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【発明の名称】 光学素子の膜厚測定方法及び光学素子の製造方法
【発明者】 【氏名】岡本 幹夫

【氏名】秋山 貴之

【氏名】萩原 まゆみ

【要約】 【課題】測定器の分解能によって測定値がなまり、正確な測定ができないような場合においても、その測定器を使用して正確な膜厚測定を行なう方法を提供する。

【解決手段】膜厚を仮定して計算によって求められた分光透過率と実測された分光透過率のフィッティングにより、膜厚を求める。この際、計算によって求められた分光透過率を、分光透過率測定器の分解能を示す感度特性で補正することにより、実際に観測されるはずの補正分光透過率を求め、この補正分光透過率と実測された分光透過率のフィッティングにより膜厚を求める。このようにすれば、測定器の分解能に関係なく、正確に膜厚を求めることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 表面に多層膜を有する光学素子における、多層膜を構成する各々の膜の厚さを測定する方法であって、種々の膜厚のときに観測される分光特性を計算によって求め、求められた分光特性を測定器の感度特性又はその近似値によって補正した補正分光特性を求め、実際に測定された分光特性と前記補正分光特性とのフィッティング計算を行なうことにより膜厚を求めることを特徴とする光学素子の膜厚測定方法。
【請求項2】 表面に多層膜を有する光学素子における、多層膜を構成する各々の膜の厚さを測定する方法であって、種々の膜厚のときに観測される分光特性を計算によって求め、一方、実際に測定された分光特性と測定器の感度特性又はその近似値より、真の分光特性を求め、前記計算によって求められた分光特性と前記真の分光特性とのフィッティング計算を行なうことにより膜厚を求めることを特徴とする光学素子の膜厚測定方法。
【請求項3】 表面に多層膜を有する光学素子における、多層膜を構成する各々の膜の厚さを測定する方法であって、種々の膜厚のときに観測される分光特性を計算によって求めると共に、求められた分光特性を測定器の感度特性又はその近似値によって補正した補正分光特性を求め、両者の差が所定値以上である波長範囲を求め、この範囲除いた範囲、又はこの範囲を含む所定範囲を除いた範囲において、計算によって求められた分光特性と実際に測定された分光特性とのフィッティング計算を行なうことにより膜厚を求めることを特徴とする光学素子の膜厚測定方法。
【請求項4】 表面に多層膜を有する光学素子における、多層膜を構成する膜の各々の厚さを測定する方法であって、種々の膜厚のときに観測される分光特性を計算によって求め、このうち、測定器の分解能に対応する波長間における分光特性の変化が所定値以上である範囲を求め、この範囲除いた範囲、又はこの範囲を含む所定範囲を除いた範囲において、計算によって求められた分光特性と実際に測定された分光特性とのフィッティング計算を行なうことにより膜厚を求めることを特徴とする光学素子の膜厚測定方法。
【請求項5】 請求項1から請求項4のうちいずれか1項に記載の膜厚測定方法のプロセス、請求項1に記載の膜厚測定方法又は請求項2に記載の膜厚測定方法と請求項3に記載の膜厚測定方法とを組み合わせたプロセス、請求項1に記載の膜厚測定方法又は請求項2に記載の膜厚測定方法と請求項4に記載の膜厚測定方法とを組み合わせたプロセスのうち、いずれか1つのプロセスを使用して少なくとも1層の膜厚を測定するプロセスを有してなることを特徴とする光学素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、表面に反射防止膜等の多層膜を有する光学素子の膜厚の測定方法、その光学素子の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】レンズや反射鏡等の光学素子には、反射防止を行ったり、波長ごとの透過率や反射率を所定の特性にしたり、波長ごとの位相特性を所定の特性にしたりするために、その表面に多層膜が成膜されることが多い。この多層膜の層数は数十層に達するものがあり、多層膜を構成する各膜の厚さを制御することにより、所定の特性を得るようになっている。
