して漏洩成分を抽出することで絶縁性能を直接測定していた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上記のような従来の診断方法では、測定の際に停電させることが必要である。鉄道設備は、年間を通して24時間稼動状態にあるため、検査員の安全上の問題や、劣化診断に対する時間的制約が多い。このような限られた時間内においてケーブルの劣化診断を正確に行なわねばならないために、検査員は厳しい検査作業を強いられていた。また、測定のためには、電源設備など、大掛かりな設備が必要であるという問題もあった。
【0006】上記問題点を解決すべく、本発明者等は、先ず、超音波による劣化診断方法を鉄道用低圧ケーブルに適用することによって、活線状態でのケーブルの診断を試みた。しかしそこで、鉄道設備の保守現場における超音波劣化診断の実施の形態をさらに検討したところ、超音波劣化診断であっても、鉄道用途であるがために次のような問題点があることがわかった。
【0007】■列車の走行する線路・設備等のすぐ近くあるいは内部で作業するため危険を伴い、長時間作業では作業員の安全確保が難しい。
■上記■の理由から保安要員を伴って診断作業するため、長時間になると人件費が高くなる。
■鉄道線路は長距離にわたっており、特定の区間内でも診断ポイントが非常に多く、1点の診断に時間をかけるような低い効率の作業は好ましくない。
■沿線の様々な環境のもとで超音波診断を行うには、特定の温度への補正が必要であり、そのため、診断対象となるケーブルの表面温度を測定しなければならない。しかし、電源・電装ボックスなどの制御箱や、トラフ(線路に沿ったコンクリートの溝であって、電線が納まっている部分)内での診断などでは、診断のために制御箱やトラフのふたを開けるが、その際に直射日光や外気などによってケーブル温度が急速に変化する。従って、超音波伝搬特性については迅速に行わないと実態の温度下での伝搬測定ができず、また、ケーブル表面温度についても迅速に測定しないと実態の温度が得られず正確な温度補正ができない。
【0008】以上のように、鉄道設備の保守現場においては迅速な測定作業が必要であり、特に上記■の問題に対応するためには、被覆層の表面温度を迅速かつ正確に測定しなければならないことがわかった。
【0009】本発明の課題は、上記問題を解決し、簡単な設備で、鉄道用低圧ケーブルの劣化を正確にかつ迅速に診断できる、鉄道設備の保守現場での使用に適した超音波劣化診断装置を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明の超音波劣化診断装置は、次の特徴を有するものである。
(1)有機高分子材料からなる被覆層を有する鉄道設備用低圧電線ケーブルを診断対象とし、超音波送信手段と、超音波受信手段と、該送信手段から該受信手段へと超音波が前記被覆層を伝搬するときの伝搬時間を測定する伝搬時間測定手段と、被覆層の表面温度を測定する温度測定手段とを有し、該温度測定手段が、被覆層の表面と接するための良熱伝導性部材と、該部材に取り付けられた温度センサとを有することを特徴とする、鉄道設備用低圧電線ケーブルのための超音波劣化診断装置。
【0011】(2)良熱伝導性部材が、銅、銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるものである上記(1)記載の超音波劣化診断装置。
【0012】(3)さらに、演算部を有し、該演算部は、被覆層の材料に関して超音波伝搬特性と劣化診断特性とが対応した劣化診断用データ群を有し、上記伝搬時間を含む超音波伝搬特性を、温度測定手段で得た温度を用いて温度補正し、前記劣化診断用データ群を用いて被覆層の劣化診断特性を求める演算を行なうものである上記(1)記載の超音波劣化診断装置。
【0013】(4)さらに、ケーブル保持具を有し、該ケーブル保持具は、上記低圧電線ケーブルの保持に用い得る溝を有し、かつ、上記超音波送信手段、超音波受信手段、温度測定手段と、前記溝とによって低圧電線ケーブルを挟んで保持し得る構造であり、前記溝の表面には、保持すべき低圧電線ケーブルに対する滑り止めが設けられている上記(1)記載の超音波劣化診断装置。
【0014】(5)上記滑り止めが、上記溝の表面に粗面化加工が施されてなるものであるか、または、上記溝の表面に弾性材料からなる層が設けられてなるものである上記(4)記載の超音波劣化診断装置。
