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【発明の名称】 活性金属材料の溶解保持方法
【発明者】 【氏名】草道 龍彦

【氏名】蜷川 伸吾

【氏名】長尾 元裕

【要約】 【課題】活性金属材料や高融点物質を高温で溶融して保持する方法において、水蒸気爆発や水素爆発を確実に防止して安全性の高い溶融保持方法を提供する。

【解決手段】溶解用容器の内部または外周部を液体状冷却媒体で冷却しつつ活性金属材料を溶解し液体のまま保持する方法において、上記冷却媒体として、融点が200℃以下、沸点が1000℃以上であると共に、主要な構成元素が水や水蒸気と反応しない物質を用いる。本発明方法は、高融点物質の溶解保持方法にも適用でき、上記冷媒としては鉛ビスマスを用いることが推奨される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 溶解用容器の内部または外周部を液体状冷却媒体で冷却しつつ活性金属材料を溶解し液体のまま保持する方法であって、上記冷却媒体として、融点が200℃以下、沸点が1000℃以上であると共に、主要な構成元素が水や水蒸気と反応しない物質を用いることを特徴とする活性金属材料の溶解保持方法。
【請求項2】 溶解用容器の内部または外周部を液体状冷却媒体で冷却しつつ高融点物質を溶解し液体のまま保持する方法であって、上記冷却媒体として、融点が200℃以下、沸点が1000℃以上であると共に、主要な構成元素が水や水蒸気と反応しない物質を用いることを特徴とする高融点物質の溶解保持方法。
【請求項3】 冷却媒体として用いる物質が鉛ビスマスである請求項1または2に記載の溶解保持方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、チタンやジルコニウム等の活性な金属材料や、ガラス,セラミック,スラグ,塩類,各種廃棄物類等の高融点物質を溶解し液体のまま保持する方法に関し、詳細には上記活性金属材料や高融点物質を高温で溶融して、それに付随する化学反応や凝固等の処理を行わせる場合に、水蒸気爆発などの激しい事故を確実に防止する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】チタンやジルコニウム等の活性な金属材料を工業規模で溶解し鋳造するにあたっては、真空アーク溶解法,電子ビーム溶解法,プラズマアーク溶解法,コールドクルーシブル誘導溶解法などの溶解法が採用されている。これらの溶解法においては、例えば銅材でるつぼを構成して水冷することで溶解容器としており、銅るつぼと接した溶湯が冷却されて表面に形成された凝固層の内側に溶融金属浴を保持する方式が用いられている。即ち、通常の溶解方法では、溶解容器の冷却に用いる冷媒として水を採用している。このため、何らかの原因で、水による冷却が不充分となった場合には、金属製の溶解容器が高温の溶融物からの伝熱により一部分が溶損して容器に穴が開き、冷媒である水と高温の溶融物とが接触して、水蒸気爆発を招く恐れがある。特にチタンなどの活性な金属の溶解法では、上記水冷銅るつぼが溶解容器として汎用されており、不慮の事故で銅るつぼが破損したり溶損したりすると溶融Ti(約1700℃)と冷却水(約50℃)とが直接に接触することとなり、水が急速加熱されて沸騰し、水蒸気爆発に至る。さらに、水は高温のチタンと反応して、水素ガスを多量に発生させるため、水蒸気爆発により破損した部分から空気が入り込んでくると更に水素爆発も引き起こすことになる。チタン溶解の分野においては、概ね10年から20年に一度は世界のどこかの溶解工場で爆発事故が発生している状況にあり、現状では爆発自体を完全に防止することは困難であるため、万が一爆発して溶解設備や工場が破損されたとしても、最低限、人には危害が加わらない様に防爆壁で溶解炉の周囲を囲む方式が一般化している。
【0003】この様に、溶解を行う一般的な条件である大気圧下では水の沸点は100℃であるから、数百℃以上の高温物により水が急速加熱されると、水は必然的に沸騰する。このため、冷却媒体として水を使用する限り、水蒸気爆発を完全に防止することは原理的に困難である。
