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【発明の名称】 油井管用ねじ継手
【発明者】 【氏名】山本 秀男

【氏名】中筋 和行

【要約】 【課題】材質が炭素鋼またはCr含有量が10重量%未満の低合金鋼であって、高深度、高温油井、あるいは蒸気注入油井等の高温環境下の原油採掘において繰り返しの締め付け・緩め戻しに対してゴーリングの発生を抑制し、気密性に優れた油井管用ねじ継手を提供する。

【解決手段】ボックスとピンの少なくともいずれか一方のねじ無し金属接触部に燐酸塩化成処理被膜を形成し、更に、その上に二硫化モリブデンおよび/または黒鉛を分散混合したTi−Oを骨格とする無機高分子化合物の潤滑被膜を形成する。無機高分子化合物の含有量(A)と、二硫化モリブデンと黒鉛の合計の含有量(B)との重量比(B/A)は0.3〜9.0で、潤滑被膜の膜厚は5〜30μmとするのが望ましい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 ねじ部とねじ無し金属接触部をそれぞれ有するピンとボックスとから構成され、炭素鋼製またはCr含有量が10重量%未満の低合金鋼製のねじ継手において、ボックスとピンの少なくともいずれか一方のねじ無し金属接触部に燐酸塩化成処理被膜を形成させ、更に、該燐酸塩化成処理被膜上に二硫化モリブデンおよび/または黒鉛を分散混合したTi−Oを骨格とする無機高分子化合物の潤滑被膜を形成したことを特徴とする油井管用ねじ継手。
【請求項2】 上記燐酸塩化成処理被膜が燐酸マンガン化成処理被膜であることを特徴とする請求項1に記載の油井管用ねじ継手。
【請求項3】 上記無機高分子化合物の含有量(A)と、二硫化モリブデンと黒鉛の合計の含有量(B)との重量比(B/A)が0.3〜9.0であることを特徴とする請求項1または2に記載の油井管用ねじ継手。
【請求項4】 上記燐酸塩化成処理被膜を形成するねじ無し金属接触部の表面粗さがRmax で3〜15μmであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の油井管用ねじ継手。
【請求項5】 上記潤滑被膜の膜厚が5〜30μmであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の油井管用ねじ継手。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、耐焼付き性に優れた炭素鋼製またはCr含有量が10重量%未満の低合金鋼製の油井管用ねじ継手に関し、更に詳しくは高深度、高温油井等の劣悪環境下の原油採掘において繰り返しの締め付け・緩め戻しに対して焼き付きことなく、かつ、気密性が保たれ、繰り返し使用できる油井管継手に関する。
【0002】
【従来の技術】通常、油井の深さは2000m〜3000mであるが、近年の海洋油田などの深油井では8000m〜10000mにも達する。このような油井に竪て込まれるチュービングやケーシングなどの油井管の連結には、一般的にねじ継手が用いられる。すなわち、油井管外面に形成した雄ねじとねじ継手内面に形成した雌ねじをはめ合わせ、締め付けることにより連結がおこなわれる。
【0003】ねじ継手には使用環境下で軸方向の引張力や内外面圧力などの複合した圧力や熱が作用するため、このような環境下においてもねじ継手の気密性が維持されること、ねじ継手が破損しないことが要求される。一方、チュービングやケーシングの降下作業時には、一度締め込んだ継手を緩め、再度締め直すことがあり、API(米国石油協会)ではチュービングで10回、ケーシングで3回の締め付け(メイクアップ)−締め戻し(ブレークアウト)を行ってもゴーリングと呼ばれる焼付きの発生がなく、気密性が維持されることが要求されている。ゴーリングが発生すると、気密性が不完全となり、繰り返し使用回数が低下する。
【0004】ところで、ねじ継手としては、通常、油井管の端部に形成した雄ねじの先端にねじ無し金属接触部を形成し、これと、ねじ継手の内面の雌ねじの基部に形成したねじ無し金属接触部とをはめ合わせ、締め付けることによりねじ無し金属接触部同士を当接してメタルシール部を形成した構造のねじ継手が使用される。
【0005】しかし、メタルシール部およびねじ部には高面圧が作用するため、特に、高温条件下ではゴーリングが発生しやすく、APIの規格には、継手締結後に177℃×24Hrの耐熱試験を実施した後、締め戻し−再度締め付けを行っても気密性が保たれていることが要求されている。
