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【発明の名称】 メカニカルシール
【発明者】 【氏名】藤永 繁行

【要約】 【課題】分割構造とされた密封環の密封端面を、これを保持するリテーナの加工精度や熱歪等の影響を受けることなく、適正な表面形態に維持させておくことができ、常に良好なシール機能を発揮させることができるメカニカルシールを提供する。

【解決手段】シールケース1及び回転軸2に設けた環状のリテーナ3,5に、径方向に分割された密封環4,6が内嵌保持されている。リテーナ3,5と密封環4,6との対向周面部間に配設した第一Oリング10,13及び第二Oリング11,14により、密封環4,6を環状に緊縛し且つリテーナ3,5に対する回転を阻止する。第一Oリング10,13は、密封環4,6に設けた係止部4h,6hとリテーナ3,5に設けた係止部3d,5bとの間に挟圧されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 シールケース又は回転軸に設けた環状のリテーナに、径方向に分割された密封環を内嵌保持させてあるメカニカルシールにおいて、リテーナと密封環との対向周面部間に軸線方向に所定間隔を隔てて配設した第一及び第二Oリングにより、密封環を環状に緊縛すると共に密封環のリテーナに対する回転を阻止し、密封環に、第一Oリングを密封環に対するその密封端面方向への軸線方向移動を阻止すべく係止する第一係止部を設けると共に、リテーナに、第一Oリングをリテーナに対する上記と逆方向への軸線方向移動を阻止すべく係止する第二係止部を設けてあることを特徴とするメカニカルシール。
【請求項2】 第一Oリングと第二係止部との間にスペーサを配置して、第一Oリングの第二係止部による上記軸線方向移動の係止作用がスペーサを介して間接的に行われるように構成したことを特徴とする、請求項1に記載するメカニカルシール。
【請求項3】 第一Oリングと第二係止部との間に第二Oリングを配置すると共に、両Oリング間にスペーサを配置して、第一Oリングの第二係止部による上記軸線方向移動の係止作用が第二Oリング及びスペーサを介して間接的に行われるように構成したことを特徴とする、請求項1に記載するメカニカルシール。
【請求項4】 密封環における、リテーナから軸線方向に突出する密封端面側部分の外周部に、密封環抜出用の環状凹部が設けられていることを特徴とする、請求項1、請求項2又は請求項3に記載するメカニカルシール。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、相対回転摺接する二つ密封環の少なくとも一方が径方向に分割されているメカニカルシールに関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来からも、図7に示す如く、回転軸102に設けた第一密封環104とシールケース101に設けた第二密封環106との対向端面たる密封端面104a,106aの相対回転摺接作用によりシール機能を発揮させるように構成されたメカニカルシールであって、少なくとも一方の密封環、例えば第一密封環104を径方向に二分割して環状のリテーナ103に嵌合保持させておくように構成されたメカニカルシール(以下従来シールという)が提案されている。
【0003】かかる従来シールにあっては、図7に示す如く、リテーナ103を回転軸102に軸線方向に移動可能に且つ相対回転不能に嵌挿保持すると共にスプリング部材108により第二密封環106へと附勢させることにより、リテーナ103に嵌合保持させた第一密封環104を第二密封環106へと押圧接触させるようになっており、第一密封環104を、つぎのような手段により、適正な円環状形態に保持すると共にリテーナ103に対する軸線方向の相対変位及び相対回転を阻止した状態で、リテーナ103の先端に形成した凹部103aに嵌合保持させてある。
【0004】すなわち、第一密封環104は、その外周部と凹部103aの内周部との間に適度の圧縮状態で充填されたOリング110による緊縛力により、当該密封環104の分割面が衝合した適正な円環状形態に保持されている。また、両密封環102,104がスプリング部材108の附勢力(及び密封環に作用する流体による背圧)により相互に押圧されることから、その反作用として第一密封環104には軸線方向荷重が作用するが、かかる軸線方向荷重による第一密封環104のリテーナ103に対する軸線方向の相対変位は、第一密封環104の背面部104bを凹部103aの底面部103bに衝合させることにより、阻止されている。すなわち、第一密封環104に作用する軸線方向荷重を、凹部103aの底面部103bで受けるようにしている。さらに、第一密封環104は半円弧状をなす二つ密封環部分に分割されているが、一方の密封環部分に形成した凹部104cに凹部103aの底面部103bに突設したドライブピン111を係合させることにより、第一密封環104のリテーナ103に対する相対回転が阻止されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかし、このような第一密封環104の保持構造を採用する従来シールにあっては、密封環104の分割面間が開いたり、軸線方向に齟齬したりする虞れがあり、良好なシール機能を期待できないといった問題があった。
