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【発明の名称】 中空ボールねじ軸およびその製造方法
【発明者】 【氏名】吉岡 守久

【氏名】立石 康司

【氏名】中橋 大

【要約】 【課題】ボールねじ溝の内面およびランド部の両方に高精度が得られ、かつ生産性の良い中空ボールねじ軸、およびその製造方法を提供する。

【解決手段】中空ボールねじ軸1を、ボールねじ溝2とランド部3が転造面4に形成されたものとする。ボールねじ溝2の底部には前加工の切削溝部2aを残す。ランド部3には塑性流動逃がし溝5を設けても良い。転造は、パイプ素材Wに、転造代6を有するボールねじ溝2を切削加工した後、多条の転造ロールで行う。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 外周に螺旋状のボールねじ溝が形成された中空ボールねじ軸において、上記ボールねじ溝とこのボールねじ溝間のランド部が転造面により形成されていることを特徴とする中空ボールねじ軸。
【請求項2】 上記ボールねじ溝の底部に、前加工の切削溝部を残し、上記ボールねじ溝を転造面とした請求項1に記載の中空ボールねじ軸。
【請求項3】 上記ランド部の幅方向の略中央に塑性流動逃がし溝を設け、上記ランド部の転造面は、上記ボールねじ溝と塑性流動逃がし溝間の部分とした請求項2に記載の中空ボールねじ軸。
【請求項4】 上記塑性流動逃がし溝は、前加工の切削溝である請求項3に記載の中空ボールねじ軸。
【請求項5】 パイプ素材に、溝底部を除く所定範囲に転造代を有するボールねじ溝を切削加工した後、パイプ素材を挟んで対向する一対の円筒多条の転造ロールを、上記ボールねじ溝に向けて軸方向と直交する方向に押し付け、上記ボールねじ軸を回転させながら、ボールねじ溝とこのボールねじ溝間のランド部とを転造により同時に仕上げ加工することを特徴とする中空ボールねじ軸の製造方法。
【請求項6】 パイプ素材を、ボールねじ溝の溝断面の所定範囲と、ランド部のボールねじ溝に沿う部分とに転造代を有する形状に切削加工した後、このパイプ素材を転造する請求項5に記載の中空ボールねじ軸の製造方法。
【請求項7】 パイプ素材を、ランド部の幅方向の略中央に塑性流動逃がし溝を有し、ボールねじ溝の溝断面の所定範囲と、ランド部のボールねじ溝と塑性流動逃がし溝との間の部分に転造代を有する形状に切削加工した後、このパイプ素材を転造する請求項5に記載の中空ボールねじ軸の製造方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、軽量化の望まれる各種の用途、例えば電動パワーステアリング用ボールねじなどに適用される中空ボールねじ軸およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術と発明が解決しようとする課題】各種の用途において、ボールねじの軽量化が望まれる。例えば、自動車部品である電動パワーステアリング装置用のボールねじでは、自動車全体の軽量化のために、できる限り軽量化を図ることが望まれる。ボールねじの軽量化を図る場合、中空のボールねじ軸が用いられることが多い。ボールねじ溝を精度良く加工する方法としては、研削加工による方法と、転造による方法とあり、生産性の面からは、転造加工の方が優れている。
【0003】図5は、従来の中空ボールねじ軸の転造による製造方法の一例を示す。同図の方法では、内径が小径となった厚肉のパイプ素材W1に、一対の多条の転造ロール51を軸方向と直交する方向に押し付け、ボールねじ溝52を転造により形成する。この転造方法では、パイプ素材W1が厚肉の場合は問題がないが、軽量化のために孔径を大きくすると、パイフ素材W1が転造力により潰れ、通し転造が不可能となる。このため転造力を軽減する必要がある。
【0004】この転造力の軽減方法として、パイプ素材に切削加工等でボールねじ溝を前加工しておき、このボールねじ溝を転造で仕上げ加工する方法が知られている(例えば、特開平7−251230号公報)。前加工のボールねじ溝は、例えばV溝とされる。
【0005】この方法は、ボールねじ溝のみを成形するには効果的であるが、ボールねじ軸の外径とボールねじ溝の内面との両方に精度が必要とされる場合は適用できない。すなわち、ボールねじ溝の転造により、ボールねじ溝間の軸外径部分であるランド部に材料が塑性流動し、軸外径面の寸法精度が崩れる。
