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【発明の名称】 メカニカルシール
【発明者】 【氏名】瀧ケ平 宜昭

【氏名】菅家 敏弘

【氏名】古川 泰成

【要約】 【課題】高圧の密封対象流体でも摺動面の負荷の増大を抑制して、メカニカルシールの長寿命化及び好適に使用可能な実用限界の拡大を図ることにある。

【解決手段】シールハウジング1の環状凹部12に収容され、外周面31aが環状凹部12の内周面12aにOリング33を介して固定的に密嵌された非回転のシールリング31と、回転軸2と共に回転しシールリング31の摺動突起311と摺動するメイティングリング32を備え、その互いの摺動面Sの外周側が密封対象の機内空間Aとなっている。シールリング31の背面31bにおける内周側には支持突起312が形成され、この支持突起312が、シールハウジング1の環状凹部12における端面12bに当接されている。シールリング31は、機内空間Aの圧力によって支持突起312の外径を支点とする変形を受け、摺動面Sに外周側へ開いたクサビ状の隙間を形成し、これによって摺動面Sに作用する開力を増大させる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 円周方向に連続した摺動突起を有する摺動環と、前記摺動突起の端面に密接される摺動環とを備え、密封対象流体の存在する空間が前記両摺動環の摺動面の外周側にあって、前記両摺動環のうち一方又は双方の外周面及び背面が保持部材に保持され、前記摺動環と保持部材の対向周面間にパッキングが介在され、前記摺動環の背面とこれを支承する前記保持部材の端面のうちいずれか一方に、内周側に偏在して軸方向に突出した支持突起が形成されたことを特徴とするメカニカルシール。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は回転軸の軸周を密封するメカニカルシールであって、特に、高圧の流体を密封するのに適したメカニカルシールに関する。
【0002】
【従来の技術】産業機械等、密封対象流体が高圧となる条件下で使用される工業用メカニカルシールの典型的な従来例としては、図5に示されるような構造のものが知られている。このメカニカルシールは、機器のシールハウジング111側に装着された非回転のシールリング101と、前記シールハウジング111の軸孔に挿通された回転軸112側に装着されたメイティングリング102を備え、シールリング101におけるメイティングリング102との対向面に円周方向に連続して形成された摺動突起101aが、回転するメイティングリング102の端面に摺接されることによって、その摺動面Sの外周側の機内空間Aに存在する高圧の密封対象流体が回転軸112とシールハウジング111との隙間から機外空間Bへ漏出するのを防止するものである。
【0003】非回転のシールリング101は、その外周面101bを、シールハウジング111の軸孔開口部に形成された環状凹部の内周面111aにOリング103を介して保持されると共に、背面101cを、前記環状凹部の端面111bに支承されている。一方、回転側のメイティングリング102は、Oリング104を介して回転軸112に軸方向移動可能に装着されると共に、その背面側に配置されたコイルスプリング105によって前記シールリング101へ向けて付勢され、カラー106及びコンプレッションリング107を介して回転軸112の回転力が伝達されることによって、この回転軸112と共に回転される。
【0004】ここで、シールリング101とメイティングリング102との摺動面Sの内周に連なる機外空間Bの圧力(大気圧)と、それより高圧である機内空間Aの密封対象流体の圧力との差圧をΔPとすると、図6に示されるように、この差圧ΔPがメイティングリング102に対してその背面側から軸方向に作用する受圧面積aよりも、摺動面S側から軸方向に作用する受圧面積bが小さいため、前記差圧ΔPによって、メイティングリング102をシールリング101に押し付ける荷重F=ΔP(a−b)が発生する。すなわち、この荷重FはΔPに比例することから、機内空間Aが高圧であるほど、シールリング101とメイティングリング102の互いの摺動面圧が比例的に増大し、摺動面Sに介在する密封対象流体の一部からなる潤滑膜の膜厚さが減少する。
【0005】摺動面Sにおける潤滑膜の膜厚さの減少は、潤滑不足による摩擦熱の発熱量の増大や、摺動材の異常摩耗、更には摺動面Sにおける焼き付きやカジリ等を引き起こす原因になり、これらはメカニカルシールの寿命を短命化させるものである。したがって、密封対象流体Aの圧力は、メカニカルシールの実用限界を決定する単独要因の一つとして認識されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明はこのような問題に鑑みてなされたもので、その主な技術的課題は、高圧の密封対象流体でも摺動面の負荷の増大を抑制して、メカニカルシールの長寿命化及び好適に使用可能な実用限界の拡大を図ることにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、本発明に係るメカニカルシールは、円周方向に連続した摺動突起を有する摺動環と、前記摺動突起の端面に密接される摺動環とを備え、密封対象流体の存在する空間が前記両摺動環の摺動面の外周側にあって、前記両摺動環のうち一方又は双方の外周面及び背面が保持部材に保持され、前記摺動環と保持部材の対向周面間にパッキングが介在され、前記摺動環の背面とこれを支承する前記保持部材の端面のうちいずれか一方に、内周側に偏在して軸方向へ突出した支持突起が形成されたものである。