【0015】
【作用】超音波によるケーブルの劣化診断方法は、被覆層を構成する有機高分子材料の劣化の程度に応じて、該層の超音波の伝搬特性(伝搬速度、伝搬時間など)が変化することを利用するものであり、伝搬特性を測定し、その値から対応する劣化診断特性を求めるという方法である。
【0016】被覆層を伝搬する超音波の伝搬特性(伝搬速度、伝搬時間など)は、温度依存性を示し、被覆層の温度に大きく左右される。鉄道用低圧ケーブルのような外気や日光などに曝されているものは、伝搬時間の測定と共に、被覆層の表面温度を正確に測定し、前記伝搬時間の測定結果を、標準の温度での値へと補正しなければならない。しかも上記「発明が解決しようとする課題の説明」で述べたように、温度測定は迅速でなければ正確な測定が困難である。
【0017】そのため本発明では、ケーブルの被覆層の表面温度を測定し得る構成とすると共に、温度センサの先端に良熱伝導性部材を設け、この部材を介して温度を測定する構成とした。この良熱伝導性部材が被覆層の表面温度に素早く到達するために、温度センサの温度検出部は良熱伝導性部材を介して被覆層表面の温度を早く正確に検知することができる。また、この良熱伝導性部材が適度な熱容量を持つために、日射、風等の外界からの温度擾乱が抑制される。即ち、測定対象に対する高い温度応答性と、外界からの温度擾乱に対する測定の安定性とを両立した温度測定が可能となっている。
【0018】またさらに、保守現場における検査員の測定作業動作を観察したところ、診断装置をケーブルの被覆層に接触させる際に接触が不安定になりがちであるため、測定値に大きなばらつきが生じ、診断結果の精度が低くなっていることがわかった。本発明では、より好ましい態様として、滑り止めが設けられた溝を有する保持具を用い、超音波送信手段、超音波受信手段、温度測定手段などと、保持具の溝とによって、ケーブルを確実に把持する構成とした。これによって、測定作業が容易になり、また診断装置(特に温度測定手段)とケーブルの被覆層との接触状態は安定し、測定値のばらつきが小さくなった。
【0019】
【発明の実施の形態】本発明による超音波劣化診断装置は、図1に一例を示すように、超音波送信手段(以下「送信手段」)1と、超音波受信手段(以下「受信手段」)2と、伝搬時間測定手段(図1では制御部5に含まれている)と、温度測定手段3とを少なくとも有する。送信手段1、受信手段2、温度測定手段3は、ケーブルCの被覆層C1の表面に接している。
【0020】送信手段1は、受信手段2に向かって超音波Wを被覆層C1へ送り出し、受信手段2は、送信手段1から所定距離だけ離れた位置でそれを受ける。伝搬時間測定手段は、超音波Wが送信手段から受信手段まで伝搬するのに要する時間(送信から受信までの時間)を測定する。伝搬時間が得られると、そのままの形でまたは他の伝搬特性の形に変換し、温度補正して、その値から被覆層の劣化診断特性の値を求める。この温度補正を行なうために、被覆層の表面温度を測定する温度測定手段3が設けられている。温度測定手段3は、被覆層に直接接触させるための良熱伝導性部材31と、それに取り付けられた温度センサ32とを有する。このように構成した診断装置によって、上記作用の説明で述べたように、伝搬特性の温度補正が正確にできるようになり、正しい劣化診断が可能となる。
【0021】診断対象となる鉄道用低圧ケーブルは、電気設備技術基準に規定された直流750V以下、交流600V以下低電圧用の絶縁電線である。該ケーブルは、図1に示すように、中心の導線C2の外側に、有機高分子材料からなる絶縁体層を被覆層として有する。該有機高分子材料としては、ポリエチレンやポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂、天然や合成によるゴム、熱可塑性エラストマーなどが用いられている。
【0022】送信手段、受信手段は、被覆層を伝搬経路として超音波の送信・受信を行なう装置である。送信手段、受信手段は、被覆層に装着される先端のプローブ部だけでなく、各々、超音波を送信、受信するためのシステム全体を指し、超音波振動子(送信)や超音波検出素子(受信)などの変換素子の他に、電気エネルギーの供給や増幅を行なう駆動回路系、該素子と被覆層との間に介在するディレーチップなどが含まれる。