【0006】すなわち、密封端面104a,106aの相対回転摺接作用が良好に行われるためには、密封環104のリテーナ103に対する相対回転が阻止されること必要であるが、上記した如く、両者103,104の相対回転を一方の密封環部分とドライブピン111との係合作用により阻止するようにしていると、当該一方の密封環部分はドライブピン111によりこれと同一方向に強制回転されるものの、他方の密封環部分については相手密封環(第二密封環)106との接触による摩擦力により当該方向への回転が阻止されることになる。したがって、両密封環部分は相対的に逆方向に回転されることになり、一方の密封環部分におけるドライブピン回転方向と反対側の端面である分離面とこれに対向する他方の密封環部分の分離面との間が開くことになる。かかる分離面間の開きは、それが微小であっても、シール機能を大幅に低下させることになる。このような分割面の開き現象は、両密封環部分にドライブピン111を係合させるようにした場合においても、各密封環部分に設けられる凹部104cとドライプピン111とが回転方向に遊びを有した状態で係合されることから、同様に生じる。
【0007】ところで、密封環104のリテーナ103に対する相対回転阻止を、ドライブピン111によらず、密封環104を緊縛しているOリング110による摩擦係合力により行うようにしておけば、上記した分割面の開き現象を回避することができる。すなわち、密封環104の外周部と凹部103aの内周部とをその間に充填したOリング110により摩擦係合させておくことにより、密封環104のリテーナ103に対する相対回転を阻止させるのである。しかし、従来シールにおける如く、密封環104を緊縛するOリング110が一本である場合には、当該相対回転を阻止するに十分な摩擦係合力を得ることは困難であり、密封端面104a,106aの良好な相対回転摺接作用は期待できない。
【0008】また、従来シールにあっては、密封環104に作用する軸線方向荷重を凹部103aの底面部103bで受けるようにしているため、密封端面104aがその分割部分において軸線方向に齟齬し易い。
【0009】すなわち、密封端面104aは、その機能上、極めて高精度の平滑面に仕上げられているが、凹部103aの底面部103bについては、機能上及び切削加工上、仕上げ精度は極めて低くなっている。一般に、仕上げ精度は、密封端面104aについては0.6μm以下であるのに対し、底面部103bについては2〜3μm程度である。したがって、密封環104が凹部103aの底面部103bに押し付けられることにより、底面部103bの表面精度が密封端面104aの表面精度に影響して、密封端面104aの分割部分においてズレが生じる。かかるズレは、それが極く僅かなものであっても、相手密封端面106aとの相対回転摺接作用に悪影響を及ぼし、シール機能が大幅に低下することになる。
【0010】しかも、一般に、リテーナ103と密封環104とは、両者103,104に要求される機能が異なることから、異なる材料で構成されている。したがって、密封端面104a,106a間の摩擦熱や流体熱により両者103,104には異なる熱歪が生じることなる。そして、これらの熱歪が、密封環104の背面部104bと凹部103aの底面部103bとの押圧接触部で相互に干渉して、上記した精度差が増幅される等により、密封端面104aの分割部分におけるズレの増大や表面精度の低下を招いて、シール機能が更に低下する虞れがある。このような問題は、両者103,104の構成材料における熱膨張率の差が大きくなるに従って、より顕著となる。
【0011】本発明は、従来シールにおける上記した問題をすべて解決して、常に良好なシール機能を発揮しうるメカニカルシールを提供することを目的とするものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明は、シールケース又は回転軸に設けた環状のリテーナに、径方向に分割された密封環を内嵌保持させてあるメカニカルシールにおいて、上記の目的を達成すべく、特に、リテーナと密封環との対向周面部間に軸線方向に所定間隔を隔てて配設した第一及び第二Oリングにより、密封環を環状に緊縛すると共に密封環のリテーナに対する回転を阻止し、密封環に、第一Oリングを密封環に対するその密封端面方向への軸線方向移動を阻止すべく係止する第一係止部を設けると共に、リテーナに、第一Oリングをリテーナに対する上記と逆方向への軸線方向移動を阻止すべく係止する第二係止部を設けておくことを提案するものである。なお、本発明において、軸線とは回転軸及び密封環の軸線並びにOリングの曲率中心を通過する軸線をいう。
