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【発明の名称】 動力伝達装置
【発明者】 【氏名】山崎 淳

【要約】 【課題】変速機のケースに装着される入力軸の取付け精度に拘らず、湿式摩擦クラッチを所定の位置に配置することができる流体継手および湿式摩擦クラッチを有する動力伝達装置を提供する。

【解決手段】エンジンによって作動せしめられる流体継手と、流体継手と変速機との間に配設され流体継手の出力軸と変速機の入力軸の一方に装着されたクラッチアウタと出力軸と入力軸の他方に装着されたクラッチセンタとを備えた湿式摩擦クラッチと、流体継手および摩擦クラッチを収容し変速機のケースに連結された継手ハウジングとを具備する動力伝達装置であって、入力軸にスプライン嵌合するクラッチセンタまたはクラッチアウタのハブと継手ハウジングまたは変速機のケースとの互いに対向する側面の間にスラスチ軸受が配設されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 エンジンによって作動せしめられる流体継手と、該流体継手と変速機との間に配設され該流体継手の出力軸と該変速機の入力軸の一方に装着されたクラッチアウタと該出力軸と該入力軸の他方に装着されたクラッチセンタとを備えた湿式摩擦クラッチと、該流体継手が配設される流体継手収容室と該湿式摩擦クラッチが配設される摩擦クラッチ収容室とを備え該変速機のケースに連結された継手ハウジングと、を具備する動力伝達装置において、該入力軸にスプライン嵌合する該クラッチセンタまたは該クラッチアウタのハブと該継手ハウジングまたは該変速機のケースとの互いに対向する側面の間にスラスト軸受を配設した、ことを特徴とする動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、動力伝達装置、更に詳しくはエンジンによって作動せしめられる流体継手と、該流体継手と変速機との間に配設された摩擦クラッチとを具備する動力伝達装置に関する。
【0002】
【従来の技術】流体継手(フルードカップリング)は船舶用、産業機械用、自動車用の動力伝達継手として従来から用いられている。流体継手を装備した車両用動力伝達装置は、例えば特開昭55ー159360号公報に開示されている。該公報に開示された車両用動力伝達装置は、車両に搭載されたエンジンによって作動せしめられる流体継手と、該流体継手に伝動連結された摩擦クラッチと、該摩擦クラッチに伝動連結された変速機が直列に配設されている。このような車両用動力伝達装置に装備される流体継手は、例えばディーゼルエンジンのクランクシャフト(流体継手としての入力軸)に連結されたケーシングと、該ケーシングと対向して配設され該ケーシングに取り付けられたポンプと、該ポンプと対向して配設され入力軸と同一軸線上に配置された出力軸に取り付けられたタービンとを具備しており、トルク伝達用の作動流体が収容されている。この作動流体は上記ポンプとタービンとによって形成される作動室内を旋回するために熱を発生する。このため、上記公報に開示された流体継手は、空冷式によって上記作動油の冷却を行っている。また、上記作動流体を循環させて放熱する作動油循環式の流体継手装置も用いられている。一方、流体継手と変速機との間に配設される摩擦クラッチとしては、一般に乾燥単板式クラッチが使用されているが、クラッチフェーシングの摩耗等を考慮して湿式摩擦クラッチを用いることが考えられる。これら流体継手および湿式摩擦クラッチはハウジング内に配設される。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上述したような動力伝達装置において、湿式摩擦クラッチは流体継手の出力軸と変速機の入力軸の一方に装着されたクラッチアウタと該出力軸と該入力軸の他方に装着されたクラッチセンタとを備えている。このような湿式摩擦クラッチを所定の位置に配置する必要がある。しかるに、変速機の入力軸に装着されるクラッチセンタまたはクラッチアウタを入力軸との間で位置決めすると、変速機のケースに装着される入力軸の取付け誤差が湿式摩擦クラッチの配置に影響を及ぼす。
