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【発明の名称】 作業車両の静油圧式無段変速装置
【発明者】 【氏名】西川 文顕

【氏名】豊川 光夫

【要約】 【課題】通常多用される出力要求に合わせてHSTの容量を定め、作業内容に応じて随時出力を増大できるようにしたHSTを得る。

【解決手段】可変式油圧ポンプ31と、この油圧ポンプ31にて駆動される油圧モータ32とを備えた静油圧式無段変速装置(HST)12に於いて、油圧モータ32の傾転角切替ポート41に掛かるポート圧力は、方向制御弁42の切替により2段階に変更可能であり、この方向制御弁42は電磁弁45によって切り替わる。HSTペダル21の踏み込み量をポテンショメータ39で検出し、且つ、アーム角センサ28によりアームが上げ位置にあるか否かを判定する。アーム下げ位置では、コントローラ40は作業負荷が大であると見做して電磁弁45を開放位置(ハ)にして方向制御弁42を(ロ)位置に切り替える。従って、油圧モータ32の傾転角が大となり、HST12の出力トルクが高トルクとなる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 エンジンの回転動力にて駆動され、且つ、変速ペダルの踏み込み操作に応じて吐出量を変更する可変式油圧ポンプと、この油圧ポンプにて駆動される油圧モータとを具備する静油圧式無段変速装置を搭載した作業車両に於いて、前記油圧モータに内部斜板の傾転角を段階的に変更するアクチュエータを設けるとともに、機体に連結した作業機の高さを検出するセンサを設け、該センサの検出値に応じて前記油圧モータの傾転角を変更し、前記油圧モータの出力トルクを切り替えるように構成したことを特徴とする作業車両の静油圧式無段変速装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は作業車両の静油圧式無段変速装置に関するものであり、特に、トラクタや田植え機等の作業車両の静油圧式無段変速装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】比較的小型の作業車両に於いては、エンジン動力を静油圧式無段変速装置(HST)によって変速するものが知られている。該HSTはエンジン動力によって駆動される可変式油圧ポンプと、この油圧ポンプにて駆動される油圧モータとを組み合わせて構成され、トラニオン軸の回転にて油圧ポンプの傾転角を変更することにより、油圧モータの回転を無段階に変速して出力するものである。
【0003】しかし、道路等を高速走行する場合と、作業機を装着して負荷が掛かった状態で走行する場合とでは、HSTに対する出力要求が異なってくる。最大の出力要求に合わせて容量の大きなHSTを搭載した場合は駆動馬力が大きくなり、出力要求が小さなときであっても無駄な馬力を消費することになり、非効率であるとともに、消費する燃料が多くなって不経済である。一方、容量の小さいHSTを搭載し、出力要求が大きいときは変速装置によって出力トルクを増大させることもできるが、副変速装置の変速段数が増えるため操作性が悪くなる。
【0004】そこで、通常多用される出力要求に合わせてHSTの容量を定め、作業内容に応じて随時出力を増大できるようにしたHSTを得るために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、エンジンの回転動力にて駆動され、且つ、変速ペダルの踏み込み操作に応じて吐出量を変更する可変式油圧ポンプと、この油圧ポンプにて駆動される油圧モータとを具備する静油圧式無段変速装置を搭載した作業車両に於いて、前記油圧モータに内部斜板の傾転角を段階的に変更するアクチュエータを設けるとともに、機体に連結した作業機の高さを検出するセンサを設け、該センサの検出値に応じて前記油圧モータの傾転角を変更し、前記油圧モータの出力トルクを切り替えるように構成した作業車両の静油圧式無段変速装置を提供するものである。
【0006】
【発明の実施の形態】以下、本発明の一実施の形態を図面に従って詳述する。図1は作業車両の一例としてトラクタ10を示し、機体の前部にエンジン11を搭載し、該エンジン11の回転動力は静油圧式無段変速装置(HST)12により減速されてトランスミッション13に伝達され、走行系及びPTO系に分岐される。走行系の動力にて前輪14及び後輪15が駆動され、機体後部に例えばロータリ作業機(図示せず)等を連結したときは、PTO系に動力にて該ロータリ作業機が駆動される。尚、16はリフトアームであり、リフトシリンダ17の伸縮によって上下回動する。