【0006】そこで、上記要求に応じるため、従来より種々の対策案が提示されている。例えば、特開平5−117870公報にはねじ継手の表面に平均粗さ20〜60μmの凹凸加工を施した後、燐酸塩化成処理被膜を形成する方法が、また、特開平6−10154公報にはメタルシール部の表面最大粗さと表面処理被膜層の厚さを規定して表面処理する方法が、特開平5−149485公報にはピンまたはボックス表面に分散めっき層を形成したねじ継手が、特開平2−885593公報には表面粗さを20〜50μmに加工したメタルシール部にセラミックス塗装を施す方法が、特開平8−233164公報や特開平9−72467公報にはボックスまたはピンの接触表面に二硫化モリブデン粉末を分散混合した樹脂被膜を形成したねじ継手が、それぞれ提示されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】近年、従来より高温の250〜300℃の使用環境下で用いる高温油井用や、原油回収効率を高めるため、臨界温度にも達する高温蒸気(350℃)を注入する蒸気注入油井用の耐熱性継手が要求されている。したがって、ねじ継手には、継手締結後に350℃を越す温度で耐熱試験を実施した後、締め戻し−再締結の処理を行っても気密性が保持される性能が要求される。
【0008】しかしながら、上記公報などに開示された従来の技術では、上記性能を確保することが難しい。即ち、ねじ継手を締結する際に、APIの規格BUL5A2に規定されるようなコンパウンドグリスを使用する場合は、高温のためグリス成分が蒸発して潤滑性が低下するため、締め戻し後の再締め付け時において所定の気密性が得られないという問題がある。従って、コンパウンドグリスの塗布を念頭に置いた特開平5−117870公報、特開平6−10154公報、特開平5−149485公報および特開平2−885593公報などに開示された技術では高温時の気密性の確保に問題がある。
【0009】また、コンパウンドグリスを使用しないことを特徴とする特開平8−233164公報や特開平9−72467公報に開示された技術では、400℃にも達する高温に長時間曝されると樹脂が変質するため、二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤を保持するバインダー機能が喪失し、潤滑性が低下し、締付け不良や焼付きが発生し、更には気密性が悪化するという問題がある。
【0010】以上のように、400℃にも達する高温環境下で繰り返し使用できる耐ゴーリング性に優れたねじ継手は得られていないのが現状である。
【0011】本発明の課題は、炭素鋼製またはCr含有量が10重量%未満の低合金製の耐ゴーリング性に優れた油井管用ねじ継手を提供することにある。更に詳しくは高深度、高温油井、あるいは蒸気注入油井等の高温環境下の原油採掘において繰り返しの締め付け・緩め戻しに対してゴーリングの発生を抑制し、気密性に優れた油井管用ねじ継手を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記課題を解決するため、高温環境下における耐ゴーリング性に優れた潤滑被膜の形成に注視し、固体潤滑剤とバインダー(結合剤)の耐熱性、潤滑性、被膜処理性などに関して基礎的検討を行い、以下の知見を得た。
【0013】(イ)二硫化モリブデンや黒鉛等の固体潤滑剤は400℃程度の温度でも熱による変質・分解もなく、常温と変わらない潤滑性を示す。
【0014】(ロ)固体潤滑剤のバインダーとして樹脂を用いると、24Hrを越える長時間の高温環境下では変質、分解、あるいは炭化が進み、固体潤滑剤を継手表面に被覆するバインダーとしての機能が失われ、潤滑性が低下する。
【0015】(ハ)Si、Ti、Al等の酸化物、炭化物、窒化物等の無機化合物は、熱的に安定しているが、固体潤滑剤を被覆するバインダーとしての機能が全くない。従って、被膜形成ができないため、固体潤滑剤を混合しても潤滑性が低い。
【0016】(ニ)チタンアルコキシド(Ti(OR)4 、R=アルキル基)はアルキル基を有するため、有機物的な特性を示し、バインダーとしての機能がある。この物質は大気中では不安定で、水分を吸収して共加水分解が起こり、分解物はお互いに結合して網目構造を有したTi−Oを骨格とし熱的に安定な無機高分子化合物に変化する。(1)式に代表的な無機高分子化合物の分子構造式を例示する。
【0017】
【化1】

【0018】(ホ)上記無機高分子化合物は硬質であり耐摩耗性に優れる。
(ヘ)従って、二硫化モリブデンや黒鉛などの固体潤滑剤にバインダーとしてチタンアルコキシドを混合して塗布し、加湿処理を施すことにより、二硫化モリブデンや黒鉛を含有し、潤滑性と耐熱性に優れたTi−Oを骨格とする無機系の潤滑被膜を形成させることができる。
【0019】以上の基礎的検討結果を基に上記潤滑被膜を炭素鋼製またはCr含有量が10重量%未満の低合金鋼製のねじ継手に形成するための適正条件を検討し、以下の知見を得た。
【0020】(ト)少なくともピンあるいはボックスのいずれか一方のねじ無し金属接触部に燐酸塩化成処理被膜を形成し、更にその上に上記Ti−Oを骨格とする無機高分子化合物の被膜を形成することにより焼き付きが抑制される。