【0004】水以外の冷媒として、一部のチタン溶解工場では、真空アーク溶解法における冷却媒体にNaK合金の融体物が用いられている。NaKの沸点は820℃(1気圧)であり、何らかの原因で高温の溶融チタンと直接に接触する事態に至ったとしても、水の様に直ちに沸騰することはなく、蒸気爆発する可能性は低いので、水に比べて安全な冷媒であるとされている(「Engineering vol 31,1968:"Tifurnace safely cooled by NaK")。しかしながら、多量の溶融Tiと接触すると、かなりの量の冷媒NaKが沸点を超える事態も考えられ、沸騰による上記爆発を完全に防止することは難しい。さらに、溶融したNaやKはそれ自体が極めて活性な物質であり、万が一に水に触れると反応して水素ガスを発生し、水素ガス爆発を起こす恐れがある。NaKを冷媒とする場合、溶解炉部分はNaKで冷却できるが、冷媒であるNaKの熱を熱交換機で抜熱する必要があり、熱交換機の冷媒には水が用いられているので、万一熱交換機で漏れが発生すると、そこで水素爆発に至る可能性がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記事情に着目してなされたものであって、活性金属材料や高融点物質を高温で溶融して保持する方法において、水蒸気爆発や水素爆発を確実に防止して安全性の高い溶融保持方法を提供しようとするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決した本発明とは、溶解用容器の内部または外周部を液体状冷却媒体で冷却しつつ活性金属材料を溶解し液体のまま保持する方法であって、上記冷却媒体として、融点が200℃以下、沸点が1000℃以上であると共に、主要な構成元素が水や水蒸気と反応しない物質を用いることを要旨とするものである。本発明方法は、高融点物質の溶解保持方法にも適用でき、上記冷媒としては鉛ビスマスを用いることが推奨される。
【0007】
【発明の実施の形態】水を冷媒として用いる場合の最大の問題点は、その沸点が大気圧(約1気圧)下では100℃と著しく低いことにある。例えば、Tiの融点は1670℃,Zrの融点は1850℃程度であって、水の沸点に比べて著しく高い温度であり、これらの高融点金属の溶融物が水と接触すると、その温度差により瞬時に多量の熱が水に伝熱され、容易に水の沸点を超える事態となる。ある所定量以上(例えば20kg以上)の溶融物を水プールに落下させると、急速に水が沸騰して体積膨張をおこし、確実に水蒸気爆発に至ることが知られている(日本原子力研究所報告:JAERI-M-92-35 )。この水蒸気爆発を引き起こす溶融物の20kgという重量は、工業規模での一般的な取扱い量がトン規模であることに比べると非常に少量である。従って、工業規模設備において、水冷却を行いつつ確実に水蒸気爆発を回避するのは極めて困難であると言える。
【0008】この水蒸気爆発の問題を解決するには、沸点の高い冷媒を用いる必要がある。例えば、チタンのような高融点の材料を溶融すると、融体温度は1700〜1900℃になることが知られている。容器の冷媒の量が溶融物と同程度は用いられるとすれば、溶融物の熱量の半分が冷媒に伝達されて温度がほぼ1/2に下がった場合でも、冷媒の沸点を超えていないことが望ましいと考えられる。そこで、工業規模で多量に利用される材料の中では高融点であり、溶融温度の高いチタンの場合においても、冷媒を沸騰させないためには、その沸点が1000℃以上であることが望ましいと言える。
【0009】尚、水以外の冷媒を用いる場合、その融点が高過ぎると、冷媒を溶融状態にするために加熱用のヒーターが必要となる。しかしながら、工業的に利用するには、そのヒータは簡易な設備であることが望ましく、融点が200℃以下の物質であれば比較的容易に加熱保温できる。
【0010】従って、本発明では、溶解用容器の内部または外周部を液体状冷却媒体で冷却しつつ活性金属材料を溶解し保持するにあたり、冷却媒体として、融点が200℃以下、沸点が1000℃以上である物質を採用するものである。
【0011】また上記のような冷媒を実際に使用する際には、溶解容器を冷却する高温部において数百℃程度となり、冷媒の温度を下げる熱交換機部で室温〜200℃程度に冷却されることとなる。熱交換機部で最も汎用的に用いられるのは冷却水であり、もし万が一、熱交換機の領域で漏れが発生しても、熱力学的に水と反応しない成分組成であることが望ましい。即ち、冷媒を構成する主要元素の酸化物が水よりも不安定であり、水と反応して酸化されることのないことが、水素爆発を防止する見地から必要といえる。
【0012】以上の様な条件を満足する冷媒を用いることにより、冷媒の沸騰による急激な体積膨張を抑制することが可能となり、これまでの長年の懸案事項であった冷却水による水蒸気爆発の問題を解決できる。このような条件を満足する冷媒であれば、どのような組成のものでも利用可能であるが、例えば、鉛ビスマスやガリウム等が利用できる。Pb−Bi系合金の共晶組成における融点は125℃前後であり(図1の鉛ビスマスの状態図参照)、沸点は1670℃前後であり、しかもPb及びBiはいずれもその酸化物の標準生成自由エネルギーを水と比べると、水よりも不安定であることから、水により酸化されることはない。