【0006】この発明の目的は、ボールねじ溝の内面およびランド部の両方に高精度が得られ、かつ生産性の良い中空ボールねじ軸を提供することである。この発明の他の目的は、パイプ素材が薄肉であっても、転造力による潰れの問題なく高精度化が図れるものとすることである。この発明のさらに他の目的は、パイプ素材が薄肉であっても、ボールねじ溝の内面およびランド部の両方に高精度が得られ、かつ生産性の良い中空ボールねじ軸の製造方法を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】この発明の中空ボールねじ軸は、外周に螺旋状のボールねじ溝が形成された中空ボールねじ軸であって、上記ボールねじ溝とこのボールねじ溝間のランド部が転造面により形成されていることを特徴とする。このように、ボールねじ溝とランド部との両方を転造面としたため、ボールねじ溝の内面およびランド部の両方に高精度が得られる。また、転造によるため、研削に比べて生産性が良い。
【0008】この発明の中空ボールねじ軸において、ボールねじ溝の底部に、前加工の切削溝部を残し、ボールねじ溝を転造面として良い。ボールねじ軸において、一般に、ボールはボールねじ溝の底面には接触せず、両側の溝側面に転接する。そのため、ボールねじ溝の底部に、前加工の切削溝部が残っていても、ボールが接触しない部分であって精度に影響しない。このように、ボールねじとして精度に影響しない部分は残し、影響する部分のみを転造することで、転造力が小さくて済む。このため、転造に用いるパイプ素材の肉厚が薄い場合も、転造力で素材が潰れることなく、正常な転造が可能になる。また、転造による塑性変形量が少なく、そのため後工程の熱処理工程での変形も少なくなり、リード誤差の少ないボールねじが得られる。
【0009】この発明の中空ボールねじ軸において、上記ランド部の幅方向の略中央に塑性流動逃がし溝を設け、上記ランド部の転造面は、上記ボールねじ溝と塑性流動逃がし溝間の部分としても良い。このように、塑性流動逃がし溝を設けた場合、ボールねじ軸の外径面であるランド部の転造時に、塑性流動する材料が塑性流動逃がし溝に逃げる。そのため、塑性流動する材料が無理に内径側へ押し込まれることがなく、綺麗に転造が行われる。また、ランド部の転造面積が小さくなり、これによっても転造力が軽減され、より薄肉のパイプ素材の転造が可能になる。
【0010】このように塑性流動逃がし溝を設ける場合に、この溝は前加工の切削溝としても良い。この場合、ボールねじ溝を切削加工するときに、塑性流動逃がし溝も加工することができる。
【0011】この発明の中空ボールねじ軸の製造方法は、パイプ素材に、溝底部を除く所定範囲に転造代を有するボールねじ溝を切削加工した後、パイプ素材を挟んで対向する一対の円筒多条の転造ロールを、上記ボールねじ溝に向けて軸方向と直交する方向に押し付け、上記ボールねじ軸を回転させ、ボールねじ溝とこのボールねじ溝間のランド部とを転造により同時に仕上げ加工することを特徴とする。この方法によると、予めボールねじ溝を切削加工した後、転造ロールで転造するため、パイプ素材の円筒面状の外径面に直接にボールねじ溝を転造する場合に比べて、転造による塑性変形量が少なく、転造力が小さくて済む。しかも、パイプ素材には、溝底部を除く所定範囲に転造代を設け、この転造代を設けた部分を転造するため、より一層塑性変形量が少なく、転造力が小さくて済む。そのため、パイプ素材が薄肉のものであっても、転造力でパイプ素材を潰すことなく、高精度に転造が行える。溝底部は、上記のようにボールねじ軸としての精度に影響せず、切削加工の状態で残しても支障がない。また、パイプ素材のボールねじ溝の内面と共に、ランド部も転造するため、ボールねじ溝およびランド部の両方の精度の良いボールねじ軸が得られる。ボールねじ溝とランド部とを同時に転造することから、転造部分が増えるが、上記のようにボールねじ溝は溝底部を残して転造するため、ランド部を同時に転造することによる転造力の増大が緩和される。また、転造は多条の転造ロールを用いるため、パイプ素材の同じ箇所が転造ロールの各条の部分で繰り返して転造されることになり、綺麗に転造される。多条の転造ロールによると、単条の転造ロールを用いる場合に比べて大きな転造力が必要とされるが、上記のようにボールねじとして精度の必要な部分のみを転造するため、薄肉のパイプ素材の場合にも多条の転造ロールの採用が可能になる。このように、溝底部を除いて転造すること、ボールねじ溝と外径面とを同時転造すること、および多条の転造ロールを用いることの相乗効果で、薄肉のパイプ素材に対して、ボールねじ溝およびランド部の両方を高精度に仕上げることができる。