【0003】図1に、このような多層膜を成膜する方法の例を示す。図1において、(a)は回転テーブルを下から見た図、(b)はA−A’位置での装置の端面図を示す。真空チャンバー1の中には基板ホルダー2が設けられ、回転軸3のまわりに回転している。基板ホルダー2の下面には、表面に成膜を施す光学素子4が同心円状に取り付けられているが、光学素子4を取り付ける場所の1ヶ所にはモニター基板5が取り付けられている。
【0004】真空チャンバー1の下部にはスパッター装置6が設けられ、そこから膜を構成する成分の粒子が飛び出して、光学素子4とモニター基板5の表面に当たって膜を形成する。また、真空チャンバー1の一部には、上下面に窓7が設けられており、投光器8より照射された光が、光学素子4又はモニター基板5を透過して受光器9で受光され、分光透過率が測定できるようになっている。この分光透過率の測定は、膜厚測定のために行なわれるものである。
【0005】モニター基板5は、透明な平板からなるものであり、膜厚測定のために用いられるダミー光学素子である。すなわち、光学素子4はレンズのように一般にその表面が曲面であるため、膜厚を正確に測定することができない。そのため、平板のモニター基板5を配置し、その上に成膜された膜の厚さを測定することにより、それと同条件で成膜される光学素子4上の膜厚を間接的に測定するものである。
【0006】図1に示すような装置を用いた多層膜の成膜は、以下のようにして行なわれる。まず、所定の光学特性(反射率、透過率、位相特性等)が得られるように、計算により膜の材質、層数、各層の厚さが決定される。このようにして設計が終了すると、まず、第1層の成膜が行なわれる。膜厚の測定が基板ホルダー2の回転を止めずに行なえる場合には、モニター基板5が投光器8と受光器9の位置を通り過ぎる毎に分光透過率の測定を行い、後に述べるような方法を使用して膜厚を測定する。もちろん、所定の膜厚を形成するために必要な概略の時間は計算により求まるので、膜厚の測定は、この時間に近い時間が経過してから実施するようにしてもよい。
【0007】膜厚の測定が基板ホルダー2の回転を止めないと行なえない場合には、所定の膜厚を形成するために必要な時間に近い時間が経過してから、周期的に基板ホルダー2の回転を止めて測定を行なう。この際、スパッター装置6からの粒子が特定の光学素子4に付着しないようにするために、スパッター装置6とその直上の光学素子4の間をシャッターにより遮蔽する。
【0008】このようにして、膜厚を測定しながら成膜を続け、測定光学特性が参照光学特性に等しくなったところで第1層目の成膜を終了する。そして、スパッターに用いる材料を変更して、第2層目の成膜を行う。以下、同様にして最終膜までの成膜を行なう。
【0009】以下、分光透過率に基づいて膜厚を測定する方法の原理を図2に基づいて説明する。図2において、(a)はモニター基板5の上に、多層薄膜Mが成膜されている状態を示している。多層薄膜Mは、M1〜Mnまでのn層が成膜された状態となっており、この状態で第n層の薄膜Mnの厚さdnを測定するものとする。このとき測定されるのは、多層薄膜M全体とモニター基板5によって決定される分光透過率である。すなわち、このときの分光透過率をTnとすると、Tnは【0010】
【数1】
Tn = Tn(λ,d1,d2,…d(n-1),dn,a1,a2,…a(n-1),an) …(1)で決定される。ここにdi(i=1〜n)は第i層の厚さであり、ai(i=1〜n)は第i層の材質によって決定される値である。厳密に言えば、モニター基板5の厚さと材質も関係するが、これは一定であるとして(1)式では無視している。
【0011】第n層の厚さを測定する場合には、(1)式においてd1〜d(n−1)とa1〜anは既知である。ここで、dnの目標値をdn0として、(1)式にdn0を代入して分光透過率を計算する。その結果が例えば図2(b)のA(実線)で示される曲線になったとする。これに対し、dnがdn0+Δ、dn0−Δとなったとして、これらの値を(1)式に代入して分光透過率を計算する。その結果は、それぞれ図2(b)のB(破線)、C(一点鎖線)で示されるように、Δ、−Δの値に対応して、Aで示される曲線からずれる。
