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【発明の名称】 磁性流体シールおよびこれを用いたスピンドルモータ、並びにこのスピンドルモータを用いたディスク装置
【発明者】 【氏名】大澤 晴繁

【要約】 【課題】従来の磁性流体シールは、軸回転型でシール部は固定されているタイプでは高速回転に対応できていたが、軸固定型でシール部が回転するタイプでは、回転遠心力により磁性流体が飛散し、高速回転ではシール性能が維持できなかった。

【解決手段】そこで本発明では、上部ヨーク板30の内周先端側の上下に回転時に磁性流体との相互作用により浮上し自由に回転可能な環状の上部浮動ブッシュ35および下部浮動ブッシュ36を設けた。モータ回転時、これらの浮動ブッシュは、その慣性による滑りのために上部ヨーク板30の回転より遅い回転数で回り、これにつられてこれら浮動ブッシュに近接する磁性流体33は、この浮動ブッシュに近い速度で回転することになる。その結果、従来の磁性流体シールに比べて磁性流体の回転速度は相対的に低下し、シール部を構成する磁性流体に作用する回転遠心力も低下し、モータの高速回転に対してより安定な磁性流体シールを実現できた。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 固定された軸体を有する回転体に使用される磁性流体シールであって、該軸体は上下方向の軸心を有しており、(1)ほぼ同一の円環内径と円環外径と厚さとを有しかつ軸心にほぼ直角に保持された円環状の磁性体よりなる上部ヨーク板および下部ヨーク板と、これら両ヨーク板の間に密着固定され前記ヨーク板より大きい円環内径およびほぼ同一の円環外径を有する円環状磁石と、により構成され、かつ前記両ヨーク板の内周端部は軸体外周面に微小間隔を隔てて対向し、さらに前記上部ヨーク板の内周側円環状下面と前記下部ヨーク板の内周側円環状上面および前記円環状磁石の内周面により形成された円環状の凹部を有するシール部本体と、(2)少なくとも、前記上部ヨーク板の前記内周端部とこれに対向する軸体外周面との間に保持された磁性流体と、(3)前記円環状凹部内にあり、前記軸体の表面、前記上部ヨーク板の内周側円環状下面、前記下部ヨーク板の内周側円環状上面および前記環状磁石の内周面からそれぞれ微小間隔を隔てて配置され、かつその一部が前記磁性流体に接触する状態で回転自在に保持された環状の下部浮動ブッシュと、(4)前記上部ヨーク板の上部環状面から微小間隔を隔てて位置し、かつその一部が前記磁性流体に接触する状態で回転自在に保持された環状の上部浮動ブッシュと、(5)前記上部浮動ブッシュの脱落を防止するために、前記上部浮動ブッシュの上部に近接して設けられた上部カバーとにより構成されることを特徴とする磁性流体シール。
【請求項2】 前記上部ヨーク板は、半径方向中間部で軸心にほぼ直角に保持された上半部円環状板および下半部円環状板とこれらの環状板を軸心方向で繋ぐ軸心に平行な円筒状部分により構成され、前記円筒状部分で下方向への一つの段差を形成することにより一体として連結されていることを特徴とする、請求項1に記載した磁性流体シール。
【請求項3】 前記上部浮動ブッシュおよび/または前記下部浮動ブッシュは、これらの内周面が軸心方向について前記上部ヨーク板に近付くほど前記浮動ブッシュ内周面から軸体外周面に至る距離が拡大する傾斜部を有することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載した磁性流体シール。
【請求項4】 前記上部浮動ブッシュもしくは前記下部浮動ブッシュは、上部ヨーク板内周端部と軸体表面との間に位置する円筒状垂下部もしくは突起部を有することを特徴とする、請求項1ないし請求項3に記載した磁性流体シール。
