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【発明の名称】 遊星ローラ動力伝達装置
【発明者】 【氏名】牧野 智昭

【要約】 【課題】安定した良好な潤滑油の供給を簡便な手段により確保する。

【解決手段】固定輪21と、その内側に同軸上に配置されたサンローラ22と、このサンローラ22と前記固定輪21の間に圧接状態で介装された複数の遊星ローラ23と、前記遊星ローラ23を円周方向等間隔に回転自在に保持するキャリア24とを備えた遊星ローラ動力伝達装置であって、前記固定輪21における遊星ローラ23の外周面と軸方向で線接触する部位に、その周方向に連続する溝部36を設け、その溝部36に含油部材37を収納した構造を具備する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 固定輪と、その内側に同軸上に配置されたサンローラと、このサンローラと前記固定輪の間に圧接状態で介装された複数の遊星ローラと、前記遊星ローラを円周方向等間隔に回転自在に保持するキャリアとを備えたものであって、前記固定輪における遊星ローラの外周面と軸方向で線接触する部位に、その周方向に連続する溝部を設け、その溝部に含油部材を収納したことを特徴とする遊星ローラ動力伝達装置。
【請求項2】 前記含油部材は、潤滑油またはグリースの潤滑剤と粉末状樹脂とからなる混合物を加熱することにより固形化したものであることを特徴とする請求項1に記載の遊星ローラ動力伝達装置。
【請求項3】 前記潤滑剤は、ナフテン系鉱油、ナフテン系合成油またはポリ−α−オレフィン系合成油を基油とする潤滑油もしくはグリースであることを特徴とする請求項2に記載の遊星ローラ動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は遊星ローラ動力伝達装置に関し、例えば摩擦ローラ変速機の一種である遊星ローラ動力伝達装置に関する。
【0002】
【従来の技術】例えば、摩擦ローラ変速機の一種である遊星ローラ動力伝達装置は、図4(a)(b)に示すように固定輪1と、その固定輪1と軸心を一致させて配置されたサンローラ2と、そのサンローラ2と固定輪1の間に形成される空間に配置された複数個の遊星ローラ3と、それら遊星ローラ3を円周方向に等間隔かつ回転自在に保持するキャリア4とを備えている。
【0003】この遊星ローラ動力伝達装置は、ハウジング5に対して軸受6で支持された高速回転軸7の一端にサンローラ2を同軸的に設け、そのサンローラ2の軸心と一致するように固定輪1を配置している。この固定輪1は、その回転が拘束されるようにハウジング5にボルト8で固定されている。サンローラ2と固定輪1との間には、複数個の遊星ローラ3が圧接状態で設けられ、ハウジング9に対して軸受10で支持された低速回転軸11の一端に設けられたキャリア4によって、前記遊星ローラ3が円周方向に等間隔かつ回転自在に保持されている。
【0004】そのキャリア4には円周方向等間隔に支持軸12が植設され、その支持軸12に対して遊星ローラ3を軸受13を介して回転自在に支持している。遊星ローラ3の内周面が軸受13を介して支持軸12と接触することにより、高速回転軸7と低速回転軸11間で動力の伝達が行われる。ハウジング5に固定された固定輪1の両側に二枚の側板14を配置することにより、遊星ローラ3の軸方向移動が規制されている。
【0005】例えば、この遊星ローラ動力伝達装置を減速機として使用する場合、高速回転軸7が入力軸、低速回転軸11が出力軸となり、高速回転軸7によるサンローラ2の回転が、遊星ローラ3のサンローラ軸心周りの回転となってキャリア4を介して低速回転軸11に伝達される。また、増速機として使用する場合には、低速回転軸11が入力軸、高速回転軸7が出力軸となり、低速回転軸11によるキャリア4の回転が、遊星ローラ3のサンローラ軸心周りの回転となって高速回転軸7に伝達される。
【0006】図4(a)(b)に示す遊星ローラ動力伝達装置は、遊星ローラ3が中空形状をなし、その内周面に軸受13を介してキャリア4が接触するタイプであるが、この遊星ローラ3とキャリア4の接触方法としては他に、図5(a)(b)に示すように遊星ローラ3がその外周面においてキャリア4と接触するタイプのものがある。この図5(a)(b)に示す遊星ローラ動力伝達装置では、遊星ローラ3の外周面がキャリア4と接触することにより、遊星ローラ3のサンローラ軸心周りの回転がキャリア4に伝達されるか(減速機として使用の場合)、あるいは、低速回転軸11すなわちキャリア4の回転が遊星ローラ3のサンローラ軸心周りの回転として伝達される (増速機として使用の場合)。その他の構成は、図4(a)(b)に示す装置と同一である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】ところで、遊星ローラ動力伝達装置を長時間に亘って安定して運転させるためには、サンローラ2と遊星ローラ3との接触部、もしくは固定輪1と遊星ローラ3との接触部に充分な油膜が形成されるように潤滑油を安定して供給することが必要である。その潤滑方式として油浴潤滑または強制潤滑を採用する場合は十分な潤滑油を各接触部に供給できる。しかしながら、グリース潤滑の場合、運転に伴って転走面からグリースが排除され、また、回転による遠心力で潤滑油が飛散することにより、潤滑油不足となりやすい。