【0004】本発明は上記事実に鑑みてなされたもので、その主たる技術的課題は、変速機のケースに装着される入力軸の取付け精度に拘らず、湿式摩擦クラッチを所定の位置に配置することができる流体継手および湿式摩擦クラッチを有する動力伝達装置を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明によれば、上記主たる技術的課題を解決するために、エンジンによって作動せしめられる流体継手と、該流体継手と変速機との間に配設され該流体継手の出力軸と該変速機の入力軸の一方に装着されたクラッチアウタと該出力軸と該入力軸の他方に装着されたクラッチセンタとを備えた湿式摩擦クラッチと、該流体継手が配設される流体継手収容室と該湿式摩擦クラッチが配設される摩擦クラッチ収容室とを備え該変速機のケースに連結された継手ハウジングと、を具備する動力伝達装置において、該入力軸にスプライン嵌合する該クラッチセンタまたは該クラッチアウタのハブと該継手ハウジングまたは該変速機のケースとの互いに対向する側面の間にスラスト軸受を配設した、ことを特徴とする動力伝達装置が提供される。
【0006】
【発明の実施の形態】以下、本発明に従って構成された動力伝達装置の好適実施形態を図示している添付図面を参照して、更に詳細に説明する。
【0007】図1には、本発明に従って構成された動力伝達装置の縦断面図が示されている。図1に示す動力伝達装置は、原動機としてのディーゼルエンジン2と、流体継手(フルードカップリング)4と、湿式多板摩擦クラッチ8および手動変速機10とから構成され、これらは直列に配設されている。
【0008】図示の実施形態における動力伝達装置は、上記流体継手4および湿式多板摩擦クラッチ8を収容する継手ハウジング3を具備している。継手ハウジング3は、エンジン側である一端側(図1において左端側)が開放され、変速機側である他端側(図1において右端側)に仕切り壁31を備えている。この継手ハウジング3は、図示の実施形態においてはアルミダイキャストによって一体成形され、軸方向中央部に中間壁32が設けられており、該中間壁32によって流体継手収容室3aと摩擦クラッチ収容室3bに区画されている。このように構成された継手ハウジング3は、エンジン2側(図1において左端側)がディーゼルエンジン2に装着されたハウジング22にボルト23等の締結手段によって取り付けられており、変速機側(図1において右端側)が手動変速機10のケース100にボルト24によって取り付けられている。
【0009】次に、流体継手4について図2を参照して説明する。流体継手4は、上記継手ハウジング3の流体継手収容室3a内に配設されている。図示の実施形態における流体継手4は、ケーシング41とポンプ42およびタービン43を具備している。ケーシング41は、上記ディーゼルエンジン2のクランク軸21(図1参照)にボルト24によって内周部が装着されたドライブプレート44の外周部にボルト441、ナット442等の締結手段によって装着されている。なお、上記ドライブプレート44の外周には、図示しないスタータモータの駆動歯車と噛合する始動用のリングギヤ45が装着されている。
【0010】ポンプ42は上記ケーシング41と対向して配設されている。このポンプ42は、椀状のポンプシェル421と、該ポンプシェル421内に放射状に配設された複数個のインペラ422とを備えており、ポンプシェル421が上記ケーシング41に溶接等の固着手段によって取り付けられている。従って、ポンプ42のポンプシェル421は、ケーシング41およびドライブプレート44を介してクランク軸21に連結される。このため、クランク軸21は流体継手4の入力軸として機能する。
【0011】タービン43は上記ポンプ42とケーシング41によって形成された室にポンプ42と対向して配設されている。このタービン43は、上記ポンプ42のポンプシェル421と対向して配設された椀状のタービンシェル431と、該タービンシェル431内に放射状に配設された複数個のランナ432とを備えている。タービンシェル431は、上記入力軸としての上記クランク軸21と同一軸線上に配設された出力軸46にスプライン嵌合されたタービンハブ47に溶接等の固着手段によって取り付けられている。
【0012】図示の実施形態における流体継手4は、上記ケーシング41とタービン43とを直接伝動連結するためのロックアップクラッチ50を具備している。ロックアップクラッチ50は、ケーシング41とタービン43との間に配設されケーシング41との間に外側室40aを形成するとともにタービン43との間に内側室40bを形成するクラッチディスク51を備えている。このクラッチディスク51は、内周縁が上記タービンハブ47の外周に相対回転可能でかつ軸方向に摺動可能に支持されており、その外周部には上記ケーシング41と対向する面にクラッチフェーシング52が装着されている。また、クラッチディスク51の外周部における内側室40b側には、環状の凹部53が形成されており、この凹部53にそれぞれ支持片54によって支持された複数個のダンパースプリング55が所定の間隔を置いて配設されている。この複数個のダンパースプリング55の両側には上記クラッチディスク51に取り付けられた入力側リテーナ56が突出して配設されているとともに、各ダンパースプリング55間には上記タービン43のタービンシェル431に取り付けられた出力側リテーナ57が突出して配設されている。