すなわち、前記保持部材は、摺動環の背面を前記支持突起において支承し、その外周側は逃げ空間となるので、前記摺動環は、密封対象流体の圧力によって前記逃げ空間へ倒れ込むような変形を受け、摺動面間に、その開力(Opening Force)となる密封対象流体の圧力が導入される。
【0008】なお、ここでいう「背面」とは摺動面と反対側を向いた面のことであり、「前面」とは摺動面側の面のことである。
【0009】
【発明の実施の形態】図1及び図2は、本発明に係るメカニカルシールの好ましい一実施形態を示すものである。この図において、参照符号1は工業用機器のシールハウジング、参照符号2はこのシールハウジング1に開設された軸孔の内周に同心的に挿通された回転軸である。
【0010】シールハウジング1と回転軸2との間に介在される本発明のメカニカルシール3は、前記シールハウジング1側に装着された非回転の摺動環であるシールリング31と、前記回転軸2側に装着されてこの回転軸2と共に回転するメイティングリング32を備え、このシールリング31とメイティングリング32が、軸方向に対向する端面同士で互いに密接摺動されることによって、その摺動面Sの外周側に連なる機内空間Aに存在する高圧の密封対象流体が、シールハウジング1と回転軸2との隙間から機外空間Bへ漏出するのを防止するものである。
【0011】シールリング31は、シールハウジング1の軸孔11の機内側開口部に同心的に拡径形成された環状凹部12内に収容され、外周面31aが、前記環状凹部12の内周面12aに円周方向へ連続して形成されたOリング装着溝13に装着されたパッキングとしてのOリング33を介して、固定的に密嵌されている。このシールリング31には、前記環状凹部12から露出してメイティングリング32側を向いた前面に、円周方向に連続した摺動突起311が形成されている。
【0012】また、シールリング31の背面31bにおける内周側に偏在した部分には、軸方向へ突出した支持突起312が形成され、この支持突起312が、シールハウジング1の環状凹部12における端面12bに当接されている。
【0013】回転側のメイティングリング32はシールリング31より硬質の摺動材料からなるものであって、シールリング31からみて機内側に配置され、回転軸2の外周面にOリング34を介して軸方向移動自在に装着されている。前記Oリング34は、メイティングリング32の背面側の内周面に形成されたOリング装着凹部32aに収容された状態でメイティングリング32に保持されている。
【0014】メイティングリング32の背面側には、Oリング34を背面側から押えるコンプレッションリング35が軸方向移動自在に配置されており、更にその背面側には、円周方向等間隔でねじ込まれた複数のセットスクリュ361によって回転軸2の外周面に固定された環状のカラー36が配置されている。カラー36には、コンプレッションリング35側へ開放された複数のスプリング保持孔36aが円周方向等間隔で形成されており、各スプリング保持孔36aに半収容状態に保持されたコイルスプリング37が、適当に圧縮された状態で前記コンプレッションリング35の背面に当接している。また、コンプレッションリング35は、ピン362を介してカラー36と円周方向に係合されており、メイティングリング32は、その背面に形成された切欠32bが、コンプレッションリング35に設けられたピン351と円周方向に係合されている。
【0015】すなわちメイティングリング32は、コンプレッションリング35及びOリング34を介して与えられるコイルスプリング37の軸方向付勢力によって、その端面がシールリング31の摺動突起311に押し付けられると共に、回転軸2の回転力が、セットスクリュ361、カラー36、ピン362、コンプレッションリング35及びピン351を介して伝達されることにより前記回転軸2と一体的に回転され、前記摺動突起311との間に摺動面Sを形成するものである。
【0016】回転軸2は、メイティングリング32の内周に位置する部分に環状段差部2aが形成されており、この環状段差部2aを境にして、シールハウジング1の軸孔11及びシールリング31の内周への挿通部2bが相対的に小径、Oリング34が軸方向移動自在に嵌着されたメイティングリング担持部2cが相対的に大径に形成されている。そして、シールリング31の内径と、メイティングリング32における摺動面S寄りの内径は、回転軸2のシールリング担持部2cよりも小径に形成されており、これによって、シールリング31の摺動面S(摺動突起311)がメイティングリング32の内周寄りに偏在し、機内空間Aの密封対象流体の圧力と機外空間Bの大気圧との差圧ΔPがメイティングリング32の前面に軸方向に作用する範囲bを内径側へなるべく大きくすることによって、前記差圧ΔPがメイティングリング32の背面に作用する範囲aとの差(a−b)を小さくしてある。
