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【発明の名称】 油井管用ねじ継手
【発明者】 【氏名】中筋 和行

【氏名】山本 秀男

【氏名】後藤 邦夫

【要約】 【課題】コンパウンドグリスを用いることなく、繰り返しの締め付け、緩め戻しの際のゴーリングの発生を抑制し、締め付けの際の摩擦係数が低く、低い締め付けトルクで高いシール性が得られるねじ継手を提供する。

【解決手段】少なくともピンとボックスのいずれか一方ねじ無し金属接触部の表面に、表面粗さがRmax で5〜20μmの燐酸塩化成処理被膜を形成し、更にその燐酸塩化成処理被膜の表面に平均粒径が0.005〜3μmの固体微粒子を3〜60重量%の割合で分散混合したTi−Oを骨格とする無機高分子化合物の潤滑被膜を形成する。あるいは燐酸塩化成処理被膜の表面に平均粒径が0.005〜0.4μmの固体微粒子を5〜70重量%の割合で分散混合した樹脂の潤滑被膜を形成する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 ねじ部とねじ無し金属接触部をそれぞれ有するピンとボックスとから構成されるねじ継手において、ピンとボックスの少なくともいずれか一方のねじ無し金属接触部の表面に、表面粗さがRmax で5〜20μmの燐酸塩化成処理被膜を形成し、更に該燐酸塩化成処理被膜の表面に平均粒径が0.005〜3μmの固体微粒子を3〜60重量%の割合で分散混合したTi−Oを骨格とする無機高分子化合物の潤滑被膜を形成したことを特徴とする油井管用ねじ継手。
【請求項2】 ねじ部とねじ無し金属接触部をそれぞれ有するピンとボックスとから構成されたねじ継手において、ピンとボックスの少なくともいずれか一方のねじ無し金属接触部の表面に、表面粗さがRmax で5〜20μmの燐酸塩化成処理被膜を形成し、更に該燐酸塩化成処理被膜の表面に平均粒径が0.005〜0.4μmの固体微粒子を5〜70重量%の割合で分散混合した樹脂の潤滑被膜を形成したことを特徴とする油井管用ねじ継手。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、耐焼付き性に優れた油井管用ねじ継手に関し、更に詳しくは高深度、高温油井あるいは蒸気注入油井等の劣悪環境下の原油採掘において、繰り返しの締め付け、緩め戻しに対して焼き付くことなく、かつ気密性に優れ、繰り返し使用できる油井管用ねじ継手に関する。
【0002】
【従来の技術】油井掘削時に使用するチュービングやケーシングでは一般的にねじ継手が用いられている。通常、油井の深さは2000m〜3000mであるが、近年の海洋油田などの深油井では8000m〜10000mにも達する。これらの油井管を繋ぐねじ継手には、使用環境下で油井管および継手自体の重量に起因する軸方向引張力や内外面圧力などの複合した圧力や熱が作用するため、このような環境下においても破損することなく気密性を保持することが要求される。更に、チュービングやケーシングの降下作業時には、一度締め込んだ継手を緩め、再度締め直すことがあり、API(米国石油協会)ではチュービング継手においては10回の、ケーシング継手においては3回の締め付け (メイクアップ) 、緩め戻し (ブレークアウト) を行ってもゴーリングと呼ばれる焼付きの発生が無く、気密性が保持されることが要求されている。
【0003】ところで、ねじ継手としては、通常、油井管の端部に形成した雄ねじの先端にねじ無し金属接触部を形成し、これと、ねじ継手部材の内面の雌ねじの基部に形成したねじ無し金属接触部とをはめ合わせ、締め付けることによりねじ無し金属接触部同士を当接してメタルシール部を形成した構造でねじ部やねじ無し金属接触部に表面処理を施したねじ継手が使用される。また、締め付けの際にはコンパウンドグリスを塗布して耐焼付き性と気密性の向上を図っている。
【0004】しかしながら、特にねじ無し金属接触部には、ねじ継手材料の降伏点を超えるような高面圧が作用するため、焼き付きが発生しやすく、従来から、耐焼付き性を改善した種々のねじ継手が提案されている。
【0005】例えば、特開昭61−79797号公報には、ねじ部にZn、Snなどをめっきし、メタルシール部(ねじ無し金属接触部)に金、白金などをめっきしたねじ継手が、特公平3−78517号公報には、粒径10μm以下の二硫化モリブデンを20〜90%の割合で分散混合した合成樹脂の被膜を形成した管継手が、特開平8−103724号公報には、燐酸マンガン系化成処理被膜層の上に二硫化モリブデンを含有する樹脂被膜を形成する鋼管継手の表面処理方法が、また、特開平8−105582号公報には、窒化処理層を第1層とし、鉄めっき層または鉄合金めっき層を第2層とし、その上に二硫化モリブデンを含有する樹脂被膜の第3層を形成する管継手の表面処理方法が開示されている。
【0006】しかしながら、上記公報に開示されたねじ継手は、いずれもコンパウンドグリスを用いることを前提にしている。このグリスには亜鉛、鉛、銅などの重金属粉が含有されており、ねじを繋ぎ合わせる時に塗布されていたグリスが洗い流されたり、塗布されたグリスが締め付け時に外面に溢れ出すような状態が生じた場合には環境汚染を引き起こす懸念がある。また、コンパウンドグリスの塗布作業は作業環境を悪化させると同時に作業効率をも低下させている。従って、このようなコンパウンドグリスを用いないねじ継手の開発が望まれている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】コンパウンドグリスを使用しないねじ継手として、特開平8−233163号公報、特開平8−233164号公報、特開平9−72467号公報には、二硫化モリブデンを分散混合した樹脂被膜を形成したねじ継手が提示されている。しかしながら、上記樹脂被膜は、高温環境下での再使用に際し、樹脂被膜層が劣化するという問題がある。また、コンパウンドグリスを用いる場合に比べ、ねじ継手を締め付ける際の接触面の摩擦係数が高く、大きい締め付け力が必要となるといった問題を抱えている。油井管ライン組立においては、ねじ継手の締め付け力を低減することが作業性を改善するためには重要であり、これを実現するために接触面での摩擦係数が低い潤滑性能に優れたねじ継手が求められている。
【0008】本発明の課題は、耐焼付き性と潤滑性能に優れたねじ継手を提供することにある。更に詳しくは、コンパウンドグリスを用いることなく、繰り返しの締め付け、緩め戻しの際のゴーリングの発生を抑制し、締め付けの際の摩擦係数が低く、低い締め付けトルクで高いシール性が得られるねじ継手を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決するため、粒子径が数μm程度以下の固体微粒子を用い、その固体微粒子のバインダーとして高分子化合物を用いた潤滑被膜の形成を想到し、耐焼付き性や潤滑性などの観点から、潤滑剤、バインダー、ならびに潤滑被膜形成の際の下地処理などに関する基礎的検討を行い、以下の知見を得た。
【0010】(イ)潤滑被膜に含有させる固体微粒子として、特定範囲の粒子径の固体微粒子を用いることにより、潤滑被膜の耐焼付き性および摩擦性能が向上する。具体的には、バインダーとして樹脂を用いる場合には、平均粒径が0.4μm以下の固体微粒子を用い、バインダーとして後述するTi−Oを骨格とする無機高分子化合物を用いる場合には、平均粒径が3.0μm以下の固体微粒子を用いる。
【0011】(ロ)バインダーとして樹脂を用いた場合、200℃以下の使用条件下では、24Hrを越える長時間でも耐熱性に問題は無い。しかし、400℃程度以上の高温環境下では、24Hrを越える長時間で樹脂の変質、分解、あるいは炭化が進み、バインダーとしての機能が失われ、その結果、潤滑被膜の潤滑性能が著しく低下する。従って、熱的負荷が小さいねじ継手、例えばケーシングねじ継手に形成する潤滑被膜のバインダーとして、樹脂を用いることができる。
【0012】(ハ)Si、Ti、Al等の酸化物、炭化物、窒化物等の無機化合物は、熱的に安定しているが、バインダーとしての機能が全くない。従って、被膜形成ができないため潤滑性が低い。
【0013】(ニ)チタンアルコキシド(Ti(OR)4 、R=アルキル基)はアルキル基を有するため、有機物的な特性を示し、バインダーとしての機能がある。この物質は大気中では不安定で、水分を吸収して共加水分解が起こり、分解物はお互いに結合して網目構造を有したTi−Oを骨格とし熱的に安定な無機高分子化合物に変化する。(1)式に代表的な無機高分子化合物の分子構造式を例示する。
【0014】
【化1】