【0013】かかるメカニカルシールにあっては、第一Oリングと第二係止部との間にスペーサを配置して、第一Oリングの第二係止部による上記軸線方向移動の係止作用がスペーサを介して間接的に行われるように構成しておくことができ、また第一Oリングと第二係止部との間に第二Oリングを配置すると共に、両Oリング間にスペーサを配置して、第一Oリングの第二係止部による上記軸線方向移動の係止作用が第二Oリング及びスペーサを介して間接的に行われるように構成しておくこともできる。また、密封環における、リテーナから軸線方向に突出する密封端面側部分の外周部に、密封環抜出用の環状凹部を設けておくことが好ましい。
【0014】
【発明の実施の形態】以下、本発明の構成を、図1〜図6に示す各実施の形態により具体的に説明する。なお、以下の説明において、左右とは図2を除く各図における左右を意味するものとする。また、軸線の意義は上述した通りであり、左右方向と軸線方向とは同義語である。
【0015】図1及び図2は第一の実施の形態を示したもので、この実施の形態における本発明に係るメカニカルシール(以下第一メカニカルシールという)は、円形の内周部を有するシールケース1とこれを左右方向に同心状に洞貫する回転軸2との間に組み込まれた分割形のものであり、回転軸2に保持された第一リテーナ3と、第一リテーナ3に保持された第一密封環4と、シールケース1の内周部に保持された第二リテーナ5と、第二リテーナ5に第一密封環4と同心対向状に保持された第二密封環6とを具備して、スプリング部材8により第一リテーナ3を介して第一密封環4を第二密封環6へと押圧接触させることによって、両密封環4,6の対向端面である密封端面4a,6aの相対回転摺接部分において、その外周側領域である機内領域Hとその内周側領域である機外領域(大気領域)Lとをシールするように構成されている。
【0016】シールケース1は、図1に示す如く、回転機器のハウジングに取り付けられたケース本体1aと、その先端部(左端部)に取り付けられた端部壁1bとからなる。
【0017】第一リテーナ3は、図1に示す如く、内周部を基端方向(右端方向)に順次縮径する階段状に形成した円環状体である。すなわち、第一リテーナ3の内径は、先端部(左端部)3aにおいて中間部3bより大きく、基端部(左端部)3cにおいて中間部3bより小さく設定されており、基端部3cの内径は、第一リテーナ3を回転軸2の外径よりやや大きく設定されている。また、先端部3aの内周部と中間部3bの内周部との連繋部分は、端面(左端面)を軸線に直交する環状平面となす第二係止部3dとされている。而して、第一リテーナ3は、回転軸2と中間部3bとの対向周面間にOリング9を介装させることにより、回転軸2に、これと同心をなし且つOリング9により二次シールされた状態で、軸線方向つまり左右方向に移動可能に嵌合保持されている。
【0018】而して、第一リテーナ3は、その回転を回転軸2との間に設けた回転阻止手段により阻止されている。すなわち、回転阻止手段は、図1に示す如く、第一リテーナ3の基端部に対向して回転軸2に嵌合固定された環状体7aと、環状体7aを貫通して第一リテーナ3の基端部に固着されたドライブピン7bとからなり、リテーナ3及びドライブピン7bの頭部7cが環状体7aに衝合する範囲内において、第一リテーナ3の軸線方向移動を許容しつつ、その回転軸2に対する相対回転を阻止する。
【0019】また、第一リテーナ3と環状体7aとの間には、回転軸2の周囲に適当間隔を隔てて配置した複数個のスプリング部材(圧縮コイルスプリング)8が介装されていて、第一リテーナ3を第二密封環方向(左方向)に附勢して、第一密封環4を第二密封環6に押圧接触させるようになっている。
【0020】第一密封環4は、図1及び図2に示す如く、先端部(左端部)4b及び基端部(右端部)4cの外径を先端側中間部4dの外径及基端側中間部4eの外径(両中間部4d,4eは外径同一)より小さくした円環状体であり、径方向に二分割されている。すなわち、第一密封環4は、一対の半円形状の密封環部分4f,4fに二分割されている。また、先端部4bの端面は、軸線に直交する平滑な環状平面をなす密封端面4aに形成されており、先端側中間部4dの外周部には、密封環抜出用の環状凹部4gが形成されている。また、基端側中間部4eの外周部と基端部4cの外周部との連繋部分は、端面(左端面)を軸線に直交する環状平面となす第一係止部4hとされている。
