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【発明の名称】 磁歪式トルクセンサ
【発明者】 【氏名】深作 博史

【氏名】小林 賢二

【氏名】田中 勝章

【氏名】浅倉 英樹

【氏名】纐纈 嘉孝

【要約】 【課題】出力感度を従来と同等以上としながら過負荷出力ヒステリシスを小さくする。

【解決手段】シャフトSに外嵌される磁性材13の外周面に設けられた各磁歪領域14A,14Bには、磁束が通過する表皮層の外周面のほぼ全体に、表皮層を形成する磁性材の結晶粒を区画する溝23を、表皮層を部分的に除去することで形成する。各溝23は、各磁性領域14A,14Bを周方向に分断するように、シャフトSの中心軸線に沿って延びて磁歪領域14A,14Bの表皮層を横切るように形成する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 被検出軸の外周側に設けられ、該被検出軸に加わる負荷トルクによって逆磁歪作用を生じる磁歪部を備え、逆磁歪作用によって前記磁歪部に生じた透磁率の変化によって、前記被検出軸に加わっている負荷トルクに応じた大きさの出力を生成する磁歪式トルクセンサにおいて、前記磁歪部には、磁束が通過する表皮層の外周面のほぼ全体に、該表皮層を形成する磁性材の結晶粒を区画する溝が、前記表皮層を部分的に除去することで形成されている磁歪式トルクセンサ。
【請求項2】 前記溝は、前記磁歪部の表皮層を周方向に区画するように設けられている請求項1に記載の磁歪式トルクセンサ。
【請求項3】 前記溝は、前記被検出軸の軸線方向に延びて前記磁歪部の表皮層を横切るように形成されている請求項2に記載の磁歪式トルクセンサ。
【請求項4】 前記溝は、前記磁歪部に外嵌させた環状リングを該磁歪部に対して軸方向に沿って摺動させることで形成されている請求項2又は請求項3に記載の磁歪式トルクセンサ。
【請求項5】 被検出軸の外周側に設けられ、該被検出軸に加わる負荷トルクによって逆磁歪作用を生じる磁歪部を備え、逆磁歪作用によって前記磁歪部に生じた透磁率の変化によって、前記被検出軸に加わっている負荷トルクに応じた大きさの出力を生成する磁歪式トルクセンサにおいて、前記磁歪部には、磁束が通過する表皮層の外周面のほぼ全体に、該表皮層を形成する磁性材の結晶粒内における磁壁の移動の自由度を規制する凹部が、前記表皮層を部分的に除去することで形成されている磁歪式トルクセンサ。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、磁歪式トルクセンサに関するものである。
【0002】
【従来の技術】磁歪式トルクセンサは、外部から負荷トルクが加えられる被検出軸の外周面、あるいは、被検出軸に嵌合する状態で固定された円筒状の磁性材(バルク材)の外周面に設けた円筒状の一対の磁歪部を備えている。そして、被検出軸に加わる負荷トルクに基づいて変化する各磁歪部の透磁率の変化によって、負荷トルクに応じた出力電圧を出力する。
【0003】ところで、トルクセンサの出力−負荷トルク特性には、ヒステリシス(出力ヒステリシス)がある。出力ヒステリシスは、磁歪部の磁化特性に原因がある。磁歪部の静的磁化特性における磁気ヒステリシスが大きいと、高周波交流で励磁される磁歪部の動的磁化特性における交流透磁率が不安定となる。その結果、出力−負荷トルク特性に出力ヒステリシスが発生する。
【0004】出力ヒステリシスを低減するため、特公平7−10011号公報の磁歪式トルクセンサは、被検出軸に設けた磁歪部の表面全体に、ショットピーニング処理による圧縮加工硬化層を形成することで磁歪部の磁気ヒステリシスを抑制するとしている。
【0005】即ち、磁気ヒステリシスは、強磁性体である磁歪部の磁化過程において、非可逆的な磁壁移動による磁化過程が存在するために生じる。又、磁気ヒステリシスは、磁歪部の表面に、切削加工、ローレット加工、転造加工等によって螺旋溝を形成するときに生じる微細な表面欠陥や、被検出軸に加わる負荷トルクによって表皮層に生じる結晶粒界のすべりによって増大する。