【0013】図示の実施形態におけるロックアップクラッチ50は以上のように構成されており、その作動について説明する。上記内側室40b側の作動流体の圧力が外側室40aの作動流体の圧力より高い場合、即ち後述する流体作動手段6によって供給される作動流体がポンプ42とタービン43とによって形成される作動室4aから内側室40bを通して外側室40aに流れる場合には、上記クラッチディスク51が図1において左方に押圧されるので、クラッチディスク51に装着されたクラッチフェーシング52がケーシング41に押圧されて摩擦係合する(ロックアップクラッチ接)。従って、ケーシング41とタービン43は、クラッチフェーシング52、クラッチディスク51、入力側リテーナ56、ダンパースプリング55、出力側リテーナ57を介して直接伝動連結される。一方、上記外側室40aの作動流体の圧力が内側室40b側の作動流体の圧力より高い場合、即ち後述する流体作動手段6によって供給される作動流体が外側室40aから内側室40bを通してポンプ42とタービン43とによって形成される作動室4aに循環する場合には、上記クラッチディスク51が図1において右方に押圧されるので、クラッチディスク51に装着されたクラッチフェーシング52はケーシング41と摩擦係合せず(ロックアップクラッチ断)、従って、ケーシング41とタービン43との伝動連結は解除されている。
【0014】上記継手ハウジング3の中間壁32には、ポンプハウジング61、62がボルト63等の固着手段によって取り付けられている。このポンプハウジング61、62内には、後述する流体作動手段6の流体圧源としての油圧ポンプ60が配設されている。また、ポンプハウジング61、62には、後述する流体作動手段6を構成する各制御弁が配設されているとともに、作動流体通路が形成されている。ポンプハウジング61、62内に配設された油圧ポンプ60は、上記ポンプ42のポンプシェル421に取り付けられポンプハウジング61に軸受481を介して回転可能に支持されたポンプハブ48によって回転駆動されるように構成されている。また、ポンプハウジング61、62には、油圧ポンプ60の吸入口に連通する吸入通路66aが形成されている。この吸入通路66aは継手ハウジング3の中間壁32に設けられた吸い込み通路32aに連通している。吸い込み通路32aは継手ハウジング3に一体に形成されており、吸い込み口32bが摩擦クラッチ収容室3bの底壁部に向けて開口されており、この吸い込み口32bにフィルタ67が装着されている。
【0015】図示の実施形態においては、摩擦クラッチ収容室3bの底部に規定される流体貯留部30bには作動流体が収容されており、この作動流体が上記油圧ポンプ60の作動によりフィルタ67を通して吸い込まれるようになっている。従って、摩擦クラッチ収容室3bの流体貯留部30bは、作動流体を貯留するリザーブタンクとして機能する。このように図示の実施形態においては、吸い込み通路32aがポンプハウジング61、62を装着する継手ハウジング3の中間壁32に設けられているので、流体貯留部30bに収容された作動流体を吸い込むための吸い込み機構を別途設ける必要がなく、部品点数を低減することができる。また、吸い込み機構を構成する部品の接合部は継手ハウジング3の中間壁32とポンプハウジング61、62との接合のみであるため、接合部が少なく空気の吸い込み性が改善される。
【0016】なお、上記ポンプハブ48の外周面とポンプハウジング61の端部との間には、オイルシール482が配設されている。また、ポンプハブ48と上記出力軸46との間には、筒状部材64が配設されており、該筒状部材64とポンプハブ48との間に上記上記流体継手4のポンプ42とタービン43とによって形成される作動室4aと連通する通路641が形成されている。なお、上記出力軸46には作動流体の通路461が設けられている。この通路461は、その一端が出力軸46の図において左端面に開口し上記外側室40aと連通しており、その他端が出力軸46の外周面に開口している。