【0012】このように、dnを目標値dn0から±mΔ(mは適当な整数)ずらせた場合に得られる分光透過率曲線を予め計算しておき、実際に測定された分光透過率曲線に一番近いものを選択し、それに対応する膜厚を測定膜厚とする。具体的には、計算された分光透過率をT(dn0+iΔ,λ)(i=−m〜m)、実測された分光透過率をTa(λ)とすると、【0013】
【数2】

【0014】を各iについて求め、Sの値が最も小さくなるiを採用する。ただし、(2)式の積分範囲は分光透過率の測定範囲とする。また、実際には(2)式の代わりにサンプル値を用いた数値計算によって積分値を求めることはいうまでもない。さらに、2乗計算の代わりに絶対値を用いてもよい。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】以上説明したように、多層膜の各層の膜厚を求めるには、分光透過率や分光反射率等の光学特性を測定し、目標とする膜厚での光学特性からのずれ量に基づいて膜厚を測定している。しかしながら、近赤外用、赤外線用に使用される光学素子においては、波長が長くなる関係から各層の膜厚が厚くなる。このような多層膜の膜厚を、通常の可視光に使用される多層膜の膜厚を測定する測定器で測定しようとすると、一般に可視光域での光学特性が波長に応じて大きく急峻に変化するために、正確な測定ができないという問題点が発生し、この傾向は多層膜の層数が増えるに従って顕著となる。
【0016】この様子を図3に示す。図3は、長波長透過フィルターの膜が21層形成された段階での分光透過率の例を赤外領域まで示した図であり、縦軸は、測定器で測定する光学特性である分光透過率、横軸は波長を示す。図3に示すように、この分光透過率は950nm以上の赤外領域においてはそれほど大きな変化を示していないが、950nmから可視光領域においては波長の変化に対して大きく、かつ急峻な繰り返し変化を示すようになる。この理由は、短波長領域において各多層膜境界での反射光が重なり合って高次の干渉を起こすためであり、この干渉の結果生じる分光特性は、一般に波長依存性が急峻となるからである。
【0017】一方、分光透過率を測定する測定器の分解能は、主として分光器の分解能で決定され、一般に図4(a)に示すような感度分布を有している。すなわち、ある波長の受光量として検出されるのは、その波長の光のみでなく、その波長を中心とするある帯域の波長の光である。そのため図4(b)に示すような理想的なδ関数形の波長特性を有する光が受光器に入射した場合でも、観測される分光透過率はδ関数型とならず、図4(c)に示すようになまってしまう。
【0018】よって、従来技術の欄で説明したように、計算された分光透過率と実測された分光透過率を比較することによって膜厚を決定しようとすると誤差が大きくなってしまうという問題点がある。このような問題を避けるためには、赤外に感度を有する測定器を使用して光学特性を測定すればよいが、すると、赤外用の測定器を使用しなければならない。赤外線用測定器は装置が高価となるばかりでなく、測定ノイズが大きく、また、可視光用の光学素子を測定する場合と測定器を共用できないという問題点がある。
【0019】本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、測定器で光学特性を測定した場合に、その測定器の分解能によって測定値がなまり、正確な測定ができないような場合においても、その測定器を使用して正確な膜厚測定を行なう方法、及びその方法を利用した光学素子の製造方法を提供することを課題とする。
【0020】
【課題を解決するための手段】前記課題を解決するための第1の手段は、表面に多層膜を有する光学素子における、多層膜を構成する各々の膜の厚さを測定する方法であって、種々の膜厚のときに観測される分光特性を計算によって求め、求められた分光特性を測定器の感度特性又はその近似値によって補正した補正分光特性を求め、実際に測定された分光特性と前記補正分光特性とのフィッティング計算を行なうことにより膜厚を求めることを特徴とする光学素子の膜厚測定方法(請求項1)である。