【0021】(チ)潤滑被膜を構成する固体潤滑剤は、二硫化モリブデンの粉末または黒鉛の粉末あるいは二硫化モリブデンと黒鉛の混合粉末で、無機高分子化合物の含有量Aと上記固体潤滑剤の含有量Bとの重量比(B/A)は0.3〜9.0の範囲とするとよい。
【0022】(リ)燐酸塩化成処理被膜を形成するねじ無し金属接触部の表面粗さはRmaxで3〜15μmとし、潤滑被膜の膜厚は5〜30μmとすることにより耐焼付き性が向上する。
【0023】本発明は、上記の知見に基づいて完成されたもので、その要旨は以下の通りである。
(1)ねじ部とねじ無し金属接触部をそれぞれ有するピンとボックスとから構成され、炭素鋼製またはCr含有量が10重量%未満の低合金鋼製のねじ継手において、ボックスとピンの少なくともいずれか一方のねじ無し金属接触部に燐酸塩化成処理被膜を形成させ、更に、該燐酸塩化成処理被膜上に二硫化モリブデンおよび/または黒鉛を分散混合したTi−Oを骨格とする無機高分子化合物の潤滑被膜を形成したことを特徴とする油井管用ねじ継手。
【0024】(2)上記燐酸塩化成処理被膜が燐酸マンガン化成処理被膜であることを特徴とする上記(1)項に記載の油井管用ねじ継手。
【0025】(3)上記無機高分子化合物の含有量(A)と、二硫化モリブデンと黒鉛の合計の含有量(B)との重量比(B/A)が0.3〜9.0であることを特徴とする上記(1)項または(2)項に記載の油井管用ねじ継手。
【0026】(4)上記燐酸塩化成処理被膜を形成するねじ無し金属接触部の表面粗さがRmax で3〜15μmであることを特徴とする上記(1)項ないし(3)項のいずれかに記載の油井管用ねじ継手。
【0027】(5)上記潤滑被膜の膜厚が5〜30μmであることを特徴とする上記(1)項ないし(4)項のいずれかに記載の油井管用ねじ継手。
【0028】
【発明の実施の形態】本発明は、高炭素鋼製やCr含有量が10重量%未満の低合金鋼製のねじ継手に関するものである。
【0029】図1は本発明の油井管用ねじ継手の構成を模式的に示す概要図である。符号1はボックス、2はピン、3はねじ部、4はねじ無し金属接触部、5はショルダー部を示す。
【0030】図2は本発明に係る潤滑被膜の形成状況の一例を示すピンのねじ無し金属接触部の断面拡大図である。符号6は潤滑被膜、7は無機高分子化合物、8は固体潤滑剤、9は燐酸塩化成処理被膜で、図1と同じ要素は同一の符号で示す。
【0031】図1に示すように、本発明の油井管用ねじ継手(以下、ねじ継手ともいう)は、油井管の内面に形成されるねじ部3とねじ無し金属接触部4からなるボックス1と、ねじ継手部材の外面に形成されるねじ部3とねじ無し金属接触部4からなるピン2とで構成される。更に、図2に示すように、ピンのねじ無し金属部の表面に燐酸塩化成処理被膜を形成し、更にその上に固体潤滑剤8を分散混合したTi−Oを骨格とする無機高分子化合物7の潤滑被膜6を形成する。上記固体潤滑剤は、二硫化モリブデンまたは黒鉛を単独であるいは二硫化モリブデンと黒鉛とを混合して用いる。なお、図2は、ピンのねじ無し金属部に燐酸系化成処理層を形成する場合を示したが、少なくともピンとボックスのいずれか一方のねじ無し金属部に形成すればよい。
【0032】ねじ無し金属接触部(以下、単に金属接触部ともいう)はねじ部に比べ接触面圧が高く過酷な潤滑状態にあり、また、ねじ継手はピンとボックスとを相互にねじ込んで締結するため、少なくともピンとボックスのいずれかの一方の金属接触部に潤滑被膜を形成することにより耐焼付き性を向上させることができる。なお、材料強度が高く、ねじ部にも高い接触面圧が作用するねじ継手では、焼付きが発生しやすくなるため、金属接触部に加え更にねじ部にも潤滑被膜を形成することが望ましい。
【0033】Ti−Oを骨格とする無機高分子化合物(以下、単に無機高分子化合物ともいう)は、前記(1)式に例示する分子構造を備えており、二硫化モリブデンや黒鉛などの固体潤滑剤のバインダーとしての機能を有し潤滑被膜を形成する。例えば、無機高分子化合物として、(1)式のアルキル基がメチル、エチル、イソプロピル、プロピル、イソブチル、ブチルなどのアルキル基を備えたチタン化合物を挙げることができる。
【0034】二硫化モリブデンおよび黒鉛はいずれも締め付け作業の際の締め付け圧力で薄く伸ばされるため、潤滑被膜の潤滑性を高め、耐焼き付き性を向上させる作用がある。なお、二硫化モリブデンは黒鉛に比べ特に高面圧下において潤滑性が高いので、材料強度の高いねじ継手には二硫化モリブデンを単独で用いるのが望ましい。
【0035】無機高分子化合物の含有量(A)と、二硫化モリブデンと黒鉛の合計の含有量(B)との重量比(B/A)は0.3以上、9.0以下とするのが望ましい。重量比が0.3未満では形成される潤滑被膜の潤滑性向上の効果が少なく、耐焼き付き性の改善が不十分であり、また、重量比が9.0より大きくなると、潤滑被膜の密着性が低下し、特に潤滑被膜からの固体潤滑剤の剥離が著しいなどの問題が生じる。より好ましくは、重量比は0.5以上、7.0以下であり、更に好ましくは3.0以上、6.5以下である。