【0021】ところで、この例では、第一密封環4の内周部又は外周部にその軸線方向における全幅に亘って微細な切欠溝を形成した上、この切欠溝に径方向の剪断力を作用させて、切欠溝を起点として径方向への亀裂を進行させることにより、当該密封環4を二分割するようにしている(以下、この分割加工を自然割という)。したがって、密封環部分4f,4fの衝合面である分割面4i,4iは微細且つ不規則な凹凸面となることから、分割面4i,4iの適正な衝合を容易に行うことができ、且つ分割面4i,4iが離間せず衝合状態を維持する限り、分割面4i,4iの凹凸係合により密封環部分4f,4fの軸線方向への相対変位(ズレ)が阻止されて、密封環4を適正な円環状体に保持させておくことができる。
【0022】而して、第一密封環4は、図1に示す如く、回転軸2に同心状に遊嵌され且つ先端部4b及び先端側中間部4dを第一リテーナ3の先端面(左端面)から突出させた状態で、第一リテーナ3の先端部3aの内周部に内嵌保持されている。そして、第一リテーナ3の先端部3aの内周部とこれに対向する第一密封環4の基端側中間部4e及び基端部4cの外周部との間には、第一及び第二Oリング10,11が適度に圧縮された状態で充填されている。第一リテーナ3の先端部3aと第一密封環4の基端部4cとの対向周面部間に配設された第一Oリング10は、左右方向において、第一密封環4に設けられた第一係止部4hと第一リテーナ3に設けられた第二係止部3dとの対向端面間に挟圧されている。すなわち、第一Oリング10は、第一密封環4に対する密封端面方向(左方向)への相対移動を第一係止部4hにより阻止されると共に、第一リテーナ3に対する上記と逆方向(右方向)への相対移動を第二係止部3dにより阻止されている。第一リテーナ3の先端部3aと第一密封環4の基端側中間部4eとの対向周面部間に配設された第二Oリング11は、第一リテーナ3の先端部3aの内周部に形成した環状溝3eに係合保持されている。なお、第一リテーナ3の先端部3aの内周部(環状溝3eが形成されていない部分の内周部)と第一密封環4の基端部4cの外周部との径方向間隔(第一Oリング10の締代)及び第一リテーナ3の先端部3aの内周部(環状溝3eの底面部)と第一密封環4の基端側中間部4eの外周部との径方向間隔(第二Oリング11の締代)は、両Oリング10,11により、第一密封環4をその分離面4i,4iが適正に衝合する円環状体に保持するに充分な緊縛力と第一密封環4の第一リテーナ3に対する相対回転を阻止するに充分な摩擦係合力とが確保されることを条件として、適宜に設定される。
【0023】第二リテーナ5は、図1に示す如く、筒状の本体部5aとその基端部(左端部)に内方へと突出する環状の第二係止部5bとからなる円環状体であり、第一リテーナ3の先端部に対向し且つ回転軸2と同心をなす状態で、シールケース1の端部壁1bの内周部にOリング12を介して内嵌固定されている。なお、第二係止部5bの端面(右端面)は、軸線に直交する環状平面に形成されている。
【0024】第二密封環6は、図1に示す如く、基端部(左端部)6bの外径を中間部6c及び先端部(右端部)6dの外径より小さくした円環状体であり、第一密封環4と同様にして、径方向に二分割されている。すなわち、第二密封環6は、上記した自然割により、一対の半円形状の密封環部分6f,6fに二分割されており、密封環部分6f,6fの衝合面である分割面6i,6iは微細且つ不規則な凹凸面となっている。また、先端部6dの端面は、軸線に直交する平滑な環状平面をなす密封端面6aに形成されており、先端部6dの外周部には、密封環抜出用の環状凹部6gが形成されている。また、基端部6bの外周部と中間部6cの外周面との連繋部分は、端面(左端面)を軸線に直交する環状平面となす第一係止部6hとされている。
【0025】而して、第二密封環6は、図1に示す如く、回転軸2に同心状に遊嵌され且つ先端部6dを第二リテーナ5の先端面(右端面)から突出させた状態で、第二リテーナ5の本体部5aの内周部に内嵌保持されている。そして、第二リテーナ5の本体部5aの内周部とこれに対向する第二密封環6の基端部6b及び中間部6cの外周部との間には、第一及び第二Oリング13,14が適度に圧縮された状態で充填されている。第二リテーナ5の本体部5aと第二密封環6の基端部6bとの対向周面部間に配設された第一Oリング13は、左右方向において、第二密封環6に設けられた第一係止部6hと第二リテーナ5に設けられた第二係止部5bとの対向端面間に挟圧されている。すなわち、第一Oリング13は、第二密封環6に対する密封端面方向(右方向)への相対移動を第一係止部6hにより阻止されると共に、第二リテーナ5に対する上記と逆方向(左方向)への相対移動を第二係止部5bにより阻止されている。