【0017】次に、上記湿式多板摩擦クラッチ8について図2を参照して説明する。湿式多板摩擦クラッチ8は、上記継手ハウジング3の摩擦クラッチ収容室3b内に配設されており、クラッチアウタ81とクラッチセンタ82とを備えている。クラッチアウタ81はドラム状に形成されており、その内周部には上記流体継手4の出力軸46とスプライン嵌合するハブ811が設けられている。クラッチアウタ81の外周部内面には内歯スプライン812が設けられており、この内歯スプライン812に複数枚の摩擦板83が軸方向に摺動可能に嵌合されている。また、クラッチアウタ81の中間部には環状のシリンダ813が形成されており、該環状のシリンダ813を構成する内周壁814が上記ポンプハウジング62のボス部621の外周面に相対回転可能に嵌合されている。環状のシリンダ813内には、上記摩擦板83と後述する摩擦板87を押圧するための押圧ピストン84が配設されている。この環状のシリンダ813と押圧ピストン84とによって形成される液圧室815は、環状のシリンダ813を構成する内周壁814に設けられた通路816および上記ポンプハウジング62のボス部621に設けられた通路622を介して後述する流体作動手段6に連通している。なお、クラッチアウタ81のハブ811と押圧ピストン84との間にはプレート85が装着されており、このプレート85と押圧ピストン84との間に圧縮コイルばね86が配設されている。従って、押圧ピストン84は、圧縮コイルばね86のばね力によって常に図2において左方に移動すべく押圧されている。
【0018】上記クラッチセンタ82は円盤状に形成されており、その内周部には変速機10の入力軸101とスプライン嵌合するハブ821が設けられている。クラッチセンタ82の外周面には外歯スプライン822が設けられており、この外歯スプライン822に複数枚の摩擦板87が軸方向に摺動可能に嵌合されている。クラッチセンタ82に装着された複数枚の摩擦板87と上記クラッチアウタ81に装着された複数枚の摩擦板83とは、それぞれ交互に配設されている。図示の実施形態においては、クラッチセンタ82のハブ821と継手ハウジング3の仕切り壁31の互いに対向する側面の間にスラスト軸受880が配設されている。このスラスト軸受880は、図示の実施形態においては上記仕切り壁31に設けられた環状凹部31aに嵌合されている。従って、ハブ821の仕切り壁31と対向する側面を仕切り壁31に設けられた環状凹部31aに嵌合したスラスト軸受880に当接することにより、クラッチセンタ82を継手ハウジング3に対して位置決めすることができる。また、クラッチセンタ82のハブ821とクラッチアウタ81のハブ811および流体継手4の出力軸46の互いに対向する側面の間にスラスト軸受881が配設されているとともに、クラッチアウタ81のハブ811とポンプハウジング62のボス部621との間にもスラスト軸受882が配設されている。
【0019】図示の実施形態における湿式多板摩擦クラッチ8は以上のように構成されており、クラッチセンタ82のハブ821と継手ハウジング3の仕切り壁31の互いに対向する側面の間にスラスト軸受880が配設されているので、ハブ821の側面をスラスト軸受880に当接することにより、クラッチセンタ82を継手ハウジング3に対して位置決めすることができる。例えば、変速機10の入力軸101とスプライン嵌合するハブ821を入力軸101に対して位置決めするように構成した場合には、変速機のケースないし継手ハウジング3に装着される入力軸の取付け位置が軸方向(図2において左右方向)にずれると、ハブ821即ちクラッチセンタ82の位置が軸方向にずれる。クラッチセンタ82の位置が変速機側(図2において右側)にずれると、クラッチアウタ81およびポンプハウジング62を組み付けたとき、それぞれの間にガタが発生する。一方、クラッチセンタ82の位置が流体継手4側(図2において左側)にずれると、クラッチアウタ81およびポンプハウジング62を組み付けたとき、継手ハウジング3の中間壁32とポンプハウジング62との間に隙間が発生する。このようにクラッチセンタ82のハブ821を変速機10の入力軸101に対して位置決めするように構成した場合には、入力軸の取付け誤差が湿式摩擦クラッチの配置に影響を及ぼす。しかるに、図示の実施形態においてはクラッチセンタ82のハブ821と継手ハウジング3の仕切り壁31の互いに対向する側面の間にスラスト軸受880が配設されているので、クラッチセンタ82はハブ821の側面をスラスト軸受880に当接することにより、クラッチセンタ82を継手ハウジング3に対して位置決めすることができるため、入力軸101の取付け位置が軸方向にずれても継手ハウジング3に対して常に所定位置に配置することができる。このように、クラッチセンタ82を継手ハウジング3に対して常に所定位置に配置することができるので、クラッチセンタ82を基準にしてクラッチアウタ81やポンプハウジング62を組み付けることにより湿式多板摩擦クラッチ8を所定位置に組み付けることができる。