【0036】潤滑被膜の厚さは5μm以上、30μm以下とすることが望ましい。潤滑被膜の厚さが5μm未満では潤滑性向上の効果が少なく、一方、30μmより大きくなると潤滑被膜形成の処理コストが嵩むとともに潤滑性向上の効果が飽和するため経済的に不利といった問題や潤滑被膜が剥離しやすくなるといった欠点がある。より好ましくは、潤滑被膜の膜厚は5μm以上、15μm以下であり、更に好ましくは6μm以上、10μm以下である。
【0037】上記潤滑被膜を形成する際の下地処理として、燐酸塩化成処理被膜を形成する。燐酸塩化成処理被膜は継手の材料表面に化学反応により形成された反応層で、、その表面は微細な結晶粒子が林立した構造をなす。従って、その層の下側の材料との密着性は極めて高く、また、その層の上に形成される潤滑被膜を繋ぎ止めるいわゆるアンカー効果が高まり、潤滑被膜の密着性が向上する。
【0038】燐酸塩化成処理被膜として、燐酸マンガン、燐酸亜鉛、燐酸カルシウムおよび燐酸亜鉛カルシウムなどの化成処理層を挙げることができる。これらの結晶の幾何学的形態はそれぞれ異なり、燐酸マンガンの結晶が最も微細で絨毯のように林立している。従って、アンカー効果の向上の観点から燐酸マンガン系化成処理層とするのが望ましい。
【0039】燐酸塩化成処理被膜の厚さについては特に限定していないが、薄すぎると潤滑被膜の剥離を抑制する効果が少なく、厚すぎると化成処理被膜の内部に亀裂が入り潤滑被膜とともに脱落する。従って、膜厚は3μm以上、10μm以下とするのが望ましい。
【0040】上記燐酸塩化成処理被膜を形成するねじ無し金属接触部(下地)の表面粗さはRmax で3μm以上、15μm以下であることが望ましい。化成処理被膜を形成する際の下地処理として適正な表面粗さを付与することにより、その上に形成される燐酸塩化成処理被膜を物理的に捕捉するいわゆるアンカー効果が高まり、化成処理層の剥離が阻止される。表面粗さがRmax で3μm未満ではアンカー効果が小さく化成処理層が剥離しやすい。一方、表面粗さが15μmを越えると締め付け・締め戻し時に粗さの凸部に形成された化成処理被膜上の潤滑被膜が破れて焼き付きが発生しやすい。より好ましい表面粗さは4μm以上、10μm以下である。なお、本発明の処理を一方の面にのみ施す場合には、燐酸塩被膜を形成しない相対する面の表面粗さは上記下地の表面粗さ未満にするのがよい。
【0041】本発明のねじ継手は、従来、メークアップ前に塗布していたコンパウンドグリスなどの潤滑剤を一切使用することなく耐ゴーリング性を著しく改善することができる。
【0042】なお、本発明のねじ継手は、潤滑被膜中に防錆添加剤や腐食防止剤を添加し、耐焼き付き性を維持しながら錆の発生を防止することができる。防錆添加剤や腐食防止剤は公知のものを使用することができる。
【0043】次ぎに、本発明に係る被膜の形成方法を説明する。本発明の方法は、燐酸塩系の溶液を用いてピンとボックスの少なくともいずれか一方の金属接触部の表面に化成処理を施して燐酸塩被膜を形成し、次いでチタンアルコキシド(Ti(OR)4 、R:アルキル基)と二硫化モリブデン粉末および/または黒鉛粉末とに分散媒を加えて混合し、これらを上記燐酸塩被膜の上にに塗布し、加湿処理を施して共加水分解させて、Ti−Oを骨格とする無機高分子化合物の潤滑被膜を形成する。
【0044】チタンアルコキシドとしては、アルキル基がメチル、エチル、イソプロピル、プロピル、イソブチル、ブチルなどのアルキル基を備えたチタンアルコキシドを用いることができる。
【0045】チタンアルコキシドと二硫化モリブデン、黒鉛の混合割合は、潤滑被膜を形成した後の乾燥した状態で、無機高分子化合物の含有量(A)と、二硫化モリブデンと黒鉛の合計の含有量(B)との重量比が0.3以上9.0以下となるように決定される。
【0046】分散剤としては、キシレン、塩化メチレン、ブチルアルコールおよびメチルエチルケトンなどの低沸点液を単独にあるいは2種類以上組み合わせて用いることができる。
【0047】加湿処理は、大気中に所定時間放置することにより行うことができるが、湿度が70%以上の雰囲気下で行うのが望ましい。更に、加湿処理後に加熱処理を行うことが望ましい。加熱処理により共加水分解が促進され、加水分解物であるアルキル物質の潤滑被膜内からの排出を促進することができ、潤滑被膜の密着性が強固となり、耐焼付き性が向上する。また、加熱は分散媒が蒸発した後に行うことが好ましい。加熱温度はアルキル物質の沸点に近い100〜200℃の温度とするのがよく、熱風を当てるとより効果的である。
【0048】また、本発明は、燐酸塩の被膜を形成する際に、予め下地処理としてブラスティング加工を施し、下地の表面粗さをRmax で3〜15μmにするのが望ましい。ブラスティング加工を施すことにより、表面に活性な新生面が現れ、燐酸塩被膜の密着性が強固になり燐酸塩被膜の耐剥離性が向上する。ブラスティング加工は、公知のサンドブラスト法、ショットブラスト法やグリッドブラスト法などでよく、サンド、ショット、グリッドやカットワイヤーなどの硬質材を高速で吹き付ける方法により行うことができる。