【0023】図1の例では、診断装置全体の構成が、被覆層に装着されるプローブ部4と、それに有線(無線でもよい)で接続された制御部5とに分離した構成となっており、送信手段1、受信手段2、温度測定手段3も、それぞれプローブ部と、制御部とに分離している。例えば、送信手段1では、ディレーチップ11と変換素子12はプローブ部4に含まれ、その駆動回路系は制御部5に含まれている。しかし、このような分離型の態様だけでなく、駆動回路系とプローブ部とが一体となった態様でもよく、各手段内での一体型・分離型は、各手段毎に自由に選択してよい。また、図1の例では、好ましい操作性の点から、送信手段1、受信手段2、温度測定手段3の各プローブ部が合体し1つのプローブ部4となっているが、温度測定手段3だけを独立させる態様など、各手段同士の一体化・分離化も、自由に選択してよい。
【0024】超音波の送信、受信の方法は、被覆層表面に垂直に内部方向へ超音波を発射し深層で反射してきた波を同じ位置で受信する方法や、被覆層表面から斜め下方に超音波を発射し深層で反射させて離れた位置で受信する方法など、種々の公知の手法を用いてよい。なかでも、ディレーチップを用いて超音波を被覆層の表面に沿って受信手段まで直接伝搬させる方法は、外部から明確に測定し得る〔時間、直線距離〕という量だけで伝搬速度が算出できる方法である。以下に、送信手段、受信手段、伝搬時間測定手段などについては、ディレーチップを用いて超音波を被覆層の表面に沿って伝搬させる態様を代表として本発明を説明する。
【0025】図1に示すように、送信手段1では、超音波発振子12が、ディレーチップ11を介して被覆層C1の表面上に設置されている。受信手段2では、超音波検出素子22が、ディレーチップ21を介して被覆層C1の表面上に、送信手段1から所定の距離だけ離れた位置に設置されている。この構成によって、送信手段1から発信された超音波Wは、ディレーチップ11を介して被覆層内に入る。ディレーチップ11は被覆層の材料に対して超音波伝搬速度の点で選択された材料からなり傾斜角度が選択されており、超音波はディレーチップと被覆層との界面で伝搬方向を変え、被覆層の表面に沿って(即ち被覆層の表面および表面付近を通って)受信手段2の位置まで直線的に伝搬し、ディレーチップ21を介して検出素子22で受信される。そのときの伝搬時間は、伝搬時間測定手段によって測定される。
【0026】ディレーチップは、変換素子と被覆層との間に介在させるものであって、超音波の伝搬方向を屈折させ、被覆層の表面に沿うように送り、また、表面に沿って伝搬して来た超音波を受け入れることができるように構成されたものである。ディレーチップの基本的な構造は従来技術を参照してよい。
【0027】超音波が伝搬する被覆層の表面および表面付近は、被覆層の表面から3mm程度の深さまでの領域が主となる。従って、被覆層が充分に厚い場合は問題ないが、例えば厚みが1.5mmしかない場合、超音波の一部は、被覆層の下層(ケーブルでは導体など、被覆層下に隣接する次の層)との界面で反射して、あるいは該界面と被覆層表面との間で反射を繰り返して、伝搬することになり、正確な伝搬特性が測定できない場合もある。そこで、より正確に測定するためには、例えば、被覆層の表面および表面から1mm程度までの深さで超音波を伝搬させるなど、下層に達しない深さで、送信手段から受信手段へ直線的に伝搬させるのが好ましい。
【0028】本発明で使用する超音波の周波数には制限はない。なお、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、エチレン・プロピレン共重合ゴム(EPM)など、ケーブルの被覆層に多用される有機高分子材料では、概して超音波の減衰が大きいので、減衰が比較的少ない0.1〜5MHz程度、特に0.5〜2MHz程度の周波数が好ましい。
【0029】伝搬特性は、被覆層の材料中に超音波を伝搬させたときの伝搬状態を示す量であってかつ材料の劣化と相関関係を有するものであればよい。例えば、特に有用な伝搬時間や伝搬速度の他にも、超音波の受信感度、超音波波形の周波数変化、超音波波形の形状変化、超音波の減衰特性などが挙げられる。
【0030】劣化診断特性は、被覆層に用いられる有機高分子材料(以下「被覆層の材料」ともいう)の劣化度を示し得る特性であって伝搬特性と相関関係を有するものであればよい。例えば、材料の表面反発硬度、表面針入硬度、引張強さ、破断伸び率、弾性率、ヤング率、モジュラス、誘電率、誘電正接、体積抵抗率、交流破壊電圧強度、インパルス破壊電圧強度、捩じりトルクや曲げ剛性など、機械的特性や電気的特性が挙げられる。特に、破断伸び率は、ケーブルの被覆層の劣化度を顕著に表し、伝搬特性とも強い相関関係を有するので、劣化診断特性として好ましく用いられる。