【0015】(ホ)上記無機高分子化合物は400℃程度の高温環境下でも安定している。従って、固体微粒子のバインダーとしてチタンアルコキシドを混合して塗布し、加湿処理を施すことにより、固体微粒子を含有し、高温環境下においても潤滑性と耐熱性に優れたTi−Oを骨格とする無機高分子の潤滑被膜を形成させることができる。
【0016】以上の基礎検討結果を基に、上記潤滑被膜をねじ継手に形成するための適正条件を検討し、以下の知見を得た。
【0017】(ヘ)少なくともピンあるいはボックスのいずれか一方のねじ無し金属接触部に潤滑被膜を形成することにより焼付きが抑制される。
【0018】(ト)固体微粒子の含有量は、樹脂の潤滑被膜の場合には、5〜70重量%の範囲内に、Ti−Oを骨格とする無機高分子化合物の潤滑被膜の場合には3〜60重量%の範囲内とするとよい。
【0019】(チ)ねじ継手の接触面には高い面圧が作用するので、潤滑被膜を接触面に強固に固定することが必要であるが、接触面が滑らかであると潤滑被膜が剥離しやすい。従って、潤滑被膜を形成する際の下地処理として、予め化成処理にて表面粗さがRmax で5〜20μmの燐酸塩化成処理被膜を形成し、その上に潤滑被膜を形成することにより、潤滑被膜の密着性を高めることができる。
【0020】本発明は、上記の知見に基づき完成されたもので、その要旨は以下の通りである。
【0021】(1)ねじ部とねじ無し金属接触部をそれぞれ有するピンとボックスとから構成されるねじ継手において、ピンとボックスの少なくともいずれか一方のねじ無し金属接触部の表面に、表面粗さがRmax で5〜20μmの燐酸塩化成処理被膜を形成し、更に該燐酸塩化成処理被膜の表面に平均粒径が0.005〜3μmの固体微粒子を3〜60重量%の割合で分散混合したTi−Oを骨格とする無機高分子化合物の潤滑被膜を形成したことを特徴とする油井管用ねじ継手。
【0022】(2)ねじ部とねじ無し金属接触部をそれぞれ有するピンとボックスとから構成されたねじ継手において、ピンとボックスの少なくともいずれか一方のねじ無し金属接触部の表面に、表面粗さがRmax で5〜20μmの燐酸塩化成処理被膜を形成し、更に該燐酸塩化成処理被膜の表面に平均粒径が0.005〜0.4μmの固体微粒子を5〜70重量%の割合で分散混合した樹脂の潤滑被膜を形成したことを特徴とする油井管用ねじ継手。
【0023】
【発明の実施の形態】図1は本発明の油井管用ねじ継手の構成を模式的に示す概要図である。符号1はボックス、2はピン、3はねじ部、4はねじ無し金属接触部、5はショルダー部を示す。
【0024】図2は本発明に係る潤滑被膜の形成状況の一例を示すピンのねじ無し金属接触部の断面拡大図である。符号6は潤滑被膜、7は樹脂または無機高分子化合物、8は固体微粒子、9は燐酸塩化成処理被膜で、図1と同じ要素は同一の符号で示す。
【0025】図1に示すように、本発明の油井管用ねじ継手(以下、ねじ継手ともいう)は、ねじ継手部材の内面に形成されるねじ部3とねじ無し金属接触部4からなるボックス1と、油井管端部の外面に形成されるねじ部3とねじ無し金属接触部4からなるピン2とで構成される。更に、本発明のねじ継手においては、図2に示すように、ピンのねじ無し金属接触部4の表面に燐酸塩化成処理被膜層9を形成し、更にその上に固体微粒子8を分散混合した樹脂またはTi−Oを骨格とする無機高分子化合物の潤滑被膜を形成する。なお、図2は、ピンのねじ無し金属接触部に燐酸塩化成処理被膜層を形成する場合を例示したが、ピンとボックスの少なくともいずれか一方のねじ無し金属接触部に形成すればよい。
【0026】ねじ無し金属接触部(以下、単に金属接触部ともいう)はねじ部に比べ接触面圧が高く過酷な潤滑状態にあり、また、ねじ継手はピンとボックスとを相互にねじ込んで締結するため、少なくともピンとボックスのいずれかの一方の金属接触部に潤滑被膜を形成することにより耐焼付き性を向上させることができる。なお、材料強度が高く、ねじ部にも高い接触面圧が作用するねじ継手やCrやNi等の合金元素量が多い合金製のねじ継手では、焼き付きが発生しやすくなるため、金属接触部に加え更にねじ部にも潤滑被膜を形成することが望ましい。
【0027】樹脂としては、固体微粒子のバインダーとしての機能を有し、耐熱性と適度な硬さと耐摩耗性を有する材料を用いる。このような材料には、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトンなどの熱硬化性樹脂やフェノール樹脂、ポリエチレン樹脂およびシリコン樹脂などを挙げることができる。好ましくは、熱硬化性樹脂である。
【0028】無機高分子化合物としては、固体微粒子のバインダーとしての機能を有し、耐熱性と適度な硬さと耐摩耗性を有する材料を用いる。このような材料には、前記(1)式に例示する分子構造を備え、(1)式のアルキル基がメチル、エチル、イソプロピル、プロピル、イソブチル、ブチルなどのアルキル基を備えたTi−Oを骨格とする高分子化合物を挙げることができる。好ましくは、アルキル基がメチルのTi−Oを骨格とする高分子化合物である。