【0006】そこで、各磁歪部の表面全体に対してショットピーニング処理を施すことにより、表皮層に存在する微細な表面欠陥が除去され、又、表皮層が圧縮緻密化されて結晶粒界のすべり抵抗が高められる。さらに、ショットピーニング処理によって磁歪部の表面に形成された多数の微小圧痕の周りに、環状の圧縮残留応力の場が形成される。そして、この圧縮残留応力の場が自発磁化による磁化過程が主体となる磁区となり、磁化過程が主として可逆的な自発磁化の回転によるものとなる。以上の結果、磁気ヒステリシスが抑制されて出力ヒステリシスが低減するので、出力ヒステリシスが小さくなるとしている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、磁歪式トルクセンサを電動パワーステアリングのステアリングシャフトの負荷トルク検出に使用する場合には、耐久性の面から例えば最大定格トルク10N・mに対して20倍に相当する最大200N・mの過負荷トルクが加わることを想定する必要がある。そして、最大過負荷トルクが加わった後のドリフト電圧が、最大定格トルクに対する出力電圧の例えば2%未満であること、即ち、過負荷出力ヒステリシスが2%未満であることが要求されている。
【0008】ところが、磁歪部の表面に通常のショットピーニング処理を行っても、最大定格時出力ヒステリシスを2%未満とすることはできても、最大定格負荷トルクの20倍までの過負荷出力ヒステリシスを2%未満とすることは困難であった。これは、磁歪部に対してショットピーニング処理を行うと、磁歪部の表層部が塑性変形することで残留応力が付与される。磁歪部に残留応力が存在する状態で被検出軸に過負荷トルクを印加していくと、残留応力がない場合に比較して早めに塑性変形領域に達する部分が磁歪部の表層部で発生する。このため、磁歪部の磁気ヒステリシスが大きくなり、過負荷出力ヒステリシスが小さくならないと考えられる。又、ショットピーニング処理による残留応力によって透磁率が低下するため、出力感度も低下する。従って、出力感度を確保しながら過負荷出力ヒステリシスを小さくすることはできなかった。
【0009】本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その第1の目的は、出力感度が従来と同等以上で過負荷出力ヒステリシスが小さい磁歪式トルクセンサを提供することにある。
【0010】又、第2の目的は、第1の目的に加えて、より高い出力感度を備えた磁歪式トルクセンサを提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】上記問題点を解決するため、請求項1に記載の発明は、被検出軸の外周側に設けられ、該被検出軸に加わる負荷トルクによって逆磁歪作用を生じる磁歪部を備え、逆磁歪作用によって前記磁歪部に生じた透磁率の変化によって、前記被検出軸に加わっている負荷トルクに応じた大きさの出力を生成する磁歪式トルクセンサにおいて、前記磁歪部には、磁束が通過する表皮層の外周面のほぼ全体に、該表皮層を形成する磁性材の結晶粒を区画する溝が、前記表皮層を部分的に除去することで形成されている磁歪式トルクセンサである。
【0012】請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記溝は、前記磁歪部の表皮層を周方向に区画するように設けられている。請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記溝は、前記被検出軸の軸線方向に延びて前記磁歪部の表皮層を横切るように形成されている。
【0013】請求項4に記載の発明は、請求項2又は請求項3に記載の発明において、前記溝は、前記磁歪部に外嵌させた環状リングを該磁歪部に対して軸線方向に沿って摺動させることで形成されている。
【0014】請求項5に記載の発明は、被検出軸の外周側に設けられ、該被検出軸に加わる負荷トルクによって逆磁歪作用を生じる磁歪部を備え、逆磁歪作用によって前記磁歪部に生じた透磁率の変化によって、前記被検出軸に加わっている負荷トルクに応じた大きさの出力を生成する磁歪式トルクセンサにおいて、前記磁歪部には、磁束が通過する表皮層の外周面のほぼ全体に、該表皮層を形成する磁性材の結晶粒内における磁壁の移動の自由度を規制する凹部が、前記表皮層を部分的に除去することで形成されている磁歪式トルクセンサである。