【0031】一般に、ケーブルの被覆層の破断伸び率が50%に近づくと、振動や衝撃によりクラックが発生する傾向にあり、その結果外部からの水の侵入などにより絶縁破壊を起こす可能性がある。従って、ケーブルの取替は破断伸び率が50%程度となるのを目安にして行えば良いと考えられる。但し、劣化の指標の基準は適宜使用者で決定しても良い。
【0032】伝搬時間測定手段は、送信手段からは受信手段までの伝搬時間を測定し得る装置であればよく、その構成は限定されないが、図1の例のように、送信手段から送信を開始したという信号を受け、受信手段から着信したという信号を受けて、その間の時間をカウントし伝搬時間とする演算が簡易で正確である。ディレーチップの介在などで発生する細かい誤差は必要に応じて補正すればよい。
【0033】温度測定手段は、被覆層の表面温度を測定するものであり、図1に示すように、被覆層の表面に対して良熱伝導性部材31を接触させ、この部材に温度センサ32を取り付けて、被覆層の表面温度を、良熱伝導性部材31を介して測定する構成である。温度測定手段は、温度を測定するためのシステム全体を指し、送信手段などと同様、先端のプローブ部だけでなく、検出信号の増幅を行なう増幅回路系などが含まれる。
【0034】良熱伝導性部材は、被覆層の表面温度によく応答し、熱を効率よく温度センサに伝達し得るものであればよく、単一の素材からなる板状や塊状の態様の他に、高い熱伝導率を達成し得るように構成された構造体であってもよい。本発明でいう良熱伝導性とは、常温付近での熱伝導率が概ね100W/m・K以上であることをいう。低コストで簡単に適度な熱容量を持つ部材に形成し得る態様としては、一般に知られている良熱伝導性の金属材料を用い、板状、塊状とする態様が好ましい。そのような金属としては、銅、銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金が好ましいものとして挙げられる。前記板状の態様には、加工が容易で熱容量を面積で簡単に調節できるという利点があり、一方、円柱状、角柱状、円錐状、角錐状などの塊状の態様には、熱容量を体積で調節でき、ケーブルとの接触面を小さくして全体としてセンサを小型化できるという利点がある。
【0035】良熱伝導性部材を上記板状とする場合、例えば板面が正方形の場合では大きさは2mm×2mm〜10mm×10mm程度、板厚は0.1mm〜2mm程度が好ましい。また、塊状とする場合、例えば円柱の場合では、接触面の大きさは直径2mm〜10mm程度、円柱の高さは2mm〜10mm程度が好ましい。熱容量を調整するために、上記範囲を外れても問題はなく、また、いかなる形状としてもよい。また、接触面はケーブルに沿うよう湾曲面としてもよい。被覆層と良熱伝導性部材との接触は、計測時だけの接触でも、恒久的な固定であってもよい。
【0036】温度センサは、特に限定されず、公知の温度測定センサをもちいてよい。例えば、熱電対、白金抵抗測温体、サーミスタ等が挙げられる。上記のとおり、必要な検出に必要な回路部は一体型でも分離型でもよい。
【0037】送信手段、受信手段、温度測定手段の各プローブ部のケーブルに対する配置関係は限定されないが、超音波を被覆層表面に沿って直線的に伝搬させるには、送信手段、受信手段をケーブルの長手方向に沿って配置するのが好ましい。それらに対して、温度測定手段は、超音波の伝搬の障害にならない程度の近傍に位置するのが好ましい。図1の例では、送信手段、受信手段、温度測定手段は、ケーブルの長手方向に沿って一直線上に配置されている。
【0038】上記作用の説明で述べたように、超音波によるケーブルの劣化診断方法は、伝搬特性の値から対応する劣化診断特性を求めるという方法である。従って、現場において、即座に劣化度の判定を下すには、ケーブルの種類に応じて異なる種々の被覆層の有機高分子材料について、伝搬特性と劣化診断特性との関係を予め求めておき、その場で伝搬特性から劣化診断特性に変換できるようにしておくべきである。この伝搬特性/診断特性の変換は、相関グラフ等を用いた手作業でもよいが、被覆層の種々の材料に関して伝搬特性と診断特性とが対応した劣化診断用データ群を有する演算部を本発明の装置に設け、伝搬特性から診断特性を自動的に求める構成とするのが迅速で正確である。伝搬特性は手入力であってもよいが、各手段と直結させる態様が好ましい。
