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【発明の名称】 トルクコンバータ
【発明者】 【氏名】安部 浩也

【氏名】丸山 徹郎

【氏名】坂藤 征利

【要約】 【課題】偏平断面トルクコンバータの内部流路の最適な設計手法を得る。

【解決手段】偏平率(2L/H)およびトーラス内外周径比(r/R)が、0.55<(2L/H)<0.75 (1)
【特許請求の範囲】
【請求項1】 トルクコンバータを構成するインペラ部材、タービン部材およびステータ部材の内部に形成される流体の流路において、軸方向断面における前記流路の軸方向端部間の距離2L、最大半径R、最小半径rおよびこれら最大最小半径の差H(=R−r)とに基づいて定義される偏平率(2L/H)およびトーラス内外周径比(r/R)が、式 0.55<(2L/H)<0.75 および式 0.35<(r/R)<0.40を満足するトルクコンバータにおいて、前記軸方向断面において、前記トルクコンバータの回転軸上における前記流路の軸方向中央位置を原点とし、前記軸方向をX方向、径方向をY方向としたときに、X方向に対して45度の傾きを有する直線と前記タービン部材の流路の外周面をなす曲線との接点の位置が、Y=(R/L)×X+(6/4)×R で表される第1直線と、Y=(R/L)×X+(7/4)×R で表される第2直線とに囲まれた領域内に位置するように前記タービン部材の流路形状を設定することを特徴とするトルクコンバータ。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、インペラ部材、タービン部材およびステータ部材を備えてなるとともに、これら3部材の内部に形成される流体の流路断面形状が軸方向の幅が径方向の長さ寸法より小さな偏平状に形成されるトルクコンバータに関する。
【0002】
【従来の技術】トルクコンバータはインペラ部材、タービン部材およびステータ部材の内部にオイルが循環する流路を形成し、エンジンによりインペラ部材を回転駆動してインペラ羽根により発生したオイル流をタービン羽根に当ててタービン部材を回転させ、タービンから出たオイル流をステータ羽根を介して方向を変えてインペラ部材に流入させ、インペラ部材からタービン部材への回転駆動力伝達を行わせるように構成される。このようなトルクコンバータの内部流路は、断面が円形で全体としてドーナッツ状に形成されるものが知られているが、断面が偏平円形状もしくは楕円形状となったものも知られている。以下、断面が円形のものを円形断面トルクコンバータ、断面が偏平状のものを偏平断面トルクコンバータと称する。
【0003】偏平断面トルクコンバータは軸方向寸法を短縮できるという利点があるが、流路形状が偏平となることにより内部のオイル流れがスムーズでなくなりトルクコンバータ性能が低下するおそれがあるという問題がある。このようなことから、吸収トルク容量、伝達効率等のようなトルクコンバータ性能を低下させることなくできる限り偏平となるようなトルクコンバータを提供する提案が従来から行われており、このようなものとしては、例えば、特公昭57−37791号公報や、特開平4−254043号公報に開示のものがある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ここで、トルクコンバータを偏平化することは、トルクコンバータ軸方向寸法を短縮化するだけでなく、トルクコンバータ自体の軽量化および製造コストダウンを図る上で有効であり、さらに、トルクコンバータの軸方向寸法が短縮することによりトルクコンバータに繋がる変速機の多段化が容易となって燃費向上が期待できるという効果にも繋がる。このようなことから従来から種々の偏平断面トルクコンバータが提案されているのであるが、上記のような従来の提案では、一定の条件における個々の形状を特定するものであり、一般的もしくは普遍的に適用できるような設計手法が望まれている。
【0005】本発明はこのような事情に鑑みたもので、偏平断面トルクコンバータの内部流路の最適な設計手法を提供することを目的とする。本発明は特に、吸収トルク容量、伝達効率等のようなトルクコンバータ性能を高いレベルに維持したままトルクコンバータの偏平化を図ることができる構成の偏平断面トルクコンバータを提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】このような目的達成のため、本発明によれば、トルクコンバータを構成するインペラ部材(例えば、実施形態におけるインペラ11)、タービン部材(例えば、実施形態におけるタービン12)およびステータ部材(例えば、実施形態におけるステータ13)の内部に形成される流体の流路において、軸方向断面における流路の軸方向端部間の距離2L、最大半径R、最小半径rおよびこれら最大最小半径の差H(=R−r)とに基づいて定義される偏平率(2L/H)およびトーラス内外周径比(r/R)が、式(1)および式(2)を満足するようにトルクコンバータが形成される。