【0029】固体微粒子は、潤滑被膜の潤滑性を高め、耐焼付き性を向上させる作用をなす。このような作用をなす固体微粒子として、炭酸塩、ケイ酸塩、酸化物、炭化物、炭化物、窒化物、硫化物、フッ化物、黒鉛、二硫化モリブデン、ステアリン酸カルシウム、クラスターダイヤモンド、フラーレンC60等を例示することができる。炭酸塩としては、Na2CO3、CaCO3 、MgCO3 等のアルカリ金属及びアルカリ土類金属の炭酸塩が挙げられる。ケイ酸塩としては、MxOySiO2(M :アルカリ金属、アルカリ土類金属)が挙げられる。酸化物としては、Al2O3 、TiO2、CaO、ZnO 、ZrO2、SiO2、Fe2O3 、Fe3O4 、Y2O3等が挙げられる。炭化物としては、SiC 、TiC 等が、窒化物としては、TiN 、BN、AlN 、Si3N4 等が、硫化物としては、PbS 等が、フッ化物としては、CaF2、BaF2等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、また、2種以上を混合して用いてもよい。好ましくは、クラスターダイヤモンド、Al2O3 、CaCO3 、SiC 、黒鉛、二硫化モリブデンである。
【0030】無機高分子化合物の潤滑被膜に含有させる固体微粒子の平均粒径は0.005μm以上3.0μm以下とする。平均粒径が0.005μm未満では、混合する時に粒子同士が凝集し易く均一分散が困難となり、部分的に焼き付きが発生しやすくなる。また、平均粒径が3μmを超えると、ピンとボックスとの接触部の摩擦係数が大きくなると共に、耐焼付き性が低下する。好ましくは0.005μm以上、1.0μm以下、さらに好ましくは、0.005μm以上、0.5μm以下である。
【0031】樹脂の潤滑被膜に含有させる固体微粒子の平均粒径は0.005μm以上、0.4μm以下とする。平均粒径が0.005μm未満では、混合する時に粒子同士が凝集し易く均一分散が困難となり、部分的に焼き付きが発生しやすくなる。また、平均粒径が0.4μmを超えると、ピンとボックスとの接触部の摩擦係数が高くなると共に、耐焼付き性が低下する。
【0032】無機高分子化合物の潤滑被膜中の固体微粒子の含有量は3重量%以上、60重量%以下とする。上記含有量が3重量%未満では固体微粒子の量が不足するため、耐焼付き性の向上が不十分である。また、60重量%を越えると、無機高分子化合物のバインダーとしての機能が低下し固体微粒子を被膜として保持できなくなり、繰り返し使用中に被膜の剥離が著しくなり、焼付きが発生する。好ましくは上記含有量は5重量%以上、50重量%以下であり、更に好ましくは10重量%以上、30重量%以下である。
【0033】樹脂の潤滑被膜中の固体微粒子の含有量は5重量%以上、70重量%以下とする。上記含有量が5重量%未満では固体微粒子の量が不足するため、耐焼付き性の向上が不十分である。また、70重量%を越えると、樹脂のバインダーとしての機能が低下し固体微粒子を被膜として保持できなくなり、繰り返し使用中に被膜の剥離が著しくなり、焼き付きが発生する。好ましくは上記含有量は10重量%以上、60重量%以下であり、更に好ましくは15重量%以上、40重量%以下である。
【0034】潤滑被膜の厚さは、5μm以上、30μm以下とするのが望ましい。潤滑被膜に含まれる固体微粒子は高い面圧を受けて、相対する面も含めた接触面全体に拡がり優れた耐焼付き性を発揮するものであるが、潤滑被膜の膜厚が5μm未満では、固体微粒子の拡散量が小さく、潤滑性向上の効果が少ない。一方、膜厚が30μmを越えると、上記効果は飽和する一方、締め付け量が不十分となり気密性が低下するといった問題や気密性を維持するために面圧を高め、焼き付きが発生しやすくなるといった問題がある。特に、無機高分子化合物の潤滑被膜は比較的硬質で変形しにくく、膜厚が過大になると剥離しやすい。更に好ましくは膜厚は5μm以上、15μm以下である。
【0035】潤滑被膜を形成する際の下地処理として、予め化成処理にて燐酸塩被膜を形成する。燐酸塩化成処理被膜は継手の材料表面に化学反応により形成された反応層で、その表面は微細な結晶粒子が林立した構造をなす。従って、その層の下側の材料との密着性は極めて高く、また、その層の上に形成される潤滑被膜を捕捉するいわゆるアンカー効果が高まり、潤滑被膜の密着性は向上し潤滑被膜の剥離が阻止される。
【0036】燐酸塩化成処理被膜としては、燐酸マンガン、燐酸亜鉛、燐酸カルシウムおよび燐酸亜鉛カルシウムなどの化成処理被膜を挙げることができる。これらの結晶の幾何学的形態はそれぞれ異なり、燐酸マンガンの結晶が最も繊細で絨毯のように林立している。従って、アンカー効果の向上の観点から、燐酸マンガン被膜とするのが望ましい。