【0049】
【実施例】表1に示す成分組成の炭素鋼製、Cr−Mo鋼製および5Cr鋼製のねじ継手(外径:7インチ、肉厚:0.408インチ)のボックスやピンのねじ部と金属接触部の双方に各種の下地処理や被膜形成などの表面処理を施した。表2、3に表面処理条件を示す。なお、同表に示す比較例は樹脂被膜を形成した、あるいはコンパウンドグリスを塗布したものである。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】次いで、上記表面処理を施したねじ継手を用い、表4に示す要領で最大25回の締め付け・締め戻しの繰り返し作業を行い、焼き付きの発生状況を調査した。
【0054】
【表4】

【0055】すなわち、表4に示すように、1〜10回目、12〜15回目、17〜20回目、22〜25回目は常温にて締め付け・締め戻しを行い、一方、11回目、16回目および21回目は常温にて締め付け後400℃で24時間の加熱処理を行い、その後冷却して常温で締め戻しを実施した。締め付け速度と締め付けトルクの条件を表5に示す。
【0056】
【表5】

【0057】表6に焼き付き発生状況ならびに締め付け状況を示す。なお、以下、ピンのねじ部と金属接触部の双方の表面をピン表面といい、ボックスのねじ部と金属接触部の双方の表面をボックス表面という。また、表面粗さはRmax 値で示す。
【0058】
【表6】

【0059】(本発明例1)表1に示す炭素鋼製のねじ継手に以下の表面処理を施した。ピン表面は機械仕上げのままで表面粗さを3μmとした。ボックス表面は機械研削仕上げで表面粗さを3μmとし、そのボックス表面に化成処理で厚さ5μmの燐酸亜鉛被膜を形成した。更にその上面にアルキル基がメチルのチタンアルコキシドと、平均粒径が1.5μmの二硫化モリブデンの粉末と平均粒径が3.5μmの黒鉛の粉末をチタンアルコキシド1に対し二硫化モリブデン0.77、黒鉛0.77の重量割合で混合し、キシレン、塩化メチレンおよびブチルアルコールの混液を分散媒として塗布した。次いで、大気中で6時間放置した後、乾燥状態で燐酸亜鉛被膜の上面に形成された被膜の組成を測定したところ、含有量は重量の相対値でTi−Oを骨格とする無機高分子化合物を1とすると、二硫化モリブデンが1、黒鉛が1であり、被膜厚さは40μmであった。
【0060】表6に示すように、表3の20回目の締め付け・締め戻し作業までは焼き付きの発生が無く良好であった。しかし、21回目の加熱処理後の締め戻し時に焼付きが発生した(本発明例2)表1に示す炭素鋼製のねじ継手に以下の表面処理を施した。ピン表面は機械研削仕上げで表面粗さを2μmとした。ボックス表面は#80番のサンドを吹き付け、表面粗さを10μmとし、そのボックス表面に化成処理で厚さ10μmの燐酸亜鉛被膜を形成した。更にその上面にアルキル基がエチルのチタンアルコキシドと、平均粒径が1.8μmの二硫化モリブデンの粉末と平均粒径が2.8μmの黒鉛の粉末をチタンアルコキシド1に対し二硫化モリブデン2、黒鉛1.33の重量割合で混合し、キシレン、塩化メチレンおよびブチルアルコールの混液を分散媒として塗布した。次いで、大気中で3時間放置後に165℃の熱風を30分間吹き付けた。乾燥状態で燐酸亜鉛被膜の上面に形成された被膜の組成を測定したところ、含有量は重量割合でTi−Oを骨格とする無機高分子1に対し二硫化モリブデン3、黒鉛2であり、被膜厚さは10μmであった。
【0061】表6に示すように、表3の22回目の締め付け・締め戻し作業までは焼き付きの発生が無く良好であった。しかし、23回目の締め付け時に焼付きが発生した。なお、締め付け時の締め込み量ならびに締め込みトルクは適正であった。
【0062】(本発明例3)表1に示す5%Cr鋼製のねじ継手に以下の表面処理を施した。ボックス表面は機械研削仕上げで表面粗さを2μmとした。ピン表面は#80番のサンドを吹き付け表面粗さを10μmとし、そのピン表面に化成処理で厚さ5μmの燐酸カルシウム被膜を形成した。更にその上面にアルキル基がイソプロピルのチタンアルコキシドと、平均粒径が1.8μmの二硫化モリブデンの粉末と平均粒径が2.5μmの黒鉛の粉末をチタンアルコキシド1に対し二硫化モリブデン3.06、黒鉛1.94の重量割合で混合し、メチルエチルケトン、塩化メチレンおよびブチルアルコールの混液を分散媒として塗布した。次いで、大気中で2時間放置後に加湿した150℃の熱風を15分間吹き付け、更に乾燥した150℃の熱風を吹き付けた。乾燥状態で燐酸カルシウム被膜の上面に形成された被膜の組成を測定したところ、含有量は重量割合でTi−Oを骨格とする無機高分子1に対し二硫化モリブデン5.5、黒鉛3.5であり、被膜厚さは20μmであった。