【0020】なお、図示の実施形態においては、クラッチセンタ82のハブ821と継手ハウジング3の仕切り壁31との間にスラスト軸受880を配設した例を示したが、仕切り壁31を備えていない継手ハウジングの場合には、後述する手動変速機10のケース100の端壁とクラッチセンタ82のハブ821との間にスラスト軸受880が配設される。また、図示の実施形態においては、クラッチセンタ82のハブ821と継手ハウジング3の仕切り壁31との間にスラスト軸受880を配設した例を示したが、クラッチアウタ81が変速機10の入力軸101に装着されクラッチセンタ82が流体継手4の出力軸64に装着される湿式摩擦クラッチにおいては、クラッチアウタ81のハブ811と継手ハウジング3の仕切り壁31または手動変速機10のケース100の端壁との間にスラスト軸受880が配設される。
【0021】図示の実施形態における湿式多板摩擦クラッチ8は以上のように構成されており、後述する流体作動手段6によって作動流体が液圧室815に供給されない図1に示す状態においては、押圧ピストン84は圧縮コイルばね86のばね力によって左方位置(係合解除位置)に位置付けられている。このため、複数枚の摩擦板83と複数枚の摩擦板87とは押圧されないので、複数枚の摩擦板83と複数枚の摩擦板87とが摩擦係合せず、流体継手4の出力軸46から変速機10の入力軸101への動力伝達が遮断されている。後述する流体作動手段6によって作動流体が液圧室815に供給されると、押圧ピストン84が圧縮コイルばね86のばね力に抗して図1において右方の移動せしめられる。この結果、複数枚の摩擦板83と複数枚の摩擦板87とが押圧され互いに摩擦係合するので、流体継手4の出力軸46に伝達された動力はクラッチアウタ81、複数枚の摩擦板83、87およびクラッチセンタ82を介して変速機10の入力軸101に伝達される。
【0022】図示の実施形態における湿式多板摩擦クラッチ8は、複数枚の摩擦板83および複数枚の摩擦板87を冷却するために、上記流体継手4を循環する作動流体が後述する流体作動手段6によって供給されるように構成されている。流体継手4の出力軸46の外周面と上記ポンプハウジング62のボス部621との間には通路891が形成されており、この通路891が後述する流体作動手段6に連通している。通路891に供給された作動流体は、出力軸46とクラッチアウタ81のハブ811とのスプライン嵌合部を潤滑し、出力軸46とクラッチセンタ82のハブ821との間に入り、スラスト軸受881を潤滑した後に複数枚の摩擦板83および複数枚の摩擦板87に供給される。また、通路891に供給された作動流体は、スラスト軸受882を潤滑した後に、クラッチアウタ81の設けられた通路817を通って複数枚の摩擦板83および複数枚の摩擦板87に供給される。なお、流体継手4の出力軸46には上記通路891と変速機10の入力軸101を支持する支持部とを連通する通路463が設けられている。従って、通路891に供給された作動流体は、通路891を通して上記入力軸101を回転自在に支持する軸受108を潤滑し、更に変速機10の入力軸101とクラッチセンタ82のバブ821とのスプライン嵌合部を潤滑する。このように湿式多板摩擦クラッチ8の各部を潤滑ないし冷却した作動流体は、摩擦クラッチ収容室3bに放出され、リザーブタンクとして機能する流体貯留部30bに貯留される。
【0023】次に、流体作動手段6について、図3を参照して説明する。流体作動手段6は、上記油圧ポンプ60が作動することにより、リザーブタンクとして機能する流体貯留部30bに貯留された作動流体をフィルタ67、吸い込み通路32a、通路32aを通して吸い込み、後述するように循環せしめる。油圧ポンプ60によって吸い込まれた作動流体は通路66bに吐出される。通路66bに吐出された作動流体は、通路66cおよびロックアップクラッチ用方向制御弁68を介して上記出力軸46に設けられた通路461と連通する通路66d、または上記流体継手4の作動室4aに連通する通路641と連通する通路66eに供給される。ロックアップクラッチ用方向制御弁68にパイロット圧を作用せしめるために、上記通路66bとロックアップクラッチ用方向制御弁68とを連絡するパイロット通路66fが設けられており、該パイロット通路66fにロックアップクラッチ用電磁切換弁69が配設されている。なお、ロックアップクラッチ用電磁切換弁69は、車両の走行速度に基づいて車両の走行速度が所定値以上になると図示しない制御手段によって付勢(ON)される。