【0037】燐酸塩化成処理被膜の表面粗さはRmax で5μm以上、20μm以下とするのが望ましい。表面粗さがRmax 5μm未満ではアンカー効果が小さく、潤滑被膜が剥離しやすい。一方、Rmax 20μmを越えると締め付け・締め戻し時に粗さの凸部に形成された潤滑被膜が破れて焼付きが発生しやすい。より好ましい表面粗さは5μm以上10μm以下である。なお、燐酸塩化成処理被膜を形成しない、相対する面の表面粗さは燐酸塩化成処理被膜の表面粗さ未満にするのがよい。なお、燐酸塩化成処理被膜を形成する際の下地の表面粗さは特に限定しないが、3μm以上15μm以下とするとよい。
【0038】本発明のねじ継手は、従来、メークアップ前に塗布していたコンパウンドグリスなどの潤滑剤を一切使用することなく耐ゴーリング性を著しく改善することができる。
【0039】なお、本発明のねじ継手は、潤滑被膜中に防錆添加剤や腐食防止剤を添加し、耐焼付き性を維持しながら錆の発生を防止することができる。防錆添加剤や腐食防止剤は公知のものを使用することができる。
【0040】次に、本発明に係る潤滑被膜の形成方法を無機高分子化合物の潤滑被膜を形成する例で説明する。
【0041】本発明に係る潤滑被膜の形成においては、先ずピンとボックスの少なくともいずれか一方の金属接触部の表面に化成処理を施して燐酸塩化成処理被膜を形成し、次いで、チタンアルコキシド(Ti(OR)4 、R:アルキル基)と固体微粒子とに分散媒を混合し、これらを燐酸塩化成処理被膜の上に塗布し、更に、加湿処理を施して共加水分解させて、Ti−Oを骨格とし、固体微粒子を含有した無機高分子化合物の潤滑被膜を形成する。なお、樹脂の潤滑被膜を形成する場合には、例えば熱硬化性樹脂と固体微粒子とに分散媒を加えて混合し、これらを燐酸塩化成処理被膜の上に塗布することにより潤滑被膜を形成することができる。なお、樹脂の潤滑被膜の形成の際には、上記加湿処理は必要としない。
【0042】上記燐酸塩化成処理被膜の形成は、公知の方法で行うことができ、その化成処理被膜の表面粗さは、化成処理液への浸漬時間や化成処理液の温度を調節することにより調整することができる。すなわち、浸漬時間を短く、かつ、処理液温度を低くすることにより、表面粗さを小さくし、逆に、浸漬時間を長くし、かつ、処理液温度を高くすることにより表面粗さを大きくすることができる。
【0043】チタンアルコキシドとしては、アルキル基がメチル、エチル、イソプロピル、プロピル、イソブチル、ブチルなどのアルキル基を備えたチタンアルコキシドを用いることができる。
【0044】チタンアルコキシドの分散剤としては、キシレン、塩化メチレン、ブチルアルコールおよびメチルエチルケトンなどの低沸点液を単独にあるいは2種類以上混合して用いることができる。
【0045】なお、樹脂の分散剤としては、キシレン、トルエン、イソプロピルアルコールなどの低沸点液を単独にあるいは2種類以上混合して用いることができる。
【0046】加湿処理は、大気中に所定時間放置することにより行うことができるが、湿度が70%以上の雰囲気下で行うのが望ましい。更に、加湿処理後に加熱処理を行うことが望ましい。加熱処理により共加水分解が促進され、加水分解物であるアルキル物質の被膜内からの排出を促進することができ、被膜の密着性が強固となり、耐焼付き性が向上する。また、加熱は分散媒が蒸発した後に行うことが好ましい。加熱温度はアルキル物質の沸点に近い100〜200℃の温度とするのがよく、熱風を当てるとより効果的である。
【0047】また、本発明は、燐酸塩化成処理被膜を形成する際に、予め燐酸塩化成処理被膜を形成するねじ無し金属接触部に下地処理としてブラスティング加工を施し、該ねじ無し金属接触部の表面粗さをRmaxで3〜15μmにするのが望ましい。ブラスティング加工を施すことにより、表面に活性な新生面が現れ、燐酸塩化成処理被膜の密着性が強固になり燐酸塩化成処理被膜の耐剥離性が向上する。ブラスティング加工は、公知のサンドブラスト法、ショットブラスト法やグリッドブラスト法などでよく、サンド、ショット、グリッドやカットワイヤーなどの硬質材を高速で吹き付ける方法により行うことができる。
【0048】
【実施例】(実施例1)図3に示す構成のブロック10とリング11を有する摩擦試験機を用い、ブロックに各種の潤滑被膜を形成し、ねじ継手を締め付ける際のねじ無し金属接触部におけるピンとボックスとの摺動をそれぞれリングとボックスとで模擬した試験を表1に示す条件で行い、ブロックとリングとの摺動の際の摩擦特性ならびに耐焼付き性を評価した。リングとブロックは共に炭素鋼製で、その化学組成を表2に示す。なお、リング一回転当たりの摺動距離は外径127mmの管に相当し、ブロックとリングの接触面には実継手並の高面圧を付与した。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】

