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【発明の名称】 レーダによる波浪観測方法及びその装置
【発明者】 【氏名】岡本 和男

【氏名】大澤 謙一

【要約】 【課題】低コストで、漁業者や海運業者に波浪情報を提供することができるレーダによる波浪観測方法及びその装置。

【解決手段】海上監視レーダまたは船舶レーダ10から波浪観測海面にパルス電波を照射してその反射波を受信し、この受信信号から処理条件設定装置28に設定された観測範囲の信号を抽出し(21)、この抽出信号の周波数成分について算出して(22)波浪に対応するスペクトルを求め(23)、このスペクトルのうちの最大電力を有する周波数(24)から風速を求め(25)、この風速から波浪のエネルギーパラメータを算出し(26)、このエネルギーパラメータから波浪の平均波高及び有義波高を算出する(27)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 レーダから波浪観測海面にマイクロ波またはミリ波のパルス電波を照射してその反射波を受信し、この受信信号から波浪観測範囲の信号を抽出し、この抽出受信信号の周波数成分について算出して波浪に対応するスペクトルを求め、このスペクトルのうちの最大電力を有する周波数から波浪のエネルギー係数を算出し、この波浪のエネルギー係数に基づき波浪の平均波高及び有義波高を算出することを特徴とするレーダによる波浪観測方法。
【請求項2】 前記波浪に対応するスペクトルのうちの最大電力を有する周波数から風速を求め、この風速から前記波浪のエネルギー係数を算出することを特徴とする請求項1記載のレーダによる波浪観測方法。
【請求項3】 前記レーダの受信信号から抽出する波浪観測範囲の信号は、観測する波浪の波長よりも長い距離範囲の信号であることを特徴とする請求項1または2記載のレーダによる波浪観測方法。
【請求項4】 前記レーダの受信信号から抽出する波浪観測範囲の信号は、同一またはほぼ同一の波浪観測海域での前記レーダの連続する複数の送受信期間における受信信号からそれぞれ波浪観測範囲の信号を抽出し、この抽出により得られる各対応位置毎の複数の信号の平均値、重心値または中央値を算出し、この算出したいずれかの値による波浪観測範囲の信号を用いることを特徴とする請求項1から3までのいずれかの請求項に記載のレーダによる波浪観測方法。
【請求項5】 波浪観測海面にマイクロ波またはミリ波のパルス電波を照射してその反射波を受信するレーダと、波浪観測範囲をレーダからの方位及び距離の範囲として設定する設定手段と、前記レーダの受信信号から前記設定手段の設定した波浪観測範囲の信号を抽出して量子化し、この量子化データを記憶する量子化・記憶手段と、前記量子化・記憶手段に記憶されたデータをフーリエ変換してスペクトルを算出するスペクトル算出手段と、前記スペクトル算出手段により算出されたスペクトルのうちの最大電力を有する周波数を求め、この周波数から風速を算出し、この風速から波浪のエネルギー係数を算出し、この波浪のエネルギー係数から波浪の平均波高及び有義波高を算出する演算手段と、前記演算手段の算出した風速もしくは平均波高及び有義波高のいずれか一方、または両方の情報を表示する表示手段とを有することを特徴とする波浪観測装置。
【請求項6】 前記量子化・記憶手段の代りに、前記レーダの連続する複数の送受信期間における受信信号から前記設定手段の設定した波浪観測範囲の信号をそれぞれ抽出・量子化して一旦記憶手段に記憶し、この一旦記憶手段に記憶された各対応位置毎の複数のデータの平均値、重心値または中央値を算出し、この算出したいずれかの値のデータを波浪観測に用いる加工済みデータとして再び記憶手段に記憶すると共に、この再び記憶した加工済みデータをスペクトル算出手段に供給する量子化・加工・記憶手段を有することを特徴とする請求項5記載のレーダによる波浪観測装置。
【請求項7】 前記レーダとして、陸上に設置された固定位置のレーダ、陸上の車輌に搭載された移動可能なレーダ、または船舶に搭載された移動可能なレーダのいずれかのレーダを用いることを特徴とする請求項5または6記載のレーダによる波浪観測装置。