【0017】以上の構成において、シールハウジング1側に非回転状態に保持されたシールリング31は、メイティングリング32からの押し付け力及び機内空間Aの密封対象流体の圧力と機外空間Bの大気圧との差圧ΔPを受けて、背面31bに形成された支持突起312が、前記シールハウジング1における環状凹部12の端面12bに押し付けられており、その外周側には逃げ空間Cが形成される。このため、図2に示されるように、前記差圧ΔPが、シールリング31の前面における摺動面Sの外周側に作用することによって、このシールリング31は前記支持突起312の外径端部312aを支点とする変形力Mを受け、前記逃げ空間Cへ倒れ込むように変形される(図2では、この状態を誇張して示してある)。
【0018】その結果、摺動面Sには外周側(機内空間A側)へ開いたクサビ状の微小隙間Gが形成され、この微小隙間Gに機内空間A内の密封対象流体の一部が介入することによって、摺動面Sへの安定した潤滑膜の形成が促される。
【0019】また、上述のように摺動面Sに形成されるクサビ状の微小隙間Gに介入する密封対象流体の圧力(大気圧との差圧ΔP)によって、摺動面Sの開力が増大する。すなわち、図3に密封対象流体が水である場合を示すように、摺動面Sにクサビ状の微小隙間が形成されない従来構造のものにおいては、摺動面Sの開力として作用するΔPが内周へ向けて直線的に減圧されるように分布するのに対し、本発明の場合は、摺動面Sにクサビ状の微小隙間Gが形成されることによって、ΔPが摺動面Sの内径近傍まで減圧が小さい分布状態になり、その差分ΔFだけ前記開力が増大して、摺動面圧が軽減される。
【0020】更には、クサビ状の微小隙間の形成によって、摺動面S間における密封対象流体の流通が促され、摺動面S間に介入した異物の排出や、摺動に伴って発生した摩擦熱の除去(冷却)効果の向上が期待できる。
【0021】なお、ΔPが同一の条件下において、支持突起312の外径を小径にし、すなわちその外径端部312aを内径側に移動して逃げ空間Cの径方向寸法を内径側へ拡張した場合、図2に示されるΔPによるシールリング31の変形がより大きくなり、これによって摺動面Sに形成されるクサビ状の隙間Gも拡大される。その結果、摺動負荷の大幅な低減が期待されるが、反面、摺動面圧の低下を伴うことによって、密封性能が低下するおそれがある。したがって、支持突起312の外径寸法は、使用目的や圧力条件等を考慮して適切に決定される。
【0022】上述の効果は、図4に他の実施形態を示すように、支持突起をシールハウジング1側に形成しても実現することができる。すなわちこの実施形態においては、シールリング31は従来と同様、背面31bが軸心と直交する平坦な平面状に形成されているのに対し、このシールリング31を保持するシールハウジング1の環状凹部12の端面12bには、前記シールリング31の背面31bにおける内周側に当接する支持突起14が軸方向へ突出形成されている。その他の部分の構成は、先に説明した図1の実施形態と同様である。
【0023】この場合も、支持突起14の外周側には逃げ空間Cが形成されることになるので、シールリング31は、その前面における摺動突起311の外周側に機内空間Aと機外空間Bとの差圧を受けることによって前記逃げ空間Cへ倒れ込むような変形を受け、摺動面Sに外周側へ開いたクサビ状の微小隙間が形成される。
【0024】なお、上述の各実施形態においては、静止側の摺動環又はこれを保持するシールハウジングについて本発明を適用した場合を説明したが、回転側の摺動環が環状の保持部材に保持された構造を有するものにおいては、この摺動環又は保持部材に、本発明を同様に実施することができる。
【0025】
【発明の効果】本発明に係るメカニカルシールによると、密封対象流体の圧力を利用して摺動環を変形させることによって、摺動面の開力を増大させるため、摺動面圧が抑制されると共に摺動面の潤滑膜の安定化が図られ、摺動面に介入される密封対象流体の流通が促され、このため、高圧条件においても摺動負荷が軽減され、軸封装置として使用可能な圧力条件の実用限界が拡大され、シールの長寿命化を図ることができる。
【0026】また、このような効果を実現できるものであることから、例えば通常は低圧の系でも、事故や故障等、何らかの異常発生時に急激な圧力増大が予想されるような系において、摺動材の破損を有効に防止し、また良好なシール性能を維持し得る軸封装置として好適に使用することができる。
【出願人】 【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
【出願日】 平成11年11月19日(1999.11.19)
【代理人】 【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
【公開番号】 特開2001−141075(P2001−141075A)
【公開日】 平成13年5月25日(2001.5.25)
【出願番号】 特願平11−329185