【0024】ロックアップクラッチ用電磁切換弁69が除勢(OFF)している図2に示す状態のときには、パイロット通路66fが遮断されており、ロックアップクラッチ用方向制御弁68にはパイロット圧が作用しない。従って、ロックアップクラッチ用方向制御弁68は図2に示す状態に位置付けられており、通路66cと通路66dが連通するとともに、通路66eと戻り通路66gが連通している。この結果、油圧ポンプ60によって通路66bに吐出された作動流体は、通路66c、通路66d、通路461、流体継手4の外側室40a、内側室40b、ポンプ42とタービン43とによって形成される作動室4a、通路641、通路66e、戻り通路66g、該戻り通路66gに配設された逆止弁70および冷却器71を通して流体貯留部30bに循環される。このように作動流体が循環するときは、外側室40aの流体圧が内側室40bの流体圧より高いので、ロックアップクラッチ50は上述したように摩擦係合しない(ロックアップクラッチ断)。
【0025】一方、ロックアップクラッチ用電磁切換弁69が付勢(ON)されると、パイロット通路66fが連通されロックアップクラッチ用方向制御弁68にはパイロット圧が作用してロックアップクラッチ用方向制御弁68が作動せしめられて、通路66cと通路66eが連通するとともに、通路66dと流体貯留部65が連通する。この結果、油圧ポンプ60によって通路66bに吐出された作動流体は、通路66c、通路66e、通路641、ポンプ42とタービン43とによって形成される作動室4a、内側室40b、外側室40a、通路461、通路66dを通して流体貯留部65に循環される。このように作動流体が循環するときは、内側室40bの流体圧が外側室40aの流体圧より高いので、ロックアップクラッチ50は上述したように摩擦係合する(ロックアップクラッチ接)。なお、ロックアップクラッチ用電磁切換弁69は、付勢(ON)された状態において通路66bの作動流体圧力が所定値より低くロックアップクラッチ用方向制御弁68に作用するパイロット圧が低い場合には、ロックアップクラッチ用方向制御弁68のスプール682が中間位置に位置付けられて、通路66cが通路66dおよび通路66eと連通するように構成されている。この作動形態に関連して、通路66eと戻り通路66gとを連通するバイパス通路66hが設けられており、このバイパス通路66hに絞り72が配設されている。従って、油圧ポンプ60の回転速度が低く通路66bの作動流体圧力が所定値より低い場合には、通路66bに吐出された作動流体は、通路66c、通路66e、絞り72を備えたバイパス通路66hを通して循環される。
【0026】図示の実施形態における流体作動手段6は、上記通路66aと通路66bを結ぶリリーフ通路66jを備えており、このリリーフ通路66jにリリーフ弁73が配設されている。リリーフ弁73は、開弁圧が上記ロックアップクラッチ50のON時において上記クラッチディスク51に装着されたクラッチフェーシング52がケーシング41に押圧されて摩擦係合するに必要な流体圧である例えば6kg/cm2に設定されており、通路66b内の作動流体圧が6kg/cm2を越えると作動流体をリリーフ通路66jを介して通路66aに戻す。
【0027】図示の実施形態における流体作動手段6は、上記湿式多板摩擦クラッチ8の液圧室815に連通された通路861、622と上記通路66bとを連絡する通路66kおよび通路66mを備えている。この通路66kと通路66mとの間に摩擦クラッチ用方向制御弁74が配設されている。摩擦クラッチ用方向制御弁74にパイロット圧を作用せしめるために、上記通路66bと摩擦クラッチ用方向制御弁74とを連絡するパイロット通路66nが設けられており、該パイロット通路66nに摩擦クラッチ用電磁切換弁75が配設されている。摩擦クラッチ用電磁切換弁75は、除勢(OFF)されているときには図1に示すようにパイロット通路66nを連通しており、付勢(ON)されるとパイロット通路66nの連通を遮断するように構成されている。なお、上記摩擦クラッチ用方向制御弁74はパイロット圧が作用していない状態では通路66kと通路66mとの連通を遮断しており、パイロット圧が作用すると通路66kと通路66mとを連通するように構成されている。従って、摩擦クラッチ用電磁切換弁75が除勢(OFF)されているときには、摩擦クラッチ用方向制御弁74にパイロット圧が作用しているので、摩擦クラッチ用方向制御弁74は通路66kと通路66mとを連通する。