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【発明の名称】 車両用自動変速機
【発明者】 【氏名】谷澤 正一

【氏名】服部 隆文

【氏名】高島 太郎

【要約】 【課題】1速クラッチおよび1速ホールドクラッチを並設した自動変速機において、1速ホールド変速段の確立をスムーズに行わせるとともに、特に低温時における1速クラッチの係合解除の応答性を高める。

【解決手段】1速クラッチC1 および1速ホールドクラッチCLHを並置し、1速クラッチC1 を係合させる第1クラッチピストン43の内部に1速ホールドクラッチCLHを係合させる第2クラッチピストン44を相対移動可能に収納するとともに、第1クラッチピストン43にチェックバルブ48を設ける。1速ホールド変速段の確立時に、第1クラッチ油室46に作動油を供給して1速クラッチC1 を係合させた後に、第2クラッチ油室55に作動油を供給して1速ホールドクラッチCLHを係合させる。クラッチアウター31に排油口53,54を形成し、1速クラッチC1 の係合解除時に開弁したチェックバルブ48から流出した作動油をクラッチアウター31の外部に速やかに排出する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 係合時に1速変速段を確立する1速クラッチ(C1 )と、係合時に1速ホールド変速段を確立する1速ホールドクラッチ(CLH)と、1速クラッチ(C1 )の摩擦係合要素(36,37)を係合させる第1クラッチピストン(43)と、第1クラッチピストン(43)を第1クラッチ(C1 )の係合方向に駆動する第1クラッチ油室(46)と、第1クラッチピストン(43)の内部に相対移動可能に収納されて1速ホールドクラッチ(CLH)の摩擦係合要素(38,39)を係合させる第2クラッチピストン(44)と、第2クラッチピストン(44)を1速ホールドクラッチ(CLH)の係合方向に駆動する第2クラッチ油室(55)と、1速クラッチ(C1 )および1速ホールドクラッチ(CLH)に共用されるクラッチアウター(31)と、第1クラッチピストン(43)に設けられ、第1クラッチ油室(46)の油圧が所定値未満のときに該第1クラッチ油室(46)の作動油をクラッチアウター(31)の内部に排出するとともに、第1クラッチ油室(46)の油圧が所定値以上のときに該第1クラッチ油室(46)とクラッチアウター(31)の内部との連通を遮断するチェックバルブ(48)と、クラッチアウター(31)に形成されて該クラッチアウター(31)の内外を連通させる排油口(53,54)と、を備え、1速ホールド変速段の確立時に、第1クラッチ油室(46)に作動油を供給して第1クラッチピストン(43)を係合方向に駆動して1速クラッチ(C1 )を係合させた後に、第2クラッチ油室(55)に作動油を供給して第2クラッチピストン(44)を第1クラッチピストン(43)に対して係合方向に相対的に駆動して1速ホールドクラッチ(CLH)を係合させることを特徴とする車両用自動変速機。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、1速クラッチおよび1速ホールドクラッチを並設した車両用自動変速機に関する。
【0002】
【従来の技術】2個のクラッチを並設してなる車両用無段変速機において、相対移動可能に嵌合する一対のクラッチピストンを設け、外側のクラッチピストンの移動により一方のクラッチを係合させるとともに、外側のクラッチピストンに対する内側のクラッチピストンの相対移動により他方のクラッチを係合させるものが、特開昭62−141343号公報により公知である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで上記従来のものは、2個のクラッチを共に係合させる場合に2つのクラッチ油室に対する油圧の供給の順序が特に考慮されていないため、両クラッチが無秩序に作動してしまい、伝達トルクの脈動が発生したりインギヤショックが発生したりする問題がある。また一方のクラッチのクラッチ油室に対する作動油の給排が回転軸の内部に設けた油路のみを介して行われるため、前記一方のクラッチの係合解除時にクラッチ油室から作動油を速やかに排出するのが難しく、特に作動油の粘性が高まる低温時にクラッチの係合解除の応答性が低下する問題がある。