さらに、軸方向断面において、トルクコンバータの回転軸上における流路の軸方向中央位置(例えば、図2における点O)を原点とし、軸方向をX方向、径方向をY方向としたときに、X方向に対して45度の傾きを有する直線(例えば、図2における直線C)とタービン部材の流路の外周面をなす曲線(例えば、図2における曲線D)との接点(例えば、図2における接点P)の位置が、式(3)で表される第1直線(例えば、図2における第1直線A)と、式(4)で表される第2直線(例えば、図2における第2直線B)とに囲まれた領域(例えば、図2におけるハッチング領域F)内に位置するようにタービン部材の流路形状を設定する。
【0007】
【数1】
0.55<(2L/H)<0.75 (1)
0.35<(r/R)<0.40 (2)
Y=(R/L)×X+(6/4)×R (3)
Y=(R/L)×X+(7/4)×R (4)
【0008】本件発明者による種々の計算および実験結果によれば、上記式(1)および(2)を満足するような偏平断面トルクコンバータにおいて、X方向に対して45度の傾きを有する直線とタービン部材の流路の外周面をなす曲線との接点の位置が、式(3)で表される第1直線と式(4)で表される第2直線とに囲まれた領域内に位置するようにタービン部材の流路形状を設定すれば、タービン内部流路を規定する曲面の曲率半径を小さくすることができるとともに、オイルの流れがスムーズに変化する内部流路を形成することができる。これにより、流体損失が大きいタービン入口部での流体損失(渦流の発生等)を軽減することができ、吸収トルク容量および伝達効率を向上させることができる。この結果、偏平断面で軸方向の寸法が小さくてコンパクトな構成であり、且つトルクコンバータ性能が良好なトルクコンバータを得ることができる。
【0009】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。本発明に係るトルクコンバータTCを図1に示している。このトルクコンバータTCは、コンバータカバー11aを介してエンジン出力軸(図示せず)と繋がるインペラ11と、インペラ11と対向して配設されるとともにタービンハブ12aを介して変速機入力軸(図示せず)と繋がるタービン12と、固定保持されるステータ13とから構成される。タービン12の背面とコンバータカバー11aの内面とに囲まれた空間内にロックアップピストン15が配設されてロックアップ機構が構成されている。この空間はロックアップピストン15により二分割され、コンバータカバー11aとロックアップピストン15に囲まれたロックアップ解放室16と、タービン12の背面とロックアップピストン15に囲まれたロックアップ締結室(ロックアップ空間)17とに分けられている。なお、このロックアップピストン15はタービンハブ12aに対して軸方向移動可能で、且つタービンハブ12aと一体回転するように取り付けられている。
【0010】トルクコンバータTC内は、ロックアップ油入口16aおよびコンバータ油入口17aから供給される作動油が満たされ、エンジンによりインペラ11が回転されるときに発生する作動油の動圧を受けてタービン12が回転駆動される。このとき、インペラ11、タービン12およびステータ13の羽根の作用により、インペラ11からのトルクが増幅されてタービン12に伝達されるが、流体を介する動力伝達であるため、インペラ11とタービン12とが同一回転するような運転条件下においてもある程度の動力伝達ロスが生じる。このような動力伝達ロスを抑えるため、インペラ11とタービン12とが同一回転するような運転条件下で、両者を機械的に直結させて一体回転させるためにロックアップ機構が設けられている。
【0011】ロックアップ機構の作動は、ロックアップ油入口16aおよびコンバータ油入口17aから供給される作動油圧を制御して、ロックアップ解放室16とロックアップ締結室17内の油圧を制御することにより行われる。例えば、ロックアップ解放室16内の油圧を低下させることによりロックアップ締結室17内の油圧によりロックアップピストン15をコンバータカバー11aの内面に押しつけ、ロックアップピストン15の側面に設けられたクラッチ摩擦材16aとコンバータカバー11aの内面との摩擦によりロックアップピストン15とコンバータカバー11aとを結合させる。この結果、インペラ11とタービン12が係合されて一体回転するロックアップ作動状態となる。これとは逆に、ロックアップ油入口16aからロックアップ解放室16に作動油を供給してロックアップ解放室16内の油圧をロックアップ締結室17内の油圧より高くすると、ロックアップピストン15はコンバータカバー11aの内面から離れてロックアップ解放状態となり、インペラ11とタービン12とは独立して回転可能となり、トルクコンバータTCが作動する状態となる。