【0051】リングは機械研削仕上げのままで表面粗さをRmax で3μmとした。ブロックは機械研削仕上げで表面粗さをRmax で3μmとした後、その表面に化成処理にて表面粗さが15μmの燐酸マンガン被膜を形成し、更にその上に固体微粒子を30重量%含有し、厚さ10μmの樹脂または無機高分子化合物の潤滑被膜を形成した。
【0052】固体微粒子としては、平均粒子径が5nmのクラスターダイヤモンド、33nmのAl23、0.12μmのCaCO3、0.4μmのSiC、3μmの黒鉛、5μmのステアリン酸ナトリウムの各粉末をそれぞれ単独に用いた。
【0053】樹脂の潤滑被膜の形成に際しては、ポリアミドイミド樹脂と上記固体微粒子とを混合し、キシレン、トルエン、イソプロピルアルコールの混液を分散媒として塗布した。次いで、乾燥後180℃で30分の加熱処理を実施した。
【0054】無機高分子化合物の潤滑被膜の形成に際しては、アルキル基がメチルのチタンアルコキシドと上記固体微粒子とを混合し、キシレン、塩化メチレン、ブチルアルコールの混液を分散媒として塗布した。次いで大気中で4時間放置した。
【0055】なお、比較例として、厚さ15μmの燐酸マンガン被膜を形成したブロックにコンパウンドグリス(API−Bul5A2に相当)を塗布した条件での試験、ならびに上記燐酸マンガン被膜を形成したのみでコンパウンドグリスを塗布しない条件による試験も併せて実施した。上記摩擦試験機で計測した摩擦係数を表3に示す。
【0056】
【表3】