【請求項5】 前記上部浮動ブッシュもしくは前記下部浮動ブッシュの前記円筒状垂下部もしくは突起部には、軸心に対してほぼ直角方向の複数の磁性流体流通穴を有することを特徴とする、請求項4に記載した磁性流体シール。
【請求項6】 前記上部浮動ブッシュおよび/または前記下部浮動ブッシュの上部ヨーク板対向面には、当該浮動ブッシュの円環形状の内周円に対応して複数の溝を有することを特徴とする請求項1ないし請求項5に記載した磁性流体シール。
【請求項7】 固定された上下方向に軸芯を有する軸体と、前記軸体に対して上部および下部の2つの軸受により回転自在に支持されたロータハブとの間に設けられ、かつ前記上部軸受の軸心上方に隣接して設けられた請求項1ないし請求項6に記載した磁性流体シールを有するスピンドルモータ。
【請求項8】 回転する軸体を有する回転体に使用される請求項1ないし請求項6に記載した磁性流体シール。
【請求項9】 請求項8に記載した磁性流体シールを有するスピンドルモータ。
【請求項10】 ハウジングと、当該ハウジング内部に固定されたスピンドルモータと、当該スピンドルモータの回転部に装着された円板状の記録媒体と、当該記録媒体の所要の位置に情報を書き込みまたは読み出すための情報アクセス手段とを有するディスク装置であって、前記スピンドルモータは、請求項7または請求項9に記載したスピンドルモータであることを特徴とするディスク装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、軸体の上部間隙を介してモータ内部のオイル粉塵等がモータ外部に漏れることを防止する磁性流体シール、およびこの磁性流体シールを有するスピンドルモータ、並びにこのスピンドルモータを用いたディスク装置に関する。
【0002】
【従来の技術】図14に、一般的なディスク装置の内部構成を模式図として示す。ハウジング71の内部には、各種情報をデジタル形式で高密度に記憶するディスク板73が回転自在に装着されたモータ72が設けられ、ディスク板73に対して情報を読み書きするヘッド移動機構77が配置されている。このヘッド移動機構は、ディスク板上の情報を読み書きするヘッド76、このヘッドを支えるアーム75、およびヘッドおよびアームをディスク板上の所要の位置に移動させるアクチュエータ部74により構成されている。近年ディスク板に記憶できる情報密度は飛躍的に向上し、ディスク板の設置環境は、塵・埃等が極度に少ないクリーンな環境が必須とされている。従ってハウジング71の内部は、外気を遮断した高度にクリーンな空間を形成すると共に、その内部構成部品であるヘッド移動機構77やモータ72は、その内部のオイルミスト等が外部に漏れない機構が必須要件となっている。この様な要請に対して、回転部を構成する軸体および軸受部から生じるオイルミスト等を外部に漏らさない機構部品として、磁性流体シールが用いられている。
【0003】図13に、かかる磁性流体シールを有するスピンドルモータの一例を、モータの軸心を通る平面により切断した断面図にて示す。ここで軸体1は固定軸を形成し、上下2つの軸受2および2’により回転自在にとりつけられたロータハブ4が、固定部を構成するブラケット7上に取り付けられたステータコア10とコイル9を内側に包み込む、いわゆるアウターロータ形状を有している。磁性流体シール部3は、上方軸受の上側に位置し、軸体1とロータハブ4との間を埋める形で嵌め込まれている。
【0004】この磁性流体シール部3の部分のみを拡大して模式的に図示した従来の磁性流体シールの構造を図10に示す。なお磁性流体シールは図上軸心を示す一点鎖線に対して回転対称形状を有しているため、以降説明する図では、軸心を通る平面で切断した断面図の右側のみを図示している。
【0005】図10で示す磁性流体シールは通常P型と呼ばれており、円環状の上部ヨーク板30および下部ヨーク板31と、これらに挟まれた円環状磁石32とからなり、上下両方のヨーク板の軸方向内周部とこれに対向する軸体1の外周面との間に磁束が集中する微小間隙部を設け、これに磁性流体33を保持することでシール効果を実現したものである。また図11は通常Z型と呼ばれる従来の磁性流体シール構造を示しており、上部ヨーク板30の軸方向内周側に1段の段差34を有し、上部ヨーク部の内周端のみに磁性流体33を保持する構造を有している。