【0039】演算部は、少なくとも伝搬特性を診断特性に変換するものであるが、図1に示すように、送信手段、受信手段、伝搬時間測定手段、温度測定手段をコントロールし、伝搬時間を求め、温度補正し、必要ならば伝搬速度などの他の伝搬特性に変換し、劣化診断用データ群から劣化診断特性を選びだすまでの作業を集中的に行なう制御部そのものであってもよい。装置としてはコンピュータが最適である。
【0040】劣化診断用データ群は、変換用の実験式を用いるような連続的なものでも、対応データが集合した離散的なものでもよい。また、劣化診断用データ群は、「伝搬特性」と「診断特性」とが2元で対応したものとするだけではなく、これらに「時間の経過」の要素を加え、「時間の経過」と「診断特性」と「伝搬特性」とが3元で対応したデータ群としてもよい。またさらに他の要素を加えて多元で対応したデータ群としてもよい。
【0041】データ群に「時間の経過」を要素として加えることによって、単に被覆層の機械的特性・電気的特性の値の判定をすることだけでなく、伝搬特性の経時的変化から診断特性の経時的変化を知ることができ、余寿命(残存寿命)の推定など、時間の経過に関係する評価を含めた総合的な診断が可能となる。特に、余寿命の推定は、測定時点までの劣化ではなく、測定時点から後の劣化の進行を診断するものであり、ケーブルなどの設備には有用な劣化診断である。
【0042】上記作用の説明で述べたように、本発明では、保守現場における検査員の作業性を改善しかつ測定を安定化するために、診断装置の先端部にケーブル保持具を提供している。図2(a)はその一例であって、受け部材7に溝6が設けられ、この溝6とプローブ部4とによってケーブルCを挟んで保持する構成である。
【0043】図2(a)に示すケーブル保持具のプローブ部4の内部構造は、図1に示すものと同様である。プローブ部4の接触面には、図2(b)に示すように、送信手段、受信手段のディレーチップ11、12、温度測定手段の良熱伝導性部材31が露出している。
【0044】ケーブル保持具の溝6の表面には、保持すべきケーブルに対する滑り止めを設け、ケーブルの保持を確実にするのが好ましい。該滑り止めの態様は限定されないが、例えば、溝の表面に、グルービング加工、ローレット加工などの各種粗面化加工を施す態様、溝の表面にゴムなどの弾性材料からなる層を設ける態様などが挙げられる。また、溝6を有する受け部材7全体の一部または全部を弾性材料で作成してもよい。弾性材料からなる溝面に上記粗面化加工を施すことも効果的である。
【0045】溝の断面形状はどのような形でも制限はないが、安定性や各種サイズの電線ケーブルの把持しやすさの点でV字形またはU字形が望ましい。
【0046】ケーブル保持具全体の構造としては、図2(a)に示すように、弾性体8の復帰力によってプローブ部4と受け部材7とでケーブルを挟み込む構造が好ましい。これによって、送信手段、受信手段、温度センサを、ケーブルの被覆層表面に常に一定荷重で安定して接触させることができる。
【0047】弾性体は、荷重を容易に設定できる点では種々のバネが好ましいが、ゴムなどの弾性材料の塊状物であってもよい。弾性体の復帰力は、圧縮、引っ張り、捩じり、曲げなどのいずれの変位によるものであってもよい。また、弾性体の力を利用してケーブルを挟み込む機構に特に制限はない。図2(a)の態様では、2つのレバーL1、L2を支点部9でリンク状に結合し、圧縮コイルバネ8の力を作用させて、洗濯バサミの様にケーブルCを挟む構造となっている。
【0048】被覆層の伝搬特性からその劣化度を求めるという超音波劣化診断の基本的な技術、被覆層を構成する有機高分子材料、伝搬特性と劣化診断特性との関係などについては、特開平7−35372号公報、特開平7−35373号公報、特開平10−54827号公報、特開平10−300731号公報、特開平11−14607号公報を参照してよい。
【0049】
