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【発明の名称】 送り装置およびこれを用いる無段変速機
【発明者】 【氏名】井上 昌弘

【氏名】黒川 貴則

【要約】 【課題】噛合音発生の抑制、無潤滑化、および軽量化を図る。

【解決手段】固定環20の外周に設けられる螺旋溝27と、可動環21の内周に設けられる螺旋溝31との間に複数のボール34を介装したボールねじ構造の送り装置15において、可動環21の外周に歯車部32を設け、この可動環21において少なくとも歯車部32を樹脂材で形成している。これにより、歯車部32に対して金属製のギヤを噛合させても、噛合音の発生を抑制できるようになり、また、可動環の軽量化が図れ、さらに、希薄な潤滑環境でも歯車部の摩耗を抑制できるようになる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】外周に螺旋溝が設けられる固定環と、前記固定環の外周に配設されて内周に螺旋溝が設けられる可動環と、前記可動環と固定環の各螺旋溝間に介装され、かつ前記可動環が回転されたときに前記可動環を軸方向に移動させるための複数のボールとを有し、前記可動環の外周に回転動力を受ける歯車部が設けられており、この可動環の少なくとも歯車部が樹脂材で形成されている、ことを特徴とする送り装置。
【請求項2】外周に螺旋溝が設けられる固定環と、前記固定環の外周に配設されて内周に螺旋溝が設けられる可動環と、前記可動環と固定環の各螺旋溝間に介装され、かつ前記可動環が回転されたときに前記可動環を軸方向に移動させるための複数のボールとを有し、前記可動環の外周に回転動力を受ける歯車部が設けられており、この歯車部が、可動環の外周に一体形成される径方向外向きの環状部と、この環状部の外周にインサート成形された樹脂製の環状ギヤ部とからなる、ことを特徴とする送り装置。
【請求項3】請求項1または2の送り装置において、前記可動環の歯車部における樹脂材の接合面に、回り止め部が設けられている、ことを特徴とする送り装置。
【請求項4】各々固定フランジと可動フランジとでV溝を形成する主動側V溝プーリおよび従動側V溝プーリ間にベルトを巻き掛け、前記主動側V溝プーリの可動フランジを軸方向にスライドさせて前記両プーリに対するベルトの巻き掛け径を可変させる無段変速機において、前記主動側V溝プーリの可動フランジを軸方向にスライドさせる操作要素として、請求項1ないし3のいずれかの送り装置と、送り装置に回転動力を付与する駆動ギヤとを備え、前記送り装置の固定環が、前記主動側V溝プーリと同軸状に固定配設され、前記送り装置の可動環における歯車部が前記駆動ギヤに対して噛合される、ことを特徴とする無段変速機。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、送り装置ならびにこれを用いた無段変速機に関する。この無段変速機は、2つのプーリとベルトとを用いるもので、無潤滑状態で使用される乾式タイプとされるものである。
【0002】
【従来の技術】このような無段変速機として、例えばエンジンからの入力軸に連結された主動側V溝プーリと、車輪への出力軸に連結された従動側V溝プーリとの間にベルトを巻き掛けし、変速時に両プーリのベルト巻き掛け径を変更してエンジン出力を無段階に変更して出力軸に伝達するようになっているものがある。
【0003】主動側V溝プーリと従動側V溝プーリは、共に、固定フランジと可動フランジとでV溝を構成し、主動側V溝プーリの可動フランジを軸方向にスライドさせることで前記V溝の幅を変えて両プーリに対するベルトの巻き掛け径を可変させるようになっている。
【0004】こうした無段変速機において、動力源たる駆動ギヤから付与される回転動力によって可動フランジを軸方向にスライドさせる送り装置を有する。
【0005】従来における送り装置は、外周に螺旋溝を有する固定環と、この固定環の外周に配設され内周に螺旋溝を備える可動環と、この固定環と可動環それぞれの螺旋溝間に介装され可動環が前記駆動ギヤからの回転動力により回転されたときに可動環を軸方向に移動させるための複数のボールとを備えたものがある。