【0063】表6に示すように、表3の25回の締め付け・締め戻しにおいて、焼き付きの発生が無く極めて良好であった。また、締め付け時の締め込み量ならびに締め込みトルクも適正であった。
【0064】(本発明例4)表1に示す炭素鋼製のねじ継手に以下の表面処理を施した。ボックス表面は機械研削仕上げで表面粗さを2μmとした。ピン表面は#80番のショットを吹き付け表面粗さを15μmとし、そのピン表面に化成処理で厚さ10μmの燐酸マンガン被膜を形成した。更にその上面にアルキル基がプロピルのチタンアルコキシドと、平均粒径が4.6μmの二硫化モリブデンの粉末と平均粒径が1.3μmの黒鉛の粉末をチタンアルコキシド1に対し二硫化モリブデン2.78、黒鉛0.83の重量割合で混合し、メチルエチルケトン、塩化メチレンおよびブチルアルコールの混液を分散媒として塗布した。次いで、大気中で3時間放置後に加湿した150℃の熱風を10分間吹き付けた。乾燥状態で燐酸カルシウム被膜の上面に形成された被膜の組成を測定したところ、含有量は重量割合でTi−Oを骨格とする無機高分子1に対し二硫化モリブデン5.0、黒鉛1.5であり、被膜厚さは20μmであった。
【0065】表6に示すように、表3の25回の締め付け・締め戻しにおいて、焼き付きの発生が無く極めて良好であった。また、締め付け時の締め込み量ならびに締め込みトルクも適正であった。
【0066】(本発明例5)表1に示すCr−Mo鋼製のねじ継手に以下の表面処理を施した。ピン表面とボックス表面に#180番のサンドを吹き付け、双方とも表面粗さを3μmとした。その双方の表面に化成処理で厚さ5μmの燐酸マンガン被膜を形成した。更にその双方の上面にアルキル基がメチルのチタンアルコキシドと、平均粒径が1.2μmの二硫化モリブデンの粉末をチタンアルコキシド1に対し二硫化モリブデン2.31の重量割合で混合し、キシレン、塩化メチレンおよびブチルアルコールの混液を分散媒として塗布した。次いで、大気中で2時間放置後に加湿した165℃の熱風を30分間吹き付けた。乾燥状態で燐酸マンガン被膜の上面に形成された被膜の組成を測定したところ、含有量は重量割合でTi−Oを骨格とする無機高分子1に対し二硫化モリブデン3.0であり、被膜厚さはピン側、ボックス側とも8μmであった。
【0067】表6に示すように、表3の25回の締め付け・締め戻しにおいて、焼き付きの発生が無く極めて良好であった。また、締め付け時の締め込み量ならびに締め込みトルクも適正であった。
【0068】(本発明例6)表1に示すCr−Mo鋼製のねじ継手に以下の表面処理を施した。ピン表面は機械研削仕上げで表面粗さを2μmとした。ボックス表面は機械研削仕上げで表面粗さを2μmとし、そのボックス表面に化成処理で厚さ3μmの燐酸マンガン被膜を形成した。更にその上面にアルキル基がイソブチルのチタンアルコキシドと、平均粒径が3.1μmの二硫化モリブデンの粉末と平均粒径が3.5μmの黒鉛の粉末をチタンアルコキシド1に対し二硫化モリブデン1.39、黒鉛0.83の重量割合で混合し、キシレン、塩化メチレンおよびイソブチルアルコールの混液を分散媒として塗布した。次いで、大気中で6時間放置し、乾燥状態で燐酸マンガン被膜の上面に形成された被膜の組成を測定したところ、含有量は重量割合でTi−Oを骨格とする無機高分子1に対し二硫化モリブデン2.5、黒鉛1.5であり、被膜厚さは30μmであった。
【0069】表6に示すように、表3の24回目の締め付け・締め戻し作業までは焼き付きの発生が無く良好であった。しかし、25回目の締め付け時に焼付きが発生した。なお、締め付け時の締め込み量ならびに締め込みトルクも適正であった。
【0070】(本発明例7)表1に示す5%Cr鋼製のねじ継手に以下の表面処理を施した。ピン表面とボックス表面に#120番のサンドを吹き付け、双方とも表面粗さを5μmとした。その双方の表面に化成処理で厚さ5μmの燐酸マンガン被膜を形成した。更にその双方の上面にアルキル基がエチルのチタンアルコキシドと、平均粒径が1.0μmの二硫化モリブデンの粉末をチタンアルコキシド1に対し二硫化モリブデン0.23の重量割合で混合し、キシレン、塩化メチレンおよびブチルアルコールの混液を分散媒として塗布した。次いで、大気中で4時間放置後に150℃の熱風を15分間吹き付けた。乾燥状態で燐酸マンガン被膜の上面に形成された被膜の組成を測定したところ、含有量は重量割合でTi−Oを骨格とする無機高分子1に対し二硫化モリブデン0.35であり、被膜厚さはピン側、ボックス側とも20μmであった。
【0071】表6に示すように、表3の25回の締め付け・締め戻しにおいて、焼き付きの発生が無く極めて良好であった。また、締め付け時の締め込み量ならびに締め込みトルクも適正であった。