【0021】本手段においては、計算によって求められた分光特性を、測定器の感度特性又はその近似値で補正して補正分光特性を求めている。ここで「感度特性」とは、図4(a)で示したような、分解能を決定する感度特性である。すなわち、補正分光特性は、計算によって求められた分光特性を測定器で観測したときに得られるはずの分光特性となる。よって、実際に測定された分光特性と前記補正分光特性とのフィッティング計算を行なうことにより、従来技術の欄で説明した方法と同様の方法で膜厚を求めるようにすれば、計算で求められた分光特性が測定器で測定できないような急峻な変化を含むような場合でも、正確に膜厚を決定することができる。
【0022】なお、本明細書において「フィッティング計算」とは、あるパラメータによって決定される計算量と実際に観測された量の比較を行い、最も観測された量に近い計算量を与えるパラメータを採用する計算をいい、比較の方法として最小2乗法や、差の絶対値の和の最小を与えるパラメータを求める方法、相互相関係数を求めて最も大きな相互相関係数が得られるパラメーターを採用する方法等が代表的なものである。
【0023】前記課題を解決するための第2の手段は、表面に多層膜を有する光学素子における、多層膜を構成する各々の膜の厚さを測定する方法であって、種々の膜厚のときに観測される分光特性を計算によって求め、一方、実際に測定された分光特性と測定器の感度特性又はその近似値より、真の分光特性を求め、前記計算によって求められた分光特性と前記真の分光特性とのフィッティング計算を行なうことにより膜厚を求めることを特徴とする光学素子の膜厚測定方法(請求項2)である。
【0024】本手段においては、前記第1の手段と逆に、実際に測定された分光特性から、測定器の感度特性又はその近似値を考慮して真の分光特性を求める。ここで「感度特性」とは、図4(a)で示したような、分解能を決定する感度特性である。そして、この真の分光特性と計算によって求められた分光特性とのフィッティング計算を行なうことにより、従来技術の欄で説明した方法と同様の方法で膜厚を求めるようにすれば、計算で求められた分光特性が測定器で測定できないような急峻な変化を含むような場合でも、正確に膜厚を決定することができる。
【0025】前記課題を解決するための第3の手段は、表面に多層膜を有する光学素子における、多層膜を構成する各々の膜の厚さを測定する方法であって、種々の膜厚のときに観測される分光特性を計算によって求めると共に、求められた分光特性を測定器の感度特性又はその近似値によって補正した補正分光特性を求め、両者の差が所定値以上である波長範囲を求め、この範囲を除いた範囲、又はこの範囲を含む所定範囲を除いた範囲において、計算によって求められた分光特性と実際に測定された分光特性とのフィッティング計算を行なうことにより膜厚を求めることを特徴とする光学素子の膜厚測定方法(請求項3)である。
【0026】本手段においては、比較の基準となる計算によって求められた分光特性と、それを測定したとき観測されると考えられる分光特性の差が大きくなる部分をフィッティング計算の範囲から除外しているので、計算で求められた分光特性が測定器で測定できないような急峻な変化を含むような場合でも、正確に膜厚を決定することができる。この場合「所定値」をいくらにするかは、計算によって求めた光学特性の形状等を考慮して、なるべく正確な膜厚測定精度が得られるように、当業者が適宜経験により決定することができる。
【0027】また、「この範囲を含む所定範囲」とは、例えば、当該範囲の前後所定範囲の波長域を含む範囲、また、当該範囲が近接した波長域に不連続に複数ある場合は、そのうち最短の波長から最長の波長までの全ての連続した範囲、さらにその連続した範囲の前後所定範囲をも含む範囲とか、種々の範囲が考えられる。
【0028】前記課題を解決するための第4の手段は、表面に多層膜を有する光学素子における、多層膜を構成する膜の各々の厚さを測定する方法であって、種々の膜厚のときに観測される分光特性を計算によって求め、このうち、測定器の分解能に対応する波長間における分光特性の変化が所定値以上である範囲を求め、この範囲を除いた範囲、又はこの範囲を含む所定範囲を除いた範囲において、計算によって求められた分光特性と実際に測定された分光特性とのフィッティング計算を行なうことにより膜厚を求めることを特徴とする光学素子の膜厚測定方法(請求項4)である。