【0006】近年のコンピュータ処理の高速化要請とデータ処理の大容量化要請に伴い、コンピュータに使用される情報記録用のディスク装置は、ディスクの高記録密度化・多段積層化が求められてきている。これに呼応してディスク装置に使用されるモータも、多段ディスクに耐える安定な駆動力と高速回転が求められている。この様な高負荷・高速回転に対して安定に動作するモータを実現するためには、モータの軸体を固定し、かつロータが固定子コイルの外側を覆う形状のいわゆるアウターロータ型のモータ構造を採用する必要が生じた。
【0007】他方ディスクの高記録密度化等に対応して、ディスク装置内部はより一層の清浄化が求められている。従ってモータ内部の軸受に使用される潤滑オイル等の微粒子が含まれたガス(オイルミスト)等が、ディスク装置内部に流れ込むことを防止する磁性流体シールも、必須部品となっている。加えて磁性流体シールの回転数も1万rpmを超え2万rpm近くまで安定に機能することが求められている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】これに対して図10および図11で示した従来の磁性流体シールは、通常磁性流体シール側は固定され軸側が回転する、いわゆる軸回転タイプが主流であった。このタイプの磁性流体シールでは、回転遠心力が直接磁性流体に作用することが少ないため、磁性流体の飛散する危険性が少ないことから、1万rpm以上の高速回転に安定に対応できる構造を容易に実現できた。しかしこのままの構造を、軸固定タイプの磁性流体シールに適用すると、図12に示す斜線部分331および332の磁性流体33が数千rpm程度の回転遠心力でも飛散してしまい、シール機能を果たさなくなる。
【0009】この軸固定タイプの磁性流体シールの回転耐力を向上させる方策として以下の3つの対策が考えられる。
【0010】1)ヨーク板軸方向内周部と軸体外周面との間の微小間隙部での磁性流体の保持力を強める。具体的には、環状磁石32の磁力を強化すること、磁性流体の飽和保持力を強化すること、さらには微小間隙部の軸方向の幅を広くしたり間隙を狭めること等により実現することができる。
【0011】2)通常軸対側面であるラジアル面でシールを行うのに対し、これを回転部の軸方向側面であるスラスト面でシールを行う構造に変更する。そして回転部外周側に袋小路部を設け、高速回転時には遠心力によりここに磁性流体を集め、シールする構造とする。
【0012】3)磁性流体を軸受の潤滑材としても使用し、その飛散防止のために、軸上端部に対向するロータ部内面に螺旋状に溝加工した特殊な粘性シールを配置し、その回転動圧効果で、外部に漏れ出そうとする磁性流体を押し戻すことによりシールする。
【0013】しかしこれらの方法では、いずれも、磁性流体の粘性抵抗が大きくなることにより磁気流体シールの回転に必要なトルクが増大したり、コストが高くなったり、さらにはシール部の軸方向厚さが増大する等の不都合が生じていた。
【0014】従って本発明の目的は、比較的簡単な構造で高速回転にも安定にシール機能を発揮できる軸固定型の磁性流体シールを提供するところにある。より具体的には、モータ回転時に磁性流体に作用する遠心力を小さくし、より高速回転に対応できる磁性流体シールを実現する。
【0015】