【0006】なお、上記可動環は、その外周に径方向外向きの歯車部が設けられており、この歯車部に駆動ギヤが噛合されていて、駆動ギヤによって可動環が回転させられるようになっている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】上記従来の送り装置では、その可動環全体が金属材で形成されており、また、駆動ギヤも金属材で形成されているので、可動環に対して回転動力を付与するときに可動環の歯車部と駆動ギヤとの噛合音が発生し、無段変速機の静粛性を損なう大きな一因となっている。
【0008】また、乾式の無段変速機では、可動環の歯車部と駆動ギヤとの噛合部位が無潤滑となるために、その噛合面における摩耗が特に早期に進行してしまいやすい。したがって、前記噛合部に何らかの摩耗対策を施す必要が生じるなど、手間とコストとが嵩む結果となっていた。
【0009】さらに、可動環は無段変速機を構成する部品の中でも比較的大きな部品であるために、可動環全体を金属材で形成していることが重量化をもたらしている。
【0010】したがって、本発明は、送り装置において、歯車部と駆動ギヤとの噛合音を小さく抑制すること、また、潤滑条件が厳しくとも噛合部位の耐摩耗性を高めること、さらに、可動環を軽量化し、ひいては、無段変速機を軽量化可能とすることを解決すべき課題としている。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明第1の送り装置は、外周に螺旋溝が設けられる固定環と、前記固定環の外周に配設されて内周に螺旋溝が設けられる可動環と、前記可動環と固定環の各螺旋溝間に介装され、かつ前記可動環が回転されたときに前記可動環を軸方向に移動させるための複数のボールとを有し、前記可動環の外周に回転動力を受ける歯車部が設けられており、この可動環の少なくとも歯車部が樹脂材で形成されていることを特徴としている。
【0012】本発明第2の送り装置は、外周に螺旋溝が設けられる固定環と、前記固定環の外周に配設されて内周に螺旋溝が設けられる可動環と、前記可動環と固定環の各螺旋溝間に介装され、かつ前記可動環が回転されたときに前記可動環を軸方向に移動させるための複数のボールとを有し、前記可動環の外周に回転動力を受ける歯車部が設けられており、この歯車部が、可動環の外周に一体形成される径方向外向きの環状部と、この環状部の外周にインサート成形された樹脂製の環状ギヤ部とからなることを特徴としている。
【0013】本発明第3の送り装置は、上記第1または第2の構成において、前記可動環の歯車部における樹脂材の接合面に、回り止め部が設けられていることを特徴としている。
【0014】本発明第1の無段変速機は、各々固定フランジと可動フランジとでV溝を形成する主動側V溝プーリおよび従動側V溝プーリ間にベルトを巻き掛け、前記主動側V溝プーリの可動フランジを軸方向にスライドさせて前記両プーリに対するベルトの巻き掛け径を可変させるもので、前記主動側V溝プーリの可動フランジを軸方向にスライドさせる操作要素として、請求項1ないし3のいずれかの送り装置と、送り装置に回転動力を付与する駆動ギヤとを備え、前記送り装置の固定環が、前記主動側V溝プーリと同軸状に固定配設され、前記送り装置の可動環における歯車部が前記駆動ギヤに対して噛合されることを特徴としている。
【0015】なお、この場合、前記スライドの意義は、移動、摺動、等を含む広い概念に解釈される。
【0016】
【発明の実施の形態】以下、本発明の詳細を図面に示す実施形態に基づいて説明する。
【0017】図1ないし図5に本発明の一実施形態を示している。図1は、無段変速機の要部の縦断面図、図2は、図1の送り装置における高速回転状態の拡大断面図、図3は、図1の送り装置における低速回転状態の拡大断面図、図4は、図1の送り装置が備える保持器の拡大斜視図、図5は、図4の断面図である。
【0018】これらの図に示される実施形態の無段変速機は、径方向に互いに平行に配置された入力軸1と出力軸2とを備える。
【0019】入力軸1は、不図示のエンジン出力に応じた回転数で回転される。出力軸2は、不図示の車輪に動力を伝達する。この入力軸1に主動側V溝プーリ3が、また、出力軸2に従動側V溝プーリ4が取り付けられており、両プーリ3,4間にVリブドタイプのベルト5が巻き掛けられている。
【0020】主動側V溝プーリ3は、入力軸1に一体に固定された固定フランジ8と、入力軸1に同軸状に配設されその内周面が入力軸1の外周面とスプライン嵌合して軸方向移動可能かつ固定フランジ8と一体回転可能に配設された可動フランジ9とを有する。これら両フランジ8,9は互いの対向面が円錐面になっていて、両対向面間でV溝6が構成されている。