【請求項8】 前記設定手段が波浪観測範囲として設定するレーダからの距離の範囲は、観測する波浪の波長よりも長い距離の範囲とすることを特徴とする請求項5から7までのいずれかの請求項に記載のレーダによる波浪観測装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば陸上設置の海上監視レーダまたは船舶搭載レーダ等を用いた波浪観測方法及びその装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】レーダによる波浪観測技術についての公知文献としては、例えば下記の参考文献1〜5がある。
参考文献1:磯崎一朗、波浪概論−解析と推算−、(財)日本気象協会参考文献2:E.D.R.Shearman, Radio Science and Oceanography Radio Science, Vol.18, No.3, 1983参考文献3:Crombie, D.D., Doppler spectrum of sea echo at 13.56Mc/s, Nature, 175, April 16, 1955参考文献4:M.I.SKOLNIK, Radar Hand Book参考文献5:W.T.Pierson, JR.G.Neuman, R.W.James, Practical Methods for OBSERVING and FORECASTING OCEAN WAVES, H.O.Pub. No.603, 1958【0003】波浪観測には、波高を計るための超音波式とか、圧力式などのセンサを海中に建設したり、ブイや船舶を用いて海面に係留したり、または海中に建設した工作物に設置する方式があるほか、電波を用いた計測装置による陸上や衛星からのリモートセンシング方式がある。このリモートセンシング以外の方式は、観測できる海域がセンサの設置位置に限定されることから、必要とする十分な海域に対する波浪情報の提供のためには、どうしても精度の高いリモートセンシング方式が望まれる。
【0004】衛星を用いるリモートセンシングの場合には、移動衛星に搭載したレーダ高度計から海面に照射したマイクロ波パルスにより、その点の有義波高を測定する方式が一般的である(前記参考文献1を参照)。なお、有義波とは、ある観測時間(普通20分間)の間に得られた波形記録にあらわれるすべての波を、波高の順に選び出し、大きいものから数えて全数の1/3の波をとり、それらの波高および周期の平均をその波高および周期とする波である。そして有義波高は、上記有義波の波高である。しかし、上記移動衛星を用いる方式では、特定海域の常時観測には適さないことが明らかであり、現状として衛星によらない陸上設置のリモートセンシング方式が望まれる。
【0005】陸上からの波浪観測に属するものとして、従来、HF帯(3MHz〜30MHz)の電波を利用する波浪観測レーダが開発されている。これは照射電波のブラッグ散乱を用い、照射電波の波長の1/2に該当する波長の波浪からの反射波を観測するもので、電波の波長の制約から波浪としては比較的短い波長の波が観測対象となる(前記参考文献2、3を参照)。一般に、波浪観測において、対象とすべき波浪波長は数10mから数100mに及ぶものであるが、因みにHF帯の最低周波数の3MHzの波長は100mであり、この場合に観測される波浪波長は50mに止まる。即ち波浪波長が50m以上のものは、観測できない。
【0006】また波浪スペクトル観測から、長い波長の波の存在を推測する研究が行われ波高が算出されているが、成果としては、海流、風向の検出はともかくとしても波高に関してはまだ研究の余地があると思われている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】現在、気象庁や海上保安庁などから波浪情報は提供されているが、この波浪情報は、一般に広範囲の海域を対象としたものであり、漁業者や海運業者からは、自船近くの海域の現況や航行先海域の到達予定時の予測情況等のさらに詳細な情報が提供されることが望まれている。本発明は、海上監視に通常用いられている陸上設置レーダまたは船舶搭載レーダに波浪観測の機能を付加し、上記要望に応えるものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明に係るレーダによる波浪観測方法は、レーダから波浪観測海面にマイクロ波またはミリ波のパルス電波を照射してその反射波を受信し、この受信信号から波浪観測範囲の信号を抽出し、この抽出受信信号の周波数成分について算出して波浪に対応するスペクトルを求め、このスペクトルのうちの最大電力を有する周波数から波浪のエネルギー係数を算出し、この波浪のエネルギー係数に基づき波浪の平均波高及び有義波高を算出するものである。