【0004】本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、1速クラッチおよび1速ホールドクラッチを並設した自動変速機において、1速ホールド変速段の確立をスムーズに行わせるとともに、特に低温時における1速クラッチの係合解除の応答性を高めることを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、係合時に1速変速段を確立する1速クラッチと、係合時に1速ホールド変速段を確立する1速ホールドクラッチと、1速クラッチの摩擦係合要素を係合させる第1クラッチピストンと、第1クラッチピストンを第1クラッチの係合方向に駆動する第1クラッチ油室と、第1クラッチピストンの内部に相対移動可能に収納されて1速ホールドクラッチの摩擦係合要素を係合させる第2クラッチピストンと、第2クラッチピストンを1速ホールドクラッチの係合方向に駆動する第2クラッチ油室と、1速クラッチおよび1速ホールドクラッチに共用されるクラッチアウターと、第1クラッチピストンに設けられ、第1クラッチ油室の油圧が所定値未満のときに該第1クラッチ油室の作動油をクラッチアウターの内部に排出するとともに、第1クラッチ油室の油圧が所定値以上のときに該第1クラッチ油室とクラッチアウターの内部との連通を遮断するチェックバルブと、クラッチアウターに形成されて該クラッチアウターの内外を連通させる排油口と、を備え、1速ホールド変速段の確立時に、第1クラッチ油室に作動油を供給して第1クラッチピストンを係合方向に駆動して1速クラッチを係合させた後に、第2クラッチ油室に作動油を供給して第2クラッチピストンを第1クラッチピストンに対して係合方向に相対的に駆動して1速ホールドクラッチを係合させることを特徴とする車両用自動変速機が提案される。
【0006】上記構成によれば、1速ホールド変速段の確立時に、第1クラッチ油室に作動油を供給して1速クラッチを係合させた後に第2クラッチ油室に作動油を供給して1速ホールドクラッチを係合させるので、1速クラッチの第1クラッチピストンおよび1速ホールドクラッチの第2クラッチピストンの係合速度を適切に制御して伝達トルクの脈動やインギヤショックの発生を防止することができる。
【0007】しかもクラッチアウターに該クラッチアウターの内外を連通させる排油口を形成したので、1速ホールド変速段を解除すべく1速クラッチの第1クラッチ油室の油圧を抜く際に、チェックバルブの開弁に伴って第1クラッチ油室からクラッチアウターの内部に排出された作動油を、クラッチアウターの内部から排油口を通して外部に排出することができる。これにより、作動油の粘性が高まる低温時においても、第1クラッチ油室から作動油を速やかに排出して1速クラッチの係合解除の応答性を高めることができる。
【0008】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を、添付図面に示した本発明の実施例に基づいて説明する。
【0009】図1〜図6は本発明の一実施例を示すもので、図1は自動変速機のスケルトン図、図2は図1の2部拡大図、図3は図2の要部拡大図、図4は図3に対応する作用説明図、図5はクラッチ係合時の油圧の変化を示すタイムチャート、図6はクラッチ係合解除時の油圧の変化を示すタイムチャートである。
【0010】図1に示す前進5速、後進1速の自動変速機ATは、エンジンEにロックアップクラッチ付きのトルクコンバータTCを介して接続されたメインシャフトMSと、メインシャフトMSに同期して回転するセカンダリシャフトSSと、車両の駆動輪WにディファレンシャルギヤDを介して接続されたカウンタシャフトCSとを備える。
【0011】メインシャフトMSには、メイン3速ギヤ11が固設され、メイン4速ギヤ12が4速クラッチC4 を介して支持され、メイン5速ギヤ13およびメインリバースギヤ14が5速クラッチC5 を介して支持される。5速クラッチC5 はリバースクラッチを兼ねている。
【0012】セカンダリシャフトSSには、セカンダリ1−2速ギヤ15が固設され、セカンダリ1速ギヤ16が1速クラッチC1 あるいは1速ホールドクラッチCLHを介して支持され、セカンダリ2速ギヤ17が2速クラッチC2 を介して支持される。1速クラッチC1 とセカンダリ1速ギヤ16との間に一方向クラッチ18が配置される。