【0057】表3に示すように、固体微粒子の粒子径を本発明の構成範囲とした試験No.1〜5、7〜10の本発明例は、コンパウンドグリスを使用した試験No.13の比較例に対し、摩擦係数が同じあるいは小さく、コンパウンドグリス塗布と同等以上の優れた潤滑性を有することが分かった。試験No.6、11、12の比較例は、粒子径が本発明の構成範囲外であり、摩擦係数が試験No.13の比較例に比べ高く不良であった。なお、比較例14は、摩擦係数が極めて高く、リング回転数が4回で焼き付きが発生した。比較例14を除いては、リング回転数が40回までは焼き付きの発生は認められなかった。
【0058】(実施例2)実施例1と同様に、摩擦試験機を用い、ブロックとリングの摩擦特性ならびに耐焼付き性を調査した。
【0059】リングは機械研削仕上げのままで表面粗さをRmax で3μmとした。ブロックは機械研削仕上げで表面粗さをRmax で3μmとした後、その表面に化成処理にて表面粗さが3〜40μmの燐酸マンガン被膜を形成し、更にその上に粒子径が0.4μmのSiCの粉末を30重量%含有し、厚さ10μmの無機高分子化合物の潤滑被膜を形成した。
【0060】無機高分子化合物の潤滑被膜の形成に際しては、アルキル基がメチルのチタンアルコキシドと上記SiCの粉末とを混合し、キシレン、塩化メチレン、ブチルアルコールの混液を分散媒として塗布した。次いで大気中で4時間放置した。
【0061】上記摩擦試験機で計測した摩擦係数と焼き付き発生までのリング回転数を表4に示す。
【0062】
【表4】