【0009】
【発明の実施の形態】本発明の実施形態を説明する前に、本発明の波浪観測に用いるレーダと、このレーダによる波浪観測方法の原理について説明する。まず本発明の波浪観測に使用するレーダとしては、例えば、従来の陸上に設置される海上監視用レーダや船舶に搭載されるレーダを用いることができる。通常、海上監視用レーダはKuバンド(14GHz帯)、船舶レーダはXバンド(9〜10GHz帯)のパルス電波を送信しているので、本発明ではこれらのマイクロ波またはミリ波の周波数帯を用いることができる。
【0010】即ち本発明では、レーダからマイクロ波またはミリ波のパルス電波を波浪観測海域の海面に照射してその反射波を受信し、この受信信号から予め設定した波浪観測範囲(レーダからの方位及び距離の範囲)の信号を抽出し、この抽出受信信号を用いて波浪観測を行うものである。また上記波浪観測距離範囲は、数百メートル程度(観測例では500メートル)の長い距離を用いている。一方、従来の波浪観測レーダでは、HF帯(3MHz〜30MHz)の電波を用い、波浪の波峰に対して直接電波の照射とその反射波の受信を行っている(従って空中線を含む送信装置が大形となる)。このように、本発明の波浪観測用レーダは、従来方式のものと、電波の周波数帯が異なると共に、電波の照射と受信の範囲等の観測方法も異なるものである。
【0011】次に本発明に係るレーダによる波浪観測方法の原理について説明する。レーダからマイクロ波またはミリ波の電波を波浪観測海域の海面に照射し、この照射海面から反射されて受信される信号(一般に海面反射信号、または海面クラッタ信号という)は、レーダ電波が照射されている海面の面積からの反射信号であるが、その場合の反射断面積σは、クラッタ係数に照射面積Aを乗じたものとして次式(1)に示される。
σ=σ0 A …(1)
ここでσ0 は、クラッタ係数であり、例えば前記参考文献4における平均的波浪におけるσ0 のデータを図4に示す。
【0012】クラッタ係数は、レーダの海面に対する俯角(Grazing Angle)で図4に示すような変化をしていると考えられる(上記参考文献4を参照)。この変化は、周波数、偏波面により異なるが、大体において俯角が大きいほどσ0が大きくなるといえる。この図は風速10ノットから20ノットの海面に対するσ0 を示している。
【0013】一方、波浪は一般的に種々の振幅と周期をもつ正弦波の合成と考えられ、次式(2)で表わせる。
ΣAσ sin(σt+φσ ) …(2)
ここに、σ=2πf、f=周波数、φσ =角周波数σの初期角である。
【0014】いま、単一の正弦波のみが存在する海域で、波の進行方向に陰が発生しない状態で海面に対し斜めに電波を照射した場合を考えると、波の表面の傾きが入射波に対して90度に近いほどσ0 が大きくなるといえる。換言すればσ0 は波を表わしている正弦波の微係数である余弦波に対応して変化することになる。このことは上記の正弦波を下記式(2A)とした場合、Aσ sin(σt+φσ ) …(2A)
クラッタ係数σ0 は、Kを係数として、下記式(3)のようになる。
【0015】
σ0 =K・Aσ cos(σt+φσ
=K・Aσ sin(σt+φσ +π/2)
上記式で、φ′σ =φσ +π/2と置くと、σ0 =K・Aσ sin(σt+φ′σ ) …(3)
上記式(3)により、クラッタ係数σ0 は、振幅と位相を除いて、波を表わしている正弦波と同様の周期で変化する。
【0016】波浪を構成する各波についてσ0 が対応して変化すると考えると、それらの波の合成である波浪に対するσ0 は、波浪により照射電波の陰が発生しない限り次式(4)で表わせる。
【0017】
【数1】