【実施例】本実施例では、図2に示す態様のケーブル保持具を有する超音波劣化診断装置を製作し、ケーブル保持具の各部の仕様、即ち、■良熱伝導性部材の材料、■良熱伝導性部材の形状、■ケーブル保持具の溝の断面形状、■溝面の表面材料、■溝面の表面に対する粗面化加工を、種々に変化させて、ケーブルの被覆層表面の温度測定の応答性、温度測定値の安定性、ケーブルの把持安定性を調べた。また、比較例として、良熱伝導性部材を除去したもの、良熱伝導性部材の代わりに熱伝導性の悪い材料を用いたもの、溝面の表面材料が固く滑り止めの無いものを製作した。
【0050】測定対象の鉄道用低圧ケーブルは、JIS C 3342に定められる600V3心ビニル絶縁ビニルシースケーブルVVR5.5mm2 であって、屋外に敷設されたものである。測定時の気温は27℃であった。
【0051】温度測定手段の良熱伝導性部材の形状は、塊状の一例として直径4mm、高さ4mmの円柱状のものと、外形5mm×5mm、厚さ1mmの板状のものを用いた。温度センサには、白金抵抗測温体を使用した。
【0052】温度測定の応答性は、判定用の基準とするために別途設置した熱電対温度計の指示値と、温度測定値が一致するまでの時間で評価した。熱電対温度計は、測定点から30mm離れた被覆層表面に絶縁テープで固定し、被覆層の正しい表面温度を示すよう、十分に長い時間を経過させた。
【0053】温度測定値の安定性は、温度測定値が熱電対温度計の指示値と一致した後、1分間の温度変動幅で評価した。
【0054】ケーブルの把持安定性は、鉛直方向および水平方向に布設されたケーブルを、ケーブル保持具で把持し、手を離したときに接触部にずれが生じるかどうかを観察した。
【0055】実施例および比較例として製作した診断装置における、ケーブル保持具の仕様の変更内容を表1に示す。表1中、良熱伝導性部材の材料を示す記号のうち、「Al合金」はJIS規定の展伸用アルミニウム合金(6061)、「SUS」はJIS規定のステンレス鋼(SUS304)、「黄銅」はJIS規定の60/40黄銅(C2801)、「PE」はポリエチレン、「PVC」はポリ塩化ビニルを示す。また、溝表面に対する粗面化加工では、「R」はローレット加工、「SB」はサンドブラスト加工、「G」はグルービング加工を示す。
【0056】
【表1】

【0057】実施例および比較例として製作したケーブル保持具の評価を表2に示す。表2では、温度測定の応答性については、応答に要する秒数を4段階に分け、10秒以内の応答を「◎」、15秒以内を「○」、30秒以内を「△」、31秒以上を「×」で示している。また、温度測定値の安定性については、温度変動幅を4段階に分け、1℃以内の変動を「◎」、2℃以内を「○」、4℃以内を「△」、5℃以上を「×」で示している。また、ケーブルの把持安定性については、観察の結果を4段階に分け、ずれ無しを「◎」、僅かなずれを「○」、大きなずれを「△」、落下を「×」で示している。
【0058】
【表2】

【0059】表2に示すとおり、良熱伝導性部材を設けた本発明の装置の方が、設けない比較例よりも、ケーブルの表面温度に迅速に応答しかつ安定していることが明らかとなった。また、ケーブル保持具の操作性の点では、溝面に滑り止めを施した本実施例のものは、バネの力でケーブルを挟むだけで、手を離しても温度センサが被覆層の表面からずれることがなかった。このことから、高所や狭隘な部分など、診断装置をケーブルに対して手で保持しにくい場所でも、正確な劣化診断が可能であることがわかった。
【0060】
【発明の効果】以上説明したとおり、本発明の超音波劣化診断装置は、簡単な構成でありながら、鉄道用低圧ケーブルの敷設現場において被覆層の表面温度を正確にかつ迅速に測定できる。従って、測定される超音波伝搬特性に対してその場で正確な温度補正が可能であり、ひいては正確でかつ迅速な劣化診断が可能である。また、本発明の超音波劣化診断装置は、鉄道設備の保守現場での使用に適したケーブル保持具を備えているから、検査員の作業性を改善し、正確でかつ迅速な劣化診断が可能となっている。
【出願人】 【識別番号】000003263
【氏名又は名称】三菱電線工業株式会社
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
【出願日】 平成12年1月7日(2000.1.7)
【代理人】 【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
【公開番号】 特開2001−194350(P2001−194350A)
【公開日】 平成13年7月19日(2001.7.19)
【出願番号】 特願2000−1671(P2000−1671)