【0013】カウンタシャフトCSには、前記メイン3速ギヤ11およびセカンダリ1−2速ギヤ15に噛合するカウンタ3速ギヤ19が3速クラッチC3 を介して支持され、前記セカンダリ2速ギヤ17に噛合するカウンタ2速ギヤ20が固設され、前記メイン5速ギヤ13に噛合するカウンタ5速ギヤ21が相対回転自在に支持され、前記メインリバースギヤ14にリバースアイドルギヤ22を介して噛合するカウンタリバースギヤ23が相対回転自在に支持され、前記メイン4速ギヤ12に噛合するカウンタ4速ギヤ24が固設され、前記セカンダリ1速ギヤ16に噛合するカウンタ1速ギヤ25が固設され、前記ディファレンシャルギヤDのファイナルドリブンギヤ26に噛合するファイナルドライブギヤ27が固設される。前記カウンタ5速ギヤ21および前記カウンタリバースギヤ23は、セレクトギヤ28を介してカウンタシャフトCSに選択的に結合可能である。
【0014】エンジンEのスロットル開度θ、回転数NEおよび冷却水温度TWを検出するエンジンセンサS1 と、ディファレンシャルギヤDの回転数に基づいて車速Vを検出する車速センサS2 と、自動変速機ATのメインシャフトMSの回転数Ninを検出するメインシャフト回転数センサS3 と、自動変速機ATのカウンタシャフトCSの回転数Ninを検出するカウンタシャフト回転数センサS4 と、セレクトレバー29の位置を検出するセレクトポジションセンサS5 とが電子制御ユニットUに接続され、電子制御ユニットUは油圧回路Hを介して前記1速〜5速クラッチC1 〜C5 の作動を制御する。
【0015】前記1速〜5速クラッチC1 〜C5 の係合・非係合に関わらず、メインシャフトMSの回転はメイン3速ギヤ11、カウンタ3速ギヤ19およびセカンダリ1−2速ギヤ15を介してセカンダリシャフトSSに伝達されるため、セカンダリシャフトSSは常時メインシャフトMSに同期して回転する。
【0016】さて1速クラッチC1 を係合すると、セカンダリシャフトSSの回転が1速クラッチC1 、一方向クラッチ18、セカンダリ1速ギヤ16およびカウンタ1速ギヤ25を介してカウンタシャフトCSに伝達され、そこからファイナルドライブギヤ27、ファイナルドリブンギヤ26およびディファレンシャルギヤDを介して駆動輪Wに伝達される。このようにして1速変速段が確立したとき、一方向クラッチ18によって出力側(カウンタシャフトCS側)のオーバー回転が許容される。
【0017】この状態から1速ホールドクラッチCLHを係合すると、セカンダリ1速ギヤ16が一方向クラッチ18を介さずにセカンダリシャフトSSに直結されて1速ホールド変速段が確立する。この状態では一方向クラッチ18が機能できないのでカウンタシャフトCS側のオーバー回転が禁止され、駆動輪Wの回転を1速変速段を介してエンジンE側に逆伝達可能にしてエンジンブレーキ機能を発揮させることができる。
【0018】1速クラッチC1 および1速ホールドクラッチCLHを係合解除して2速クラッチC2 を係合すると、セカンダリシャフトSSの回転が2速クラッチC2 、セカンダリ2速ギヤ17およびカウンタ2速ギヤ20を介してカウンタシャフトCSに伝達され、2速変速段が確立する。
【0019】2速クラッチC2 を係合解除して3速クラッチC3 を係合すると、メインシャフトMSの回転がメイン3速ギヤ11、カウンタ3速ギヤ19および3速クラッチC3 を介してカウンタシャフトCSに伝達され、3速変速段が確立する。
【0020】3速クラッチC3 を係合解除して4速クラッチC4 を係合すると、メインシャフトMSの回転が4速クラッチC4 、メイン4速ギヤ12およびカウンタ4速ギヤ24を介してカウンタシャフトCSに伝達され、4速変速段が確立する。
【0021】4速クラッチC4 を係合解除して5速クラッチC5 を係合すると、セレクトギヤ28によりカウンタ5速ギヤ21がカウンタシャフトCSに結合されている場合には、メインシャフトMSの回転が5速クラッチC5 、メイン5速ギヤ13およびカウンタ5速ギヤ21を介してカウンタシャフトCSに伝達され、5速変速段が確立する。またセレクトギヤ28によりカウンタリバースギヤ23がカウンタシャフトCSに結合されている場合には、メインシャフトMSの回転が5速クラッチC5 、メインリバースギヤ14、リバースアイドルギヤ22およびカウンタリバースギヤ23を介してカウンタシャフトCSに伝達され、後進変速段が確立する。