【0063】表4に示すように、試験No.2〜5の本発明例は、摩擦係数が試験No.1の比較例に比べ小さく、リング回転数が20回までは焼き付きの発生は認められなかった。試験No.1の比較例は摩擦係数が大きく、リング5回転で焼き付きが発生した。試験No.6の比較例はリング20回転目で焼き付きが発生した。
【0064】(実施例3)表1に示す化学組成の炭素鋼製のねじ継手(外径:7インチ、肉厚:0.408インチ)のピンとボックスのいずれか一方のあるいは双方のねじ部ならびにねじ無し金属接触部の表面に、表5に示す各種の燐酸塩化成処理被膜と無機高分子化合物の潤滑被膜の形成の表面処理を施した。なお、以下、ピンならびにボックスのねじ部と金属接触部の表面を、それぞれピン表面、ボックス表面という。
【0065】
【表5】

【0066】上記表面処理は、いずれも機械研削仕上げで表面粗さを3〜5μm程度としたピン表面とボックス表面のいずれか一方または双方に、表5に示すように、表面粗さが5〜10μmの燐酸亜鉛または燐酸マンガンの被膜を化成処理にて第1層として形成し、更にその被膜の上面に、アルキル基がメチルのチタンアルコキシドと平均粒径が3μmの黒鉛粉末あるいは0.12μmのCaCO3 粉末または5nmのクラスターダイヤモンド粉末とを潤滑被膜形成後の乾燥状態で固体微粒子の含有量が2〜65重量%になるように混合し、キシレン、塩化メチレン、ブチルアルコールの混液を分散媒として塗布した後、大気中で4時間放置して潤滑被膜を第2層として形成する方法で実施した。潤滑被膜の厚さは5〜15μmとした。
【0067】次いで、表面処理を施したねじ継手を用い、表6に示す要領で最大20回の締め付け・締め戻しの繰り返し作業を行い、焼き付きの発生状況を調査した。すなわち、表6に示すように、1〜10回目、12〜15回目および17〜20回目は常温にて締め付け・締め戻しを行い、一方、11回目および16回目は常温にて締め付け後400℃で24時間の加熱処理を行い、その後冷却して常温で締め戻しを実施した。締め付け速度と締め付けトルクの条件を表7に示す。
【0068】
【表6】