第二リテーナ5の本体部5aと第二密封環6の中間部6cとの対向周面部間に配設された第二Oリング14は、第二リテーナ5の本体部5aの内周部に形成した環状溝5cに係合保持されている。なお、第二リテーナ5の本体部5aの内周部(環状溝5cが形成されていない部分の内周部)と第二密封環6の基端部6bの外周部との径方向間隔(第一Oリング13の締代)及び第二リテーナ5の本体部5aの内周部(環状溝5cの底面部)と第二密封環6の中間部6cの外周部との径方向間隔(第二Oリング14の締代)は、上記したOリング10,11と同様に、両Oリング13,14により第二密封環6をその分離面6i,6iが適正に衝合する円環状体に保持するに充分な緊縛力と第二密封環6の第二リテーナ5に対する相対回転を阻止するに充分な摩擦係合力とが確保されることを条件として、適宜に設定される。
【0026】以上のように構成された第一メカニカルシールにあっては、密封環4,6を軸線方向に所定間隔を隔てた二本のOリング10,11又は13,14で緊縛するようにしたことから、密封環4,6とリテーナ3,5との間にOリング10,11又は13,14による十分な摩擦係合力が生じて、従来シールにおける如きドライブピン111を使用せずとも、密封環4,6のリテーナ3,5に対する相対回転が確実に阻止される。しかも、一本のOリングにより緊縛した場合に比して、両密封環部分4f,4f又は6f,6fが強力に衝合一体化されることになる。 したがって、密封端面4a,6aの分割部分が開くようなことがなく、密封端面4a,6aの相対回転も適正に行われる。
【0027】また、密封環4,6には、スプリング部材8による附勢力(及び機内領域Hの流体圧による押圧力)によって軸線方向荷重が作用するが、かかる軸線方向荷重は、第一Oリング10,13を介してリテーナ3,5で受け止められる。すなわち、軸線方向荷重は密封環側の第一係止部4h,6hから第一Oリング10,13に伝えられ、リテーナ側の第二係止部3d,5bで受け止められる。したがって、軸線方向荷重を受け止めるリテーナ側部分(第二係止部3d,5b)と密封端面4a,6aとの表面加工精度差や密封環4,6とリテーナ3,5との材質による熱膨張係数差が如何に大きくとも、これらによる密封端面4a,6aへの影響は第一Oリング10,13による弾性変形によって吸収され、密封端面4a,6aが分割部分において軸線方向に齟齬(ズレ)するようなことがなく、密封端面4a,6aの表面精度が適正に保持される。なお、対向する分割面4i,4i又は6i,6iが上述した如く不規則な凹凸面をなして軸線方向に相対変位しない状態に凹凸係合するように工夫しておくことによって、二本のOリング10,11又は13,14により緊縛力が増大されることとも相俟って、軸線方向のズレが更に効果的に防止されることになる。
【0028】このように、密封端面4a,6aの分割部分が開いたり、軸線方向に齟齬したりすることがないから、密封端面4a,6aの相対回転摺接作用が適正に行われ、良好なシール機能が発揮される。
【0029】また、第一メカニカルシールにあっては、密封環4,6のシールケース1又は回転軸2からの取り外しを容易に行うことができ、密封環4,6の交換,修理等の保守,点検作業を効率よく且つ容易に行うことができる。
【0030】すなわち、ケース本体1aから端部壁1bを外して、第二リテーナ5及びこれに嵌合保持されている第二密封環6を左方向に移動させた上、第二密封環6を第二リテーナ5から右方向に抜き出すことにより、第二密封環6の取り外し及び分解を行うことができる。しかる後、第一密封環4を第一リテーナ3から左方向に抜き出すことにより、第一密封環4の取り外し及び分解を行うことができる。
【0031】このとき、密封環4,6及びリテーナ3,5とOリング10,11,13,14との間に機内領域Hの流体に含まれている凝固成分等が侵入堆積することによって、密封環4,6やOリング10…のリテーナ3,5からの抜き出し,取り出しが困難となる場合があるが、かかる場合には、密封環4,6の外周部に形成した環状凹部4g,6gに引っ掛けた適宜の抜き出し工具により、当該抜き出し,取り出し作業を容易に行うことができる。
【0032】また、図3及び図4は第二の実施の形態を示したもので、この実施の形態における本発明に係るメカニカルシール(以下第二メカニカルシールという)は、第一メカニカルシールと同様に、円形の内周部を有するシールケース21とこれを左右方向に同心状に洞貫する回転軸22との間に組み込まれた分割形のものであり、回転軸22に固定された第一リテーナ23と、第一リテーナ23に保持された第一密封環24と、シールケース21の内周部に保持された第二リテーナ25と、第一リテーナ25に第一密封環24と同心対向状に保持された第二密封環26とを具備して、スプリング部材28により第二リテーナ25を介して第二密封環26を第一密封環24へと押圧接触させることによって、両密封環24,26の対向端面である密封端面24a,26aの相対回転摺接部分において、その外周側領域である機内領域Hとその内周側領域である機外領域(大気領域)Lとをシールするように構成されている。