【0022】次に、図2および図3に基づいて1速クラッチC1 および1速ホールドクラッチCLHの構造を説明する。
【0023】セカンダリシャフトSSの外周に、1速クラッチC1 および1速ホールドクラッチCLHに共通のクラッチアウター31がスプライン結合される。セカンダリシャフトSSの外周にニードルベアリング32を介して支持されたセカンダリ1速ギヤ16に、ボールベアリング33および前記一方向クラッチ18を介して1速クラッチC1 のクラッチインナー34が支持されるとともに、セカンダリ1速ギヤ16に1速ホールドクラッチCLHのクラッチインナー35がスプライン結合される。
【0024】1速クラッチC1 は、クラッチアウター31の内周面にスプライン嵌合する複数枚のクラッチプレート36と、クラッチインナー34の外周面にスプライン嵌合する複数枚のクラッチディスク37とを備えており、これらクラッチプレート36およびクラッチディスク37は相互に当接可能に交互に配置される。また1速ホールドクラッチCLHは、クラッチアウター31の内周面にスプライン嵌合する複数枚のクラッチプレート38と、クラッチインナー35の外周面にスプライン嵌合する複数枚のクラッチディスク39とを備えており、これらクラッチプレート38およびクラッチディスク39は相互に当接可能に交互に配置される。
【0025】クラッチアウター31の左端にクリップ40で係止したプレッシャープレート41に1速クラッチC1 の左端のクラッチディスク37が当接可能に対向する。またクラッチアウター31の軸方向中間部にプレッシャープレート42が配置されており、その左側面に1速クラッチC1 の右端のクラッチプレート38が当接可能に対向するとともに、その右側面に1速ホールドクラッチCLHの左端のクラッチディスク39が当接可能に対向する。
【0026】クラッチアウター31の内部に第1クラッチピストン43および第2クラッチピストン44が隣接して配置される。第1クラッチピストン43はクラッチアウター31に軸方向摺動自在に支持された本体部43aと、この本体部43aから左方向に延び、皿バネ45で右方向に付勢されたプレッシャープレート42の右側面に当接する押圧部43bとを一体に備える。第1クラッチピストン43の本体部43aの右側面とクラッチアウター31との間に第1クラッチ油室46が形成されており、この第1クラッチ油室46はセカンダリシャフトSSの内部に形成された油路47を介して油圧回路Hに連通する。
【0027】第1クラッチ油室46に臨む本体部43aの右側面にチェックバルブ48が設けられる。チェックバルブ48は本体部43aの右側面に一端を固定した板状の弁体49と、弁体49の他端に設けたウエイト50とを備えており、弁体49は本体部43aを貫通する弁孔51を開閉可能である。第1クラッチピストン43の本体部43a、押圧部43bおよびクラッチアウター31に囲まれた空間52は、前記弁孔51を介して第1クラッチ油室46に連通するとともに、クラッチアイター31に形成した複数個の排油口53,54を介してクラッチアウター31の外部に連通する。
【0028】第2クラッチピストン44は第1クラッチピストン43の内部に軸方向摺動自在に支持されており、この第2クラッチピストン44の左側面は1速ホールドクラッチCLHの右端のクラッチプレート38の右側面に当接可能に対向する。第1クラッチピストン43の左側面と第2クラッチピストン44の右側面との間に形成された第2クラッチ油室55は、セカンダリシャフトSSの内部に形成された油路56を介して油圧回路Hに連通する。第2クラッチピストン44にはチェックバルブ57が設けられており、第2クラッチ油室55からの作動油の流出を規制し、第2クラッチ油室55への作動油の流入を許容する。第1クラッチピストン43および第2クラッチピストン44は、第2クラッチピストン44の左側面に当接するクラッチスプリング58で右方向(係合解除方向)に付勢される。
【0029】次に、前述の構成を備えた本発明の実施例の作用について説明する。