【課題を解決するための手段】そこで本発明では、磁性流体シール部を、(1)ほぼ同一の円環内径と円環外径と厚さとを有しかつ軸心にほぼ直角に保持された円環状の磁性体よりなる上部ヨーク板および下部ヨーク板と、これら両ヨーク板の間に密着固定され前記ヨーク板より大きい円環内径およびほぼ同一の円環外径を有する円環状磁石と、により構成され、かつ前記両ヨーク板の内周端部は軸体外周面に微小間隔を隔てて対向し、さらに前記上部ヨーク板の内周側円環状下面と前記下部ヨーク板の内周側円環状上面および前記円環状磁石の内周面により形成された円環状の凹部を有するシール部本体と、(2)少なくとも、前記上部ヨーク板の内周端部とこれに対向する軸体外周面との間に保持された磁性流体と、(3)前記円環状凹部内にあり、前記軸体の表面、前記上部ヨーク板の内周側環状下面、前記下部ヨーク板の内周側環状上面および前記環状磁石の内周面からそれぞれ微小間隔を隔てて配置され、かつその一部が前記磁性流体に接触する状態で回転自在に保持された環状の下部浮動ブッシュと、(4)前記上部ヨーク板の上部環状面から微小間隔を隔てて位置し、かつその一部が前記磁性流体に接触する状態で回転自在に保持された環状の上部浮動ブッシュと、(5)前記上部浮動ブッシュの脱落を防止するために、前記上部浮動ブッシュの上部に近接して設けられた上部カバーとにより構成している。
【0016】これは従来の図10に示すP型シール構造に加えて、上部ヨーク板内周側上下面に隣接して自由に回転できる上部および下部の浮動ブッシュ35および36を配し、回転時に上部ヨーク板内周端部301と軸体表面との間の磁性流体33との相互作用により上部および下部浮動ブッシュ35および36を浮遊状態に保つ。磁性流体33は、モータ回転時には、軸体表面付近ではほぼ静止しているが、上部ヨーク板内周端部301付近ではモータ回転速度にほぼ一致する速度で流れており、浮動ブッシュ35および36はこれらの中間の速度でゆっくり回転する。従って浮動ブッシュに接する磁性流体部分は、モータ回転よりも遅い速度で回り、浮動ブッシュがない場合に比べて磁性流体にかかる遠心力が低下する。加えて浮動ブッシュの内周壁面が磁性流体の遠心力による飛散防止の壁となり、モータの高速回転に対して一層安定な磁性流体シール部を実現できる。
【0017】また本発明では、上部ヨーク板は、半径方向中間部で軸心にほぼ直角に保持された上半部円環状板および下半部円環状板とこれらの環状板を軸心方向で繋ぐ軸心に平行な円筒状部分により構成され、該円筒状部分で下方向への一つの段差を形成することにより一体として連結されている。
【0018】これは従来の図11に示すZ型シール構造に加えて、図1または図2に示す如く、上部ヨーク板内周側上下面に隣接して自由に回転できる浮動ブッシュ35および36を配し、回転時に上部ヨーク板内周端部と軸体表面との間の磁性流体33との相互作用により浮動ブッシュ35、36を浮遊状態に保つ。そして前記したP型シール構造の場合と同様に、磁性流体の飛散防止効果を実現する。
【0019】なおここで用いられる浮動ブッシュには、ナイロン、ポリカーボネイトまたはテフロン等の非磁性材が使用される。特に図1の構成では、浮動ブッシュとその周辺部材であるヨーク板や磁石等との接触による振動等の弊害を最小限に押さえるために、浮動ブッシュにはテフロン等の軽量でかつ摩擦係数の小さい材料が使用される。他方図2の如く比較的多量の磁性流体を使用して浮動ブッシュを包み込む構造で浮動ブッシュに浮力を生じさせる場合には、浮動ブッシュには磁性流体の比重(通常約1.2)と同等か少し軽い材料であるナイロン(比重は約1.1)またはポリカーボネイト(比重は約1.2)が使用される。
【0020】さらに本発明では、図2に示す如く、上部浮動ブッシュ35および/または下部浮動ブッシュ36は、これらの内周面が軸心方向について上部ヨーク板内周端部301に近付くほど該内周面から軸体外周面に至る距離が拡大する傾斜部を有している。モータ回転の遠心力により外周方向に流される磁性流体33は、この傾斜部351および361により上部ヨーク板内周端部301に向う流れをつくり、磁性流体の飛散を防止している。さらにこの傾斜部の傾斜度合いにより、浮動ブッシュの浮上量を自動的に調整することも可能になる。