【0007】一方、運転席18の前方にステアリングハンドル19が設けられ、該ステアリングハンドル19の近傍に作業機昇降レバー20を設けてある。前述したように、機体後部にロータリ作業機を連結したときは、該作業機昇降レバー20の操作により、前記リフトシリンダ17が駆動されてリフトアーム16が上下回動し、リンク機構を介してロータリ作業機が昇降する。また、運転席18の下方のフロアには、変速ペダルであるHSTペダル21が前後回動可能に設けられ、後述するように、該HSTペダル21を踏み込むことによって、前記HST12の回転出力を変速できるように形成してある。
【0008】本実施の形態では、当該トラクタ10にて掘削作業を行えるように、機体の前方に左右一対のアーム22,22を取り付け、このアーム22,22の先端部にバケット23を装着してある。前記アーム22はアームシリンダ24の伸縮により上下に回動し、バケット23はバケットシリンダ25の伸縮によって掬い動作が行われる。前記ステアリングハンドル19の前方には、作業機操作レバーであるアーム操作レバー26及びバケット操作レバー27が設けられており、該アーム操作レバー26及びバケット操作レバー27にて前記アームシリンダ24及びブームシリンダ25の伸縮操作が行われる。尚、28はアームの持上げ角を検出するためのアーム角センサであり、29はバケットの掬い角を検出するためのバケット角センサである。
【0009】図2及び図3に示すように、前記HST12はクラッチハウジング30の後壁面に取り付けられており、エンジン11の回転動力にて駆動される可変式油圧ポンプ31と、この油圧ポンプ31にて駆動される油圧モータ32とを備え、且つ、該HST12はトランスミッション13と一体に固設されたケース33内に収容されている。エンジン11の回転動力は主クラッチ34によって入り切りされ、主クラッチ34が入りの状態では、エンジン11の回転動力が主クラッチ34から後方へ突出する回転軸35を経て前記HST12の油圧ポンプ軸36に入力される。
【0010】油圧ポンプ31の側方に突設されたトラニオン軸37は、モータシリンダ若しくは油圧シリンダ等のアクチュエータ38の駆動によって回動する。オペレータが前記HSTペダル21を前後何れかに踏み込んだときは、該HSTペダル21の踏み込み角をポテンショメータ39にて検出し、該ポテンショメータ39の検出値に基づくコントローラ40から指令信号によって前記アクチュエータ38が駆動され、トラニオン軸37が回転して油圧ポンプ31の吐出量が無段階に変更される。
【0011】このように、HSTペダル21の踏み込み量を電気的に検出してトラニオン軸37を回転させるため、HST12の出力を増大するときにHSTペダル21の踏力が少なくて済み、走行負荷の増加による踏力の急変がなくなって安定した操作感が得られる。また、車速を一定に保持するクルーズコントロール機能を簡単に構成することができる。
【0012】ここで、油圧モータ32の内部斜版の傾転角を変更する傾転角切替ポート41に掛かるポート圧力は、方向制御弁42によって2段階に切り替わり、通常は該方向制御弁42が(イ)位置にあって、傾転角切替ポート41がタンク43に連通しているため、ポート圧力が低圧となっている。従って、油圧モータ32の傾転角が小となり、前記油圧ポンプ31の吐出量に応じて、モータ軸44が低トルクにて回転する。即ち、機体の高速走行に適した状態となる。
【0013】いま、前記コントローラ40からの指令により電磁弁45が開放位置(ハ)に切り替われば、油圧源46のパイロット油が該電磁弁45を介して前記方向制御弁42のパイロットポートに作用し、前記方向制御弁42が(ロ)位置に切り替わる。従って、油圧ポンプ31の吐出油が傾転角切替ポート41に作用してポート圧力が高圧となり、油圧モータ32の傾転角が大となってモータ軸44が高トルクにて回転する。即ち、高負荷の作業に適した状態となる。前記傾転角切替ポート41に掛かるポート圧力を切り替える方向制御弁42と、該方向制御弁42のパイロット圧を切り替える電磁弁45等から、油圧モータ32の傾転角を段階的に変更するアクチュエータが構成される。