【0018】また、レーダ電波が海面から反射され受信電力に寄与する反射断面積σは上記式(1)のとおりσ=σ0 Aであり、Aは同時に照射される面積であるが、このようにある垂直ビーム幅を有する電波が海面に斜めに照射した場合のAとしては、距離分解能Δrとその距離Rにおける水平ビーム幅Δθ(単位はrad)によって、次式(5)と考えられる。
A=R・Δθ・Δr …(5)
【0019】上記式(5)を式(1)に代入すると、式(1′)となる。
σ=σ0 A=σ0 ・R・Δθ・Δr …(1′)
上記式(1′)を用いると、レーダ受信電力Prは次式(6)で示される。
Pr=Cσ/R4 =C・σ0 ・Δθ・Δr/R3 …(6)
ここで、C:レーダ定数である。
【0020】上記式(6)のように、レーダ電波が海面に照射されて反射される受信電力には、波浪に含まれる各周波数が含まれることとなる。そこでレーダ受信波について、波浪観測範囲(レーダからの方位及び距離の範囲)を予め設定しておき、この設定範囲の信号を抽出して記憶し、この記憶した信号の周波数成分をそれぞれ算出することにより波浪に対応したスペクトルが得られることになる。
【0021】近年、波浪に関する研究結果、風によって波が発生するが波浪がどの程度成長するかは、吹送時間、吹送距離が十分な場合、風速によって定まり、そのスペクトルの最大電力の周波数fMAX が風速が大きいほど次式(7)のとおり低い周波数に移行してゆくことが知られている。
MAX =2.476/v …(7)
ここで、v:風速[単位はノット]である。
【0022】これは完全に成長した波浪について成立する関係であり、各風速についてのこの場合における波高を統計的に算出できるエネルギーパラメータ(エネルギー係数ともいい、波高の分散の2倍である)Eが次式(8)で提供されている。
E=0.242(v/10)5 …(8)
【0023】従って、レーダ電波を波浪観測海面に照射してその反射波を受信し、この受信信号から予め設定された波浪観測範囲の信号を抽出し、この抽出した受信信号の周波数成分をそれぞれ算出して波浪に対応するスペクトルを算出し、このスペクトルのうちの最大電力を有する周波数fMAX を求めることで、前記式(7)から風速vを求め、この風速vと前記式(8)からエネルギーパラメータEを求め、このエネルギーパラメータEにより平均波高、有義波高を次式(9)、(10)から算出することができる(前記参考文献5を参照)。
【0024】
【数2】

【0025】なお、参考文献5から引用した式(9)、(10)におけるEの値は、単位がft(フィート)2 であるので、m(メートル)2 への換算が通常必要となる。
【0026】図1は本発明の実施形態に係るレーダによる波浪観測装置の機能構成図である。図1の波浪観測装置は、通常の海上監視レーダまたは船舶レーダ10と波浪観測部20とにより構成される。海上監視レーダまたは船舶レーダ10は、一般に、図1の送信機11、送受切換器12、空中線(アンテナ)13、受信部14、検波器15及び指示器16により構成される。波浪観測部20は、本発明のため設けられたものであり、例えば図1の量子化・波形記憶器21、標本化・FFT処理器22、信号スペクトル算出器23、信号スペクトル最大周波数検出器24、風速算出器25、エネルギーパラメータ算出器26、波高算出器27、処理条件設定装置28及び演算・表示装置29により構成される。
【0027】なお、図1の破線で囲まれた海上監視/船舶レーダ10、処理条件設定装置28及び演算・表示装置29は、外部装置としても、内部装置としても、いずれでもよい。また図1の波浪観測部20は、機能別構成として示したものであるので、実際のハードウェアとしては、例えばパーソナルコンピュータ、キーボード、ハードディスク、CRT表示器等により構成してもよい。
【0028】最初に波浪観測用レーダについて説明する。前記のように、陸上に設置された海上監視レーダからは14GHz帯のパルス電波が、また船舶に搭載された船舶レーダからは9〜10GHz帯のパルス電波が、送信機11、送受切換器12及び空中線13を介して、波浪観測海域の海面に照射される。そしてこの海面からの反射波は、空中線13及び送受切換器12を介して受信部14により受信される。一般にこの海面反射受信信号を海面クラッタという。受信部14の出力信号は、検波器15により検波され、この検波出力が指示器16に指示されると共に、波浪観測部20の量子化・波形記憶器21に供給される。通常の海上物標の表示を行うレーダ指示器16(例えばPPI指示器)では、海面反射検波信号は、単なるクラッタ(ノイズ)として表示されるが、波浪観測部20では、この海面クラッタに対して後述する信号処理を行った上で、波浪観測を行う。