【0033】シールケース21は、図3に示す如く、回転機器のハウジングに取り付けられたケース本体21aと、その先端部(左端部)に取り付けられたリテーナ保持壁21bと、その先端部に取り付けられた端部壁21cとからなる。
【0034】第一リテーナ23は、図3に示す如く、ケース本体21a内に配置されており、回転軸22にOリング29による二次シール状態で嵌合固定された円環状の本体部23aと、その先端部(左端部)に突設された円筒状の保持部23bとからなる。保持部23bの外径は本体部23aと同一であるが、その内径は本体部23aより大きく設定されている。
【0035】第一密封環24は、図3及び図4に示す如く、基端部(右端部)24bの外径を先端部24cより小さくした円環状体であり、先端部24cの端面を軸線に直交する平滑な環状平面である密封端面24aに形成してある。第一密封環24は、第一メカニカルシールにおける第一密封環4と同様に、前記した自然割により径方向に二分割されている。すなわち、第一密封環24の分割面は、微細且つ不規則な凹凸面とされている。
【0036】而して、第一密封環24は、図3及び図4に示す如く、その基端部24bと第一リテーナ23の保持部23bとの対向周面部間に左右方向に並列する第一及び第二Oリング30,31を充填させることによって、第一リテーナ23に嵌合保持されている。第二Oリング31は、第一リテーナ23の保持部23bの内周中間部に突設した第二係止部23cと本体部23aとの間に配置されていて、両部23a,23cによる係止作用により左右方向への飛び出しを阻止されている。一方、第一Oリング30は、第二係止部23cとこれに対向する第一密封環24の先端部24cの端面で構成される第一係止部24dとの間に配置されていて、第一係止部24dによる係止作用により、第一密封環24に対するその密封端面方向(左方向)への相対移動が阻止されている。また、第一Oリング30の第一リテーナ23に対する上記と逆方向(右方向)への相対移動は、第一メカニカルシールにおける第一Oリング10,13のように第二係止部3d,5bによる直接的な係止作用によって阻止される場合と異なって、第一Oリング30と第二係止部23cとの間に配置したスペーサ33を介した間接的な第二係止部23cによる係止作用によって阻止されている。すなわち、スペーサ33は、第一リテーナ23の保持部23bの内周部に嵌合された円環状板であり、第一係止部24dから離間する方向への移動を第二係止部23cにより係止されている。したがって、第一Oリング30の第一リテーナ23に対する上記方向への相対移動の阻止は、直接的には、第二係止部23cに係止されたスペーサ33により行われることになる。なお、両係止部23c,24dの対向端面は、軸線に直交する環状平面である。
【0037】第二リテーナ25は、図3に示す如く、リテーナ保持壁21bの内周部にOリング34による二次シール状態で軸線方向移動可能に嵌合保持された円筒状の本体部25aと、本体部25aの先端部(右端部)から外方に突出する円環状の鍔部25bと、鍔部25bの外周端部に第一密封環方向へと突設された円筒状の保持部25cとからなる。
【0038】而して、第二リテーナ25は、その回転をシールケース21との間に設けた回転阻止手段により阻止されている。すなわち、回転阻止手段は、図3に示す如く、第二リテーナ25の本体部25aに嵌合固定された固定環27aと、端部壁21cに取り付けられた環状板27bと、環状板27bを貫通して固定環27aに固着されたドライブピン27cとからなり、第二リテーナ25の軸線方向移動を許容しつつ、そのシールケース21に対する相対回転を阻止する。
【0039】また、固定環27aと環状板27bとの間には、回転軸22の周囲に適当間隔を隔てて配置した複数個のスプリング部材(圧縮コイルスプリング)28が介装されていて、第二リテーナ25を第一密封環方向(左方向)に附勢して、第二密封環26を第一密封環24に押圧接触させるようになっている。第二密封環26は、図3及び図4に示す如く、基端部(左端部)26bの外径を先端部26cより小さくした円環状体であり、先端部26cの端面を軸線に直交する平滑な環状平面である密封端面26aに形成してある。第二密封環26は、第一密封環24と同様に、前記した自然割により径方向に二分割されている。すなわち、第二密封環26の分割面は、微細且つ不規則な凹凸面とされている。