【0030】図5はセレクトレバー29を「N」ポジション(ニュートラルポジション)から「L」ポジション(1速ホールドポジション)に操作した場合のクラッチ油圧の変化を示すものである。セレクトレバー29が操作された時刻t1 に1速クラッチC1 の油圧が途中まで立ち上がり、続いて時刻t2 まで緩やかな勾配で増加した後に、時刻t3 までやや大きい勾配で増加して目標値に達する(実線参照)。一方、1速ホールドクラッチCLHの油圧は、1速クラッチC1 の油圧が時刻t3 に目標値に達したことを図示せぬ油圧センサが検出すると、直ちに目標値まで立ち上がる(破線参照)。
【0031】ところで、第1クラッチピストン43および第2クラッチピストン44を同時に作動させると、第1クラッチピストン43に支持されて一体に移動する第2クラッチピストン44の速度は、両クラッチピストン43,44の移動速度の和になるため、1速ホールドクラッチCLHが急激に係合してインギヤショックが発生したり、1速クラッチC1 および1速ホールドクラッチCLHの係合が不安定になって伝達トルクの脈動が発生したりする問題がある。
【0032】しかしながら、本実施例では1速ホールド変速段を確立する際に、先ず1速クラッチC1 を係合させた後に1速ホールドクラッチCLHを係合させることにより、第1クラッチピストン43および第2クラッチピストン44の係合速度を適切に制御し、両クラッチC1 ,CLHの係合時の伝達トルクの脈動を防止するとともに、インギヤショックを軽減することができる。特に、1速クラッチC1 の油圧の増加率を2段階に設定しているので、前半の増加率の低い領域でクラッチプレート36およびクラッチディスク37のクリアランスを詰めておき、後半の増加率の高い領域でクラッチプレート36およびクラッチディスク37を応答性良く、かつスムーズに係合させることができる。
【0033】1速ホールド変速段の確立時の作用を更に詳細に説明すると、1速クラッチC1 の第1クラッチ油室46に作用する油圧が低いときにチェックバルブ48は開弁状態にあり、セカンダリシャフトSSの油路47から第1クラッチ油室46に供給された作動油は弁孔51、空間52および排油口53,54を経てクラッチアウター31の外部に排出される(図3の矢印aおよび矢印b参照)。第1クラッチ油室46に作用する油圧が臨界値に達するとチェックバルブ48が閉弁するため、作動油に本体部43aを押圧された第1クラッチピストン43が左動して押圧部43bが一方のプレッシャプレート42を押圧し、両プレッシャプレート41,42間にクラッチプレート36およびクラッチディスク37を挟圧する。その結果、クラッチインナー34がクラッチアウター31に結合されて1速クラッチC1 が係合し、1速変速段が確立する。
【0034】このとき、左動する第1クラッチピストン43に押されて第2クラッチピストン44がクラッチスプリング58に抗して左動するが、それに応じてプレッシャプレート42も左動するため、第2クラッチピストン44およびプレッシャプレート42の間隔が一定に保持されて1速ホールドクラッチCLHは係合することはない。
【0035】尚、セカンダリシャフトSSと共に常時回転する第1クラッチピストン43に設けたチェックバルブ48は、そのウエイト50に作用する遠心力で開弁方向に付勢される。従って、エンジン回転数が低く伝達トルクが小さいとき(セカンダリシャフトSSの回転数が低いとき)には、第1クラッチ油室46に伝達される油圧が低い状態でチェックバルブ48が閉弁するため、第1クラッチ油室46の油圧が早めに立ち上がる。一方、エンジン回転数が高く伝達トルクが大きいとき(セカンダリシャフトSSの回転数が高いとき)には、第1クラッチ油室46に伝達される油圧が高い状態でチェックバルブ48が閉弁するため、第1クラッチ油室46の油圧が遅めに立ち上がる。これにより、インギヤショックを一層効果的に低減することができる。
【0036】上述のようにして1速クラッチC1 が係合して1速変速段が確立した状態で、セカンダリシャフトSSの油路56から第2クラッチ油室55に油圧を供給すると(図4の矢印c参照)、第2クラッチピストン44が第1クラッチピストン43に対して相対的に左動してプレッシャプレート42との間にクラッチプレート38およびクラッチディスク39を挟圧する。その結果、クラッチインナー35がクラッチアウター31に結合されて1速ホールドクラッチCLHが係合し、1速ホールド変速段が確立する。第2クラッチ油室55に油圧が作用したとき、第2クラッチピストン44に設けたチェックバルブ57が閉弁し、第2クラッチ油室55からの油圧のリークを防止する。