【0015】(作用)請求項1に記載の発明によれば、磁束が通過する磁歪部の表皮層の外周面には、表皮層を形成する磁性材の結晶粒を区画する溝が、表皮層を部分的に除去することで設けられている。このため、実験結果に示すように、出力感度が低下することなく、少なくとも最大定格負荷トルクの20倍の大きさの過負荷トルクまでの過負荷出力ヒステリシスが2%未満となる。被検出軸から受ける応力による磁歪部の磁化過程は、最初は、磁歪部の表皮層を形成する磁性材の各結晶粒内において、各磁区の内から自発磁化が磁界方向に最も近い磁区が成長することで行われる非可逆的な過程である。この磁区は、磁壁が隣合う磁区側に移動することで成長する。ここで、磁歪部の表皮層を形成する磁性材の結晶粒に結晶粒を区画する溝が設けられていることにより、結晶粒内における磁壁の移動が、溝によって区画された結晶粒内の各領域に制限されるとともに、自発磁化の回転による可逆的な磁化過程が許容されると考えられる。その結果、磁歪部の静的磁化過程における透磁率が殆ど変化しないままで磁気ヒステリシスが抑制され、高周波交流に対する交流透磁率が安定化すると考えられる。従って、溝が設けられていない磁歪部を備えた磁歪式トルクセンサに比較して、出力感度が低下しないままで過負荷出力ヒステリシスが小さくなる。
【0016】請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の作用に加えて、溝によって磁歪部の表皮層が周方向に分断されるので、表皮層を周方向に流れる渦電流が制限される。従って、出力感度の損失の1つである渦電流損失が低減される。
【0017】請求項3に記載の発明によれば、請求項2に記載の発明の作用に加えて、溝が表皮層を被検出軸の軸線方向に延びて磁歪部の表皮層を横切るように形成されているので、被検出軸の軸方向に加工治具を相対移動させることで溝が形成される。従って、従来の磁歪式トルクセンサの磁歪部に対して溝が容易に加工形成される。
【0018】請求項4に記載の発明によれば、請求項2又は請求項3に記載の発明の作用に加えて、磁歪部に外嵌させた環状リングを軸方向に沿って摺動させることで、磁歪部の表皮層に溝が形成される。
【0019】請求項5に記載の発明によれば、磁歪部の表皮層を形成する磁性材の結晶粒の外周面に、結晶粒の磁気ヒステリシスを小さくするように作用する凹部が形成されていることにより、表層部全体の磁気ヒステリシスが小さくなる。その結果、磁歪部の静的磁化過程における透磁率が殆ど変化しないままで磁気ヒステリシスが抑制され、高周波交流に対する交流透磁率が安定化すると考えられる。従って、凹部が設けられていない磁歪部を備えた磁歪式トルクセンサに比較して、出力感度が低下しないままで過負荷出力ヒステリシスが小さくなる。
【0020】
【発明の実施の形態】以下、本発明を具体化した一の実施の形態を図1〜図4に従って説明する。図1に示すように、磁歪式トルクセンサ10は、ハウジングH内に軸受Bによって相対回転可能に支持された被検出軸としてのシャフトS上に設けられている。
【0021】磁歪式トルクセンサ10は、シャフトSに外嵌された状態で固定された被検出部11と、シャフトSに対して相対回転可能に支持されるとともにハウジングHに対して一体回転可能に連結された検出部12とからなる。
【0022】被検出部11は、高透磁率軟磁性材によって円筒状に形成され、シャフトSに外嵌される磁性材13からなる。高透磁率軟磁性材としては、パーマロイ、Fe−Ni−Cr合金等がある。