【0072】(本発明例8)表1に示すCr−Mo鋼製のねじ継手に以下の表面処理を施した。ピン表面とボックス表面に#180番のサンドを吹き付け、双方とも表面粗さを4μmとした。その双方の表面に化成処理で厚さ5μmの燐酸亜鉛被膜を形成した。更にその双方の上面にアルキル基がイソプロピルのチタンアルコキシドと、平均粒径が1.2μmの二硫化モリブデンの粉末と平均粒径が1.5μmの黒鉛の粉末をチタンアルコキシド1に対し二硫化モリブデン2.77、黒鉛0.83の重量割合で混合し、キシレン、塩化メチレンおよびブチルアルコールの混液を分散媒として塗布した。次いで、大気中で3時間放置後に加湿した140℃の熱風を20分間吹き付けた。乾燥状態で燐酸亜鉛被膜の上面に形成された被膜の組成を測定したところ、含有量は重量割合でTi−Oを骨格とする無機高分子1に対し二硫化モリブデン5.0、黒鉛1.5であり、被膜厚さはピン側、ボックス側とも10μmであった。
【0073】表6に示すように、表3の25回の締め付け・締め戻しにおいて、焼き付きの発生が無く極めて良好であった。また、締め付け時の締め込み量ならびに締め込みトルクも適正であった。
【0074】(本発明例9)表1に示す炭素鋼製のねじ継手に以下の表面処理を施した。ピン表面は機械研削仕上げで表面粗さを2μmとした。ボックス表面は#180番のサンドを吹き付け、表面粗さを5μmとし、そのボックス表面に化成処理で厚さ5μmの燐酸マンガン被膜を形成した。更に、ピン表面と燐酸マンガン被膜の上面にアルキル基がエチルのチタンアルコキシドと、平均粒径が1.2μmの二硫化モリブデンの粉末と平均粒径が1.5μmの黒鉛の粉末をチタンアルコキシド1に対し二硫化モリブデン1.33、黒鉛1.0の重量割合で混合し、キシレン、塩化メチレンおよびブチルアルコールの混液を分散媒として塗布した。次いで、大気中で6時間放置し、乾燥状態でピン表面ならびに燐酸亜鉛被膜の上面に形成された被膜の組成を測定したところ、双方とも含有量は重量割合でTi−Oを骨格とする無機高分子1に対し二硫化モリブデン2、黒鉛1.5であり、被膜厚さは5μmであった。
【0075】表6に示すように、表3の25回の締め付け・締め戻しにおいて、焼き付きの発生が無く極めて良好であった。また、締め付け時の締め込み量ならびに締め込みトルクも適正であった。
【0076】(本発明例10)表1に示すCr−Mo鋼製のねじ継手に以下の表面処理を施した。ピン表面は機械仕上げのままで表面粗さを3μmとした。ボックス表面は機械研削仕上げで表面粗さを3μmとし、そのボックス表面に化成処理で厚さ10μmの燐酸亜鉛被膜を形成した。更にその上面にアルキル基がエチルのチタンアルコキシドと、平均粒径が3.5μmの二硫化モリブデンの粉末と平均粒径が3.1μmの黒鉛の粉末をチタンアルコキシド1に対し二硫化モリブデン4.0、黒鉛2.33の重量割合で混合し、キシレン、塩化メチレンおよびブチルアルコールの混液を分散媒として塗布した。次いで、大気中で6時間放置した後、乾燥状態で燐酸亜鉛被膜の上面に形成された被膜の組成を測定したところ、含有量は重量の相対値でTi−Oを骨格とする無機高分子化合物を1とすると、二硫化モリブデンが6、黒鉛が3.5であり、被膜厚さは20μmであった。
【0077】表6に示すように、表3の15回目の締め付け・締め戻し作業までは焼き付きの発生が無く良好であった。しかし、16回目の締め付け時に焼付きが発生した。なお、締め付け時の締め込み量ならびに締め込みトルクは適正であった。
【0078】(本発明例11)表1に示す炭素鋼製のねじ継手に以下の表面処理を施した。ボックス表面は機械研削仕上げで表面粗さを2μmとした。ピン表面は#180番のサンドを吹き付け表面粗さを10μmとし、そのピン表面に化成処理で厚さ10μmの燐酸カルシウム被膜を形成した。更にその上面にアルキル基がプロピルのチタンアルコキシドと、平均粒径が4.6μmの二硫化モリブデンの粉末をチタンアルコキシド1に対し二硫化モリブデン0.14の重量割合で混合し、メチルエチルケトン、塩化メチレンおよびイソブチルアルコールの混液を分散媒として塗布した。次いで、大気中で3時間放置後に加湿した150℃の熱風を30分間吹き付けた。乾燥状態で燐酸カルシウム被膜の上面に形成された被膜の組成を測定したところ、含有量は重量割合でTi−Oを骨格とする無機高分子1に対し二硫化モリブデン0.25であり、被膜厚さは25μmであった。
【0079】表6に示すように、表3の16回目の締め付け・締め戻し作業までは焼き付きの発生が無く良好であった。しかし、17回目の締め付け時に焼付きが発生した。なお、締め付け時の締め込み量ならびに締め込みトルクは適正であった。
【0080】(比較例1)表1に示す5%Cr鋼製のねじ継手に以下の表面処理を施した。ピン表面とボックス表面に#80番のサンドを吹き付け、双方とも表面粗さを10μmとした。その双方の表面にエポキシ樹脂と平均粒径が1.8μm粉末をエポキシ樹脂1に対して二硫化モリブデン1の重量割合で、トルエン、イソプロピルアルコールなどの混液を分散媒として混合し塗布した。次いで、乾燥後180℃で30分間の加熱処理を実施した。加熱処理後の被膜の組成を測定したところ、ピン側及びボックス側のいずれも、含有量は重量割合でエポキシ樹脂1に対し二硫化モリブデン1であり、被膜厚は20μmであった。