【0014】前記電磁弁45の切り替えは、HSTペダル21の踏み込み量と前記バケット23を装着したアーム22の持上げ角によって制御される。図3乃至図5に示すように、掘削作業中は前記アーム角センサ28の検出値によりアーム22が上げ位置にあるか否かを監視する(ステップ1)。アーム22が下げ位置にあるときは、バケット23が地面に接近して土砂を前方に押し寄せながら走行している状態であり、作業負荷が大である。然るときは、コントローラ40からの指令信号により前記電磁弁45を開放位置(ハ)にし、方向制御弁42を(ロ)位置に切り替えて、油圧モータ32をLowモードにする(ステップ4)。従って、油圧モータ32の傾転角が大となり、該油圧モータ32は出力トルクが高トルクにて回転し、図5の実線に示すように、HSTペダル21の踏み込み量に対して一定の割合で油圧モータ32の回転数が増加する。
【0015】これに対して、ステップ1に於いてアーム22が上げ位置にあるときは、バケット23が地面から浮上して土砂を運搬するために走行している状態であり、土砂を押し寄せながら前進するときよりも作業負荷が軽くなる。然るときは、前記ポテンショメータ39の検出値によりHSTペダル21の踏込み量を監視する(ステップ2)。HSTペダル21の踏み込み量が小であるときは、ステップ4にジャンプし、前述と同様にして油圧モータ32をLowモードにする。一方、ステップ2に於いてHSTペダル21の踏み込み量が切替えポイント以上に大であるときは、前記電磁弁45を閉止位置(ニ)にして方向制御弁42を(イ)位置に切り替え、油圧モータ32をHighモードにする(ステップ3)。従って、油圧モータ32の傾転角が小となり、該油圧モータ32は低トルクにて高速回転するため、機体は高速走行が可能となる。
【0016】このように、HSTペダル21の踏み込み量とアーム操作レバー26の操作に連動し、作業負荷の変動に応じて前記油圧モータ32の傾転角が変更されるため、その都度スイッチ切り替え等の操作を行わずして、HST12の出力トルクを自動的に高低2段階に切り替えることができる。
【0017】或いは、図1及び図3に示した作業機昇降レバー20の操作によって前記電磁弁45を切り替えるように構成してもよい。該作業機昇降レバー20は、前述したように、リフトアーム16を回動してロータリ作業機等を昇降させるものであるが、掘削作業を行う場合はロータリ作業機が連結されていないので、該作業機昇降レバー20は不要となっている。この作業機昇降レバー20の操作によって前記電磁弁45を開閉すれば、オペレータがステアリングハンドル19から手を離すことなく、前記油圧モータ32の傾転角を変更できる。斯くして、非使用作業機操作レバーである前記作業機昇降レバー20の有効利用が図られるとともに、ステアリング操作性を損なうことなくHST12の出力トルクを簡単に切り替えることができる。
【0018】而して、図2に示すように、前記HST12にて変速された動力は、HST12の前面部に設けられた減速装置47にて減速された後に、駆動伝達軸48を介してトランスミッション13に伝達され、更に、トランスミッション13にて走行系の動力が変速された後に、リヤデファレンシャル装置49を経て後輪15が駆動される。
【0019】図6は前記HSTペダル21を示し、該HSTペダル21は前進ペダル21Fと後進ペダル21Rの2つのペダルにて構成され、1つのペダル軸51に前進ペダルのハブ21Faと後進ペダルのハブ21Raが同軸に枢着されている。図中右側を機体の前方向とすれば、一方のハブ21Faの前方且つ斜め上方に前進ペダル21Fが固設され、他方のハブ21Rの後方且つ斜め上方に後進ペダル21Rが固設されている。また、前進ペダルのハブ21Faの下面にアーム21Fbを垂設し、後進ペダルのハブ21Raの下面にアーム21Rbを垂設するとともに、一方のアーム21Fbに前進用のリンク21Fcを連結し、他方のアーム21Rbに後進用のリンク21Rcを連結する。更に、後進ペダルのアーム21Rbの下端部には第2のハブ21Rdが固設されている。図示した状態では、この第2のハブ21Rdは軸等に装着されず、中空状態となっている。
【0020】而して、オペレータがHSTペダル21を踏み込むとき、つま先にて前進ペダル21Fを前方へ踏み込めば、前記ペダル軸51を中心にハブ21Faが図中時計回りに回動し、前進用のリンク21Fcが後方へ押されて前記HST12のトラニオン軸37が前進側に回転するため、機体が前進走行する。これに対して、踵にて後進ペダル21Rを後方へ踏み込めば、前記ペダル軸51を中心にハブ21Raが反時計回りに回動し、後進用のリンク21Rcが前方へ引かれて前記HST12のトラニオン軸37が後進側に回転するため、機体が後進走行する。