【0029】次に波浪観測部20の各機器の機能及び動作について説明する。処理条件設定装置28は、例えばキーボード等により構成され、波浪観測を行う海域を、レーダからの方位範囲と距離範囲(R1 〜R2 )として設定するものである。なお、固定位置レーダにより波浪観測を行う際に、レーダ空中線13を波浪観測を行う特定の方位に固定する場合と、レーダ空中線13を回転させながら行う場合とがあるので、上記方位範囲として、前者の場合には、特定の空中線方位θ0 を設定するが(実質的には前記θ0 を中心とする空中線水平ビーム幅となる)、後者の場合には、空中線方位θ0 (1スイープのみ)またはθ1 〜θ2 (複数スイープ)のいずれかを選択して設定する。また船舶レーダのように位置が移動するレーダにより波浪観測を行う際には、レーダと波浪観測海域の相対位置が変化するので、上記空中線方位θ0 またはθ1 〜θ2 のいずれかを選択して設定することができる。
【0030】また通常、波浪観測のためのデータ採取に許容される時間は数秒(3〜5秒)以下であり、この数秒以上経過すると波浪の波形が変化してしまう。従って観測データの平均化等を目的として複数の送信パルスに基づく複数スイープの受信信号を採取する場合においても、上記時間的制約を考慮してレーダからの方位範囲を設定する必要がある。レーダアンテナを回転させて波浪観測を行う場合に、レーダからの方位範囲を余り広くすると、この方位範囲をアンテナが回転する間に観測波浪の波形が変化してしまう。従って、一般的には、波浪観測方位範囲は、狭い方が好ましい。
【0031】処理条件設定装置28に設定する距離範囲について、重要なことは、観測距離範囲は、必ず観測対象の波浪の波長よりも長い距離範囲とすることであり、できれば観測対象の波浪の波長の2倍(もしくは2倍以上)の距離範囲とすることが好ましい。例えば観測対象の波浪の最大波長が200mあるとすると、設定距離範囲は400mもしくは400m以上とすることが好ましい。またこの設定距離範囲のレーダ受信・検波信号は、後述するように、量子化・波形記憶器21内のA/D変換器によりデジタルデータに変換されるので、この変換されるデジタルデータの数が十分となるように(後述するFFT演算に十分な数となるように)、距離範囲を設定する必要がある。そしてこのようにして設定された方位範囲及び距離範囲は、量子化・波形記憶器21に供給される。
【0032】量子化・波形記憶器21は、レーダ10の検波器15から供給されるレーダ受信・検波信号(海面反射強度信号)のうちから、前記処理条件設定装置28から供給される波浪観測を行う方位範囲と距離範囲内のみの信号を採取し、この採取した信号を、内部のA/D変換器を介して、十分に高速な変換クロック周波数によって、デジタルデータに変換してメモリに記憶するものである。なお上記方位と距離の限定によりメモリの記憶容量の増大を防止できる。また、連続波形として得られるレーダ受信・検波信号をA/D変換器により量子化する際には、ナイキストのサンプリング定理を満足するように十分に高速なサンプリング周波数を用いる必要がある。本実施形態では、後述するように、A/D変換器へのクロック周波数は約500MHz(周期約2ns)とした。そして量子化・波形記憶器21に記憶されたデータは、次の標本化・FFT処理器22に供給される。
【0033】また通常、観測データには、ノイズ等が含まれるため、データの平均化等を目的として、レーダの連続する複数の送受信期間(海上監視レーダの場合、1送受信期間は約330μsである)における受信信号から観測データを採取することがある。このような場合には、図1の量子化・波形記憶器21の代りに、次の量子化・加工・波形記憶器を用いる。この量子化・加工・波形記憶器は、レーダの連続する複数の送受信期間における受信・検波信号から処理条件設定装置28の設定した波浪観測範囲の信号をそれぞれ採取し量子化して一旦記憶器に記憶し、この記憶器に一旦記憶された各対応位置毎の複数のデータの平均値、重心値または中央値を算出し、この算出したいずれかの値のデータを波浪観測に用いる加工済みデータとして再び記憶器に記憶すると共に、この再び記憶した加工済みデータを次の標本化・FFT処理器22に供給するものである。なお加工しないデータを用いて複数の各送受信期間毎に求めた風速、平均波高、有義波高等の平均値、重心値、中央値等を算出するようにしてもよい。