【0081】表6に示すように、12回目の締め付けで軽度の焼き付きが認められ、また、締め付け量が不足してショルダー部に所定の面圧を負荷することができなかった。そこで、所定位置まで締め込むように締め付けトルクを高めたところ、13回目の締め付けで焼き付きが発生した。
【0082】(比較例2)表1に示す炭素鋼製のねじ継手に下記の表面処理を施した。ピン表面は機械研削仕上げで表面粗さを2μmとした。ボックス表面は機械研削仕上げで表面粗さを2μmとし、そのボックス表面に厚さ2μmの溶融塩窒化層を形成し、その上に厚さ15μmの燐酸マンガン層を形成した。次いで、ポリアミドイミド樹脂と平均粒径が3.5μmの二硫化タングステン粉末をポリアミドイミド樹脂1に対し二硫化タングステン1の重量割合でキシレン、トルエンおよびイソプロピルアルコールの混液を分散剤として混合し、上記燐酸マンガン層の上面に塗布した。次いで、乾燥後180℃で30分の加熱処理を実施した。加熱処理後の燐酸マンガン層の上面に形成された被膜の組成を測定したところ、含有量は重量割合でポリアミドイミド樹脂1に対して二硫化タングステン1であり、被膜厚は35μmであった。
【0083】表6に示すように、12回目の締め付けで焼き付きは認められなかったが、締付け量が不足して、ショルダー部に所定の面圧がかからなかった。そこで、所定位置まで締込むよう締付けトルクを高めたところ、14回目の締付けで焼付きが発生した。
【0084】(比較例3)表1に示す炭素鋼製のねじ継手に下記の表面処理を施した。ボックス表面は機械研削仕上げで表面粗さを2μmとした。ピン表面は#80番のサンドを吹き付けて表面粗さを10μmとし、そのピン表面に厚さ15μmの燐酸マンガン層を形成し、その上にエポキシ樹脂と平均粒径が1.8μmの二硫化モリブデン粉末をエポキシ樹脂1に対して二硫化モリブデン1の重量割合でトルエン、イソプロピルアルコール等の混液を分散媒として混合し塗布した。次いで、乾燥後180℃で30分の加熱処理を実施した。加熱処理後の燐酸マンガン層の上面に形成された被膜の組成を測定したところ、含有量は重量割合でエポキシ樹脂1に対して二硫化モリブデン1であり、被膜厚は30μmであった。
【0085】表6に示すように、12回目の締め付けで焼き付きが認められ、しかも、締付け量が不足して、ショルダー部に所定の面圧を負荷することができなかった。
【0086】(比較例4)表1に示す5%Cr鋼製のねじ継手に下記の表面処理を施した。ピン表面は機械研削仕上げで表面粗さを2μmとした。表面粗さ2μmに機械研削仕上げを施したボックス表面に厚さ10μmのCuメッキ処理を施した。次いで、ピン表面とボックス表面の双方にAPI−Bul5A2に相当するコンパウンドグリスを単位面積(1dm2 )当たり約20gの割合で塗布した。
【0087】表6に示すように、12回目の締め付けで軽度の焼き付きが認められ、また、締め付け量が不足してショルダー部に所定の面圧を負荷することができなかった。そこで、所定位置まで締込むよう締付けトルクを高めたところ、13回目の締付けで焼付きが発生した。
【0088】(比較例5)表1に示す炭素鋼製の継手に下記の表面処理を施した。ピン表面は機械研削仕上げで表面粗さを2μmとした。#80番のサンドを吹き付け表面粗さを10μmとしたボックス表面に化成処理を施し厚さ15μmの燐酸マンガン被膜を形成した。次いで、ピン表面と燐酸マンガン被膜の上面の双方にAPI−Bul5A2に相当するコンパウンドグリスを単位面積(1dm2 )当たり約20gの割合で塗布した。
【0089】表6に示すように、8回目の締め付けから軽度の焼付きが発生したが手入れを実施して試験を継続した。しかし、11回目の締め戻し時に焼付きが認められ、12回目の締付けで焼付きが著しくなるとともに、締付け量が不足して、ショルダー部に所定の面圧を負荷することができなかった以上のように、本発明の燐酸系化成処理被膜の上にT−Oを骨格とする無機系潤滑被膜を形成したねじ継手は、従来の樹脂をバインダーとした継手やコンパウンドグリスを使用した継手に比べ、高温履歴時の耐焼付き性に優れることが判った。
【0090】
【発明の効果】本発明による炭素鋼製あるいは低合金鋼製のねじ継手は高深度、高温油井、あるいは蒸気注入油井等の400℃にも達する高温環境下の原油採掘における繰り返しの締め付け、緩め戻しの際の耐焼き付き性を著しく向上させることができる。
【出願人】 【識別番号】000002118
【氏名又は名称】住友金属工業株式会社
【出願日】 平成11年8月27日(1999.8.27)
【代理人】 【識別番号】100081352
【弁理士】
【氏名又は名称】広瀬 章一
【公開番号】 特開2001−65754(P2001−65754A)
【公開日】 平成13年3月16日(2001.3.16)
【出願番号】 特願平11−241892