【0029】本手段は、計算された分光特性が波長に対して急峻に変化し、測定器で正確に測定できない範囲をフィッティング計算に用いる範囲から除外することを骨子としている。すなわち、測定器の分解能(通常半値幅で表されることが多い)に対応する波長間隔での光学特性変化量が所定値以上の場合は、真の値と測定値との間に大きな誤差が出るとして、この範囲をフィッティング計算に使用する範囲から除外する。この場合「所定値」をいくらにするかは、計算によって求めた光学特性の形状等を考慮して、なるべく正確な膜厚測定精度が得られるように、当業者が適宜経験により決定することができる。本手段においては、測定精度の悪い部分をフィッティング計算から除外しているので、計算で求められた分光特性が測定器で測定できないような急峻な変化を含むような場合でも、正確に膜厚を決定することができる。
【0030】また、「この範囲を含む所定範囲」とは、例えば、当該範囲の前後所定範囲の波長域を含む範囲、また、当該範囲が近接した波長域に不連続に複数ある場合は、そのうち最短の波長から最長の波長までの全ての連続した範囲、さらにその連続した範囲の前後所定範囲をも含む範囲とか、種々の範囲が考えられる。
【0031】前記課題を解決するための第5の手段は、前記第1の手段から第4の手段のうちいずれか1項に記載の膜厚測定方法のプロセス、前記第1の手段の膜厚測定方法又は前記第2の手段の膜厚測定方法と前記第3の手段の膜厚測定方法とを組み合わせたプロセス、前記第1の手段の膜厚測定方法又は前記第2の手段の膜厚測定方法と前記第4の手段の膜厚測定方法とを組み合わせたプロセスのうち、いずれか1つのプロセスを使用して少なくとも1層の膜厚を測定するプロセスを有してなることを特徴とする光学素子の製造方法(請求項5)である。
【0032】本手段においては、計算で求められた分光特性が測定器で測定できないような急峻な変化を含むような場合でも、正確に膜厚を決定することができるので、多層膜の有する光学特性を所望の特性に正確に制御することができる。特に、前記第1の手段の膜厚測定方法又は前記第2の手段の膜厚測定方法と、前記第3の手段の膜厚測定方法とを組み合わせて使用すれば、さらに膜厚の測定精度を良くすることができ、多層膜の有する光学特性を所望の特性に正確に制御することができる。この効果は、前記第1の手段の膜厚測定方法又は前記第2の手段の膜厚測定方法と、前記第4の手段の膜厚測定方法とを組み合わせて使用しても同様に得られる。
【0033】
【発明の実施の形態】以下本発明の実施の形態の第1の例を詳細に説明する。以下の説明において、膜厚の測定法自体は、従来技術の説明の欄において説明したように、計算によって求められた分光透過率と実測された分光透過率のフィッティングにより求めるものとする。
【0034】分光透過率測定器の分解能を示す感度特性(以下、単に感度特性という)が、観測すべき波長をλとするとき、波長λ’に対してA(λ,λ’)で表されるとする。通常の場合は、感度特性を表す関数の形はλによらないので、A(λ,λ’)は、A(λ,λ’)=B(λ−λ’)という関数形で表されることが多い。
【0035】ある膜厚dのとき観測される分光透過率を計算によって求めた値を、T(d,λ)とすると、次式により補正分光透過率T’(d,λ)を求める。
【0036】
【数3】

【0037】ただし、積分範囲は、分光透過率測定器の感度がある波長範囲内でフィッティング計算に用いる範囲とする。そしてこのようにして求められた補正分光透過率T’(d,λ)を計算によって求められた分光透過率の代わりに使用して(2)式におけるT(dn0+iΔ,λ)(i=−m〜m)を求め、従来技術の欄において説明した方法と同じ方法を用いて、フィッティング計算により(2)式のSが最も小さくなるiを採用することにより、膜厚を求める。実際には(3)式の代わりにサンプル値を用いた数値計算によって積分値を求める。また、A(λ,λ’)の関数形は近似値を用いたものにしてもよい。