【0023】磁性材13の表面(外周面)には、シャフトSに加わる負荷トルクによって透磁率が交互に増大及び減少する磁歪部としての一対の磁歪領域14A,14Bが設けられている。各磁歪領域14A,14Bは、共に円筒状に形成されている。磁歪領域14Aには、シャフトSの時計方向の捻じれによって磁歪領域14Aに圧縮応力を発生させ、反時計方向の捻じれによって磁歪領域14Aに引っ張り応力を発生させるための複数の螺旋溝15Aが周方向に等間隔で形成されている。又、磁歪領域14Bには、シャフトSの時計方向の捻じれによって磁歪領域14Bに引っ張り応力を発生させ、反時計方向の捻じれによって磁歪領域14Bに圧縮応力を発生させるための複数の螺旋溝15Bが周方向に等間隔で形成されている。
【0024】検出部12は、シャフトSに対して一対の軸受16によって相対回転可能に両端が支持されたヨーク17を備えている。又、検出部12は、磁歪領域14Aに対向するようにヨーク17の内周面に設けられた周溝18A内に収容された励磁用コイル19A、検出用コイル20Aと、磁歪領域14Bに対向するようにヨーク17の内周面に設けられた周溝18B内に収容された励磁用コイル19B及び検出用コイル20Bとを備えている。
【0025】両励磁用コイル19A,19Bは、その両端に高周波電源21が接続されている。又、各検出用コイル20A,20Bは逆極性(巻き方向が逆)に直列接続され、その両端に同期整流器22が接続されている。
【0026】従って、磁歪式トルクセンサ10は、シャフトSに負荷トルクが加わっているときには、同期整流器22が出力する直流電圧の正負が負荷トルクの向きに応じるとともに、直流電圧の大きさが負荷トルクの大きさに応じた大きさとなる高周波電圧を出力する。
【0027】本発明の特徴である磁歪領域14A,14Bについて詳述する。磁性材13は、周知の磁気焼鈍処理、例えば1100℃で2時間焼鈍する熱処理が施されている。その結果、各磁歪領域14A,14Bの表皮層には、磁性材の結晶粒が0.1〜0.4mmの範囲の粒径で形成されている。尚、結晶粒内には、複数の磁区が、数十μm程度の大きさで形成されている。
【0028】磁性材13には、磁束が通過する表皮層の外周面のほぼ全体に、表皮層を形成する磁性材の結晶粒を区画する凹部としての溝23が、表皮層を部分的に除去することで複数形成されている。本実施の形態では、溝23は、幅がほぼ2〜3μmの範囲で、深さがほぼ2〜3μmの範囲で形成されている。尚、表皮層とは、高周波電源が各励磁用コイル19A,19Bに供給する、例えば10kHz〜100kHzの範囲の高周波交流によって発生する磁束が通過する磁性材13の最外側層領域であって、その深さは例えば0.1mm以下である。
【0029】又、各溝23は、表皮層を形成する磁性材の結晶粒の外周面のほぼ全体に、表皮層を形成する磁性材の結晶粒内における磁壁の移動の自由度を規制するように形成されている。
【0030】各溝23は、両磁歪領域14A,14Bの中心軸線に延びて両磁歪領域14A,14Bの表皮層を横切るように形成されている。即ち、各溝23は、各磁歪領域14A,14Bの表皮層を周方向に分断するように設けられている。
【0031】本実施の形態では、各溝23は、磁気焼鈍後の磁性材13に対して外嵌させた環状リングとしての金属リングを軸方向に沿って摺動させることで形成されている。即ち、磁性材13の外周面を摺動する金属リングの内周面の疎面によって、両磁歪領域14A,14Bの表皮層を部分的に除去することで各溝23が形成されている。
【0032】この磁歪式トルクセンサ10は、例えば、最大定格負荷トルクが10N・m、最大許容過負荷トルクが200N・mで設計されている。次に、以上のように構成された磁歪式トルクセンサの作用について説明する。
【0033】高周波電源21から両励磁用コイル19A,19Bに高周波交流を供給すると、検出用コイル20Aには、励磁用コイル19Aと検出用コイル20Aとの相互インダクタンスに応じた大きさの誘導起電力が発生する。同様に、検出用コイル20Bには、励磁用コイル19Bと検出用コイル20Bとの間の相互インダクタンスに応じた大きさの誘導起電力が発生する。そして、両検出用コイル20A,20Bの両端からは、両誘導起電力の差分電圧が出力される。