この結果、油圧ポンプ60によって通路66bに吐出された作動流体が通路66k、通路66m、通路622、通路816を介して湿式多板摩擦クラッチ8の液圧室815に供給されるので、上記のように押圧ピストン84が圧縮コイルばね86のばね力に抗して図1において右方の移動せしめられ、複数枚の摩擦板83と複数枚の摩擦板87とが押圧され互いに摩擦係合する。一方、摩擦クラッチ用電磁切換弁75が付勢(ON)されるとパイロット通路66nの連通が遮断され、摩擦クラッチ用方向制御弁74にパイロット圧が作用しないので、通路66kと通路66mとの連通が遮断されるとともに、通路66mが流体貯留部30bに開放される。この結果、湿式多板摩擦クラッチ8の押圧ピストン84は圧縮コイルばね86のばね力によって図1において左方移動せしめられるため、複数枚の摩擦板83と複数枚の摩擦板87との擦係合が解除される。
【0028】なお、摩擦クラッチ用電磁切換弁75の付勢(ON)および除勢(OFF)の制御は、手動変速機10の変速時に図示しない制御手段によって行われる。即ち、図示の実施形態における湿式多板摩擦クラッチ8は自動クラッチシステムを構成しており、図示しない制御手段は運転者が手動変速機10の変速操作を行う際に、図示しない変速レバーに装着された変速指示スイッチをONしたことによる信号に基づいて摩擦クラッチ用電磁切換弁75を付勢(ON)し、湿式多板摩擦クラッチ8による動力伝達を遮断する。そして、図示しない制御手段は変速機のシフト操作が終了した時点で、図示しないシフトストロークセンサからのシフト終了信号に基づいて摩擦クラッチ用電磁切換弁75を除勢(OFF)し、湿式多板摩擦クラッチ8を擦係合する。
【0029】図示の実施形態における流体作動手段6は、上記通路66bと上記流体継手4の出力軸46の外周面と上記ポンプハウジング62のボス部621との間に形成された通路891とを連絡する通路66pを備えている。このため、油圧ポンプ60によって通路66bに吐出された作動流体は、通路66pを通して通路891に常時供給される。従って、油圧ポンプ60の作動時には通路891に供給された作動流体が上述したように上記スプライン嵌合部および上記各軸受を潤滑するとともに、湿式多板摩擦クラッチ8の複数枚の摩擦板83および複数枚の摩擦板87に供給される。このように、流体継手4に作動流体を循環せしめる流体作動手段6は、作動流体を湿式多板摩擦クラッチ8の各軸受等を潤滑するとともに、複数枚の摩擦板83および複数枚の摩擦板87に冷却液として供給する。従って、湿式多板摩擦クラッチ8の摩擦板を冷却するために冷却液供給装置を別途設ける必要はないとともに、摩擦板に供給される流体継手4の作動流体は摩擦特性が良好であるため良好な摩擦クラッチ特性を維持することができる。
【0030】次に、手動変速機10について図1を参照して説明する。図示の実施形態における手動変速機10は、平行軸式歯車変速機からなり、ケース100と、該ケース100内に配設され上記湿式多板摩擦クラッチ8のクラッチセンタ82を装着した入力軸101と、該入力軸101と同一軸上に配設された出力軸102と、該出力軸102と平行に配設されたカウンターシャフト103とを具備している。入力軸101には駆動歯車104が配設され、出力軸102には変速歯車105a、105b、・・・が配設されているとともに、同期噛合装置106a、106b、・・・が配設されている。また、カウンターシャフト103には、上記駆動歯車104および変速歯車105a、105b、・・・と常時噛み合うカウンター歯車107a、107b、107c、・・・が設けられている。なお、上記入力軸101は、上記継手ハウジング3の仕切り壁31に設けられた穴311を貫通して配設され、その一端部が上記流体継手4の出力軸46に軸受108を介して回転自在に支持されており、その中間部が軸受109を介して継手ハウジング3に回転自在に支持されている。上記継手ハウジング3の仕切り壁31に設けられた穴311の内周面と入力軸101との間には、オイルシール110が配設されている。このオイルシール110により継手ハウジング3の摩擦クラッチ収容室3b内のクラッチ冷却液が手動変速機10のケース100内に侵入すること、および手動変速機10のケース100内の潤滑油が摩擦クラッチ収容室3b内に侵入することが防止される。