【0038】このような実施の形態を用いることにより、計算された分光特性でなく測定器で測定されるはずの分光透過率と実際に測定された分光透過率のフィッティングが行われるので、正確に膜厚を求めることができる。
【0039】以下、本発明の第2の実施の形態について詳細に説明する。この実施の形態についても、膜厚の測定法自体は、従来技術の説明の欄において説明したように、計算によって求められた分光透過率と実測された分光透過率のフィッティングにより求めるものとする。
【0040】測定された分光透過率をTa(λ)とする。そして、この実施の形態においても分光透過率測定器の感度特性が、観測すべき波長をλとするとき、波長λ’に対してA(λ,λ’)で表されるとする。そのとき、真の分光透過率をT(λ)として,積分方程式【0041】
【数4】

【0042】を解いてT(λ)を求める。実際には、この積分方程式は数値計算により解かれる。A(λ,λ’)の関数形は近似値を用いたものにしてもよい。
【0043】このようにして求められたT(λ)を用いて、(2)式のTa(λ)の代わりにT(λ)を使用した式【0044】
【数5】

【0045】を各iについて求め、Sの値が最も小さくなるiを採用する。ただし、(2)式の積分範囲は分光透過率の測定範囲とする。また、実際には(2)式の代わりにサンプル値を用いた数値計算によって積分値を求めることはいうまでもない。さらに、2乗計算の代わりに絶対値を用いてもよい。
【0046】本手段においては、実際に観測された分光透過率から、測定器の特性を考慮した積分方程式を解くことにより真の分光透過率を求め、これと計算された分光透過率のフィッティングを行うことにより膜厚を求めているので、正確に膜厚を求めることができる。
【0047】以下、本発明の第3の実施の形態について詳細に説明する。この実施の形態についても、膜厚の測定法自体は、従来技術の説明の欄において説明したように、計算によって求められた分光透過率と実測された分光透過率のフィッティングにより求めるものとする。
【0048】第1の手段で説明したように、ある膜厚dのとき観測される分光透過率を計算によって求めた値を、T(d,λ)とし、(3)式により計算した補正分光透過率T’(d,λ)とT(d,λ)の差|T(d,λ)−T’(d,λ)|を求める。そして、この差が所定値を超える波長範囲を、フィッティング計算を行う範囲から除外する。この所定値は、一定値としてもよいし、T(d,λ)の値に所定係数を掛けた値としてもよい。
【0049】また、(2)式におけるもとの積分区間をL、積分から除外された区間をL’とするとき、(2)式におけるSの値はLからL’を除いた区間で積分して求められ、これらの積分は1区間のこともあれば複数区間のこともある。
【0050】フィッテング計算から除外する範囲としては、前記の差が所定値を超える波長範囲と共に、その前後の所定範囲の波長範囲をも除くようにしてもよい。また、前記の差が所定値を超える範囲が、近接して不連続に複数存在する場合は、そのうち最短の波長から最長の波長に亘る範囲全体をフィッティング計算から除くようにしてもよい。さらに、このようにして決定された連続した波長域の前後の所定の波長範囲を含めて除くようにしてもよい。また、フィッティング計算から除く範囲は、全ての膜厚測定に共通にしてもよいし、膜厚に応じて段階的に変えるようにしてもよい。このようにして決定された除外範囲は、複数の範囲であることもある。
【0051】以下、本発明の第4の実施の形態について詳細に説明する。この実施の形態についても、膜厚の測定法自体は、従来技術の説明の欄において説明したように、計算によって求められた分光透過率と実測された分光透過率のフィッティングにより求めるものとする。
【0052】従来技術の欄において説明したように、計算された分光透過率をT(dn0+iΔ,λ)(i=−m〜m)とする。一方、測定器の感度分布が図4(a)に示すようになっているとし、その半値幅を分解能としてその値をaとする。そして、(2)式に基づいてフィッティングを行う際、各計算分光透過率T(dn0+iΔ,λ)(i=−m〜m)について、波長がaだけ変化したとき分光透過率の計算値が所定値以上変化する区間を、(2)式における積分区間から除外する。この所定値は、一定値としてもよいし、波長がaだけ変化する区間の各計算分光特性T(dn0+iΔ,λ)(i=−m〜m)に所定係数を掛けた値としてもよい。