【0037】図6はセレクトレバー29を「L」ポジション(1速ホールドポジション)から「N」ポジション(ニュートラルポジション)に操作した場合のクラッチ油圧の変化を示すものである。セレクトレバー29が操作された時刻t4 に1速クラッチC1 の油圧および1速ホールドクラッチCLHの油圧が同時に減圧され、第2クラッチピストン44および第1クラッチピストン43はクラッチスプリング58の弾発力で右動する。このとき、1速クラッチC1 の第1クラッチ油室46の作動油はセカンダリシャフトSSの油路47に排出され、1速ホールドクラッチCLHの第2クラッチ油室55の作動油はセカンダリシャフトSSの油路56に排出されるが、第1クラッチ油室46の油圧が所定値まで低下するとチェックバルブ48が開弁し、第1クラッチ油室46の作動油の一部は開弁したチェックバルブ48の弁孔51を経てクラッチアウター31の空間52に排出される。
【0038】このとき、クラッチアウター31に該クラッチアウター31の内外を連通するように排出口53,54が形成されているので、チェックバルブ48の開弁に伴って第1クラッチ油室46からクラッチアウター31の空間52に排出された作動油は速やかにクラッチアウター31の外部に排出される。特に、低温時には作動油の粘性が高くなるために第1クラッチ油室46からの作動油の排出がスムーズに行われず、1速クラッチC1 の係合解除の応答性が低下する問題があるが、前記クラッチアウター31の排出口53,54によって作動油の排出を促進して低温時における1速クラッチC1 の係合解除の応答性を高めることができる。
【0039】尚、1速クラッチC1 および1速ホールドクラッチCLHの係合解除時に第2クラッチ油室55の内部が負圧になると、第2クラッチピストン44に設けたチェックバルブ57が開弁して該第2クラッチピストン44のスムーズな移動を可能にする。
【0040】図6に示すように、時刻t5 にチェックバルブ48が開弁した後、クラッチアウター31に排出口53,54を持つ本実施例のものは、実線で示すように油圧が速やかに低下しているのに対し、クラッチアウター31に排出口53,54を持たない従来のものは、鎖線で示すように油圧の低下が遅れている。
【0041】以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0042】
【発明の効果】以上のように、請求項1記載された発明によれば、1速ホールド変速段の確立時に、第1クラッチ油室に作動油を供給して1速クラッチを係合させた後に第2クラッチ油室に作動油を供給して1速ホールドクラッチを係合させるので、1速クラッチの第1クラッチピストンおよび1速ホールドクラッチの第2クラッチピストンの係合速度を適切に制御して伝達トルクの脈動やインギヤショックの発生を防止することができる。
【0043】しかもクラッチアウターに該クラッチアウターの内外を連通させる排油口を形成したので、1速ホールド変速段を解除すべく1速クラッチの第1クラッチ油室の油圧を抜く際に、チェックバルブの開弁に伴って第1クラッチ油室からクラッチアウターの内部に排出された作動油を、クラッチアウターの内部から排油口を通して外部に排出することができる。これにより、作動油の粘性が高まる低温時においても、第1クラッチ油室から作動油を速やかに排出して1速クラッチの係合解除の応答性を高めることができる。
【出願人】 【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
【出願日】 平成11年9月10日(1999.9.10)
【代理人】 【識別番号】100071870
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 健 (外1名)
【公開番号】 特開2001−82593(P2001−82593A)
【公開日】 平成13年3月27日(2001.3.27)
【出願番号】 特願平11−256834