【0040】而して、第二密封環26は、図3及び図4に示す如く、その基端部26bと第二リーナ25の保持部25cとの対向周面部間に左右方向に並列する第一及び第二Oリング35,36を充填させることによって、第二リテーナ25に嵌合保持されている。第二Oリング36は、第二リテーナ25の保持部25cの内周中間部に突設した第二係止部25dと鍔部25bとの間に配置されていて、両部25b,25dによる係止作用により左右方向への飛び出しを阻止されている。一方、第一Oリング35は、第二係止部25dとこれに対向する第二密封環26の先部26cの端面で構成される第一係止部26dとの間に配置されていて、第一係止部26dによる係止作用により、第二密封環26に対するその密封端面方向(右方向)への相対移動が阻止されている。また、第一Oリング35の第二リテーナ25に対する上記と逆方向(左方向)への相対移動は、上記した第一Oリング30と同様に、第一Oリング35と第二係止部25dとの間に配置したスペーサ37を介した間接的な第二係止部25dによる係止作用によって阻止されている。スペーサ37は、上記したスペーサ33と同様に、第二リテーナ25の保持部25cの内周部に嵌合された円環状板であり、第一係止部26dから離間する方向への移動を第二係止部25dにより係止されている。また、両係止部25d,26dの対向端面は、軸線に直交する環状平面である。
【0041】なお、リテーナ23,25の保持部23b,25cの内周部と密封環24,26の基端部24b,26bの外周部との径方向間隔つまり第一Oリング30,35及び第二Oリング31,36の締代は、第一及び第二Oリング30,31又は35,36により密封環24,26をその分離面が適正に衝合する円環状体に保持するに充分な緊縛力と密封環24,26のリテーナ23,25に対する相対回転を阻止するに充分な摩擦係合力とが確保されることを条件として、適宜に設定される。
【0042】以上のように構成された第二メカニカルシールにあっては、第一メカニカルシールと同様に、冒頭で述べた従来シールのような問題を生じることなく、良好なシール機能が発揮される。
【0043】すなわち、密封環24,26を軸線方向に並列する二本のOリング30,31又は35,36で緊縛するようにしたことから、密封環24,26とリテーナ23,25との間にOリング30,31又は35,36による十分な摩擦係合力が生じて、従来シールにおける如きドライブピン111を使用せずとも、密封環24,26のリテーナ23,25に対する相対回転が確実に阻止される。しかも、一本のOリングにより緊縛した場合に比して、密封環24,26の分割部分が強力に衝合一体化されることになる。したがって、密封端面24a,26aの分割部分が開くようなことがなく、密封端面24a,26aの相対回転も適正に行われる。
【0044】また、密封環24,26には、スプリング部材28による附勢力(及び機内領域Hの流体圧による押圧力)によって軸線方向荷重が作用するが、かかる軸線方向荷重は、第一Oリング30,35を介してリテーナ23,25で受け止められる。すなわち、軸線方向荷重は密封環側の第一係止部24d,26dから第一Oリング30,35に伝えられ、スペーサ33,37を介してリテーナ側の第二係止部23c,25dで受け止められる。したがって、軸線方向荷重を受け止める部分(スペーサ33,37ないし第二係止部23c,25d)と密封端面24a,26aとの表面加工精度差や密封環24,26とリテーナ23,25との材質による熱膨張係数差が如何に大きくとも、これらによる密封端面24a,26aへの影響は第一Oリング30,35による弾性変形によって吸収され、密封端面24a,26aが分割部分において軸線方向に齟齬(ズレ)するようなことがなく、密封端面24a,26aの表面精度が適正に保持される。なお、密封環24,25の分割面を、これらが上述した如く不規則な凹凸面をなして軸線方向に相対変位しない状態に凹凸係合するように工夫しておくことによって、二本のOリング30,31又は35,36により緊縛力が増大されることとも相俟って、軸線方向のズレが更に効果的に防止されることになる。
【0045】このように、密封端面24a,26aの分割部分が開いたり、軸線方向に齟齬したりすることがないから、密封端面24a,26aの相対回転摺接作用が適正に行われ、良好なシール機能が発揮される。
【0046】また、第二メカニカルシールにあっては、密封環24,26のシールケース21又は回転軸22からの取り外しを容易に行うことができ、密封環24,26の交換,修理等の保守,点検作業を効率よく且つ容易に行うことができる。
【0047】すなわち、ケース本体21aからリテーナ保持壁21b及び端部壁21cを外して、第二リテーナ25及びこれに嵌合保持されている第二密封環26を左方向に移動させた上、第二密封環26を第二リテーナ25から右方向に抜き出すことにより、第二密封環26の取り外し及び分解を行うことができる。しかる後、第一密封環24を第一リテーナ23から左方向に抜き出すことにより、第一密封環24の取り外し及び分解を行うことができる。