【0021】また本発明では、図3に示す如く、上部浮動ブッシュ35もしくは下部浮動ブッシュ36は、上部ヨーク板内周端部301と軸体表面との間に位置する円筒状垂下部353もしくは突起部を有している。この垂下部により、上部ヨーク板内周端部301と軸体表面との間での磁性流体の保持力が高められ、回転遠心力による磁性流体の飛散を防止している。なお、下部浮動ブッシュ36から円筒状突起物を設けても良い。
【0022】さらに本発明では、上部浮動ブッシュ35もしくは下部浮動ブッシュ36の円筒状垂下部もしくは突起部353には、軸心に対してほぼ直角方向の複数の磁性流体流通穴を有している。即ち図3の矢印αから上部浮動ブッシュを見た場合に、例えば、その円筒面展開図である図4に示す丸穴354を有する。この穴により、磁性流体への摩擦抵抗力を高めることによる磁性流体への保持力向上と、回転時に磁性流体内部に混入する気泡がこの穴を通じて逃げることができるようにしている。なお穴の形状や個数は、その時使用される磁性流体の粘性やモータの定常回転数等により適宜選択すれば良い。また、下部浮動ブッシュ36に設けた円筒状突起物に同様に丸穴354を設けても良い。
【0023】そして本発明では、図7から図9で示す如く、上部浮動ブッシュおよび/または前記下部浮動ブッシュの上部ヨーク板対向面には、当該浮動ブッシュの円環形状の内周円に対応して複数の溝を有している。回転遠心力で上部ヨ−ク板30の上下面と上部浮動ブッシュ35および下部浮動ブッシュ36との間の微小間隙を通じて、円周外方向に拡散しようとする磁性流体を、この溝により生じる半径内方向の動圧により押し戻す機能を果たす。これにより回転遠心力に対抗する能力を高めることができる。
【0024】この溝は、図6に示す如く外周端部に至る形状を有する場合や、図7に示す如く外周端部に至らないで終結している場合等、種々の形状が可能である。また図8に示す如く、螺旋状に湾曲した溝でも良い。なおこれらの溝は、モータ回転に対して半径内方向に磁性流体の動圧が生じる様に浮動ブッシュ面に形成される。従って上部浮動ブッシュの下面と下部浮動ブッシュの上面とでは、溝の形成方向は逆になる。
【0025】さらに本発明では、固定された上下方向に軸芯を有する軸体と、前記軸体に対して上部および下部の2つの軸受により回転自在に支持されたロータハブとを有するスピンドルモータの、軸体とロータハブとの間に設けられ、かつ上部軸受の軸心上方に隣接して設けられた上記磁性流体シールを有するスピンドルモータを構成する。これによって高速回転でもシール効果の高いスピンドルモータを実現できる。
【0026】以上の発明は、固定した軸体を有する回転体に使用する磁性流体シールとしてその構成を詳述したが、更に本発明では、そのままの磁性流体シールの構造を、軸体が回転する回転体にも適用することができる。これによって従来のP型またはZ型シール構造に比べて飛躍的に高速回転する場合でも適用可能な磁性流体シールおよびこれを用いたスピンドルモータを提供することができる。
【0027】また本発明では、上記磁性流体シールを有するスピンドルモータにより構成されるディスク装置を実現する。このスピンドルモータは高速回転でも、モータ内部のオイルミスト等で汚染された空気を安定してシールする。これにより高速に読み書き可能で、かつディスク装置内部のクリーンな状態を長期間安定に維持できる長寿命のディスク装置を提供することができる。
【0028】
【発明の実施の形態】本発明は、図10(P型)または図11(Z型)で示される従来の磁性流体シール構造に加えて、例えば図2に示す如く、軸体1の表面との間で磁性流体33を保持する上部ヨーク板30の内周端部301の両側に、モータ回転に対応して磁性流体33から浮上する回転自在な上部および下部の浮動ブッシュ35および36を設けた。この浮動ブッシュは、回転慣性があるため、モータと同じ速度で回転するヨーク板に対して滑りを生じ、モータより低い回転状態で留まる。従って磁気シール部を構成する大部分の磁性流体も、この浮動ブッシュの回転に影響されて、浮動ブッシュがない場合に比べて低速で回転することになる。これにより磁性流体にかかる回転遠心力は、浮動ブッシュがない場合に比べて小さくなり、その結果として従来に比較して高い回転数まで安定にシール機能を果たす磁性流体シールを実現することができる。