【0012】この発明方法において、パイプ素材を、ボールねじ溝の溝断面の所定範囲と、ランド部のボールねじ溝に沿う部分とに転造代を有する形状に切削加工した後、このパイプ素材を転造しても良い。このように転造代を設けてボールねじ溝の内面とランド部との精度必要部分を転造することで、より一層、精度の良い各面の仕上げが行える。
【0013】この発明方法において、パイプ素材を、ランド部の幅方向の略中央部に塑性流動逃がし溝を有し、ボールねじ溝の溝断面の所定範囲と、ランド部のボールねじ溝と塑性流動逃がし溝との間の部分に転造代を有する形状に切削加工した後、このパイプ素材を転造してもよい。このように、塑性流動逃がし溝を設けて転造することで、無理な応力作用部分が生じることなく、ランド部まで綺麗に転造することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】この発明の一実施形態を図1ないし図3と共に説明する。図2(B)は、この実施形態にかかる中空ボールねじ軸の転造完了状態を示す。この中空ボールねじ軸1は、外周に螺旋状のボールねじ溝2が形成され、ボールねじ溝2と、ボールねじ溝2間のランド部3とが転造面4に形成されたものである。ランド部3は、ボールねじ軸1の外周面におけるボールねじ溝2の各周回部分間のことである。ボールねじ軸1の内径孔7は、適宜の径とされている。転造面4は、ボールねじ溝2の内面およびランド部3のうち、次の転造面部4a,4bのみに設けられる。すなわち、図3(A)に示すように、ボールねじ溝2は、底部に前加工の切削溝部2aを残し、両側面部が転造面部4aとされる。また、ランド部3は、幅方向の略中央に塑性流動逃がし溝5が設けられ、ランド部3の転造面部4bとされる部分は、ボールねじ溝2と塑性流動逃がし溝5の間の部分とされる。塑性流動逃がし溝5は、切削加工された溝である。図3(A)において、細線は、転造前の断面形状を示す。
【0015】つぎに、この中空ボールねじ軸1の製造方法を説明する。この製造方法では、パイプ素材Wに、ボールねじ溝2を前加工として切削加工した後、図1に示すように転造を行う。転造過程では、パイプ素材Wを挟んで対向する一対の円筒多条の転造ロール11,11を、パイプ素材Wに向けて軸方向と直交する方向に押し付け、パイプ素材Wを回転させながら、ボールねじ溝2とランド部3とを転造により同時に仕上げ加工する。パイプ素材Wの回転は、転造ロール11の押し付けに伴って生じる。すなわち、パイプ素材Wは、ガイド台12で回転および軸方向移動自在に支持し、転造ロール11を上記のように押し付けて駆動源(図示せず)で回転させることで、転造に伴い、パイプ素材Wが回転しながら軸方向に移動する。
【0016】図2(A)は、パイプ素材Wの転造前の状態の部分拡大図であり、同図(B)は転造の完了した中空ボールねじ軸1の部分拡大図である。図3(A)は、ボールねじ軸1のボールねじ溝2の付近をさらに拡大した断面を示し、同図(B)は転造時の転造ロール11とパイプ素材Wとの接触状態の拡大断面を示す。図3(A)にパイプ素材Wの転造前の断面形状を細線で示すように、パイプ素材Wの切削加工されたボールねじ溝2は、転造代6が、溝底部を除く所定範囲に形成されたものとする。この所定範囲は、図示の例では、ボールねじ溝2の内面における溝底部を除く全ての範囲としてあるが、一部の範囲であっても良い。また、パイプ素材Wには、ランド部3の幅方向の略中央に塑性流動逃がし溝5を形成し、転造代6は、ランド部3におけるボールねじ溝2に沿った部分、つまりボールねじ溝2と塑性流動逃がし溝5との間の部分まで形成されたものとする。塑性流動逃がし溝5は、ボールねじ溝2と共に切削加工で形成する。