【0034】シャフトSに対し負荷トルクが加わっていないときには、両磁歪領域14A,14Bの透磁率が同じとなる。従って、励磁用コイル19A及び検出用コイル20A間の相互インダクタンスと、励磁用コイル19B及び検出用コイル20B間の相互インダクタンスとが等しくなる。その結果、各検出用コイル20A,20Bに発生する誘導起電力は同じ大きさで位相が反転したものとなり両検出用コイル20A,20Bの両端から出力される電圧が「0」となって、同期整流器22の出力が「0」となる。
【0035】シャフトSに対し負荷トルクが時計方向に加わると、磁歪領域14Aに圧縮応力が加わってその透磁率が減少するとともに磁歪領域14Bに引っ張り応力が加わってその透磁率が増大する。従って、励磁用コイル19A及び検出用コイル20A間の相互インダクタンスが減少するとともに励磁用コイル19B及び検出用コイル20B間の相互インダクタンスが増大する。その結果、検出用コイル20Aに発生する誘導起電力が小さくなるとともに検出用コイル20Bに発生する誘導起電力が大きくなり両端の出力が両誘導起電力の差となって、同期整流器22からは負荷トルクの大きさに応じた出力電圧が負荷トルクの向きに応じた正負で出力される。
【0036】反対に、シャフトSに対しトルクが反時計方向に加わると、磁歪領域14Aの引っ張り応力が加わってその透磁率が増大するとともに磁歪領域14Bに圧縮応力が加わっての透磁率が減少する。従って、励磁用コイル19A及び検出用コイル20A間の相互インダクタンスが増大するとともに励磁用コイル19B及び検出用コイル20B間の相互インダクタンスが減少する。その結果、検出用コイル20Aに発生する誘導起電力が大きくなるとともに検出用コイル20Bに発生する誘導起電力が小さくなり両端の出力が両誘導起電力の差となって、同期整流器22からは負荷トルクの大きさに応じた出力電圧が負荷トルクの向きに応じた正負で出力される。
【0037】図3に示すグラフは、各磁歪領域14A,14Bに溝23を形成していないことだけが本発明の磁歪式トルクセンサ10と異なるだけの従来の磁歪式トルクセンサと、本発明の磁歪式トルクセンサ10との各出力ヒステリシス特性を示すデータである。出力ヒステリシスは、シャフトSに対し所定の負荷トルクを加えた後、負荷トルクを取り去った状態での同期整流器22の出力電圧を、最大定格負荷トルクを加えたときの出力電圧で除した値の百分率である。そして、負荷トルクが最大定格負荷トルクであるときの出力ヒステリシスを定格出力ヒステリシスとし、負荷トルクが過負荷トルクであるときの出力ヒステリシスを過負荷出力ヒステリシスとする。尚、試料数は、従来及び本発明とも2個である。
【0038】このデータから分かるように、従来の磁歪式トルクセンサでは、定格出力ヒステリシスでも約2.5%以上であり、過負荷出力ヒステリシスは、最大許容トルク時で約7.8%以上である。これに対して本発明の磁歪式トルクセンサは、定格出力ヒステリシスが約1%未満であり、過負荷出力ヒステリシスは、最大許容トルク時でも約1.4%未満である。
【0039】又、図4に示すグラフは、本発明の磁歪式トルクセンサ10の、溝23の数に対する最大定格時感度及び定格出力ヒステリシスのデータである。尚、試料数は3個である。横軸には、ヨーク17に外嵌させた加工治具である金属リングを中心軸線方向に往復して摺動させた回数を実際の溝23の数の代わりにとってある。このデータから分かるように、溝23の数が多いほど、定格出力ヒステリシスが減少するとともに、最大定格時感度が向上することが分かる。
【0040】ヨーク17の各磁歪領域14A,14Bに溝23を設けたことで、出力感度が低下することなく出力ヒステリシスが低減する理由は以下のとおりである。シャフトSから受ける応力による各磁歪領域14A,14Bの磁化過程は、最初は、各磁歪領域14A,14Bの表皮層を形成する磁性材の各結晶粒内において、各磁区の内から自発磁化が磁界方向に最も近い磁区が成長することで行われる。この磁区は、磁壁が隣合う磁区側に移動することで成長する非可逆的な過程である。ここで、各磁歪領域14A,14Bの表皮層を形成する磁性材の結晶粒を区画する溝23が表皮層を部分的に除去することで形成されているため、結晶粒内における磁壁の移動が、溝23によって分断された結晶粒内の各領域内に制限されるとともに、自発磁化の回転による磁化過程が許容される。その結果、各磁歪領域14A,14Bの静的磁化過程における透磁率が殆ど変化しないままで磁気ヒステリシスが抑制され、高周波交流に対する交流透磁率が安定化すると考えられる。従って、従来の磁歪式トルクセンサに比較して、出力感度が低下しないままで過負荷出力ヒステリシスが小さくなる。