【0012】以上のような構成のトルクコンバータにおいて、吸収トルク容量、伝達効率等のようなトルクコンバータ性能はインペラ11、タービン12、ステータ13の内部に形成される流路形状と各羽根形状に大きく影響される。特に、偏平断面トルクコンバータの場合には、タービン12の入口部12cにおいて渦流の発生等により流体損失が発生しやすく、タービン12の外側シェル12bと内側シェル12dとによって規定されるタービン内部流路形状がトルクコンバータ性能に大きく関与する。このため、本発明においては、タービン内部流路形状、特に外側シェル12bにおける流路形状を最適に設定するための条件を考慮し、タービン12の入口部12cにおける流体損失が少なく、且つ偏平断面のトルクコンバータが得られるような条件を設定している。
【0013】この設定について、図2を参照して説明する。この図は、上述のような偏平断面トルクコンバータにおけるインペラ11、タービン12およびステータ13の内部流路形状を軸方向断面上で示している。この図に示すように、内部流路の軸方向端部間の距離2L(すなわち、インペラ11の流路の軸方向右端からタービン12の軸方向左端までの距離)と、最大半径R(すなわち、インペラ11およびタービン12の流路の最外周半径)、最小半径r(すなわち、ステータ13の流路の最内周半径)およびこれら最大最小半径の差H(=R−r)とに基づいて定義される偏平率(2L/H)およびトーラス内外周径比(r/R)が、式(1)および式(2)を満足するように偏平断面トルクコンバータが形成される。
【0014】そして、この断面図において、トルクコンバータの回転軸上における流路の軸方向中央位置を原点O(0,0)とし、軸方向をX方向(右方向を正)、径方向をY方向(上方向を正)としたときに、X方向に対して45度の傾きを有する直線Cとタービン12の流路の外周面をなす曲線D(タービン外側シェル12bの内面形状を示す曲線)との接点Pの位置が、式(3)で表される第1直線Aと、式(4)で表される第2直線Bとに囲まれた領域F(図におけるハッチングを施した領域)内に位置するようにタービンの内部流路を規定する外周面形状を設定する。なお、トルクコンバータの流路設計においては、流路断面積がどの断面位置においても等断面となるように(すなわち、流路内部における循環オイルの速度成分をどの位置に置いても等しくなるように)設定されるため、外周面形状がこのようにして設定されると、内周面形状も設定でき、これによりタービン12の内部流路形状が設定される。
【0015】以上のようにして設定された内部流路を有したタービンを用いて構成される偏平断面トルクコンバータ(本発明に係るトルクコンバータ)の性能、特性について以下に説明する。図3に上述の条件を満足するようにして内部流路形状が設定された本発明に係るトルクコンバータについて、偏平率(2L/H)を変化させたときにおける流体損失の変動を実線L1で示している。ここでは、偏平率が85%のときの流体損失を基準(=1.0)としてこれが偏平率を変化させたときにどのように変化するかを示している。実線L1から分かるように、本発明に係るトルクコンバータの場合には、偏平率を85%から55%程度まで変化させても流体損失は殆ど増加しない。
【0016】なお、従来の偏平断面トルクコンバータについて、偏平率を変化させたときの流体損失の変化を破線L2で表している。このトルクコンバータは、X方向に対して45度の傾きを有する直線Cとタービン12の流路の外周面をなす曲線D(タービン外側シェル12bの内面形状を示す曲線)との接点Pを、上記式(3)で規定される第1直線Aより内側に位置させるようにしてタービン内部流路を設定するものである。この場合には、図3から良く分かるように、偏平率85%のときの流体損失に対し、偏平率を小さくするに応じて流体損失が増加し、例えば偏平率55%のときには流体損失が偏平率85%のときの約2.5倍である。