【0021】従動側V溝プーリ4は、出力軸2に固定された固定フランジ10と、出力軸2に同軸状に配設され固定フランジ10と一体回転可能に配設された可動フランジ11とを有する。これら両フランジ10,11は互いの対向面が円錐面になっていて、両対向面間でV溝7が構成されている。可動フランジ11はまた、不図示のバネ部材で固定フランジ10に向けて常時付勢されている。
【0022】そして、上記両プーリ3,4におけるベルト5の巻き掛け径は、操作ユニット13により変更され、これによって、エンジン出力が無段階に変更されて出力軸2に伝達されるようになっている。
【0023】操作ユニット13は、動力源14と、送り装置15とから構成されている。
【0024】動力源14は、変速用アクチュエータモータ16と、このモータ16の軸に固定された固定ギヤ17、この固定ギヤ17に噛合する中間ギヤ18および中間ギヤ18に噛合する駆動ギヤ19からなる減速機構とを含む。
【0025】駆動ギヤ19は軸方向に延び、軸方向一端側外周のギヤ部分19aが中間ギヤ18に噛合する一方、軸方向他端側外周のギヤ部分19bは軸方向に長くなっている。
【0026】送り装置15は、主動側V溝プーリ3の可動フランジ9を軸方向にスライドさせるもので、固定環20、可動環21および保持器ユニット22を含む。
【0027】固定環20は、軸方向に大径部23と小径部24とからなる異径の環状をなしており、その大径部23が入力軸1とハウジング25との間に軸受26を介して取り付けられることで主動側V溝プーリ3と同軸状に固定配設され、小径部24は軸方向に延びてその外周に螺旋溝27が設けられている。
【0028】固定環20はまた、保持器ユニット22内の保持器28の軸方向一方の所定以上の移動を規制する規制部材としてのストッパ29を有している。
【0029】可動環21は、主動側V溝プーリ3の可動フランジ9外周に軸受30を介して取り付けられた軸方向に一様な径の環状をなしており、その本体21aの内周面に螺旋溝31が設けられているとともに、その本体21aの外周に径方向外向きに突出した歯車部32が設けられている。
【0030】この歯車部32は、前記駆動ギヤ19の回転動力を受けるものであり、可動環本体21aの外周にこれと一体形成される径方向外向きの環状部32aと、この環状部32aの外周にインサート成形された樹脂製の環状ギヤ部32bとから構成されている。
【0031】なお、環状ギヤ部32bの外周面は、駆動ギヤ19と噛合可能なギヤ構造32cとなっている。また、環状部32aの外周には周方向交互に形成されるギヤ状の回り止め部が形成されており、そのために、環状部32aの外周に対して樹脂製の環状ギヤ部32bをインサート成形したときに接合面が凹凸形状とされて環状部32aに対して環状ギヤ部32bが回り止めされることになる。この回り止め部は、樹脂製の環状ギヤ部32bを周方向に引っ掛けるものであれば、どのような凹凸であってもかまわない。
【0032】そして、樹脂製の環状ギヤ部32bは、駆動ギヤ19との噛合による噛合音発生の低減および無潤滑化の観点から、例えば耐熱性、自己潤滑性の高いポリアミド樹脂とされている。
【0033】なお、可動環21は、保持器ユニット22の保持器28の軸方向他方の所定以上の移動を規制する規制部材としてのストッパ33を有している。
【0034】可動環21の環状ギヤ部32bの外周端部のギヤ構造32cは、駆動ギヤ19のギヤ部分19bと噛合して回転動力を付与されるようになっている。
【0035】保持器ユニット22は、固定環20の螺旋溝27と可動環21の螺旋溝31との間に介装され可動環21が回転されたときにこの可動環21を軸方向に移動させるための複数のボール34と、これら各ボール34を個別に非分離状態に保持する複数のポケット35を有する円環状の保持器28とを有している。
【0036】保持器28は、前記両ストッパ29,33で軸方向両方向それぞれに対して所定以上の移動が規制される。
【0037】上記構成において、図2の高速回転状態または図3の低速回転状態とする変速時には、モータ16を駆動して固定、中間および駆動の各ギヤ17,18,19を介して送り装置15にモータ16の動力を伝達する。この伝達は、送り装置15の可動環21の環状ギヤ部32bの外周端部のギヤ構造32cが、駆動ギヤ19のギヤ部分19bと噛合することで行われる。
【0038】送り装置15は、前記噛合で、可動環21がその変速量に対応した回転量だけ回転駆動させられる。この場合、可動環21の回転方向に応じてV溝6,7の巻き掛け径を大きくまたは小さくして、変速量を大小に変更することができる。