【0041】又、各磁歪領域14A,14Bを周方向に分断する溝23を設けたことで出力感度が向上した理由は以下のとおりである。各溝23によって各磁歪領域14A,14Bの表皮層が周方向に分断されるので、表皮層を周方向に流れる渦電流が制限されると考えられる。従って、出力感度の損失の1つである渦電流損失が低減される分、出力感度が向上する。
【0042】以上詳述した本実施の形態の磁歪式トルクセンサによれば、以下に記載する各効果を得ることができる。
(1) 各磁歪領域14A,14Bには、磁束が通過する表皮層の外周面のほぼ全体に、表皮層を形成する磁性材の結晶粒を区画する溝23を、表皮層を部分的に除去することで形成した。従って、従来の磁歪式トルクセンサに比較して、出力感度を低下させることなく過負荷出力ヒステリシスを小さくすることができる。このため、最大定格負荷トルクを超える過負荷が加わった後にも、高い精度で負荷トルクを検出することができる。
【0043】(2) 各溝23を、各磁歪領域14A,14Bの表皮層を周方向に分断するように設けた。従って、出力感度の損失の1つである渦電流損失が低減されるので、より高い出力感度を得ることができる。
【0044】(3) 各溝23を、シャフトSの中心軸線方向に延びて各磁歪領域14A,14Bの表皮層を横切るように形成したので、シャフトSの中心軸線方向に金属リングを相対移動させることで溝23が形成される。従って、従来の磁歪式トルクセンサの磁歪領域に対して溝23が容易に加工形成されるので、簡単に実施することができる。
【0045】(4) 磁性材13に外嵌させた環状の金属リングを軸方向に沿って摺動させて各磁歪領域14A,14Bの表皮層を部分的に除去することで複数の溝23を形成した。従って、簡単な治具を使用して簡単な方法で溝23を形成することができるので、一層簡単に実施することができる。
【0046】以下、本発明を具体化した上記実施の形態以外の実施の形態を別例として列挙する。
○ 各磁歪領域14A,14Bの表層部を周方向に分断する溝23は、シャフトSの中心軸線方向に延びるものに限らない。その他例えば、各磁歪領域14A,14Bを湾曲しながら横断する溝であってもよい。この場合にも、渦電流が制限されて渦電流損失が低減するので、各磁歪領域14A,14Bの表層部を周方向に分断しない溝を設けた場合よりもより高い出力感度を得ることができる。
【0047】○ 各磁歪領域14A,14Bの表層部に形成する溝は、各磁歪領域14A,14Bの表皮層を周方向に分断する溝に限らない。その他例えば、図5に示すように、周上に沿って形成された凹部としての複数の溝24であってもよい。この場合にも、出力感度を確保しながら過負荷出力ヒステリシスを小さくすることができる。
【0048】○ 各磁歪領域14A,14Bの表層部に形成する溝は、図6に示すように、軸方向に延びて各磁歪領域14A,14Bの表層部を周方向に分断する複数の溝23と、周上に沿って形成された複数の溝24との組み合わせとしてもよい。この場合には、各磁歪領域14A,14Bの表層部を形成しているより多くの結晶粒を溝23又は溝24で区画することができ、より多くの結晶粒における磁壁の移動の自由度を規制して、過負荷出力ヒステリシスを一層小さくすることができる。このため、最大定格負荷トルクを超える過負荷トルクが加わった後にも、より高い精度で負荷トルクを検出することができる。
【0049】○ 各磁歪領域14A,14Bの表層部に形成する溝は、磁歪部の表層部を形成する全結晶粒の内の一定割合以上のものを区画することができるように形成されたものであればよい。例えば、少なくとも結晶粒の平均粒径よりも長く形成され、規則性がない状態で配置された多数の短い溝によって、磁歪部の表層部を形成する全結晶粒の内の一定割合以上のものを区画するようにしてもよい。この場合にも、出力感度が従来以上のままで過負荷出力ヒステリシスを小さくすることができる。