【0017】また、図4には、偏平率が75%の場合における本発明に係るトルクコンバータと従来のトルクコンバータでの吸収トルク容量(実線L3が本発明、破線L4が従来)とトルク比(実線L5が本発明、破線L6が従来)とを示している。このグラフから分かるように、吸収トルク容量およびトルク比ともに本願発明のトルクコンバータにおいて改良されている。これは、上記のように流体損失が軽減される結果、トルクコンバータのポテンシャルが上昇したことによると考えられる。このことから分かるように、本発明のトルクコンバータでは流体損失およびトルクコンバータ性能を低下させることなく偏平率を小さくすることが可能である。
【0018】さらに、本発明のトルクコンバータと従来のトルクコンバータについて、トルクコンバータ内部の圧力分布をコンピュータ計算により解析した。この結果によれば、従来のトルクコンバータではタービン入口部の流路の曲率半径が小さく、タービン入口部においてオイルがタービンシェルと衝突して圧力上昇が大きくなり、流体損失が大きくなることが分かった。これに対して、本発明のトルクコンバータでは、タービン入口部の流路の曲率半径を大きくできるため、タービン入口部の圧力上昇が抑えられ、流体損失が小さくなることが分かった。
【0019】なお、上記においては、従来のトルクコンバータとして、X方向に対して45度の傾きを有する直線Cとタービン12の流路の外周面をなす曲線D(タービン外側シェル12bの内面形状を示す曲線)との接点Pを、上記式(3)で規定される第1直線Aより内側に位置させるように内部流路を設定する例を説明した。これに対して、接点Pを上記式(4)で規定される第2直線Bより外側に位置させる場合について考える。接点Pを第2直線Bより外側に位置させた場合の例を図5に示している。このようにしてタービン12の内部流路を形成する外周側曲面Dを設定した場合、この内部流路の流路断面積がどの断面位置においても等断面となるように(すなわち、流路内部における循環オイルの速度成分をどの位置に置いても等しくなるように)設定される内周側曲面Eの形状が図示のように極端に外側に突出する形状となる。このため、外周側においてオイル流がスムーズになっても内周側においてオイル流が乱れて流体損失が大きくなるという問題がある。このため、上記接点Pは第2直線Bより内側に位置するようにして流路形状が設定される。
【0020】以上説明したように、本発明のトルクコンバータは従来のトルクコンバータに比べて、偏平化の効果が大きい偏平率75%以下となる偏平断面トルクコンバータにおいて特に優れており、偏平率55%では偏平率85%程度の従来のトルクコンバータとほぼ同等の性能が得られるがこれ以下では性能が低下する。このため、本発明のトルクコンバータは偏平率55%から75%のものに適用するのが好ましい。
【0021】また、トーラス内外周径比(r/R)については、これが小さくなるとトルクコンバータの各要素の有効半径が減少するため、トルクコンバータの吸収トルクが減少する。例えば、(r/R)=0.38のトルクコンバータに対して(r/R)=0.35のトルクコンバータは吸収トルク容量は約40%減少する。一方、トーラス内外周径比(r/R)を大きくするとトルクコンバータが大型化してトルクコンバータの重量増加およびコスト増加に繋がる。このようなことに鑑み、トーラス内外周径比(r/R)は0.35〜0.40に設定するのが好ましい。
【0022】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、上記式(1)および(2)を満足するような偏平断面トルクコンバータにおいて、X方向に対して45度の傾きを有する直線とタービン部材の流路の外周面をなす曲線との接点の位置が、式(3)で表される第1直線と式(4)で表される第2直線とに囲まれた領域内に位置するようにタービン部材の流路形状を設定すれば、タービン内部流路を規定する曲面の曲率半径を小さくすることができるとともに、オイルの流れがスムーズに変化する内部流路を形成することができ、これにより、流体損失が大きいタービン入口部での流体損失(渦流の発生等)を軽減して、吸収トルク容量および伝達効率を向上させることができる。この結果、偏平断面で軸方向の寸法を小さくしてコンパクトな構成であり、且つトルクコンバータ性能が良好なトルクコンバータを得ることができる。
【出願人】 【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
【出願日】 平成11年11月10日(1999.11.10)
【代理人】 【識別番号】100092897
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 正悟
【公開番号】 特開2001−141026(P2001−141026A)
【公開日】 平成13年5月25日(2001.5.25)
【出願番号】 特願平11−319137