【0029】図1は本発明における第一の実施の形態を示す図である。本磁性流体シール部の基本構造は、図10に示すいわゆるZ型と呼ばれる構造を有し、前記の如く、上部ヨーク板の内周側上部および下部の環状側面に微小間隔を隔てて、それぞれ上部浮動ブッシュ35および下部浮動ブッシュ36が配置される。上部浮動ブッシュの上側には上部カバー37が配置され、この上部カバー37は上部ヨーク板の上面に接着剤38で密着固定されている。
【0030】ここで図1はモータが定常回転し、上部および下部浮動ブッシュが回転自在に浮遊している場合を想定した図である。しかしモータ静止時には、重力の関係で上部浮動ブッシュ35および下部浮動ブッシュ36は、重力に対して下方に位置する何れかの壁面に接触して保持されている。モータが回転し始めると、浮動ブッシュと磁性流体との間で相対速度差が生じ、重力に対して上方に位置する浮動ブッシュは、磁性流体からの浮力と浮動ブッシュの自重とがつりあって、浮遊状態になり回転自在となる。他方下側に位置する浮動ブッシュは、下部壁面(図1の状態でこのモータが正立している場合には、下部ヨーク板の上面)に乗ってヨーク板とともに回転し始め、磁性流体から受ける抵抗力(回転を抑制する方向)により、下部壁面との間で摩擦が生じ、ヨーク板より遅い回転数で回転する状態となる。従って上部および下部浮動ブッシュは、何れの場合にもモータより低い回転数で留まることになり、前記した如き磁性流体の回転を抑制する作用を実現する。
【0031】なおこの場合上部および下部浮動ブッシュは、モータの使用状態(正立の場合のみならず倒立の場合その他があり得る)により何れかまたは双方ともが、何れかの壁面との摩擦により低速回転状態に留まる場合があり、従って図1の構成において使用される上部および下部浮動ブッシュは、例えばテフロン等の軽量でかつ摩擦係数が小さい材料を使用するのが好ましい。
【0032】図2は本発明における第二の実施の形態を示す図である。本実施の形態では、図1で示される第一の実施の形態に比較して、上部カバー37の下面側を詰めて密封し、上部浮動ブッシュ35を包み込む環状凹部を形成した。そして磁性流体を従来に比較して多量に封入することで、磁性流体33が上部および下部浮動ブッシュ35および36を包み込み、モータがどの様な天地状態に置かれても回転時には浮動ブッシュに浮力が生じる構成とした。ここで上部浮動ブッシュ35および下部浮動ブッシュ36の外周方向端部352および362に断面円弧状のテーパが形成されているのは、その周辺部材であるヨーク板や磁石との接触による振動等の弊害を最小限に抑えるために接触部分を少なくすると共に、振動時に磁性流体の流れがこのテーパ面に垂直に作用し、上方向の動圧による浮力を発生させるためである。
【0033】この実施形態では、前記した如く浮動ブッシュは磁性流体内に浸った状態で浮力を得ることから、第二の実施形態で用いられる浮動ブッシュは、磁性流体(比重は約1.2)と比較して比重が軽いか同等の材料を用いるのが好ましく、例えばナイロン(比重は約1.1)やポリカーボネイト(比重は約1.2)が用いられる。この場合、第一の実施形態のような外周壁面との接触は少ないと考えられるため、浮動ブッシュ材の摩擦係数は第一の実施形態ほどには重視する必要はない。
【0034】また上部浮動ブッシュ35および下部浮動ブッシュ36の内周側面には、上部ヨーク板30の内周先端部301に向って近付く程、軸体1の表面からの距離を大きくする向きの傾斜部351および361が形成されている。これは回転時に磁性流体に働く遠心力が、この傾斜部を介して前記先端部301に向う力に変換され、磁性流体の上下方向への飛散を防止する効果がある。