【0048】このとき、第二メカニカルシールでは、平行対向面間である密封環24,26とリテーナ23,25との対向周面部間(密封環基端部24b,26bの外周部とリテーナ保持部23b,25cの内周部との間)に並列状に配置された二本のOリング30,31又は35,36がスペーサ33,37(及び第二係止部23c,25d)により相互接触しないように工夫されているから、Oリング30,31又は35,36による摩擦係合力によって密封環24,26のリテーナ23,25からの抜き出しが困難となるような虞れがなく、当該抜き出し作業を容易に行うことができる。
【0049】例えば、図8に示す如く、平行対向面をなす第一密封環24の基端部24bの外周部と第一リテーナ23の保持部23bの内周部との間に第一及び第二OリングOリング30,31が並列配置されている場合、密封環抜き出しに伴ってリテーナ保持部23bと密封環基端部24bとが矢印方向に相対移動すると、各Oリング30,31の断面部分においては、リテーナ保持部23bへの摩擦係合点A,aと密封環基端部24bへの摩擦係合点B,bとが両部23b,24bの相対移動に追従変位するため、図8に矢印で示す同一方向(矢印方向)への回転が生じる。しかし、両Oリング30,31が、図8に示す如く、相互に接触していると、その接触点Cにおける両Oリング30,31の回転方向が異なるため、各Oリング30,31の回転が接触点Cにおいて相互干渉して妨げられることになる。したがって、両部23b,24b間におけるOリング30,31を介しての動摩擦力が大きくなり、両部23b,24bの相対移動つまり密封環24の抜き出しが極めて困難となる。
【0050】しかし、第一及び第二Oリング30,31又は35,36の相互接触をスペーサ33,37(及び第二係止部23c,25d)により回避しておくと、上記した各Oリングの断面部分における同一方向への回転が円滑に行われる。すなわち、リテーナ保持部23b,25cと密封環基端部24b,26bとの軸線方向への相対移動が、その相対移動方向に第一Oリング30,35及び第二Oリング31,36が夫々転動しつつ、行われることになる。したがって、リテーナ保持部23b,25cと密封環基端部24b,26bとの間におけるOリング30,31又は35,36を介しての動摩擦力が小さくなり、密封環24,26のリテーナ23,25からの抜き出しを極めて容易に行うことができる。
【0051】なお、本発明は上記した各実施の形態に限定されるものではなく、本発明の基本原理を逸脱しない範囲において、適宜に改良,変更することができる。例えば、第二メカニカルシールにおいて、図6に示す如く、前記した第二係止部23c,25dを廃して、第二Oリング31,36を受け止めるリテーナ23,25の基端部23a又は鍔部25bの端面部を第二係止部23e,25eとなし、第一Oリング30,35の第二係止部23e,25eによる係止作用が第二Oリング31,36及びスペーサ33,37を介して間接的に行われるように構成しておいてもよい。すなわち、密封環24,26に作用する軸線方向荷重が、第一及び第二Oリング30,31又は35,36及びスペーサ33,37を介して、第二係止部23e,25eに受け止められるようにしておいてもよい。また、第二メカニカルシールにおいて、図7に示す如く、スペーサ33,37を廃しておくこともできる。
【0052】また、上記した各実施の形態にあっては、相対回転摺接する両密封環を分割構造としたが、当該メカニカルシールの各構成部材の寸法や使用条件等によっては何れか一方の密封環のみを分離構造としておいてもよい。また、必要に応じて、各Oリングとして、周方向の一箇所を切離したものを使用してもよい。さらに、密封環やOリング以外のメカニカルシール構成部材についても、必要に応じて、径方向に分割した構造となしておいてもよい。
【0053】
【発明の効果】以上の説明から容易に理解されるように、本発明のメカニカルシールは、分割構造とされた密封環の密封端面をこれを保持するリテーナの加工精度や熱歪等の影響を受けることなく適正な表面形態に維持させておくことができ、常に良好なシール機能を発揮させることができるものである。しかも、密封環の抜き出し,分解等の保守,点検作業を効率良く容易に行うことができ、極めて実用的な価値の高いものである。
【出願人】 【識別番号】000229737
【氏名又は名称】日本ピラー工業株式会社
【出願日】 平成11年11月16日(1999.11.16)
【代理人】 【識別番号】100082474
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 丈夫
【公開番号】 特開2001−141074(P2001−141074A)
【公開日】 平成13年5月25日(2001.5.25)
【出願番号】 特願平11−326054