【0039】そして、可動環21は、その回転量だけ回転させられるに伴い、固定環20とは保持器ユニット22のボール34を介して互いの螺旋溝27,31で連結されているので、そのボール34によって軸方向推進力を受けて前記回転量に見合う距離分、軸方向に移動させられる。
【0040】この場合、主動側V溝プーリ3の可動フランジ9は、この可動環21と軸受30を介して連結されているので、可動フランジ9は、可動環21と一体に軸方向に移動する。
【0041】その結果、主動側V溝プーリ3における可動フランジ9と固定フランジ8との間のV溝6は、その可動環21の移動量に対応した巻き掛け径を有したものとなる。
【0042】また、主動側V溝プーリ3におけるV溝6の変更に応じて、従動側V溝プーリ4の可動フランジ11も自動的に軸方向に移動する結果、従動側V溝プーリ4における可動フランジ11と固定フランジ10との間のV溝7も、主動側V溝プーリ3におけるV溝6と対応したものとなり、ベルト5の巻き掛け径が変更される。これによって、変速が行われる。
【0043】以上の実施形態の可動環21の場合、その本体21aの外周に備えた歯車部32が、環状部32aと環状ギヤ部32bとで構成され、その環状ギヤ部32bが樹脂製であるので、その外周端部のギヤ構造32cが、金属製の駆動ギヤ19と噛合しても、その噛合音は小さく済み、その結果、無段変速機を用いた車両におけるその室内の静粛性を保持することができる。
【0044】また、環状ギヤ部32bが樹脂製であるので、駆動ギヤ19との噛合面を無潤滑にしても、その噛合面における摩耗の早期進行が抑制され、したがって、従来のように手間とコストとがかかる潤滑管理が不要となる。
【0045】さらに、可動環21のうち、環状ギヤ部32bが樹脂製であるから、可動環21全体の重量が軽くなり、したがって、無段変速機を軽量に構成できる。
【0046】さらにまた、従来では、環状ギヤ部32bは、環状部32aに対してネジなどで連結されているので、それらの組み立て工程が必要となり、また、ネジの緩みなどに対してコストのかかる保守が必要となるが、この実施形態では、環状ギヤ部32bは、環状部32aにインサート成形されるので、それらの組み立て工程が不要であり、従来のようなコストがかかる保守が不要となる。
【0047】なお、本発明は上記実施形態のみに限定されるものではなく、種々な応用や変形が考えられる。
【0048】(1)上記実施形態での送り装置15では、ボール34を保持器28で保持させることで無循環とする形態にしたものを例に挙げているが、保持器28を用いずにサーキュレータチューブなどの循環機構を用いてボール34を循環させるようにしたものとしてもよい。
【0049】(2)上記実施形態での送り装置15は、無段変速機に用いる例を挙げているが、その他の機器に使用することができる。
【0050】
【発明の効果】本発明の送り装置は、可動環の少なくとも歯車部を樹脂材で形成しているので、歯車部に対して金属製の駆動ギヤを噛合させた場合でも噛合音の発生を抑制できるようになり、また、可動環の軽量化が図れ、さらに、希薄な潤滑環境でも歯車部の摩耗を抑制できるようになる。
【0051】このように、静粛性、軽量化ならびに耐久性に優れた送り装置を提供できるようになる。
【0052】特に、請求項2のように、可動環の歯車部を、可動環本体の環状部と樹脂製の環状ギヤ部との複合構造とし、環状ギヤ部を環状部にインサート成形により一体化させれば、組み立て工程が不要となるなど、生産性の向上に貢献できる。
【0053】また、請求項3では、可動環の歯車部において樹脂材の接合面に回り止め部を設けているから、動力伝達時に樹脂材が接合面から分離することを回避できるようになる。
【0054】本発明の無段変速機では、上述したような静粛性、軽量化ならびに耐久性に優れた送り装置を用いているので、無段変速機の静粛性、軽量化ならびに耐久性の向上に寄与できる。
【出願人】 【識別番号】000001247
【氏名又は名称】光洋精工株式会社
【出願日】 平成11年10月15日(1999.10.15)
【代理人】 【識別番号】100086737
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 和秀
【公開番号】 特開2001−116095(P2001−116095A)
【公開日】 平成13年4月27日(2001.4.27)
【出願番号】 特願平11−293455