【0017】このように切削により前加工されたパイプ素材Wを、図1と共に前述したように転造する。転造ロール11は、図3(B)に断面を示すように、ボールねじ溝2を転造する略円弧状断面の螺旋状の突条11aと、円筒面状のランド部用転造型面11bとを有する。突条11aは、ボールねじ溝2の底部に達しない高さのものである。ランド部用転造型面11bは、転造時において、パイプ素材Wのランド部3における塑性流動逃がし溝5とボールねじ溝2の間の部分を転造するものであり、塑性流動逃がし溝5の底面には接しない。
【0018】このように、前加工溝のボールねじ溝2、転造代6、および塑性流動逃がし溝5を有するパイプ素材Wを上記形状の転造ロール11で転造することで、図2(B)と共に完成形状を前述したボールねじ軸1が転造される。なお、この転造したボールねじ軸1は、後工程で熱処理される。
【0019】この構成のボールねじ軸1によると、ボールねじ溝2とランド部3との両方を転造面4としたため、ボールねじ溝2の内面およびランド部3の両方に高精度が得られる。また、転造によるため、研削に比べて生産性が良い。また、ボールねじ溝2の溝底部に、前加工の切削溝部2aを残したが、溝底部はボール(図示せず)に接触せず、ボールねじとして精度に影響しない部分であり、このように精度に影響する部分のみを転造することで、転造力が小さくて済む。このため、転造に用いるパイプ素材Wの肉厚が薄い場合も、転造力で素材が潰れることなく、正常な転造が可能になる。また、転造による塑性変形量が少なく、そのため後工程の熱処理工程での変形も少なくなり、リード誤差の少ないボールねじが得られる。また、ランド部3に塑性流動逃がし溝5を設けたため、ランド部3の転造に伴って塑性流動する材料が、塑性流動逃がし溝5に逃げる。そのため、塑性流動する材料が無理に内径側へ押し込まれることがなく、綺麗にランド部3の転造が行われる。
【0020】なお、前記実施形態は、ランド部3に塑性流動逃がし溝5を設けたが、塑性流動逃がし溝5を必ずしも設けなくても良い。その場合、パイプ素材Wには、図4(A)に示すように、転造代6は、ボールねじ溝2の内面における溝底部を除く部分のみに設け、ランド部3には設けない。転造ロール11は、パイプ素材Wの外径面の全体、つまりランド部3の全体に接触することになる。
【0021】
【発明の効果】この発明の中空ボールねじ軸は、外周に螺旋状のボールねじ溝が形成された中空ボールねじ軸において、上記ボールねじ溝とこのボールねじ溝間のランド部が転造面により形成されたものとしたため、ボールねじ溝の内面およびランド部の両方に高精度が得られ、しかも生産性が良い。上記ボールねじ溝の底部に、前加工の切削溝部を残し、上記ボールねじ溝を転造面とした場合は、パイプ素材が薄肉であっても、転造力による潰れの問題なく高精度化が図れる。上記ランド部の幅方向の略中央部に塑性流動逃がし溝を設け、上記ランド部の転造面を、上記ボールねじ溝と塑性流動逃がし溝間の部分とした場合は、ランド部の転造が綺麗に精度良く行える。
【0022】この発明の中空ボールねじ軸の製造方法は、パイプ素材に、溝底部を除く所定範囲に転造代を有するボールねじ溝を切削加工した後、ボールねじ軸を挟んで対向する一対の円筒多条の転造ロールを用い、ボールねじ溝とこのボールねじ溝間のランド部とを転造により同時に仕上げ加工する方法であるため、パイプ素材が薄肉であっても、ボールねじ溝の内面およびランド部の両方に高精度が得られ、かつ生産性良く中空ボールねじ軸を生産することができる。パイプ素材を、ボールねじ溝の溝断面の所定範囲と、ランド部のボールねじ溝に沿う部分とに転造代を有する形状に切削加工した後、このパイプ素材を転造する場合は、より一層精度の良い転造が行える。パイプ素材を、ランド部の幅方向の略中央部に塑性流動逃がし溝を有し、ボールねじ溝の溝断面の所定範囲と、ランド部のボールねじ溝と塑性流動逃がし溝との間の部分に転造代を有する形状に切削加工した後、このパイプ素材を転造する場合は、ランド部のより一層の高精度化が得られる。
【出願人】 【識別番号】000102692
【氏名又は名称】エヌティエヌ株式会社
【出願日】 平成11年10月25日(1999.10.25)
【代理人】 【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士 (外1名)
【公開番号】 特開2001−124173(P2001−124173A)
【公開日】 平成13年5月8日(2001.5.8)
【出願番号】 特願平11−302211