【0008】図示の遊星ローラ動力伝達装置では、面圧を低下させて転がり疲労寿命を向上させるために各接触部は全て線接触させている。このように各接触部における接触形態が線接触である場合は、運転に伴う転走面からのグリースの排除が点接触の場合よりも著しく、潤滑油不足による損傷を招来しやすい。
【0009】このような潤滑油不足による損傷を防ぐための対策として、図6(a)(b)に示すような装置が提案されている。なお、図6(b)は(a)のY部拡大図である。この装置では、遊星ローラ3の端部に、エッジロードを緩和するためのクラウニング部15が設けられており、固定輪1におけるクラウニング部15と対向する部位に、その周方向に連続する溝16が形成され、その溝16に多孔質部材17が収納されている。この多孔質部材17に保有された潤滑油が滲み出し、遊星ローラ3と固定輪1の接触部に供給される。
【0010】しかしながら、多孔質部材17に保有された潤滑油の滲み出しによる潤滑対策では、安定した良好な潤滑油の供給を長期間に亘って確保することが期待できず、この点を改善することが望まれていた。
【0011】そこで、本発明は前述した点を改善するために提案されたもので、その目的とするところは、安定した良好な潤滑油の供給を簡便な手段により確保し得る遊星ローラ動力伝達装置を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するための技術的手段として、本発明は、固定輪と、その内側に同軸上に配置されたサンローラと、このサンローラと前記固定輪の間に圧接状態で介装された複数の遊星ローラと、前記遊星ローラを円周方向等間隔に回転自在に保持するキャリアとを備えた遊星ローラ動力伝達装置であって、前記固定輪における遊星ローラの外周面と軸方向で線接触する部位に、その周方向に連続する溝部を設け、その溝部に含油部材を収納したことを特徴とする。
【0013】前記含油部材は、潤滑油またはグリースの潤滑剤と粉末状樹脂とからなる混合物を加熱することにより固形化したものが好ましく、また、前記潤滑剤は、ナフテン系鉱油、ナフテン系合成油またはポリ−α−オレフィン系合成油を基油とする潤滑油もしくはグリースが好ましい。
【0014】本発明の遊星ローラ動力伝達装置における含油部材は、常温(20℃程度)以上の温度で内部に含有した油を継続的に徐々に滲み出させるので、遊星ローラと固定輪との接触部もしくは遊星ローラとサンローラとの接触部に長期間に亘って安定して潤滑油を供給することができる。また、この含油部材は、他部材と接触することにより潤滑油を供給するので、遊星ローラの外周面と軸方向で線接触しない部位に設けると、含油部材と遊星ローラが十分に接することができず、潤滑油が供給されにくい。そこで、本発明では、固定輪における遊星ローラの外周面と軸方向で線接触する部位に、その周方向に連続する溝部を設け、その溝部に含油部材を収納することにより、含油部材と遊星ローラをより強く接触させることができる。
【0015】
【発明の実施の形態】本発明に係る遊星ローラ動力伝達装置の実施形態を以下に詳述する。図1に示す実施形態の遊星ローラ動力伝達装置は、キャリア24に円周方向等間隔に植設された支持軸32に軸受33を介して遊星ローラ23を回転自在に支持した構造を有する。なお、本発明は、図1に示すタイプ以外にも、遊星ローラ3がその外周面においてキャリア4と接触するタイプ(図5参照)にも適用可能である。
【0016】図1の実施形態の遊星ローラ動力伝達装置は、ハウジング25にボルト28で固定された固定輪21と、その固定輪21の内側に同軸上に配置されたサンローラ22と、そのサンローラ22の外周面と固定輪21の内周面の間に圧接状態で介装された複数個の遊星ローラ23と、これら遊星ローラ23を円周方向に等間隔にかつ回転自在に保持するキャリア24とを主要構成要素とする。
【0017】前記ハウジング25に対して軸受26で支持された高速回転軸27の一端が前記サンローラ22に同軸的に設けられ、また、ハウジング29に対して軸受30で支持された低速回転軸31の一端がキャリア24に同軸的に設けられている。キャリア24に円周方向等間隔に支持軸32を植設し、その支持軸32に対して遊星ローラ23を軸受33を介して回転自在に支持している。遊星ローラ23の内周面が軸受33を介して支持軸32と接触することにより、高速回転軸27と低速回転軸31間で動力の伝達が行われる。この固定輪21は、ハウジング25にボルト28で固定することにより回転が拘束されている。ハウジング25に固定された固定輪21の両側に二枚の側板34を配置することにより、遊星ローラ23の軸方向移動が規制されている。