【0035】なお図2では軸体表面に存在する磁性流体は、上部ヨーク板の円環状下面と下部ヨーク板の円環状上面及び円環状磁石の内周面により形成された円環状の凹部にも存在する。これは磁性流体の経年劣化を考慮して注入量を若干多めに注入するため、磁束の漏洩する上記円環状の凹部にも磁性流体が乗ることを考慮したためである。従って磁性流体の注入を適切に行うことにより、この部分に無用の過分な磁性流体が乗らない実施の形態も可能である。
【0036】図3および図4には本発明に関する第三の実施の形態を図示する。この実施形態では、上部浮動ブッシュ35を内周方向に延長し、さらに上部ヨーク板内周端部301より内周側に張り出す円環状の垂下部353を設けている。この垂下部353により、モータ回転に近い速度で回転する磁性流体の範囲は、上部ヨーク板内終端部301の周辺部分に限られ、殆どの磁性流体は、浮動ブッシュ35または36の回転数近くで回転することになり、第一の実施形態に比べて一層磁性流体に加わる遠心力は低減される。従って第三の実施形態では一層高速回転に安定に対応できる磁性流体シール部を実現することができる。
【0037】さらに本実施形態は、前記垂下部に、軸心に対してほぼ直角方向の軸を持つ複数の磁性流体流通穴を設けている。この磁性流体流通穴は、図4に示す丸穴354にて例示される。図4は、図3の矢印αから見た上部浮動ブッシュ35の円環状内周側面の展開図として示した図である。この流通穴354により、回転等により上記ヨーク板内周端部301と上部浮動ブッシュ35の垂下部353との間で行き場を失った磁性流体内の気泡を、この穴を通じて内周側に導く作用を有する。これによって気泡増大によるシール破壊の危険性を除去し、安定なシール構造を実現する。
【0038】図5は本発明に関する第四の実施形態を示す図である。この実施形態では、第三の実施形態にかかる上部浮動ブッシュ35の垂下部353が、上部ヨーク板内周端部301の上半分程度を覆う形状としている。この構造により、第三の実施形態に比べてより簡単な構造で、ヨーク板と伴に回転する磁性流体の範囲を第一に実施形態より小さくしつつ、かつ気泡の逃げ場を与えた。
【0039】図6は本発明に関する第五の実施形態を示す図である。この実施形態は、第二の実施形態と第三の実施形態との融合であり、上部及び下部浮動ブッシュの浮上をより確実にしつつ、かつシール機能に寄与している磁性流体部分の回転速度を低減させる効果を有している。図6の各部の機能や作用は、既に説明した実施形態と同じであり、詳細な説明は省略する。
【0040】図7、図8、図9は本発明に関する第五の実施形態を示す図であり、既に説明した実施形態に追加して実施可能である。本実施形態では、上部および下部浮動ブッシュの上部ヨーク板対向面には、当該浮動ブッシュの円環形状の内周円に対応して複数の溝を設けている。回転遠心力で上部ヨ−ク板30の上下面と上部浮動ブッシュ35および下部浮動ブッシュ36との間の微小間隙を通じて、円周外方向に拡散しようとする磁性流体を、この溝により生じる半径内方向の動圧により押し戻す機能を果たす。これにより回転遠心力に対抗する能力を高めることができる。なおこの溝は、図7に示す如く外周端部に至る形状を有する場合や、図8に示す如く外周端部に至らないで中途で終結している場合等、種々の形状が可能である。また図9に示す如く、螺旋状に湾曲した溝でも良い。この溝の形状および個数は、磁性流体の粘性やモータの回転速度および本磁性流体シール部3に注入される磁性流体の量等により、適宜最適に設計される。またこれらの溝は、モータ回転に対して半径内方向に磁性流体の動圧が生じる様に浮動ブッシュ面に形成される。従って上部浮動ブッシュの下面と下部浮動ブッシュの上面とでは、溝の形成方向は逆になる。