【0013】ところで冷却媒体として水を大気圧下で用いる場合、通常の場合の冷却水の入水温は室温付近であり、出口温度は容器の溶損を防止するために50〜60℃以下の温度になるように冷却水の流量を制御するのが普通である。このため、冷却水への伝熱から有効にエネルギー回収するのはほとんど不可能である。これに対して本発明方法においては、容器や配管材料としてステンレス鋼や銅等を利用すればよく、例えばステンレス鋼を用いる場合、材料の腐食を抑制する見地から冷媒の温度を500℃程度にまで上昇させることが可能であり、熱交換機などで入口温度の150℃程度にまで冷却する過程で、エネルギー回収を図ることが可能となる。
【0014】尚、都市ごみ焼却灰の無害化のための溶融処理プロセスにおいても、耐火物の外側を水で冷却した金属製容器により冷却する方式などが用いられる場合があり、この様な溶融処理プロセスをはじめ、ガラス,セラミック,スラグ,塩類,各種廃棄物類等の高融点物質の溶融処理にも、本発明方法は適用できる。
【0015】以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の主旨に徴して設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲内に含まれるものである。
【0016】
【実施例】図2は、本発明方法により行ったプラズマアーク加熱方法を示す説明図である。最大出力100kWのプラズマトーチ(直流電流:最大1000A,最大電圧:100V)1を熱源として、内径120mm,高さ200mmの底付き円筒形で上面が解放した溶融用容器2を、厚さ5mmのステンレス鋼(SUS304)で作製し、冷媒としてPb−Bi共晶を用いるプラズマアーク加熱炉3を製造した。尚、上記Pb−Bi共晶の融点は123.5℃であり、密度は10100kg/m3、定圧比熱は0.15kJ/kg/Kである。また、溶融用容器3は底面から側面上方に向かって冷媒が流れ、側面上端で戻る構造となっている。更に上記溶融用容器3は、ステンレス鋼製の配管に接続されており、配管系はポンプ4と熱交換機5及び冷媒のメンテナンス用部分とから構成されている。熱交換機5では、工業用水で冷媒を冷却した。また、ステンレス鋼配管には、最高温度200℃まで加熱が可能なヒータが装着されている。
【0017】溶融を行った材料は、炭素鋼(S45C:3.5kg)とフラックス(30質量%:CaF2−CaO−MgO−Al23−SiO2−TiO2系:1kg)の混合物であり、溶融すると溶融炭素鋼浴の上に溶融スラグが乗っている状況となる。ステンレス鋼製の容器と接すると溶融物は凝固して凝固層が形成されて、溶融物は凝固層の内側に保持される形となる。
【0018】プラズマトーチでは、流量1.8m3/hのArガスを用いてプラズマを形成し、電流1000A、電圧100Vで加熱した。プラズマトーチで発生するエネルギー(100kW)の一部はトーチ内で消費されるが、ほとんどはプラズマフレームからの放射とアーク点での伝熱により、溶融物及び容器に伝熱される。
【0019】冷媒のPb−Biを、流量がそれぞれ1m3/h,2m3/h,3m3/hとなる様にポンプで流動させて、容器の入口温度と出口温度を測定した。結果は表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】プラズマトーチで発生したエネルギーのほとんどが冷媒に伝えられており、水を代替する冷媒として使用できることが確認できた。
【0022】
【発明の効果】本発明は以上の様に構成されているので、活性金属材料や高融点物質を高温で溶融して保持する方法において、水蒸気爆発や水素爆発を確実に防止して非常に安全性の高い溶融保持方法が提供できることとなった。
【出願人】 【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
【出願日】 平成11年12月28日(1999.12.28)
【代理人】 【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司 (外1名)
【公開番号】 特開2001−194069(P2001−194069A)
【公開日】 平成13年7月17日(2001.7.17)
【出願番号】 特願平11−375275