【0031】図示の実施形態における車両用動力伝達装置は以上のように構成されており、以下その作動について説明する。先ず、車両の発進動作について説明する。ディーゼルエンジン2が始動されアイドリング状態においては摩擦クラッチ用電磁切換弁73は除勢(OFF)されており、湿式多板摩擦クラッチ8は上述したように摩擦係合されている。なお、ロックアップクラッチ用電磁切換弁69は除勢(OFF)されており、上述したように流体継手4のロックアップクラッチ50は摩擦係合しない(ロックアップクラッチ断)。従って、エンジン2は流体継手4の滑りによってアイドリング回転が維持されている。車両を発進するために運転者が図示しない変速レバーに装着された変速指示スイッチをONすると、上述したように摩擦クラッチ用電磁切換弁73が付勢(ON)され、湿式多板摩擦クラッチ8による動力伝達が遮断される。湿式多板摩擦クラッチ8による動力伝達が遮断されている間に変速レバーによる変速操作が行われ、手動変速機10が発進段に投入されると、上述したように摩擦クラッチ用電磁切換弁73が除勢(OFF)され、湿式多板摩擦クラッチ8を摩擦係合する。この状態で図示しないアクセルペダルを踏み込みエンジン回転速度を増大すると、ディーゼルエンジン2のクランク軸21(入力軸)に発生した駆動力は、上述したようにドライブプレート44を介して流体継手4のケーシング41に伝達される。ケーシング41とポンプ42のポンプシェル421は一体的に構成されているので、上記駆動力によってポンプ42が回転せしめられる。ポンプ42が回転するとポンプ42内の作動流体は遠心力によりインペラ422に沿って外周に向かって流れ、矢印で示すようにタービン43側に流入する。タービン43側に流入した作動流体は、中心側に向かって流れ矢印で示すようにポンプ42に戻される。このように、ポンプ42とタービン43とによって形成される作動室4a内の作動流体がポンプ42とタービン43内を循環することにより、ポンプ42側の駆動トルクが作動流体を介してタービン43側に伝達される。タービン43側に伝達された駆動力は、タービンシェル431およびタービンハブ47を介して出力軸46に伝達され、更に上記湿式多板摩擦クラッチ8を介して変速機10に伝達され、車両を発進することができる。
【0032】次に、車両用動力伝達装置の変速時の動作について説明する。車両が走行中に手動変速機10を所定の変速段へ変速する場合は、運転者が図示しない変速レバーに装着された変速指示スイッチをONすると、上述したように摩擦クラッチ用電磁切換弁73が付勢(ON)され、湿式多板摩擦クラッチ8による動力伝達が遮断される。湿式多板摩擦クラッチ8による動力伝達が遮断されている間に変速レバーによる変速操作が行われ、手動変速機10が所定の変速段へ投入される。このとき、同期噛合装置106によって出力軸102の回転速度と所定の変速歯車105の回転速度を同期させるが、この同期作用は変速歯車105と伝動連結されている摩擦クラッチの構成部材の回転慣性が大きい(同期負荷が大きい)と長時間を要し、回転慣性が小さい(同期負荷が小さい)程短時間で同期させることができる。しかるに、図示の実施形態においては、変速歯車105と伝動連結されている入力軸101には回転慣性の小さい(同期負荷が小さい)クラッチセンタ82が装着されているので、同期作用が短時間で行われ変速時間を短縮することができる。
【0033】上記のようにして出力軸102の回転速度と所定の変速歯車105の回転速度が同期して所定の変速段へのシフトが完了したら、上述したように摩擦クラッチ用電磁切換弁73が除勢(OFF)され、湿式多板摩擦クラッチ8が擦係合せしめられる。
【0034】
【発明の効果】本発明による動力伝達装置は以上のように構成されているので、以下に述べる作用効果を奏する。
【0035】即ち、本発明によれば、流体継手と変速機との間に湿式摩擦クラッチを配設した動力伝達装置において、変速機の入力軸にスプライン嵌合する湿式摩擦クラッチのクラッチセンタまたはクラッチアウタのハブと継手ハウジングまたは変速機のケースとの互いに対向する側面の間にスラスチ軸受を配設したので、ハブの側面をスラスト軸受に当接することにより、クラッチセンタまたはクラッチアウタを継手ハウジングまたは変速機のケースに対して位置決めすることができる。従って、変速機のケースに装着される入力軸の取付け精度に拘らず、湿式摩擦クラッチを所定の位置に配置することができる流体継手および湿式摩擦クラッチを有する動力伝達装置が得られる。
【出願人】 【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
【出願日】 平成12年2月28日(2000.2.28)
【代理人】 【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
【公開番号】 特開2001−241534(P2001−241534A)
【公開日】 平成13年9月7日(2001.9.7)
【出願番号】 特願2000−52014(P2000−52014)