【0069】
【表7】

【0070】表8に焼き付き発生状況を焼き付き発生無し:○、焼き付き発生有り:×で示す。
【0071】
【表8】

【0072】表8に示すように、試験No.1〜8の本発明例では、表6に示す20回の締め付け・締め戻しにおいて焼き付きの発生が認められず極めて良好であった。また、締め付け時の締め込み量ならびに締め込みトルクも適正で良好であった。試験No.9、10の比較例は、黒鉛の含有量が本発明の構成条件範囲外であり、それぞれ16回目と20回目の締め付け時に焼き付きが発生した。
【0073】(実施例4)表1に示す化学組成の炭素鋼製のねじ継手(外径:7インチ、肉厚:0.408インチ)のピン表面とボックス表面のいずれか一方あるいは双方に表9に示す各種の燐酸塩化成処理被膜と樹脂潤滑被膜の形成の表面処理を施した。
【0074】
【表9】

【0075】上記表面処理は、いずれも機械研削仕上げで表面粗さを3〜5μm程度としたピン表面とボックス表面のいずれか一方または双方に、表9に示すように、表面粗さが5〜10μmの燐酸亜鉛または燐酸マンガンの被膜を化成処理にて第1層として形成し、更にその被膜の上面に、ポリアミドイミド樹脂と平均粒径が0.4μmのSiC粉末あるいは0.12μmのCaCO3 粉末または5nmのクラスターダイヤモンド粉末の固体微粒子とを潤滑被膜形成後の乾燥状態で固体微粒子の含有量が4〜75重量%になるように混合し、キシレン、トルエン、イソプロピルアルコールの混液を分散媒として塗布して乾燥させた後、180℃で30分間の加熱処理をおこない樹脂の潤滑被膜を第2層として形成する方法で実施した。潤滑被膜の厚さは5〜15μmとした。
【0076】次いで、表面処理を施したねじ継手を用い、表10に示す要領で最大20回の締め付け・締め戻しの繰り返し作業を行い、焼き付きの発生状況を調査した。
【0077】
【表10】

【0078】すなわち、表10に示すように、1〜10回目、12〜15回目および17〜20回目は常温にて締め付け・締め戻しを行い、一方、11回目および16回目は常温にて締め付け後200℃で24時間の加熱処理を行い、その後冷却して常温で締め戻しを実施した。締め付け速度と締め付けトルクの条件は表7と同様である。
【0079】表11に焼き付き発生状況を焼き付き発生無し:○、焼き付き発生有り:×で示す。
【0080】
【表11】

【0081】表11に示すように、試験No.1〜8の本発明例では、表10に示す20回の締め付け・締め戻しにおいて焼き付きの発生が認められず極めて良好であった。また、締め付け時の締め込み量ならびに締め込みトルクも適正で良好であった。試験No.9、10の比較例は、SiCの含有量が本発明の構成条件範囲外であり、それぞれ11回目と14回目の締め付け時に焼き付きが発生した。
【0082】
【発明の効果】本発明の固体微粒子を含有する無機高分子化合物の潤滑被膜を形成したねじ継手は、摩擦係数が小さいため締め付けトルクを低下させることができ、400℃の加熱工程を含む繰り返しの締め付け・締め戻しの際の耐焼付き性が著しく向上する。また、本発明の固体微粒子を含有する樹脂の潤滑被膜を形成したねじ継手は、摩擦係数が小さいため締め付けトルクを低下させることができ、200℃の加熱工程を含む繰り返しの締め付け・締め戻しの際の耐焼付き性が著しく向上する。従って、上記無機高分子化合物の潤滑被膜を形成したねじ継手は高温環境下の原油採掘に、樹脂の潤滑被膜を形成したねじ継手は200℃程度の環境下の原油採掘に適する。
【出願人】 【識別番号】000002118
【氏名又は名称】住友金属工業株式会社
【出願日】 平成11年8月27日(1999.8.27)
【代理人】 【識別番号】100081352
【弁理士】
【氏名又は名称】広瀬 章一
【公開番号】 特開2001−65753(P2001−65753A)
【公開日】 平成13年3月16日(2001.3.16)
【出願番号】 特願平11−241891