【0053】また、(2)式における積分区間をL、積分から除外された区間をL’とするとき、(2)式におけるSの値は、区間LからL’を除いた区間で積分され、比較されることはいうまでもない。
【0054】本手段においては、計算された分光特性の変化が大きくて、測定器で測定した場合に誤差が大きくなる波長範囲がフィッティング計算から除外されているので、正確に膜厚を求めることができる。フィッティング計算から除外する範囲を、前記第3の実施の形態で述べたような範囲としてもよいことは言うまでも無い。
【0055】多層膜を成膜する過程において、少なくとも1層の膜厚をこれら実施の形態に示したような請求項1から請求項4に記載の膜厚測定方法で測定すれば、光学特性が波長に対して大きく変化する可視光域においても、光学特性を計測することにより膜厚を正確に測定することができる。この際、全ての膜の膜厚を同じ測定方法で計測する必要はなく、膜ごとに請求項1から請求項4に記載の膜厚測定方法の異なったものを選択して使用してもよい。
【0056】また、請求項1に記載の方法又は請求項2に記載の方法でフィッティング計算を行ない、これに加えて請求項3又は請求項4に記載の方法でフィッティング計算を行なう範囲を制限すれば、膜厚測定精度をさらに上げることができる。
【0057】このようにして成膜が行われた光学素子は、各層の膜厚が正確な厚さに成膜されているので、確実に目的とする光学特性を有するものとなる。よって、このような光学素子を光学装置に組み込めば、光学装置の性能の向上を図ることができる。また、本発明における光学素子の製造方法は、光通信用に使用される波長多重用狭帯域フィルター、長波長透過フィルター等を製造するのに特に適している。
【0058】
【実施例】(実施例1)近赤外から赤外領域において、1000nmから1220nmの透過率が5%以下であり、1300nmから1800nmの透過率が85%以上という光学特性を目標とし、27層からなる多層膜を設計して成膜した。成膜の各過程において、各膜厚は第1の実施の形態で示したような方法により求め、従来技術の欄で示したような方法で成膜を行った。得られた多層膜の光学特性の測定結果を図5に示す。図5から、目標とする光学的特性が得られていることが分かる。
【0059】(実施例2)実施例1と同じ多層膜を、膜厚を第2の実施の形態に示したような方法により求め、従来技術の欄で示したような方法で成膜を行った。得られた多層膜の光学特性の測定結果を図6に示す。図6から、目標とする光学的特性が得られていることが分かる。
【0060】(実施例3)実施例1と同じ多層膜を、膜厚を第3の実施の形態に示したような方法により求め、従来技術の欄で示したような方法で成膜を行った。得られた多層膜の光学特性の測定結果を図7に示す。図7によると、1315nm付近で透過率が目標の85%を多少割り込んでいるが、ほぼ目標とする特性が得られているのが分かる。
【0061】(比較例)実施例1と同じ多層膜を、従来と同じ方法で可視光領域で膜厚測定を行い、従来技術の欄で示したような方法で成膜を行った。得られた赤外領域の光学特性は、図8に示すように目標値を大きく外れており、上記各実施例より大幅に悪化していた。
【0062】
【発明の効果】以上説明したように、本発明においては、光学特性を測定する測定器の分解能を越えるような急峻な光学特性の変化がある場合でも、光学特性の変化に基づいて、多層膜の各膜厚を正確に決定することができ、これにより所望の光学特性を有する光学素子を得ることができる。
【出願人】 【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
【出願日】 平成11年12月20日(1999.12.20)
【代理人】 【識別番号】100094846
【弁理士】
【氏名又は名称】細江 利昭
【公開番号】 特開2001−174226(P2001−174226A)
【公開日】 平成13年6月29日(2001.6.29)
【出願番号】 特願平11−360788