【0018】例えば、この遊星ローラ動力伝達装置を減速機として使用する場合、高速回転軸27が入力軸、低速回転軸31が出力軸となり、高速回転軸27によるサンローラ22の回転が、遊星ローラ23のサンローラ軸心周りの回転となってキャリア24を介して低速回転軸31に伝達される。また、増速機として使用する場合には、低速回転軸31が入力軸、高速回転軸27が出力軸となり、低速回転軸31によるキャリア24の回転が、遊星ローラ23のサンローラ軸心周りの回転となって高速回転軸27に伝達される。
【0019】この実施形態では、荷重が負荷されていない状態で、前記固定輪21における遊星ローラ23の外周面と軸方向で線接触する部位38、例えば、図2の拡大図で示すようにほとんどクラウニング部を持たない遊星ローラ23の場合、その遊星ローラ23の軸方向両端部と対向する部位38に、その周方向に連続する溝部36を設け、その溝部36に環状または紐状の含油部材37を収納する。また、図3に示すようにクラウニング部35を有する遊星ローラ23の場合には、固定輪21における遊星ローラ23の非クラウニング部である中央部と対向する部位38に溝部36を設け、その溝部36に含油部材37を収納すればよい。
【0020】ここで、前述したクラウニングとは、荷重が負荷された際に、固定輪21および遊星ローラ23の端部にエッジロードが生じて過負荷になるのを防止するため、所定の荷重が負荷されたときに、固定輪21および遊星ローラ23の摩擦接触部全体でユニフォームストレスが作用するように遊星ローラ23の外周面に予め形成するものである。このクラウニングには、例えば、一つの大きな曲率半径で形成されたフルクラウニング、端部にカット部が形成されたカットクラウニング、一つの曲率半径でなく、複数の曲率半径で形成された複合クラウニングなどがある。
【0021】前記含油部材37は、潤滑剤(潤滑油またはグリース)と粉末状樹脂(例えばポリアミドやポリエチレン等)とからなる混合物を加熱することにより固形化したもの(ポリルーブ)等が好ましく、前記潤滑剤は、ナフテン系鉱油、ナフテン系合成油またはポリ−α−オレフィン系合成油を基油とする潤滑油もしくはグリースが好ましい。
【0022】一般に、遊星ローラ動力伝達装置のようなトラクションドライブでは、潤滑油として通常の潤滑油(例えばエンジン油やギヤ油など)よりもトラクション係数が高い油が使用される。このような油は、一般にトラクション油と称されており、主に、ナフテン系鉱油、ナフテン系合成油またはポリ−α−オレフィン系合成油を基油として生成される。
【0023】この実施形態における含油部材は、このようなトラクション油もしくはトラクション油を基油としたグリースと樹脂(例えばポリアミドやポリエチレン等)の混合物より製作される。固形状の含油部材37は、例えば潤滑油又は潤滑グリース5〜99wt%に、平均分子量が1×106 〜5×106 である超高分子量ポリオレフィンの粉末95〜1wt%を混合し、超高分子量ポリオレフィン粉末のゲル化点以上、かつ、潤滑グリースを用いた場合はグリースの滴点以下の温度で加熱して成形したものである。
【0024】この遊星ローラ動力伝達装置における含油部材37は、常温(20℃程度)以上の温度で内部に含有した油を継続的に徐々に滲み出させるので、遊星ローラ23と固定輪21との接触部もしくは遊星ローラ23とサンローラ22との接触部に長期間に亘って安定して潤滑油を供給することができる。
【0025】また、この含油部材37は、他部材と接触することにより潤滑油を供給するので、遊星ローラ23の外周面と軸方向で線接触しない部位、例えばクラウニング部35を持つ遊星ローラ23の場合にはそのクラウニング部35と対向する部位に設けると、含油部材37と遊星ローラ23が十分に接することができず、潤滑油が供給されにくい。
【0026】そこで、固定輪21における遊星ローラ23の外周面と軸方向で線接触する部位、例えばクラウニング部35を持つ遊星ローラ23の場合には非クラウニング部38と対向する部位に、その周方向に連続する溝部36を設け、その溝部36に含油部材37を収納することにより、含油部材37と遊星ローラ23をより強く接触させることができる。
【0027】
【発明の効果】本発明によれば、固定輪における遊星ローラの外周面と軸方向で線接触する部位に、その周方向に連続する溝部を設け、その溝部に含油部材を収納したことにより、含油部材と遊星ローラをより強く接触させることができ、含油部材は、常温(20℃程度)以上の温度で内部に含有した油を継続的に徐々に滲み出させるので、遊星ローラと固定輪との接触部もしくは遊星ローラとサンローラとの接触部に長期間に亘って安定して潤滑油を良好に供給することができ、装置の耐久性の向上が図れる。
【出願人】 【識別番号】000102692
【氏名又は名称】エヌティエヌ株式会社
【出願日】 平成11年11月12日(1999.11.12)
【代理人】 【識別番号】100064584
【弁理士】
【氏名又は名称】江原 省吾 (外3名)
【公開番号】 特開2001−141009(P2001−141009A)
【公開日】 平成13年5月25日(2001.5.25)
【出願番号】 特願平11−323057