【0021】図7は2ペダル式の構成を示し、前記ペダル軸51の前方且つ斜め下方に第2のペダル軸52が平行に設けられており、前述した図6の構成と同様に、一方のペダル軸51には前進ペダル21Fのハブ21Faが枢着されている。また、他方のペダル軸52には前記後進ペダル21Rを前後逆向きにして第2のハブ21Rdが枢着されている。尚、このとき前記ハブ21Raには軸等が装着されず、中空状態となっている。このように、予め2つのペダル軸51,52を設けておくことにより、図6に示した前後シーソー式のペダル配置と、図7に示した2ペダル式のペダル配置とを、オペレータが任意に選択することができる。
【0022】図8は機械式のクルーズコントロール機能を備えたHSTペダル55を示し、該HSTペダル55はペダル軸56に枢着されており、該HSTペダル55と一体に回動可能なアーム57が装着されている。符号58は前記トラニオン軸37と一体に回動するベルクランクアームであり、該ベルクランクアーム58の一端部にリンク59を連結し、このリンク59を介して前記HSTペダル55の動きがトラニオン軸37に伝達される。
【0023】また、ピン60を中心に上下回動可能なアーム61を枢着し、該アーム61の上面に略V字形の凹部62を設け、該アーム61の他端部に引張コイルばね63を係止して該アーム61を上方へ付勢するとともに、前記ベルクランクアーム58に枢着したローラ64を該アーム61の凹部62に当接させる。トラニオン軸37が中立位置にあるときは、該ローラ64が前記凹部62の中央部に位置するように形成されている。
【0024】従って、オペレータが前記HSTペダル55に足を乗せて踏み込み操作を行えば、リンク59を介してベルクランクアーム58が回動し、トラニオン軸37が回転して機体が前進または後進し、これと同時に、ベルクランクアーム58の回動によって、前記ローラ64がアーム61を押し下げながら凹部62の斜面を転動する。そして、オペレータが前記HSTペダル55から足を外せば、前記引張コイルばね63によってアーム61が上方に付勢されているため、該アーム61に押されてローラ64が凹部62の中央部に戻される。依って、トラニオン軸37が中立位置に戻る。即ち、HSTペダル55から足を外せば、HST12は自動的に中立位置に復帰するように形成されている。
【0025】ここで、前記ベルクランクアーム58の他端面に鋸歯状のフック65を設け、該フック65と対峙する位置に、鋸歯状のラックアーム66を枢着する。オペレータがHSTペダル55を踏み込んでトラニオン軸37を回転させ、機体が走行しているときに、クルーズコントロール用のレバー若しくはペダル(何れも図示せず)の操作により、リンク67を介して前記ラックアーム66がベルクランクアーム58側に押圧されると、前記ラックアーム66にフック65が係止してベルクランクアーム58の回動が止まり、トラニオン軸37の回転位置が保持される。従って、オペレータがHSTペダル55の踏み込み操作を止めたとしても、機体が一定速度で走行する。
【0026】クルーズコントロールを解除するには、HSTペダル55を前進側に(図中時計回りに)踏み込むことにより、フック65とラックアーム66の係止が外れてベルクランクアーム58が回動可能となり、再び機体の走行速度を任意に変更することができる。
【0027】尚、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。
【0028】
【発明の効果】本発明は上記一実施の形態に詳述したように、作業車両に静油圧式無段変速装置(HST)を搭載し、且つ、該HSTの油圧モータの傾転角を段階的に変更するアクチュエータを設けるとともに、作業機の高さを検出するセンサを設けてある。そして、作業機の高さに応じて前記アクチュエータを駆動し、前記油圧モータの出力トルクを切り替えるようにしたので、スイッチ切り替え等の操作を行わずして、作業負荷が増減に応じて自動的にHSTの出力トルクを変更することができる。
【0029】斯くして、通常多用される出力要求に合わせてHSTの容量を定めることができ、無駄な馬力を消費することなく、作業内容に応じて随時出力を増大することが可能となる等、正に著大なる効果を奏する発明である。
【出願人】 【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
【出願日】 平成11年10月25日(1999.10.25)
【代理人】 【識別番号】100060575
【弁理士】
【氏名又は名称】林 孝吉
【公開番号】 特開2001−124200(P2001−124200A)
【公開日】 平成13年5月8日(2001.5.8)
【出願番号】 特願平11−302038