【0034】標本化・FFT処理器22は、前記量子化・波形記憶器21(または量子化・加工・波形記憶器)に記憶した海面反射強度データから高速フーリエ変換(FFT)の演算に必要とする標本化データを抽出し、この抽出データに含まれる周波数成分をそれぞれ算出することにより波浪に対応するスペクトルを得るために、FFT演算を行うものである。なお、FFT演算を行う場合のデータ数は、一般に、2のN乗個とするのが演算に便利であり、この場合のNはFFT演算に必要とする精度により決定する。本実施形態では、後述するように標本化データ数が28 =256となるように抽出を行った。また観測データ数が2のN乗個に満たない場合には、補間等の手法により、データ数を2のN乗個としてFFT演算を行うのが便利である。
【0035】前記FFT変換された結果のデータは、波浪に対応したスペクトルが得られることになるため、次の信号スペクトル算出器23では、この波浪に対応した信号スペクトルの周波数[例えばfX 、Xは予め設定した周波数範囲内]とその電力値を算出し、また、例えば後に続く処理を容易にするため算出結果の周波数のデータを電力値の昇順に並び替える。
【0036】信号スペクトル最大周波数検出器24では、前記算出され、また並び替えられた信号スペクトル周波数のうちの最大電力を有する周波数fMAX [単位は例えばHz]を検出する。風速算出器25では、例えば外部または内部のキーボードなどから予め設定された処理条件または前記の算出式(7)と、前記信号スペクトル最大周波数検出器24が検出した信号スペクトルのうちの最大電力の周波数fMAX を用いて風速v[単位は例えばノットまたはm/s]を算出する。
【0037】エネルギーパラメータ算出器26では、例えば外部または内部のキーボードなどから予め設定された処理条件または前記の算出式(8)と、前記風速算出器25で算出した風速v[単位は例えばm/s]を用いて、波浪のエネルギーパラメータE[単位は例えばm2 ]を算出する。波高算出器27では、例えば外部または内部のキーボードなどから予め設定された処理条件または前記の算出式(9)、(10)と、前記エネルギーパラメータ算出器26で算出したエネルギーパラメータEを用いて波高[例えば有義波高および、または平均波高、単位は例えばm]を算出する。
【0038】演算・表示装置29では、風速算出器25及び波高算出器27から時間の経過と共に順次出力される風速データ、平均波高及び有義波高のデータを、一旦内部の記憶器に記憶の上、これらの記憶したデータを、オペレータの操作指示によって、選択表示または並列表示したり、時間的変化として表示したり、予測や補間等の演算を行った上で表示したりする。即ち波浪を長時間にわたり連続または間欠的に観測した場合には、過去から現在にいたる時間の経過とともに観測データがどのように変化したかを折線グラフや棒状グラフとして表示させることができる。
【0039】また上記時系列で得られた観測データを用いて未来の時刻における予測データを算出して表示させたり、さらに隣接する2つの海域の観測データを用いて、その中間地点の推測データを算出して表示させることもできる。例えば漁船等から観測していない海域の情報を求められる場合等に、この推測データの算出が行われる。なおこの演算・表示装置29には、種々の表示要求に基づく各種演算を行う必要があるため、外部の演算処理能力の高いコンピュータと大型表示装置等を用いてもよい。
【0040】次に、図1の波浪観測装置による観測結果を説明する。図2はレーダから1km〜1.5kmの海面クラッタ標本化映像とそのスペクトルを示す図である。図2の観測例では、海岸に設置した通常のXバンドレーダにより波浪観測海域の海面を照射し、空中線がある特定の方位にある1スイープの反射受信信号から距離範囲が1kmから1.5kmまでの距離500mの信号を採取した。そしてこの採取した信号を約500MHzのクロック周波数でA/D変換して約1670個の量子化データを取得し、次にこの量子化データのうちから28 =256個の標本化データを抽出した。