【0050】○ 溝は、磁気焼鈍後の磁性材に対して加工したものに限らず、磁気焼鈍前の磁性材に対して加工したものであってもよい。この場合にも、磁気焼鈍によって磁性材の結晶粒が溝で区画されるようになるまで成長するので、磁気焼鈍後に溝を加工したものと同様に、出力感度が低下しないままで過負荷出力ヒステリシスが低減する。
【0051】○ 溝の幅は、磁性材の結晶粒を区画する大きさであればよく、2〜3μmの範囲の大きさに限らない。例えば、0.1mm未満の幅で形成した場合であっても、出力感度を確保しながら過負荷出力ヒステリシスを小さくすることができる。又、10μm未満で形成した場合には、出力感度をより確保しながら過負荷出力ヒステリシスをより小さくすることができる。さらに、5μm未満の幅で形成した場合には、出力感度をより一層確保しながら過負荷出力ヒステリシスをより一層小さくすることができる。
【0052】○ 溝を形成する磁歪部は、被検出軸に直接外嵌される磁性材に形成されたものに限らず、シャフトSに外嵌された中間スリーブに外嵌された磁性材に形成された磁歪領域であってもよい。この場合でも、過負荷出力ヒステリシスをより小さくすることができる。
【0053】○ 溝を形成する磁歪部は、被検出軸に直接外嵌される磁性材に形成されたもの、あるいは、被検出軸に外嵌された中間スリーブに外嵌された磁性材に形成されたものに限らない。図7に示すように、シャフトS自体に形成された磁歪領域25A,25B、あるいは、被検出軸の外周面に溶射、電気メッキ等によって形成されたものであってもよい。この場合でも、過負荷出力ヒステリシスをより小さくすることができる。
【0054】○ 両検出用コイル20A,20Bを逆極性で直列接続して差分出力を生成し、その差分出力を整流する形式の磁歪式トルクセンサに限らず、互いに接続しない各検出用コイル20A,20Bの各出力を独立して整流した後、整流した各出力の差分出力を生成する形式の磁歪式トルクセンサに実施してもよい。
【0055】以下、特許請求の範囲に記載した各発明の外に前述した各実施の形態及び各別例から把握される技術的思想をその効果とともに記載する。
(1) 負荷トルクを検出する被検出軸に対して直接又は中間スリーブを介して外嵌されるとともに、該被検出軸に加わる負荷トルクに応じた逆磁歪作用を生じる磁歪部が外周面に設けられた磁歪式トルクセンサの磁性材において、前記磁歪部には、磁束が通過する表皮層の外周面に、該表皮層を形成する磁性材の結晶粒を区画する溝が、該表皮層を部分的に除去することで形成されている磁歪式トルクセンサの磁性材。このような構成の磁性材を用いた磁歪式トルクセンサによれば、出力感度を低下させることなく過負荷出力ヒステリシスを小さくすることができ、又、被検出軸に直接磁歪部を設けることができない被検出軸に加わる負荷トルクを検出することができる。
【0056】
【発明の効果】請求項1〜請求項5に記載の発明によれば、出力感度を従来と同等以上としながら過負荷出力ヒステリシスを小さくすることができる。
【0057】請求項2〜請求項4に記載の発明によれば、渦電流損失が低減するので、より高い出力感度を得ることができる。請求項3又は請求項4に記載の発明によれば、従来の磁歪式トルクセンサの磁歪部に対して溝が容易に加工形成されるので、簡単に実施することができる。
【0058】請求項4に記載の発明によれば、簡単な治具を使用して簡単な方法で溝を形成することができるので、一層簡単に実施することができる。
【出願人】 【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機製作所
【出願日】 平成11年10月26日(1999.10.26)
【代理人】 【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣 (外1名)
【公開番号】 特開2001−124639(P2001−124639A)
【公開日】 平成13年5月11日(2001.5.11)
【出願番号】 特願平11−304322