【0041】なお以上述べた磁性流体シールは、軸体が固定されハブ側が回転するモータ等の回転体について適用する場合を説明したが、これとは逆に、軸体が回転しハブ側が静止(固定)しているモータ等の回転体にも適用可能である。この場合は、従来技術の説明で指摘した如く、軸固定型よりも一層の高速回転に対して安定なシール機能を実現する磁性流体シールを実現できる。この軸回転型磁性流体シールは、上記した実施形態である図1から図5に対応する実施形態が可能であることは言うまでもない。
【0042】
【発明の効果】以上詳細に説明した如く、本発明は、従来のP型シール構造に加えて上部ヨーク板内周側上下面に隣接して自由に回転できる上部および下部の浮動ブッシュを配し、ヨーク板の回転に対してこれよりも遅い回転数でこれらの浮動ブッシュを回転させることにより、シール機能を果たす部分の磁性流体をこれに追従させることにより、磁性流体の回転速度を低下させる効果がある。その結果従来のP型シールに比べてより高い回転数にも安定にシール機能を維持できる磁性流体シールを実現できる。
【0043】また本発明では、上記浮動ブッシュを従来のZ型シール構造にも適用することにより、同様の理由で、従来のZ型シールに比べてより高い回転数にも安定にシール機能を維持できる磁性流体シールを実現できる。
【0044】さらに本発明では、前記上部浮動ブッシュおよび前記下部浮動ブッシュに、これらの内周面が軸心方向について上部ヨーク板に近付くほど内周面から軸側面に至る距離が拡大する傾斜部を有しており、この傾斜部が、回転遠心力により外周方向に飛散しようとする磁性流体を、上部ヨーク板内周端部に向わせることにより、磁性流体の飛散を防止できる効果がある。
【0045】また本発明では、上部浮動ブッシュもしくは下部浮動ブッシュは、上部ヨーク板内周端部と軸体表面との間に形成された円筒状垂下部もしくは突起部を有しており、この垂下部もしくは突起部により、上部ヨーク板内周端部と軸体表面との間で磁性流体の保持力が高められ、回転遠心力によるシール部の磁性流体の飛散を防止している。
【0046】さらに本発明では、上部浮動ブッシュもしくは下部浮動ブッシュの前記円筒状垂下部もしくは突起部には、軸心に対してほぼ直角方向の複数の磁性流体流通穴を有しており、磁性流体内の気泡を逃げやすくして、安定なシール機能の実現を図っている。
【0047】そして本発明では、磁性流体シール部の上部および/または下部浮動ブッシュの上部ヨーク板対向面には、当該浮動ブッシュ円環形状の内周円に対して複数の溝を設け、回転遠心力により円周外方向に拡散しようとする磁性流体を、この溝により生じる半径内方向の動圧により押し戻す機能を果たす。これによってより高速回転でも磁性流体が飛散しにくい構造を実現している。
【0048】さらに本発明では、上記磁性流体シールを組込んだスピンドルモータにより、高速回転でも安定なシール効果を有するスピンドルモータを実現している。
【0049】加えて本発明では、固定した軸体を有するモータ等の回転体に使用する上記の磁性流体シールを、そのまま軸体が回転するモータ等の回転体にも適用することができる。これにより従来のP型またはZ型シール構造に比べて飛躍的に高速回転する場合でも、安定にシール機能を維持できる磁性流体シールを提供することができる。
【0050】また本発明では高速に回転するスピンドルモータにおいても、モータ内部の汚れた空気のディスク装置内部への拡散を安定にシールする。これにより高速に読み書き可能で、かつディスク装置内部のクリーンな状態を長期間安定に維持できるディスク装置を実現することができる。
【出願人】 【識別番号】000232302
【氏名又は名称】日本電産株式会社
【出願日】 平成11年12月28日(1999.12.28)
【代理人】
【公開番号】 特開2001−165331(P2001−165331A)
【公開日】 平成13年6月22日(2001.6.22)
【出願番号】 特願平11−372015