【0041】図2の(a)は、この海面クラッタの標本化データを示しており、図では観測距離範囲500mの間に波浪の波峰が5個存在している。次に図2の(a)に示した標本化データにより、この観測距離範囲に近い波長の波を基本波としてその周波数の100倍までのスペクトルをFFT演算により求めた。その結果が図2の(b)に示した海面クラッタスペクトルである。
【0042】図2の(b)のスペクトルの中で最も電力値の大きい周波数は0.116Hzである。これは前記算出式(7)のfMAX の値であるので、同式により風速vを求めると、v=21.27ノットとなる(但し1ノット=1852m/3600s=0.514m/s)。そこで、前記算出式(8)からエネルギーパラメータEを計算すると、E=10.54ft2となる。従ってEの平方根は3.247ftとなり、このEの平方根を前記平均波高、有義波高の算出式(9)、(10)に代入し、1m=3.28ftによりメートル系に換算すると、有義波高=9.2ft=2.8m平均波高=5.7ft=1.8mとなり、これらのデータは、当日の目視観測と大差のない結果となっている。
【0043】図3は、レーダからの観測距離範囲を2.5km〜3kmにした場合について、図2と同様の観測方法により、海面クラッタ信号の採取、標本化、及びFFT演算によるスペクトル算出を行ったものであり、図の(a)と(b)に、海面クラッタ標本化映像と海面クラッタスペクトルをそれぞれ示している。図3の(b)より、スペクトルの電力値が最大となっている周波数fMAX は図2と同様0.116Hzとなっていることが判る。従って、有義波高、平均波高は1kmから1.5kmの範囲と同じである。しかし、スペクトルとしては、波長が460mにも及ぶ0.058Hzから35m程度の0.210Hzまでの波が比較的強く存在するほか数m程度までの波長の波が多数存在している。これら短い波長のスペクトルは風の存在を示していると思われる。
【0044】以上のように本実施形態によれば、下記の効果が期待できる。
(1)漁業者や海運業者に波浪情報を提供することができるので、船舶の航行安全に貢献することができる。
(2)波浪観測用レーダとして、海上監視レーダや船舶レーダの既設レーダを利用できるので、コスト面で経済的な波浪観測装置が構成できる。
(3)波浪観測データから風速データの算出、表示が可能となる。
(4)従来方法による有義波高の算出には、約20分間の観測波形の記録を要するが、本実施形態では、レーダの1スイープ間の観測データから算出することができ、観測時間の短縮化が可能となる。
(5)従来方法によるHF帯(3MHz〜30MHz)の空中線や送信装置は大形の装置となるが、本実施形態のマイクロ波またはミリ波の空中線や送信装置は小形、軽量化が可能となる。
(6)過去から現在までの観測データを用いて未来における予測データを算出することや、隣接する2つの海域の観測データを用いて、その中間海域の推測データを算出することができる。
【0045】
【発明の効果】以上のように本発明によれば、レーダから波浪観測海面にマイクロ波またはミリ波のパルス電波を照射してその反射波を受信し、この受信信号から波浪観測範囲の信号を抽出し、この抽出受信信号の周波数成分について算出して波浪に対応するスペクトルを求め、このスペクトルのうちの最大電力を有する周波数から波浪のエネルギー係数を算出し、この波浪のエネルギー係数に基づき波浪の平均波高及び有義波高を算出するようにしたので、漁業者や海運業者に波浪情報を提供して船舶の航行安全に貢献できると共に、既設の海上監視レーダや船舶レーダを用いた波浪観測により波浪対策に対する経費の節減が可能となる。
【出願人】 【識別番号】000000295
【氏名又は名称】沖電気工業株式会社
【出願日】 平成11年11月18日(1999.11.18)
【代理人】 【識別番号】100061273
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 宗治 (外3名)
【公開番号】 特開2001−141456(P2001−141456A)
【公開日】 平成13年5月25日(2001.5.25)
【出願番号】 特願平11−327807